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【発明の名称】 環境修復方法
【発明者】 【氏名】今村 剛士
【氏名】古崎 眞也
【氏名】野本 毅
【氏名】矢野 哲哉
【課題】有機化合物で汚染された環境の微生物による分解浄化修復に於いて、従来より効率のよい方法を提供する。

【解決手段】有機化合物で汚染された、土壌や地下水などの、環境の微生物による分解浄化修復方法であって、該方法が1.汚染物質分解微生物を、該環境の要素の少なくとも一部分を含んだ培地で予め培養する工程と、2.該培養した微生物と該環境中の該有機化合物とを接触せしめる工程を含む、微生物による分解浄化修復方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機化合物で汚染された、環境の修復方法において、1.該有機化合物を分解可能な微生物を、該環境の要素の少なくとも一部分を含んだ培地で予め培養する工程と、2.該培養した微生物と該環境中の該有機化合物とを接触せしめる工程を含むことを特徴とする、環境修復方法。
【請求項2】 前記汚染された環境が土壌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記接触が、汚染された土壌中に前記培養した微生物を含む液を導入することにより行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記接触が、前記培養した微生物を含む液中に汚染された土壌を導入することにより行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】 前記接触が、前記培養した微生物を担持させた担体と汚染された土壌の水懸濁液とを接触させることにより行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】 前記汚染された環境が汚染された水である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】 前記接触が、汚染された水中に前記培養した微生物を含む液を導入することにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】 前記接触が、前記培養した微生物を含む液中に汚染された水を導入することにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】 前記接触が、前記培養した微生物を担持させた担体に汚染された水を接触させることにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】 前記有機化合物が芳香族化合物である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】 前記芳香族化合物がフェノール、トルエン、クレゾールのいずれか一つ、もしくは二つ以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】 前記有機化合物が揮発性有機塩素化合物である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】 前記揮発性有機塩素化合物がトリクロロエチレン、ジクロロエチレンのいずれか一つ、もしくは両方である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フェノール、トルエン、クレゾールのような芳香族化合物及び、トリクロロエチレン(TCE)やジクロロエチレン(DCE)のような揮発性有機塩素化合物の生物分解処理方法、特にそれらを含む排水や廃液の浄化、それらによって汚染された土壌の修復に有用な生物分解浄化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、生体に対し有害でありかつ難分解性である揮発性有機塩素化合物による環境汚染が大きな問題となってきている。特に、国内外の紙・パルプ工業や精密機械関連産業地域の土壌中にはテトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCE)等の揮発性有機塩素化合物による汚染がかなりの範囲で拡がっていると考えられており、実際に環境調査等で検出された事例が多数報告されている。これらの揮発性有機塩素化合物は土壌中に残留したものが雨水等により地下水中に溶解して周辺地域一帯に拡がるとされている。このような化合物は発癌性や生殖毒性の疑いがあり、また環境中で非常に安定であるため、特に飲料水の水源として利用されている地下水の汚染は大きな社会問題とされている。
【0003】このようなことから、揮発性有機塩素化合物の除去、分解による、汚染地下水等の水性媒体、土壌、及びそれに伴う周辺気相の浄化は、環境保全の視点から重要な課題であり、浄化に必要な技術の開発が行われてきている。
【0004】例えば、活性炭による吸着処理、光や熱による分解処理等が検討されてきたが、コストや操作性の面からかならずしも実用的であるとはいえない。
【0005】一方、環境中では安定であるTCE等の揮発性有機塩素化合物に対して近年微生物による分解が報告され、その実用化に向けた研究がなされ始めている。即ち、微生物を用いた生物分解処理では、用いる微生物を選択することで無害な物にまで揮発性有機塩素化合物を分解できること、基本的に特別な薬品が不要であること、メンテナンスにかかる労力やコストを軽減できること等の利点がある。
【0006】また、フェノールやトルエン、クレゾールといった芳香族化合物の浄化処理も同様に物理・化学的手法から微生物分解を用いた手法に移行しつつある。
【0007】この様な、微生物を用いた環境修復方法はバイオレメディエーション(bioremediation)と呼ばれ、それは、次の二つの方法に大別される。
【0008】■バイオスティムレーション(biostimulation)汚染環境中に栄養源や酸素等を導入し、該環境中にもともと棲息している分解微生物(土着微生物)を活性化することにより汚染物質を分解させて環境の浄化修復を行う方法。
【0009】■バイオオーグメンテーション(bioaugmentation)難分解性物質を分解できる微生物を探索して単離し、単離した微生物を育種、培養したのち、汚染環境中に、その微生物が棲息するために必要とする栄養源や酸素等と共に導入して汚染物質を分解させて環境の浄化修復を行う方法。
【0010】■の方法に属する先行技術としては、真空抽出法と酸素供給によって土着微生物を活性化する方法(米国特許第5,021,159号公報)、酸素源と栄養素を含む水溶液を供給・回収して浄化処理を進める方法(特開平1−34380号公報)、地下水層に注入・抽出井戸を設けて栄養や酸素を供給して浄化処理を促進する方法(米国特許第5,279,740号公報)等が知られている。
【0011】■の方法に属する先行技術としては、特表平4−502277号公報において、シュードモナスプチダF1株とシュードモナスセパシアG4株を用いて擬似帯水層のトリクロロエチレンの分解を評価し、特開平8−294387号公報では、オキシゲナーゼを構成的に発現するトリクロロエチレン分解菌であるJM1株を用いてトリクロロエチレンで汚染された地下水や土壌等の環境の浄化を試みている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】■の方法では、環境中で増殖、分解等を制御するため、処理効率が低いという問題がある。また■の方法ではもともと存在しない微生物を導入するため、その環境に適応させて分解能を発揮せしめるために様々な工夫が必要であるという問題がある。
【0013】本発明の課題は上記■及び■の方法のこのような問題点を解決するための方法を提供しようとするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記課題は、以下の本発明によって達成される。
【0015】すなわち、本発明の方法は、有機化合物で汚染された、環境修復方法において、1.該有機化合物を分解可能な微生物を、該環境の要素の少なくとも一部分を含んだ培地で予め培養する工程と、2.該培養した微生物と該環境中の該有機化合物とを接触せしめる工程を含むことを特徴とする、環境修復方法である。
【0016】本発明方法で用いる有機化合物を分解可能な汚染物質分解微生物は、有機化合物で汚染された環境中にもともと棲息している土着微生物でもよいし、その環境とは異なるところから単離された外来の微生物であってもよい。
【0017】本発明方法の対象となる有機化合物で汚染された環境は特に制限されるものではなく、土壌または地下水や工場廃水、生活廃水などの有機化合物で汚染された水などがすべて対象となる。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明方法に於いて、培養した汚染物質分解微生物と環境中の汚染物質との接触は、微生物が分解活性を発現しうる条件にあればいかなる方法を用いても実施することが可能で、バッチ法、半連続法、連続法など種々の方法を用いて実施できる。その際、培養した微生物は、半固定状態で、あるいは適当な担体に担持させておいて用いることもできる。
【0019】本発明方法は、閉鎖系、開放系いずれの汚染環境処理方法にも適用できる。なお、培養した微生物と環境中の汚染物質とを接触せしめる工程に於いて、該微生物の生育を促進する各種の方法を併用して実施してもよい。
【0020】本発明方法の対象となる環境が土壌である場合、培養した汚染物質分解微生物と土壌との接触には、汚染された土壌中に該微生物を含む液を導入する方法、該微生物を含む液相中に汚染された土壌を導入する方法、該微生物を担持させた担体と汚染された土壌の水懸濁液とを接触させる方法等を用いることができる。
【0021】本発明方法の対象となる環境が地下水、工場廃水、生活廃水などの汚染された水である場合、培養した汚染物質分解微生物と汚染された水との接触には、汚染された水中に該微生物を含む液を導入する方法、該微生物を含む液相中に汚染された水を導入する方法、該微生物を担持させた担体に汚染された水を接触させる方法等を用いることができる。
【0022】本発明の対象となる汚染物質すなわち有機化合物として適しているのは、フェノール、トルエン、クレゾール等の芳香族化合物や、トリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCE)等の揮発性有機塩素化合物であるが、本発明の方法は、PCBやγ−HCH、PCP等の塩素化炭化水素や、シマジン、クロルニトロフェン等の農薬の微生物分解浄化処理にも適用することが可能である。本発明方法に於いて、汚染物質分解微生物を培養する方法は、それぞれの微生物にとって好適な条件で培養すればよいが、培養するための培地としてはM9培地やMSB培地等の基礎塩培地に、有機酸塩や酵母エキス、ペプトン等の栄養源を含んだものが望ましい。
【0023】以下に一例としてM9培地の組成を示す。
【0024】Na2HPO4:6.2gKH2PO4:3.0gNaCl:0.5gNH4Cl:1.0g (培地1リットル中)
本発明方法に於ける培養工程は、浄化対象となる環境の全要素或いは一部分を含んだ培地で汚染物質分解微生物を培養して行う。このような要素とは、例えば鉱物成分や、粒子、有機物等が含まれるが、非常に微量な何らかの要素が効果をもたらす場合がある。
【0025】
【実施例】以下、実施例により本発明方法を具体的に示すが、本発明方法はこれに限定されるものではなく、適宜本発明の範囲内で変更できるものである。
実施例1神奈川県横浜市より採取した細砂土1gを50ml容の滅菌チューブに入れ、フェノール200ppmのみを含むM9液体培地10mlを加えて、23℃で振とうした。
【0026】1週間後、上記懸濁液1mlを50ml容の滅菌チューブ中のフェノール200ppmのみを含むM9液体培地9mlに加え、再び23℃で振とうした。
【0027】1週間後、上記懸濁液1mlを50ml容の滅菌チューブ中のフェノール200ppmのみを含むM9液体培地9mlに加え、再び23℃で振とうした。
【0028】1週間後、懸濁液を希釈し、フェノール200ppmのみを含むM9寒天培地上に塗布し、25℃で1週間培養したところ、形状の異なるコロニーが5種類確認された。
【0029】これらのコロニーをあわせてフェノール200ppmのみを含むM9液体培地に摂取して懸濁させ、27.5ml容バイアル瓶に10ml加えた後、テフロンライナー付きブチルゴム栓及びアルミシールで密栓し、TCE飽和蒸気を、初期濃度2ppm(すべてのTCEが溶液に溶解しているものとした場合)となるようにガスタイトシリンジで加えた。
【0030】このバイアル瓶を25℃で3日間培養した後、バイアル瓶中の気相を0.1ml採取してヘッドスペース法によりTCEをガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B、FID検出器)にて測定した。
【0031】その結果、初期2ppmであったTCEが0.8ppmにまで減少していた。このことから、混合培養液中にフェノールの存在下でTCEを分解する微生物が存在することが示唆されたため、本混合培養液を本実施例に供することとした。
(1)細砂上澄液の調製上に示したものと同様の、神奈川県横浜市より採取した細砂土50gを500mlの脱イオン水中に添加し、マグネチックスターラーで1時間撹拌し、一晩静置した。上澄を細砂上澄液とした。
【0032】(2)前培養500ml容振とうフラスコに、(1)で調製した細砂上澄液に上記のM9培地組成塩類を溶解させたもの(以下上澄M9培地とする)と、通常のM9培地とのそれぞれにフェノールを200ppmとなるように添加し、0.22μmのフィルターでろ過滅菌したもの200mlを加え、上記で用いた混合培養液2mlを添加して、23℃で20時間振とう培養した。
【0033】(3)TCE分解実験(2)の様にして培養したそれぞれの培養液を遠心分離にて集菌し、M9培地に再懸濁してOD(濁度;660nmにて測定)が1になるよう調整した。このそれぞれの菌懸濁液13.5mlを、27.5ml容バイアル瓶に加え、予めTCEを5ppmとなるように加えた細砂上澄液を13.5ml加えてテフロンライナー付きブチルゴム栓及びアルミシールで密栓し、20℃で静置した。
【0034】菌液の代わりにM9培地を加えたものをブランクとし、3日後にバイアル瓶から各溶液0.5を採取し、予め0.5mlのノルマルヘキサンを入れた1.5ml容のシリンジバイアル瓶に加えて、3分間撹拌した。
【0035】ノルマルヘキサン層を10倍に希釈し、その1mlをガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B、ECD検出器)に注入し、TCE濃度を測定した。
【0036】結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

表1に示す結果の通り、本発明の方法によって、TCEの分解効率が明らかに上昇した。
実施例2分解対象物をフェノール400ppmにした他は、実施例1と全く同じ方法で、本発明の効果を評価した。なお、フェノールの定量は、溶液0.5mlを採取し、4−アミノアンチピリンを用いた吸光光度法(JIS K 0102−1993 28.1)によって行った。
【0038】結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

表2に示す結果の通り、本発明の方法によって、フェノールの分解効率が明らかに上昇した。
実施例3千葉県君津市より採取した細砂土1gを50ml容のバイアル瓶に入れ、トルエン100ppmのみを含むM9液体培地10mlを加えて、テフロンライナー付きブチルゴム栓及びアルミシールで密閉し、25℃で振とうした。
【0040】1週間後、上記懸濁液1mlを50ml容のバイアル瓶中のトルエン100ppmのみを含むM9液体培地9mlに加えて密閉し、再び25℃で振とうした。1週間後、上記懸濁液1mlを50ml容のバイアル瓶中のトルエン100ppmのみを含むM9液体培地9mlに加えて密閉し、再び25℃で振とうした。1週間後、懸濁液を希釈し、M9寒天培地上に塗布し、トルエンガス雰囲気下、25℃で1週間培養したところ、形状の異なるコロニーが3種類確認された。これらのコロニーをあわせてトルエン100ppmのみを含むM9液体培地に摂取して懸濁させ、27.5ml容バイアル瓶に10ml加えた後、テフロンライナー付きブチルゴム栓及びアルミシールで密栓し、TCE飽和蒸気を、初期濃度2ppm(すべてのTCEが溶液に溶解しているものとした場合)となるようにガスタイトシリンジで加えた。
【0041】このバイアル瓶を25℃で3日間培養した後、バイアル瓶中の気相を0.1ml採取してヘッドスペース法によりTCEをガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B、FID検出器)にて測定した。
【0042】その結果、初期2ppmであったTCEが0.3ppmにまで減少していた。このことから、混合培養液中にトルエンの存在下でTCEを分解する微生物が存在することが示唆されたため、本混合培養液を本発明の実施例に供することとした。
【0043】(1)細砂上澄液の調製上に示したものと同様の、千葉県君津市より採取した細砂土50gを500mlの脱イオン水中に添加し、マグネチックスターラーで1時間撹拌し、3時間静置した。微細なシルト成分を含む上液を細砂懸濁液とした。
【0044】(2)前培養100ml容バイアル瓶に、(1)で調製した細砂懸濁液に上記のM9培地組成塩類を溶解させたもの(以下懸濁M9培地とする)と、通常のM9培地とをオートクレーブにて滅菌したもの50mlを加え、上記で用いた混合培養液2mlを添加して、テフロンライナー付きブチルゴム栓及びアルミシールで密閉し、トルエンガスを初期濃度100ppm(全てが溶液に溶解したとした時の濃度)をガスタイトシリンジでくわえ、25℃で20時間振とう培養した。
【0045】(3)TCE分解実験(2)の様にして培養したそれぞれの培養液を遠心分離にて集菌し、M9培地に再懸濁してOD(濁度;660nmにて測定)が1になるよう調整した。このそれぞれの菌懸濁液13.5mlを、27.5ml容バイアル瓶に加え、予めTCEを5ppmとなるように加えた細砂上澄液を13.5ml加えてテフロンライナー付きブチルゴム栓及びアルミシールで密栓し、20℃で静置した。
【0046】菌液の代わりにM9培地を加えたものをブランクとし、3日後にバイアル瓶から各溶液0.5を採取し、予め0.5mlのノルマルヘキサンを入れた1.5ml容のシリンジバイアル瓶に加えて、3分間撹拌した。
【0047】ノルマルヘキサン層を10倍に希釈し、その1mlをガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B、ECD検出器)に注入し、TCE濃度を測定した。
【0048】
【表3】

表3に示す結果の通り、本発明の方法によって、TCEの分解効率が明らかに上昇した。
実施例4分解対象物をトルエン200ppmにした他は、実施例3と全く同じ方法で、本発明の効果を評価した。なお、トルエンの定量は、バイアル瓶中の気相を0.1ml採取してヘッドスペース法によりガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B、FID検出器)によって行った。
【0049】結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

表4に示す結果の通り、本発明の方法によって、トルエンの分解効率が明らかに上昇した。
【0051】
【発明の効果】本発明の方法により、有機化合物で汚染された土壌や地下水といった自然環境の微生物による分解浄化修復において、従来より効率の良い生物分解処理が可能となる。
【出願人】 【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【出願日】 平成9年(1997)9月19日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】若林 忠 (外4名)
【公開番号】 特開平11−90411
【公開日】 平成11年(1999)4月6日
【出願番号】 特願平9−255116