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【発明の名称】 土壌浄化方法および装置
【発明者】 【氏名】川畑 祐司
【課題】汚染土壌に浄化液体を効率的に注入し、土壌構造に依存しない浄化方法および装置を提供すること。

【解決手段】汚染物質が含まれている土壌領域内の所定の位置から、該汚染物質の分解活性を備えた微生物を含む液体を該土壌領域に注入し、注入箇所およびその近傍の該汚染物質を分解させる工程を有する土壌浄化方法において、該工程を、該所定の位置から該土壌領域に該土壌の硬化剤を注入し、該硬化剤を注入箇所において硬化させる工程を狭んで複数回行なうことを特徴とする土壌浄化方法およびそのための装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 汚染物質が含まれている土壌領域内の所定の位置から、該汚染物質の分解活性を備えた微生物を含む液体を該土壌領域に注入し、注入箇所およびその近傍の該汚染物質を分解させる工程を有する土壌浄化方法において、該工程を、該所定の位置から該土壌領域に該土壌の硬化剤を注入し、該硬化剤を注入箇所において硬化させる工程を狭んで複数回行なうことを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項2】 該汚染物質が炭化水素化合物であることを特徴とする請求項1記載の土壌浄化方法。
【請求項3】 該炭化水素化合物がフェノールであることを特徴とする請求項2記載の土壌浄化方法。
【請求項4】 該汚染物質が塩素化炭化水素化合物であることを特徴とする請求項1記載の土壌浄化方法。
【請求項5】 該塩素化炭化水素化合物がトリクロロエチレンであることを特徴とする請求項4記載の土壌浄化方法。
【請求項6】 該微生物が野生株であることを特徴とする請求項1記載の土壌浄化方法。
【請求項7】 該野生株がJ1株(FERM BP−5102)であることを特徴とする請求項6記載の土壌浄化方法。
【請求項8】 該微生物が野生株を変異させた変異株であることを特徴とした請求項1記載の土壌浄化方法。
【請求項9】 該変異株がJM1株(FERM BP−5352)であることを特徴とする請求項8記載の土壌浄化方法。
【請求項10】 該硬化剤がポルトランドセメントを含むことを特徴とする請求項1記載の土壌浄化方法。
【請求項11】 該硬化剤が水ガラスを含むことを特徴とする請求項1記載の土壌浄化方法。
【請求項12】 汚染物質を含む土壌を微生物を用いて浄化せしめる方法において、該微生物を含む浄化液体を浄化されるべき土壌領域内の所定の箇所に浸透注入する手段と、該浄化液体による浄化処理が終了した後に該浄化液体が浸透注入された箇所に土壌の硬化剤を浸透注入を行う手段と、該硬化剤が硬化した後に再び浄化液体の浸透注入を行う手段を有することを特徴とする土壌浄化装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は汚染土壌の浄化方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】産業活動の中で生み出された化学物質や化成品の多くは元来天然に存在しないため、自然に分解することは少なく、その最終的処理方法が大きな社会問題となっている。現在、主に埋め立て処理や焼却処理が行われているが、これら難分解性の化学物質あるいはその焼却成分の中に強い生物毒性をもつものが近年いくつも見つかっており、これらは地球規模での環境汚染源となっている。
【0003】これまでによく知られている環境汚染物質としては、ガソリンなどの有機化合物、PCBやダイオキシンなどの催奇性を有する有機塩素化合物あるいは放射性化合物などが挙げられる。なかでもガソリンなどの燃料はガソリンスタンドの地下タンクに広く大量に貯蔵され、タンクの老朽化あるいはタンクの破損による土壌と地下水への燃料漏洩が大きな社会問題となっている。また、トリクロロエチレン(TCE)やテトラクロロエチレンなどの塩素化炭化水素化合物は精密部品の洗浄やドライクリーニングにおいて過去に大量に使用され、その漏洩により土壌や地下水の大規模な汚染実体が明らかになりつつある。さらに、これら塩素化炭化水素化合物の催奇性や発がん性が指摘され、人類へも極めて重大な影響を及ぼすことがわかったため、汚染源の遮断はもちろん、すでに汚染が拡大した土壌や地下水の浄化は早急に解決すべき課題となっている。
【0004】これら汚染物質で汚染された土壌や地下水の浄化方法としては、汚染土壌を掘り起して加熱処理する方法、汚染土壌から真空抽出する方法、汚染物質を分解する浄化化合物を用いる方法、あるいは汚染物質を分解する微生物を利用する方法などが挙げられる。加熱処理法ではほとんど完全に土壌から汚染物質を取り除くことが可能であるが、土壌掘削が必要であるから建造物下の浄化処理は困難である。また広範囲な汚染土壌の浄化に対しては、掘削・加熱処理に要する費用が膨大となるため適用は困難である。真空抽出法は揮発性化合物に対する安価で簡便な浄化方法であるが、数ppm以下の塩素化炭化水素化合物の除去効率が低く、その浄化処理に年単位の時間が必要な場合もある。汚染物質を分解する浄化化合物を用いる方法は、例えば過酸化水素やオゾンなどの反応性が高い化合物を汚染土壌へ直接注入して複合汚染さえも酸化処理する短期の効率的な浄化方法である。しかし、汚染濃度が高い場合や汚染領域が広範な場合は多量の浄化化合物を必要とし、また、土壌での浄化能力を維持するには連続的に浄化化合物を投入しなければならない。
【0005】一方、汚染物質を分解する微生物を用いた浄化方法は汚染土壌を掘削する必要がないため建造物下の浄化が可能であり、また分解活性の高い微生物を利用することにより汚染物質を短時間で分解浄化できるので、効果的な土壌浄化方法として注目されている。さらに、反応性の低く環境に優しい栄養素や酸素などを微生物に添加することで、汚染物質の分解活性を強くあるいは長く発現させることができるので、他の物理化学的浄化方法と比較しても経済的である。
【0006】微生物による汚染土壌や汚染地下水の浄化は、土壌に元来生息する土着の分解微生物を利用する方法と土壌に元来生息しない外来の分解微生物を利用する方法に分けられる。前者の場合は、微生物を増殖生存させ分解活性を高めるための栄養素、インデューサー、酸素、あるいはその他の化学物質を土壌に注入して浄化を行う。また後者の場合は、外来微生物を土壌に注入するとともに、微生物を増殖生残させ分解活性を高めるための注入を行う。このとき、微生物の分解活性を最大限に増大させるとともに、汚染物質と分解微生物を接触させることにより効率的な浄化が達成できる。この注入工程において、砂のように透水係数が大きい土壌では、土壌粒子間を液体が充填していくように、例えば図1に示すように粒子間浸透注入される。また、粘性土のような透水係数がが小さな土壌では機械的強度の弱い部分に図1に示すように脈状浸透注入される。実際の汚染土壌では土壌構造が不均一であり、このような注入工程では透水係数が大きい部分あるいは全体として透水係数が小さい場合は構造的に弱い部分へ優先して浸透注入される。したがって、堅固な土壌構造をもつ汚染領域へは浄化液体が浸透せず、十分な浄化を行うことができない。
【0007】USP4442895およびUSP5032042は、注入井より汚染土壌中へ気体や液体を加圧注入して土壌のクラッキング(土壌破砕)を行うものであり、微生物浄化に必要な微生物や酸素、栄養素なども破砕した土壌間を通して供給できることが述べられている。この方法はできる限り広い土壌範囲をクラッキングし、破砕した土壌内での物理化学的な浄化効果を向上させたり、分解微生物や栄養素などを広く注入することを目的としている。しかし、圧縮空気や加圧注入された液体は土壌構造の弱い部分を脈状に破壊するため、土壌破壊を行わない場合と比較すると汚染除去効率は増大するが、機械的強度が高くあるいは透水係数が小さな土壌部分の汚染は依然として残ったままである。USP5111883では、複数の井戸の注入口と抽出口の相対位置により水平方向および垂直方向において任意の土壌領域に薬液を注入する方法が述べられている。これは、土壌の決められた位置へ薬液などを注入することを目的としているが、透水係数が高い土壌部分あるいは機械的に弱い土壌部分へ優先的にに注入されることは解決できていない。
【0008】またUSP5061119や特開平08−192137では汚染土壌を高圧水で破砕しながら汚染物質を微生物や分解試薬で分解する方法が述べられている。この方法は土壌の不均一構造を高圧水の剪断力で破壊しスラリー状とすることで均一にするものであるが、多量のスラリーが地表より噴出するため、この処理が問題となる。また、スラリー状となった土壌は軟弱地盤となるため、十分な機械的強度をもつ土壌硬化剤を浄化処理後に充填する必要もある。さらに、ソビエト特許1203194Aでは、土壌を硬化する薬液と圧縮ガスを交互に注入する土壌の固化方法が述べられている。この方法では、圧縮ガスにより注入口周りの土壌中に空隙をつくるとともにガス圧力により薬液を土壌中に浸透させて土壌を圧縮固化する。圧縮ガスにより生じた空隙が満たされるまで多量の薬液を注入することができるので、より頑強な土壌固化が達成できる。この場合、圧縮ガスは薬液を充填するための空隙確保と土壌の圧縮のために用いられており、汚染土壌の均一な浄化を意図したものではない。さらに、USP5133625では伸長可能な注入パイプを用いて注入圧力、流速および温度を測定し、これにより注入圧力を制御する方法が述べられている。この方法は、注入圧力により微生物濃度や栄養素濃度などを制御して最適な分解活性を維持するものであり、構造的に不均一な汚染土壌と分解微生物や分解のための化合物を均一に接触させることは意図されていない。
【0009】上記の従来技術からも理解されるように、汚染土壌の高度かつ経済的な微生物浄化を達成するには、原位置においてヘテロな構造をもつ汚染土壌と分解微生物あるいは微生物分解のための化合物をできるだけ均一に混合するとともに、浄化処理に伴って排出される廃棄物の量を最小限にとどめる必要がある。したがって、分解微生物の浸透注入により透水係数が大きな汚染土壌領域あるいは機械的強度の低い汚染土壌領域を微生物により浄化し、引き続いて透水係数が小さな汚染土壌領域あるいは機械的強度の高い汚染土壌領域の微生物浄化を行う方法は浄化効率が極めて高く、また経済的である。さらに浄化領域の機械的強度を補強しながら上記の処理を行えれば土壌地盤の再利用を含めて優れた土壌浄化方法となり得る。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】汚染された土壌や地下水を原位置において微生物的に浄化するには、分解微生物を活性化するとともに構造的に不均一な自然土壌において微生物などを含む浄化液体と汚染物質とを十分に接触させることが必要である。しかし、極めて高濃度の分解微生物を大量に汚染土壌へ浸透注入するだけでは、汚染物質をほぼ完全に分解除去することは困難である(A.G. Duba et. al., Environ. Sci. Technol., 1996, 30, 1982-1989参照)。このような場合、微生物の分解活性は極めて高いので、浄化液体が汚染土壌内で不均一に分布し、結果として汚染物質と微生物が十分に接触できないことが原因と考えられる。したがって、浄化液体を汚染土壌に注入して効率的な汚染浄化を行うには、土壌構造に依存しない浄化工法が必要である。また、浄化処理によって排出される産業廃棄物を極力減らし、かつ浄化処理後の土地利用に備えて地盤強度を高めるような工夫も必要となる。
【0011】上記の課題を解決する方法の一つとして、本発明者らは次のような可能性を見出した。すなわち、汚染土壌に分解微生物などを含む浄化液体を浸透注入させ、注入領域の浄化を行う。注入領域の浄化処理が終了した後に、浄化液体と同様にして土壌の硬化剤を浸透注入することにより、硬化剤は先に浸透注入した浄化液体とほぼ同様に分布し浄化領域の土壌を硬化する。この方法により、透水係数が大きな土壌部分あるいは構造的に弱い土壌部分にはじめに浄化液体を注入して汚染物質を分解し、続いて硬化剤を浸透注入してこの部分を硬化剤で満たして透水係数を低下させ機械的強度を増大させる。再度、浄化液体を土壌へ浸透注入すると、さきに浄化液体が浸透注入された土壌部分よりも透水係数が低いあるいは構造的に強い部分へ浄化液体を浸透注入することができる。さらにこの土壌領域の浄化が終了した後に土壌硬化剤を浸透注入し、硬化後に浄化液体の浸透注入を繰り返すことにより、構造的に不均一な汚染土壌領域を浄化しながら硬化させることができる。また、一カ所からの注入操作では浄化領域が限られるので、広い汚染土壌については複数の注入点において浄化液体と硬化剤の繰り返し注入を行うとよい。浄化液体により汚染物質が完全に分解されることが望ましいが、汚染物質が若干残存していても硬化剤によって土壌とともに固められるので汚染物質の溶出・拡散を防ぐことができる。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記のように、汚染された土壌や地下水の汚染物質の微生物浄化において、微生物などを含む浄化液体を汚染土壌へ浸透注入し、微生物浄化が終了した後に土壌の硬化剤を浸透注入し、さらに硬化剤が硬化した後に浄化液体を浸透注入して、浄化液体と硬化剤とを繰り返し浸透注入することにより、構造的に不均一な汚染土壌を高度に浄化処理することが可能となり、このときの土壌硬化により残存する汚染物質の拡散を防止するとともに、浄化地盤の機械的強度を向上できることを見出したことに基づくものである。
【0013】すなわち、本発明は、汚染物質が含まれている土壌領域内の所定の位置から、該汚染物質の分解活性を備えた微生物を含む液体を該土壌領域に注入し、注入箇所およびその近傍の該汚染物質を分解させる工程を有する土壌汚染化方法において、該工程を、該所定の位置から該土壌領域に該土壌の硬化剤を注入し、該硬化剤を注入箇所において硬化させる工程を狭んで複数回行なうことを特徴とする土壌浄化方法である。
【0014】上記した本発明の土壌浄化方法において、該浄化液体の浸透注入と該硬化剤の浸透注入とを繰り返すことが好ましい。該汚染物質が、炭化水素化化合物であり該炭化水素化合物がフェノールである場合、塩素化炭化水素化合物であり該塩素化炭化水素化合物がトリクロロエチレンである場合において特に有効である。
【0015】また、該微生物が野生株であり該野生株がJ1株(FERM BP−5102)であること、該微生物が野生株を変異させた変異株であり該変異株がJM1株(FERM BP−5352)であることが好ましい。
【0016】また、該硬化剤がポルトランドセメントまたは水ガラスを含むことが好ましい。
【0017】本発明は、さらに、汚染物質を含む土壌を微生物を用いて浄化せしめる方法において、該微生物を含む浄化液体を浄化されるべき土壌領域内の所定の箇所に浸透注入する手段と、該浄化液体による浄化処理が終了した後に該浄化液体が浸透注入された箇所に土壌の硬化剤を浸透注入を行う手段と、該硬化剤が硬化した後に再び浄化液体の浸透注入を行う手段を有することを特徴とする土壌浄化装置をも提供するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳述する。
【0019】まず、汚染物質は雨水などにより徐々に地表から地下へと浸透していくため、非帯水層の汚染物質は時間をかけてゆっくりと土壌内を拡散する。次いで帯水層まで到達した汚染物質は地下水流れの響を直接受け、特に可溶性の汚染物質では地下水とともに移動する。地下水の移動速度は数cm/day〜数m/dayと幅広いが、非帯水層の汚染物質と異なり帯水層の汚染物質は経時的に確実に拡散する。
【0020】上記のようにして汚染された土壌や地下水に分解微生物や分解活性増大のための栄養素などを注入することにより浄化処理は行われる。分解微生物を含む浄化液体を汚染土壌に浸透注入させる場合、砂のような透水係数が大きな土壌では図1に示すような土壌の骨格構造を壊すことなく浄化液体を土壌の粒子間に浸透させ、土壌の間隙水を置き換える粒子間浸透注入が起こる。一方、透水係数が小さな粘性土ではこのような粒子間浸透は困難であり、浄化液体は図1に示すような多数の脈枝状となって注入される。粒子間浸透と脈状浸透は土壌の透水係数のみならず、間隙率、浄化液体の粘度や浄化液体に含まれる微生物担体などの微粒子径などによりどちらか一方、あるいは両方が同時に起こる。自然土壌は極めて不均一な構造を有しているため、浄化液体注入により一部で粒子間浸透が起こっても、それ以外の領域は土壌粒により土壌気相あるいは土壌液相の連続性が遮断されるため、この領域では微生物浄化が進行しない。また脈状浸透の場合は粒子間浸透よりもヘテロな注入状況であるから、さらに未浄化処理の汚染土壌が増えることになる。
【0021】本発明においては上記のような状態において、粒子間注入あるいは脈状注入された既浄化領域に土壌の硬化剤を注入し、この領域の透水係数を低下させるとともに機械的強度を増加させる。再度浄化液体を注入すると、既に最も透水係数が高いあるいは機械的強度が低い土壌領域は硬化剤で充填されているので、次に透水係数が高いあるいは機械的強度が低い土壌領域に浄化液体を浸透注入することができる。この処理工程を繰り返すことにより極めて不均一な構造をもつ自然土壌に一カ所の注入点から均一に浄化液体を注入し、かつ浄化処理後の土壌の機械的強度を増大することができる。汚染された土壌領域がより垂直方向や水平方向に伸びている場合は、注入点を垂直あるいは水平方向に増やして同様な浄化処理を行えばよい。
【0022】まず、汚染物質を分解する微生物材料としては、例えば分解活性が確認されているSaccharomyces, Hansenula, Candida, Micrococcus, Staphylococcus, Streptococcus, Leuconostoa, Lactobacillus, Corynebacterium, Arthrobacter, Bacillus, Clostridium, Neisseria, Escherichia, Enterobacter, Serratia, Achromobacter, Alcaligenes, Flavobacterium, Acetobacter, Moraxella, Nitrosomonas, Nitrobacter, Thiobacillus, Gluconobacter, Pseudomonas, Xanthomonas, Vibrio, Comamonas, の属の微生物が用いられる。これらの分解微生物は汚染土壌に元来生息する土着の微生物でもよいし、分解能力をもつ外来の微生物でもかまわない。また、人為的な変異を施した微生物や遺伝子組み換えを行った微生物も利用できる。
【0023】なお、実施例で用いたJ1株およびJM1株の属名については以下のように変更があった。J1株は誘導物質を用いることで芳香族化合物や有機塩素化合物を分解できる微生物であり、これを親株として変異原を用いて変異させ、誘導物質を用いることなくこれらの化合物を分解することができる変異株JM1株を取得した。特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に基づいて、これら微生物をコリネバクテリウム・スピーシズJ1株(Corynebacterium sp. J1) およびコリネバクテリウム・スピーシズスJM1株(Corynebcteriumu sp. JM1)として寄託したが、後の検討によりこれらの株が“コリネバクテリウム属に属さない”と認められたため、識別の表示を「J1株」、「JM1株」と変更した。
【0024】浄化液体の媒体としては単に水を用いるだけでもよいが、望ましくは微生物の増殖に必要な増殖機能材料、微生物による分解活性を安定に発現させる活性維持機能材料などを含んでいると効果的である。浄化液体はそれぞれ単独の材料から構成されることもあるが、多くは複数の材料、あるいは複数の機能をもつ材料を溶解あるいは混合したものが用いられる。
【0025】増殖機能材料とは微生物の栄養素であり、これにより微生物は土壌や地下水中で増殖生残し、土壌や地下水中の有害物質を分解する。例えば、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract,MY培地、硝化菌選択培地などが有用である。微生物から産生される分解酵素が構成的に発現される場合は、活性維持機能材料を特に必要としないが、酵素活性が特定のインデューサーにより発現される場合はインデューサーが活性維持機能材料として必要である。メタン資化菌ではメタン、芳香属資化菌ではトルエンやフェノール、クレゾールなど、また硝化菌ではアンモニウム塩などがインデューサーとなる。また、分解酵素の活性を発現維持させるためのエネルギー源やミネラルなども活性維持機能材料として要求される。
【0026】微生物を粒状担体に固定することにより微生物の快適な棲息空間を与えるとともに、これにより他の微生物や微小生物による捕食を妨害したり、あるいは微生物の地下水への拡散消失を防ぐことができる。粒状担体としては、これまで医薬品工業や食品工業あるいは廃水処理システムなどのバイオリアクターで利用されている多くの微生物担体を用いることができる。例えば、多孔質ガラス、セラミックス、金属酸化物、活性炭、カオリナイト、ベントナイト、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アンスラサイトなどの粒子状担体、デンプン、寒天、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリアクリルアミド、カラギーナン、アガロース、ゼラチンなどのゲル状担体、セルロース、グルタルアルデヒド、ポリアクリル酸、ウレタンポリマーなどの高分子樹脂やイオン交換樹脂などである。さらに、天然あるいは合成の高分子化合物、例えばセルロースを主成分とする綿、麻、パルプ材、あるいは天然物を変性した高分子アセテート、ポリエステル、ポリウレタンなども有効である。
【0027】土壌の硬化剤としてはセメント系や水ガラス系、あるいはこれらの混合物などから選ばれ、モンモリロナイトなどの混合材や界面活性剤などの混和剤を混合してもよい。セメント系などそれ自身が硬化する1液系の硬化剤でもよいし、硬化時間を選択するために2液が混合して硬化するタイプのものでもよい。浄化処理を全て終了した後に土壌地盤をどのように利用するか、によって硬化強度の異なる硬化剤を選択できる。さらに、浄化液体が注入される領域の広狭によっては粘度や硬化時間が異なる硬化剤も選択される。また、土壌の種類によっては微生物分解が十分に起こるような化学的性状(例えばpHなど)をもつ硬化剤を注入する必要がある。
【0028】土壌や地下水内の汚染物質をさらに効率よく分解するには、浸透注入した浄化液体による浄化処理が終了した後に土壌の硬化剤を注入する。また、浄化液体の再注入は土壌の硬化剤が十分に硬化した後に行うとよい。このような注入工程を繰り返すことにより、浄化剤の土壌は完全に硬化され、新しい浄化液体は確実に異なる汚染土壌領域に浸透注入される。
【0029】浄化処理の終了は、汚染土壌を実験室に持ち帰って分解微生物を添加し、汚染物質の減少から判定してもよいし、また微生物の分解活性が予め有限の時間であることがわかっていればその時間内で処理の終了を決めてもよい。さらに、土壌の硬化剤の硬化時間は硬化剤の種類によりおおよそわかっているが、土壌性状に大きく支配されるような場合は、予め実験室で検討しておくとよい。浄化液体や土壌硬化剤の注入量は浸透注入が粒子間で起きるか、脈状に起きるかによって大きく異なる。汚染土壌の性状と浄化液体や硬化剤の性状からどのような浸透注入が起こるか実験的あるいは経験的に導き、浄化すべき土壌領域の構造と大きさから注入量を理論的に決定する。また汚染土壌の構造が極めて複雑で注入量を求めることが困難な場合は、浄化したい土壌領域にサンプリングの井戸やセンサーを設置し、これら計測点における浄化液体や硬化剤のモニタリングにより注入量を制御してもよい。
【0030】本発明による浄化装置の一例を図2に示す。土壌は非帯水層1、不透水層2、および汚染領域3からなっており、不透水層2の上部に地下水層があってもかまわない。まず、分解微生物や分解活性を増大させる化合物を含む浄化液体を貯留しているタンク4からポンプ5により注入管6を通して汚染領域7に浄化液体を浸透注入する。この浄化処理が終了した後にタンク8に貯留している土壌の硬化剤をポンプ9により再び注入管6を通して浸透注入する。このとき、注入管は単管でもよいが、複数の注入口をもつ注入管であれば浄化液体と硬化剤との混合を避けたり、2液系の硬化剤を使用することができる。硬化剤により浄化土壌領域7を硬化させた後、再び浄化液体を注入し未浄化領域10に浸透注入する。この操作を繰り返すことにより注入点から確実に浄化処理を行い、また処理後の機械的強度を付与することができる。汚染領域が垂直方向に広がっている場合は、注入深さを変えて繰り返し注入作業を行う。このとき、ゴムスリーブ11をもつマンシェット管12とパッカー13をもつスリーブパイプ14を組み合わせる方法が有用である。つまり、スリーブパイプ14を上下方向に移動させて所定の位置で上下のパッカー13を膨張させる。上下のパッカーで挟まれた部分にスリーブパイプ14を通して浄化液体や硬化剤を圧送し、ゴムスリーブ11を通して土壌中に圧入する。
【0031】
【実施例】以下に、参考例および実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0032】参考例1浄化液体の浸透注入によるフェノール汚染土壌の微生物浄化含水比12%の細砂にフェノールを加え、その濃度が20ppm程度になるように調製した。内径32cm、深さ30cmのステンレスポットの深さ15cmまでこのフェノール汚染砂を充填し、その間隙率が42%となるように調整した。さらにこの砂層の上に厚さ15cm、間隙率44%の汚染砂層を作製した。次にステンレスポットの中央、深さ15cmの位置に注入口をもつステンレス管を埋め込んだ。フェノール分解微生物にはJ1株を用い、M9培地に0.1%酵母エキスを加えた培養液で終夜培養したものを用いた。培養後の微生物濃度は寒天平板培地上のコロニー数より3×108 CFU/mlであった。微生物溶液の浸透注入にはペリスタポンプを用い、注入の際にポンプ流量は100ml/min、注入時間は3分間とした。
【0033】1日後にポット内の砂層を注入管に沿って垂直に切り、注入管の周囲を縦横2cmの間隔で格子状に細砂をサンプリングした。サンプリングした砂についてそのフェノール濃度をJIS法(JIS K012−1993、28.1)にしたがって求めた。その結果、注入口より水平方向から上部の間隙率が大きな領域においておおよそ半径8cmで分解微生物が浸透注入され、この領域のフェノール濃度は0.5ppm以下となった。一方、分解微生物が注入されていない領域のフェノール濃度はほぼ20ppmと変化しなかった。この結果から、分解微生物が注入された土壌領域では土壌内のフェノールを効率よく分解できることがわかった。
【0034】参考例2浄化液体の浸透注入と浄化処理後の硬化剤注入によるフェノール汚染土壌の微生物浄化参考例1と同様にステンレスポットにフェノール汚染土壌と注入管を作製し、フェノール分解微生物J1株を注入した。次に、ポルトランドセメント(第一セメント(株)社製)を1kg、流動剤(商品名ロジエイト−P日東化学(株)製)を10g、水1kgを混合し、硬化剤を調製した。分解微生物を注入した後、1日間放置し、この硬化剤をポンプ流量100ml/min、注入時間3分間で浸透注入した。
【0035】さらに1日間放置し、硬化剤が十分硬化してからポット内の砂層を注入管に沿って垂直に切り、注入管の周囲を縦横2cmの間隔で格子状に細砂をサンプリングした。また、サンプリングした砂についてそのフェノール濃度をJIS法にしたがって求めた。その結果、参考例1でフェノール分解が確認された領域とほぼ同様な土壌領域は硬化剤によって固められ、土壌のサンプリングはできなかった。また、硬化した土壌領域以外の土壌領域ではフェノール濃度はほぼ20ppmと変化しなかった。これらの結果から、分解微生物を注入した後に土壌硬化剤を注入することにより浄化した土壌領域を硬化できることがわかった。
【0036】実施例1浄化液体の浸透注入と浄化処理後の硬化剤注入、および浄化液体の再注入によるフェノール汚染土壌の微生物浄化参考例1と同様にステンレスポットにフェノール汚染土壌と注入管を作製し、フェノール分解微生物J1株を注入した。また、1日間放置後に参考例2と同様に硬化剤を注入した。硬化剤の硬化のためにさらに1日間放置後、参考例2の分解微生物の浸透注入操作を繰り返した。
【0037】再注入した微生物による分解のためさらに1日間放置し、ポット内の砂層を注入管に沿って垂直に切り、注入管の周囲を縦横2cmの間隔で格子状に細砂をサンプリングした。また、サンプリングした砂についてそのフェノール濃度をJIS法にしたがって求めた。その結果、参考例2でフェノール分解が確認された領域とほぼ同様な土壌領域は硬化剤によって固められ、土壌のサンプリングはできなかった。また、硬化した土壌領域の下部(注入口より水平方向から下部の間隙率が小さな領域)におよそ半径10cmの分解微生物の再注入領域がみられ、この領域のフェノール濃度は0.5ppm以下であった。さらに、この再注入領域以外の土壌領域ではフェノール濃度はほぼ20ppmと変化しなかった。これらの結果から、分解微生物を注入した後に土壌硬化剤を注入することにより浄化した土壌領域を硬化できること、硬化後に分解微生物を再注入することにより硬化部分以外の土壌領域を浄化処理できることがわかった。
【0038】比較例1浄化液体の浸透注入と浄化処理後の浄化液体の再注入によるフェノール汚染土壌の微生物浄化参考例1と同様にステンレスポットにフェノール汚染土壌と注入管を作製し、フェノール分解微生物J1株を注入した。また、1日間放置後に再度参考例1と同様に分解微生物を注入した。さらに1日間放置し、ポット内の砂層を注入管に沿って垂直に切り、注入管の周囲を縦横2cmの間隔で格子状に細砂をサンプリングした。また、サンプリングした砂についてそのフェノール濃度をJIS法にしたがって求めた。その結果、参考例1でフェノール分解が確認された領域と(注入口より水平方向から上部)とさらにその上部領域およそ半径10cmの分解微生物の注入領域がみられ、この領域のフェノール濃度は0.5ppm以下であった。しかしこの注入領域以外の土壌領域ではフェノール濃度は20ppmと変化しなかった。これらの結果から、分解微生物を注入した後に再度分解微生物を注入しても透水係数が小さい土壌領域へ優先的に注入され、注入口周囲の均一な浄化は困難であることがわかった。
【0039】実施例2浄化液体の浸透注入と浄化処理後の硬化剤注入、および浄化液体の再注入によるTFC汚染土壌の微生物浄化含水比12%の細砂にTCEを加え、その濃度が5ppm程度になるように調製した。内径32cm、深さ30cmのステンレスポットの深さ15cmまでこのTCE汚染砂を充填し、その間隙率が42%となるように調整した。さらにこの砂層の上に厚さ15cm、間隙率44%の汚染砂層を作製した。次にステンレスポットの中央、深さ15cmの位置に注入口をもつステンレス管を埋め込んだ。TCE分解微生物にはJM1株を用い、M9培地に0.1%酵母エキスを加えた培養液で終夜培養したものを用いた。培養後の微生物濃度は寒天平板培地上のコロニー数より2×108 CFU/mlであった。微生物溶液の浸透注入にはペリスタポンプを用い、注入の際のポンプ流量は100ml/min、注入時間は3分間とした。次に、硬化速度が速いセメント1kg、ロジエイト−P(流動剤)を10g、水1kgを混合し、硬化剤を調製した。分解微生物を注入した後、1日間放置し、この硬化剤をポンプ流量100ml/min、注入時間3分間で浸透注入した、さらに1日間放置後、再度分解微生物JM1株の浸透注入操作を繰り返した。
【0040】再注入した微生物による分解のためにさらに1日間放置し、ポット内の砂層を注入管に沿って垂直に切り、注入管の周囲を縦横2cmの間隔で格子状に細砂をサンプリングした。またサンプリングした砂についてそのTCE濃度をヘキサン抽出−ガスクロマトフラフィーにより求めた。その結果、実施例1でフェノール分解が確認された領域とほぼ同様な土壌領域は硬化剤によって固められ、土壌のサンプリングができなかった。また、硬化した土壌領域の下部(注入口より水平方向から下部の間隙率が小さな領域)におよそ半径10cmの分解微生物の再注入領域がみられ、この領域のTCE濃度は0.1ppm以下であった。さらに、この再注入領域以外の土壌領域ではTCE濃度はほぼ5ppmと変化しなかった。これらの結果から、分解微生物を注入した後に土壌硬化剤を注入することにより浄化した土壌領域を硬化できること、硬化後に分解微生物を再注入することにより硬化部分以外の土壌領域を浄化処理できることがわかった。
【0041】
【発明の効果】本発明によって、汚染された土壌の効率的な微生物浄化が可能となった。
【出願人】 【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【出願日】 平成9年(1997)12月9日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】若林 忠 (外4名)
【公開番号】 特開平11−169839
【公開日】 平成11年(1999)6月29日
【出願番号】 特願平9−339024