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【発明の名称】 磁気共鳴イメージング装置
【発明者】 【氏名】渡部 滋

【要約】 【課題】異なる方向に流れる血流の画像を、方向を識別して表示する血流描画機能を備えたMRI装置を提供する。

【解決手段】被検体の血流方向に対してほぼ直交して、複数のスライス面を設定し、この複数スライス面を所定の繰り返し時間TRでマルチスライス撮像する。この際、複数のスライス面を第1の順序で励起する計測と、第1の順序と逆の順序で同一のスライス面を励起する第2の計測とを実行する。2つの計測で各スライス毎の2種のデータ間を差分演算により、方向の相反する血流を符号付で表示する。マルチスライス撮像の際、隣り合うスライスを厚み方向に重なり合うように設定することにより、静止部の信号を抑制し、差分処理後の血流画像のコントラストを高めることができる。また撮像シーケンスとして撮像時間の極めて短いEPI法をMRA計測シーケンスとして利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】被検体を収容し得る空間に静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場に傾斜を与える傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生手段と、前記被検体の生体組織を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせる高周波パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する送信系と、前記核磁気共鳴により放出されるエコー信号を検出する受信系と、この受信系で検出したエコー信号を用いて画像再構成演算を行う信号処理系と、得られた画像を表示する手段と、前記傾斜磁場発生手段と前記送信系と前記受信系と前記信号処理系の動作を制御する制御系とを有した磁気共鳴イメージング装置において、前記制御系は、所定の繰り返し時間で前記複数のスライスを第1の順序で繰り返し励起する第1の計測と、同一の繰り返し時間で前記複数のスライスを第1の順序と逆の順序で繰り返し励起する第2の計測とを各々別々に実行し、各スライスについてそれぞれ2種のデータを得、前記信号処理系により、これら各スライスの2種のデータ間の差分演算を行い、方向の相反する血流からの信号を異なる符号のデータとして取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、核磁気共鳴(以下「NMR」と略記する)現象を利用して被検体の所望部位の断層画像を得る磁気共鳴イメージング(以下「MRI」と略記する)装置に関し、特に血管系の走行を描出する際にその方向性を認識することの可能なMRI装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】MRI装置の撮像機能として、造影剤等を使用することなく血流を描画するMRアンジオグラフィ(以下MRAと略す)がある。MRI装置における代表的な血流描画手法として、スライス面への流入効果を用いたタイムオブフライト(TOF)法と、血流スピンがその移動方向に印加された傾斜磁場により位相拡散を受けることを利用した位相法とがあり、位相法には、血流スピンの位相拡散を補償するシーケンス(リフェイズシーケンス)と位相拡散を助長して信号消去するシーケンス(ディフェイズシーケンス)との差分をとることにより血流描出するフェイズセンシティブ(PS)法と、血流スピンに異なる位相回転を与える一対の傾斜磁場パルス(フローエンコードパルス)を用い、これらを交互に印加することによって一対のデータを得、これらフローエンコードデータの複素差分を取ることにより血流描出するフェイズコントラスト(PC)法とがある。
【0003】これら従来の血流描画手法は、それぞれ一長一短があり、目的に応じて利用されている。例えば、ある領域を短い繰り返し時間TRでRF照射(プリサチュレーション)を行い、この領域に流入する血流信号が高信号となることを利用する2D-TOF法の場合、撮像シーケンスとしてはグラディエントエコー法のような短TRのシーケンスを採用する必要があり、EPIのような高速シーケンスを採用できない。またプリサチュレーションを行った領域にいずれの方向から流入する血流スピンも高信号化されるので、動静脈分離を行うことができない。隣接する領域をプリサチュレーションする方法もあるが、この場合には動静脈のどちらか1方向の血流しか可視化できない。
【0004】一方、PC法は、極性の異なるフローエンコード位相像の位相差分を取ることにより動脈と静脈を分離する手法も用いられているが、血流スピンの位相シフトがπを超える高速流では折返しアーチファクトの問題がある他、シーケンスがフローリフェイズ型でないために、乱流や流速の変化に弱く、血管の欠損やアーチファクトを生じ易いという問題も有している。また血流速の定量的計測を目的とした2次元のPC法では血管を含むスライス厚を厚くできず、血管系の全体の走行を併せて観察するのに適していないという欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、動静脈分離(血流の方向性の描出)が可能である新規な血流描画機能を備えたMRI装置を提供することを目的とする。
【0006】また本発明は、EPIのような高速の撮像シーケンスの適用が可能であり、これにより短い撮像時間で血流描画を実現できるMRI装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明によるMRI装置は、複数のスライス面について順次、高周波磁場照射による励起とエコー信号の計測とを繰り返し、得られたエコー信号から血流画像を再構成する機能を備え、この機能の実行において、複数のスライス面を第1の順序で励起する第1の計測と、第1の順序と逆の順序で励起する第2の計測とを実行し、各スライスについてそれぞれ2種のデータを得、これら各スライスの2種のデータ間の差分演算を行い、方向の相反する血流からの信号を異なる符号のデータとして取得する。
【0008】第1の計測において、複数のスライスを第1の方向(方向Aとする)で順次励起していくと、その方向Aに流れる血流は相対的に短い繰り返し時間で繰り返し励起を受けることとなり、その血流スピンからの信号は相対的に弱くなる。これに対し、逆方向(方向Bとする)に流れる血流は相対的に繰り返し時間TRが長くなり、そこからの信号強度は静止部とほぼ同じとなる。次に第2の計測において、同じ複数のスライスを第1の方向と逆方向Bに順次励起した場合には、上記の場合と逆にB方向の血流からの信号が相対的に弱くなり、A方向の血流からの信号が相対的に強くなる。従って、これら2種の計測で得られたデータの差分を取ると、静止部分は画素値(信号強度)0となり、血流では方向によって符号の異なるデータを得ることができる。
【0009】この場合、隣接スライス面同士をオーバーラップさせながら順次励起していった場合には、静止部についてはオーバーラップした部分について繰り返し励起を受けることになるため、オーバーラップさせない場合に比べ静止部の信号強度を抑制できる。これにより血流部分の描出能を高めることができる。
【0010】尚、本発明において撮像シーケンスとしては、グラディエントエコー系のシーケンスを採用することができ、同一スライスの多重の励起がなくても血流信号を静止部に対して相対的高コントラストで描出できるため、1回の励起で複数のエコー信号を計測するマルチエコー(EPIを含む)シーケンスの採用も可能である。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】図8は本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層像を得るもので、図8に示すように、静磁場発生磁石2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えている。
【0013】静磁場発生磁石2は、被検体1の周りにその体軸方向または体軸と直交する方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りのある広がりをもった空間に永久磁石方式または常電導方式あるいは超電導方式の磁場発生手段が配置されている。
【0014】傾斜磁場発生系3は、X,Y,Zの三軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシーケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの三軸方向の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを被検体1に印加するようになっている。この傾斜磁場の加え方により被検体1に対するスライス面を設定することができる。
【0015】シーケンサ4は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせる(励起する)高周波磁場(RF)パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加するもので、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層像のデータ収集に必要な種々の命令を、送信系5及び傾斜磁場発生系3及び受信系6に送るようになっている。
【0016】送信系5は、シーケンサ4から送り出されるRFパルスにより被検体1の生体組織を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせるためにRF磁場を照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル14aとから成り、高周波発振器11から出力された高周波パルスをシーケンサ4の命令にしたがって変調器12で振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、電磁波が被検体1に照射されるようになっている。
【0017】受信系6は、被検体1の生体組織の原子核の核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル14bと増幅器15と直交位相検波器16とA/D変換器17とから成り、送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波による被検体1の応答の電磁波(NMR信号)は被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、増幅器15及び直交位相検波器16を介してA/D変換器17に入力してディジタル量に変換され、さらにシーケンサ4からの命令によるタイミングで直交位相検波器16によりサンプリングされた二系列の収集データとされ、その信号が信号処理系7に送られるようになっている。
【0018】信号処理系7は、CPU8と、磁気ディスク18及び磁気テープ19等の記録装置と、CRT等のディスプレイ20とから成り、CPU8でフーリエ変換、補正係数計算像再構成等の処理を行い、任意断面の信号強度分布あるいは複数の信号に適当な演算を行って得られた分布を画像化してディスプレイ20に断層像として表示するようになっている。なお、図8において、送信側及び受信側の高周波コイル14a、14bと傾斜磁場コイル9は、被検体1の周りの空間に配置された静磁場発生磁石2の磁場空間内に設置されている。
【0019】次にこのような構成におけるMRI装置において、シーケンサ4の実行する血流描画のための撮像シーケンスについて説明する。
【0020】図1は本発明のMRI装置によって撮像される領域を模式的に示した図で、本発明においては、被検体の目的とする血管A、Bを含む撮像領域について血管にほぼ直交するようにスライス面を設定し、これら複数のスライス面について2つの異なる順序でマルチスライス撮像を行う。
【0021】マルチスライス撮像は、図2(a)に示すように、1つのスライスについての繰り返し時間TR内に、順次各スライスについてRFパルスによる励起とエコー信号計測を繰り返し、これを位相エンコードステップを変化させながら繰り返す。尚、図2(a)では約1回半の繰り返ししか示していないが、各スライスについて画像再構成に必要な位相エンコード数のエコー信号を計測するまで撮像シーケンスが繰り返される。
【0022】また図中、撮像シーケンスの詳細は示していないが、例えば、1回のRFパルス照射によるスライス選択励起後、傾斜磁場の反転によって1つのエコー信号を発生させるグラディエントエコー法による撮像シーケンス(図2(a))や、1回のRFパルス照射によるスライス選択励起後、ブリップ状の位相エンコード傾斜磁場を印加しながら読み出し傾斜磁場の極性を複数回、反転させて、複数(図では簡単のために2個のみ示している)のエコー信号を計測するマルチショット或いはシングルショットEPIシーケンス(図2(b))を採用することができる。マルチショットEPIの場合には、図2(b)に示すシーケンスを位相エンコードのオフセット量を変化させながら繰り返す。また図2では簡単のためにスライス1〜5までしか示していないが、TR時間内に数10程度のスライス数を計測することができる。
【0023】このようなマルチスライス撮像を、第1の計測では図1中最下のスライス1から順に最上のスライスNまで、例えば人体の場合足方から頭方へ、励起/計測を行い、第2の計測ではその逆に上のスライスNから下のスライス1まで順次励起/計測を行う。
【0024】このように順次スライスを励起していった場合に、第1の計測では、励起順方向に流れる血管A内の血流はスライス1からスライス2、スライス3へと移動していく際に、繰り返し時間TRよりかなり短い間隔で多重励起を受けることになり、信号強度が低下する。これに対して、励起順と逆方向に流れる血管B内の血流は、励起の繰り返し時間は静止部のTRとほぼ同じであって、血管Aに対し相対的長TRとなる。即ち、信号は相対的に高強度となる。
【0025】一方、第2の計測では、スライスの励起順が逆になるため第1の計測とは全く逆に血管Aからの信号が高信号となり、血管Bからの信号が低信号となる。
【0026】このことを図3を参照して更に説明する。まずスライス間でオーバーラップがない場合を考える(図3(a))。スライス1で励起された血流Aは、次に励起されるスライス2側に移動するが、この血流が次に励起されるまでの時間(実効的繰り返し時間eTR)は血流の速度vによって異なり、次のようになる。
【0027】血流速度vが比較的速く、v≧2D/(TR/N)
(式中、Dはスライスの厚さ、TRは設定繰り返し時間、NはTR内で励起されるスライス数を表す。以下同じ)を満たす場合には、スライス1を励起した後、スライス2を励起するまでに血流Aは既に次のスライス3から先へ移動しているため、実効的TR(eTR)はeTR=∞となり、多重励起による信号強度の低下はない。血流速度vが、D/(TR/N)≦v<2D/(TR/N)
の場合には、スライス2励起時にスライス1内で励起された血流の全部又は一部がスライス2内にあることになるので、スライス2内に存する血流については、eTR=TR/Nスライス3以降へ移動した血流については、eTR=∞となる。異なる実効的eTRの信号割合いは血流速度vに応じて異なり、vが小さくなるほどTR/Nとなる割合が増す。血流速度v=D/(TR/N)の場合の血流はすべてeTRが最短の(TR/N)となる。信号強度はスライス内各血流スピンのeTRに相関する信号強度を位相を含め存在割合で加算したものとなる。
【0028】また血流速度vが遅い場合、即ちv<D/(TR/N)
の場合には、スライス2に流入した血流についてはeTR=TR/Nとなり、スライス1に残留している血流については、その実効的eTRはほぼ設定TRと等しくなる。この場合にも信号強度はこれら実効的eTRの信号の割合の荷重平均となる。
【0029】このように血流Aでは、v≧2D/(TR/N)の場合を除き、実効的eTRがTR/Nとなる血流の割合に応じた信号低下を生じる。
【0030】一方、逆方向に流れる血流Bでは、スライス2にはスライス3側からの励起を受けていない血流が流入することになるので、その実効的eTRは∞である。従って信号の低下はない。また静止部では各スライスは直前のスライスの励起によって励起されることはないので、実効的繰り返し時間eTRは設定TRとほぼ同じとなる。
【0031】このようにスライス間のオーバーラップがない場合には、血流Aのみが血流速度vに依存した多重励起を受ける。従って血流速度を考慮して、スライス厚さD及びスライス数Nを設定することにより、血流Aの信号のみを効果的に抑制することができる。
【0032】次に隣接するスライスが図3(b)に示すように所定のインターバルP(オーバーラップ量=D−P)で順次励起される場合を考える。この場合には血流Aの速度が、v≧(D+P)/(TR/N)
の場合には、スライス1を励起した後、スライス2を励起するまでに血流Aは既に次のスライス3から先へ移動しているため、実効的eTRはeTR=∞となり、多重励起による信号強度の低下はない。血流速度vが、P/(TR/N)≦v<(D+P)/(TR/N)
の場合には、スライス2励起時にスライス1内で励起された血流の全部又は一部がスライス2内にあり、スライス2内に存する血流については、eTR=TR/Nとなり、多重励起を受ける。他の部分はスライス3以降に移動しており、eTR=∞となる。この場合にも多重励起を受ける血流の割合いは、血流速度vに応じて異なり、信号強度はこの割合で加算したものとなる。
【0033】また血流速度vが非常に遅く、v<P/(TR/N)
の場合には、その実効的eTRは静止部とほぼ同じと見做すことができる。従ってスライス間のオーバーラップがある場合にも、血流Aは、非常に速い場合を除き、少なくとも一部の血流が血流速度に応じた多重励起を受け、その割合で決まる信号強度の低下がある。
【0034】一方、逆方向に流れる血流Bでは、血流速度vがv≧(D−P)/(TR/N)
の場合には、実効的eTR=∞となるが、v<(D−P)/(TR/N)
の場合はオーバーラップ部にあるか否か、血流の上流のスライスか否かにより異なった励起を受けることになる。即ち、あるスライスで励起されて逆方向に移動する際に、オーバーラップ部に残っている部分は、それ以降の励起時に励起されることになるので、その実効的eTRはTR/N<eTR<TRとなる。一方、非オーバーラップ部にある部分は、1位相エンコードステップ前の繰り返し時間で、それより上流側のスライスを励起したときに励起された血流が流入している場合があり、その場合実効的eTRは、eTR=nTR/N(nは、TR、N、v、Pによって決まる整数で、Nより小さい)となる。但し上流側のスライスでは、そのように前の位相エンコードステップで励起された血流の流入はないので、この場合には実効的eTRは、eTR=∞となる。血流Bについては、このような3つの実効的eTRによる信号の荷重平均が信号強度となるが、これら実効的eTRは、いずれもTR/Nに比べ長いので、血流Aのような多重励起による信号抑制は生じない。
【0035】静止部では、スライス1とスライス2がオーバーラップしていない部分(図中、斜線部分)は、直前のスライスの励起によって励起されていないので、実効的繰り返し時間eTRは設定TRとほぼ同じであるが、オーバーラップ部分はeTR=TR/Nとなり、多重励起を受ける。従ってオーバーラップ量を適当に設定することにより、静止部の信号強度を抑制でき、血流A、静止部、血流Bの順に信号強度を異ならせることができ、後述する差分処理後の血流画像のコントラストを上げることができる。尚、オーバーラップ量が多すぎると撮像領域全体をカバーするためのスライス枚数が増えるため、最終的に撮像時間の延長を招くことになるとともに、遅い血流の飽和を招くことになるので、オーバーラップ量はスライス厚の20〜80%程度、好適には50%以下とする。但し、体幹部の動脈等ではオーバーラップ量を増しても構わない。
【0036】次にこのように血流の方向により信号強度を異ならせた計測で得られたデータから画像再構成する手段について説明する。
【0037】上述の2種のマルチスライス撮影を行うことにより、各スライスについて図4に示すように1組の画像データを得ることができる。同一スライスについて得られた1組の画像は、一方(第1の計測で得られた画像)は血管Aは低信号で、血管Bが高信号で描出されており、他方(第2の計測で得られた画像)は血管Aは低信号で、血管Bが高信号で描出されている。
【0038】次にこれら1組のデータ同士で差分(例えば第1の計測で得られた画像データから第2の計測で得られた画像データを引く)を行う。差分は、各々を画像再構成した後に複素データ又は絶対値の差分を行ってもよく、或いは再構成前の信号データを用いた複素差分後に再構成を行っても構わない。これにより静止部を消去し、血管のみの画像が得られる。この際、血管の画素値は血流の方向によって符号が異なったものとなる。上記差分処理は各スライス毎に行われ、これによりスライス数分の差分像が生成される。
【0039】次に得られた差分像を投影処理することにより領域全体の投影血管像を作成する。血管の一部分をそれぞれ部分的に含む連続した多数枚の二次元画像から投影像を得る方法としては、公知の手法として光線軌跡法による最大値投影法(MIP)或いは最小値投影法(MinIP)があるが、ここでは最大値投影法と最小値投影法を組合せて両方向の血管を描画する。
【0040】上述したように差分像は符号の異なるデータが含まれており、単純にMIP処理或いはMinIP処理を行った場合、一方の方向の血管しか描画できないことになる。そこで次のような処理を行う。まず図5(a)に示すように正負両方に閾値αを設定し、絶対値が閾値α以下は血管以外の組織と見做し0レベル若しくはαとし灰色で表示する。閾値を超えるものについては血管と見做し、値が正の場合には例えば白色とし、負の場合には黒色とする。ここで光軸上に閾値を超える正の信号と負の信号が重なった場合には、正負の絶対値の大きい方を表示する方法(図5(b))か、正負いずれか優先するものを予め決めておき、この設定に従い、一方を表示する方法(同図(c))のいずれかを採用することができる。いずれの方法とするかは診断上の必要性を考慮して任意に選択することができる。(b)の方法は、信号値の高い血管を優先的に描画させる場合に好適であり、(c)の方法は動脈、静脈のいずれかを優先的に描画させる場合に好適である。
【0041】尚、血流の方向表示は、上述した白黒表示の他、値が正の場合を赤、値が負の場合を青とするような、2つの値に色相的に区別できるそれぞれの色相を付与するカラー表示等により識別可能にしてもよい。また上述の投影処理は、従来の投影処理と同様、投影の方向は冠状断、矢状断、軸横断の方向など任意に設定することができ、更に図6に示すように、ある軸Cを中心として回転させて、たとえば±45°程度角度のついた投影から、5°〜10°おきに投影像を作成し、それらを動画像として表示することも可能である。これにより血管の前後関係等奥行き、血管の構造を認識することができ、上述した(b)または(c)の方法を選択することによって隠れてしまった血管についても他の方向から確認することができる。
【0042】以上説明したように、本発明のMRI装置は、マルチスライス撮像を実行する際に、励起順方向に流れる血流のスピンは多重励起を受け低信号化することを利用し、励起順の異なる2つの計測で得られたデータの差分により、血流信号を方向によって符号の異なるデータとして取得するものである。この場合、図1において最初に励起されるスライス1についてみると、このスライス1に流入してくる励起順方向の血流は多重励起を受けていないため、低信号化しない。同様に第2の計測で最初に励起されるスライスNについても励起順方向の血流の信号は低信号化しない。従って励起順の異なる2つの計測の差分を取った場合、最初と最後のスライス1、Nについては血流方向の差が不明瞭となる。
【0043】このような撮像領域両端における不明瞭な部分をなくすために、最初と最後のスライスのデータを削除してもよいが、より好適には最初に励起されるスライスに隣接する領域を予めRF照射することにより飽和(プリサチュレーション)しておくことが好ましい。
【0044】撮像シーケンスにプリサチュレーションを加えた実施例を図7に示す。この実施例でも、撮像領域を目的とする血管A、Bに略直交する複数のスライスに分けてマルチスライス撮影し、この際、スライスの励起順序の異なる第1の計測と第2の計測を実施することは図1の実施例と同様であるが、本実施例では第1の計測でマルチスライス撮影する際に、最初に励起されるスライス1に隣接する領域S1(図中、下側の領域)をRF照射し、この領域のスピンを飽和させておく。第1の計測終了後、第2の計測を開始する場合にも最初に励起されるスライスnに隣接する領域S2(図中、上側の領域)を同様にプリサチュレーションし、スピンを飽和させる。
【0045】隣接領域をプリサチュレーションした後、スライス1(或いはスライスN)を励起した場合、ここには飽和した領域S1(或いは領域S2)からの血流スピンが流れ込んでくるため、血流からの信号を低信号化することができる。これにより撮影領域の両端のスライスにおいて、血管Aと静止部及び血管Bとの信号の差が明瞭となり、血流捕捉能力を上げることができる。
【0046】このようなプリサチュレーションは、撮像シーケンスの如何に関わらず行うことができ、図2(a)及び(b)に示すマルチスライスシーケンスの前段に領域S1又はS2のプリサチュレーション工程を挿入すればよい。
【0047】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のMRI装置によれば、血流描画機能としてスライス励起順序が逆転した二種のマルチスライス撮像を行い、これらの差分を行うことにより、方向の異なる血流を極性の異なる信号として描画することが可能となる。またマルチスライス撮像として、一回のスライス励起で画像再構成に必要な全位相エンコード分のエコーを計測するEPIを採用することができ、これにより10秒以下程度の極めて短時間で血流画像を得ることができる。
【0048】更に本発明のMRI装置では、従来のPC法で問題となる乱流の影響を受けにくく、動静脈の重なりに対しても明確に血流の方向を識別可能となる。
【出願人】 【識別番号】000153498
【氏名又は名称】株式会社日立メディコ
【出願日】 平成10年(1998)3月4日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】多田 公子 (外1名)
【公開番号】 特開平11−244257
【公開日】 平成11年(1999)9月14日
【出願番号】 特願平10−52341