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【発明の名称】 トランスジェニック哺乳動物
【発明者】 【氏名】村上 博

【氏名】藤村 達也

【氏名】高萩 陽一

【氏名】豊村 浩司

【氏名】重久 保

【要約】 【課題】トランスジェニック哺乳動物を提供する。

【解決手段】本発明は、ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)の遺伝子を有し、当該ヒトの補体制御因子を臓器・組織、特に血管内皮細胞に発現しているヒト以外のトランスジェニック哺乳動物である。本発明のヒト以外のトランスジェニック哺乳動物は、医学、薬学などの分野における実験動物として及び/叉はヒトの治療目的に供する器官、組織、細胞などの供給源として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)の遺伝子を有し、当該ヒトの補体制御因子を臓器・組織に発現しているヒト以外のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項2】 ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)を血管内皮細胞に発現している請求項1記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項3】 ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)を全臓器・組織の血管内皮細胞に発現している請求項1又は2記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項4】 ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)の遺伝子の上流側にブタ補体制御因子(pMCP)プロモーターを有する請求項1〜3の何れかに記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項5】 ブタ補体制御因子(pMCP)プロモーターが、配列番号1に示される塩基配列又はその一部である請求項4記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項6】 トランスジェニック哺乳動物が、家畜又は実験動物である請求項1〜5の何れかに記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項7】 トランスジェニック哺乳動物が、トランスジェニックブタ又はトランスジェニックマウスである請求項6記載のトランスジェニック哺乳動物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はトランスジェニック哺乳動物に関する。より詳細には、ヒトの補体制御因子(hDAF/CD55)の遺伝子を有するヒト以外のトランスジェニック哺乳動物に関する。さらに詳細には、hDAFの遺伝子を有する家畜及び実験動物に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、動物臓器をヒトへの移植(異種移植)に供するための研究が欧米を中心に盛んになってきている。臓器を提供する動物としては、ヒトに最も近い点でサルが好ましいが、サルは希少で知性の高い野生動物であることから、サルの利用は困難な状況にある。そこで、家畜、中でも臓器サイズ、形態がヒトに近く、繁殖や増産技術の確立しているブタの臓器を利用するための研究が主に行われるようになってきた。しかし、ブタの臓器をヒトに移植した場合には急激に(数分のうちに)強い拒絶反応(超急性拒絶)が起こり、移植した臓器は機能を失ってしまうことが知られている。このような現象は一連の反応の結果として生じると考えられている。即ち、(1)ヒトの血液中にはもともとブタの細胞に対する抗体(自然抗体と呼ぶ)が存在するので、ヒトの体内にブタの組織が移植されると、自然抗体がブタの組織を認識し抗原抗体複合物が作られる。(2)抗原抗体複合物はヒトの血清中に含まれる補体を活性化して補体カスケード反応を惹起させる。即ち、その抗原抗体複合物に補体成分C1が、続いてC4、C2が反応し、それらはC3転換酵素を形成する。C3転換酵素はC3を活性化し、C3bとC3aに分解する。C3bはブタ組織の細胞膜表面に結合するとともに、C5転換酵素を形成することでC5を活性化しC5bとC5aに分解する。C5bも膜に結合し、その後連続的にC6、C7、C8、C9と補体分子は反応して行く。(3)補体カスケード反応の結果として膜侵襲複合体(Membrane Attack Complex:MAC)が作られ(古典経路と称する)、MACが移植されたブタの臓器を侵襲すると共に血栓も形成される。(4)また、古典経路と共に代替経路と称する補体カスケード反応のあることも知られている。代替経路の場合でも、C3ステップ以降は上記と同様のカスケード反応が行われ、最終的にはMACが形成される。Miyagawa, S. ら(Transplantation, Vol.46(6), 825-830, 1988)はつぎのことを報告した;(1)異種移植された臓器や器官の超急性拒絶は古典経路及び/又は代替経路による補体カスケード反応の惹起により生じる;(2)CVF(cobravenom factor)の事前投与によりC3を欠損させておけば超急性拒絶を生じない。これらのことから、C3ステップで補体カスケード反応を阻止する膜結合型の因子であるDAF及び/又はMCP、特にレシピエント種と同種のDAF及び/又はMCPを発現する動物の作成が望まれていた。
【0003】そこで、ブタの臓器にヒトのC3転換酵素を分解する作用を有する補体制御因子であるhDAF(CD55)を発現させたトランスジェニックブタの開発が試みられている(A. M. Rosengardら、Transpalantaion, Vol.59(9), 1325-1333, 1995:G. Byrneら, Transplantation Proceedings, Vol.28(2), 759, 1996)。しかし、これらのトランスジェニックブタが超急性拒絶反応を完全に抑制することができるか否かは現在までのところ明らかになっていない。今後、1)必要な組織に必要な量のhDAFが発現できているか、2)hDAF以外の別の補体制御因子の複合発現が必要でないか、さらには3)ブタ細胞上に発現されていてヒトの自然抗体が結合する抗原(糖鎖抗原)を減少させる働きを有する糖転移酵素遺伝子の発現が必要ではないか、4)上記の遺伝子群及びそれら以外の遺伝子、例えば血栓の形成を阻害する働きを有する蛋白質をコードする遺伝子を同時に発現させることが必要ではないか等を検討する必要がある。即ち、超急性拒絶抑制方法を開発のためには、解明すべき課題が多く残されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述の不明な点を解決するためには、ブタ及び/又はブタより取り扱い易い小型の実験モデル動物を開発して、種々の検討をすることが急務である。とりわけ、目的とする臓器や組織に少なくともヒトと同レベル以上のhDAFを発現するトランスジェニックブタの開発及び/又はブタより取り扱い易い小型の実験モデル動物の開発は、この分野の研究の遂行上及び/又は臨床応用法の開発上、有用と考えられる。そこで、上述のように、これまでもヒトの補体制御因子を発現するトランスジェニックブタの開発が試みられてきている。そして、その発現は、(1)免疫組織学的方法等のin vitro試験、(2)トランスジェニックブタの組織をヒト血液と接触させるex vivo試験、又は(3)トランスジェニックブタの組織を霊長類に移植するin vivo試験などにより確認されている。トランスジェニックブタの組織をexvivo試験やin vivo試験に供した場合には、非トランスジェニックブタの組織を試験に供した場合に比べて、機能保持時間を延長できることが確認されている。但し、これらのトランスジェニックブタの組織に発現されているヒト補体制御因子の量がヒトの組織に発現されている量に比べて同程度かそれ以上であるかについては必ずしも明確にされていない。
【0005】また、これまでに報告されているヒト補体制御因子遺伝子を発現するトランスジェニックブタを作成するのに用いられた導入遺伝子コンストラクトのプロモーター遺伝子は、(1)ブタを起源とするものではなく(G.A.Langfordら、Transplant. Proc., 26, 1400,1994; W.L.Fodorら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 11153-11157, 1994; G.W.Byrneら、Transplantation 63, 149-155, 1997)及び/又は(2)動物の体内の全組織的に分布している分子に関連するプロモーター(例えば、β-アクチン、H2Kb)であった。一方、これまでにもhDAFを発現するトランスジェニックマウスの開発が試みられてきている(N.Caryら, Transplantation Proceedings, Vol.25(1), 400-401,1993; D.Kaganら, Transplantation Proceedings, Vol.26(3), 1242, 1994)。しかし、開発されたトランスジェニックマウスのhDAFの発現部位、発現量は、報告例ごとに異なり、厳密に言えば、ヒトの補体制御因子を本来、発現しおくべき部位(特に、血管内皮細胞)にヒトで発現している量を上回るレベルで発現させたトランスジェニックマウスは開発されていなかった。
【0006】上記課題を解決するために、本発明者らは補体制御因子が本来発現されるべき器官、臓器、組織や細胞、特に血管内皮細胞にhDAFを発現したトランスジェニック動物、特にヒト以外の哺乳動物の作製を検討した。その結果、本発明者らが先に発明したブタ補体制御因子(pMCP)プロモーター(特願平9-142961号参照)を用い、補体制御因子が本来発現されるべき器官、臓器、組織や細胞、特に血管内皮細胞にhDAFを発現するように考案した遺伝子を動物の受精卵に導入し、レシピエント母親動物の卵管又は子宮に移植し、出産させることにより所期の目的を達成するトランスジェニック動物を作製できることが判明した。また、後記の実施例でも示されるように、本発明のトランスジェニックマウスの場合には、hDAFが各種の臓器、組織、その血管内皮細胞と共に、赤血球並びに中枢及び末梢神経にも発現されており、発現量はヒトの細胞の発現量以上であった。更に、本発明のトランスジェニックブタの場合にも、赤血球や神経にもhDAFが発現していることが確認された。本発明は係る知見に基づいてなされたもので、本発明は医学や薬学の分野で有用なトランスジェニック動物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するためになされた本発明の要旨は、■ ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)の遺伝子を有し、当該ヒトの補体制御因子を臓器・組織に発現しているヒト以外のトランスジェニック哺乳動物;
■ ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)を血管内皮細胞に発現している上記■記載のトランスジェニック哺乳動物;
■ ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)を全臓器・組織の血管内皮細胞に発現している上記■又は■記載のトランスジェニック哺乳動物;
■ ヒトの補体制御因子(DAF/CD55)の遺伝子の上流側にブタ補体制御因子(pMCP)プロモーターを有する上記■〜■の何れかに記載のトランスジェニック哺乳動物;
■ ブタ補体制御因子(pMCP)プロモーターが、配列番号1に示される塩基配列又はその一部である上記■記載のトランスジェニック哺乳動物。
■ トランスジェニック哺乳動物が、家畜又は実験動物である上記■〜■の何れかに記載のトランスジェニック哺乳動物;
■ トランスジェニック哺乳動物が、トランスジェニックブタ又はトランスジェニックマウスである上記■記載のトランスジェニック哺乳動物;
である。
【0008】
【発明の実施の形態】上述のように、本発明は、ヒト以外のトランスジェニック哺乳動物であって、ヒトの補体制御因子(以下、hDAFという)の遺伝子を有し、当該ヒトの補体制御因子を臓器・組織に発現していることからなり、特に血管内皮細胞に発現していることからなる。本発明における哺乳動物はヒト以外の哺乳動物であれば特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコなどが例示される。
【0009】本発明のトランスジェニック哺乳動物は、以下の方法により作製することができる。まず、プロモーターとhDAFcDNAを結合した導入用遺伝子を調製する。この方法としては、適当なベクター(例えば、pGL-3ベーシックベクター、pBluescript等)の一部を制限酵素で抜き取り、そのベクター側の末端を常法に準じて平滑化しておく。一方、hDAFcDNA(例えば、Medof, M. E.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 84, 2007, 1987等参照)より、hDAF をコードする塩基配列の開始コドンの直前から終始コドン直後の領域を制限酵素で切り取り、その末端を常法に準じて平滑化した後、上記のベクターの平滑化した部分に挿入し、更に適当なプロモーターをhDAFcDNA挿入部位の上流側に挿入する。上記のプロモーターとしては、hDAFを哺乳動物の体内で発現し得るプロモーターであれば特に限定されず、例えば、エンドセリンのプロモーターなどが例示できるが、本発明者らはブタ補体制御因子(pMCP)プロモーターが特に好適であることを見い出している。なお、ブタ補体制御因子(pMCP)プロモーターの塩基配列を配列番号1として示す(特願平9-142961号参照)。かくして得られたベクター(環状遺伝子)より、プロモーターとhDAFを含む領域を適当な制限酵素で切り出すことにより、導入用遺伝子が調製される。なお、上記の工程における個々の手法は当業者に知られており、各工程は常法に準じて行うことができる。
【0010】トランスジェニック哺乳動物は、上記で調製された導入用遺伝子を哺乳動物の受精卵(前核期卵)の前核にマイクロインジェクション法などの慣用の方法で導入し、当該受精卵を必要に応じて培養し、又は培養せず直に疑妊娠状態に同期化させておいた雌性哺乳動物(レシピエント哺乳動物)の卵管又は子宮に移植し、産仔を得ることにより作製される。なお、前核にマイクロインジェクションを行う際に、受精卵内の多量の脂肪粒の存在等により前核の確認が困難な場合には、常法に従って予め遠心処理を行う。作製された産仔がトランスジェニック哺乳動物であることの確認は、後記のドットブロッテング法、PCR法、免疫組織学的方法、補体抵抗性試験などにより行うことができる。
【0011】かくして得られたトランスジェニック哺乳動物は、常法に準じて交配し、産仔を得ることにより繁殖させることができる。また、当該トランスジェニック哺乳動物の細胞を初期化培養し、又はせずに、予め除核しておいた未受精卵と細胞融合させ、レシピエント哺乳動物の卵管又は子宮に移植し、クローン産仔を得ることによっても繁殖させることもできる。後記の実施例に示されるように、本発明で得られたトランスジェニック哺乳動物はhDAF遺伝子を有し、また全臓器の血管内皮細胞にhDAFを発現しており、ヒト補体に対する抵抗性を有することが確認された。本発明に係るトランスジェニック哺乳動物は、家畜又は実験動物として有用である。
【0012】
【発明の効果】本発明によれば、下記のような効果が得られ、医学、薬学などの分野で有用である。
(1)本発明のトランスジェニック哺乳動物の臓器、例えば心臓、肺、肝臓、腎臓などとヒトの血液を接触させるか、又はこれらの臓器を霊長類の動物に移植すれば、hDAFが異種移植に伴う超急性拒絶の回避に有用であることを確認することができる。
(2)本発明のトランスジェニック哺乳動物の臓器、例えば心臓、肺、肝臓、腎臓などとヒトの血液を接触させるか、又はこれらの臓器を霊長類の動物に移植して異種移植モデルを作製すれば、異種移植時の超急性拒絶の回避を補完する薬剤・処置器材等及び/又は超急性拒絶の後に発生すると危惧されている急性又は慢性拒絶を回避するための薬剤・処置器材等の開発に資することができる。
(3)補体制御因子の発現だけでは解決できない超急性拒絶に関する問題点を顕在化させるための研究開発を行うことが可能となる。即ち、超急性拒絶の回避のためには、補体制御因子の導入と共に、ヒトの自然抗体が結合するブタ細胞上の糖鎖抗原の発現を減少させる機能を有する糖転移酵素の導入及び/又は血管内皮の恒常性を維持する因子(例えば、トロンボモジュリンなど)の導入が必要か否かの議論に解答を与えることができる。
(4)本発明のトランスジェニック哺乳動物に他の補体制御因子(ヒトMCPとヒトCD59)を発現するトランスジェニック哺乳動物を交配させるなどすれば、それぞれの補体制御因子の相乗効果を検討することも可能である。
(5)本発明のトランスジェニック哺乳動物の臓器(例えば、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓等)、臓器に付属する組織(例えば、冠状動脈、脳硬膜等)や細胞(例えば、インスリンを産生するランゲルハンス島、ドーパミンを産生する脳黒質線条体細胞等)等をヒト患者に移植すれば既にダメージを受け機能を失調させた患者臓器等の補完、あるいはその代用とすることができる。
(6)本発明のトランスジェニック哺乳動物の臓器の細胞(例えば、肝臓、腎臓などの臓器から採取した細胞、インスリンを産生するランゲルハンス島、ドーパミンを産生する脳黒質線条体細胞)を培養し、培養細胞を適宜器材装置等に組み入れ、対応する臓器の機能が失調しているヒト患者と体外循環系を介して接続すれば、失調している臓器の代替や治療として活用することが可能となる。
【0013】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例■導入用遺伝子の構築pMCPプロモーターとhDAFcDNAを連結した導入用遺伝子を、下記の要領で作製した。即ち、pGL-3ベーシックベクター(Promega)より、luc.遺伝子をNcoIサイトとXbaIサイトで抜き取り、ベクター側の両末端をT4 DNA polymeraseで平滑化した。次ぎに、第一イントロンを含むhDAFcDNAを、ATG開始コドンの直前のAscIサイトとTAG終始コドンの直後のAccIコドンで切り出し、T4 DNA polymeraseで平滑化し、前述のベクターの末端平滑化した部分に挿入した。また、ブタゲノムファージライブラリーのpMCP遺伝子(特願平9-142961号)を含む領域より、プロモーターに相当する部分の約5.4kbをEcoRIとFspIサイトで切り出し、pBluescriptベクターのEcoRIとEcoRVサイトに挿入した。次いで、以下の操作を行った。
【0014】(1)pBluescriptベクターに挿入したプロモーター部分の約5.4kbをBstEIIとEcoRIで切り出し(配列番号1の塩基配列2〜5392番の配列を有する断片)、T4 DNApolymeraseで平滑化し(配列番号1の塩基配列2〜5397番の配列を有する断片)、前述のベクターのhDAFcDNA挿入部位のすぐ上流にあるSmaIサイトに挿入した。そして、上記のプロモーターとhDAFcDNAを含む領域をNotIとEco47IIIサイトで切り出し、導入用遺伝子(1)とした(図1参照)。
(2)プロモーターを挿入したpBluescriptベクターより、pMCPのATG開始コドンの直前にあるBstEIIサイトとBssH2で1.7kbのプロモーター領域を切り出し、末端をT4 DNA polymeraseで平滑化した後、前述のhDAFcDNAを含むベクターのSmaIサイトに挿入した。さらに、プロモーター部分よりさらに上流にあるpBluescript由来のBstXIサイトとSpeIサイトで切断しプラスミドを直鎖状にし、Kilo-Sequence用Deletion Kit(Takara社製)を用いてプロモーター領域が0.9Kbの長さ(配列番号1の塩基配列4498〜5397番の配列を有する)になるまで短縮したdeletionmutantを得た。そして、上記のプロモーターとhDAFcDNAを含む領域をNotIとEco47IIIサイトで切り出し、導入用遺伝子(2)とした(図2参照)。
(3)一方、hDAFプロモーターとhDAFcDNAを連結した導入用遺伝子(3)を次ぎの要領で作成した。即ち、hDAFプロモーターは、プロモーターに相当する部分の約3.8kbの領域をHindIIIサイトとAscIサイトで切り出し、末端を平滑化し、前述のベクターのhDAFcDNA挿入部位のすぐ上流にあるSmaIサイトに挿入した。そして、上記のプロモーターとhDAFcDNAを含む領域をNotIとEco47IIIサイトで切り出し、導入用遺伝子(3)とした(図3参照)。
それぞれの導入用遺伝子は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて5μg/mlの濃度に調整して用いた。
【0015】■トランスジェニック哺乳動物(マウス)の作成マイクロインジェクション法による導入用遺伝子のマウス受精卵への導入とトランスジェニックマウスの作成を下記の要領で行った。即ち、CBAマウスあるいはC3HマウスのオスにC57BL/6マウスのメスを交配させ、産子を得た。このメスを採卵用マウス(ドナー)に供した。ドナーマウスに過排卵処理(PMSGとhCGの投与)した後、ICRマウスのオスと交配させ、受精卵(前核期卵)を採取した。この前核期卵に、前述の導入用遺伝子(1)又は(3)をマイクロインジェクション法により、前核が膨らむのがわかる程度まで注入した。そして、導入用遺伝子の注入された前核期卵を直ちにレシピエントマウスの卵管に移植し、あるいは導入用遺伝子の注入された前核期卵を3日間培養した後にレシピエントマウスの子宮に移植した。そして、産子を得た。なお、レシピエントマウスは精管結紮マウスと予め交尾させて疑妊娠状態にしておいた。
【0016】■トランスジェニック哺乳動物(ブタ)の作成マイクロインジェクション法による導入用遺伝子のブタ受精卵への導入とトランスジェニックブタの作成を下記の要領で行った。即ち、ランドレース種、大ヨークシャー種及びデュロック種の交雑種の雌豚を採卵用豚(ドナー豚)に供した。ドナー豚に過排卵処理(PMSGあるいはFSHとhCGの投与)した後、デュロック雄豚の精子を用いて人工授精法により受精させ、受精卵(前核期卵)を採取した。この前核期卵を遠心分離機で処理し(12,000 x g,8分間)、その後、前記導入用遺伝子(2)をマイクロインジェクション法により、前核が膨らむのがわかる程度まで注入した。そして、導入用遺伝子の注入された前核期卵を直ちにレシピエント豚の卵管に移植した。そして、産子を得た。なお、レシピエント豚には、予め前述の過排卵処理を行いドナー豚と性周期を同期化しておいた豚、あるいは受精卵を採取した後のドナー豚を供した。
【0017】■トランスジェニック哺乳動物の同定レシピエント哺乳動物から得られた産仔の尾部から常法によりゲノムDNAを抽出し、下記の2方法によりトランスジェニック哺乳動物の同定と選抜を行った。
(1)ドットブロッティング法:供試産仔のゲノムDNA(10μg)をメンブレンに固定し、予めビオチンラベルしておいたhDAFcDNAの一部からなる遺伝子とハイブリダイゼズさせた。アルカリホスファターゼを用いた発色反応(スマライト、住友金属社製)を行い、導入遺伝子の組込みの有無を検出し、トランスジェニック哺乳動物を同定した。
(2)PCR法:供試産仔のゲノムDNAをテンプレートとして、hDAFcDNA由来の5'-GGCCTTCCCCCAGATGTACCTAATGCC-3'をセンスプライマー、同5'-TCCATAATGGTCACGTTCCCCTTG-3'をアンチセンスプライマーとするPCR反応を行った(条件;94℃ 30秒間、68℃ 2分30秒間、30回)。そして、導入遺伝子の組込みの有無を検出し、トランスジェニック哺乳動物の同定を行った。その結果を図4に示す。図4に示すように、レシピエント哺乳動物から得られた産子の内には、そのゲノム中にhDAFcDNAを有するマウス及びブタの存在することが確認された。なお、図4中の1と3はそれぞれhDAFcDNAを有することが確認されたブタとマウスの結果であり、図4中の2と4はそれぞれ同腹産仔のうちhDAFcDNAを有さないことが確認されたブタとマウスの結果である。
【0018】■トランスジェニック哺乳動物(マウス)の繁殖トランスジェニックと同定されたマウスを、ICRマウスと交配させ、導入遺伝子を持つ産子(TgF1マウスという)を作出した。
【0019】■トランスジェニック哺乳動物(マウス)における導入遺伝子の発現の確認(mRNAの発現)TgF1マウスの各種臓器からmRNAを抽出し、常法のRT-PCR法を用いて、臓器中のhDAF由来のmRNAの発現を調べた。なお、比較例として、hDAFプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子(3)を導入して得たトランスジェニックマウス及び通常のマウス(非トランスジェニックマウス)についても、各種臓器からmRNAを抽出し、上記と同様な方法でhDAF由来のmRNAの発現を調べた。その結果を図5に示す。なお、図中の記号、B、H、K、Li、Lu、S及びTは、それぞれ脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓及び精巣を意味する。その結果、pMCPプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子(1)(図1参照)を導入して得たトランスジェニックマウスの場合には、検討した臓器(脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓及び精巣)の全てにhDAFcDNAに由来するmRNAの発現を示す強いシグナルが認められた(図5のA)。このことから、TgF1マウスは全臓器でhDAF由来のmRNAを発現していることが明かとなった。一方、hDAFプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子(3)(図3参照)を導入して得たトランスジェニックマウスの場合には、精巣のみにhDAFcDNAに由来するmRNAのシグナルが認められたが、その他の臓器では、シグナルは認められないか、認められても非常に弱いものであった(図5のB)。なお、非トランスジェニックマウスの場合には、いずれの臓器においても、hDAFに由来するmRNAの発現は認められなかった(図5のC)。また、ヒトリンパ球細胞株(K562)について同様の分析をした場合には、hDAFに由来するmRNAの発現が認められた(図5のCの最右端)。
【0020】■トランスジェニック哺乳動物(マウス)における導入遺伝子の発現の確認(免疫組織学的手法によるhDAF蛋白質の発現の確認)TgF1マウスの各臓器の凍結切片を作成し、ビオチン化抗hDAFモノクローナル抗体を反応させた。その後に、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを結合させた。これに発色基質(ジアミノベンジジン;DAB)を作用させ、顕微鏡観察によりhDAF蛋白質の発現強度及び発現部位を検討した。その結果を下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】表1に示されるように、pMCPプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子(1)を導入して得たトランスジェニックマウスの場合には、観察した全臓器にhDAFの強い発現が認められた。発現の確認された臓器は心臓の心房筋、心室筋と中小・毛細血管内皮、腎臓の糸球体、尿細管と中小・毛細血管内皮、肝臓の肝細胞、胆管上皮と中小・毛細血管内皮、肺の肺胞、気管上皮と中小・毛細血管内皮、腸の腸粘膜上皮と中小・毛細血管内皮、膵臓の外分泌腺細胞、ランゲルハンス島、膵管上皮と中小・毛細血管内皮、脾臓の白脾臓、赤脾臓、脾柱と中小・毛細血管内皮、脳の大脳皮質と髄質、小脳皮質と髄質と中小・毛細血管内皮、精巣の精上皮細胞、間細胞、精子と中小・毛細血管内皮、及び抹消神経であり、全臓器にわたっていた。一方、hDAFプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子(3)を導入して得たトランスジェニックマウスの場合には、精巣のみにhDAFの発現が認められた。しかし、精巣の血管内皮細胞には発現が認められなかった。
【0023】■トランスジェニック哺乳動物(ブタ)における導入遺伝子発現の確認(免疫組織学的手法によるhDAF蛋白質の発現の確認)■に記載のPCR法によりトランスジェニックであることが確認されたブタについてhDAF蛋白質の発現を確認した。即ち、■と同様に、当該ブタの尾部の凍結切片を作成し、ビオチン化抗hDAFモノクローナル抗体を反応させた。その後に、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを結合させた。これに発色基質(ジアミノベンジジン;DAB)を作用させ、顕微鏡観察によりhDAF蛋白質の発現強度及び発現部位を検討した。その結果、pMCPプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子(2)を導入して得たトランスジェニックブタの組織切片の中小・毛細血管内皮にhDAFの発現が認められた。その他にも抹消神経、骨格筋、皮膚重層扁平上皮などの組織でhDAFの発現が認められた。
【0024】■トランスジェニック哺乳動物(ブタ)における導入遺伝子発現の確認(FACS解析によるhDAF蛋白質の発現と発現強度の確認)■に記載のPCR法及び■に記載の免疫組織化学的手法によりトランスジェニックであることが確認されたブタの組織を抗hDAFモノクローナル抗体を用いるFACS(Fluoresence-activated cell sorter, ベクトンディキンソン社製FACScan)解析に供し、hDAF蛋白質の発現を確認した。即ち、当該ブタから血液を採取し、赤血球画分を得た。この赤血球にビオチン化抗hDAFモノクローナル抗体を反応させた。その後に、Phycoprobe PE Streptavidin(Biomeda社製)を結合させ、FACScanにより発現強度を検討した。その結果を図6(A)に示す。また、同腹産仔の内、非トランスジェニックであったブタについて同様のFACS解析を行った結果を図6(B)に示す。なお、図6の横軸は各細胞当たりの蛍光強度、即ちhDAFの発現強度を表わし、縦軸は各強度当たりの細胞数を表わす。図6が示すように、PCR法及び免疫組織学的手法によりトランスジェニックであることが確認されたブタから採取した赤血球は、hDAFを発現しており、その発現量も多いことが認められた。一方、非トランスジェニックブタの場合には、hDAFを発現していなかった。図6に示すように、本例で得られたトランスジェニックブタの場合には、赤血球全体のポピュレーションの中にhDAFを発現する赤血球とhDAFを発現しない赤血球が混在する(モザイクと称する)。なお、マイクロインジェクション法により作成されたトランスジェニック動物の第一世代目(Founder)個体がモザイクを呈すること、及び交配や育種等の慣用の手段によりモザイクが解消されることは既に知られている。■と■に示す結果から、pMCPプロモーターとhDAFcDNAを含む導入用遺伝子を導入して得たトランスジェニックブタは、hDAFcDNAに由来するhDAF蛋白質を血管内皮細胞を含む広範囲の臓器組織に発現していることが分かった。
【0025】トランスジェニック哺乳動物における導入遺伝子の発現の確認(hDAF蛋白質の機能の確認)トランスジェニック哺乳動物の細胞上に発現されたhDAF蛋白質がhDAF蛋白質本来の機能、すなわち補体カスケード反応の抑制作用を有すること確認した。この確認はトランスジェニック哺乳動物の赤血球にヒト血清を反応させ、溶血の有無を測定することにより行った。なお、トランスジェニック哺乳動物の細胞として赤血球を用いたのは、(1)補体カスケード反応による膜侵襲複合体形成の有無を溶血の有無により簡便に検定可能であること、(2)赤血球の膜は他の細胞(例えば、白血球、血管内皮細胞など)の膜より脆弱であるので、補体カスケード反応の強弱をより鋭敏に検定可能であることに依る。トランスジェニックマウス及び非トランスジェニックマウスの尾部、並びにトランスジェニックブタ及び非トランスジェニックブタの耳静脈より血液を採取し、赤血球画分を得た。それぞれの赤血球をPBSにて希釈後、96穴マイクロプレートの各ウエルに30μlずつ分注し(1x107個/ウェル)、その後、補体含有量調整ヒト血清(無処理の正常ヒト血清[HNS]と予め非働化処理[56℃30分間の加熱]しておいたヒト血清[HIS]を種々の割合で混合し、ヒト補体の含有量を調整しておいた血清)70μlを上記のウェルに滴下し、赤血球と反応させた(37℃、1.5時間)。その後、各ウェル上清液の405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio-Rad社製)を用いて測定し、補体反応により生じる溶血の割合を算出した。その結果を図7に示す。但し、図7(a)はトランスジェニックマウスの結果、図7(b)はトランスジェニックブタの結果である。また、図7の横軸は補体含有量調整ヒト血清中のHNSの割合、即ちヒト補体の濃度を示し、縦軸は各赤血球の溶血率を示す。なお、図中、●印はトランスジェニック動物より、▲黒四角▼印は通常の動物より採取した赤血球である。なお、このような溶血反応は、(1)ヒト血清中には自然抗体と補体が含まれているので、動物の赤血球と共存すると補体の古典経路反応が速やかに活性化されること、(2)補体制御因子の種特異性は高く、動物(本発明のトランスジェニック動物は除く)の赤血球はヒトの補体反応を制御できないこと、によって生じる。図7が示すように、非トランスジェニック動物の赤血球はヒト補体含有量の如何を問わず溶血した。一方、トランスジェニック哺乳動物の赤血球の溶血は抑制された。これらのことから、hDAF蛋白質を発現しているトランスジェニック哺乳動物の赤血球はヒト補体に対する抵抗性を有していることが確認された。なお、本実施例のトランスジェニックブタ赤血球のポピュレーションはモザイク状であったが、ヒト補体に対する抵抗性を有していた。
【0026】
【配列表】配列番号:1配列の長さ:5,418配列の型:核酸鎖の数:2本鎖トポロジー:直鎖状配列の種類:Genomic DNA直接の起源:λFIXIIブタゲノムファージライブラリー配列GAATTCTGCG TACACGGGGC CCCGGTGGCT TTACATCATC GCTACAGCGA 50CATGGGATCC GAGCCGTGTC TACAACCTAC ACAACAACGC CAGATCCTTA 100ACCCAATGCA TGAGGACAGG GCTCAAACCT GCGGCCTCAT AGATGCTAGT 150CAGATTCGTT TCTGCTGAGC CACAATGGGA ACTCCTAATT CTAGATCGAT 200CTAGAATTAG GAGTTCCCAT TGTGGCTCAG CAGAAACGAA TCTGACTAGC 250ATCTATGAGG CCGCAGTTTG AGCCCTGTCC TCATGCATTG GGTTAAGGAT 300CTGGCGTTGT TGTGTAGGTT GTAGACACGG CTCGGATCCC ATGTCGCTGT 350AGCGATGATG TAAAGCCACC GGGGCCCCGT GCTACGCAGA ATTCNTGCAG 400CCCGGGGGAT CCACTAGTTC TAGCNAGAGA GTTGAAAATT TAAAGAACAT 450TTCTCCCCTA ATCTCCCAAA ATATGGGCAA AGGACAGGTA CCCGTGGCAC 500TGGAAAAATA CAGGCAAGCA ACCCATGAGT ACATGAAAAG ATGCTCCAGG 550GTTCGGCCTA ATGGAAGCCT GAACAATGCC TATCACATCG TGGGTTTCTG 600AAGAAGTAAC TTAAAGAAAC TAGAAATTAA ATGGCTTTCT TAGAATGAAA 650ATTCTCTATC ACAAGGAAAA ATGTTGTATG TTGTTTTTCC CATAATGGAG 700GTCAGTGGGC GCTATGATTA ACAAATATCT GATGCCTGTG ACTTTTTAAT 750TGCAAGAAAT CTGTGNAGTT TTTTTATTAT 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【出願人】 【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
【出願日】 平成10年(1998)7月14日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 孝美
【公開番号】 特開平11−239430
【公開日】 平成11年(1999)9月7日
【出願番号】 特願平10−216410