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【発明の名称】 インバータ制御電気車の空転・滑走制御装置
【発明者】 【氏名】項 東輝

【氏名】鈴木 聡

【氏名】松本 康

【氏名】油谷 浩助

【氏名】黒谷 憲一

【要約】 【課題】車輪の空転・滑走時に、車輪とレール間の粘着状態に応じた適切なトルク絞りパターンを決定し、電動機のトルクを制御する。電車の加速度を最大限に確保する。

【解決手段】インバータにより車輪駆動用の複数台の誘導電動機を並列に駆動して電気車を運転するインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置に関する。車輪周速度と車両速度相当値との差である滑り速度最大値に基づいて車輪の空転・滑走を検出し、かつ、滑り速度最大値と空転・滑走制御補償手段100の出力とに基づいて、通常制御としての力行・制動制御に対する空転・滑走制御の付加の要否を判断する手段500と、滑り速度指令値と滑り速度最小値との差に基づいて誘導電動機に対するトルク絞り指令値を求めることにより空転・滑走制御を行う空転・滑走制御補償手段100とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 インバータにより車輪駆動用の複数台の誘導電動機を並列に駆動して電気車を運転するインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、車輪周速度と車両速度相当値との差である滑り速度最大値に基づいて車輪の空転・滑走を検出する手段と、滑り速度指令値と滑り速度最小値との差に基づいて誘導電動機に対するトルク絞り指令値を求めることにより空転・滑走制御を行う空転・滑走制御補償手段と、滑り速度最大値と前記空転・滑走制御補償手段の出力とに基づいて、通常制御としての力行・制動制御に対する空転・滑走制御の付加の要否を判断する手段と、を備えたことを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項2】 請求項1記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、前記空転・滑走制御補償手段は、滑り速度指令値と滑り速度最小値との差に対し比例・積分制御を行ってトルク絞り指令値を生成し、このトルク絞り指令値をノッチ指令と車両速度相当値とに基づく通常制御時のトルク指令値に加算して電動機制御系に対するトルク指令値を得ることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項3】 請求項2記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、トータルの車輪・レール間の接線力が最大になるように、滑り速度及び接線力推定値の増減情報を用いて最適な滑り速度指令値を探索し、前記空転・滑走制御補償手段における制御に用いることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項4】 請求項3記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、トータルの車輪・レール間の接線力を、インバータの電流・電圧の計測値と、車輪角速度の前回計測値と今回計測値との差分と、計測周期とを用いて推定することにより得ると共に、滑り速度指令値を、最適な滑り速度指令値の探索によって得た滑り速度補正値と前回の滑り速度指令値とを加算して得ることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項5】 請求項4記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、滑り速度補正値を制限関数とし、滑り速度指令値に上下限を設けることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、1台のインバータにより並列駆動される複数の誘導電動機を車輪駆動用電動機として使用するインバータ制御電気車において、車輪の空転・滑走時に車輪とレールとの間の粘着状態に応じた適切なトルク絞りパターンを決定して電動機のトルクを制御するようにしたインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】現在、複数の誘導電動機をインバータ制御するインバータ制御電気車の空転・滑走制御には、様々な方式が提案されている。第1の方式として、特開平2−151204号公報に記載された方式があり、この方式は、インバータの電流と電圧とを利用して車輪とレールとの間の接線力を計算し、滑り速度と接線力との変化に基づくファジー制御を行うものである。第2の方式として、特開平4−121004号公報に記載された方式があり、この方式は、各電動機の電流の最大値を制御するものである。第3の方式として、特開平4−251502号−公報に記載された方式があり、この方式は、各電動機の電流を利用してそれぞれの接線力を検出し、滑り速度と接線力との変化に基づくファジー制御を行うものである。更に第4の方式として、特願平9−179751号に記載する方式があり、この方式は、各電動機の電流を利用してそれぞれの接線力を計算し、接線力を探索して滑り速度制御を行うものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記第1の方式では、接線力の計算がエネルギーバランスの観点から行われており、損失エネルギー等の存在により計算誤差はかなり大きいと考えられる。また、第2の方式では、各電動機電流の検出のために電流検出器が必要であるとともに、車輪とレールとの間の粘着状態が考慮されていないため、良好な制御性能を期待できるものとは言えない。第3の方式でも電動機電流の検出が必要であり、また、トータルの接線力が最大になるような制御が行われていないといった問題がある。更に、第4の方式では、複数の電動機を制御する場合に、トータルの接線力が最大になることは保証されていない。
【0004】加えて、上記第1〜第3の方式は、本質的に空転・滑走車輪軸速度と車両速度との差を用い、ファジー制御等によって直接に電動機トルクを操作するものであり、そのトルク絞りパターンの決定は困難であった。更に、これらの制御方式では、上述した種々の欠点のほかに、滑り速度に依存する車輪とレールとの間の粘着状態は考慮されておらず、最大限に電車の加速度を確保することができなかった。
【0005】そこで本発明は、前記第4の方式と同様に、滑り速度と車輪・レール間の粘着状態との関係に容易に対応可能な滑り速度制御系を構成し、接線力を最大限に利用するために最適な滑り速度指令値を探索するようにした。ただし、本発明では、制御装置のハードウェア上の制約(例えば電動機ごとの電流検出器を使用しない等)を満たすために、各電動機電流を利用することなく電動機のトータル電流、すなわちインバータの出力電流を利用してトータルの接線力を推定し、空転・滑走制御系はトータルの接線力が常に最大になるように動作させて加速性能を向上させるようにしたインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】以下では、車輪の空転時を対象とした本発明の構成、作用につき説明する。なお、車輪の滑走時には、滑り速度の向きが空転時と逆になるだけであり、本質的には同様に考えることができる。まず、電気車1車両において、車輪軸に関する運動方程式は数式1によって表される。ただし、電動車1車両に車輪軸は4軸あるものとする。
【0007】
【数1】
mi・dωi/dt=τi−Fi・Rwi (i=1,2,3,4)
【0008】ただし、数式1における各値は次のとおりである。
i:車輪軸番号
mi:車輪軸慣性モーメントωi:車輪軸角速度τi:車輪軸駆動トルクFi:車輪・レール間接線力Rwi:車輪半径【0009】また、電動車1車両に関する運動方程式は数式2によって表される。
【0010】
【数2】

【0011】ただし、数式2における各値は次のとおりである。
t:車両質量vt:車両速度Fr:車両走行抵抗FΔ:線路勾配・連結車両等による力【0012】図1は、車両動特性を示すブロック図である。なお、ここでは第1車輪軸を例示している。この図1における各値は次の通りである。
αt:車両加速度ω'1:第1車輪軸の角加速度vm1:第1車輪軸の周速度vs1:第1車輪軸の滑り速度μ1:第1車輪・レール間の接線力係数W1:第1車輪軸の軸重f1( vs1):「滑り速度−接線力係数」特性【0013】ここで、滑り速度vs-接線力係数μの特性f(vs)は、図2に示すように定性的に表現することができる。vsが最大値vsmaxをとるとき、接線力係数μは最大値μmをとる。
【0014】本発明において、同一のインバータにより並列に制御される複数の電動機をベクトル制御する場合、各電動機の角速度の差は大きくならない。各車輪とレールとの粘着特性がそれぞれ図2の特性に属していれば、最小の滑り速度と各車輪の接線力係数の和との特性も一般に図2の特性に属することが確認できる。
【0015】車輪軸を4軸有する電動車1車両において、1台のインバータにより2個の誘導電動機が並列運転され、対応する2つの車輪軸が空転した場合、図3に示すような接線力探索機能付きの滑り速度制御を利用した空転制御系を得ることができる。なお、図3において、100はPI(比例+積分)制御器からなる空転制御補償手段、201,202は各々1台のインバータと2台の車両駆動用電動機とを含む電動機トルク制御系、300は前述した数式1及び数式2によって表される車両動特性、400は車両速度計算手段である。
【0016】また、ON/OFF判断手段500は、空転が発生したら自動的に空転制御補償手段100による空転制御を力行制御に付加し、その後、空転が抑えられ、かつ、電動機トルクによる引張力が所要の値になったら自動的に空転制御を解除し、力行制御のみに戻るように作用する。600は予め定められた引張力特性であり、ノッチ指令と車両特性とに応じて電動機のトルク指令を出力する。700は入力信号(車両動特性300から出力されるvm1,vm2)の最大値を求める最大値検出手段であり、その出力が空転発生の判断に使用される。800は入力信号(vm1,vm2)の最小値を求める最小値検出手段であり、その出力が滑り速度の計算に使用される。900は接線力推定値と滑り速度とに基づいて最適な滑り速度指令値を探索して出力するロジック(最適滑り速度探索手段)であり、1000は、インバータの出力電流と車輪軸の周速度とに基づいてトータルの接線力を推定し出力するロジック(接線力推定手段)である。また、1101〜1104は加算手段である。
【0017】なお、図3における各値は次の通りである。
τ*0:力行時のトルク指令値(引張力特性600の出力)
Δτ*:絞りトルク指令値(空転制御補償手段100の出力)
τ*:電動機トルク指令値(加算手段1102の出力)
τ1:第1の電動機の出力トルク(電動機トルク制御系201の出力)
τ2:第2の電動機の出力トルク(同上)
τ34:第3、第4の電動機の出力トルク(電動機トルク制御系202の出力)
m1:第1の車輪周速度(車両動特性300の出力)
m2:第2の車輪周速度(同上)
m3,vm4:第3、第4の車輪周速度(同上)
m:第1及び第2の車輪軸の車輪周速度の最大値(最大値検出手段700の出力)
n:第1及び第2の車輪軸の車輪周速度の最小値(最小値検出手段800の出力)
t:基準速度(各軸の車輪周速度の最小値、全軸空転時車両速度の推定値;基準速度計算手段400の出力)
s:滑り速度(=vn-vt;加算手段1104の出力)
sr:滑り速度指令値(最適滑り速度探索手段900の出力)
sm:滑り速度最大値(加算手段1103の出力)
inv:インバータ電流(電動機トルク制御系201の出力)
F(この本文内では便宜上、記号「^」を省略する):接線力推定値(接線力推定手段1000の出力【0018】トルク絞り指令値は、数式3に示すように、PI制御器からなる空転制御補償手段100の演算により決定される。なお、数式3における各値は次のとおりである。kp=PI制御器の比例ゲインTi= PI制御器の積分時間【0019】
【数3】Δτ*=kp・(1+1/Tis)・Δvs【0020】前述した数式1を考慮して、トータルの接線力は数式4のように推定することができる。なお、数式4における各値は次の通りである。
s:空転制御ループの制御周期ωi(k):i番目の車輪軸の現時刻の角速度ωi(k−1): i番目の車輪軸の一制御周期前の角速度τ(k):トータルの電動機トルクk:制御周期の数【0021】
【数4】

【0022】また、トータルの電動機トルクは数式5により計算することができる。ここで、数式5におけるe1q,e1dは数式6の通りであり、添字のd,qは誘導電動機のd軸成分、q軸成分を示す。なお、数式5、数式6における各値は次の通りである。
1:インバータ電流1:インバータ電圧e1:電動機の一次電圧演算値R1:電動機の一次抵抗値τ*:電動機のトルク指令値【0023】
【数5】

【0024】
【数6】e1q=v1q-R1i1q1d=v1d-R1i1d【0025】最適な滑り速度の探索は、図2に示した「滑り速度−接線力係数」特性に基づき、下記の基本ルールに従って行われる。
(1)IF(vsが増)&(Fが増) THEN vsrが増(2)IF(vsが減)&(Fが減) THEN vsrが増(3)IF(vsが増)&(Fが減) THEN vsrが減(4)IF(vsが減)&(Fが増) THEN vsrが減【0026】すなわち、前記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、インバータにより車輪駆動用の複数台の誘導電動機を並列に駆動して電気車を運転するインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、車輪周速度と車両速度相当値との差である滑り速度最大値に基づいて車輪の空転・滑走を検出する手段と、滑り速度指令値と滑り速度最小値との差に基づいて誘導電動機に対するトルク絞り指令値を求めることにより空転・滑走制御を行う空転・滑走制御補償手段と、滑り速度最大値と前記空転・滑走制御補償手段の出力とに基づいて、通常制御としての力行・制動制御に対する空転・滑走制御の付加の要否を判断する手段と、を備えたものである。
【0027】請求項2記載の発明は、請求項1記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、前記空転・滑走制御補償手段は、滑り速度指令値と滑り速度最小値との差に対し比例・積分制御を行ってトルク絞り指令値を生成し、このトルク絞り指令値をノッチ指令と車両速度相当値とに基づく通常制御時のトルク指令値に加算して電動機制御系に対するトルク指令値を得るものである。
【0028】請求項3記載の発明は、請求項2記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、トータルの車輪・レール間の接線力が最大になるように、滑り速度及び接線力推定値の増減情報を用いて最適な滑り速度指令値を探索し、前記空転・滑走制御補償手段における制御に用いるものである。
【0029】請求項4記載の発明は、請求項3記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、トータルの車輪・レール間の接線力を、インバータの電流・電圧の計測値と、車輪角速度の前回計測値と今回計測値との差分と、計測周期とを用いて推定することにより得ると共に、滑り速度指令値を、最適な滑り速度指令値の探索によって得た滑り速度補正値と前回の滑り速度指令値とを加算して得るものである。
【0030】請求項5記載の発明は、請求項4記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、滑り速度補正値を制限関数とし、滑り速度指令値に上下限を設けるものである。
【0031】
【発明の実施の形態】以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図4は、2台のインバータが各々2台(合計4台)の誘導電動機を駆動する場合の実施形態を示すブロック図である。図において、1は電気車制御用の2台のインバータ、21,22及び23,24は各インバータにより並列的に駆動され、かつ車輪軸に対応して設けられた車輪駆動用の第1〜第4の誘導電動機、3は各電動機21〜24にそれぞれ設けられたパルスジェネレータ(PG)、4は速度演算手段、5はインバータ1に対するトルク成分電流指令発生手段、6は加算手段、7はトルク指令発生手段である。
【0032】また、A12,A34は同一構成の空転・滑走制御ユニットであり、A12は第1、第2の電動機21,22に対応する制御ユニット、A34は第3、第4の電動機に対応する制御ユニットである。ここでは、一方の制御ユニットA12の内部構成のみを図示してある。この制御ユニットA12において、8は接線力推定手段、9は最適滑り速度探索手段、10は滑り速度演算手段、11は空転・滑走制御手段である。なお、12はインバータ1の電流(電動機21,22のトータル電流、電動機23,24のトータル電流)を検出する電流検出手段である。
【0033】以下、図4における主要部の作用を説明する。まず、速度演算手段4は、パルスジェネレータ3の出力信号から各車輪の角速度ωi及び車両速度vtを演算する。トルク指令発生手段7は、ノッチ指令と車両速度vtとに応じて通常制御における力行制御時のトルク指令値τ*012*034を出力する。接線力推定手段8は、前述の数式4〜数式6により接線力推定値F12,F34を得る。最適滑り速度探索手段9は、接線力推定値F12,F34及び滑り速度vs12,vs34から最適な滑り速度指令値vsr12,vsr34を探索して出力する。滑り速度演算手段10は、車両速度vtとmin(ω12),min(ω34)とから、滑り速度vs12,vs34及び空転発生の判断に利用するvm12=max(ω12),vm34=max(ω34)を演算し、出力する。
【0034】具体的に、滑り速度vs12,vs34の計算は数式7によって行われる。ただし、数式7におけるRwiは該当車輪の半径である。
【0035】
【数7】vs12=min(ω1,ω2)・Rwi−vts34=min(ω3,ω4)・Rwi−vt【0036】空転・滑走制御手段11では、数式3によりトルク絞り指令値Δτ*12,Δτ*34を演算して出力する。加算手段6は、τ*12*012+Δτ*12τ*34*034+Δτ*34の演算を行い、トルク成分電流指令発生手段5に対する最終的なトルク指令値τ*12*34を出力する。そして、電流指令発生手段5は、トルク指令値τ*12*34をトルク成分電流指令値Im*12,Im*34に変換する。
【0037】以下、実施形態の動作について説明する。ここでは、第1または第2の車輪軸に空転が発生した場合を例にとって述べる。車両速度や第1、第2の車輪軸の滑り速度を計算し、大きい方の滑り速度(滑り速度の最大値)が予め与えられた空転速度閾値を超えたら、図3におけるON/OFF判断ブロック500の出力をオンとし、通常制御(力行制御)に空転制御系を付加して、滑り速度指令値と小さい方の滑り速度(滑り速度最小値)との差に対して空転制御補償手段100により計算した結果をトルク絞り量として電動機トルクを絞る。
【0038】空転制御を行うと同時に、接線力推定値と滑り速度とを利用して、最大接線力が得られるような最適な滑り速度を最適滑り速度探索手段900により探索し、オンラインで滑り速度指令値を変えていく。粘着係数が回復しなければ、空転制御系が動作を継続し、制御される車輪は適当な滑り速度を維持する。粘着係数が回復すれば、空転制御補償手段100の出力であるトルク絞り量は小さくなり、その後、粘着係数の回復程度に応じたあるレベルで継続する。もし、そのトルク絞り量のレベルがある時間帯において所定の小さい値以下になったら、粘着係数はもう完全に回復したと判断し、ON/OFF判断手段500の出力をオフにして力行制御から空転制御を切り離す。
【0039】車両速度としては、各車輪周速度の最小値をとり、履歴から予想される速度を大きく外れる場合には補正する。あるいは、車両速度として付随車の車輪軸のパルスジェネレータ信号を使用できる場合にはこれを利用して車両速度の推定値とする。ここでは、各車輪周速度の最小値を基本とする車両速度及びその推定値を含めて、車両速度相当値という。
【0040】次いで、図4における空転・滑走制御手段11(図3の空転制御補償手段100)の補償動作を図5に基づいて説明する。まず、空転制御のON/OFFを判断する(S1)。通常の力行制御時には空転制御はオフとなっている。現在、空転制御がオフである場合には、滑り速度vsm12と閾値vsdとを比較し(S2)、vsm12≦vsdならば引き続き空転制御のオフ状態を維持してトルク絞り指令値Δτ*12を0として出力する(S3)。
【0041】また、空転制御が現在、オフの状態であってvsm12>vsdならば、空転制御をオンとする(S4)。このように閾値vsdを設けて滑り速度vsm12との比較結果に応じて空転制御の要否を決定することにより、レールの継ぎ目等での誤信号による空転制御系の誤動作を防止することができる。同時に、微少滑りによるトルク低下の頻発を防ぐ効果もある。
【0042】空転制御が現在、オンである場合には、滑り速度指令値vsr12と滑り速度vs12とを入力として、空転制御補償手段100によりトルク補正値Δτ**12を求める(S5)。そして、このトルク補正値Δτ**12の正負を判断し(S6)、補正値Δτ**12が正であるときには現在の引張力は引張力指令を満足しているので、空転制御をオフとし、トルク絞り指令値Δτ*12を0として出力する(S3)。
【0043】ステップS6において、トルク補正値Δτ**12が負である時には、その絶対値とトルク絞り量の最大値Δτmaxとを比較し(S8)、補正値Δτ**12の絶対値が最大値Δτmaxよりも小さいときには、トルク絞り指令値Δτ*12としてトルク補正値Δτ**12をそのまま出力する(S9)。また、補正値Δτ**12の絶対値が最大値Δτmaxよりも小さいときには、トルク絞り指令値Δτ*12としてトルク補正値Δτ**12をそのまま出力する(S9)。補正値Δτ**12の絶対値が最大値Δτmaxよりも大きいときには、トルク絞り指令値Δτ*12として−Δτmaxを出力する(S10)。これにより、トルクの急激な変動を抑制して乗り心地の悪化を防ぐ効果がある。
【0044】次に、図4における接線力推定手段8では、前述した数式4〜6により当該時刻における当該車輪での接線力を推定する(この推定値がF12(k)である。)。接線力推定手段8内のディジタルローパスフィルタにかけた接線力の推定結果を接線力探索に用いることとし、このようにローパスフィルタを用いることにより、ノイズや誤信号による誤動作を防ぐことができる。
【0045】図6は、k番目の探索周期における最適滑り速度探索手段9の動作を示すフローチャートである。ここでは、周期Tpで滑り速度指令値vsr12を更新するものとする。
【0046】まず、接線力推定値F12の前回値F12(k−1)と今回値F12(k)の接線力推定値の増減情報としてΔF12を求め(S11)、滑り速度vs12の前回値(vs12(k−1))と今回値(vs12(k))とから滑り速度の増減情報としてΔv's12を求める(S12)。更に、図7に示すΔvsの関数を発生する関数発生器により、Δv's12からΔvs12を求める(S13)。ここで、図7の関数の上下限の設定により、滑り速度の変動幅が大きくなり過ぎるのを防いでいる。また、この関数でΔv's12に対する閾値があることから、滑り速度の変化が小さいときでも強制的に探索を行うことができる。
【0047】次に、ΔF12の正負及びΔvs12の正負の関係から、滑り速度指令値の補正値Δvsr12の値を決定する(S14〜S20)。すなわち、ΔF12>0かつΔvs12>0、あるいは、ΔF12<0かつΔvs12<0である場合には、現在の滑り速度は接線力が最大になる滑り速度よりも小さく、ΔF12>0かつΔvs12<0、あるいは、ΔF12<0かつΔvs12>0である場合には、現在の滑り速度は接線力が最大となる滑り速度よりも大きい。これに基づき、Δvsr12=β・Δvs12(S15,S20)、または、Δvsr12=−β・Δvs12(S17,S19)とする。但し、βは設計パラメータであり、0<β≦1の定数である。
【0048】更に、ステップS21により求めたvsr12に上下限のリミッタvsru,vsrlを設けて、vsrl≦vsr12<vsruとする(S22〜S25,S26)。このように上下限のリミッタを設けることで、滑り速度が過大になるのを防ぐことができる。
【0049】滑走の場合の制御には、vs12=vt-max(ω12)・Rwiとする。また、図4におけるON/OFF判断にmin(ω12)を利用する。但し、車両速度としては各車輪の周速度の最大値をとり、履歴から予想される車両速度を大きく外れる場合には補正する。あるいは、車両速度として付随車の車輪軸のパルスジェネレータ信号を利用できる場合にはこれを用いることとする。他は空転の場合と同様である。
【0050】上記実施形態では、1台のインバータにより2台の誘導電動機を駆動する場合につき説明したが、本発明は、図8に示すように1台のインバータ1により4台の誘導電動機21〜24を駆動する場合にも適用可能である。この場合、空転滑走制御ユニットA1は単一で良い。
【0051】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、滑り速度を制御することで空転や滑走を制御し、車輪とレールとの間の接線力を一定にして閉ループ的な安定した空転・滑走制御を行うことができる。また、自動的に生成される滑り速度指令値に従い、レールと車輪との間の粘着状態に応じて電動機を制御することができる。また、接線力係数特性を推定して電気車の運転状態を把握できるため、力行・制動制御等の通常制御に付加する空転・滑走制御のオン・オフを自動的に選択することができる。更に、接線力の探索がオンラインでできるので、空転・滑走時に電気車の加速度を最大限に確保することができる。
【出願人】 【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
【識別番号】000237156
【氏名又は名称】株式会社エフ・エフ・シー
【出願日】 平成10年(1998)3月5日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
【公開番号】 特開平11−252708
【公開日】 平成11年(1999)9月17日
【出願番号】 特願平10−53545