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【発明の名称】 養殖真珠およびその取得方法
【発明者】 【氏名】西隅 英俊

【要約】 【課題】無核真珠を真珠核とした養殖真珠を提供する。

【解決手段】無核真珠、特に淡水真珠と外套膜切片を挿核した真珠貝を海中に吊り下げて飼養し、次いで、無核真珠表面に真珠層が形成された(養殖)真珠を真珠貝から回収する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 無核真珠を真珠核とした養殖真珠。
【請求項2】 前記無核真珠が、淡水真珠である請求項1に記載の養殖真珠。
【請求項3】 真珠核と外套膜切片を真珠養殖用母貝に挿入して着生し、および前記真珠核の表面に真珠層が形成された真珠を前記母貝から回収する、工程を含む真珠の養殖方法において、前記真珠核が、無核真珠であることを特徴とする真珠の養殖方法。
【請求項4】 前記無核真珠が、淡水真珠である請求項3に記載の養殖方法。
【請求項5】 前記母貝が、アコヤ貝である請求項3もしくは4に記載の養殖方法。
【請求項6】 請求項3ないし5のいずれかに記載の養殖方法によって得られる養殖真珠。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アコヤ貝などの真珠形成能力を備えた貝〔以下、「真珠貝」と称する〕を利用して得た養殖真珠、特に、無核真珠を真珠核とした養殖真珠の取得方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】真珠は、貴金属と並んで装飾品において重要な位置を占め、また生物学的手段を利用して得られる唯一の宝石でもある。 そして、真珠貝を用いた養殖過程を経て得られる真珠、いわゆる養殖真珠(Cultured Pearl)は、その養殖効率が、養殖場の海水条件や気象条件などの環境要因に大きく依存するため、良質の真珠貝と養殖真珠の取得(回収)率は安定せず、花珠や良質真珠と呼ばれる商品化に適した真珠の取得率は概ね30%前後(花珠に限れば約5%)と言われている。 しかしながら、かようにして得られた真珠の中でも、所定の色彩や光沢などの光学的特徴や、珠の均質性や大きさなどの物理的特徴に関する厳格な基準を満足したものだけが、指輪、ネックレス、イヤリングなどの装飾具や、衣裳・衣服などの実際の商品的使用に供されるのである。 このような商品化に至るまでの数々の厳しい選別基準が、真珠の宝石としての稀少価値をより一層高めているのである。
【0003】一般に、養殖手段を介した真珠の取得にあっては、まず、アコヤ貝等の真珠貝(養殖用母貝)に、真珠核と外套膜切片を挿入する。 すると、細胞分裂によって外套膜切片から生じる遊走(遊離)細胞が、挿入した真珠核を包み込み、真珠核表面に炭酸カルシウム結晶の分泌を始める。 そして、この分泌状態にある真珠貝を、養殖筏に取り付けて、海中に一定期間吊り下げて飼養することで、真珠核の表面に(炭酸カルシウム結晶を主成分とする)真珠層が形成され、養殖真珠となるのである。
【0004】真珠貝に挿入される真珠核(単に「核」とも言う)とは、養殖真珠の芯に相当するものであり、従来から、淡水貝の貝殻、例えば、イシガイ科のカワボタンガイなどの二枚貝の貝殻を切断・研磨加工して得た核材などが、一般的に利用されている。 この核は、最終的に得られる養殖真珠の品質などに影響を与える因子でもあり、その選択には慎重を期する必要がある。 これまでに、養殖真珠用の核を構成する素材として、合成樹脂製の核や、着色した核など、様々なタイプの核が提案されている。 例えば、炭酸カルシウムとプラスチックを混合して得た練核や、真珠粉末、珊瑚粉末および甲殻の粉末を混合・成型して得た核(特開昭60−259135号)、快削性結晶化ガラス製の核(特開昭61−25428号)、および有色セラミック核(特開昭63−219325号)などがある。 しかしながら、これら従来の核によると、その形状が必ずしも一定しておらず、また、核材の由来貝が成長する過程で造った層状の縞模様が核にも出現してしまい、これが原因で、養殖時、加工時あるいは流通時に突然、その層状部に対して水平に亀裂が入り(核割れが発生し)、真珠の商品価値を損なうことになる。
【0005】真珠の品質(商品価値)に直接的に影響する因子として、真珠の色、光沢、巻き、キズ、形があり、これらは、真珠核として選択した素材の特性によっても影響を受ける。 真珠の光沢は、真珠に当たった光の反射によって生じる。 また、真珠核上に被着される真珠層自体が半透明であることから、真珠層中に幾重にも重なる炭酸カルシウムの各々の層から反射光が相乗的に発生し、これによって、真珠特有の光沢(いわゆる、「てり」)が形成されるのである。 さらに、この光沢の良し悪しは、炭酸カルシウムの結晶板の厚さや、結晶板の配列の乱れによっても影響を受け、これは、真珠層中で起こる光の干渉作用からくる干渉色と呼ばれる色と深い関連がある。 また、真珠の色の形成には、真珠層中のタンパク質に含まれている有色物質に起因する、実体色と呼ばれる色も関与している。
【0006】一方、真珠の巻き(真珠層の厚さ)は、真珠の商品化にあっては、少なくとも0.3mm以上の巻きが必要とされており、これは、真珠の色や光沢の形成に少なからずの影響を与える。 なお、真珠の巻きは、真珠貝による真珠質の分泌活動によって形成されるものであり、その分泌活動は、真珠貝の養殖期間、養殖期間中に実施される貝掃除の際によって真珠貝に与えられる物理的刺激、そして、適度な温度管理(13〜26℃)によって制御される。
【0007】真珠の養殖において、良質の真珠を歩留り良く取得するためには、真珠貝(母貝)に挿入された真珠核が、真珠貝によって異物として認識されて拒絶されないことに加え、真珠核と外套膜切片の挿入(挿核手術)を終えた真珠貝の成長環境の整備が肝要である。 しかしながら、昨今のわが国の主要な真珠養殖場(例えば、英虞湾、宇和島など)にあっては、海中での飼養(養殖)期間中の真珠貝の成長に影響を与える、潮流、海水のpH、温度、汚濁度(プランクトンの発生密度など)、溶存酸素量などの海水条件、海洋汚染の進行、台風、波浪などの気象条件や、原因不明の真珠貝の異常へい死などの養殖環境の異変が指摘されている。すなわち、真珠貝が、養殖場の環境の変化に対応しきれなくなり、結果として、真珠貝の成長不良が著しくなって、真珠貝や真珠自体の価格高騰や、良質真珠の取得率の低下などの現象を招き、真珠産業の根幹を揺るがしかねない事態に至っているのである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、真珠産業、特に真珠の養殖生産現場が直面している上述した不安定な養殖環境に鑑み、より高級感のある良質の真珠を取得すべく、真珠貝に挿入すべき核の素材を鋭意検討・探求した結果、本発明を完成したものであって、その要旨とするところは:無核真珠、特に淡水真珠を真珠核とした養殖真珠、および、無核真珠と外套膜切片を挿核した真珠貝を海中に吊り下げて飼養し、次いで、飼養期間中に無核真珠表面に真珠層が形成された真珠を真珠貝から回収する工程を特徴とした真珠の養殖方法にある。
【0009】
【発明の実施の態様】本発明の養殖真珠は、その真珠核として無核真珠、好ましくは無核の淡水真珠を用いる。 この「淡水真珠(Fresh Water Pearl)」とは、イケチョウ貝(主に琵琶湖産)やヒレイケチョウ貝(主に中国産)などの、湖や河川に生育する貝から採れる真珠であり、これら淡水真珠は、核を用いずに外套膜切片(ピース)だけを貝の体内に挿入して真珠層を形成せしめた、無核真珠がほとんどである。
【0010】無核真珠は、淡水真珠の他に、様々な種類の真珠貝に由来する天然真珠やケシでも見られ、また、これら無核真珠は、その干渉色とは別に地色(タンパク質の色)として、白、黄、橙、紫、黒など多様な色彩・色合いを発現する特徴がある。
【0011】このような無核真珠を真珠核とすることで、真珠層を介して真珠から発現される色にも、多様性のある(これまでに見られなかった)色合いを付けることも十分に期待できる。
【0012】なお、本明細書における「淡水真珠」とは、別段の断りが無い限り、このような無核の淡水真珠を指す。 また、本発明にあっては、淡水真珠を真珠の核として使用する関係から、その形状はなるべく真円に近いものが好ましく、また、その大きさは、最終的に得ようとする真珠の珠径ならびに海中での養殖期間を加味して任意に設定されるものであり、一般的に大きいほど望ましいが、挿核以後の作業性・真珠貝の成長性を考慮すれば、一般的には4〜5mm、最大級で約8mmの直径のものが好ましい。 その他に、淡水真珠の選抜にあたっては、凸凹の少ない、好ましくは皆無の真珠表面(平滑性)や、この平滑性によってもたらされる真珠の光沢なども考慮する。
【0013】そして、このようにして選別した淡水真珠を、通常の真珠養殖の手順に従って、■淡水真珠を真珠貝へ挿核し、■挿核した真珠貝を養生し、■真珠貝を海中で飼養し、そして、■浜揚げ(真珠の回収)して、目的とする養殖真珠を取得する。
【0014】なお、真珠貝の養生や海中飼養の条件・期間は、従前の養殖技術に沿って設定することができる。
【0015】また、淡水真珠が挿入される真珠貝の種類は、特に限定されるものではなく、アコヤ貝の他、シロチョウ貝、クロチョウ貝、マベ貝なども同様に使用できる。
【0016】
【実施例】以下に、本発明を実施例に沿って詳述するが、本発明がこれら実施例の開示に基づいて限定的に解釈されるべきでないことは勿論である。
【0017】実施例1:養殖真珠の評価試験(前試験)前試験用のサンプルとして、以下の手順に従って試験サンプルを作成した。
【0018】まず、従来の養殖方法によって得た真珠(アコヤ真珠:直径8〜9mm)を、真半分に切断して二つの半球体の真珠を得た。
【0019】一方の半球体それ自体を、対照区とした。 次に、他方の半球体については、この半球体から真珠核を取り除き、そして、キャップ状となって残った真珠層に(取り除いた真珠核とほぼ同じ大きさの)淡水真珠の半球体を嵌合したものを、試験区とした。 なお、試験区での淡水真珠として、白色系淡水真珠、ピンク色系淡水真珠、オレンジ色系淡水真珠および紫色系淡水真珠を用いて、計4つの試験区を作った。
【0020】試験区サンプルの各々と対照区サンプルを1対1で並列せしめて、両半球体の光沢、巻き、真珠色への核色の反映効果について、21名の熟練したパネラーによって、その優劣を評価した。
【0021】その結果、驚くべきことに、21名全員のパネラーが、いずれの色の淡水真珠を真珠核とした試験区であっても、光沢、巻き、真珠色への核色の反映効果の各評価項目について、対照区よりも優れた視覚効果が発現されているとの評定を出した。 この試験結果は、本願発明に従って実際の養殖現場で得られる養殖真珠の品質の良さを予期するに十分な根拠になると考えられた。
【0022】実施例2:養殖真珠の評価試験実施例1での評価結果を受けて、淡水真珠を真珠核とした真珠の養殖を実際に行った。
【0023】まず、挿核材料として、直径4〜5mmの白色系およびオレンジ色系の淡水真珠(いずれも無核真珠;中国産)と、直径4〜5mmの従来の核材(ガマノセカワボタン貝の貝殻)を準備した。
【0024】平成9年6月26日に、17個の国産のアコヤ貝(真珠貝)に、前述の淡水真珠もしくは従来核を、2個づつ挿入した。 挿核手術後、約2週間、養生箱で真珠貝を養生させた。
【0025】平成9年7月12日に、養生を終えた真珠貝を養殖筏に装着して、養殖場(英虞湾)での養殖を開始した。 約6週間後(平成9年8月26日)に養殖筏を引き上げ、養殖貝の試験むき(真珠の回収)を行った。 この時点において、いずれの核材もしくは淡水真珠を挿核した真珠貝においても、真珠層の形成が確認された。
【0026】このようにして得られた真珠について、19名の熟練したパネラーによって、目視による品質比較試験、すなわち、光沢、巻き、真珠色への核色の反映効果について、改めてその優劣を評価した(平成9年9月8日現在)。 その結果、全員のパネラーが、各評価項目について、本発明による淡水真珠を真珠核とした真珠において、真珠層の形成が良好で、また、その視覚効果も優れているとの一致した評価を下し、先の実施例1での前試験結果を裏付ける恰好となった。
【0027】
【発明の効果】このように、本願発明の養殖真珠は、真珠核として用いた無核真珠(淡水真珠)が本質的に有する品質が、最終的に得られる真珠の光沢や色の発現に良好に関与するので、優れた視覚効果を呈する真珠の取得が可能となる。
【0028】また、本願発明に従って真珠核に無核真珠を用いることで、真珠核上に被着する真珠層が球状構造になるため、従来の核材で認められていた「核割れ」の発生が構造上起こりにくくなり、真珠の品質維持にも寄与できる。
【0029】さらに、真珠核とその核上に被着形成される真珠層は、いずれも核材(無核真珠)とほぼ同質の物質を主成分とするので、両者の親和性は高く、よって、真珠核と真珠層との界面密着性も良好となり、構造的に一体性が強化された真珠の取得が期待できるなど、様々な優れた効果が相乗的に奏されることになる。
【出願人】 【識別番号】397057751
【氏名又は名称】オリエントパール株式会社
【出願日】 平成9年(1997)11月5日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】角田 嘉宏 (外4名)
【公開番号】 特開平11−137115
【公開日】 平成11年(1999)5月25日
【出願番号】 特願平9−302787