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【発明の名称】 電気自動車
【発明者】 【氏名】高本 祐介

【氏名】正木 良三

【要約】 【課題】運転者がブレーキペダルを踏んだ場合において、ブレーキ力が弱い場合においても電気自動車が坂道をずり落ちることがないようにし、位置制御に基づく電気エネルギーの消費を少なくできる電気自動車を提供する。

【解決手段】車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持するものであって、ブレーキ操作に応じて前記回転トルクを演算し、電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した状態でブレーキペダルが踏まれたとき、前記回転トルクを減少させるとともに、前記電気自動車のずり下がり量を測定し、前記ずり下がり量が所定量を越えたときに、再度、前記回転トルクにより電気自動車の停止保持してなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持する電気自動車において、ブレーキ操作の操作量に応じて前記回転トルクを演算し、該演算回転トルクにより前記車体の停止位置を保持することを特徴とする電気自動車。
【請求項2】 電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した状態でブレーキペダルが踏まれたとき、前記回転トルクを減少させるとともに、前記電気自動車のずり下がり量を測定し、前記ずり下がり量が所定量を越えたときに、再度、前記回転トルクにより電気自動車の停止保持を行うことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車制御装置。
【請求項3】 車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持する電気自動車において、前記電動モータの回転トルクにより停止保持する期間を、ブレーキペダルがオフされてから所定時間とすることを特徴とする電気自動車。
【請求項4】 前記所定時間は、前記電気自動車を発進させるときに、前記電気自動車の運転者が前記ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えるのに必要な時間であることを特徴とする請求項3に記載の電気自動車。
【請求項5】 前記所定時間の経過後、前記回転トルクを徐々に減少させていくことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車。
【請求項6】 前記回転トルクを減少させていくときには、運転者に注意を促す警告を出すことを特徴とする請求項5に記載の電気自動車。
【請求項7】 車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持する電気自動車において、該電気自動車は、電動モータ、制御装置、ブレーキペダル、前記制御装置によって駆動される油圧ブレーキ装置を備え、前記制御装置は、前記ブレーキペダルが踏まれて車体が停止している状態の後、前記ブレーキペダルがオフされた時点から所定時間の間、前記電動モータの回転トルクにより車体を停止した位置に保持し、前記所定時間の経過後、油圧ブレーキ装置により車体を停止した位置に保持することを特徴とする電気自動車。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気自動車に係り、特に、坂道での停止時、電動モータの回転トルクで車体を保持する場合の必要エネルギーを少なくした電気自動車に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電気自動車の停止手段としては、駆動モータに制動トルクを発生させて自動車の停止維持を補助させることが知られており、坂道の停止時には、常に、坂道のずりさがりを防止するように前記制動トルクを発生させるようにしてブレーキ手段を補助している。この技術は、坂道で電気自動車が停車する場合、運転者がブレーキ手段によって機械的に制動力を加えておかなければならなかった。
【0003】前記点を解決すべく、電気自動車が坂道で停止した時には、自動車の停止した位置を目標位置として位置制御を行い、モータトルクにより停止位置を保持することで、ブレーキによる機械的な制動力をなくても、電気自動車がその停止位置を保持することができる技術が提案されている(特開平5−268704号公報)。
【0004】また、電気自動車において、アクセルペダルとブレーキペダルが共に踏まれていない状態で、車両のずり落ちに対抗するトルクを発生させるように、走行用モータの出力トルクを補正する手段も提案されている(特開平7−322404号公報)。該手段によれば、勾配路における発進・微速走行を容易に行うことができ、かつ、平地での微速走行時の走行性を向上することができる。
【0005】更に、走行用モータに同期モータを用いる電気自動車において、登坂路でドライバーが、アクセル調整により該電気自動車が後退しない程度のモータトルクを与えているような場合に、モータ保護の為のトルク指令値の低減制御を行う際の後退速度を制限すること、及び、ストール状態が許容時間を越えて継続している場合にのみ、トルク低減制御が実行される手段も提案されている(特開平7−336807号公報)。該手段によれば、走行用モータやその他の電力回路に顕著な局部発熱が生じることを防止することができ、かつ車両の急激な後退をなくすことができるとともに、局部発熱が問題とならない短時間にもかかわらず、トルク低減制御が実行されて、電気自動車が後退することを防ぐことができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記特開平5−268704号公報記載の技術は、運転者が坂道停止時にブレーキペダルを踏んでおく必要がなくなり、坂道発進が楽になって電気自動車の使い勝手が向上するが、長時間にわたって、モータトルクにより停止位置を保持した場合、該モータを駆動するための電気エネルギーの消費量が大きくなってしまい、バッテリーの残存容量がそのために低下してしまい、一充電走行距離が短くなると云う問題がある。
【0007】また、前記特開平7−322404号公報記載の技術は、位置制御を行うものでははないが、アクセルペダルとブレーキペダルが共に踏まれていない状態で、車両のずり落ちに対抗するトルクを発生させるので、絶えず運転者がブレーキペダルを踏んでいれば、モータがトルクを出力する必要がないが、運転者のブレーキペダルの踏み方が弱い場合については、考慮されておらず、運転者のブレーキ力が弱い場合には、電気自動車が坂道をずり落ちる可能性があると云う問題点がある。
【0008】更に、前記特開平7−336807号公報記載の技術は、位置制御を行うものではないが、走行用モータに同期モータを使用した場合において、許容時間を越えてストール状態にあるとき、アクセル開度に基づくトルク指令を低減させることで、走行用モータやその他の電力回路に顕著な局部発熱が起こらないようにしているが、該技術は、アクセルを踏んでいてさらにストール状態のときに、トルク指令を低減しようとするものであるので、運転者がアクセルペダルとブレーキペダルを踏んでいないときには、電気自動車がずり落ちてしまうと云う不具合がある。
【0009】本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その第一の目的とするところは、運転者がブレーキペダルを踏んだ場合において、ブレーキ力が弱い場合においても電気自動車が坂道をずり落ちることがないようにし、位置制御に基づく電気エネルギーの消費を少なくできる電気自動車を提供することにある。そして、その第二の目的とするところは、運転者がブレーキペダルを踏んでいないときに電気自動車を停止保持する期間を限定することにより、位置制御に基づく電気エネルギーの消費を少なくできる電気自動車を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成すべく、本発明に係る電気自動車は、基本的には、車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持するものであって、ブレーキ操作の操作量に応じて前記回転トルクを演算し、該演算回転トルクにより前記車体の停止位置を保持することを特徴とし、具体的には、電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した状態でブレーキペダルが踏まれたとき、前記回転トルクを減少させるとともに、前記電気自動車のずり下がり量を測定し、前記ずり下がり量が所定量を越えたときに、再度、前記回転トルクにより電気自動車の停止保持を行うことを特徴としている。
【0011】前記の如く構成された本発明の電気自動車は、回転トルクにより車体を停止させた状態でブレーキペダルが踏まれたときに、回転トルクを減少させるようにし、該回転トルクの減少に基づく車体のずり下がり量を測定し、ずり下がり量が所定量を越えたときに、再度、回転トルクにより車体を停止保持するようにしたので、回転トルクの減少によって電気エネルギーの消費を低減することができる。また、本発明に係る電気自動車の他の態様は、該電気自動車が、車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持するものであって、前記電動モータの回転トルクにより停止保持する期間を、ブレーキペダルがオフされてから所定時間とすることを特徴としている。
【0012】更に、本発明の電気自動車の好ましい具体的態様は、前記所定時間が、前記電気自動車を発進させるときに、前記電気自動車の運転者が前記ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えるのに必要な時間であることを特徴とし、前記所定時間の経過後、前記回転トルクを徐々に減少させていくことを特徴としている。更にまた、本発明の電気自動車の他の具体的態様は、前記回転トルクを減少させていくときには、運転者に注意を促す警告を出すことを特徴としている。
【0013】更にまた、本発明の電気自動車の他の態様は、車体を走行駆動する電動モータの回転トルクにより前記車体を停止した位置に保持するものであって、該電気自動車が、電動モータ、制御装置、ブレーキペダル、前記制御装置によって駆動される油圧ブレーキ装置を備え、前記制御装置が、前記ブレーキペダルが踏まれて車体が停止している状態の後、前記ブレーキペダルがオフされた時点から所定時間の間、前記電動モータの回転トルクにより車体を停止した位置に保持し、前記所定時間の経過後、油圧ブレーキ装置により車体を停止した位置に保持することを特徴とている。
【0014】前記の如く構成された本発明の他の態様の電気自動車は、電動モータの回転トルクにより停止保持する期間を、ブレーキペダルがオフされてから所定時間とし、所定時間の経過後、回転トルクを減少させていくようにしたので、該回転トルクの減少により、車体がずり下がることで、運転者に注意を促し、再度ブレーキペタルをオンさせるように作動させる結果となることで、前記回転トルクの減少によって電気エネルギーの消費を低減することができる。
【0015】また、前記電動モータの回転トルクにより停止保持する期間を、前記電気自動車を発進させるときに、前記電気自動車の運転者が前記ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えるのに必要な時間としたので、運転者が前記ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えるのに必要な時間中に、電気自動車がずり下がることがない。
【0016】更に、油圧ブレーキにより自動的に車輪をロックするので、坂道で停車している時に、ブレーキペダルを踏むことなく、かつ、エネルギーロスを最小限に抑えながらずり下がりを防止できる。従って、運転車が長時間ブレーキペダルを踏むことがなくなる(サイドブレーキを使用せずに)と共に、電動モータの回転トルクを使用しないので、電気エネルギーを無駄にしないで坂道に停止できる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、図面により本発明の電気自動車の一実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施形態の電気自動車の車輪駆動部の全体構成を概念的に示したものである。該電気自動車の駆動部は、永久磁石同期モータ1、インバータ2、バッテリー3、駆動輪4、差動機構5、アクセルペダル6、ブレーキペダル7、制御装置8、位置検出器9から成っており、モータ1は、3相のインバータ2により制御され、モータ1から出力されるトルクは、差動機構5を介して駆動輪4に伝達され、該駆動輪4が回転することで、電気自動車の車体を走行させる。インバータ2は、バッテリー3のエネルギーを制御装置8からのPWM信号により、3相交流電圧に変換してモータ1を駆動するが、モータ1は、誘導モータであってもよい。また、図示してないが、4つの車輪には、油圧によるブレーキ装置があり、ブレーキペダル7を踏むことによって、車輪にブレーキ力を発生させることができる。
【0018】制御装置8は、トルク指令計算部10、ベクトル制御部(電流指令計算部)11、電流制御部12、速度検出部13、位置検出部14からなっており、トルク指令計算部10は、モータ1のトルク指令を計算する。ベクトル制御部11は、モータ速度に対して効率が最高となり、かつ、モータの発生するトルクがトルク指令値になるような電流指令を計算するか、あるいは、予め用意されたテーブル参照することにより求める。電流制御部12は、モータ電流をフィードバックして、電流制御演算を行う。電流制御演算によって得られた電圧指令値とキャリア信号とを比較してPWM信号を得る。
【0019】位置検出部14は、モータ1に取り付けられた位置検出器9の信号からモータ1の位置(角度)を検出する。位置検出器9は、磁極位置およびモータ角度を検出することができるように信号を出力している。位置検出部14は、位置検出器9からの信号によって、モータ位置を検出する。速度検出部13は、時間あたりのモータ位置の変化からモータ速度を検出する。電気自動車は、流体のトルク伝達機構を使用していないので、モータ1が停止しているときには、駆動輪4も停止している。
【0020】図2は、前記制御装置8のトルク指令計算部10の制御ブロック図を示したものである。トルク指令計算部10は、アクセルペダルの開度を示すアクセル信号、ブレーキペダルのオン・オフを示すブレーキ信号、モータ位置信号、モータ速度信号を入力信号としている。トルク指令計算部10は、アクセル信号を入力するトルク指令計算部20、位置指令計算部21、位置制御部22、速度制御部23、位置制御選択部24、トルク減少部25、トルク指令切り替え部26から成っている。
【0021】トルク指令計算部10は、運転者がアクセルペダルを踏んで通常に走行するときには、アクセル信号からトルク指令を計算する。アクセル信号からのトルク指令計算部20では、アクセル信号に対して比例するトルク指令を計算している。電気自動車が坂道で停車して位置制御を行うときには、次のようにしてトルク指令を計算する。
【0022】まず、位置制御選択部24において、電気自動車が停止したことを判断して、さらにそのときのアクセルペダル・ブレーキペダルの踏まれ方によって、位置制御に入るかどうかの判断を行う。位置制御に入るときには、位置指令計算部21は、その時点のモータ位置を位置指令として出力する。次に、位置制御部22において、この位置指令と現在のモータ位置とを突き合わせて、位置制御を演算し、速度指令を出力する。さらに、速度制御部23において速度指令と、現在のモータ速度の突き合わせを行って速度制御を演算し、トルク指令を出力する。
【0023】トルク指令切り替え部26は、位置制御が選択されているときには、速度制御演算23によるトルク指令を出力する。この位置制御方式を使用すると、運転者が坂道で停止して、ブレーキペダルから足をはずした(ブレーキペダルをオフにした)時には次のような動作を示す。即ち、電気自動車が上り坂で停車したときは、その時点のモータ位置を位置指令として記憶する。運転者がブレーキペダルをオフすることによって、電気自動車の速度が負となり、車体がずり下がる。位置制御部22では、モータ位置が位置指令よりも小さくなったことから正の速度指令を演算し、速度制御部23ではモータ速度が速度指令と一致するように、正のトルク指令を出力する。この結果、電気自動車は、前に進むようになり、元の位置に戻ると速度指令が0となり、その場所に停止する。
【0024】本実施形態の特徴としては、ブレーキペダルの操作に応じて位置制御を行うときには、出力するトルク指令値を減少させることができ、トルク減少部25は、ブレーキ信号(ブレーキペダルのオンオフ信号)により、ブレーキペダルが踏まれているかどうかを判断して、速度制御部23が演算するトルク指令を減少させる。更に、トルクを減少させる時には、運転者に対して警告を出すようになっている。
【0025】図3は、トルク指令計算部10の処理のフローチャートを示すものであり、該フローチャートは、一定サンプリング時間毎に繰り返し演算されるものである。トルク指令計算処理は、まず、ステップ301で位置制御中かどうかを判断し、位置制御中でないときには、ステップ302に進み、現在位置制御に入る条件かどうかを判断する。例えば、シフトポジションがD(ドライブ)レンジにあるときには、車速(またはモータ速度)が0以下であること、更にアクセルがオフされていることによって、ステップ303の位置制御に入り、ステップ304で、現在のモータ位置の位置指令を決定する。Dレンジで車速(またはモータ速度)が0以下のとき位置制御に入るという条件は、R(リバース)レンジで車速(またはモータ速度)が0以上のときにも位置制御に入れるようにしてもよいし、D、Rレンジにおいて、車速(またはモータ速度)が0になったときに位置制御に入るようにしてもよい。ステップ301において、位置制御中のときには、まず、ステップ305で、アクセルペダルが踏まれているかどうか判断する。アクセルペダルが踏まれているときには、ステップ306で位置制御によって演算されるトルク指令と、アクセル信号から計算されるトルク指令値の大きさの比較を行う。ステップ306で、アクセル信号から計算されるトルク指令の方が大きい場合には、運転者が電気自動車を走行させようとしていると判断されるので、ステップ307で位置制御を終了する。
【0026】ステップ305において、アクセルペダルが踏まれていないと判断されたときには、ステップ308に進み、ブレーキペダルが踏まれているかどうかを判断する。ブレーキペダルが踏まれているときには、ステップ309に進み、該ステップ309でトルク減少処理(ずり下がり防止処理付)を行う。ブレーキペダルが踏まれていると判断されたときには、位置制御のための回転トルクを小さくしても電気自動車がずり下がることがないと考えられるため、ステップ309のトルク減少処理において、位置制御で計算するトルク指令値を徐々に小さくしていく。ずり下がり防止処理は、トルクを減少させていくとき、電気自動車がずり下がった場合に、再度トルク指令値を大きくして、電気自動車の停止保持ができる処理である。これは、運転者のブレーキペダルの踏み方が弱いときには、位置制御によって出力するモータトルクが小さくなりすぎると、電気自動車がずり下がるため、このずり下がりを防止しようとするものである。
【0027】ステップ308で、ブレーキ信号がオフと判断されたときには、ステップ310に進み、これまで行ってきたトルクを減少させる処理を停止して、モータの回転トルクにより電気自動車を停止保持する。次に、ステップ311では、アクセル信号によるトルク指令を計算し(Kaは定数であらかじめ決めておく)、ステップ312に進む。該ステップ312で位置制御中と判断されたときは、ステップ313で位置制御の演算を行うと共に、ステップ314で速度制御の演算を行ってトルク指令を計算する。位置制御中では速度制御演算によるトルク指令が優先される。
【0028】図4は、図3に示したフローチャートに基づいて制御されたときの電気自動車の動作を示したものである。電気自動車が登坂路を前進している(モータ速度が正)場合に、ブレーキペダルを踏むことによって電気自動車が停止し、該停止によって位置制御が開始する。この場合、図示していないが、アクセルペダルは踏んでいないとすると、運転者がブレーキペダルをしっかり踏んでいるので、モータ位置は変化せず、モータトルクは出力されない。ブレーキペダルをオフすると、モータ位置が変化するので、位置制御によりモータトルクを演算して出力する。この場合、モータ位置やモータ速度の変化は、ごく小さいので図示していない。運転者が再度ブレーキペダルをオンすると、位置制御はモータトルクを徐々に減少させる。この例では、運転者がブレーキペダルを強く踏んでいるため、モータトルクを減少させても電気自動車は後退しない。
【0029】図5は、図4と同様な電気自動車の動作を示したものであり、電気自動車が走行中に運転者がブレーキペダルを踏むことにより、電気自動車が停止(モータ速度が零)し、その時点で位置制御を開始する。運転者がブレーキペダルをオフすることで、位置制御によって計算されるモータトルクが出力される。再度、運転者がブレーキペダルを踏むと、モータトルクを減少させ始める。ブレーキペダルの踏み方が十分でない場合に、モータトルクを減少させたことにより電気自動車がずり下がり始める。このとき、モータ位置からずり下がり量を検出し、ずり下がり量が許容できる範囲(例えば、自動車のずり下がり量に換算して5cm程度)を越えた場合に、モータトルク減少処理を停止して、その場所に停止するように再度、位置制御を行う。
【0030】その結果、電気自動車は停止し、そのときに必要なモータトルクは、運転者がブレーキペダルを踏んでいないときよりも小さなトルクでよい。この例では、電気自動車のずり下がり量が許容範囲を越えた後、ずり下がった後の位置に停止保持するようにしたが(位置指令を変更することにより可能)、ずり下がる前の位置(最初に停止した位置)に停止保持するようにしても良い。この方式により、運転者がブレーキペダルを踏んでいるときの、エネルギーの消費を抑えることが可能になった。
【0031】図6は、トルク指令計算部10での処理を行うフローチャートを示しており、該フローチャートは、一定サンプリング時間毎に繰り返し演算されるものである。トルク指令計算の処理は、まず、ステップ601で位置制御中かどうかを判断し、位置制御中でないときには、ステップ602に進み、該ステップ602で、現在位置制御に入る条件かどうかを判断する。例えば、シフトポジションがDレンジにあるときには、車速が0以下であること、アクセルペダルがオフされていること、及び、ブレーキペダルが踏まれていることの3つの条件を満たすときには、ステップ603に進み、位置制御を開始する。そして、このとき、ステップ604で現在のモータ位置を位置指令とする。Dレンジのときだけ位置制御を行うようにしているが、R(リバース)レンジで車速が0以上のときにも位置制御に入れるようにしてもよい。また、D、Rレンジにおいて車速(またはモータ速度)が0になったときに位置制御に入るようにしてもよい。
【0032】ステップ601での処理において、位置制御中のときには、ステップ605で、まず、アクセルペダルが踏まれているかどうか判断する。アクセルペダルが踏まれているときには、ステップ606で、位置制御によって演算されるトルク指令と、アクセル信号から計算されるトルク指令値の大きさの比較を行い、アクセルから計算されるトルク指令の方が大きい場合には、運転者が電気自動車を走行させようとしていると判断されるので、ステップ607進み、位置制御を終了する。
【0033】ステップ605の処理において、アクセルペダルが踏まれていないときには、ステップ608に進み、ブレーキペダルが踏まれているかどうか判断する。ブレーキペダルが踏まれているときには、運転者が自分で自動車を停止させることができると判断して、ステップ609でモータトルクは出力しないようにする。このとき、ブレーキペダルの踏み方が弱くて電気自動車がずり下がっても、運転者が気づいてブレーキペダルをさらに強く踏んでしまえば、電気自動車がそれ以上ずり下がることはない。ずり下がったことを警告音等で運転者に知らせる処理を設けても良い。 ステップ608の処理で、ブレーキペダルがオフのときには、ステップ610に進み、位置制御を行い、モータの回転トルクにより電気自動車を停止保持する。ここで、モータの回転トルクを出力する時間は、ブレーキペダルをオフした時点から所定の時間とする。この所定時間は、運転者がブレーキペダルを踏んで停止している状態から自動車を発進させようとしてアクセルペダルを踏むときに、ブレーキペダルをオフしてからアクセルペダルをオンするのに必要な時間程度であり、例えば5秒以下とする。
【0034】ステップ610において、所定時間が過ぎると、トルクを徐々に減少させていく。トルクを減少させるときには、ステップ611で、警告音を出してモータの回転トルクを減少させることを運転者に知らせるようにする。警告音の代わりに、音声による注意、運転席前のインジケータの点滅等によって運転者に知らせても良い。音声は、例えば「ブレーキペダルを踏んで下さい」などとする。次に、ステップ612でアクセル信号によるトルク指令を計算し、ステップ613に進み、位置制御中と判断されたときには、ステップ614で位置制御の演算をし、ステップ615で速度制御の演算を行うことによってトルク指令を計算する。
【0035】図7は、図6の制御フローチャートで制御したときの電気自動車の動作を示したものである。電気自動車が登坂路を前進している(モータ速度が正)状態において、ブレーキペダルを踏むことによって、電気自動車が停止し、該停止することによって位置制御を開始する。この状態では、アクセルペダルは踏んでいないとする。ここでは、運転者がブレーキペダルを踏んでいるので、モータトルクは出力されない。
【0036】ブレーキペダルをオフにすると、位置制御によりモータトルクを出力して、電気自動車を停止保持する。ブレーキペダルをオフしてから所定時間経過すると、位置制御によるモータトルクを徐々に減少させていく。このときには、運転者に対してブレーキペダルを踏むように警告音を出す。図7では、運転者がブレーキペダルを踏んでいないため、モータトルクを減少させることによって電気自動車が後退してしまう。電気自動車がずり下がっても、位置制御はモータの回転トルクを出力しない。運転者がブレーキペダルを踏むことで、電気自動車を停止させている。
【0037】図8は、図7と同様な電気自動車の動作例を示したもので、電気自動車が走行中に運転者がブレーキペダルを踏むことにより、電気自動車が停止、その時点で位置制御を開始する。運転者がブレーキペダルをオフすることで、位置制御によって計算されるモータトルクが出力される。所定時間後モータトルクが減少する前に運転者がアクセルペダルを踏み込んでいくと、アクセル信号のトルク指令が、位置制御のトルク指令を越えた時点で位置制御を終了し、アクセル信号のトルク指令による走行に切り替わる。この方式は、モータの回転トルクを出力する時間をブレーキペダルが踏まれてから所定時間に限ることにより、エネルギーの消費する時間を短くすることができる。
【0038】図9は、位置制御演算・速度制御演算のフローチャートを示したものである。まず、ステップ901で位置指令とモータ位置の差(位置偏差)を求め、ステップ902で、この位置偏差に比例ゲインPをかけて速度指令を求めるが、ここでは、位置制御演算は比例制御にしている。次に、ステップ903に進み、速度指令とモータ速度の差(速度偏差)を求め、ステップ904で、この速度偏差に比例ゲインSをかけてトルク指令1を求める。
【0039】次に、ステップ905で、速度偏差積分値に速度偏差を加え、ステップ906に進む、ステップ906及びステップ907では、速度偏差積分値がその最大値を示す変数limiterを越えたかどうか比較し、越えたときには、ステップ908及びステップ909で、速度偏差積分値に変数limiterの値を代入する。ステップ910で、速度偏差積分値に積分ゲインSをかけてトルク指令2を計算し、ステップ911で、トルク指令1とトルク指令2を加えてトルク指令を計算する。速度制御は、比例・積分制御を行っていて、トルク指令1は、比例制御による項、トルク指令2は、積分制御による項である。ここでは、位置制御演算に比例制御、速度制御演算に比例・制御演算を使用したが、位置制御演算に比例・積分制御演算、速度制御演算に比例制御演算を使用する方法もある。
【0040】図10は、図3の制御フローチャートのステップ309のトルク減少処理の詳細な制御フローチャートである。この処理は、ブレーキを踏まれたときに実行される処理であり、モータトルク指令を徐々に減少させるものである。トルクを減少させる手段は、図9に示した速度制御演算部の比例・積分制御のトルク指令をそれぞれ小さくしていくことである。
【0041】まず、ステップ1001で、ずり下がり量が許容範囲(所定値)以下であるか判断し、許容範囲以下のときは、ステップ1002で比例ゲインSを0にして、ステップ1003,ステップ1004、及び、ステップ1005で、変数limiterの値が0になるまで変数deltalmt1の値を引き算していく。変数deltalmt1の値は、変数limiterの値が数100ms程度で0になるように設計する。運転者がブレーキペダルを踏んでいるので、速くトルクを減少させても電気自動車が急にずり下がることはない。
【0042】ステップ1005で、ずり下がり量が許容範囲を越えたと判断されたときには、ステップ1006に進み、比例ゲインSを元の設計値に戻し、ステップ1007で、変数limiterも最大値を示す値MAXLMTに戻す。比例ゲインSの設計値は、速度制御系の応答からあらかじめ決める。MAXLMTの値は、出力できる最大トルクからあらかじめ決める。この方式により、自動車が登坂路に停止後、運転者がブレーキペダルを踏んでいる状態において、ずり下がり量が許容範囲以下のときには、モータのトルクを徐々に減少していくことができ、ずり下がり量が許容範囲を越えたときには、少ないモータトルクにより、電気自動車の停止保持が可能となる。
【0043】図11は、図6の制御フローリャートのステップ610の所定時間トルク出力処理の詳細なフローチャートを示している。これは、運転者がブレーキペダルをオフしてからの所定時間の間は、モータトルクによる停止保持を行い、所定時間を過ぎた場合に、モータトルクを徐々に減少させていくものである。トルクを減少させる手段は、図9に示した速度制御演算部の比例・積分制御のトルク指令をそれぞれ小さくしていくことである。
【0044】まず、ステップ1101で、ブレーキペダルをオフしてからの時間が設定時間以下であるか否かを判断する。設定時間以下のとき、ステップ1102に進み、比例ゲインSを設計値にし、ステップ1103で変数limiterを最大値を示す値MAXLMTとする。ステップ1101で所定時間を越えたと判断されたときは、ステップ1104で、比例ゲインSを0にして、ステップ1105、ステップ1106、及び、ステップ1107で、変数limiterの値が0になるまで、変数deltalmt2の値を引き算していく。変数deltalmt2の値は、変数limiterの値が数秒から数十秒程度で0になるように設計する。
【0045】運転者がブレーキペダルを踏んでいない状態で、短時間の間にモータトルクを減少させると電気自動車が急に後退するので危険であるが、前記手段により、自動車が登坂路に停止後、運転者がブレーキペダルを踏んでいる状態からブレーキペダルをオフしたとき、所定時間はモータトルクにより、電気自動車の停止保持を行い、所定時間を越えたときには、モータのトルクを徐々に減少していくことができる。
【0046】図12は、本発明の他の実施形態の電気自動車の全体構成を示したものであり、該電気自動車は、永久磁石同期モータ1201、インバータ1202、バッテリー1203、駆動輪1204、差動機構1205、アクセル1206、ブレーキペダル1207、制御装置1208、位置検出器1209、ブレーキ装置駆動部1215、ブレーキ装置1216、1217、1218、1219からなっている。
【0047】モータ1201は、3相のインバータ1202により制御され、モータ1201から出力されるトルクは、差動機構1205を介して駆動輪1204に伝達され、該駆動輪1204が回転することで、電気自動車の車体を走行させる。インバータ1202は、バッテリー1203のエネルギーを制御装置1208からのPWM信号により3相交流電圧に変換してモータ1201を駆動する。また、図示してないが、駆動輪1204を含む4つの車輪には、油圧によるブレーキ装置があり、ブレーキペダル1207を踏むことによって車輪にブレーキ力を発生させることができる。
【0048】制御装置1208は、トルク指令計算部1210、ベクトル制御部1211(電流指令計算部)、電流制御部1212、速度検出部1213、位置検出部1214から成っている。トルク指令計算部1210は、モータのトルク指令を計算する。ベクトル制御部1211、電流制御部1212、位置検出部1214、速度検出部1213は、図1に示したベクトル制御部11、電流制御部12、位置検出部14、速度検出部13とそれぞれ同じ動作をする。
【0049】また、ブレーキ装置1216、1217、1218、1219は、ブレーキディスクにブレーキパッドを押しつけて摩擦によりブレーキディスクの回転を止める。ブレーキ装置駆動部1215は、制御装置1208からの信号に基づいてブレーキ装置の油圧を操作して、駆動輪1204にブレーキをかけることができる。図12において、ブレーキ装置は、駆動輪1204を停止させることができるものだが、4輪を停止させる装置であっても良い。また、ブレーキペダル1207を踏むことによって操作される通常のブレーキ装置を使用しても良い。
【0050】図13は、図12の制御装置1208のトルク指令計算部1210の詳細な制御ブロック図を示しめしたものである。トルク指令計算部1210は、アクセル開度を示すアクセル信号、ブレーキペダルのオン・オフを示すブレーキ信号、モータ位置信号、及び、モータ速度信号を入力信号とし、該トルク指令計算部1210は、アクセル信号によるトルク指令計算部1300、位置指令計算部1301、位置制御部1302、速度制御部1303、位置制御選択部1304、トルク減少部1305、トルク指令切り替え部1306、ブレーキ駆動信号発生部1307から成っている。
【0051】トルク指令計算部1210は、運転者がアクセルペダルを踏んで通常に走行するときには、アクセル信号からトルク指令を計算する。アクセル信号によるトルク指令計算部1300では、アクセル信号に対して比例するトルク指令を計算している。電気自動車が坂道で停車して位置制御を行うときには、次のようにしてトルク指令を計算する。まず、位置制御選択部1304において、電気自動車が停止したことを判断して、更にそのときアクセルペダルが踏まれていれば、位置制御に入る。位置制御に入るときには、位置指令計算部1301は、その時点のモータ位置を位置指令として出力する。
【0052】次に、位置制御部1302において、この位置指令と現在のモータ位置とを突き合わせて、位置制御を演算し、速度指令を出力する。さらに、速度制御部1303において、速度指令と現在のモータ速度の突き合わせを行って速度制御を演算し、トルク指令を出力する。トルク指令切り替え部1306は、位置制御が選択されているときには、速度制御演算1303によるトルク指令を出力する。トルク減少部1305はブレーキ信号(ブレーキスイッチのオンオフ信号)により、ブレーキペダルが踏まれているかどうかを判断して、速度制御部が演算するトルク指令を減少させる。
【0053】ブレーキペダルが踏まれているときには、モータトルク指令を0にして、モータがトルクを出力しないようにする。ブレーキペダルがオフされてから所定時間の間だけ、速度制御演算1303によるトルク指令値を出力する。ブレーキペダルがオフされてから所定時間を過ぎた場合は、トルク減少部1305からブレーキ駆動信号発生部1307に駆動指令信号を発生する。これにより、ブレーキ駆動信号発生部1307からブレーキ装置駆動信号が出力される。この信号によりブレーキ装置1215は、機械的に駆動輪1204をロックして停止するようにする。また、運転者がアクセルペダルを踏んで、位置制御を終了するときには、位置制御選択部1304からの信号がブレーキ駆動信号発生部1307に出力され、ブレーキ装置駆動信号の出力を停止して、ブレーキ装置1215による駆動輪1204のロックを解除する。
【0054】図14は、図13に示す制御ブロック図を使用したときの電気自動車の動作を示したものである。電気自動車が登坂路を前進している(モータ速度が正)場合に、ブレーキペダルを踏むことによって電気自動車が停止し、位置制御を開始する。ここでは、運転者がブレーキペダルを踏んでいるので、モータトルクは出力されない。ブレーキペダルをオフすると、位置制御によりモータトルクを出力して、電気自動車を停止保持する。ブレーキペダルをオフしてから所定時間経過すると、ブレーキ装置駆動信号により駆動輪にブレーキペダルをかけるとともに、位置制御によるモータトルクを0にする。運転者がアクセルペダルを踏んでアクセル信号のトルク指令が、位置制御を行っていたときのトルク指令を越えたときに、位置制御を終了してアクセル信号のトルク指令による走行に移行する。
【0055】ここで、ブレーキ装置を駆動するときの油圧は、位置制御を行うのに必要であったトルク指令値を記憶しておき、その値を基にして決める手段が考えられる。ここで示した手段は、ブレーキペダルを踏んでいる状態からアクセルペダルを踏み込む状態に変化するまでの間は、位置制御を行ってモータトルクにより電気自動車を停止保持するが、それ以後は、機械ブレーキを使用して電気自動車を停止保持する。本実施形態は、新たにブレーキ駆動装置を設ける必要があるが、運転者がブレーキペダルを踏み込む必要もない。ブレーキ駆動装置によりブレーキ力を発生しているときは、モータトルクを発生しないのでエネルギーの消費も少なくなる。以上、本発明の二つの実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱することなく、設計において種々の変更ができるものである。
【0056】
【発明の効果】以上の説明から理解できるように、本発明の電気自動車は、該電気自動車が坂道で停止した後、電動モータの回転トルクで車体を保持するときに、運転者がブレーキペダルを踏んだ場合には、回転トルクを減少させ、必要なエネルギーの消費を少なく抑えることができる。また、運転者がブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えるのに必要な時間の間、回転トルクで車体を保持することができるので、坂道発進時のずり下がりを防止できる。更に、モータの回転トルクを出力する時間をブレーキペダルが踏まれてから所定時間に限ることにより、エネルギーの消費する時間を短くすることができる。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【出願日】 平成9年(1997)10月6日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
【公開番号】 特開平11−113108
【公開日】 平成11年(1999)4月23日
【出願番号】 特願平9−272965