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【発明の名称】 電気自動車の過負荷防止装置
【発明者】 【氏名】松永 康郎

【氏名】伊佐地 則文

【氏名】片田 寛

【氏名】三井 利貞

【要約】 【課題】モーターロック時に出力トルクを急に低下させずにインバーターの過負荷を防止する。

【解決手段】スイッチング素子温度検出値に基づいて各スイッチング素子の接合部温度を推定するとともに、予め設定された接合部温度に対するトルク制限値のマップから、通電中のスイッチング素子の接合部温度推定値に応じたトルク制限値を演算する。そして、モーター回転速度検出値が所定値よりも小さく、且つ、スイッチング素子温度検出値または接合部温度推定値が所定値を超えた時に、トルク制限値によりトルク指令値を制限し、制限後のトルク指令値に応じて各スイッチング素子の電流を制御する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のスイッチング素子によりバッテリーの直流電力を交流電力に変換してモーターを駆動するインバーターと、トルク指令値に応じて各スイッチング素子の電流を制御する電流制御手段とを備えた電気自動車の過負荷防止装置において、スイッチング素子の発熱温度を検出する温度検出手段と、前記フィン温度検出値に基づいて各スイッチング素子の接合部温度を推定する温度推定手段と、予め設定された接合部温度に対するトルク制限値のマップから、前記通電中のスイッチング素子の前記接合部温度推定値に応じたトルク制限値を演算するトルク制限値演算手段と、モーターの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出値が所定値よりも小さく、且つ、前記温度検出手段または前記温度推定手段の出力が所定値を超えた時に、前記トルク制限値により前記トルク指令値を制限する指令値制限手段とを備えることを特徴とする電気自動車の過負荷防止装置。
【請求項2】 請求項1に記載の電気自動車の過負荷防止装置において、前記トルク指令値の所定値は、スイッチング素子が連続的に許容できる最大直流電流を流した時のモーターの出力トルクであることを特徴とする電気自動車の過負荷防止装置。
【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の電気自動車の過負荷防止装置において、前記回転速度の所定値にヒステリシスを持たせることを特徴とする電気自動車の過負荷防止装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電気自動車の過負荷防止装置に関し、特にモーターロック時または超低回転速度時におけるインバーターの過負荷を防止するものである。
【0002】
【従来の技術】インバーターから交流電力を走行用モーターに供給して駆動する電気自動車では、図6に示すように通常回転時はインバーターの各スイッチング素子に交流電流i1が流れる。しかし、モーターロック時または超低回転速度時には特定の素子に直流電流i2が流れ、その素子の熱損失が急激に増加する。
【0003】図7はモーターの通常の回転状態と停止状態におけるスイッチング素子のケース温度と接合部温度を示す。モーターが通常の回転状態にある場合は、各スイッチング素子にほぼ同一の電流が流れ、複数のスイッチング素子で熱損失が均等に分担されるので、素子ケース温度Tcおよび接合部温度Tjは実線で示すように低い値を示す。またこの時、素子間のケース温度差も小さい。ところが、モーターがロックされて停止状態または超低回転速度状態にある場合には、特定の素子に直流電流が流れるので、その素子のケース温度Tc’と接合部温度Tj’が急激に上昇し、素子間のケース温度差も急激に増加する。
【0004】モーターロック時または超低回転速度時に駆動回路のスイッチング素子の接合部温度が許容値を超えないようにするために、スイッチング素子のケース温度を検出し、ケース温度がしきい値を超えたらインバーターの出力電流を低減する電気自動車の過負荷防止装置が知られている。
【0005】また、モーターロック時または超低回転速度時の駆動回路の過負荷を防止するために、モーターのロック状態を検出し、ロック状態が検出されると出力電流を制限する電気自動車の過負荷防止装置が知られている(例えば、特開平8−191503号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した前者の過負荷防止装置では、6個のスイッチング素子の中の最大のケース温度に基づいてインバーターの出力電流を低減するので、インバーターのすべてのスイッチング素子の出力電流が同時に制限され、モーターの出力トルクが急激に低下して乗員に違和感を与える。また、上述した後者の過負荷防止装置でも、モーターロック時にインバーターのすべてのスイッチング素子の出力電流を制限するので、モーターの出力トルクが急に低下する。
【0007】図8は、従来の過負荷防止装置によるモーターロック時の出力トルクの変化を示す。ここで、Trmaxは、インバーターからモーターに最大電流を流した時のモーターの最大出力トルクである。また、Tr0は、モーターロック時にインバーターの特定のスイッチング素子からモーターへ、素子が連続的に許容できる最大電流(直流電流)を流した時のモーターの出力トルクであり、以下では連続可能トルクと呼ぶ。モーターがロックされ、インバーターの特定のスイッチング素子に最大電流が流れると、そのスイッチング素子の接合部温度Tjは急激に上昇し、時刻t1で許容最大値Tj4に達する。時刻t1から出力トルクを連続可能トルクTr0に制限することによって接合部温度Tjも低下するが、モーターロック時の出力トルクの低下が急激であるため、乗員に違和感を与える。
【0008】本発明の目的は、モーターロック時に出力トルクを急に低下させずにインバーターの過負荷を防止する電気自動車の過負荷防止装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
(1) 請求項1の発明は、複数のスイッチング素子によりバッテリーの直流電力を交流電力に変換してモーターを駆動するインバーターと、トルク指令値に応じて各スイッチング素子の電流を制御する電流制御手段とを備えた電気自動車の過負荷防止装置に適用される。そして、スイッチング素子の発熱温度を検出する温度検出手段と、フィン温度検出値に基づいて各スイッチング素子の接合部温度を推定する温度推定手段と、予め設定された接合部温度に対するトルク制限値のマップから、通電中のスイッチング素子の接合部温度推定値に応じたトルク制限値を演算するトルク制限値演算手段と、モーターの回転速度を検出する回転速度検出手段と、回転速度検出値が所定値よりも小さく、且つ、温度検出手段または温度推定手段の出力が所定値を超えた時に、トルク制限値によりトルク指令値を制限する指令値制限手段とを備える。素子温度検出値に基づいて各スイッチング素子の接合部温度を推定するとともに、予め設定された接合部温度に対するトルク制限値のマップから、通電中のスイッチング素子の接合部温度推定値に応じたトルク制限値を演算する。そして、モーター回転速度検出値が所定値よりも小さく、且つ、スイッチング素子温度検出値または接合部温度推定値が所定値を超えた時に、トルク制限値によりトルク指令値を制限し、制限後のトルク指令値に応じて各スイッチング素子の電流を制御する。
(2) 請求項2の電気自動車の過負荷防止装置は、トルク指令値の所定値を、スイッチング素子が連続的に許容できる最大直流電流を流した時のモーターの出力トルクとしたものである。
(3) 請求項3の電気自動車の過負荷防止装置は、回転速度の所定値にヒステリシスを持たせるようにしたものである。
【0010】
【発明の効果】
(1) 請求項1の発明によれば、例えば車両が道路上の突起物を乗り越えるような場合に、モーターがロック状態または超低回転速度状態になっても、モーターの出力トルクの低下が緩やかになり、従来のようにモーターの出力トルクが急激に低下して乗員に違和感を与えるようなことがない。
(2) 請求項2の発明によれば、モーターがロック状態または超低回転速度状態にあるか否かの判定を、モーターの回転速度が所定値未満という条件の他に、スイッチング素子が連続的に許容できる最大直流電流を流した時のモーターの出力トルクよりもトルク指令値が大きいことを条件としたので、正確な判定が可能となる。
(3) 請求項3の発明によれば、モーターがロック状態または超低回転速度状態にあるか否かの判定を行なうごとに判定結果が切り換わるチャタリングを防止できる。
【0011】
【発明の実施の形態】図1は一実施の形態の構成を示す図である。バッテリー1はインバーターリレー2およびDCリンクコンデンサ3を介してインバーター主回路4に直流電力を供給し、インバーター主回路4は直流電力を交流電力に変換して走行用モーター5に印加する。インバーター主回路4は、スイッチング素子であるIGBT T1〜T6とダイオードD1〜D6から構成され、これらのスイッチング素子は冷却用フィン(不図示)上に取り付けられている。なお、この実施の形態では走行用モーター5に同期電動機を用いた例を示すが、誘導電動機を用いてもよい。また、この実施の形態ではスイッチング素子にIGBTを用いた例を示すが、パワートランジスターやサイリスタなどのスイッチング素子を用いてもよい。
【0012】サーミスタ6はスイッチング素子冷却用フィンの温度Tsを検出する検出器であり、電流センサー7〜9はインバーター主回路4の出力電流Iu、Iv、Iwを検出する検出器である。また、磁極センサー10は同期モーター5の磁極位置θを検出する検出器であり、回転センサー11はモーター5の回転速度Neを検出する検出器である。
【0013】モーターコントローラー12は、マイクロコンピュータとその周辺部品から構成され、車両制御コントローラー(不図示)からのトルク指令値Tr*にしたがってモーター5の三相電流Iu、Iv、Iwを制御するとともに、後述する制御プログラムを実行してモーターロック時のトルク制限を行なう。
【0014】この実施の形態では、モーターがロック状態または超低回転速度状態にある時に、インバーター主回路4の各スイッチング素子の接合部温度を推定し、各スイッチング素子ごとにその接合部温度に応じてモータートルク指令値Tr*を制限し、制限処理後のトルク指令値Tr*に応じた出力電流となるように各スイッチング素子の電流を制御する。
【0015】まず、モーターがロック状態または超低回転速度状態にあるか否かをモーター回転速度Neとトルク指令値Tr*に基づいて判定する。モーター回転速度|Ne|が所定値Ne1よりも小さく、且つ、トルク指令値|Tr*|が上述した連続可能トルクTr0より大きい場合は、モーターがロック状態または超低回転速度状態であると判定する。ここで、連続可能トルクTr0とは、上述したように、モーターロック時にインバーター主回路の1個のスイッチング素子からモーターへ、素子が連続的に許容できる最大電流(直流電流)を流した時のモーターの出力トルクである。
【0016】次に、スイッチング素子の接合部温度の推定演算について説明する。まず、上述した判定条件に基づいてモーターがロック状態または超低回転速度状態にあると判定された時点の、各スイッチング素子ごとの冷却用フィン温度Tfと接合部温度Tjの初期値Tfo、Tjoを次式により求める。
【数1】Tfo=Ts+K1,Tjo=Tfo+K2ここで、K1、K2は定数であり、各スイッチング素子に対して最適値を設定する。
【0017】次に、モーターがロック状態または超低回転速度状態に入ってからの経過時間をΔtとして、ロック状態または超低回転速度状態における各スイッチング素子ごとのフィン温度と接合部温度の推定値Tfs、Tjsを次式により求める。
【数2】Tfs[n]=(Ts−K3・I−Tfs[n-1])・Δt/K4+Tfs[n-1],Tjs[n]=(Tfs[n]−K5・I−Tjs[n-1])・Δt/K6+Tjs[n-1]ここで、Iは三相出力電流Iu,Iv,Iwである。また、K3〜K6は定数であり、各スイッチング素子に対して最適値を設定する。なお、記号[n]は今回の演算値を表わし、[n-1]は前回の演算値を表わす。モーターがロック状態または超低回転速度状態に入った直後の演算では、Tfs[n-1]に初期値Tfoを、Tjs[n-1]に初期値Tjoをそれぞれ設定する。
【0018】図4は、予め設定された接合部温度に対するトルク制限値のマップである。このマップから通電中のスイッチング素子の接合部温度推定値Tjsに応じたトルク制限値Tr’を表引き演算し、トルク指令値Tr*を制限値Tr’以下に制限する。そして、制限処理後のトルク指令Tr*に応じて通電中のスイッチング素子を電流制御する。
【0019】図2、図3は、モーターロック時のトルク制限処理を示すフローチャートである。これらのフローチャートにより、一実施の形態の動作を説明する。モーターコントローラー12は、所定の時間間隔でこの制御プログラムを実行する。ステップ1において、モーター回転速度|Ne|が所定値Ne1よりも小さいか否かを判断し、所定値Ne1より小さければステップ2へ進み、そうでなければステップ6へ進む。回転速度が所定値Ne1以上の時はモーター5がロック状態でないと判断し、ステップ6でモーター回転速度|Ne|が所定値Ne2(>Ne1)以上かどうかを判断する。回転速度が所定値Ne2以上の時はステップ7へ進み、モーターロック状態を示すロックフラグをクリヤする。この実施の形態では、モーターロック状態の判定基準回転速度にヒステリシスを設け、判定結果が激しく切り換わるチャタリングを防止する。
【0020】モーター回転速度|Ne|が所定値Ne1より小さい時は、ステップ2でトルク指令値|Tr*|が連続可能トルクTr0より大きいか否かを判断する。トルク指令値|Tr*|が連続可能トルクTr0以下の時は、ステップ8でその状態が所定時間継続されたかどうかを確認する。連続可能トルクTr0以下の状態が所定時間以上継続された場合はステップ9へ進み、特定のスイッチング素子にトルク指令値Tr*に応じた電流を連続して流しても、そのスイッチング素子の接合温度Tjが許容最大値まで上昇することはないので、ロックフラグをクリヤする。
【0021】モーター回転速度|Ne|が所定値Ne1より小さく、且つトルク指令値|Tr*|が連続可能トルクTr1より大きい時は、モーター5がロック状態または超低回転速度状態にあると判断してステップ3へ進み、ロックフラグがクリヤされているかどうかを確認する。ロックフラグがクリヤされていればステップ4へ進み、上述したようにモーターがロック状態または超低回転速度状態に入った時点の、各スイッチング素子ごとの冷却用フィン温度初期値Tfoと接合部温度初期値Tjoを求める。続くステップ4Aで、モーター5がロック状態または超低回転速度状態になってからの経過時間Δtの計時を開始する。ステップ5ではロックフラグをセットする。
【0022】ステップ11において、ロックフラグがセットされているか否かを確認し、セットされていればステップ12以降のモーターロック時または超低回転速度時のトルク制限処理を行ない、ロックフラグがクリヤされていれば処理を終了する。ステップ12では、上述したようにロック状態または超低回転速度状態における各スイッチング素子ごとのフィン温度推定値Tfsと接合部温度推定値Tjsを求める。ステップ13で、磁極位置θを検出し、磁極位置θに基づいて通電しているスイッチング素子を特定する。続くステップ14で、予め設定された接合部温度に対するトルク制限値のマップ(図4参照)から、通電中のスイッチング素子の接合部温度推定値Tjsに応じたトルク制限値Tr’を表引き演算する。ステップ15においてトルク指令値Tr*を制限値Tr’以下に制限し、ステップ16でトルク制限後の指令値Tr*に応じた出力電流となるように通電中のスイッチング素子の電流を制御する。
【0023】図5は、この実施の形態によるモーターロック時の出力トルクの変化を示す。モーターロック後の時刻t11までは最大トルクTrmaxが出力され、時刻t11から接合部温度Tjに応じたトルク制限がかかる。その結果、出力トルクが低下し始める。出力トルクの低下によりモーター5の通電相、すなわち通電スイッチング素子が隣の相の素子に移るため、新しく通電相になったスイッチング素子のトルク制限値が演算される。新たに通電相になったスイッチング素子は今まで通電していなかったので、接合部温度が低く、したがってトルク制限値が高い。つまり、図示するように時刻t12から出力トルクが増加する。上述したように、従来は、時刻t12から出力トルクが破線に沿って低下し、急激にトルクが低下していた。時刻t13でふたたび現在通電中のスイッチング素子の接合部温度が上昇し、接合部温度に応じたトルク制限がかかって出力トルクが低下する。このように、各スイッチング素子ごとにその接合部温度に応じてトルク指令値が制限されるので、モーターロック時に急に出力トルクが低下するようなことがなく、乗員が違和感を感じることはない。
【0024】以上の一実施の形態の構成において、インバーター主回路4がインバーターを、モーターコントローラー12が電流制御手段、温度推定手段、トルク制限値演算手段および指令値制限手段を、サーミスタ6が温度検出手段を、回転センサー11が回転速度検出手段をそれぞれ構成する。
【0025】なお、上述した実施の形態ではサーミスタによりスイッチング素子冷却用フィンの温度を検出し、フィン温度に基づいてスイッチング素子の接合部温度を推定する例を示したが、スイッチング素子のケース温度を検出し、ケース温度に基づいてスイッチング素子の接合部温度を推定するようにしてもよい。また、フィン温度またはケース温度を検出するためのセンサーはサーミスタに限定されない。さらに、上述した実施の形態では、1個のサーミスタによりフィン温度を検出する例を示したが、各スイッチング素子ごとにフィン温度またはケース温度を検出するセンサーを設けてもよい。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成9年(1997)10月7日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
【公開番号】 特開平11−122703
【公開日】 平成11年(1999)4月30日
【出願番号】 特願平9−274736