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【発明の名称】 車両の制動装置および制動方法
【発明者】 【氏名】浦馬場 真吾

【氏名】酒井 俊行

【氏名】榎本 直泰

【要約】 【課題】機械的制動系と電気的制動系の二つの制動系を備えた車両において、機械的制動系に失陥が生じた場合の制動力を確保する。

【解決手段】機械的制動系10が所期の制動力を達成し得るかを判定する判定部16を設ける。機械的制動系10がブレーキ操作子の操作量を油圧によって伝達する摩擦ブレーキである場合、前記判定部16は前記油圧が所定の値に達しているかを検出する油圧センサを含む。判定部16により、機械的制動系10による制動力が所期の値に達しないと判断された場合、指令部18は電気的制動系12に制動力の増加を指令する。これによって、機械的制動系10で失った制動力の少なくとも一部を電気的制動系12により回復する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 機械的制動系と電気的制動系を備えた車両の制動方法であって、機械的制動系の作動が所期の作動量に達しないときに、電気的制動系の作動量を所期のものより増加させる、車両の制動方法。
【請求項2】 機械的制動系と電気的制動系を備えた車両の制動装置であって、前記機械的制動系の作動が所期の作動量を達成しないことを判定する判定手段と、前記判定部で作動量の不達成が判定された場合に、電気的制動系の作動量を増加する指令を行う指令手段と、を有する車両の制動装置。
【請求項3】 請求項2に記載の車両の制動装置であって、機械的制御系は、ブレーキ操作子の操作量を流体を介して伝達し、前記操作量に応じて摩擦力を発生させる摩擦制動系を含み、前記判定手段は、前記流体の圧力が所期の値に達しないことを判定するものである、車両の制動装置。
【請求項4】 請求項3に記載の車両の制動装置であって、前記摩擦制動系は、前記ブレーキ操作子の操作の助勢を行う助勢系を含み、当該助勢系は、前記流体を加圧するポンプと、この加圧された流体を蓄えるアキュームレータとを含み、前記判定手段は、前記アキュームレータの圧力が低下したことを判定するものである、車両の制動装置。
【請求項5】 請求項2から4のいずれかに記載の車両の制動装置において、電気的制動系が作動している場合には、電気的制動系の発生する制動力に相当する値だけ機械的制動系の制動力を抑制する、抑制手段を有し、前記判定部により所期の作動量の不達成が判定された場合には、前記抑制手段に対し、機械的制動系の制動力の抑制を禁止する、抑制禁止手段と、を有する、車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、回生制動などの電気的制動系と摩擦制動などの機械的制動系の双方を備えた車両の制動装置および制動方法に関し、特に二つの制動系の制動力の配分の最適化に関する。
【0002】
【従来の技術】制動装置には、運動エネルギを熱エネルギや他の部材の運動エネルギに変換する機械的制動を行うものや、運動エネルギによって発電し、電気エネルギに変換する電気的制動を行うものなどが知られている。機械的制動として、相対移動する部材間の摩擦により、運動エネルギを熱エネルギに変換する摩擦制動が良く知られている。電気的制動には、発電した電気を抵抗により消費するものや、一旦電池に蓄え、後にこの電池から電気エネルギの供給を受けるいわゆる回生制動などがある。
【0003】電気自動車などの電動機を備えた車両の多くは、エネルギを有効に利用するために、摩擦による制動装置の他に回生制動を行う制動装置を備えている。そして、摩擦制動による制動力と、回生制動による制動力の配分を適宜設定して、最適な制動力および回生電力が発生するように制御される。
【0004】特開平4−221258号には、電気的制動系と機械的制動系を備えた車両の制動装置が開示されている。電気的制動系としては回生制動装置を備え、機械的制動系としては、ブレーキ操作部材の操作量を液圧を介して伝達し、車輪とともに回転する回転部材に摩擦部材を押しつける摩擦制動装置を備えている。また、運転者の所望する制動力を検出するために、ブレーキ操作部材の操作量を検出するブレーキ操作量センサが設けられている。このセンサの出力に基づき、回生制動力と摩擦制動力の配分が決定される。そして、ブレーキ操作量センサの異常が検出された場合、その時発生している液体の圧力に応じた摩擦制動力のみによって、制動力の制御を行っている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記公報に記載された装置によれば、異常時に、その時発生している操作力伝達用の液体の圧力に応じた摩擦制動力のみによって車両の制動が実行される。よって、前記液体の圧力に応じた制動力以上の制動力を得ることができなかった。
【0006】本発明は、前述の問題点を解決するためになされたものであり、機械的制動系の作動が所期の作動量に達しないと判断された場合でも、不達成である作動量に応じた制動力以上の制動力を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】前述の課題を解決するために、本発明にかかる車両の制動方法は、機械的制動系と電気的制動系を備えた車両の制動方法であって、機械的制動系の作動が所期の作動量に達しないときに、電気的制動系の作動量を所期のものより増加させるものである。
【0008】また、本発明にかかる制動装置は、機械的制動系と電気的制動系を備えた車両の制動装置であって、機械的制動系の作動が所期の作動量を達成しないことを判定する判定手段と、前記判定部で作動量の不達成が判定された場合に、電気的制動系の作動量を増加する指令を行う指令手段と、を有している。これによれば、機械的制動系の作動量の不足分の少なくとも一部は、電気的制動系により補われ、制動力を増加させることができる。
【0009】さらに、前記機械的制御系は、ブレーキ操作子の操作量を流体を介して伝達し、前記操作量に応じて摩擦力を発生させる摩擦制動系を含み、前記判定手段は、前記流体の圧力が所期の値に達しないことを判定するものとすることができる。
【0010】さらに、前記摩擦制動系は、前記ブレーキ操作子の操作の助勢を行う助勢系を含み、当該助勢系は、前記流体を加圧するポンプと、この加圧された流体を蓄えるアキュームレータとを含み、前記判定手段は、前記アキュームレータの圧力が低下したことを判定するものとすることができる。
【0011】さらに、前記電気的制動系が作動している場合には、当該電気的制動系の発生する制動力に相当する値だけ機械的制動系の制動力を抑制する抑制手段と、前記判定部により所期の作動量の不達成が判定された場合には、前記抑制手段に対し、機械的制動系の制動力の抑制を禁止する抑制禁止手段とを有するものとすることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。本実施形態は、車載の電池からの電力の供給を受ける電動機によって車両を駆動する、いわゆる電気自動車に本発明が適用されたものである。
【0013】図1には、本発明にかかる車両の制動装置の制御にかかる構成を示すブロック図が示されている。本実施形態の制動装置は、機械的制御系10と電気的制御系12を有している。機械的制動系10は、ブレーキペダルなどのブレーキ操作子の操作によって、ホイールとともに回転するブレーキディスクまたはブレーキドラムにブレーキパッドまたはブレーキシューを当接させ、摩擦によって制動力を発生させる摩擦ブレーキである。ブレーキ操作子の操作量の伝達は、ブレーキフルードなどの流体を介して行われる。また、電気的制動系12は、車両駆動用の電動機を制動時に発電機として利用し、発電した電力を電池に蓄える回生ブレーキである。
【0014】制御部14は、運転者が操作するブレーキ操作子の操作量や車両速度や電池のそのときの充電量などに応じて、適切な配分で電気的制動系12と機械的制動系10の各々の制動力を制御する。たとえば、電池がすでに満充電状態で、これ以上充電できない状態であれば、電気的制動系12を用いず、機械的制動系10のみによって制動力を発生する。また、電池の充電量にまだ余裕があれば、電気的制動系12により制動力を発生し、その分機械的制動系10の制動力を抑制する、いわゆる協調制動を実行する。協調制動時、電気的制動系12により十分な制動力が得られれば、機械的制動系10は制動力を発生しないように制御され、不足すれば不足分を補うように制御される。より具体的には、図2に示すようにブレーキ操作子の操作量が小さいときには、車両の全制動力のほとんどを回生制動力でまかない、操作量がある程度以上となると、回生制動力に摩擦制動力を上乗せして全制動力を得るようにしている。通常時には、回生制動力の上限値は、車両の加速度が例えば約−1.96m/s2(−O.2G)となる値に設定され、それ以上の制動力を得ようとする場合に、摩擦制動力が付加される。なお、本実施形態の場合、回生制動力は前輪のみに作用するため、後輪の制動力を確保するために後輪制動力は、ブレーキ操作量が小さいときにおいてもわずかに制動力を発生させている。
【0015】制御部14には、機械的制御系10の作動が所期の作動量を達成しているか否かを判定する判定部16が設けられている。判定部16は、ブレーキ操作子の操作量に対して機械的制動系10のある物理量、たとえば流体圧回路上の所定位置におけるブレーキフルード圧が、所期の値となっているかを監視する。たとえば、ブレーキフルード圧がブレーキ操作子の操作量に対して本来発生されるべき圧力となっていないときに、所期の作動量の不達成を判定する。判定部16が、機械的制動系10の所期の作動量の不達成を判定すると、これを受けて指令部18は、電気的制動系12に制動力の増加を指令する。したがって、正常時であれば回生制動によって前記−1.96m/s2を発生させるような状況であっても、これ以上の制動力を発生するように制御を行う。また、通常は回生制動を行わない電池の満充電状態においても、機械的制動系10の失陥が判定された場合は、電気的制動系12により制動力を発生させるようにすることもできる。
【0016】図3には、本実施形態の機械的制動系10の流体圧回路の概略が示されている。前述のように本実施形態においては流体としてブレーキフルードを使用しており、以降、流体を単に油と記して説明する。運転者がブレーキ操作を行うブレーキ操作子であるブレーキペダル20は、マスタシリンダ(M/C)22に接続されている。マスタシリンダ22では、ブレーキペダル10のストローク量に応じた油圧が発生する。マスタシリンダ22の油圧は、協調時フロント減圧系24、増圧ピストン26およびアンチロックブレーキフロント制御系28のバルブを介して、左右の前輪のホイールシリンダ(W/C)30,32に伝達される(以降、アンチロックブレーキをABSと記す)。ホイールシリンダ30,32のストロークによりブレーキパッドがブレーキディスクに当接し、摩擦制動力が発生する。
【0017】マスタシリンダ22には、レギュレータ34が併設されている。レギュレータ34には、油圧ポンプ36により増圧された油が蓄えられたアキュームレータ38から高圧油が供給され、レギュレータ34によって、マスタシリンダ22と同程度の油圧に減圧される。また、本実施形態においては、アキュームレータ38の油圧によって、マスタシリンダ22の油圧の助勢を行っている。レギュレータ34の油圧は、協調時リア減圧系40、ABSリア制御系42およびプロポーショニングアンドバイパスバルブ(以降、P&Bバルブと記す)44を介して左右の後輪のホイールシリンダ(W/C)46,48に伝達される。P&Bバルブ44には、マスタシリンダ22から油圧が供給され、このP&Bバルブ44によって前輪と後輪の制動力の比を制御している。
【0018】マスタシリンダ22側とレギュレータ34側の油圧系の圧力を連通させるのが連通系50である。この連通系50により、ABS作動時のレギュレータ34側の圧力がマスタシリンダ22側に伝えられる。また、マスタシリンダ22、レギュレータ34および油圧ポンプ36には、リザーバ52から油が供給される。
【0019】協調時フロント減圧系24は、マスタシリンダ22内の圧力を検出するマスタシリンダ圧センサ54、ABS非作動時の前輪ホイールシリンダ30,32の圧力を検出するホイルシリンダ圧センサ56およびブレーキペダルのストロークを検出するストロークセンサ58を含んでいる。これらのセンサ54,46,58の出力に基づき、運転者の所望する制動力が達成されるように制動装置の制御がなされる。ソレノイドバルブ60は、非協調制動時には開状態に制御され、マスタシリンダ22の圧力をそのままホイルシリンダ30,32に伝える。よって、非協調制動時には、マスタシリンダ22とホイールシリンダ30,32の圧力は図4の破線で示すように略線形な関係となる。ソレノイドバルブ60は、協調制動時には閉状態に制御され、減圧バルブ62、低圧リリーフバルブ64、高圧リリーフバルブ66さらにソレノイドバルブ68によってマスタシリンダ22の圧力が減圧されて前輪のホイールシリンダ30,32に伝わる。よって、協調制動時には、マスタシリンダ22とホイールシリンダ30,32の圧力は図4の実線で示すような折れ線状の関係となる。回生制動力で運転者の所望する制動力が得られるときには、減圧バルブ62によって、マスタシリンダ22の油圧は減圧され、ブレーキの遊びがなくなる程度の油圧が前輪のホイルシリンダ30,32に伝達される。所望する制動力が、回生制動で発生することができる制動力以上になると、低圧リリーフバルブ64または高圧リリーフバルブ66が開き、不足分の制動力を発生するための油圧が前輪のホイルシリンダ30,32に伝達される。二つのリリーフバルブ64,66は、その開放圧が異なり、低圧リリーフバルブ64がより低圧で開状態になる。2種類のリリーフバルブ64,66の選択はソレノイドバルブ68によってなされる。なお、2種類のリリーフバルブ64,66を設けたのは、回生制動力の上限値が車速によって変動するのに対応するためである。すなわち、回生制動力の上限値があるしきい値より低いときには、低圧リリーフバルブ64によって低い制動力から摩擦制動力を立ち上げる。一方、回生制動力の上限値があるしきい値より高いときには、ソレノイドバルブ68を閉じ、高圧リリーフバルブ66によってより高い制動力から摩擦制動が作動するようにする。
【0020】協調時リア減圧系40は、ソレノイドバルブ70、減圧バルブ72およびリリーフバルブ74を含んでいる。非協調制動時には、ソレノイドバルブ70が開状態に制御され、レギュレータ34の油圧がそのまま下流に供給される。協調制動時には、ソレノイドバルブ70が閉じ、減圧バルブ72とリリーフバルブ74によってレギュレータ34の油圧が減圧されて下流に供給される。よって後輪においても、図4に示す特性とほぼ同様の特性を有する。回生制動力で運転者の所望する制動力が得られるときには、減圧バルブ72によって、レギュレータ34からの油圧は減圧され、ブレーキの遊びがなくなる程度の油圧が後輪のホイルシリンダ46,48に伝達される。所望する制動力が、回生制動で発生することができる制動力以上になると、リリーフバルブ74が開き、不足分の制動力を発生するための油圧が後輪のホイルシリンダ46,48に伝達される。
【0021】以上のように、協調制動時には、図2に示すように、回生制動力と、前輪および後輪の摩擦制動力で全制動力を得ている。なお、回生制動力の上限は、車両の加速度が例えば約−1.96m/s2(−O.2G)となるように設定されている。
【0022】以上は、ABS非作動時である。ABS作動時には、ソレノイドバルブ76がレギュレータ34と前輪のホイールシリンダ30,32を連通するように作動する。ソレノイドバルブ70および60は開放状態となる。ABSが作動すると、車輪がロック寸前の状態に制御されるように、増圧用バルブ78と減圧用バルブ80が開閉を繰り返し、ホイールシリンダ30,32,46,48の油圧を制御する。すなわち、車輪の回転がほぼ停止すると、減圧用バルブ80が開状態となり、ホイールシリンダの油圧をリザーバ52に戻して、減圧を行う。車輪の回転が始まると、増圧用バルブ78が開状態となり、レギュレータ34からの油圧が供給され、ホイールシリンダの油圧が再び上昇し、制動力が増加される。この繰り返しによって、アンチロック動作が達成される。増圧ピストン26は、回生ブレーキ力が低下したときに、レギュレータ圧を利用して前輪の減圧されたホイールシリンダ圧を増圧するもので、2系統分離用のものである。レギュレータ圧を使うことでペダルの奥入りを回避できる。
【0023】さらに、本実施形態においては、アキュームレータ38に所定の油圧が蓄圧されているかを検出するアキュームレータ圧センサ86が設けられている。アキュームレータ圧センサ86により、アキュームレータ38の圧力が低下していることが検出されると、摩擦制動系の異常が判定される。この判定に基づき、ソレノイドバルブ60およびソレノイドバルブ70を開状態に制御し、マスタシリンダ22およびレギュレータ34の油圧を減圧せずに、ホイールシリンダ30,32,46,48に伝達する。これによって、その状況で発生し得る最大の摩擦制動力を発生させることができる。また、さらに回生制動力を付加することによってアキュームレータ圧が低下することによる摩擦制動力の減少を補う。
【0024】本実施形態においては、アキュームレータ38の油圧が低下していると、後輪のホイールシリンダ46,48の油圧が上昇しなくなり、所期の制動力を得ることができなくなる。また、アキュームレータ38の油圧は、マスタシリンダ22の油圧の助勢力としても作用しているので、この油圧の低下により助勢力が失われる。よって、マスタシリンダ22の油圧が上昇しなくなり、所期の制動力を得ることができなくなる。前述の制御により、アキュームレータ圧低下による制動力の低下を防止する、または低下が生じたとしても小さいものとすることができる。
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
【出願日】 平成9年(1997)9月18日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二 (外2名)
【公開番号】 特開平11−98608
【公開日】 平成11年(1999)4月9日
【出願番号】 特願平9−253784