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【発明の名称】 冬眠特異的タンパク質産生樹立細胞株およびその創製方法
【発明者】 【氏名】近藤 宣昭
【氏名】アンドレイ ミクハイロフ
【課題】高効率で冬眠特異的タンパク質を産生する樹立細胞株を提供する。

【解決手段】齧歯目の冬眠動物の肝細胞とヘパトーマ細胞とを融合させ、冬眠特異的タンパク質を産生する融合細胞を選択する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 齧歯目の冬眠動物の肝細胞とヘパトーマ細胞とを融合させ、冬眠特異的タンパク質を産生する融合細胞を選択することを含む、冬眠特異的タンパク質を産生する樹立細胞株の創製方法。
【請求項2】 選択された融合細胞を無血清無タンパク質培地へ順化させることをさらに含む請求項1に記載の創製方法。
【請求項3】 前記齧歯目の冬眠動物がシマリスである請求項1または2に記載の創製方法。
【請求項4】 前記ヘパトーマ細胞が、チオグアニン耐性ラットヘパトーマ細胞H4TGである請求項1〜3のいずれか1項に記載の創製方法。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項に記載の創製方法によって得られる、冬眠特異的タンパク質を産生する樹立細胞株。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冬眠特異的タンパク質産生樹立細胞株およびその創製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】冬眠特異的タンパク質はシマリスの血中に存在し冬眠に同期して量が変化するタンパク質として見出されたものである。冬眠特異的タンパク質は4種のタンパク質(HP-20、HP-25、HP-27およびHP-55)で構成される。HP-20、HP-25およびHP-27は、N−末端アミノ酸の約40残基にコラーゲン様配列(Gly-X-Yの繰り返し)を含む互いに類似した構造を持つ。HP-55は、α1−アンチトリプシン様の構造を有し、serpinスーパーファミリーに属するものである。これらのいずれのタンパク質も肝臓で特異的に発現されている。血中では、HP-20、HP-25およびHP-27は、コラーゲン様三重ラセン構造と分子間ジスルフィド結合によりヘテロトリマー(HP-20C)を形成し、それにHP-55が会合し複合体を形成している。
【0003】冬眠特異的タンパク質は齧歯目の冬眠動物にのみ見出されており、冬眠に同期して年周性に血中の量が変動し、非冬眠期に多く冬眠期に著しく減少する。冬眠特異的タンパク質の減少したシマリスでは環境温度を低下させることにより、冬眠を発現させることができることから、冬眠特異的タンパク質が冬眠の発現に重要な生理的役割を担っていると考えられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のように冬眠特異的タンパク質は冬眠の発現に重要であるため、その生理学的機能の解明や期待されるその機能の種々の分野での応用のために、冬眠特異的タンパク質を大量に得る手段の確立が望まれる。従って、本発明は、高効率で冬眠特異的タンパク質を産生する樹立細胞株を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、冬眠動物の肝細胞とヘパトーマ(hepatoma)の細胞とを融合させることによって、冬眠特異的タンパク質を高効率で産生する樹立細胞株が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明は、齧歯目の冬眠動物の肝細胞とヘパトーマ細胞とを融合させ、冬眠特異的タンパク質を産生する融合細胞を選択することを含む、冬眠特異的タンパク質を産生する樹立細胞株の創製方法(以下、「本発明方法」ともいう)を提供する。
【0007】本発明方法は、選択された融合細胞を無血清無タンパク質培地へ順化させることをさらに含んでもよい。肝細胞が由来する齧歯目の冬眠動物はシマリスであることが好ましい。また、ヘパトーマ細胞は、チオグアニン耐性ラットヘパトーマ細胞H4TGであることが好ましい。
【0008】また、本発明は、本発明方法によって得られる、冬眠特異的タンパク質を産生する樹立細胞株(以下、「本発明細胞株」ともいう)を提供する。本発明細胞株は、冬眠特異的タンパク質を高効率に産生する樹立された細胞株であるので、それを培養することによって冬眠特異的タンパク質を容易に且つ大量に産生させることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明方法は、齧歯目の冬眠動物の肝細胞とヘパトーマ細胞とを融合させ、冬眠特異的タンパク質を産生する融合細胞を選択することを特徴とする。
【0010】齧歯目の冬眠動物とは、齧歯目に属する体温低下に耐える動物を意味し、例えば、シマリス、ジリス、ヤマネ、ハリネズミ、マーモット等が挙げられ、好ましくはシマリスである。
【0011】齧歯目の冬眠動物からの肝細胞の分離は、公知の細胞分離方法によって行うことができ、例としては、動物を麻酔した後、開腹し、門脈を介して灌流し、次いで、コラゲナーゼを含む灌流液でさらに灌流した後、灌流液で満たしたペトリシャーレに移し、ハサミで細切し、穏やかなピペッティングにより細胞を分散させ、細胞懸濁液をナイロンメッシュで濾し、濾液から遠心分離により細胞を得るという方法、および、麻酔下で肝臓を摘出し、ハサミで細切した後、コラゲナーゼで処理し細胞を分散させ、ナイロンメッシュで濾し、濾液から遠心分離により細胞を得るという方法が挙げられる。
【0012】ヘパトーマ細胞は、肝細胞ガンの細胞であり、その由来や種類に特に制限はない。例えば、ATCC(12301 Parklawn Drive, Rockville, MD 20852, U.S.A.)から入手できるチオグアニン耐性ラットヘパトーマ細胞H4TGが挙げられる。
【0013】肝細胞とヘパトーマ細胞との融合は、ポリエチレングリコール法、電気融合法、両方法の併用等の公知の方法に従って行うことができる。融合条件は、肝細胞やヘパトーマ細胞の由来、種類等により、適宜選択できる。
【0014】例えば、ポリエチレングリコール法の場合には、ウィリアムE培地に分散させたヘパトーマ細胞を、10%牛胎児血清、 OPIサプリメント(Sigma), HATサプリメント, 10-7Mデキサメタゾン、10-6Mリノレン酸を含むイスコDMEM培地(Iscow'sDMEM medium)(GIBCO BRL)に分散し直し、肝細胞とヘパトーマ細胞とを4:1の割合で混和し、1日間CO2インキュベーター内で培養し、これを50%ポリエチレングリコール(PEG)(分子量3000-3700)で45秒間処理し細胞を融合させるという条件が挙げられる。
【0015】また、例えば、電気融合法の場合には、肝細胞とヘパトーマ細胞を1:2で混和し、遠心後(450rpm, 2分)沈殿細胞を0.25M スクロース液に懸濁する操作を繰り返した後、適量の0.25M スクロース液に懸濁し、5 x 107 cells/mlの濃度に調整し、この細胞分散液を、電極間隔が0.2mmのキュベットに入れ、2.5kV/cmの電圧で65msecの間持続するパルスを10回与え細胞融合させるという条件が挙げられる。
【0016】融合細胞の選択は、例えば、細胞を24穴培養プレート等を用いて希釈培養し、培養上清について冬眠特異的タンパク質を測定し、該冬眠特異的タンパク質が検出されたクローンを選別することを数回例えば4回繰り返すことによって行うことができる。
【0017】冬眠特異的タンパク質の検出は、冬眠特異的タンパク質に特異的な抗体を用いるELISA法等によって行うことができる。冬眠特異的タンパク質に特異的な抗体は、例えば、シマリス血漿からHP-20複合体(HP-20、HP-25およびHP-27の会合体)とHP-55を精製し(Kondo, J. and Kondo, N., Structural aspects of complex of hibernation-specific proteins. in Adaptation to the cold, eds. F. Geiser, A.J. Hulbert, S.C. Nicol, University of New England Press, 351-355 (1996); Kondo, N. and Kondo, J., Indentification of novel blood proteins specific for mammalian hibernation., J. Biol. Chem., 267, 473-478 (1992))、ウサギに免疫し、得られた抗血清からIgGを精製して抗HP-20複合体ポリクローナル抗体および抗HP-55ポリクローナル抗体を得ることができ、また、HP-20複合体を還元、変性下で精製し(上記文献参照)得られた各HP-20、HP-25、HP-27を、同様にウサギに免疫し、各HP-20、HP-25、HP-27に対するポリクローナル抗体を得ることができる。ELISA法としては、抗HP-20複合体抗体をELISAプレートに固相化し、これに測定サンプルを反応させ、さらに二次抗体としてビオチン化抗HP-25抗体を反応させ、HRP(horseradish peroxidase)発色法により定量するものを挙げることができる。
【0018】また、融合細胞の選択は、融合後培養した細胞を分散させ、これに冬眠特異的タンパク質抗体を反応させ、細胞をセルソーターを用いて分取し、分取した各画分の細胞を培養し、冬眠特異的タンパク質産生細胞が分離された画分を選別することによって行うこともできる。
【0019】上記のようにして融合および選択を行って得られた細胞株は、樹立細胞株であり、冬眠特異的タンパク質を培地中に分泌するという性質を有する。また、チオグアニン耐性ラットヘパトーマ細胞H4TGに由来して得られた細胞株は、ヌードマウス(胸腺欠如による免疫不全実験動物)の皮下への注入により成長し、腫瘍を形成することができる。しかし、腫瘍成長の間、動物は元気に生存し、悪性腫瘍ではないと思われる。
【0020】本発明方法は、選択された融合細胞を無血清無タンパク質培地へ順化させることをさらに含んでもよい。融合細胞の無血清無タンパク質培地への順化は、培養細胞を無血清無タンパク質培地へ順化させる公知の方法に従って、無血清無タンパク質培地へ培養培地を交換することによって行うことができる。
【0021】無血清無タンパク質培地へ順化した細胞株は無血清無タンパク質培地で培養することができ、従って、培地中に分泌された冬眠特異的タンパク質の精製が容易になる。
【0022】冬眠特異的タンパク質(以下、HPともいう)は齧歯目の動物において、冬眠動物だけに見出されている血中タンパク質で、冬眠が起こる時期に量が特異的に変化する。HP濃度が冬眠様に変化したシマリスは、環境温度を低下させることにより、直ちに冬眠を発現させることができる。冬眠中は組織の低温に対する耐性の増大や、細菌感染、肉腫、放射線などの有害因子に対する生体の抵抗性の増大が観察されることから、HPが生体防御に関わる因子であると考えられる。
【0023】HP構成成分の一つであるHP-55は、セリンプロテアーゼ阻害物質であることが明らかにされている。セリンプロテアーゼ阻害物質は、炎症、血液凝固、補体系の活性化を仲介するプロテアーゼを制御することが知られており、組織をプロテアーゼによる損傷や崩壊から保護する因子として注目される。
【0024】さらに、HP-20Cは、セリンプロテアーゼ阻害物質であるHP-55と特異的に会合することや、その構造の類似性から、補体系を活性化するタンパク質であるC1qに類似している。補体系は、抗体を介して種々の感染症の原因となるウィルスや細菌を排除する重要な役割をすることから、HPは補体系に関わる新たな生体防御因子として期待できる。
【0025】この様に、HPは生体防御物質として、医療の分野での応用も期待でき、HPを容易に且つ大量に産生することを可能とする本発明細胞株は産業上極めて利用価値が高いと考えられる。
【0026】
【実施例】以下に、実施例によってさらに具体的に説明する。
1.シマリス由来肝細胞の分離シマリスをネンブタール(1ml/kg)で麻酔した後、全身をアルコール滅菌し、クリーンベンチ内で開腹し、門脈を介して37℃に加温したHanks液(GIBCO BRL)(CaイオンおよびMgイオンを除き、10mM EGTAと5mM HEPESを加え、pH 7.5に調整)を10分間灌流した。次いで、0.05%コラゲナーゼ(コラゲナーゼヤクルト、(株)三光純薬)を含むMgイオン欠如Hanks液でさらに10分間灌流した後、10ml Hanks液で満たしたペトリシャーレに移し、ハサミで細切し、穏やかなピペッティングにより細胞を分散させた。細胞懸濁液をナイロンメッシュで濾し、濾液から遠心分離により細胞を得た。
【0027】本細胞を、7%牛胎児血清、10-7Mインスリン、10-7Mデキサメタゾン、10-9M表皮成長因子、および、10-8Mアプロチニン(aprotinin)を含むウィリアムE培地(Willium E medium)(GIBCO BRL)に懸濁し、ガン細胞との細胞融合に使用した。
【0028】2.肝細胞とガン細胞の融合(1) ポリエチレングリコール法ガン細胞として、6−チオグアニン耐性ラットヘパトーマ細胞(6-thioguanine-resistant rat hepatoma)H4TGをATCCから購入した。ウィリアムE培地に分散させたH4TG細胞を、再度、10%牛胎児血清、 OPIサプリメント(Sigma), HATサプリメント, 10-7Mデキサメタゾン、10-6Mリノレン酸を含むイスコDMEM培地(Iscow's DMEM medium)(GIBCO BRL)に分散し直し、上記1で得られた肝細胞とH4TG細胞とを4:1の割合で混和し、1日間CO2インキュベーター内で培養した。これを50%ポリエチレングリコール(PEG)(分子量3000-3700)で45秒間処理し細胞を融合させた。
【0029】(2) 電気融合(electrofusion)法また、ガン細胞として、アザグアニン耐性マウスミエローマ細胞(azaguanin-resistant mouse myeloma)P3U1を大日本製薬から購入した。上記1で得られた肝細胞とP3U1細胞を1:2で混和し、遠心後(450rpm, 2分)沈殿細胞を0.25M スクロース液に懸濁する。この操作を繰り返し適量の0.25M スクロース液に懸濁し、5 x 107 cells/mlの濃度に調整する。この細胞分散液を、電極間隔が0.2mmのキュベットに入れ、2.5kV/cmの電圧で65msecの間持続するパルスを10回与え細胞融合させた。
【0030】3.冬眠特異的タンパク質(HP)産生細胞の選択と試験細胞融合後、24穴培養プレート5枚に細胞を分注し、10%牛胎児血清、 OPIサプリメント(Sigma), HATサプリメント, 10-7Mデキサメタゾンを含むイスコDMEM培地(GIBCO BRL)を用いて、10日間培養を行い、ELISA法によって各細胞上清をテストした。この結果5つのHP産生クローンが得られた。これに対し、さらに4回の希釈分散、培養を繰り返し、当初の5つのクローンに比べ2500倍の効率でHPを産生する4クローンを得た。これら4つのクローンは、肝細胞とヘパトーマ細胞との融合細胞に由来するものであった。
【0031】なお、上記ELISA法に使用した抗体は以下のようにして得た。シマリス血漿からHP-20複合体(HP-20、HP-25およびHP-27の会合体)とHP-55を精製し(Kondo,J. and Kondo, N., Structural aspects of complex of hibernation-specificproteins. in Adaptation to the cold, eds. F. Geiser, A.J. Hulbert, S.C.Nicol, University of New England Press, 351-355 (1996); Kondo, N. and Kondo, J., Indentification of novel blood proteins specific for mammalianhibernation., J. Biol. Chem., 267, 473-478 (1992))、ウサギに免疫し、得られた抗血清からIgGを精製して抗HP-20複合体ポリクローナル抗体および抗HP-55ポリクローナル抗体を得た。また、HP-20複合体を還元、変性下で精製し(上記文献参照)得られた各HP-20、HP-25、HP-27を、同様にウサギに免疫し、各HP-20、HP-25、HP-27に対するポリクローナル抗体を得た。ELISA法は、抗HP-20複合体抗体をELISAプレートに固相化し、これに測定サンプルを反応させ、さらに二次抗体としてビオチン化抗HP-25抗体を反応させ、HRP(horseradish peroxidase)発色法により定量するものであった。
【0032】得られたクローンで産生されたHPを簡便に精製できるようにするため、無血清、無タンパク質培地PFHM-II(Gibco BRL)にOPIサプリメント(Sigma), 10-7Mデキサメタゾンを加えた培養液へ培養培地を交換することにより、無血清無タンパク質培地への細胞の順化を行った。4クローン中2クローンで順化に成功した。なお、HP-20、HP-25、HP-27およびHP-55に対するポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロット(western blot)法で各HP-20ファミリーとHP-55を測定した結果、2つのクローン間でHP産生効率は200倍の差があった。
【0033】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によって、冬眠特異的タンパク質を高効率で産生する樹立細胞株が提供される。本樹立細胞株の提供によって、希少な冬眠特異的タンパク質を培養により容易に且つ大量に入手することが可能になる。
【出願人】 【識別番号】591243103
【氏名又は名称】財団法人神奈川科学技術アカデミー
【出願日】 平成9年(1997)6月17日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】遠山 勉 (外2名)
【公開番号】 特開平11−4685
【公開日】 平成11年(1999)1月12日
【出願番号】 特願平9−160258