| 【発明の名称】 |
アルツハイマー病モデル動物 |
| 【発明者】 |
【氏名】井原 康夫
【氏名】小山 文隆
【氏名】伊藤 守
|
| 【要約】 |
【課題】新規なADモデル動物として、ヒトPS2遺伝子を保有するトランスジェニック動物とこの動物から単離した細胞、並びにをこれらを用いた各種試験方法を提供する。
【解決手段】ヒト・プレセニリン2遺伝子またはその変異遺伝子を導入した全能性細胞を個体発生して得られる哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記導入遺伝子を保有することを特徴とするアルツハイマー病モデル動物と、このモデル動物から単離された細胞、並びにこれらのモデル動物または細胞を用いてアルツハイマー病原因物質または治療薬を特定する試験方法。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヒト・プレセニリン2遺伝子またはその変異遺伝子を導入した全能性細胞を個体発生して得られる哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記導入遺伝子を保有することを特徴とするアルツハイマー病モデル動物。 【請求項2】 哺乳動物が、マウスである請求項1のアルツハイマー病モデル動物。 【請求項3】 ヒト・プレセニリン2遺伝子が、当該ゲノム遺伝子のRNAより調製したcDNAである請求項1または2のアルツハイマー病モデル動物。 【請求項4】 ヒト・プレセニリン2の変異遺伝子が、当該ゲノム遺伝子のRNAより調製したcDNAにおける第141番目アスパラギン残基がイソロイシン残基に置換した変異cDNAである請求項1または2のアルツハイマー病モデル動物。 【請求項5】 ヒト・プレセニリン2の変異遺伝子が、当該ゲノム遺伝子のRNAより調製したcDNAにおける第239番目メチオニン残基がバリン残基に置換した変異cDNAである請求項1または2のアルツハイマー病モデル動物。 【請求項6】 請求項1から5のいずれかの動物から単離された細胞。 【請求項7】 請求項1から5のいずれかの動物に、アルツハイマー病の原因となる疑いのある物質を投与し、動物細胞におけるアミロイドβタンパク質の生産量を指標としてアルツハイマー病原因物質を特定する試験方法。 【請求項8】 請求項6の細胞を、アルツハイマー病の原因となる疑いのある物質を含有した培地で培養し、細胞のアミロイドβタンパク質生産量を指標としてアルツハイマー病原因物質を特定する試験方法。 【請求項9】 請求項1から5のいずれかの動物、またはアルツハイマー病原因物質を投与したこの動物に、アルツハイマー病の候補治療薬を投与し、動物細胞におけるアミロイドβタンパク質の生産量を指標としてアルツハイマー病治療薬を特定する試験方法。 【請求項10】 請求項6の細胞の培養培地中、またはアルツハイマー病原因物質を含有した培地で培養したこの細胞の培地中に、アルツハイマー病の候補治療薬を添加して細胞を培養し、細胞のアミロイドβタンパク質生産量を指標としてアルツハイマー病治療薬を特定する試験方法。
|
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】この出願の発明は、アルツハイマー病モデル動物に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、アルツハイマー病の原因遺伝子の一つであるヒト・プレセリン2遺伝子(以下、PS2と記載することがある)を体細胞染色体中に保有するトランスジェニック動物であって、アルツハイマー病の原因解明およびその診断法並びに治療法の開発に有用なモデル動物、この動物の細胞培養、およびこれらを用いた各種試験方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】アルツハイマー病(Alzheimer's Disease : AD)は、中年以降に発病し、短期間の間に記銘力、記憶力の低下、人格障害などを生じる進行性の痴呆疾患であり、脳内における老人斑の存在と細胞内の神経原線維変化を大きな特徴としている。脳血管性痴呆と並んで老年期痴呆の中核ともいえる重要疾患であり、我が国では痴呆患者の約3分の1、米国では40〜60%がADと言われている。 【0003】また、ADの約1割は常染色体優性遺伝を示す家族性ADであり、その原因遺伝子の一つとして、1991年にアミロイドβタンパク前駆体(βAPP)遺伝子の変異が同定されている(Nature, 349: 704-706, 1991)。このβAPP遺伝子の変異は、第21番染色体に連鎖する家系のAD発症に関与しており、その後、第14番染色体に連鎖する家系ではプレセニリン1(PS1)の遺伝子変異(Nature375: 754-760, 1995)が、第1番染色体に連鎖する家系ではプレセニリン2(PS2)の遺伝子変異(Science 269: 973-977, 1995)が同定されている。 【0004】そして、βAPPについては、この変異タンパク質を発現するトランスジェニックマウスの作成が試みられ、1995年には、Games らによりADの病態変化を再現したβトランスジェニックマウスが報告され(Nature 373:523-527, 1995)、このようなモデル動物を用いたADの病態の解析や治療薬剤の開発が期待されている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ADは上記のとおりの複数の遺伝子異常によって引き起こされる多因子疾患であること考えられることから、βAPPに関係するトランスジェニックマウスだけでは、ADの病因、病態の解析および治療薬剤の開発のために十分とは言えない。 【0006】特に、老人斑の主要成分であるアミロイドβタンパク質(Aβ)は、C末端の長さにによってAβ42とAβ40の2種類に分けられるが、このうち、Aβ42が老人斑の形成に重要な役割を果たしていることが知られている(例えば、Neuron 13:45-53, 1994; Ann.Neurol. 37: 294-299, 1995; Biochemistry 32: 4693-4697, 1993; Science 264: 1336-1340, 1994; Neurology 48: 741-745, 1997)。そして、このAβ42の生産には、PS1およびPS2遺伝子の変異が等分に関与していることも知られている(Nature Med. 2: 864-870, 1996; Nature 383: 710-713, 1996; Neuron 17: 1005-1013, 1996; Nature Med. 3:67-72, 1996)。 【0007】従って、ADの病態解析および治療薬剤の開発等のためには、ADの特徴である老人斑の形成に重要な役割を果たすAβ42の生産に関係する遺伝子PS1またはPS2遺伝子を導入したトランスジェニック動物が不可欠である。この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、新規なADモデル動物として、ヒトPS2遺伝子またはその変異遺伝子を保有するトランスジェニック動物を提供することを目的としている。 【0008】また、この出願の発明は、このモデル動物または動物から単離した細胞を用いた各種試験方法を提供することを目的としてもいる。 【0009】 【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、ヒト・プレセニリン2遺伝子またはその変異遺伝子を導入した全能性細胞を個体発生して得られる哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記導入遺伝子を保有することを特徴とするアルツハイマー病モデル動物を提供する。 【0010】この発明のモデル動物においては、上記哺乳動物が、マウスであることを好ましい態様の一つとしている。また、ヒト・プレセニリン2遺伝子が、当該ゲノム遺伝子のRNAより調製したcDNAであること、ヒト・プレセニリン2の変異遺伝子が、当該ゲノム遺伝子のRNAより調製したcDNAにおける第141番目アスパラギン残基がイソロイシン残基に置換した変異cDNAまたは第239番目メチオニン残基がバリン残基に置換した変異cDNAであることを別の好ましい態様としてもいる。 【0011】この出願の発明は、また、上記のモデル動物から単離された細胞を提供する。さらにまた、この出願の発明は、上記モデル動物または細胞を用いて、アルツハイマー病原因物質または治療薬を特定する試験方法を提供する。以下、上記の各発明について実施の形態を詳しく説明する。 【0012】 【発明の実施の形態】この発明のADモデル動物は、ヒトPS2遺伝子またはその変異遺伝子を導入した全能性細胞を個体発生して得られる哺乳動物およびその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記導入遺伝子を保有することを特徴とするトランスジェニック動物である。 【0013】導入遺伝子の一つであるヒトPS2遺伝子(野生型PS2)は、例えば、ヒトの脳から抽出したRNAからcDNAライブラリーを作成し、公知のPS2配列(Nature 376:775-778, 1995; Science 269:970-977, 1995 )に基づいて合成したオリゴヌクレオチドプローブを用いてライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。また、公知のPS2配列の両端に相当する合成オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR法によっても目的とするcDNAを得ることができる。 【0014】ヒトPS2変異遺伝子(変異型PS2)は、上記のとおりの方法によって得た野生型PS2のcDNAに、公知の方法で変異誘導することによって容易に作成することができる。すなわち、変異型PS2は、野生型PS2cDNAの第141番目アスパラギン残基がイソロイシン残基に置換した変異(N141I)と、第239番目メチオニン残基がバリン残基に置換した変異(M239V)の2種類であり(Neuron 18: 687-690, 1997)、この発明ではいずれの変異型PS2をも対象とすることができる。 【0015】また、これらの導入遺伝子には、その発現を制御するためのプロモーター配列やエンハンサー配列を連結する。これらの配列については特に制限はなく、通常用いられている配列を適宜に組み合わせて使用することができる。ただし、導入遺伝子を脳で特異的に発現させるためには、β−アクチンプロモーター等の使用が好ましい。 【0016】トランスジェニック動物の作成は公知の方法(例えば、Pro.Natl.Acad.Sci.USA 77:7380-7384, 1980)に従って、上記導入遺伝子を哺乳動物の全能性細胞に導入し、この細胞を個体へと発生させ、体細胞のゲノム中に導入遺伝子が組み込まれた個体を選別することによって作成することができる。哺乳動物としては、技術的には全ての動物種を対象とすることが可能であるが、特に近交系が多数作出されており、しかも受精卵の培養、体外受精等の技術が整っているマウスが最適である。遺伝子を導入する全能性細胞としては、マウスの場合、受精卵や初期胚のほか、多分化能を有するES細胞のような培養細胞を対象とすることができる。また、このような培養細胞への遺伝子導入法としては、公知の静電パルス法、リポソーム法、リン酸カルシウム法等も利用できるが、トランスジェニック動物個体の産出効率や次代への導入遺伝子の伝達効率を勘案した場合、受精卵へのDNA溶液の物理的注入(マイクロインジェクション)法が好ましい。 【0017】遺伝子を注した全能性細胞は、次に仮親の卵管に移植し、個体まで発生し、出生した動物を里親につけて飼育させたのち、体の一部(例えば尾部先端)からDNAを抽出し、サザンブロット分析やPCRアッセイ等により導入遺伝子の存在を確認する。導入遺伝子の存在が確認された個体を初代(Founder )とすれば、導入遺伝子はその子孫の50%に伝達され、野生型PS2または変異型PS2を染色体の一部に安定的に組み込んだ動物を効率よく作出することができる。 【0018】このようにして作出されたトランスジェニック動物は、例えば変異型PS2を保有する動物の場合には、後記する実施例にも示したようにAβ42を過剰生産するため、その生産抑制作用または分解作用によってAD治療効果が期待される薬剤のスクリーニングに最適のモデル動物となる。また、野生型PS2を保有するトランスジェニック動物は、ADの病因または自然発症過程を調べるためのモデル動物として有用である。すなわち、野生型PS2動物は、変異型PS2動物に比べてAβ42の生産量は少ないため、例えばADの原因となる疑いのある物質を投与し、その生産量の増加の程度を見ることによって、AD原因物質を特定することができる。あるいは、AD原因物質で予め処理し、ついでAD治療薬剤のスクリーニングに用いることもできる。 【0019】さらにまた、この発明によって提供されるトランスジェニック動物は、全ての体細胞に導入遺伝子を保有するため、この動物個体から単離した細胞もそれぞれにヒトAβ42を生産する。このため、これらの細胞の培養系を用いて、上記動物個体の場合と同様にAD原因物質や治療薬剤のスクリーニングを行うことができる。特に、このような細胞培養系は、動物実験代替として、原因物質や薬剤の1次スクリーニングに有用である。 【0020】以下、実施例を示してこの発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。 【0021】 【実施例】 (1)トランスジェニックマウスの作成公知の方法(Anal.Biochem. 162: 120-129, 1987)に従って健常老人の脳から全RNAを抽出し、公知の方法(J.Neurochem. 67: 1235-1244, 1996)により逆転写してcDNAを作成した。次いで、これらのcDNAから、PCR増幅により野生型PS2のcDNA(481-bp)を調製した。PCRプライマーとしては、配列番号1の合成オリゴヌクレオチド(フォワードプライマー)および配列番号2の合成オリゴヌクレオチド(リバースプライマー)を用いた。また、PCR条件は、(94℃で1分間:55℃で3分間:72℃で4分間)×35サイクルとした。 【0022】変異型PS2のcDNAとしては、PCR変異誘導法により第141番目のアルギニン残基をイソロイシン残基に置換したN141Iを作成した。これらのcDNAは、次いで発現ベクターpCAGGS(Gene 108: 192-200,1991 )に挿入し、DNAシークエンサーにより塩基配列を解析して、それぞれ野生型PS2cDNAおよび変異型PS2cDNA(N141I)であることを確認した。 【0023】次に、組換えベクターpCAGGSのインサートに、CMV−IEエンハンサー配列、ニワトリβアクチン・プロモーターおよびウサギβグロビン・ポリアデニレーションシグナルを挿入結合し、導入遺伝子を構築した。この導入遺伝子をベクターから切り出し、ゲル電気泳動により精製したのち、マイクロインジェクション法によってマウス胚に注入した。マウス胚は、C57BL/6(B6)JまたはDBF1(雌)とB6N(雄)との交配によって得た。遺伝子導入胚は、定法に従って仮親の卵管に移植し、個体へと発生させ、出生させた。 【0024】得られたマウス個体の尾部からDNAを抽出し、導入遺伝子断片の両端配列に基づき合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRアッセイにより、初代トランスジェニックマウスを選別した。その結果、野生型PS2cDNAを保有する初代トランスジェニックマウスと、変異型PS2cDNAを保有する初代トランスジェニックマウスがそれぞれ1匹ずつ得られた。これらの初代トランスジェニックマウスをC57BL/6Jと戻交配し、ヒト野生型PS2cDNAを保有するトランスジェニックマウスの2系統(W1およびW2)と、ヒト変異型PS2cDNAを保有する2系統(M1およびM2)を作成した。 (2)トランスジェニックマウスの遺伝子発現の検討トランスジェニックマウスの脳内における導入遺伝子の発現の程度を逆転写酵素−PCR(RT−PCR)法により8ヶ月齢の時点で調べた。その結果、野生型マウスの内在性マウスPS2mRNAの発現量は、検出可能ではあるが極わずかであるのに対し、トランスジェニックマウス4系統では、いずれも導入PS2mRNAの発現量の増大が確認された。また、その発現量は、野生型マウスに比べて5倍(M2)から15倍(W1)であった。また、W2およびM1系統は、導入PS2mRNAの発現レベルがほぼ同一であった。なお、導入遺伝子の有無は内在性のマウスPS1またはPS2mRNAのレベルには影響を及していなかった。 【0025】以上の結果から、得られたトランスジェニックマウスは、ヒト野生型PS2および変異型PS2をそれぞれ脳内で過剰生産していることが確認された。 (3)トランスジェニックマウスの脳内でのAβ40およびAβ42のレベルの検討トランスジェニックマウスW2およびM1の2、5、および8ヶ月齢の時点での脳可溶性画分におけるAβ40およびAβ42レベルをイムノアッセイ(EIA)法により調べた。結果は表1に示したとおりである。 【0026】この表1の結果からも明らかなように、ヒト変異型PS2トランスジェニックマウス(M1)は、コントロール(野生型マウス:Non-Tg)およびヒト野生型PS2トランスジェニックマウス(W2)に比べて脳内Aβ42量が多いことが確認された。特に、W2におけるAβ42レベルは5ヶ月齢以降わずかに増加するのに対し、M1におけるAβ42レベルは加齢にしたがって顕著に増加した。これらのことから、ヒト変異型PS2トランスジェニックマウス脳では、加齢に伴ってAβ42量を増大させることが確認された。 【0027】 【表1】
【0028】 【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この発明によって、ヒトPS2遺伝子またはその変異遺伝子を保有するトランスジェニック動物が提供される。これらの動物によって、ADの病因および病態解析、並びにその治療薬剤等の開発が促進される。 【0029】 【配列表】 配列番号:1配列の長さ:30配列の型:核酸鎖の数:一本鎖トポロジー:直鎖状配列の種類:他の核酸 合成DNA配列 CCCGCCGGAA TTCCAGAGGC AGGGCTATGC 30配列番号:2配列の長さ:30配列の型:核酸鎖の数:一本鎖トポロジー:直鎖状配列の種類:他の核酸 合成DNA配列 CCCGCCGAGA TTCAGATGTA GAGCTGATGG 30 |
| 【出願人】 |
【識別番号】396020800 【氏名又は名称】科学技術振興事業団
|
| 【出願日】 |
平成9年(1997)11月17日 |
| 【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】西澤 利夫
|
| 【公開番号】 |
特開平11−146743 |
| 【公開日】 |
平成11年(1999)6月2日 |
| 【出願番号】 |
特願平9−315346 |
|