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【発明の名称】 ツールホルダ
【発明者】 【氏名】大木 武博
【氏名】久田 建男
【課題】深彫り加工等における工具の振動を低減することにより、工具の破損と加工品精度不良の発生を抑制するとともに、加工能率を向上させることができるツールホルダを提供すること。

【解決手段】ツールホルダ(2)の材料として、ヤング率が23000kg/mm2 以上の高ヤング率材料、特に、炭素鋼もしくは合金鋼中にヤング率が24000kg/mm2 以上の硬質粒子を5〜70体積%含有している材料を用いる構成とした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 先端に切削工具が設けられるツールホルダであって、その材料が23000kg/mm2 以上のヤング率を有する高ヤング率材料からなることを特徴とするツールホルダ。
【請求項2】 前記高ヤング率材料は、炭素鋼もしくは合金鋼中にヤング率が24000kg/mm2 以上の硬質粒子を5〜70体積%含有しているものであることを特徴とする請求項1記載のツールホルダ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、切削、研削等に用いられる切削バイトやチップ等の工具を保持するためのツールホルダに関し、特に、金型の深彫り加工における工具の振動を低減することにより、工具の破損と加工品精度の低下を防止し、加工能率を向上させることが可能なツールホルダに関する。
【0002】
【従来の技術】金型加工の分野においては、金型の原価低減指向は著しく、特に金型の高能率加工は、大きな課題である。特に、MC、NCフライス、エンドミル等を用いた深彫り加工においては、工作機械から工具先端までの距離が長く、工具振動が大きいため、工具の破損や加工品精度の低下が生じやすく、工具の破損や加工品精度の低下を防止するためには、加工能率を低下せざるを得ないという問題があった。これらの問題を解決するために、工具の性能や加工機の剛性を高めたり、あるいは適切な切削条件を選定する等、各種の改善が進められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、深彫り加工における加工能率を高めるために、ツールホルダ材質について検討が行われた例はない。
【0004】図1は、フライス盤を用いてワークを加工する際のツールホルダの周辺部構成を示したものである。ツールホルダ(2)は、その上端をフライス盤の主軸(1)に所定形状のチャック(図示せず)により固定され、ツールホルダ(2)の先端には、その外周に切削チップ(4)が支持されたボディ(3)が固定されている。ワーク(5)を加工する際には、主軸(1)を回転させることにより、ツールホルダ(2)の先端に位置する切削チップ(4)を回転させ、これを所定の切り込み量となるようにワーク(5)に押し付けながら、ワーク(5)の切削加工を行うものである。この時、切削チップ(4)がワーク(5)から抵抗を受けるので、ツールホルダ(2)の先端に水平方向の力がかかることになる。
【0005】ツールホルダを、直径D、長さLの一端固定の片持ちはりと仮定すると、ツールホルダの先端に作用する水平方向の力Pと、ツールホルダの先端に発生する水平方向のたわみδとの間には、δ=PL3 /3EI(以下、第1式という)なる関係式が成り立つ。ここで、Eは、ツールホルダのヤング率である。また、Iは、ツールホルダの断面2次モーメントであり、I=πD4 /64(以下、第2式という)で表される。
【0006】そのため、例えば、長さLのツールホルダにかかる力をP1 、長さ2Lのツールホルダにかかる力をP2 とし、両者に同一のたわみ量が発生したとすると、第1式より、P1及びP2の間に P2=P1/8 なる関係が成り立つ。この結果は、ツールホルダの長さが2倍になると、同一たわみ量を発生させるのに1/8の力ですむ、すなわち、ツールホルダの剛性が1/8に低下することを示している。
【0007】ここで、図2は、直径10mmの2枚刃のエンドミルについて、立フライス盤により正面切削を行った時のエンドミルの刃長(mm)と切削耐久長度(mm)との関係を示したものである。被削材としてロックウェル硬度(HRC)32〜36のSKD61を用い、切削条件は、回転数340rpm、送り速度25mm/min、切り込み深さ5mmとした。この図2より、刃長が15mmから30mmになると、切削耐久長度は、平均値で1750mmから170mmまで低下することがわかる。すなわち、切削耐久長度とは、「切刃が破損するまでに削れた長さ」を評価したものであるから、図2の結果は、刃長が2倍となり工具剛性が1/8になると、工具寿命はそれ以下の1/10まで低下することを示している。
【0008】また、表1は、フライス盤により側面加工を行う場合のエンドミルの刃長(mm)と、工具破損及び加工品精度不良を生ずることなく加工可能な適正なテーブル送り速度(mm/min)との関係を示したものである。被削材としてNAK55(本出願人会社のプラスチック金型用鋼の鋼種記号)を用い、工具は、直径25mmで2枚刃の溶製ハイス製エンドミルとし、切削条件は、切り込み深さ及び切り込み巾をともに12.5mmとした場合である。
【0009】この表1より、刃長が50mmの場合の適正なテーブル送り速度は22mm/minであるが、刃長が90mmの場合には、適正なテーブル送り速度は3mm/minであることがわかる。この結果は、刃長が1.8倍となり工具剛性が約1/6になると、テーブル送り速度をそれ以下の約1/7まで下げる必要があることを示している。すなわち、テーブル送り速度が小さいほど切削能率が低いことを示しているので、表1の結果は、切削条件を一定とした場合、エンドミルの刃長が長くなると、エンドミルの剛性が低下して被削面の倒れが大きくなり、被削面の粗さも悪くなるため、実際の加工においては、切削能率を下げて使用せざるを得ないことを示している。
【0010】
【表1】

【0011】図2及び表1は、エンドミルの刃長と工具寿命及び切削能率との関係を示したものであるが、ツールホルダの長さと工具寿命及び切削能率との関係も全く同様である。すなわち、金型の深彫り加工等、ツールホルダの長さが長くなると、ツールホルダの剛性が低下し、加工時の工具振動が大きくなるため、工具の破損と加工品精度の低下が生じやすくなり、これを回避するためには、切削能率を下げる必要があるという問題があった。
【0012】一方、第1式より、断面2次モーメント(I)を大きくする、すなわち、第2式より、ツールホルダの直径Dを大きくすれば、ツールホルダに発生するたわみ量を小さくすることは可能である。しかしながら、ツールホルダの直径を大きくすると、ツールホルダの重量が増加し、作業性が低下するという問題があった。
【0013】本発明が解決しようとする課題は、作業性の低下を伴うことなく、金型の深彫り加工等における工具振動を低減し、それにより工具破損と加工品精度不良の発生を抑制し、切削能率の向上を図ることが可能なツールホルダを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明に係るツールホルダは、先端に切削工具が設けられるツールホルダであって、その材料が23000kg/mm2 以上のヤング率を有する高ヤング率材料からなることを要旨とするものである。
【0015】上記構成を有するツールホルダによれば、ツールホルダとして従来から用いられているクロムモリブデン鋼(SCM系)等、ヤング率が20000〜22000kg/mm2の鋼材に代えて、ヤング率が23000kg/mm2以上の高ヤング率材料を用いることにより、ツールホルダの重量を増加させることなく剛性を高くすることができる。例えば、ヤング率20500kg/mm2 であるSCM材からなるツールホルダを、同一径及び長さを有するヤング率27800kg/mm2 である高ヤング率材料からなるツールホルダに代えたとすると、第1式より、ツールホルダに発生するたわみを26.3%低減することが可能となる。これにより、金型の深彫り加工等の作業性を低下させることなく、工具振動を低減できるので、工具破損と加工品精度不良の発生を抑制でき、切削能率を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0016】ここで、上記した高ヤング率材料としては、炭素鋼もしくは合金鋼中にヤング率が24000kg/mm2 以上の硬質粒子を5〜70体積%含有しているものであることが特に望ましい。
【0017】ヤング率が高い合金として、例えば、超硬合金が知られているが、超硬合金は靱性に乏しいため、大きな力のかかるツールホルダに使用した場合に破損するおそれがある。また、比重が大きいために、作業性が悪く、しかも硬度が高いためにツールホルダ形状に切削加工することが不可能であるという欠点がある。
【0018】これに対し、炭素鋼もしくは合金鋼中にヤング率が24000kg/mm2 以上の硬質粒子を5〜70体積%含有しているものをツールホルダとして用いる場合には、ヤング率の高い硬質粒子の含有量を調節することによって材料全体のヤング率を任意に調節することが可能となる。また、基地となる炭素鋼もしくは合金鋼は、鋼種によっては、熱処理によって強度、靱性、硬度等の機械的性質を調節することが可能であるので、例えば、切削加工を行う必要があるときには、焼きなましによって基地を軟化させることができ、強度及び靱性を高める必要があるときには、焼き入れ焼き戻しによって基地を強化することが可能となる。これにより、最適なヤング率、被削性、強度、靱性、硬度等を備えたツールホルダを容易に得ることができる。
【0019】前記高ヤング率材料の基地となる炭素鋼もしくは高合金鋼としては、構造用炭素鋼(例えば、JIS S−C材、S−CK材その他)、ニッケルクロム鋼(例えば、JIS SCN材その他)、ニッケルクロムモリブデン鋼(例えば、JIS SNCM材その他)、クロム鋼(例えば、JIS SCr材その他)、クロムモリブデン鋼(例えば、JIS SCM材その他)、マンガン鋼(例えば、JIS SMn材その他)、マンガンクロム鋼(例えば、JIS SMnC材その他)、炭素工具鋼(例えば、JIS SK材その他)、高速度工具鋼(例えば、JIS SKH材その他)、合金工具鋼(例えば、JIS SKS、SKD、SKT材その他)、高炭素クロム軸受鋼(例えば、JIS SUJその他)などを用いることが可能であり、JISで制定する化学成分に他の合金成分を適宜添加したり、成分組成を適宜変更したりしたものを使用することが可能である。
【0020】また、前記炭素鋼もしくは合金鋼に含有させるヤング率が24000kg/mm2 以上の硬質粒子としては、周期律表第4A族(Ti、Zr、Hf)の炭化物、窒化物、同第5A族(V、Nb、Ta)の炭化物、窒化物、同第6A族(Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物などが用いられ、そのほか、ほう化物、けい化物、硫化物、酸化物などが用いられ、これらの1種又は2種以上を適宜選択して採用することができる。
【0021】硬質粒子のヤング率を24000kg/mm2 以上としたのは、硬質粒子のヤング率が低すぎると、これを炭素鋼又は合金鋼に含有させた場合に、ヤング率が23000kg/mm2 以上の高ヤング率材料とすることができない場合もあるからである。
【0022】また、硬質粒子の含有量を5〜70体積%としたのは、硬質粒子の含有量が5体積%以下では、通常の鋼材のヤング率は20000〜22000kg/mm2程度であるので、ヤング率が23000kg/mm2 以上の高ヤング率材料を得ることができなくなるからである。また、硬質粒子の含有量が70体積%以上では、炭素鋼もしくは合金鋼が少なくなりすぎるので、熱処理効果を得ることができなくなるからである。すなわち、硬質粒子含有量が70体積%を越えると、材料全体の機械的性質は熱処理の効かない硬質粒子によって支配されるようになるので、材料を焼きなましすることによって硬さを低下させることにより、切削加工や研削加工を可能としたり、材料を焼入れ焼戻しすることによって強度及び靱性を向上させることが困難となるからである。
【0023】本発明に使用する上記した高ヤング率材料は、種々の方法により製造できる。例えば、炭素鋼もしくは合金鋼の溶湯中に硬質粒子を添加、分散させた後、鋳造を行うことにより製造することができる。
【0024】また、炭素鋼もしくは合金鋼の粉末に硬質粒子を加えて混合し、これを成形、焼結する粉末冶金的手法によっても製造することができる。この場合、焼結後に、熱間静水圧成形(HIP処理)を行ったり、HIP処理後にさらに熱間鍛造を行う等の後工程を加えると、焼結体中に残留する気孔を圧着することができるので、高ヤング率材料の機械的性質や信頼性をさらに向上させることが可能となる。また、炭素鋼もしくは合金鋼の粉末に硬質粒子を加えて混合し、これを金属製の缶に真空封入し、これをHIP処理して粉末から直接ブロック状の高ヤング率材料を製造することも可能である。
【0025】さらに、固溶限度を超える高い合金元素を含有する高合金鋼の溶湯をアトマイズ法により噴霧して急冷することにより、合金鋼粉末中に微細な硬質粒子を析出させ、この粉末を直接、成形、焼結することによっても高ヤング率材料を製造することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
【0027】(実施例1)表2に示すAの組成の合金粉末を、アトマイズ法で製造した。この合金粉末を鋼製の缶に入れて脱気した後、缶を密封し、これを1200℃x1000kg/cm2 x1hrの条件で熱間静水圧処理(HIP)を行い、次いで鍛造を行って成形することにより、高ヤング率合金を作製した。
【0028】
【表2】

【0029】(実施例2)実施例1の合金粉末と体積率で10vol%のWC硬質粒子とを混合し、実施例1と同じHIP処理及び鍛造を行うことにより、高ヤング率合金を作製した。
【0030】(実施例3)WC硬質粒子の体積率を20vol%とし、その他は、実施例2と同じ合金粉末及び製造方法を用いて、高ヤング率合金を作製した。
【0031】(比較例1)従来からツールホルダとして一般に使用されているクロムモリブデン鋼(SCM440)を比較例として用いた。その化学組成を表2のBに示す。
【0032】実施例1〜3及び比較例1の各材料の硬質粒子含有量及びヤング率を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】得られた上記3種類の高ヤング率合金及び従来材のSCM440を用いて、長さ350mm、直径83mmのツールホルダを作製し、工具寿命と切削能率の評価を行った。被削材としてブリネル硬度(HB)178のSKD61を用い、NCフライス盤(商品名「MORI MV45」)により正面フライス加工を行った。ツールホルダ先端に取り付けるボディの直径Dを100mmとし、ボディ外周には、TiNコーティングを施した超硬合金製の切削チップが1枚取り付けられている。また、切削条件は、切削幅50mm、切り込み3mmとした。送り速度は、150mm/min(1刃当たり0.15mm/rev)を基準とし、ツールホルダ材質に応じて最高290mm/minまで送り速度を上げて工具寿命の評価を行った。工具寿命は、与えられた切削条件下において、横逃げ面摩耗が0.1mmに達したときの切削長(mm)で表した。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】送り速度150mm/minの条件下では、従来材のSCM440からなるツールホルダ(比較例1)の工具寿命は、2150mmであった。一方、実施例1、2及び3の材料からなるツールホルダの工具寿命は、それぞれ2990mm、3570mm及び5020mmであり、材料のヤング率が高いほど工具寿命が長くなるという結果が得られた。
【0037】また、実施例1、2及び3の材料からなる各ツールホルダについて、送り速度を漸次増加させて工具寿命を評価し、従来材のSCM440と同等の工具寿命(切削長2150mm)となった時の送り速度を求めたところ、それぞれ185mm/min、230mm/min及び290mm/minとなり、材料のヤング率が高いほど送り速度を速くできるという結果が得られた。
【0038】以上の結果から、ツールホルダ材料のヤング率を高くするほど、工具寿命が延び、また、送り速度を速くすることができる、すなわち加工能率を向上させることができることがわかった。これは、ツールホルダ材料のヤング率を高くすることにより、工具の剛性が増加し、その結果、加工時の工具振動が抑制されたためと考えられる。上記実施例の場合、ヤング率が20500kg/mm2 である材料に代えてヤング率が29500kg/mm2 である材料をツールホルダとして用いることにより、工具寿命及び切削能率が、それぞれ2.3倍及び1.9倍に改善されることがわかった。
【0039】なお、本発明は、上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施例では、粉末冶金的手法を用いた粒子分散型の高ヤング率合金をツールホルダ材料として用いているが、ヤング率の高い長繊維又は短繊維を炭素鋼もしくは合金鋼中に添加した、繊維強化型の高ヤング率合金を用いても、上記実施例と同様の効果が得られる。また、上記実施例では、フライス盤用のツールホルダについて評価しているが、フライス盤以外の他の工作機械用のツールホルダに応用しても、同様の結果が得られる。
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、ヤング率が23000kg/mm2 以上の材料を用いてツールホルダとすることにより、ツールホルダの重量を増大させることなく剛性を高めることができるので、作業性の低下を伴うことなく加工時の工具振動が低減される。その結果、工具の破損や加工品精度不良の発生が抑制され、切削能率が飛躍的に向上するという効果がある。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【出願日】 平成9年(1997)7月2日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
【公開番号】 特開平11−19839
【公開日】 平成11年(1999)1月26日
【出願番号】 特願平9−193276