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【発明の名称】 人工関節用摺動部材および製造方法
【発明者】 【氏名】富田 直秀

【氏名】宅間 靖雄

【要約】 【課題】耐酸化性、耐摩耗性および耐疲労性に優れた人工関節用摺動部材を製造する。

【解決手段】135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレンと、ビタミンEとを含むポリエチレン組成物を調製し、この組成物から人工関節用摺動部材を成形し、放射線照射を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレンと、ビタミンE類とを含むポリエチレン組成物を成形して得られる人工関節用摺動部材。
【請求項2】 ポリエチレン組成物中のビタミンE類含有量が0.001〜10重量%である請求項1記載の人工関節用摺動部材。
【請求項3】 ポリエチレン組成物が、135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレン以外のα−オレフィン樹脂を10重量%以下含む組成物である請求項1または2記載の人工関節用摺動部材。
【請求項4】 135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレンと、ビタミンE類とを含むポリエチレン組成物を成形する人工関節用摺動部材の製造方法。
【請求項5】 成形する前、ポリエチレンまたはポリエチレン組成物を予め不活性ガスと接触させる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】 成形中ないし成形後に放射線を照射する請求項4または5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、医療用人工関節に使用されるポリエチレン製の人工関節用摺動部材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般にポリオレフィンは合成樹脂の中でも生体に対する安全性に優れる樹脂であることから、人工関節を含め各種医療用材料として広く用いられている。人工関節は、慢性関節リューマチや変形性関節炎症等で十分に機能しなくなった関節、例えば膝関節、股関節、肘関節、指関節等に対して最も有効な治療用部材として近年多く使用され、その効果が認められている。
【0003】人工関節は、一般にポリオレフィンからなる摺動部材と各種合金やセラミックス材料などの比較的弾性率の高い材料からなるステム部とから構成されている。このような人工関節の摺動部材は長期にわたり体内に埋め込んで使用される上、人体の各種動作に伴ってステム部との摺動および摩耗が発生するほか衝撃も受けるため、人工関節用摺動部材の原料としては、ポリオレフィンの中でも特に化学的に安定であり、摺動性、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた高密度ポリエチレンなどが一般に広く使用されている。
【0004】このような人工関節は医療用材料であり、生体内で使用するため使用前に十分な滅菌を行う必要がある。滅菌には、一般にガンマ線または電子線等の放射線照射が行われている。しかし、ガンマ線を照射するとポリエチレン内にフリーラジカルが生じ、ポリエチレンの粒子中および粒子間に残留している酸素と反応して酸化が起こる。この酸化により、ポリエチレンの耐摩耗性や耐疲労性が低下する。特に耐疲労性の低下によるポリエチレン摺動部材の早期の摩耗による破壊は、人工関節が開発された当初は予想されなかった現象であり、この破壊のため再度、部材を置換するための手術を行わなければならず、近年大きな問題となっている。
【0005】これらの破壊のメカニズムを解明するべく種々の研究が行われ、破壊がポリエチレンの粒界に沿って進行することが解明されてきた。このような破壊を防ぐことが人工関節を長期間使用するための課題となっている。その解決法として、例えば米国特許第5414049号には、不活性ガス中にポリエチレンを入れた後ガンマ線照射による滅菌を行い、フリーラジカルの発生が原因で起こる酸化を防止する方法が記載されている。しかし、不活性ガス中に入れてもポリオレフィン中の酸素を完全に取り除くことは困難であり、酸化を完全に防ぐことはできない。また、フリーラジカルを短時間で消滅させることにより酸化を防ぐ方法として、ガンマ線照射後のアニーリングの実施が提案されているが、ガンマ線照射時の酸化を抑制できないため、その効果も確実ではない。このような状況から、より長期にわたり安定して人工関節を使用するため、耐酸化性、耐摩耗性および耐疲労性に優れた人工関節用摺動部材の開発が急務となっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、耐酸化性、耐摩耗性および耐疲労性に優れた人工関節用摺動部材およびその製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来のポリエチレン摺動部材の欠点の改良と耐疲労性の向上のため、製造処方について鋭意検討した結果、酸化防止剤として比較的耐熱性が高く、生体への影響が少ないビタミンE類を使用し、成形品にガンマ線照射を行うことで飛躍的に耐疲労性を改善できることを見いだし、本発明に至った。
【0008】すなわち、本発明は次の人工関節用摺動部材およびその製造方法である。
(1)135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレンと、ビタミンE類とを含むポリエチレン組成物を成形して得られる人工関節用摺動部材。
(2)ポリエチレン組成物中のビタミンE類含有量が0.001〜10重量%である上記(1)記載の人工関節用摺動部材。
(3)ポリエチレン組成物が、135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレン以外のα−オレフィン樹脂を10重量%以下含む組成物である上記(1)または(2)記載の人工関節用摺動部材。
(4)135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のポリエチレンと、ビタミンE類とを含むポリエチレン組成物を成形する人工関節用摺動部材の製造方法。
(5)成形する前、ポリエチレンまたはポリエチレン組成物を予め不活性ガスと接触させる上記(4)記載の製造方法。
(6)成形中ないし成形後に放射線を照射する上記(4)または(5)記載の製造方法。
【0009】本発明で使用するポリエチレンは、135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上、好ましくは3〜40dl/g、さらに好ましくは5〜35dl/gのポリエチレンである。このようなポリエチレンは、モノマー成分としてエチレンを主成分とするものであり、例えばエチレンの単独重合体、エチレンと少量、例えば10重量%以下、好ましくは3重量%以下のエチレン以外のモノマーとの共重合体などがあげられる。エチレンと共重合するモノマーとしては、エチレンと共重合可能なモノマーであれば特に制限されず、例えば炭素数3〜20、好ましくは3〜15のα−オレフィンなどがあげられる。
【0010】エチレンと共重合する上記α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−イコセンなどがあげられる。これらは1種または2種以上で共重合体される。
【0011】このようなポリエチレンとしては、市販品を使用することもできる。また前記物性を有するものであれば、従来の人工関節用摺動部材の原料として使用されている公知のポリエチレンを使用することもできる。
【0012】本発明で使用するビタミンE類としては、ビタミンEまたはビタミンE活性を有する化合物が使用できる。これらは天然品および合成品が使用できる。具体的なものとしては、d−α−トコフェノール、d−β−トコフェノール、d−γ−トコフェノール、d−δ−トコフェノール、dl−α−トコフェノール、d−α−トコトリエノール、d−β−トコトリエノール、d−γ−トコトリエノール、d−δ−トコトリエノール、d−α−トコフェリルアセタート、これらの異性体、誘導体、およびこれらの混合物などが使用できる。またビタミンE類としては市販品を使用することもできる。ビタミンE類は食品添加物などとしても使用されている化合物であり、人工関節用摺動部材の成分として使用しても安全である。
【0013】本発明の人工関節用摺動部材は前記ポリエチレンおよびビタミンE類を含むポリエチレン組成物から成形されてなるものである。このポリエチレン組成物中のポリエチレンの含有量は90〜99.999重量%、好ましくは95〜99.99重量%、ビタミンE類の含有量は0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%であるのが望ましい。
【0014】原料となるポリエチレン組成物中には、前記ポリエチレンおよびビタミンE類に加えて、生体中で使用可能な樹脂や添加剤などが含まれていてもよい。このような樹脂としては、前記ポリエチレン以外のα−オレフィン樹脂などがあげられ、通常ポリエチレン組成物中の含有量として10重量%以下、好ましくは0.1〜5重量%配合することができる。また添加物としては、例えばステアリン酸塩類などがあげられる。
【0015】本発明の人工関節用摺動部材は、前記ポリエチレン組成物を成形することにより製造することができる。製造に使用するポリエチレン組成物は前記ポリエチレン、ビタミンE類および必要により配合する他の成分をヘンシェルタイプのミキサー等の混合機などを用いて混合することにより調製することができる。ポリエチレン組成物中ではビタミンE類はできるだけ均一に分散されているのが好ましい。
【0016】ポリエチレン組成物を調製する場合、ポリエチレンはどのような形状のものでも使用でき、例えばパウダー、ペレットまたはタブレット状のものなどが使用できる。またビタミンE類もどのような形状のものでも使用でき、例えばパウダーまたはペレット状のものなどが使用できるが、ポリエチレンと混合する際に容易に均一に分散させることができるため、パウダー状のものが好ましい。その他の形状の場合は粉砕して使用するのが好ましい。
【0017】ポリエチレン組成物の調製および人工関節用摺動部材の成形は連続して行うこともできるし、ポリエチレン組成物を調製して一時貯蔵した後人工関節用摺動部材の成形を行うこともできる。いずれの場合も、原料となるポリエチレンおよびポリエチレン組成物(以下、これらをまとめて成形前の原料という)はそのまま人工関節用摺動部材の成形に使用することができるが、成形前に不活性ガスと接触させて、ポリエチレンまたはポリエチレン組成物中に包含されている酸素を不活性ガスで置換し、酸素濃度を低減させておくのが好ましい。酸素濃度を低減させることにより、成形時または成形後に粒子間に封入された酸素により内部で起こる酸化を防止することができ、このためより耐酸化性に優れた人工関節用摺動部材を得ることができる。
【0018】成形前の原料と不活性ガスとの接触方法としては、例えば不活性ガスが充填された密閉容器中に成形前の原料を入れて一時保管する方法;密閉容器中に成形前の原料を入れた後、減圧してから不活性ガスを導入し、強制的に不活性ガスで置換方法する方法;密閉容器中に成形前の原料を入れた後、不活性ガスを流通させて自然置換させる方法等があげられる。不活性ガスとしては、ポリエチレンおよび成形原料と反応しないガスであればどのようなものでも使用することができ、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等があげられる。
【0019】本発明の人工関節用摺動部材を製造する際の成形法は特に限定されず、押出成形、圧縮成形、射出成形等、公知の成形法を採用することができる。また、これらの成形法で成形した成形物はそのまま本発明の人工関節用摺動部材として使用することもできるし、成形後さらに切削加工を行った後本発明の人工関節用摺動部材として使用することもできる。例えば、ラム押出成形機によりロッドに成形した後、切削加工により摺動部材に成形する方法;圧縮成形により板状成形物にした後、切削加工により摺動部材に成形する方法等があげられる。
【0020】人工関節用摺動部材は医療用として使用されるため、殺菌を行う必要がある。殺菌は成形中または成形後に行うことができる。殺菌方法は医療用品の殺菌に採用されている公知の殺菌方法であって、ポリエチレン、ビタミンE類および所望により配合される他の原料に適用できる殺菌方法であれば特に限定されない。例えば、放射線滅菌法、乾熱法またはガス滅菌法等が採用できる。これらの中では、容易に、短時間で、かつ完全に殺菌でき、しかもポリエチレンを架橋させることができる放射線滅菌法が好ましい。
【0021】前記放射線滅菌法は、ガンマ線などの電磁放射線を照射する方法と、電子線などの粒子放射線を照射する方法に大別されるが、いずれの方法を用いてもよい。放射線の照射量は、滅菌が可能な照射量であれば特に限定されないが、ポリエチレンが十分な架橋反応を起こすような照射量とするのが好ましい。通常0.1Mrad以上の放射線を照射すると、滅菌が可能であり、かつポリエチレンが架橋するので、照射量は0.1Mrad以上、好ましくは0.5〜5Mradとするのが望ましい。ポリエチレンを架橋させることにより、人工関節用摺動部材の耐摩耗性をより向上させることができる。なおポリエチレン以外のα−オレフィン樹脂を配合した場合、このα−オレフィンも架橋する。
【0022】前記乾熱法では、人工関節用摺動部材を140〜200℃で乾熱することにより殺菌することができる。また前記ガス滅菌法は、人工関節用摺動部材をエチレンオキサイドガスまたはプロピレンオキサイドガスと接触させることにより殺菌することができる。この場合、ガスが滅菌物に吸着して残留したり、ガスに毒性があるため、操作に注意する必要がある。
【0023】滅菌は空気中、不活性ガス中または真空中のいずれで行ってもよいが、酸化を極力避けるため、酸素を含まない不活性ガス中または真空中で行うが好ましい。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、窒素、アルゴン、ネオン等があげられる。また真空中で行う場合は酸素の残存を避けるため、いったん不活性ガス雰囲気にガス置換を行った後、真空にするのが好ましい。
【0024】このようにして得られる本発明の人工関節用摺動部材は、従来の摺動部材に比較して耐酸化性に優れ、酸化劣化をほとんど起こさない。さらに、酸化が原因と考えられている耐疲労性が改善し、長期間にわたる使用においても材料の破壊が認められないため、人工関節用途に求められる要求を高い水準で満たした理想的な摺動部材である。
【0025】このように本発明の人工関節用摺動部材は、長期間安定して人工関節に用いることができ、医療分野においてきわめて有用な製品となる。
【0026】
【発明の効果】本発明の人工関節用摺動部材は、ポリエチレンおよびビタミンE類を含有するポリエチレン組成物から成形されているので、耐酸化性に優れ、酸化劣化をほとんど起こさない。このため、酸化が原因と考えられている耐摩耗性および耐疲労性が改善され、長期間にわたる使用においても材料の破壊が認められず、長期間安定して使用することができる。
【0027】本発明の人工関節用摺動部材の製造方法は、ポリエチレンおよびビタミンE類を含有するポリエチレン組成物を成形しているので、上記人工関節用摺動部材を効率よく簡単に製造することができる。また成形する前に、ポリエチレンまたはポリエチレン組成物を予め不活性ガスと接触させることにより、より耐酸化性に優れた人工関節用摺動部材を容易に製造することができる。さらに成形中ないし成形後に放射線照射を行うことにより、殺菌とともにポリエチレンを架橋させることができ、これにより、より耐摩耗性に優れた人工関節用摺動部材を容易に製造することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】次に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【0029】実施例1〜3超高分子量ポリエチレン(三井化学(株)製ハイゼックス・ミリオン240S、商標、分子量200万、135℃のo−ジクロロベンゼン中で測定した極限粘度[η]13.5dl/g)を500g計量した後、ビタミンE(和光純薬工業(株)製)を所定量秤量して添加した。その後、ブレンドミキサーにより、3分間攪拌を行い、成形用のポリエチレン組成物とした。このポリエチレン組成物粉体を直径3cmのガラス管に充填し、組成物粉末の飛散防止のためガラスウールをフィルターとして両端につめた後、両端をガラス管付きゴム栓で封じた。
【0030】次に窒素置換のため、窒素ボンベに接続した一方のガラス管から、窒素を600ml〜700ml/分の流量に調整して吹き込んだ。5分間窒素を吹き込んだ後、プレス機の金型にポリエチレン組成物粉体を150g入れた。金型(内寸35mm×125mm×125mm)は予めポリエチレンフィルムで覆い、チューブを1箇所から中に差し込み窒素ガスを導入することにより、窒素雰囲気にした。
【0031】室温下、圧力51kg/cm2でプレスした後、一旦5分間の脱気を行い、185℃に昇温後プレスを5分間、さらに加熱終了後6分間プレスを継続して自然冷却した。その後、金型を水冷却して10分間プレスを行い成形を終了した。成形終了後、窒素ガス雰囲気下、所定量の60Co線源にてガンマ線照射処理を行った。
【0032】成形プレートから5mm×5mm×20mmの試料を作成し、オーブンを使用して200℃の空気中で所定時間加熱した。加熱終了後IR分析を行い、ケトン基、カルボニル基の吸収を調べた。結果を表1にまとめた。
【0033】また、成形プレートから60mm×60mm×10mmの試料を作成し、凸面接触疲労試験機を用いて疲労試験を行った。試験は、37℃の蒸留水中で曲率半径3mmの球上の頭部を有するチタン合金製ロッドにより最大3kg/mm2の圧力を加え、摩耗試験を行った。摩耗により発生した試験片内部のクラックを、超音波式探査映像装置(日立建機製AT5500、商標)を用いて観察した。フレーキングの発生は目視および実体顕微鏡で確認した。またクラック面積率は超音波反射強度0.4V以上の部分をクラック面積とみなし、観察面積に占める比率を求めた。その結果を表1にまとめた。
【0034】比較例1〜3実施例においてビタミンEを添加しないことと成形前の窒素置換を行わない以外は実施例1と同様の方法でプレス成形を行った。実施例1と同様の試料でテストした結果を表1にまとめた。
【0035】
【表1】

【出願人】 【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
【識別番号】391033827
【氏名又は名称】作新工業株式会社
【出願日】 平成10年(1998)2月25日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】柳原 成
【公開番号】 特開平11−239611
【公開日】 平成11年(1999)9月7日
【出願番号】 特願平10−44091