| 【発明の名称】 |
眼手術用灌流液製剤 |
| 【発明者】 |
【氏名】米田 豊秋
【氏名】直井 信久
【氏名】見市 博明
【氏名】中村 滋
【氏名】秦 俊尚
【氏名】斉藤 文郎
【氏名】大沼 毅
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| 【要約】 |
【課題】眼手術時において術中・術後の内皮細胞をはじめとする眼組織の保護および網膜機能の維持効果に優れ且つ生体安全性の高い眼内灌流液製剤を提供すること。
【解決手段】D−3−ヒドロキシ酪酸およびその塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物並びに重炭酸塩を含有する眼手術用灌流液製剤。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 D−3−ヒドロキシ酪酸およびその塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物並びに重炭酸塩を含有することを特徴とする眼手術用灌流液製剤。 【請求項2】 D−3−ヒドロキシ酪酸の塩類がナトリウム塩、カリウム塩、L−リジン塩、L−ヒスチジン塩およびL−アルギニン塩よりなる群から選ばれる請求項1記載の製剤。 【請求項3】 D−3−ヒドロキシ酪酸またはその塩類の水溶液中の濃度が0.1mM以上500mM未満である請求項1記載の製剤。 【請求項4】 重炭酸塩が重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウムよりなる群から選ばれる請求項1記載の製剤。 【請求項5】 重炭酸イオンの水溶液中の濃度が0.1mM以上100mM未満である請求項1記載の製剤。 【請求項6】 生体成分の無機塩、等張化剤、緩衝剤、単糖類および安定化剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含有する請求項1記載の製剤。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、白内障手術、眼内レンズ移植手術、緑内障手術、硝子体手術および全層角膜移植手術などの眼手術用灌流液製剤に関する。さらに詳しくは、該手術を安全且つ有効に実施するために、眼内組織の保護、眼内の手術残留物の吸引除去および角膜上皮並びに結膜の乾燥防止に好適な眼手術用灌流液製剤に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、白内障手術、眼内レンズ移植手術および緑内障手術などの眼科手術様式の開発は、目覚ましい進歩を遂げている。上記の手術を安全且つ有効に実施するためには、手術用補助剤として用いられる灌流液が重要な役割を果たす。例えば白内障手術時においては、手術開始時に角膜周辺部をメスにより切開することにより前房から房水が流出されるので、眼内組織および細胞の保護とともに前房空間維持のためには灌流液や粘弾性物質の注入が不可欠となる。さらに混濁した水晶体の破砕・摘出時に灌流液が眼内に存在すると、破砕物の吸引除去が円滑に実施出来る。また手術中における角結膜表面の乾燥を防止するために灌流液を使用する。 【0003】斯様な灌流液の使用目的を達成するために、製剤化における注意点は、1)浸透圧およびpHは、眼内組織および内皮細胞に対して生理学的に調和すること、2)無機塩、エネルギー源および細胞賦活剤など房水成分の最低必要化合物を添加すること、3)生物学的に安全であること、4)製剤として室温で長期間保存できること、などが挙げられる。 【0004】現在、日本で上市されている眼手術用灌流液製剤には、細胞賦活剤としてオキシグルタチオンが配合された商品があり、また重炭酸イオンを基本とした緩衝系をもつ商品が実用化されている。しかしながら、これらは、用時混合しなければならない2液性の製剤であったり、また角膜内皮の保護に有効な成分を含まないことなどにより、製剤的な安定性並びに使用時の簡便性の問題、および有効性の面からも解決すべき問題点を少なからず含んでいる。 【0005】また、エネルギー源として3−ヒドロキシ酪酸を主成分とする眼手術用灌流液製剤は米国特許第5,116,868号および米国特許第5,298,487号明細書に開示されている。しかしながら、該特許公報には、角膜内皮の機能を維持するのに必要である重炭酸イオンが配合されていない。その理由として、重炭酸イオンが製剤に存在するとCO2分圧により製剤のpHが変動し不安定になること、および3−ヒドロキシ酪酸は代謝によって発生するCO2が重炭酸イオンに変化し自動的に供給されること、従って重炭酸イオンを予め製剤に配合する必要がないことが記載されている。また、上記製剤には、エネルギー源として、ヒトの房水成分には存在しないと云われている酢酸ナトリウムが含有されている。 【0006】本発明において有効成分として用いられるD−3−ヒドロキシ酪酸またはその塩類は、生体成分として知られており、肝臓で脂肪酸が酸化されることにより生成され、末梢組織においてエネルギー源として用いられる(レーニンジャー新生化学、第2版、p625, 1993年参照)。また本物質は、角膜組織に対してグルコースよりもエネルギー産生基質として極めて有用であることが知られている(TRANSPLANTATION, 57, p1778〜1785,1994年参照)。D−3−ヒドロキシ酪酸の医薬品としての適用は、生体蛋白異化作用亢進状態や身体に侵襲の加わった患者に対する栄養補給のための輸液配合成分としての報告がある(特開平2−191212号公報参照)。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、眼手術時において術中・術後の眼組織および内皮細胞の保護に優れ且つ生体安全性の高い眼内灌流液製剤を提供することにある。本発明の他の目的は、無機イオン、エネルギー源、等張化剤、緩衝剤、重炭酸イオンおよび安定化剤等を添加することにより、上記の優れた特性に加えて、さらに製剤的に安定な眼内灌流液製剤を提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、エネルギー源として用いるD−3−ヒドロキシ酪酸またはその塩類と重炭酸塩を組合わせることにより、眼手術用灌流液製剤として安全性が高く且つ眼組織および内皮細胞の保護のために優れた機能を発現し、さらにヒトの房水成分として知られている無機塩、等張化剤およびグルコースを添加し、さらに緩衝剤並びに安定化剤などを添加することにより安定な該製剤を提供し得ることを解明し、本発明を完成した。 【0009】すなわち、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、D−3−ヒドロキシ酪酸およびその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物並びに重炭酸塩を含有することを特徴とする眼手術用灌流液製剤により達成される。 【0010】3−ヒドロキシ酪酸の化学構造式のC3位の立体配置に関しては、D−体、D、L−ラセミ体、およびL−体の一群がある。そのうち、本発明では、眼手術用灌流液製剤の有効性を最大に発揮する上でD−体が用いられる。D−体はD−体としての他、DL−体として本発明の製剤中に含有することができる。D−3−ヒドロキシ酪酸およびその塩は、アセト酢酸エチルエステルの選択的不斉接触還元および引き続くエステル加水分解により容易に合成されるので、比較的安価に該化合物を入手することが出来る。本発明のD−3−ヒドロキシ酪酸の塩類は、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、L−リジン塩、L−ヒスチジン塩およびL−アルギニン塩よりなる群から選ばれる。また、D−3−ヒドロキシ酪酸およびその塩の水溶液製剤の濃度は、0.1〜500mMの範囲にあるのが好ましい。 【0011】本発明における重炭酸イオンとしては、重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウムが好ましく、またその濃度は0.1〜100mMの範囲が好ましい。重炭酸イオン無添加の製剤では、角膜機能維持のための重要な指標の一つである角膜膨潤抑制効果が非常に小さい。 【0012】本発明における灌流液製剤の添加物としては、ヒトの房水および硝子体成分に存在する無機塩、他のエネルギー源としてグルコース、浸透圧およびpHを眼内組織および内皮細胞と調和させるための等張化剤並びに緩衝剤、および製剤の安定化剤等を適宜使用するのが望ましい。 【0013】本発明に用いられる無機塩並びに等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび硫酸マグネシウムなどからなるアルカリまたはアルカリ土類金属塩の如き無機塩、およびマンニトール、ソルビトール、キシリトールおよびデキストランなどの糖質の如き等張化剤が好ましく用いられる。これらは、単独であるいは2種以上併用することが出来る。これら無機塩並びに等張化剤の濃度はそれぞれ0.1〜1,000mMの範囲が好ましい。また、製剤の浸透圧は、270〜350mOsmの範囲に保持するのが望ましい。 【0014】緩衝剤としては、例えばリン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウムの如きリン酸系緩衝剤、並びに硼酸および硼酸ナトリウムの如き硼酸系緩衝剤が好ましい。そのうち、ヒトの房水成分として存在するリン酸系緩衝剤がさらに好ましい。緩衝剤の濃度は、0.1〜50mMの範囲が好ましい。本発明の水溶液製剤のpH範囲は、眼内組織および細胞に支障をきたさず並びにそれらの機能を維持するのに必要なpH6.8〜8.2が好ましい。さらにはpH7.2〜8.0の範囲が好ましく、家兎眼を用いた機能性テストおよび安全性テストの結果、これらのpH範囲は眼手術用灌流液として許容出来るものである。 【0015】本発明によれば、灌流液製剤の主たるエネルギー源はD−3−ヒドロキシ酪酸であるが、副エネルギー源として補助的にグルコースを添加してもよい。グルコースの濃度は、0.1〜50mMの濃度範囲が好ましい。安定化剤としては、例えばクエン酸およびそのナトリウム塩並びにカリウム塩が好ましく、その濃度は0.01〜7.5mMの範囲が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜5.0mMの範囲である。 【0016】このような主成分および添加物は、それらの所定量を順次蒸留水に溶解し、希塩酸または希アルカリ液にてpHを調整した後、一液型として透明ガラス壜またはプラスティック壜を用いて、共に密栓下で保存出来る。斯様に保存された製剤を40℃・75%湿度の下に6カ月保存した試料は、試験開始時と比較し、外観や浸透圧等には変化はなかった。一方、pHに関しては、クエン酸ナトリウム量を好ましくは0.1〜5.0mM、より好ましくは0.15〜3.0mMの濃度範囲に設定すると、試験開始時の製剤のpHが7.3〜7.4のとき上記保存終了時にも7.4〜7.8であるので、該水溶液のpHの変動は比較的小さく、重炭酸イオンが存在しても比較的安定な灌流液製剤が得られる。 【0017】 【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 実施例1溶液No.1、No.2およびNo.3は、表1に示す成分の所定量を上から順次蒸留水に溶解し、最後にD−3−ヒドロキシ酪酸ナトリウム(以下、D−3−HBAと略)を溶解して全量を1Lの水溶液とし、希塩酸にてpHを調整後、無菌濾過して被験灌流液とした。また、比較例として用いた市販の商品B(比較液1)および商品M(比較液2)の成分およびそれらの濃度を表1に併せて示す。 【0018】 【表1】
【0019】実施例2実施例1のD−3−HBA含有の溶液No.1の製剤安定性テストを実施した。該製剤500mLを容積600mLの透明ガラス製容器に充填したのち密栓し、被験液5本を調製した。これらは、40℃±0.5℃に調温し、75±5%RHに調湿した恒温恒湿器内にて6カ月間保存した。その結果、溶液の外観、不溶性異物試験および浸透圧は、変化はなかった。溶液のpHに関して、保存開始時のpHは7.3〜7.4であったが、保存6カ月後ではpH7.4〜7.8であり変動が比較的少なかったので、該製剤は室温で長期間安定に保存出来ることが判った。 【0020】実施例3実施例1記載の溶液No.1、No.2、比較液1および比較液2の4種類の被験灌流液を用いて、角膜に対する保護作用の効果をin vitro実験にて比較した。成熟家兎より角膜周囲に強膜が約5mm付着した状態で、強角膜片を摘出し(4種の被験液につき各5枚で計20枚)、被験灌流液中にて36℃条件下、5時間培養後の角膜厚を超音波角膜厚計(DGH-500 PACHETTE, DGH TECHNOLOGY)にて計測した。各被験液の5時間培養終了後の角膜厚変化量(=培養前の角膜厚−培養5時間後の角膜厚)を図1に示した。 【0021】D−3−HBAと重炭酸イオンが配合された溶液No.1は、重炭酸イオンを含まない溶液No.2と比較して角膜保護に著しい効果があることを示し、また市場品の比較液1および比較液2と較べても、角膜膨潤について同等レベルかそれ以上の抑制効果を示した。 【0022】実施例4実施例1記載の被験灌流液No.1、No.2、比較液1および比較液2の4種を同じく用いて、Dutch rabbit(雌雄、体重:1.9〜2.9kg)の前房内灌流のin vivo実験による角膜厚に与える効果を調べた。家兎の各個体を塩酸キシラジンおよび塩酸ケタミンにて筋肉内注射による全身麻酔後、各個体の左右眼の角膜輪部に眼科用メスを用いて3.2mm幅の切開を行い、針先を丸くカットした18Gの注射針をその切開口より前房内に挿入し、4種の被験灌流液をそれぞれ流速10ml/minで120分間灌流した。各被験液の角膜厚の変化量は、灌流前および灌流開始後30分毎の120分迄、0.4%塩酸オキシプロカインの点眼麻酔下、前記の超音波角膜厚計を用いて測定された。それぞれの角膜厚の経時的変化量を図2に示した。 【0023】その結果、実施例3のin vitro実験結果と同様に、図2は、D−3−HBAと重炭酸イオンを含有する溶液No.1が、重炭酸イオン無添加の溶液No.2、比較液1および比較液2の灌流液と比較し、角膜厚の変化が有意に小さく角膜保護効果に優れた灌流液製剤であることを示す。 【0024】実施例5実施例1記載の被験灌流液No.1、No.3および比較液1の3種を用いて、家兎摘出網膜への影響を調べるために、網膜電図(以下ERGと略)による電気生理学的検査を以下の実験法に従って行った。家兎眼球の後方部より摘出された網膜は、被験液と反応させるチャンバー内にセットし、95%O2:5%CO2の割合の気体によって通気された35℃の標準灌流液にERG波形が安定するまで浸漬した。ERG波形が安定したら、同温度に保たれた被験灌流液に置換し60分間培養後、次いで再度標準灌流液に置換し60分間培養したERGのb波振幅を10分間隔で観察した。ERGのb波振幅の変動率は、被験液の置換直前のb波振幅を基準とし、各測定時間の振幅変動を百分率換算した各被験液の経時変化を図3に示す。その結果、D−3−HBAを含む溶液No.1は、該化合物無添加の溶液No.3および市販の比較液1と比較して、振幅の低下は最も小さかったので、網膜機能維持に優れていることが判った。また、標準灌流液に再置換後においても溶液No.1は、他の被験液に比べ、全ての測定時間において振幅%がより100%近く迄回復したことにより、正常な網膜機能へ回復度合いが高いことが判った。従って、本発明のD−3−HBAを含有する製剤である溶液No.1は、硝子体手術用灌流液として優れた機能をもち且つ網膜機能への影響も比較的少ないものと云える。なお、ERGは、網膜機能の変化、すなわち網膜細胞数の減少の程度、言い換えればその症状の範囲、視物質や神経伝達物質の質的・量的異常の程度、網膜細胞膜電位の異常、細胞膜の変性の度合いなどの網膜に係わる総合的な情報を獲得する上で有効な測定法の一つである(眼科学大系、第1巻、69〜70頁、中山書店発行、1993年)。 【0025】 【発明の効果】本発明は、エネルギー源として3−ヒドロキシ酪酸およびその塩類と重炭酸塩を組合わせることにより、眼手術用灌流液として安全性が高く且つ角膜内皮細胞をはじめとする眼組織の保護および網膜機能の維持効果に優れ、さらに無機塩、等張化剤、グルコース、緩衝剤および安定化剤を添加することにより安定な眼手術用灌流液製剤を調製することが出来た。
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| 【出願人】 |
【識別番号】595149793 【氏名又は名称】株式会社オフテクス
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| 【出願日】 |
平成9年(1997)6月2日 |
| 【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】大島 正孝
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| 【公開番号】 |
特開平11−5737 |
| 【公開日】 |
平成11年(1999)1月12日 |
| 【出願番号】 |
特願平9−143597 |
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