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【発明の名称】 生体信号センサ
【発明者】 【氏名】市 川 道 教

【要約】 【課題】行動する動物の生体信号を生体組織の多数の部位から計測することができる生体信号センサを提供する。

【解決手段】基板2と、この基板2の下面に突設され、尖鋭な先端形状を有して動物の生体組織に刺衝される複数の接触子3と、基板2の上面に搭載された半導体チップ4とを備えた生体信号センサ10において、接触子3に対応して設けられ、接触子3により得られた生体信号を増幅する増幅回路11と、この増幅回路11から供給される被増幅信号を順次選択して出力信号線15へ時分割出力するマルチプレクサ12と、これら増幅回路11とマルチプレクサ12を制御する制御回路13とを含む処理回路10をフルCMOS構造で半導体チップ4内に形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】基板と、前記基板の下面に突設され、動物の生体組織に刺衝される複数の接触子と、前記基板の上面に形成され、前記接触子により得られた生体信号を処理する処理回路とを備えた生体信号センサ。
【請求項2】前記処理回路を外部の電源端子に接続する電源供給線と、前記処理回路に外部のクロック信号を供給し、前記処理回路により処理された前記生体信号を出力する信号線とをさらに備え、前記処理回路は、前記接触子に対応して形成され、前記生体信号を増幅する信号増幅回路と、前記信号増幅回路から出力される被増幅信号を順次選択して前記信号線へ出力する並列入力選択回路と、前記信号増幅回路と前記並列入力選択回路とを制御する制御回路とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の生体信号センサ。
【請求項3】前記基板は、内部に形成された内層配線と、上面の周辺部に形成され、この内層配線に接続された上面配線とを有し、前記処理回路は、前記基板の上面の略中央部に固着された半導体チップとして形成され、前記半導体チップは、ボンディングワイヤを介して前記上面配線と接続された電極を有し、前記接触子は、前記基板の下面に規則的に配設されて前記内層配線と接続された、尖鋭端を有する金属電極でなることを特徴とする請求項1または2に記載の生体信号センサ。
【請求項4】前記処理回路は、C−MOS型電界効果トランジスタで形成されることを特徴とする請求項2または3に記載の生体信号センサ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、センサに関し、特に、動物の脳活動の計測に好適な生体信号センサに関する。
【0002】
【従来の技術】脳の構造や機能に関する研究分野においては、多数の電極を脳内に刺衝して神経細胞に伝達される電気信号を取出す多点計測が重要な分析手法として多くの研究者に利用されている。
【0003】従来、多点計測の手段としては、金属電極を16本程度束ねた複合電極を動物の脳内に刺衝する方法や半導体の製造技術を用いて100本以上の電極をアレイ状に配設したものなどが利用されている。即ち、電極のみを脳に刺衝して神経細胞に接触させ、これによって得られた電気信号を多数の電線を用いて取出し、外部の計測装置本体内に備えた多数の増幅器に接続して分析可能な信号量にまで増幅する方法が主に利用されてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電極のみを脳に刺衝する方法では、装置が大掛りとなって、高価であることに加え、電極の点数に限りがあるため、脳組織の多数の部位にわたって電気信号を一度に取出すことができないので、詳細な分析を行うための十分な情報を得ることができなかった。また、電極数に応じた多数の信号線を引出すため、その束は太くなり、このため、信号線の固定が困難となる。また、安定な計測を行うためには、被試験体を拘束して測定しなければならず、行動自由な状態で測定することができないという問題点があった。
【0005】このような電極による計測方法の他、近年は、電圧感受性色素を用いた光による計測技術が開発されている。電圧感受性色素とは、神経活動による膜電位に比例して蛍光率や吸光率が変化する毒性の少ない色素をいい、この電圧感受性色素で染色した神経軸索に光を照射し、通過した光をCCDカメラで撮像し、映像化することにより、神経活動の解析を図るものである。この方法によれば、非接触の計測が可能になるため、脳切片や脳の表面に関しては、1000点を超える脳活動の計測が可能になってきている。
【0006】しかしながら、光による計測は、脳の深部の計測が困難であり、また、振動に弱いため、前述の電極による計測と同様に動物の身体を拘束しなければならず、行動自由な状態での観測には適していない、という問題点があった。
【0007】本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、行動する動物の脳活動をその覚醒中においてさまざまな部位から計測することができる生体信号センサを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、以下の手段により上記課題の解決を図る。即ち、本発明によれば、基板と、この基板の下面に突設され、動物の生体組織に刺衝される複数の接触子と、上記基板の上面に形成され、上記接触子により得られた生体信号を処理する処理回路とを備えた生体信号センサが提供される。
【0009】本発明にかかる生体信号センサは、上記処理回路を外部の電源端子に接続する電源供給線と、上記処理回路に外部のクロック信号を供給し、上記処理回路により処理された上記生体信号を出力する信号線とをさらに備え、上記処理回路は、上記接触子に対応して形成され、上記生体信号を増幅する信号増幅回路と、この信号増幅回路から出力される被増幅信号を順次選択して上記信号線へ出力する並列入力選択回路と、上記信号増幅回路と上記並列入力選択回路とを制御する制御回路とを備えることが好ましい。
【0010】上記基板は、内部に形成された内層配線と、上面の周辺部に形成され、この内層配線に接続された上面配線とを有し、上記処理回路は、上記基板の上面の略中央部に固着された半導体チップとして形成され、上記半導体チップは、ボンディングワイヤを介して上記上面配線と接続された電極を有し、上記接触子は、上記基板の下面に規則的に配設されて上記内層配線と接続された、尖鋭端を有する金属電極でなると良い。
【0011】また、上記処理回路は、C−MOS型電界効果トランジスタで形成されるとさらに良い。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の特徴は、以下の第1図および第4図に示すように、下面に金属電極でなる多数の接触子を備えた基板の上面に半導体チップを備え、金属電極により得られた生体信号を処理する回路をこの半導体チップ内に組込んだ点にある。
【0013】以下、本発明にかかる生体信号センサの実施の一形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、主として動物の脳の神経組織内を伝達する生体信号を計測する生体信号センサについて説明する。
【0014】図1は、本実施形態の生体信号センサ1の正面図である。同図に示すように、生体信号センサ1は、被試験体である動物の脳組織の表面に載置される基板1と、この基板1の下面に配設された金属電極3と、基板2の上面に固着され、金属電極3から得られた生体信号を処理する回路を形成した半導体チップ4とを備えている。
【0015】基板2は、約5mm角の正方形の平面形状を有し、その厚みは、約400μmであり、きわめて小型の形状となっている。この基板2は、ポリイミド系の4層印刷配線板であり、図示しないバイアホールにより表裏各配線層と内層2層とを相互に接続したものである。これらの配線層は、上述する金属電極3と半導体チップ4とを接続するとともに、図示しない複数の信号線を介して外部の電源、グランドおよびクロック信号生成器と半導体チップとを接続する。
【0016】基板2の下面には、本発明において特徴的な金属電極3が規則的に配設されている。この金属電極3は、銅系バネ合金やタングステンを約0.5mm〜約1mmの長さに切断した後、プレス加工等により尖鋭な先端形状を持たせたものに金メッキを施したものである。金属電極3の後端部は、基板2の下面に固着されるとともに、基板2内の内層配線に接続され、これを介して上面の配線層に接続されている。このような構成により、金属電極3は、生体組織の深部に刺衝されて生体組織の電気信号を取得して半導体チップ4内の後述する処理回路に供給する。
【0017】図2は、図1に示す生体信号センサ2の底面図であり、金属電極3の配列を示す説明図である。同図に示すように、基板2の下面に64本の金属電極3がそれぞれ約500μmのピッチでマトリックスをなすように規則的に配設されている。なお、本実施形態においては、マトリックス状に配設された形態を示したが、規則性のある配列であれば、この形状に限ることなく、例えば、電極間を結ぶ線分が正三角形の繰返しでなる千鳥形状をなすように配列しても良い。また、金属電極の数量は、64本に限ることなく、測定上の要求および製作上の困難性を考慮して適宜増減でき、100本前後は容易に実現できる。
【0018】図1に戻り、基板2の上面には、その中央部に半導体チップ4が搭載され、固着されている。半導体チップ4の上面周辺部には、電極41が設けられ、ボンディングワイヤ5を介して基板2の上面周辺部の配線21に接続されている。
【0019】基板2の上面には、半導体チップ4を覆うように、エポキシ系樹脂やシリコーン系樹脂によりモールド成型体7が形成され、半導体チップ4、ボンディングワイヤ5および基板2の上面配線を外部からの物理的・化学的影響、例えば被試験体である動物の体液等による影響から保護している。
【0020】図3は、生体信号センサ2の上面図であり、半導体チップ4の電極の接続関係を示す説明図である。
【0021】同図に示すように、半導体チップ4の周辺部に電極41が形成され、それぞれボンディングワイヤ5を介して基板2の上面周辺部の配線21に接続され、その多くは、基板2の内層配線を介して金属電極3と接続されている。なお、これらの上面配線の一部は、内層配線を介して同図の紙面下方に示すように、クロック信号線14、出力信号線15、電源(VDD)線16、電源(VSS)線17および接地(GND)線18に接続されている。
【0022】このように、本実施形態にかかる生体信号センサ1は、多数の金属電極3により、被試験体の生体組織の多数の部位の深部から生体信号を取得することができる上、わずか数本の信号線のみで外部の装置と接続されるため、被試験体である動物の敏捷な行動に確実に追随することができる。これにより、動物の活動中における生体信号を高い効率で計測することができる。
【0023】さらに、本実施形態の生体信号センサ1では、多数の金属電極3から取得された生体信号が、半導体チップ4内に設けられた処理回路によって増幅された後、1本の出力信号線15から出力される点に特徴がある。これを実現するための処理回路の具体的な構成について図4を参照しながら説明する。
【0024】図4は、図1に示す生体信号センサ1が備える処理回路10の回路図である。処理回路10が有するトランジスタは、すべてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)で形成されており、消費電力が極めて微少なフルCMOS構造となっている。例えば、駆動電圧を3Vとすると、各MOSを流れる電流はわずか2μAであり、半導体チップ全体の消費電力は1mW以下である。
【0025】同図に示すように、処理回路10は、金属電極3から得られた生体信号を増幅する、金属電極3の数量と同数の増幅器11と、この増幅器11から出力される被増幅信号を並列に受けて時分割多重伝送を行うマルチプレクサ12と、このマルチプレクサ12に制御信号を供給する制御回路13とを備えている。
【0026】増幅器11は、それぞれ、入力端子が金属電極3に接続され、出力端子がマルチプレクサ12のデータ入力端子に接続されている。
【0027】マルチプレクサ12は、増幅器の数量に対応したデータ入力端子を有し、その出力端子は、一本の出力信号線15に接続されている。
【0028】制御回路13は、その入力端子が外部のクロック信号生成回路にクロック信号線14を介して接続され、その出力端子がマルチプレクサ12のデータセレクタ端子に接続されている。なお、同図においては図示していないが、増幅器11、マルチプレクサ12および制御回路13は、いずれも、電源(VDD)線16および電源(VSS)線17を介して外部の電源装置と接続され、また、接地(GND)線18を介してグランドに接続されている。
【0029】この処理回路10の動作は、次のとおりである。まず、クロック信号線14を介して外部の制御装置からリセット信号が制御回路13に供給される。
【0030】次に、被試験体の生体信号が金属電極3から取得されて増幅器11に供給され、各増幅器11により約10倍に増幅される。被増幅信号は、マルチプレクサ12のデータ入力端子にそれぞれ供給され、マルチプレクサ12は、制御回路13から供給される制御信号に基づいてこれらの被増幅信号を順次選択して出力信号線15へ出力する。その選択切替えの速度は、約10μsであり、この結果、0.64msで64本の金属電極からの生体信号を伝送することができる。なお、この速度は制御回路の仕様次第で1μsにまで高速化することが可能である。
【0031】このように、本実施形態にかかる生体信号センサは、多数の金属電極から得られた生体信号を増幅した後時分割多重伝送で単一の出力信号線から出力する処理回路をオンチップで備えているので、被試験体である動物の生体信号を高い効率と分析に好適な振幅で取得することができる。また、処理回路は、フルCMOS構造で形成されているので、生体信号センサの発熱量をきわめて微弱なもの、例えば、3Vの駆動電圧においては1mW以下にすることができる。これにより、動物の生体組織における熱による影響を極力抑止することができるので、長時間安定して生体信号を取得することができる。
【0032】さらに、このような回路をオンチップで一体として組込みつつ、センサ全体の大きさは、きわめて小型であるので、ラット等の小型動物の生体組織にも載置することができる。また、従来の技術で取扱ったものと同一の大きさの生体組織については、例えば猿の脳など、湾曲した表面形状を有する場合でも、小型であるために相対的にほぼ平坦な位置に載置できることになり、この結果、多数配置することが可能になる。これにより、同時に多数の生体信号を取得することができる。
【0033】このように、本実施形態の生体信号センサによれば、動物の生体組織の研究の飛躍的な進展が期待できる。
【0034】以上、本発明の実施の一形態について説明したが、本発明は上記形態に限るものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して適用することができる。例えば、上記実施形態では、1つのマルチプレクサにより並列入力選択回路を形成したが、接触子の数量を増やした場合に、これに対応する数量のデータ入力端子を有するマルチプレクサが準備できないときは、複数のマルチプレクサによる階層構造を採用してもよい。例えば、接触子が100本の場合、増幅器25個につき1つのマルチプレクサを接続し、さらに、4つのマルチプレクサの出力に1つのマルチプレクサを接続した形態としてもよい。また、各部の材料も仕様に応じて変更することが可能である。
【0035】
【発明の効果】以上詳述したとおり、本発明は、以下の効果を奏する。即ち、本発明にかかる生体信号センサによれば、基板と、この基板の下面に突設され、動物の生体組織に刺衝される複数の接触子と、上記基板の上面に形成され、上記接触子により得られた生体信号を処理する処理回路とを備えているので、小型で軽量の生体信号センサが提供される。これにより、1つの被試験体について多数の生体信号センサを用いることができ、生体組織の多数の部位から豊富な情報を得ることができるほか、小型の動物についても容易に生体信号を計測することができる。
【0036】また、上記処理回路が上記接触子に対応した信号増幅回路と、被増幅信号を順次選択して出力する並列入力選択回路を備える場合は、生体組織の多数の部位から取得した生体信号を少数の配線により取出すことができ、引出し線のケーブルを細くすることができるので、被試験体である動物の身体を拘束することなく、行動自由な状態で生体信号を計測することができる。
【0037】また、上記接触子を尖鋭端を有する金属電極で構成する場合は、生体組織の深部における生体信号を計測することができる。
【0038】さらに、上記処理回路をCMOSトランジスタで形成する場合は、被試験体の生体組織における熱による影響を極力抑止することができる。これにより、長時間安定して計測を続けることができる生体信号センサが提供される。
【出願人】 【識別番号】000006792
【氏名又は名称】理化学研究所
【識別番号】598070762
【氏名又は名称】市 川 道 教
【出願日】 平成10年(1998)5月29日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 一雄 (外3名)
【公開番号】 特開平11−332841
【公開日】 平成11年(1999)12月7日
【出願番号】 特願平10−149535