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【発明の名称】 インバータ制御電気車の空転・滑走制御装置
【発明者】 【氏名】鈴木 聡

【氏名】項 東輝

【氏名】油谷 浩助

【氏名】経種 勝

【氏名】黒谷 憲一

【要約】 【課題】車輪とレールとの間の粘着状態に応じたトルク絞りパターンを自動的に作成して適切な空転・滑走制御を行う。空転・滑走制御状態から力行・制動制御への切替時にも何ら支障がないようにした空転・滑走制御装置を提供する。

【解決手段】インバータにより車輪駆動用電動機を制御して電気車を運転するインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置に関する。空転・滑走時の車輪速度と車両速度との偏差であるすべり速度を演算するすべり速度演算手段としての加算器801と、すべり速度指令値と前記すべり速度との偏差を演算するすべり速度偏差演算手段としての加算器802と、前記加算器802により演算された偏差に基づいて、インバータにより制御される電動機に対するトルク絞り指令値を生成する空転・滑走制御手段としての補償器100とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 インバータにより車輪駆動用電動機を制御して電気車を運転するインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、空転・滑走時の車輪速度と車両速度との偏差であるすべり速度を演算するすべり速度演算手段と、すべり速度指令値と前記すべり速度との偏差を演算するすべり速度偏差演算手段と、前記すべり速度偏差演算手段により演算された偏差に基づいて、インバータにより制御される電動機に対するトルク絞り指令値を生成する空転・滑走制御手段と、を備えたことを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項2】 請求項1記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、トルク絞り指令値を、すべり速度指令値とすべり速度とから求めたすべり速度偏差に応じて決定し、このトルク絞り指令値と、ノッチ−引張力特性に基づく上位のトルク指令値とに基づいて電動機に対するトルク指令値を得ることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項3】 請求項2記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、トルク絞り指令値を、すべり速度指令値とすべり速度とから求めたすべり速度偏差に基づいてPI(比例・積分)制御により得ることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項4】 請求項1,2または3記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、すべり速度と閾値とを比較して空転・滑走制御の必要性を判断し、その結果に応じて力行・制動等の通常制御に空転・滑走制御手段による空転・滑走制御を付加することを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項5】 請求項1,2,3または4記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、すべり速度を求めるための車両速度として、付随車の車輪軸に取り付けたパルスジェネレータの出力信号を用いることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項6】 請求項1,2,3,4または5記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、車輪半径、電動機電流、車輪軸慣性モーメント及び車輪角加速度に基づいて車輪・レール間の接線力を推定し、この接線力推定値とすべり速度とに応じてすべり速度指令値を決定することを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項7】 請求項6記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、接線力推定値の増減情報とすべり速度の増減情報とを用いてすべり速度指令値の補正値を求め、この補正値によりすべり速度指令値を補正することを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項8】 請求項6または7記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、接線力推定のために用いる車輪角加速度を、車輪角速度の前回値と今回値との差分と、制御周期とを用いてローパスフィルタにより計算した値を用いることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項9】 請求項7または8記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、すべり速度の増減情報を得る際に、現在のすべり速度に対する急激な変化を抑える関数を用いることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項10】 請求項7,8または9記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、1台のインバータにより複数台の電動機を制御する際に、すべり速度の増減情報として、複数台の電動機により各々駆動される各車輪につき求めたすべり速度の増減情報の平均値を用いることを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【請求項11】 請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9または10記載のインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、すべり速度指令値に上下限を設定することを特徴とするインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インバータにより車両駆動用電動機を制御する電気車において、車輪の空転・滑走時に車輪とレールとの間の粘着状態に応じた適切なトルク絞りパターンを決定して電動機を制御するようにしたインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、この種の空転・滑走制御方法としては、ファジー制御を用いたものやパターン制御を用いたものなど種々の方法が知られている。これらの制御方法は、本質的に、電気車の空転・滑走を検出したら、空転・滑走車輪軸速度と基準軸速度との偏差を用い、PD(比例・微分)制御によって電動機のトルクを直接操作するものである。空転・滑走時に電動機のトルクを絞ることは勿論必要であるが、電動機トルクによる制御は一種の開ループ制御であり、トルク絞りパターンは制御性能に大きく影響する。
【0003】一方、車輪とレールとの間の粘着状態は常に変動しているので、事前に各時刻の粘着状態に適合したトルク絞りパターンを決定することは極めて困難である。従って、すべての状況をカバーするにはトルクを必要以上に絞らなくてはならない場合もあり、また、空転・滑走制御状態(力行・制動制御+空転・滑走制御)から力行・制動制御に戻す場合も、トルクを絞りすぎてしまうか、またはトルク回復のタイミングが悪く、空転・滑走の繰り返しを招くといった問題がある。
【0004】そこで本発明は、車輪とレールとの間の粘着状態に応じたトルク絞りパターンを自動的に作成して適切な空転・滑走制御を行うとともに、空転・滑走制御状態から力行・制動制御へと戻す時にも何ら支障がないようにしたインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】以下では、空転時を対象とした本発明の構成、作用について説明する。なお、滑走時にはすべり速度の向きが空転時と逆になるだけであり、本質的には同様に考えることができる。
【0006】まず、車輪軸に関する運動方程式は数式1によって表される。
【0007】
【数1】Jmi(dωi/dt)=τi−Fiwi (i=1,2,3,4)
【0008】但し、数式1における各値は次の通りである。
i:車輪軸番号
mi:車輪軸慣性モーメントωi:車輪軸角速度τi:車輪軸駆動トルクFi:車輪・レール間接線力(粘着力)
wi:車輪半径【0009】また、電動車一車両に関する運動方程式は数式2によって表される。
【0010】
【数2】

【0011】但し、数式2における各値は次の通りである。
t:車両重量vt:車両速度Fr:車両走行抵抗FΔ:線路勾配・連結車両等による力【0012】図1は、車両動特性を示すブロック図である。なお、ここでは第1車輪軸(i=1)を例示している。図1において、各値は次の通りである。
αt:車両加速度ω1:第1車輪軸(第1車輪)の角速度Vm1:第1車輪軸(第1車輪)の周速度Vs1:第1車輪軸(第1車輪)のすべり速度μ1:第1車輪・レール間の接線力係数(粘着力係数)
1:第1車輪軸の軸重f1(Vs1):「すべり速度−接線力係数」特性【0013】図1に示すように、空転現象の動特性において、接線力係数μ1はすべり速度Vs1とある関係を保っている。この特性は定性的にしか知られていないが、ある時刻に、すべり速度に対応して接線力係数μあるいは接線力Fが決まる。言い換えれば、もしすべり速度をある適切な値に制御できれば、接線力を所定の値に制御することができ、それによって空転が抑えられることを意味し、かつ、接線力Fも一定になるので、閉ループ的な構造を持つ安定な空転制御系を得ることができる。
【0014】上述したことをまとめると、図2に示すようなすべり速度制御を利用した空転制御系を構成することができる。なお、100は空転制御補償器、200はインバータ及び車両駆動用電動機を含む電動機制御系、300は前述した数式1及び数式2によって表される車両動特性、400は予め決められたノッチ−引張力特性であり、ノッチと車両速度に応じて電動機のトルク指令値を出力する。また、801〜803は加算器である。図2における各値は、次の通りである。
sr:すべり速度指令値Vs:すべり速度τ0*:ノッチ−引張力特性400による力行時のトルク指令値Δτ*:空転制御補償器100によるトルク絞り指令値τ*:電動機トルク指令値【0015】従来の制御方法では決め方がかなり困難であったトルク絞り指令値Δτ*は、本発明では、空転制御補償器100によってすべり速度指令値Vsrと実際のすべり速度Vsとの偏差ΔVsに基づいて自動的に生成される。これにより、システマティックな制御が実現される。
【0016】上述した図2の基本制御系は、適切なすべり速度指令値Vsrが与えられていることを前提としている。すべり速度Vsは、接線力係数μあるいは接線力Fに関係しており、その特性は天候や線路の状況等によって常に変動するので、事前にすべり速度指令値Vsrをどのような値にすればよいかは知り得ない。しかし、すべり速度Vsと接線力係数μとの関係は、図3に示すように定性的に表現することができる。
【0017】図3において、特性1ではすべり速度Vsがその最大値Vsmをとるとき、接線力係数μがその最大値μmとなる。一般に、多くの場合はこのような特性に属すると認識されている。また、場合によっては、特性2や特性3もあり得る。しかし、これらの特性2や特性3は特性1の特殊な場合と見なせるので、制御系の基本的な検討は特性1に基づいて行えばよい。
【0018】ここで、図4に示すような接線力探索機能を持つ空転制御系を考える。この図4において、500は電動機トルクτと車輪軸の周速度Vmとに基づいて接線力推定値Fpを生成する接線力推定手段、600は接線力推定値Fpとすべり速度Vsとに基づいてすべり速度指令値Vsrを探索し出力する接線力探索手段、700は空転制御切り換え判断部である。
【0019】前述した数式1を考慮して、接線力Fpi数式3によって推定することができる。
【0020】
【数3】

【0021】但し、数式3における各値は次の通りである。
s:空転制御ループの制御周期(サンプリング周期)
ωi(k):i番目の車輪軸の現時刻の角速度ωi(k−1):i番目の車輪軸の1制御周期前の角速度【0022】接線力の探索は、図3に示した「すべり速度Vs−接線力係数μ」特性に基づいて、下記の基本ルールに従って行われる。
(1)IF (Vsが増)&(Fpが増) THEN Vsrが増(2)IF (Vsが減)&(Fpが減) THEN Vsrが増(3)IF (Vsが増)&(Fpが減) THEN Vsrが減(4)IF (Vsが減)&(Fpが増) THEN Vsrが減【0023】また、図4における空転制御切り換え判断部700は、空転が発生したら自動的に空転制御補償器100による空転制御を力行制御に付加し、その後、空転が抑えられ、かつ電動機トルクによる引張力が所要の引張力になったら、自動的に力行制御に戻るように作用する。
【0024】すなわち、前記課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明は、インバータにより車輪駆動用電動機を制御して電気車を運転するインバータ制御電気車の空転・滑走制御装置において、空転・滑走時の車輪速度と車両速度との偏差であるすべり速度を演算するすべり速度演算手段と、すべり速度指令値と前記すべり速度との偏差を演算するすべり速度偏差演算手段と、前記すべり速度偏差演算手段により演算された偏差に基づいて、インバータにより制御される電動機に対するトルク絞り指令値を生成する空転・滑走制御手段とを備えたものである。
【0025】請求項2記載の発明は、請求項1において、トルク絞り指令値を、すべり速度指令値とすべり速度とから求めたすべり速度偏差に応じて決定し、このトルク絞り指令値と、ノッチ−引張力特性に基づく上位のトルク指令値とに基づいて電動機に対するトルク指令値を得るものである。
【0026】請求項3記載の発明は、請求項2において、トルク絞り指令値を、すべり速度指令値とすべり速度とから求めたすべり速度偏差に基づいてPI(比例・積分)制御により得るものである。
【0027】請求項4記載の発明は、請求項1,2または3において、すべり速度と閾値とを比較して空転・滑走制御の必要性を判断し、その結果に応じて力行・制動等の通常制御に空転・滑走制御手段による空転・滑走制御を付加するものである。
【0028】請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れかにおいて、すべり速度を求めるための車両速度として、付随車の車輪軸に取り付けたパルスジェネレータの出力信号を用いるものである。
【0029】請求項6記載の発明は、請求項1〜5の何れかにおいて、車輪半径、電動機電流(車輪軸駆動トルク)、車輪軸慣性モーメント及び車輪角加速度に基づいて車輪・レール間の接線力を推定し、この接線力推定値とすべり速度とに応じてすべり速度指令値を決定するものである。
【0030】請求項7記載の発明は、請求項6において、接線力推定値の増減情報とすべり速度の増減情報とを用いてすべり速度指令値の補正値を求め、この補正値によりすべり速度指令値を補正するものである。
【0031】請求項8記載の発明は、請求項6または7において、接線力推定のために用いる車輪角加速度を、車輪角速度の前回値と今回値との差分と、制御周期(サンプリング周期)とを用いてローパスフィルタにより計算した値を用いるものである。
【0032】請求項9記載の発明は、請求項7または8において、すべり速度の増減情報を得る際に、現在のすべり速度に対する急激な変化を抑える関数を用いるものである。
【0033】請求項10記載の発明は、請求項7〜9の何れかにおいて、1台のインバータにより複数台の電動機を制御する際に、すべり速度の増減情報として、複数台の電動機により各々駆動される各車輪につき求めたすべり速度の増減情報の平均値を用いるものである。
【0034】請求項11記載の発明は、請求項1〜10の何れかにおいて、すべり速度指令値に上下限を設定するものである。
【0035】
【発明の実施の形態】以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図5はこの実施形態を示すブロック図であり、1は電気車制御用のインバータ、2はインバータ1により駆動され、かつ、車輪軸に対応して設けられた車輪駆動用の誘導電動機、3は各誘導電動機2に設けられたパルスジェネレータ(PG)、4は速度演算部、5はトルク指令値から電流指令値を得るための電流指令発生部、6は加算器、7はトルク指令発生器、8は接線力推定部、9は最適すべり速度探索部、10はすべり速度演算部、11は空転・滑走制御補償器である。このうち、接線力推定部8、最適すべり速度探索部9、すべり速度演算部10、空転・滑走制御補償器11によって、各誘導電動機2ごとに同一構成の空転・滑走制御部A1〜A4が構成されている。
【0036】図5における主要な各部の作用は以下のとおりである。まず、インバータ1は単一のブロックにより示してあるが、4台のインバータにより個別に4台の誘導電動機2を制御するように構成されている。速度演算部4は、パルスジェネレータ3が生成した信号から、各車輪の角速度ωiと車両速度vtとを演算する。接線力推定部8は、上記角速度ωiと、電流検出器により検出した電動機2の電流Iとから、接線力推定値Fpを演算する。最適すべり速度探索部9は、上記接線力推定値Fpと、すべり速度演算部10により角速度ωi及び車両速度vtを用いて演算した当該車輪のすべり速度Vsとから、最適なすべり速度をすべり速度指令値Vsrとして探索し出力する。空転・滑走制御補償器11は、上記すべり速度指令値Vsrとすべり速度Vsとから、トルク絞り指令値Δτ*を生成し、出力する。一方、トルク指令発生器7は、ノッチ指令に応じたトルク指令値τ0*を、車両速度vtによるノッチ−引張力特性に従って出力する。加算器6は、τ*=τ0*+Δτ*の演算を行って最終的なトルク指令値τ*を得、電流指令発生部5ではトルク指令値τ*を電流指令値Im*に変換してインバータ1に出力する。
【0037】この動作を更に詳述すると、本実施形態では、空転・滑走制御等をディジタル処理で行っている。速度演算部4では、パルスジェネレータ3の出力信号に基づいて車輪の角速度ωiを演算するとともに、この角速度ωiの最小値をとって車両速度vtとする。なお、この車両速度vtが履歴より大きく外れる場合には、補正を行うか、あるいは、車両速度として付随車の車輪軸に取り付けたパルスジェネレータの出力信号を使用できる場合はこれを利用する。
【0038】空転・滑走制御部A1〜A4内のすべり速度演算部10では、数式4に示される演算を行う。なお、数式4において、Rwiは当該車輪の半径であって予め設定された値である。
【0039】
【数4】Vsi=ωi・Rwi−vt【0040】図5における空転・滑走制御補償器11の動作を図6に示す。まず、空転制御のON/OFFを判断する(S1)。通常の力行制御時には空転制御はOFFとなっている。現在、空転制御がOFFである場合には、すべり速度Vsと閾値Vsdとを比較し(S2)、Vs≦Vsdならば引き続き空転制御のOFF状態を維持して、トルク絞り指令値Δτ*を0として出力する(S3)。また、空転制御が現在、OFFの状態でVs>Vsdならば空転制御をONとする(S4)。このように閾値Vsdを設けてすべり速度Vsとの比較結果に応じて空転制御の要否を決定することにより、レール継ぎ目等での誤信号による空転制御系の誤動作を防止することができる。同時に、微小すべりによるトルク低下の頻発を防ぐ効果もある。
【0041】空転制御が現在、ONである場合、すべり速度指令値Vsrとすべり速度Vsとを入力として、PI補償器によりトルク補正値Δτ**を得る(S5)。この補正値Δτ**の正負を判断し(S6)、補正値Δτ**が正であるときは現在の引張力は引張力指令を満足しているので、空転制御をOFFとし(S7)、トルク絞り指令値Δτ*を0として出力する(S3)。最後に、補正値Δτ**が負であるとき、その絶対値とトルク絞り量の最大値Δτmaxとを比較し(S8)、補正値Δτ**の絶対値が最大値Δτmaxよりも小さい場合には、トルク絞り指令値として補正値Δτ**をそのまま出力する(S9)。また、補正値Δτ**の絶対値が最大値Δτmaxよりも大きい場合には、トルク絞り指令値Δτ*として−Δτmaxを出力する(S10)。これにより、トルクの急激な変動を抑制して乗り心地の悪化を防ぐ効果がある。
【0042】次に、接線力推定部8では、数式5により当該時刻における当該車輪での接線力Fを推定する。なお、Fpi(k)は当該車輪での接線力推定値である。
【0043】
【数5】Fpi(k)=(1/Rwi){τi(k)−Jmiαi(k)}
【0044】数式5において、電動機トルクτi(k)はτi(k)∝I(k)であるので、電動機電流I(k)から得ることができる。また、車輪角加速度αi(k)としては、車輪角速度ωi(k),ωi(k−1)、サンプリング周期Tsより、数式6の演算を行い、これをディジタルローパスフィルタにかけたものを用いる。このようにローパスフィルタを用いることにより、ノイズや誤信号による誤動作を防ぐことができる。
【0045】
【数6】
αi(k)={ωi(k)−ωi(k−1)}/Ts【0046】次に、図7は最適すべり速度探索部9の動作を示すフローチャートである。ここでは、周期Tpですべり速度指令値Vsrを更新する。まず、接線力推定値Fpの前回値と今回値とから、接線力推定値の増減情報としてのΔFpを求め、すべり速度Vsの前回値と今回値とからΔVs’を求める(S11,S12)。更に、図8に示す関数発生器により、ΔVs’から、すべり速度の増減情報としてのΔVsを求める(S13)。その際、図8に示す関数の上下限値を調節することにより、すべり速度Vsの変動幅が大きくなり過ぎるのを防ぐ。また、図8の関数においてΔVs’に対する閾値があることから、すべり速度の変化が小さいときにも強制的に探索を行うことができる。
【0047】次いで、ΔFpの正負及びΔVsの正負の関係から、すべり速度指令値Vsrの補正値ΔVsrを決定する(S14〜S20)。ΔFp>0かつΔVs>0、あるいは、ΔFp<0かつΔVs<0の場合には、現在のすべり速度は接線力が最大となるすべり速度より小さく、ΔFp>0かつΔVs<0、あるいは、ΔFp<0かつΔVs>0の場合には、現在のすべり速度は接線力が最大となるすべり速度より大きい。これに基づき、ΔVsr=β・ΔVs(S15,S20)またはΔVsr=−β・ΔVs(S17,S19)とする。但し、βは設計パラメータであり、0<β≦1の定数である。更に、ステップS21によりΔVsrから求めたVsr(t)に上下限のリミッタVsru,Vsrlを設け、Vsrl≦Vsr≦Vsruの範囲のすべり速度指令値Vsrを出力させる(S22〜S26)。
【0048】上記実施形態では、空転の場合につき説明したが、滑走時ではVsi=vt−ωi・Rwiとする。また、車両速度vtとして各車輪の角速度ωiの最大値をとり、履歴より大きく外れる場合には補正を行う。他は空転時と同様に処理すればよい。
【0049】また、上記実施形態では、4台のインバータにより個別に4台の誘導電動機2を駆動する場合につき説明した。これに対し、1台のインバータによって複数台(例えば4台)の誘導電動機2を駆動する場合には、各電動機2に電流検出器を取り付け、個別の電動機制御の場合と同様に、各車輪についてすべり速度Vsの増減情報としてのΔVsi(i=1,2,3,4)を求め、空転・滑走制御補償器11において数式7により平均値ΔVsを求めるとともに、このΔVsをコントローラの入力としてトルク絞り指令値Δτ*を得ればよい。
【0050】
【数7】

【0051】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、すべり速度を制御することで空転や滑走を抑制し、車輪とレール間の接線力を一定にして閉ループ的な安定した空転・滑走制御を行うことができる。また、自動的に生成されるトルク絞り指令値に従い、レールと車輪との間の粘着状態に応じて電動機を制御することができる。更に、常に接線力係数特性を推定して電気車の運転状態を把握できるので、力行制御等の通常制御に付加する空転・滑走制御のON/OFFを自動的に行なうことが可能である。また、接線力の探索をオンラインで行えば、空転・滑走時に電気車の加速度を最大限に確保することができる。
【出願人】 【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
【識別番号】000237156
【氏名又は名称】株式会社エフ・エフ・シー
【出願日】 平成9年(1997)7月4日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
【公開番号】 特開平11−27811
【公開日】 平成11年(1999)1月29日
【出願番号】 特願平9−179751