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【発明の名称】 金属射出成形用バインダーおよびこれを用いた成形法
【発明者】 【氏名】鈴木 克典

【氏名】福島 敏晴

【要約】 【課題】金属粉末とバインダーとを混練し、これを射出成形してグリーン体とし、このグリーン体を脱脂し、ついで焼結する金属射出成形法において、バインダーのコストを低くし、グリーン体の脱脂が短時間で行え、しかもグリーン体にクラックや割れが生じにくく、大型のグリーン体を成形できるようにする。

【解決手段】水に溶解してゾル−ゲル可逆反応を示すκ−カラギーナンと、塩化カリウムなどの1価または2価の金属塩とを水に溶解したバインダー、もしくはこれにゼラチンなどの水溶性タンパク質やポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を加えたバインダー、もしくはκ−カラギーナンと、エチルアルコールなどのアルコール類とを水に溶解したバインダーを用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 κ−カラギーナンと、1価または2価の金属塩と、水とからなる金属射出成形用バインダー。
【請求項2】 κ−カラギーナンと、アルコール類と、水とからなる金属射出成形用バインダー。
【請求項3】 κ−カラギーナンと、1価または2価の金属塩と、水溶性タンパク質と、水とからなる金属射出成形用バインダー。
【請求項4】 請求項1ないし3いずれか一項に記載の金属射出成形用バインダーに水溶性高分子を添加してなる金属射出成形用バインダー。
【請求項5】 請求項1ないし4いずれか一項に記載の金属射出成形用バインダーと金属粉末とを混練し、この混練物を射出成形してグリーン体とし、このグリーン体から少なくとも水を除去したのち、焼結する金属射出成形法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、金属粉末から金属製部品などを製造する金属射出成形法およびこれに用いられるバインダーに関する。
【0002】
【従来の技術】金属射出成形法は、金属微粉末とバインダーとを混練し、この混練物を射出成形機によって射出成形し、所望の立体形状を有するグリーン体とする。ついで、このグリーン体を加熱し、バインダーの一部を分解、除去して脱脂を行い、ついでこれを高温で加熱し、焼結して金属部品等を得るものである。
【0003】このような金属射出成形法において使用されるバインダーとしては、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂とワックスとの混合物が主に使用されている。すなわち、熱可塑性樹脂とワックスとの混合物を加熱、溶解しておき、これに加熱した金属粉末を徐々に添加し、温度約150〜200℃で混練する方法がとられている。
【0004】しかしながら、このようなバインダーを使用する方法では、グリーン体を脱脂する際の脱脂温度が高く、かつ脱脂時間が極めて長い欠点があり、全製造工程時間の大部分がこの脱脂工程に費やされる不都合がある。また、厚さ5mm以上の厚物品に関しては、グリーン体の脱脂が均一に行われず、脱脂体、焼結体にクラック、割れ等が発生し、適用できない。このような不都合を解決するバインダーとして、寒天などの天然多糖類の水溶液を使用し、これのゾル−ゲル可逆反応を利用するものが知られている。このバインダーでは、バインダー中の約80%以上が水であるため、脱脂は先のものに比べて極めて容易になるという利点がある。
【0005】しかしながら、寒天等のゲルは、脆く、柔軟性に欠くために、グリーン体にクラックや割れなどが入りやすく、取扱いが面倒であるなどの欠点がある。また、射出成形用の寒天は、グリーン体の強度を向上させるために精製する必要があり、バインダーのコストが高くなる不都合もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】よって、本発明における課題は、グリーン体の脱脂が容易であり、しかもグリーン体にクラック等が入りにくく、大型のグリーン体を成形することができる低コストの金属射出用バインダーを得ることにある。また、このバインダーを用いた金属射出成形法を得ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】かかる課題は、κ−カラギーナンと1価または2価の金属塩とを水に溶解したバインダー、もしくはこれに水溶性タンパク質や水溶性高分子を加えたバインダー、もしくはκ−カラギーナンとアルコール類とを水に溶解したバインダー、もしくはこれに水溶性高分子を加えたバインダー、およびこのバインダーを用いた成形法によって解決される。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。本発明のバインダーに用いられるκ−カラギーナンは、D−ガラクトースと、3,6−アンヒドロ−D−ガラクトースと、D−ガラクトース−4−サルフェイトとがエーテル結合で結合した分子量10万〜40万のポリマーで、その形状は粉末状であり、温水に可溶で、その水溶液は温度の上昇および下降にともなってゲル状態からゾル状態に、ゾル状態からゲル状態に可逆的に相変化するものである。
【0009】1価または2価の金属塩としては、カリウム、カルシウムなどの1価もしくは2価のイオン価をもつ金属の塩化物や臭化物などが用いられ、具体的にはLiCl、NaCl、KCl、CsCl、MgCl2 、CaCl2 、SrCl2 、BaCl2 などの1種または2種以上が用いられる。この1価または2価の金属塩は、κ−カラギーナンの螺旋分子のスルホ基を通じたイオン結合により疑似的に架橋するものであり、これによりκ−カラギーナンのゲル状態におけるゲル強度が高められ、かつゲル化速度が速められる。
【0010】アルコール類としては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどの1種または2種以上混合して用いられる。このアルコール類は、κ−カラギーナンのゲル状態におけるゲル強度を高めるものである。水溶性タンパク質としては、ゼラチン、にかわ、カゼイン、フィブロイン、セリシンなどが挙げられるが、なかでもゼラチンが好適である。この水溶性タンパク質は、バインダーのゲルに粘性を付与し、射出成形時における射出原料の流動性を向上させ、バインダーと金属粉体との分離を改善する。水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、なかでもポリエチレングリコールが好適である。この水溶性高分子は、バインダーのゲルに粘性を付与し、射出成形時における射出原料の流動性を向上させ、バインダーと金属粉体との分離を改善する。
【0011】本発明のバインダーは、水100部(重量部、以下同様)に対してκ−カラギーナン10〜40部、好ましくは20〜30部と、1価または2価の金属塩0.5〜3部とを溶解したものあるいはこれに更に水溶性タンパク質5〜15部溶解したもの、あるいは水溶性高分子5〜15部溶解したもの、もしくは水100部に対してκ−カラギーナン10〜40部、好ましくは20〜30部と、アルコール類5〜30部とを溶解したものあるいはこれに更に水溶性高分子5〜15部溶解したものであり、これに防腐剤としての安息香酸、安息香酸ナトリウム、射出成形時の滑剤としてのステアリン酸、エルカ酸、高級脂肪酸の金属石ケン分散剤、界面活性剤などを必要に応じて添加することができる。
【0012】上記バインダーの組成において、κ−カラギーナンが10部未満では金属粉体を結合する効果が得られず、40部を越えるとゾル状態での粘度が高くなりすぎて、混練が困難となる。また、1価または2価の金属塩が0.5部未満ではゲルの強度を高める効果が不十分であり、3部を越えると逆にゲルの強度が低下する。また、アルコール類が5部未満ではゲルの強度を高める効果が不十分であり、30部を越えるとゲルの強度が低下し始める。また、水溶性タンパク質が5部未満では添加効果が得られず、15部を越えるとゾルの粘度が高くなり、不都合となる。また、水溶性高分子が5部未満では添加効果が得られず、15部を越えるとゾルの粘度が高くなり、不都合となる。
【0013】このようなバインダーは、例えば90〜98℃に加温した温水にκ−カラギーナン、1価または2価の金属塩および必要に応じて水溶性タンパク質、水溶性高分子を加え、よく攪拌、混合して溶解することによって調製することができる。また、場合によっては、温水にκ−カラギーナンおよび水溶性タンパク質、水溶性高分子を溶解して一次バインダーとし、この一次バインダーに金属粉末を加えて混練する際に、1価または2価の金属塩もしくはこれの水溶液を加えてバインダーとすることもできる。
【0014】次に、このバインダーを用いた金属射出成形法について説明する。原料となる金属粉末には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、高圧水アトマイズ法などによって得られた鉄、ステンレス鋼などの鋼、タングステン、チタン、ニッケルなどの粒径100μm以下、好ましくは20μm以下の球状、真球状の微粉末が用いられる。この金属粉末に対して上記バインダーを40〜60体積%の割合で加え、混練する。混練温度は、70〜98℃とされ、バインダーがゾル状態を示す温度で行われる。この際、金属粉末を数回に分けて加えることが好ましい。また、上述のように、一次バインダーと金属粉末とを混練しながら、1価または2価の金属塩もしくはこれの水溶液を追加添加して混練することもできる。
【0015】混練後、これを造粒してペレット状としたのち、射出成形して、所望形状のグリーン体とする。射出成形温度は、バインダーがゾル状態を保つ80〜96℃とされる。射出成形後のグリーン体は常温まで冷やされ、バインダーがゲル状となって、その形状が保持される。ついで、得られたグリーン体を脱脂し、バインダー由来の水、アルコール類およびκ−カラギーナン、水溶性タンパク質、水溶性高分子の一部を除去する。この除去の際、水のみを除去して焼結へ移行することもできる。
【0016】この脱脂には、種々の方法があるが、グリーン体を加熱し、常温より徐々に高めて100〜150℃で水、アルコール類を除去し、さらに200〜400℃に加熱して、κ−カラギーナン、水溶性タンパク質、水溶性高分子の一部を熱分解して除去する方法や、グリーン体を凍結乾燥もしくは真空乾燥し、バインダーがゲル状態を保ったまま、大部分の水、アルコール類を除去し、ついで加熱してκ−カラギーナン、水溶性タンパク質、水溶性高分子の一部を除去する方法などが好ましく、特に後者の方法によれば、グリーン体の割れ、クラックを防止できる点で望ましい。また、この脱脂を真空または不活性ガス雰囲気下で行い、金属粉末の酸化を防止することが望ましい。この脱脂によって、グリーン体の含水率は1〜3重量%となる。
【0017】ついで、この脱脂後のグリーン体を加熱炉にて加熱して焼結し、所望形状の金属製品とする。加熱は、真空または不活性ガス雰囲気下で温度1300〜1500℃程度にまで昇温して行われる。
【0018】このようなバインダーおよびこのバインダーを用いた金属射出成形法にあっては、κ−カラギーナンの水溶液を主体としているので、脱脂時間が極めて短時間で済む。また、アルコール類を添加した場合は、さらに脱脂時間が短くなる効果が得られる。また、安価かつ少量の1価または2価の金属塩もしくはアルコール類の添加により、κ−カラギーナンのゲル状態におけるゲル強度が約15〜20倍向上し、かつ精製寒天と同等まで高まるため、バインダーのコストを低くでき、しかもこのバインダーより得られるグリーン体は良好な弾性、靱性、強度、保形性を有し、クラックや割れが生じにくく、大型のグリーン体を形成できる。
【0019】また、1価または2価の金属塩の併用により、バインダーのゲル化速度が速まるので、射出成形後にバインダーがゲル化して、グリーン体を成形するまでの時間が短時間で済み、グリーン体成形サイクルを短くすることができる。この効果は、従来の寒天を用いた場合には、90〜96℃に加熱してゾル化したものを降温したときは40〜50℃で粘度の上昇が始まり、ゲル化するのに対し、1価または2価の金属塩併用のκ−カラギーナンのバインダーの場合は、60〜70℃で粘度の上昇が始まり、ゲル化するために得られるものである。なお、寒天のバインダーに1価または2価の金属塩を併用しても、この効果は得られない。
【0020】以下、具体例を示し、本発明の作用、効果を明確にする。なお、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
(具体例)
−バインダーの調製−κ−カラギーナン25部、塩化カリウム1部を95〜98℃の温水100部に溶解してバインダーAとした。κ−カラギーナン10部、塩化カリウム1部を95〜98℃の温水100部に溶解してバインダーBとした。κ−カラギーナン40部、塩化カリウム1部を95〜98℃の温水100部に溶解してバインダーCとした。寒天25部を95〜98℃の温水100部に溶解してバインダーDとした。
【0021】−金属射出成形−ガスアトマイズ法によって得られた粒径10〜20μmの球状のステンレス鋼粉末を予め約90〜100℃に加温し、これの100容量部を80℃に保温した上記バインダーA〜D100容量部に3回に分けて添加し、混練したのちペレット化し、これを射出温度90℃、金型温度20℃で射出成形し、厚さ10mm、幅15mm、長さ100mmの短冊状のグリーン体を得た。このときの、射出物の射出から冷却固化までの時間を表1に示す。また、このグリーン体の常温(25℃)でのJIS−K−6911に準じた曲げ強さを測定した。但し、支持間隔は50mmとし、加圧速度1.0mm/分とし、加圧片先端Rは10mmとし、曲げ強さはグリーン体の破壊にいたるまでの加圧片の押し下げ量(mm)によって表した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】ついで、このグリーン体を凍結乾燥装置にいれ、温度−10〜−15℃、圧力10-2トール、時間60分の条件で凍結乾燥し、含水率約10wt%まで水を除去し、ついで圧力10-3トールで常温から昇温速度1〜2℃/時間で300℃まで加熱して脱脂し、引きつづいて昇温速度7〜8℃/時間で1350℃まで昇温し、この温度を2時間保持する焼結条件により焼結して、ステンレス鋼製板状部材を製造した。このステンレス鋼製板状部材の相対密度を測定し、表1に示した。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように本発明の金属射出成形用バインダーおよびこのバインダーを用いた金属射出成形法にあっては、脱脂工程が短縮され、しかも得られるグリーン体は良好な弾性、靱性、強度、保形性を有し、大型のグリーン体を成形することができ、バインダーのコストを低くできるなどの優れた効果を発揮する。
【出願人】 【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
【出願日】 平成9年(1997)9月10日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武 (外1名)
【公開番号】 特開平11−80804
【公開日】 平成11年(1999)3月26日
【出願番号】 特願平9−245797