トップ :: A 生活必需品 :: A01 農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業




【発明の名称】 徐放性製剤
【発明者】 【氏名】貞本 満

【氏名】中山 雅嗣

【氏名】大淵 省二

【氏名】野崎 正平

【要約】 【課題】生物に対し誘引、忌避、殺傷効果を有する農薬を徐放でき、かつ生分解することにより環境汚染をしない薬剤を提供する。

【解決手段】農薬成分となる揮発性有機化合物と、ガラス転移温度を50℃以下に低下させたポリ乳酸で製剤する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともポリ乳酸と添加物と常温大気中にて揮発性を有しかつ生物に対して誘引効果、忌避効果または殺傷効果を有する揮発性薬剤とからなる徐放性製剤であって、該ポリ乳酸の重量平均分子量が4万以上であり、該添加物によりガラス転移温度が50℃以下にされたものであることを特徴とする徐放性製剤。
【請求項2】 前記添加物が、リン酸エステル類、フタル酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、脂肪族アルコールエステル類、ヒドロキシ多塩基酸エステル類、エポキシ系動植物油、ポリアルキレングリコール類から選ばれた1種あるいは2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載の徐放性製剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、農作物に害を与える生物に対し、誘引作用による繁殖の阻害、忌避作用、殺傷作用による農作物の保護を図ることのできる物質を含有した徐放性製剤に関するものであって、かつその使用後において相当の期間をおいて、土中あるいは水中の微生物を主体とした働きによって、環境に対して加害作用のない化学物質に分解するとともに、その形状を消失させてしまう機能を有した徐放性製剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、農薬の揮発性薬剤を目的の場所で長期間、安定して連続的に徐々に放出、揮散せしめることが実用面や機能面において重要な課題となっている。
【0003】農薬は、対象とする生物を殺傷しようとする意図のもとで開発されたものが一般的である。しかし、農作物を生物による捕食から保護するために、単に生物を寄せつけない作用を有するものであっても有効である。これは、特定の生物に対する忌避作用を有するものであり、他の生物系に対する影響が小さく、環境に配慮した農薬であるといえる。
【0004】また逆に、生物を誘引する機能を有する物質を放出することにより、該生物が農作物に対して与える影響から保護しようとするものがある。例えば、性フェロモンを放出する物質であれば、該フェロモンの効果によって、互いに位置の存在を確認することができず、その結果として交尾による繁殖を抑制することができるのである。ここで、フェロモンは揮発性の薬剤である。
【0005】これらの殺傷、忌避、誘引効果を有する物質を基材とする固形物に含浸させたものを、農作物が存在する近辺に放置、散布、固定することにより、結果としてその農作物を生物による損傷から保護することができるのである。
【0006】その中で生物を誘引する物質として用いられているのがフェロモンであるが、揮発性薬剤であるフェロモンを、基材とする物質に固定化して製剤として形成する方法がいくつか開示されている。
【0007】その中でもよく用いられているものは、フェロモンをポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体などの細管に封入したものであり、多くのものが開示されている。例えば、特開昭56−142202号、特開昭57−9705号、特開昭57−72904号、特開昭57−45101号、特開昭57−156403号、特開昭59−216802号、特開昭60−215637号、特開昭61−202643号等に開示されたものがあり、これらは、フェロモンが徐々に放出される機能を有したものである。
【0008】しかし、これらの開示された手法は、一般には安定した放出ができない、また放出量を増加させたい場合には、基材として細管を用いるために長くする必要があるなどの問題があり、実用性にかけていた。
【0009】また、特開平7−231743号公報にあるように、フェロモンと相容性のある合成樹脂を基材としたフェロモン製剤が開示されている。そして、蒸発エネルギーが21,000cal/mole〜27,000cal/moleの範囲にあることが記載されており、その蒸発速度を制御することが認められる。
【0010】しかし、このように揮発性薬剤の一種である揮発性フェロモン製剤は、散布あるいは土壌上に放置して用いることがほとんどであり、その結果、これらの農薬製剤は土壌中に残存することになり、環境に対する配慮が乏しいといえる。
【0011】このように使用後において製剤成分が残存する問題を解決すべく、生分解性機能を有する高分子材料を基材としたフェロモン製剤が開発されている。
【0012】特開昭61−41321号公報には、生分解性高分子材料を中空の基材としたフェロモン製剤が開示されている。この生分解性高分子材料には、ポリ乳酸などのポリヒドロキシ酸、ポリグルタミン酸などのポリ(α−アミノ酸)が用いられ、フェロモンなどの活性物質がその材料からなる中空の筒の中に充填された製剤を用いる方法が開示されている。しかし、このようなフェロモン製剤からは、フェロモン放出速度の制御の具体的な指針を得ることはできない。
【0013】特開平4−230602号公報は、生分解性または光分解性の、あるいはそれらの混合系からなる分解性機能を有した高分子素材を1〜40%含んでいるものを開示している。しかし、このフェロモン製剤は、分解性高分子の分解後も、非分解性成分が残存することになり、厳密な意味で生分解型フェロモン製剤とは言えない。
【0014】特開平5−163110号公報には、生分解性を有した3−ヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシ脂肪族との重縮合物を用いたものであり、かつその生分解性高分子をシートとする徐放性フェロモン製剤が開示されている。この製剤は、放出速度の低さをその厚みを薄くすることにより対処したものであって、フェロモン製剤の加工および形状が限定されるという欠点があった。
【0015】そこで、生分解性の高分子材料に、フェロモンの放出特性を改良するための工夫が行われるようになった。
【0016】特開平6−116103号公報には、生分解性高分子材料を基材としたフェロモン製剤が開示されている。この特開平6−116103号公報に開示されている生分解性高分子材料としては、セルロース、キチン、キトサン、ブルランなどの天然高分子、或いはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリアミド(ポリ−α−アミノ酸など)、脂肪族ポリエステルなどの合成高分子が挙げられている。
【0017】また、特開平9−137049号公報には、ポリ乳酸、可塑剤、および必要に応じて熱安定剤、離型剤を含むポリ乳酸組成物を用いた、性フェロモンを含有した徐放性製剤が開示されている。その上、可塑剤を含ませたのは、徐放性製剤の材料として必要な機械的強度や柔軟性を持たせるためであり、それらの可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル、ポリエステル系可塑剤、脂肪酸エステル、エポキシ系可塑剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリカプロラクトン、マロン酸や琥珀酸、アジピン酸、フマル酸などのジカルボン酸とエチレングリコールや、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール体との重縮合体、ヒドロキシ酪酸やヒドロキシ吉草酸などのヒドロキシ酸の重縮合物が好ましいとされており、さらにこれらの可塑剤は単独で用いても二種以上の混合物として用いてもよいとされている。さらに、二種以上の混合物として用いるもののうち好ましいものは、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、エチレン含有量が20〜95%かつ酢酸ビニル含有量が5〜80重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカプロラクトン、ジカルボン酸とジオール体との重縮合物、ヒドロキシ酸等が用いられるとしている。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの先願の公開特許公報においては、揮発性薬剤であるフェロモンの放散特性を制御するための具体的な方法について何ら触れられていない。これは特開平9−137049号公報においても例外ではなく、いかにして揮発性薬剤の放散速度を制御するかということについては何ら開示されていない。
【0019】このことは、農薬として用いられるフェロモンについてだけでなく、農薬全般の問題であり、フェロモンを含む揮発性薬剤の徐放性製剤の放出を制御する技術的指針が明確になっていないということである。
【0020】特に、生分解性高分子素材に関しては、単にそれらを基材とした場合は、その放出速度を制御することは困難である。例えば、ポリ乳酸を用い、かつポリ乳酸に揮発性薬剤を含有させただけ、あるいは可塑剤を単に混入させただけでは、その放出特性を制御することは困難である。なぜならば、ポリ乳酸は比較的剛直な構造を有しているが故に、紐状に加工することなどにより成形保持性能に優れているため取扱いが容易であるが、逆に剛直であるがために、揮発性薬剤自体がポリマー中を拡散し放出されにくいのが特徴である。また、柔軟性をもたせるために可塑剤を導入したとしても、そこに何らかの具体策を施さなければ、放出速度を制御するという目的を達成することができない。それゆえに、明確な指針なしに、放出制御特性を有した材料を設計することは困難であると言わざるを得ないのである。
【0021】さらに、この難拡散放出特性を回避するためには、その製法および成形した内部構造までをも考慮した構成であることが必要である。しかし、これらの事実については一切知られておらず、先に述べたような徐放期間を限定した徐放性製剤の作製には、これらの方法を用いたとしても試行錯誤せざるを得ない状態である。そればかりではなく、対象とする可塑剤、軟化剤等の範囲があまりにも広いため、それらの化学的性質、物理的性質についての配慮がなければ、もはやその選択を行うことは不可能と言わざるを得ない。
【0022】以上より、本発明の目的は、生物に対して誘引、忌避、殺傷効果を有する揮発性薬剤を含み、生分解性高分子材料からなる物質が基材として用いられた徐放性製剤であって、■環境に悪影響を与えない生分解性を有し、■その放出速度が制御された徐放性製剤を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】本発明は、少なくともポリ乳酸と添加物と常温大気中にて揮発性を有しかつ生物に対して誘引効果、忌避効果または殺傷効果を有する揮発性薬剤とからなる徐放性製剤であって、該ポリ乳酸の重量平均分子量が4万以上であり、該添加物によりガラス転移温度が50℃以下にされたものであることを特徴とする徐放性製剤に関する。
【0024】上記本発明において、前記添加物の重量割合は、15%以上50%未満であることが好ましい。
【0025】また上記本発明は、ポリ乳酸に含まれる揮発性薬剤が、生物殺傷効果、生物忌避効果、生物誘引効果を有する有機化合物であることを特徴とする徐放性製剤である。
【0026】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる揮発性薬剤としては、林檎や栗、柿、葡萄、桃、蜜柑等の果樹類、茶、桜、ツバキ、バラ等の樹類、大豆、サツマイモ、落花生、サトイモ、または米、麦、とうもろこし等の穀類に関するもの、さとうきび、わさび等の嗜好品作物に関連するもの、いちご、はくさい、ほうれん草、トマト、きゅうり等の野菜類に対して、それらの葉や根、あるいは実や果実に対して害を与える生物類に対して、効果あるいは作用を有するものである。
【0027】その効果および作用として、上記生物類に対して殺傷効果、忌避作用、あるいは誘引作用を与えるものが選択される。
【0028】殺傷作用を有する揮発性薬剤としては、トレボン、DDPV剤、PHC剤、DEP剤、MPP剤、MEP剤、PHC剤、あるいは、ダイアノジン、イソキサチオン、プロチオホス、フェノトリン、ペルメトリン等の物質が挙げられる。
【0029】また、忌避作用を有する揮発性薬剤としては、例えば、タバコシバンムシに対する産卵忌避剤として2,3−ジヒドロ−3、5−ジメチル−2−エチル−6−(1−メチル−2−オキソブチル)−4H−ビラン−4−オンが特開平1−132501号公報に開示されているが、これらを用いてもよい。その他、ジメチルジクロルビニルホスフェート等が用いられる。また、トレボンも忌避作用を有する。
【0030】さらに、誘引作用を有する揮発性薬剤として代表的なものは性フェロモンを用いたものが挙げられ、この薬剤については近年、多くのフェロモン成分が同定されるとともに製造されている。この薬剤の対象となるものは昆虫が多く、ガ、チョウ、コガネムシ、カミキリムシ等である。例えば、イソペンチルアミン−β−メチルブタン等が挙げられる。
【0031】これらの揮発性薬剤の徐放性製剤に含まれる割合は、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.3重量%以上4重量%以下である。
【0032】本発明におけるポリ乳酸は、その原料として乳酸が用いられ、L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸またはそれらの混合物さらには乳酸の環状2量体であるラクタイドを使用することができる。
【0033】本発明に使用されるポリ乳酸は、例えばL−乳酸含有率が75重量%以上の乳酸を原料として直接脱水縮合する方法、または上記乳酸の環状2量体であるラクタイドを用いて開環重合させる方法により得られる。直接脱水縮合する場合には乳酸を好ましくは有機溶媒、より好ましくはフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を抜いて実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより、本発明に適した強度を持つ高分子量のポリ乳酸が得られる。
【0034】ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)や分子量分布は、実質的に、成形加工が可能であれば特に制限されない。本発明で使用するポリ乳酸の分子量は、実質的に充分な機械物性を示す重量平均分子量4万以上であれば特に制限されないが、一般的には、重量平均分子量(Mw)で4〜20万が好ましく、6〜15万がより好ましい。
【0035】一般的には、重量平均分子量(Mw)が4万より小さい場合、機械物性が充分でなかったり、逆に分子量が20万を超える場合、溶融した状態での粘度が高くなる等して、取扱い困難となったり、製造時間が長くなったり、また製造コストが高くなったりして不経済となる場合がある。
【0036】また、ポリ乳酸に混合される添加物は、ポリ乳酸のガラス転移点を50℃以下にすることができるものであり、生分解性を有するものであれば特に制限はない。このような添加物としては、例えば、リン酸エステル類、フタル酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、脂肪族アルコールエステル類、ヒドロキシ多塩基酸エステル類、エポキシ系動植物油、ポリアルキレングリコール類,生分解性を有する高分子材料(ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート)などが挙げられる。
【0037】本発明で示す添加物のリン酸エステル類としては、リン酸トリブチル、リン酸−2−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシル等が挙げられる。
【0038】本発明で示す添加物のフタル酸エステル類としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノイル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル等が挙げられる。
【0039】本発明で示す添加物の脂肪族カルボン酸エステル類としては、オレイン酸ブチル、ジメチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ−n−ヘキシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等が挙げられる。
【0040】本発明で示す添加物の脂肪族アルコールエステル類としては、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリジエチレングリコールモノオレイルエーテル、トリエチレングリコールジアセテート(以下「TEDA」と略す。)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチラート、トリアセチン、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリンモノオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0041】本発明で示す添加物のヒドロキシ多塩基酸エステル類としては、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、アセチレンクエン酸トリブチル(以下「ATBC」と略す。)等が挙げられる。
【0042】本発明で示す添加物のエポキシ系動植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。
【0043】本発明で示す添加物のポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール(以下「PEG」と略す。)、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられる。
【0044】これらの添加物は、一種或いは二種以上の混合物であってもよい。
【0045】前記添加物の重量割合は、15%以上50%未満が望ましく、18%以上50%未満がより望ましい。さらに好ましくは20%以上50%未満の範囲である。ガラス転移温度については、粘弾性測定法により求めることができる。一般に高分子についてはその分子量が低下するに従って、ガラス転移温度が低下することが知られている。
【0046】本発明の徐放性製剤の揮発性有機化合物の放出特性を示すものとして、放出後の徐放性製剤の揮発性薬剤の経時的な残存濃度を表示し、これを放出特性表示曲線とする。例えば、30日経過後の揮発性薬剤が効率よく放出しきる製剤の代表的な特性表示曲線を図1に示す。この徐放性製剤は、基材としてポリ乳酸を用い、添加剤としてTEDAを用い、揮発性薬剤としてN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を用い、これらを64/25/1/10(重量比)の割合で構成したものである。
【0047】これに対して、図1の特性を示す製剤と同じ揮発性薬剤を用いたポリ乳酸のみを基材とする徐放性製剤の評価を行ったところ、図2に示すようにほとんど揮発性薬剤を放出しなかった。
【0048】図1に示したような放出特性はほぼ理想に近いと言えるが、このような放出特性を有するように制御するためには、基材となる材料、および添加物として加えられた化合物の種類によって、大きくその特性表示曲線の形状を変える可能性のあることが推察される。
【0049】本発明者らは、鋭意検討の結果、基材のガラス転移温度が揮発性薬剤の放出特性に大きな影響を与える事実を発見し、さらにそれらの条件について吟味探索を行った結果、ポリ乳酸を基材とした材料においては、ガラス転移温度を50℃以下にまで低下せしめる材料系を開発することにより、図1に示すような放出特性を有する徐放性製剤を完成するに至った。
【0050】本発明の徐放性製剤の形状は、紐状、球形、ペレット状、シート状のものが用いることができ、任意の形状のものを用いることができる。しかし、その大きさについては、形状に合った放出速度を有するように各々、適宜加工することが好ましい。本発明においては、その形状における代表平均径なるものが1[cm]以下であることが望ましい。
【0051】高分子材料は、その一般的な性質として図3に示すように、ガラス転移温度を変異点として、その内部の自由体積が増大する傾向にあることが確認されている。
【0052】高分子内部における自由体積とは、高分子鎖がその熱励起によって振動運動を繰り返す自由度を有している体積分であり、結果的に、自由体積が大きいということは、内部に含まれている分子も相対的に動きやすくなるということである。したがって、ガラス転移温度よりも高い温度領域においては、内部に含まれる分子も大きな運動力を有するのであって、この温度よりも高い温度領域においては高分子内部をある程度自由に動き回ることができるのである。
【0053】ポリ乳酸の一般的なガラス転移温度は60℃付近である。これに対して、生分解性を有しないが揮発性有機化合物の放出特性を備えた徐放性製剤の材料であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、一例を挙げるとそのガラス転移温度が−24℃付近である。そのため、ガラス転移温度が−24℃と低いEVAは、室温において自由空間が大きく、その結果、内部に含まれる分子があれば、EVA内を動きやすいことが容易に想像できる。さらにその結果、拡散速度も大きく、揮発性の有機化合物が含まれていれば、高い放出特性を有することが想像できる。
【0054】一方、これに対してガラス転移温度が60℃付近と高いポリ乳酸は、室温においては高分子鎖がガラス状態のため、ほとんど固定化した状態であり、内部に有機化合物が含まれていても自由に動きにくいことが推測される。そこで、ポリ乳酸のガラス転移温度を低下させることができれば、内部に含まれる有機化合物などの分子は動きやすくなると予想される。
【0055】以上のことを考慮しながら、ガラス転移温度を低下させるための方法を鋭意検討したところ、ある種の添加物をポリ乳酸に混合させることにより、ガラス転移温度を低下させることができることを確認した。さらに、これらガラス転移温度の低下に効果のある添加物とともに、揮発性薬剤を混入させたところ、図4に示すように、比較対象としていたガラス転移温度−24℃を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体のもつ放出特性と比肩しうる程の放出特性を有するポリ乳酸を基材とする徐放性製剤を開発するに至った。
【0056】図4には、ポリ乳酸の基材とある添加物とを混合させて用いた徐放性製剤のガラス転移温度を併記している。徐放性製剤に含まれる揮発性薬剤として、農薬としてある種の昆虫に対して誘引作用を有する有機化合物であるアミン系揮発性薬剤を選択し、その放散特性を温度一定の条件下においてその残存濃度を測定した。
【0057】比較対象に、製剤の基材としてEVAを用いたところ、そのガラス転移温度は−24℃であった。また、有機化合物の残存濃度については、22日経過後において4%程度にまで低下していることを確認した。
【0058】さらに、図4には、ポリ乳酸(PLA)に種々の可塑剤を混練させたものについて、評価した結果が示されている。ATBC(アセチルクエン酸トリブチル)10%含有させたものについては、その揮発性薬剤の残存濃度は、30日を経過した後もほとんど減少していないことを確認した。この時のガラス転移温度は、52℃であった。さらに、ATBCを18%とすると、ガラス転移温度は47℃までに低下したが、揮発性有機化合物の残存濃度を測定したところ、30日経過後において、80%にまで低下した。すなわち、20%分の揮発性有機化合物が放出されたことになる。
【0059】ところが、ATBCを30%にまで増加させたものについては、そのガラス転移温度は43℃までに低下しており、揮発性薬剤の残存濃度についても大きく減少していることを確認するとともに、その放出特性は比較対象とするEVAを用いたものにかなり近い挙動を示していることを確認した。また、ATBCは20%の他にPEG(分子量4000)30%を加えたものについては、ガラス転移温度は42℃であり、その放出特性は比較対象とするEVAを用いた製剤にかなり近い特性を示すことを確認することができた。
【0060】つまり、ガラス転移温度を低下させることを一つの指標とし、そのような効果を示す有機化合物を主体とする添加物を混合することによって、揮発性薬剤の放出特性を大きく改善することができることを、本発明者らは見い出すに至った。また、基材となる生分解性高分子材料の中には、二酸化珪素を主成分とする無機化合物が含まれていてもかまわない。これらの二酸化珪素を主成分とする無機化合物は、高分子ブロッキング防止剤としての役割を担うものである。
【0061】
【実施例】以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0062】〔実施例1〕揮発性薬剤としてN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミド(以下「フェロモン」と略す。)を用いた。このN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドはある種の昆虫の雄のみを誘引するアミド化合物系の誘引薬剤のラセミ体である。
【0063】基材としては、生分解性高分子化合物である三井化学株式会社製ポリ乳酸(商品名:レイシアH−100J、以下「PLA」と略す。)を使用した。さらに、ブロッキング防止剤として、二酸化珪素を4%含有させた。これが全体として基材としての主要部分になる。
【0064】添加物としては、三洋化成(株)製の分子量4000のポリエチレングリコール(以下「PEG4000」と略す。)と、協和醗酵工業株式会社製のアセチルクエン酸トリブチル(以下「ATBC」と略す。)を使用した。
【0065】これらの物質を、PLA/二酸化珪素/PEG4000/ATBC/フェロモン=44/4/29/19/4の重量比で混合したものを、ボール数100個のボールミルにより30分間混合した。
【0066】次いで、均一になった放出制御体の原料粉体を、押し出し成形機ラボプラストミル(2軸(25mmφ)、ダイス1穴(4.0mmφ))で押し出し成形し、紡糸用巻き取り機で引き取った。
【0067】できあがった徐放性製剤は直径2.8mmであった。この徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、42℃であった。
【0068】また、この徐放性製剤を設定温度を30℃、平均風速を0.3m/sec に設定した送風乾燥機に設置し、経時的にフェロモン残存量を測定した。残存率の経時変化を図5に示す。
【0069】日数経過に応じて順当に揮発性薬剤が減少していることが分かる。そして28日経過後において、残存揮発性薬剤濃度は初期値の22%であった。この結果より、この組成にて与えられた徐放性製剤は、良好な放散特性を有することが認められた。
【0070】したがって、このポリ乳酸を用いた製剤は、ガラス転移温度が50℃を十分に下回っていると同時に、その放出特性も極めて良好な結果であることが認められた。
【0071】〔実施例2〕揮散性薬剤としてN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドを実施例1と同様に用いた。基材も実施例1と同じPLAを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。添加物としては、トリエチレングリコールジアセテート(以下「TEDA」と略す。)を混合した。徐放性製剤の組成はPLA/二酸化珪素/TEDA/フェロモン=70/5/24/1としたことを除いて実施例1と同様の操作を行った。
【0072】フェロモンを含有した徐放性製剤の直径は2.8mmであった。徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、35℃であった。
【0073】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にて徐放性製剤の放散特性を確認するための残存率の測定を行った。結果を図5に示す。
【0074】日数経過に応じて順当に揮発性薬剤が減少していることが分かる。そして30日経過後において、残存揮発性薬剤濃度は初期値の6%であった。この結果より、この組成にて与えられた徐放性製剤は、良好な放散特性を有することが認められた。
【0075】したがって、このポリ乳酸を用いた製剤はガラス転移温度が50℃を十分に下回っていると同時に、その放出特性も比較対象とするEVAを用いたものに比較しうるものであることが認められた。
【0076】〔実施例3〕揮散性薬剤として、N−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドを実施例1と同様に用いた。基材も実施例1と同じPLAを用い、同様にブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。添加物としては、実施例1において使用したアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)を使用した。なお、ATBCの割合は29%とした。
【0077】これらの物質の配合比は、PLA/二酸化珪素/ATBC/フェロモン=64/4/29/3とした。
【0078】徐放性製剤の形成方法としては実施例1と同様の操作を行った。その結果、徐放性製剤の直径は2.8mmであった。この徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、43℃であった。
【0079】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にて揮発性薬剤の放散特性を確認するための残存率の測定を行った。結果を図5に示す。
【0080】日数経過に応じて順当に揮発性薬剤が減少していることが分かる。そして28日経過後において、残存揮発性薬剤濃度は初期値の23%であった。この結果より、この組成にて与えられた徐放性製剤は、良好な放散特性を有することが認められた。
【0081】したがって、このポリ乳酸を用いた製剤はガラス転移温度が50℃を十分に下回っていると同時に、その放出特性も比較対象とするEVAを用いたものに比較しうるものであることが認められた。
【0082】〔実施例4〕揮散性薬剤として、殺傷効果を有するトレボン(商品名、三井化学(株)製)を用いた。基材としては、実施例1と同じPLAを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。添加物としては、実施例1において使用したアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)を使用した。なお、ATBCの割合は29%とした。
【0083】これらの物質の配合比は、PLA/二酸化珪素/ATBC/トレボン=64/4/29/3とした。
【0084】徐放性製剤の形成方法としては実施例1と同様の操作を行った。その結果、徐放性製剤の直径は2.8mmであった。この徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、40℃であった。
【0085】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にてトレボンの放散特性を確認するための実験を行った。結果を図6に示す。
【0086】日数経過に応じて順当にトレボンの残存濃度が減少していることが分かる。そして28日経過後において、残存トレボン濃度は初期値の60%程度であった。この結果から、揮発性有機化合物であるトレボンの放出速度は上記の実施例より遅いが、その残存率は確実に低下しており、相当の期間をおいて徐々にではあるが、放散することが可能である。
【0087】〔生分解性の評価〕実施例1〜4で作製した徐放性製剤は平成9年3月からそれぞれ半年間土中に埋蔵したところ、そのどの徐放性製剤においても、崩壊している状況を確認することができた。
【0088】〔比較例1〕揮発性薬剤としてN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドを実施例1と同様に用いた。基材も実施例1と同じPLAを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。
【0089】これらの物質の配合比はPLA/二酸化珪素/揮発性薬剤=93/4/3とした。徐放性製剤の形成方法としては実施例1と同様の操作を行った。
【0090】その結果、徐放性製剤の直径は2.8mmであった。徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、57℃であった。
【0091】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にて揮発性薬剤の放散特性を確認するための実験を行った。結果を図7に示す。
【0092】28日経過後において、残存揮発性薬剤濃度は初期値の98%程度であり、ほとんど減少していないことが認められた。したがって、添加剤を用いないで作製した徐放性製剤は、極めて低い放出特性を有することが認められた。
【0093】〔比較例2〕揮発性薬剤化合物としてN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドを実施例1と同様に用いた。基材として実施例1と同じPLAを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。添加物として、実施例1において使用したアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)を使用した。なお、ATBCの割合は9%とした。
【0094】これらの物質の配合比は、PLA/二酸化珪素/ATBC/揮発性薬剤=84/4/9/3とした。徐放性製剤の形成方法としては実施例1と同様の操作を行った。
【0095】その結果、徐放性製剤の直径は2.8mmであった。この徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、52℃であった。
【0096】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にて揮発性薬剤の放散特性を確認するための実験を行った。結果を図7に示す。
【0097】日数経過に応じて揮発性薬剤が減少しているもののその減少速度は極めて低いものであった。そして30日経過後において、残存揮発性薬剤濃度は初期値の98%であった。
【0098】〔比較例3〕揮発性薬剤としてN−2−メチルブチル−1−メチルプロピルアミドを実施例1と同様に用いた。基材も実施例1と同じPLAを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。混合物として、ジイソデシルアジペート(DIDA)を使用した。なお、DIDAの割合は29%とした。
【0099】これらの物質の配合比は、PLA/二酸化珪素/DIDA/揮発性薬剤=91/4/2/3とした。徐放性製剤の形成方法としては実施例1と同様の操作を行った。
【0100】その結果、農薬製剤の直径は2.8mmであった。この徐放性製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、57℃であった。
【0101】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にて揮発性薬剤の放散特性を確認するための実験を行った。結果を図7に示す。
【0102】日数経過に応じて揮発性薬剤が減少しているもののその減少速度は極めて低いものであった。そして30日経過後において、残存揮発性薬剤濃度は初期値の98%であった。この結果より、徐放性製剤は、極めて低い放出特性を有することが認められた。
【0103】〔比較例4〕揮発性薬剤として、殺傷効果を有するトレボン(三井化学(株)製)を実施例4と同じく用いた。基材として実施例1と同じPLAを用い、ブロッキング防止剤として二酸化珪素を4%含有させた。そして、添加物として、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)を使用した。なお、ATBCの割合は10%とした。これらの物質の配合比は、PLA/二酸化珪素/ATBC/トレボン=83/4/10/3とした。徐放性製剤の形成方法としては実施例1と同様の操作を行った。
【0104】その結果、徐放性製剤の直径は2.8mmであった。この農薬製剤のガラス転移温度を粘弾性測定法により測定したところ、52℃であった。
【0105】この場合においても、実施例1と同じように、30℃の雰囲気にてトレボンの放散特性を確認するための実験を行った。結果を図8に示す。
【0106】30日経過後において、残存トレボン濃度は初期値の97%であった。この結果からは、揮発性有機化合物であるトレボンの放出特性はすぐれているとは言い難いものであった。
【0107】
【発明の効果】本発明の徐放性製剤は、忌避性、誘引性、殺傷性を有する揮発性薬剤を農薬成分として含むと同時に、その放出速度を制御する機能を有したものであるため、農業従事者の作業の効率化、簡素化に極めて優れた性能を発揮するものである。さらに、生分解性高分子を基材とし、生分解性を有する有機物を添加剤として構成されるものであるため、使用期間を過ぎた後に微生物などに分解され、製剤としての形状を残さず分解する。そのため、回収する必要がなく経済的であり、環境を汚染しない。
【0108】以上のことから、本発明は工業的、また地球環境的観点からみて極めて価値の高い発明である。
【出願人】 【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
【出願日】 平成10年(1998)3月31日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】若林 忠 (外4名)
【公開番号】 特開平11−286403
【公開日】 平成11年(1999)10月19日
【出願番号】 特願平10−87106