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【発明の名称】 フラノナフトキノン誘導体及びこれを含有する医薬
【発明者】 【氏名】平井 圭一

【氏名】沼田 憲治

【要約】 【課題】

【解決手段】次式(1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 次式(1)
【化1】

〔式中、R1 及びR2 は水素原子又はヒドロキシル基を示し、R1 がヒドロキシル基のときR2 は水素原子であり、R1 が水素原子のときR2 はヒドロキシル基である〕で表されるフラノナフトキノン誘導体又はその塩。
【請求項2】 請求項1記載のフラノナフトキノン誘導体又はその塩を有効成分とする医薬。
【請求項3】 抗腫瘍剤である請求項2記載の医薬。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はがん細胞に対して選択的に作用し、安全性の高い抗腫瘍剤として有用な新規フラノナフトキノン誘導体及びこれを含有する医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】がんによる死亡者数は年々増加し、がんは今や我国における死亡原因のトップとなっている。かかるがん治療の手段としては、抗腫瘍剤、手術、放射線療法等が行われているが、このうち、抗腫瘍剤による治療は内科的治療手段として最も重要である。
【0003】がんは、放射能、紫外線、発がん物質、ウィルス等の作用により遺伝子に異常がおこることにより発生するものであり、従来の抗腫瘍剤としては、核酸前駆物質の代謝、DNA合成、RNA合成又はタンパク合成のいずれかに作用するものがほとんどである(阿部達生、谷脇雅史、津田昌一郎:進行がんの化学療法、金芳堂(1990))。ところが、このような代謝過程は、がん細胞だけでなく正常細胞においてもおこっていることである。従って、多くの抗腫瘍剤は、がん細胞だけでなく正常細胞に対しても作用してしまい、種々の副作用が発現することとなる。
【0004】例えば、キノン誘導体には強い抗腫瘍活性を有するものがいくつか知られており、その中でもマイトマイシンC、アドリアマイシン、アクラシノマイシンA、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン等は広く臨床において使用されている。また、フラノナフトキノン類の中にも下記のように抗腫瘍活性を有するものが知られている(Rhytochemistry, 20(9), 2271(1981) 、J.of Natural Products,45(5), 600(1982))。
【0005】
【化2】

【0006】しかしながら、これらの化合物はいずれも、腫瘍治療作用を有するものの、多くの副作用(嘔吐、脱毛、皮膚炎、血球減少、胃腸障害、疼痛、腎障害、心筋障害、精神神経障害等)を生じ、がん治療の大きな妨げとなっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的はがん細胞に選択的に作用し、正常細胞に対して毒性が低く、安全性の高い抗腫瘍剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者は、植物由来の物質に着目し、その抗腫瘍活性を正常細胞に対する作用を検討してきた結果、ノウゼンカズラ科に属するテコマ・イペ(Tecomaipe Mart. ex K.Shum.)に含まれる下記式(1)で表される新規化合物が優れた抗腫瘍活性を有し、かつ正常細胞に対する作用が弱く、上記のキノン系化合物に比べてがん細胞に対する選択性が高く、安全性の高い抗腫瘍剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち、本発明は、次式(1):【0010】
【化3】

【0011】〔式中、R1 及びR2 は水素原子又はヒドロキシル基を示し、R1 がヒドロキシル基のときR2 は水素原子であり、R1 が水素原子のときR2 はヒドロキシル基である〕で表されるフラノナフトキノン誘導体又はその塩を提供するものである。また、本発明は、このフラノナフトキノン誘導体(1)又はその塩を有効成分とする医薬を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明のフラノナフトキノン誘導体(1)は、より具体的には次の式(1A)又は式(1B)で表される化合物又はその塩である。
【0013】
【化4】

【0014】また、フラノナフトキノン誘導体(1)の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アミン塩等が挙げられる。また、本発明においては、水和物に代表される溶媒和物も含まれる。
【0015】本発明のフラノナフトキノン誘導体(1)は、例えば前記の如く、ノウゼンカズラ科に属する樹木であるテコマ・イぺ(Tecoma ipe Mart. ex K.Shum.=Tabebuia avellanedae Lor. ex Griseb.)の樹皮から抽出することにより得られる。具体的には、テコマ・イペの樹皮をメタノールで抽出し、メタノールを留去して得られる残渣から更にクロロホルム可溶成分を取得し、この成分をクロマトグラフィーに付すことにより分離することができる。なお、このクロロホルム可溶成分中には本発明化合物に構造の類似する化合物が多数存在するが、薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー等により分離することができる。
【0016】かくして得られる本発明化合物(1)は、正常細胞に対する作用が弱く、かつ優れた抗腫瘍活性を有し、抗腫瘍剤として有用である。すなわち、ヒト肺腺がんA549細胞、結腸腺がんWiDr細胞、肺扁平上皮がんCalu−1細胞を標的(T)とし、正常線維芽細胞N6KA細胞を正常コントロール(C)としたときの50%細胞増殖阻害濃度の比(C/T)は、他のキノン系抗腫瘍剤が2程度であり、他のフラノナフトキノン誘導体が1〜4程度であるのに対し、本発明化合物(1)が6.8であった。従って、本発明は、がん細胞に対して選択的に作用する安全性の高い抗腫瘍剤である。
【0017】なお、最近の研究により、がん細胞の大多数で、NAD(P)H:キノンオキシドリダクターゼ(NQO)活性が正常細胞に比べて数十倍〜数百倍高く発現していることが分かってきた(Cancer and Metastasis Reviews, 12:103-117(1993))。本発明化合物(1)も、がん細胞内でNQOと特異的に反応し、その結果フリーラジカルを生成してがん細胞を破壊するものと考えられる。
【0018】従って、本発明化合物(1)は、各種臓器における固形がん、血液がん、肉腫等種々の悪性腫瘍治療用の医薬として使用できる。
【0019】本発明化合物(1)は、経口、非経口いずれの方法によっても投与することが可能であり、本発明の医薬は、各種の剤型、例えば散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、アンプル剤等の経口投与剤;皮下、筋肉若しくは静脈注射剤;坐剤等とすることができる。
【0020】上記製剤化は、本発明化合物(1)単独又は本発明化合物(1)と賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、矯味剤、香料、被覆剤等を適宜組み合わせて処方することにより製造することができる。
【0021】斯くして得られた本発明医薬の投与量は、症状、投与ルート等によっても異なるが、一般的に成人において、本発明化合物(1)として20〜1000mg/日であり、これを通常1日3〜4回に分けて投与するのが好適である。かかる投与量は、小児では約半量、乳幼児では1/6量とするのが好ましい。
【0022】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0023】実施例12−アセチル−5−ヒドロキシナフト〔2,3−b〕フラン−4,9−ジオン(化合物(1A))及び2−アセチル−8−ヒドロキシナフト〔2,3−b〕フラン−4,9−ジオン(化合物(1B))の製造:テコマ・イペの乾燥樹皮(ブラジル産)10kgを純メタノール10Lあてで30分間3回加温還流下に抽出し、溶媒を減圧留去した。抽出物(1.45kg)をクロロホルム4Lあてで3回冷浸し、クロロホルム層を水洗後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去して抽出物10gを得た。これをクロロホルム・メタノール(250:1)を展開溶媒として0.5mmシリカゲル60F254プレートを用いて分離薄層クロマトグラフィーを反復して行い、Rf=0.54の黄色スポットをクロロホルム・トルエンで抽出し、計10mgの化合物を得た。これを0〜60%クロロホルムを含むクロロホルム・トルエン不連続密度勾配カラムで精製し、HPLCカラムを用いてシアン化メチル・水(30〜60%連続密度勾配)で溶出240nmの吸収で検出しつつ化合物(1A)を3mg、化合物(1B)を3.5mg得た。
【0024】化合物(1A):C1383=212.2mp:218〜221℃IR:1695,1673,1646,1572,1449NMR(CDCl3)δ:12.13(1H,s,OH), 7.82(1H,dd,J=7.5,1.0Hz,8-H),7.67(1H,dd,J=8.2,7.5Hz,7-H), 7.60(1H,s,3-H),7.33(1H,J=8.5,1.0Hz,6-H), 2.67(3H,s,CH3)【0025】化合物(1B):C1383=212.2mp:212〜215℃IR:1683,1646,1598,1582,1453NMR(CDCl3)δ:11.95(1H,s,OH), 7.79(1H,dd,J=7.5,1.2Hz,5-H),7.68(1H,dd,J=8.5,7.5Hz,6-H), 7.60(1H,s,3-H),7.33(1H,J=8.5,1.2Hz,7-H), 2.67(3H,s,CH3)【0026】実施例21)試験材料培養ヒト悪性腫瘍細胞:継代維持された肺腺がんA549細胞、肺扁平上皮がんCalu−1細胞、結腸腺がんWiDr細胞を用いた。これらの細胞は系統が樹立されており、がん研究所振興財団の細胞バンク(国立衛生試験所、東京都世田谷区)から入手し、10%牛胎仔血清を含むDMEM培地を用い37℃、5%CO2存在下に培養した。
【0027】培養ヒト正常細胞:継代維持された線維芽細胞N6KA細胞を用いた。気管上皮細胞は、金沢医科大学病院病理剖検材料からトリプシン−EDTA処理で採取した。N6KA細胞は、10%牛胎仔血清を含むDMEM培地を用い培養し、気管上皮細胞は、同培養液に更に10ng/mlのEGF、5μg/mlのインスリン、0.5μg/mlのハイドロコルチゾン、100μg/mlストレプトマイシン、100IUのペニシリン及び0.25μg/mlのファンギーゾンを添加した培養液を用い培養した。
【0028】2)試験方法抗腫瘍活性試験(細胞増殖阻害毒性試験):96穴マイクロプレート上のマイクロウエルで各細胞を培養し、細胞が落着く24時間後にDMSO溶媒に適宜溶解した化合物を添加し、72時間後の細胞増殖度を調べた。陽性対照として既知抗がん剤のアドリアマイシン(ADM)とマイトマイシンC(MMC)を用い、同様にDMSO溶媒に適宜溶解して添加した。
【0029】細胞増殖測定:各マイクロウエル内の細胞をグルタルアルデヒトにて固定し、クリスタルバイオレット染色した。細胞増殖は、タイターテックユニスキャンII(大日本製薬株式会社、大阪市)を用いて590nmの吸光度で測定した。
【0030】抗腫瘍性効果の判定:抗腫瘍性(細胞増殖阻害毒性)効果は、72時間後細胞増殖を50%阻害(IC50)する化合物の量で表した。
【0031】がん細胞選択毒性倍率の判定:従来の抗腫瘍剤は同時に正常細胞に対する毒性が強く、重篤な副作用の原因となっていた。そこで化合物による正常細胞に対する50%細胞増殖阻害濃度(IC50)をがん細胞に対するIC50で除することによってがん細胞選択毒性倍率を計算した。すなわち、倍率1.0では両細胞に同様な毒性を与えることになり、抗腫瘍剤として不適当であり、倍率が大きい程正常細胞への毒性が低い優れた抗腫瘍剤となる。
【0032】3)試験結果抗腫瘍活性及びがん細胞選択毒性倍率は、表1及び表2に示すとおりであった。また、比較のため前記公知の類似化合物についても活性を測定し表3に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】その結果、本発明化合物(1A)の悪性腫瘍細胞に対するIC50は、0.36〜0.40μg/ml(平均0.38μg/ml)の範囲にあり、正常細胞に対する2.6μg/mlと比較して6.8倍がん細胞選択毒性が強く、公知の類似化合物より優れていた。また化合物(1A)は、がん細胞選択毒性倍率が約2倍と計算されたアドリアマイシンとマイトマイシンCに比べてもはるかに優れていた。
【0037】また本発明化合物(1B)の悪性腫瘍細胞に対するIC50は、0.35〜0.40μg/ml(平均0.37μg/ml)の範囲にあり、正常細胞に対する2.51μg/mlと比較して6.8倍がん細胞選択毒性が強く公知の類似化合物より優れていた。化合物(1B)も化合物(1A)と同様アドリアマイシン、マイトマイシンCに比べはるかに優れていた。
【0038】実施例3ICRマウス又はBALB/cヌードマウスに経口投与したとき、化合物(1A)又は化合物(1B)は200mg/kg体重において死亡例はなく、10%死亡するLD10値は約320mg/kg体重であった。この値から推定されるLD50値はおよそ500mg/kg体重である。化合物(C)の経口投与によるLD50値は8.4mg/kg体重とされており(特開平6−145162号公報)、この化合物(C)に比べて、本発明化合物は、極めて安全性が高いことがわかる。
【0039】実施例4化合物(1A)又は化合物(1B)20mgに対し賦形剤として乳糖116mg、結合剤としてデンプンのり20mg、崩壊剤としてデンプン40mg、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム4mgを加えよく混合して打錠することにより、化合物(1A)又は化合物(1B)20mgを含有する200mgの錠剤を得る。
【0040】
【発明の効果】本発明化合物(1)は、がん細胞に対して選択的に作用し、副作用の少ない抗腫瘍剤として有用である。
【出願人】 【識別番号】597092129
【氏名又は名称】株式会社コトブキ
【出願日】 平成9年(1997)6月30日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸 (外3名)
【公開番号】 特開平11−21284
【公開日】 平成11年(1999)1月26日
【出願番号】 特願平9−173848