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【発明の名称】 光独立栄養培養による木本性植物の生産方法
【発明者】 【氏名】古在 豊樹

【氏名】久保田 智惠利

【氏名】長谷川 修

【要約】 【課題】遺伝的に均質な木本性植物、特にアカシア属、コーヒー属、ガルシニア属に属する植物の小植物体を効率的に生産する方法を提供することを課題とする。

【解決手段】木本性植物として産業的価値の高いアカシア、コーヒー、マンゴスティンを選択し、光独立栄養培養によるこれら植物の小植物体の生産の検討を行った結果、これら植物から得た外植片を糖分を含まない培地に移植し、光照射下において培養器内の二酸化炭素濃度を高濃度に維持しつつ培養を行うことにより、従来の光混合栄養培養に比して、極めて良好に小植物体を発根、生育させることが可能であることを見出した。また、培養の際、培地において繊維性および/または多孔性の支持体を用い、培養器内の換気を高めることにより、小植物体の生育をさらに高めることが可能であることを見出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 木本性植物の組織を糖分を含まない培地に移植し、照明下において二酸化炭素ガスを施用して培養を行うことを特徴とする、木本性植物の小植物体の生産方法。
【請求項2】 木本性植物がアカシア属に属する植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 木本性植物がコーヒー属に属する植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】 木本性植物がガルシニア属に属する植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 培養器内の二酸化炭素ガス濃度を350から500μmol/molに維持して培養を行う、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】 光合成有効光量子束密度が150から300μmol/m2/sの照明下で培養を行う、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】 培地に繊維性の支持体、多孔性の支持体、またはそれらの混合物を用いる、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】 培地の支持体がセルロース性繊維とバーミキュライトとの混合物からなる、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】 ガス透過性の高い培養器内で培養を行う、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、木本性植物、特にアカシア属、コーヒー属、およびガルシニア属に属する植物の小植物体の光独立栄養培養による生産方法に関する。
【0002】
【従来の技術】木本性植物を生産する方法としては、従来から、種子繁殖による有性生殖法と、挿し木、接ぎ木、取り木、株分けなどによる無性生殖法が用いられてきた。しかしながら、これらの方法のうち有性生殖による方法には、■他家受粉植物の場合には遺伝的に不均一であり、生産した苗の形質や生長にばらつきを生じて安定的に収穫を行うことができない、■種子の発芽率が低く歩留まりが悪い、■生長が遅く種の雑種性が高いために苗の形質を判定するのに時間を要する、■苗の生産に少なくとも2年を必要とする、といった問題点が存在した。また、挿し木などの無性繁殖による方法では、■採穂木(親株)1本から採取できる本数に限りがある、■挿し木などによる栄養繁殖自体が困難な樹種が多い、■苗の生産に少なくとも2年を要する、といった問題点が存在した。
【0003】例えば、東南アジアにおける代表的な植林用樹種であるアカシア(Acacia mangium)では、従来その増殖に種子繁殖が一般的に用いられてきたが、種子苗は遺伝的なばらつきが大きいという問題点を有していた。このため、遺伝的に優秀な形質を有するクローンを大量に増殖する有効な方法の確立が望まれている。
【0004】また、コーヒーにおいては、コーヒー豆生産の70%を占めるアラビカコーヒー(Coffea arabica)においては、アラビカ種が自家受粉を行うことにより遺伝的に安定であるため種子繁殖が用いられている。しかしながら、コーヒー豆生産の残りの30%は多くの種からなっており、これら種の大部分は種子繁殖を行うことができても他家受粉でありその雑種が遺伝的に不安定である。そこで、主として挿し木による増殖が行われているが、この挿し木による増殖においても、多くの樹木種の挿し木増殖と同様に、発根が困難である、増殖率が低いなどの問題点を有している。
【0005】また、ガルシニア属に属する熱帯性の果物であるマンゴスティン(Garcinia mangostana L.)においては、単為生殖のため従来から種子による増殖が行われてきた。しかしながら、種子の数が限定されるため、種子繁殖に代わる苗の生産方法の確立が望まれていた。
【0006】そこで、近年、種子繁殖や挿し木などによる栄養繁殖が困難である種、または実用的でない種においては組織培養によるクローン苗生産が行われている。組織培養技術を使用したクローン苗生産は、大きく、繁殖用の植物を選択し準備するステージ(ステージ0)、無菌培養を確立するステージ(ステージ1)、繁殖させるステージ(ステージ2)、インビトロで発根させ、コンディショニングを行うステージ(ステージ3)、エクスビトロ環境で順化するステージ(ステージ4)からなる(Hartmann,H.T.et al.,1990.Principles of tissue culture for micropropagation.pp459-495.Plant propagation:principles and practices(5thed.))。この方法は、植物の各器官を培養することで得た組織を継代し増殖させて、これを植物体に再生させるため、遺伝的に均一な苗を短期間に大量生産するのに特に適した方法であるといえる。現に、この手法を利用して、カーネーションやランなど多くの草本性植物において、組織培養によるクローン苗生産の実用化に成功している。
【0007】しかしながら、木本性植物については、その生育の遅さや、発根率、増殖率の低さなど技術的確立の困難性から草本性植物に比して実用化の例が非常に少ないのが現状である。上記した、アカシア、コーヒー、マンゴスティンにおいてもその産業的価値にもかかわらず、従来の組織培養法(ゲル培地を用いた光混合栄養培養法)ではクローン苗生産の実用化には成功していない。このため、アカシア、コーヒー、マンゴスティンなどの木本性植物において、遺伝的に均質なクローン苗を大量に生産しうる方法の確立が望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、遺伝的に均質な木本性植物、特にアカシア属、コーヒー属、およびガルシニア属に属する植物の小植物体を効率的に生産する方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】従来の植物の組織培養技術(光混合栄養培養法)の問題点の一つに、糖を含む培地を使用することによる雑菌混入と、培養器内で生育した小植物体の葉及び根の不十分な発達がある。特に、ゲル化した寒天中では根の伸長は多くの場合困難であり、ゲル化した寒天中で生育した根は新環境への順化中に枯死する傾向にある(Smith and Spomer,1995,Vessels,gels,liquid media, and support systems,p371-404,Automation and Environmental Control in Plant Tissue Culture(ed.:Kozai and Smith),Kluwer Academic Publishers))。
【0010】本発明者らは、アカシア、コーヒー、マンゴスティンなどの木本性植物の小植物体の生産を、従来の光混合栄養培養により行う場合には上記問題点が存在し、効率的なクローン苗生産が困難であることから、これら小植物体を明所において糖分を含まない培地において培養を行う光独立栄養培養により生産することを考えた。そこで、本発明者らは、木本性植物として産業的価値の高いアカシア、コーヒー、およびマンゴスティンを選択し、光独立栄養培養によるこれら植物の小植物体の生産の検討を行った。その結果、これら植物から得た外植片を糖分を含まない培地に移植し、光照射下において培養器内の二酸化炭素濃度を高濃度に維持しつつ培養を行うことにより、従来の光混合栄養培養に比して、極めて良好に小植物体を発根、生育させることが可能であることを見出した。また、培養の際、培地において空隙率の高い支持体を用い、培養器内の換気を高めることにより、小植物体の生育をさらに高めることが可能であることを見出した。
【0011】即ち、本発明は、光独立栄養培養による木本性植物、特にアカシア属、コーヒー属、およびガルシニア属に属する植物の生産方法に関し、より具体的には、(1) 木本性植物の組織を糖分を含まない培地に移植し、照明下において二酸化炭素ガスを施用して培養を行うことを特徴とする、木本性植物の小植物体の生産方法、(2) 木本性植物がアカシア属に属する植物である、(1)に記載の方法、(3) 木本性植物がコーヒー属に属する植物である、(1)に記載の方法、(4) 木本性植物がガルシニア属に属する植物である、(1)に記載の方法、(5) 培養器内の二酸化炭素ガス濃度を350から500μmol/molに維持して培養を行う、(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法、(6) 光合成有効光量子束密度が150から300μmol/m2/sの照明下で培養を行う、(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法、(7) 培地に繊維性の支持体、多孔性の支持体、またはそれらの混合物を用いる、(1)乃至(6)のいずれかに記載の方法、(8) 培地の支持体がセルロース性繊維とバーミキュライトとの混合物からなる、(1)乃至(6)のいずれかに記載の方法、(9) ガス透過性の高い培養器内で培養を行う、(1)乃至(8)のいずれかに記載の方法、に関する。
【0012】なお、本発明において「木本性植物」とは、茎や根に木部を形成し、その細胞壁は多く木化して強固になる植物を指す。木部があまり発達しない草質または多肉質の草本性植物の対する意である。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、光独立栄養培養による木本性植物の小植物体の生産方法に関する。本発明の生産方法においては、木本性植物の組織を糖分を含まない培地に移植して、照明下において二酸化炭素ガスを施用して培養を行うことを特徴とする。
【0014】培養に用いられる植物の材料組織(外植片)としては、例えば、アカシア属に属する植物の場合には、葉を有するシュートを用いることができる。用いられるシュートは、通常、複数の葉と一つの茎からなるシュートである。葉を有するシュートは、植物生長調節物質を含む培地上で形成されたマルティプルシュートから得ることができる。また、コーヒー属に属する植物の場合には、葉を有する単節を外植片として用いることができる。単節における葉の枚数は、通常、1枚もしくは2枚のものが用いられる。葉を有する単節は、培養容器内で伸長させたシュートを節間で切り分けることにより採取することが可能である。また、ガルシニア属に属する植物においては、例えば、無菌的に発芽させた実生からシュートを切除して、これを外植片として用いることができる。
【0015】本発明の生産方法においては、これにより得られた外植片を糖分を含まない培地に移植して、照明下において二酸化炭素ガスを施用して培養を行う。植物組織の培養物は、完全な植物体と異なり光合成により糖を作り出す能力がないため、培地に糖分を添加することが不可欠であると考えられていたが、本発明の培養方法においては、照明下において二酸化炭素ガスを施用して培養物に光合成を行わせるため、培地に炭素源としての糖分は添加しない。糖分を添加すると雑菌の混入が生じ易く、それにより植物体に悪影響が及ぼされるため糖分が含まれていると好ましくない。培養には、糖を含まず、窒素、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの多量元素や、鉄、マンガン、銅、亜鉛などの微量元素などの無機栄養素などの成分を含む培地が用いられる。さらに、ニコチン酸、チアミン塩酸などのビタミン類やアミノ酸などの有機栄養素、成長調節物質を含んでいてもよいが、これらは必ずしも必須ではない。具体的な培地としては、例えば、1/2濃度のMS培地などが好適である。
【0016】培養においては、培養している外植片の発根および成長を促進するために、培地に繊維性、多孔性、またはそれらの混合物からなる支持体を用いると特に好ましい。従来から用いられている寒天などで固化した培地を用いると、発根や小植物体の成長において好ましくない結果を生ずる。繊維性や多孔性の支持体は、空隙率が高いため、これに加える培養液の溶存酸素濃度を高めると考えられ、これにより発根および成長が促進されると考えられる。また、これら支持体を用いた場合には、培養液のpH、ECなどの制御を行いやすいという利点も有する。支持体の具体例としては、これらに制限されないが、バーミキュライト、パーライト、セルロース繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、ロックウール、およびこれらの混合物が挙げられる。但し、ポリエステル繊維、セラミック繊維、ロックウールにおいては、培養土に移植しようとする際に支持体自体が分解せずに残存し、支持体を根から分離する場合に根を傷めるなどの問題点が有り、また、バーミキュライトやパーライト単独の場合には、粒状であるため植物体の固定が悪いなどの問題点を有するため、このような問題点を有しないバーミキュライトとセルロース繊維の混合物(例えば、フロリアライト(日清紡社製))が特に好ましい。
【0017】培養条件としては、例えば、アカシア属に属する植物においては、光条件は、通常、光合成有効光量子束密度(以下、単に「PPF」と称することがある)150〜300μmol/m2/sである。低すぎる光条件では小植物体の光合成の効率が低下する一方、高すぎる光条件では植物の生育阻害を引き起こすことがあり、またコストも高まることから好ましくない。また、培養室内における、CO2条件としては、通常、1000〜2000μmol/molである。CO2濃度が低いと効率的に光合成が行われないため好ましくない。一方、飽和点以上のCO2濃度を与えても光合成速度は上昇しないため好ましくない。その他、温度条件としては、通常、25〜30℃であり、湿度条件としては、通常、50〜70%である。また、培養器における換気条件としては、通常、換気回数3〜6/hで行われる。これらの諸条件の範囲のうち、培養器内のCO2濃度が350〜500μmol/molになるような組み合わせの条件が特に好ましい。培養器内のCO2濃度は培養器内の小植物体の光合成速度によっても影響されるため、培養期間中、培養器内CO2濃度が好ましい範囲内に維持されるように、培養器外のCO2濃度を適宜変化させるとよい。コーヒー属に属する植物においても、上記条件において培養することが可能であるが、コーヒー属に属する植物の光合成速度のCO2飽和点はアカシア属の場合に比して高いため、培養室内CO2条件としては5000μmol/molまで高めることが可能である。また、ガルシニア属に属する植物の場合にも、上記アカシア属に属する植物の場合と同様の条件で培養することが可能であるが、光条件のPPFは100〜300μmol/m2/sで培養することが可能である。小植物体の培養期間において、光条件は、1日当たり、通常、明期と暗期をそれぞれ12から16時間、12から8時間で行う。なお、培養に用いる培養器は、換気率を高めるために、気体透過性であることが好ましい。例えば、培養器の蓋にガス透過性フィルム(例えば、ミシリール(ミリポア社製))を用いて、通気性を高めることができる。また、培養器は小植物体に光合成を行わせるために少なくとも一部が光透過性であることが好ましい。例えば、透明な蓋を有する培養器を用いることができる。
【0018】
【実施例】以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0019】[実施例1] 光独立栄養培養によるアカシア小植物体の大量増殖アカシア・マンギウムに対して、光独立栄養培養によるマイクロプロパゲーションが適用できるか否かを試験するために、光独立栄養培養および従来の光混合栄養的培養された小植物体の成長および純光合成速度を異なる培養条件下で比較した。
【0020】具体的には、従来法により継代培養(ショ糖20g/l、BAP1mg/l、寒天8g/lを添加したMS培養液で培養)されたアカシア・マンギウムを外植片(50-100mg生体重量/シュート)として用いた。4つの外植片を60mlのMS培地を含む370ml容器に移植した。9つの処理を表1に示すように設定した。
【0021】
【表1】

なお、表中の「n.e.」は低CO2濃度(500-600μmol/mol)を示す。また、「V+CF」は容器当たり10gのバーミキュライトとセルロースの混合物(フロリアライト、日清紡社製)を示す。また、寒天は、8g/lの濃度で使用した。
【0022】対照区は、従来の一般的に用いられてきた光混合的培養条件として設定した。培養室における気温は、16時間の光条件および8時間の暗条件の間、26-27℃であった。培養室における相対湿度は、60%に維持した。白色蛍光灯を光源として用いた。光条件下での培養器内の小植物体の純光合成速度を富士原らの方法(農業気象,43(1):21-30(1987))に従い、毎週測定した。培養期間の最後(28日目)に、生体重量および乾重量を測定し、発根率を記録した。
【0023】その結果、表2に示すように、高換気性の容器と培養室におけるCO2濃度の組み合わせにより、小植物体の生体重量および乾重量が有意に増加した。その一方、培地におけるショ糖および成長調節物質の存在の有無は、有意な影響を示さなかった。対照処理の小植物体は、生体重量および乾重量が最も低く、発根しなかった。なお、表中の「NS」および「**」はそれぞれ「有意でない」および「p<0.01において有意である」を示す。
【0024】
【表2】

光条件下における純光合成速度は、培養期間を通じて、無糖、高換気、およびCO2施用区において高かった(S0-GR-CE区およびS0-NR-CE区)(図1)。以上の結果は、光独立栄養によるマイクロプロパゲーションがアカシアマンギウム小植物体において成長、光合成、および発根を促進することを示した。
【0025】[実施例2] 光独立栄養培養によるコーヒー小植物体の大量増殖(1)培養器内で生育したコーヒー(Coffea arabusta)小植物体の光合成能力の検定培養器内で生育したコーヒー(Coffea arabusta)小植物体の光合成の能力を、培養容器内の異なるCO2濃度およびPPFレベルへの応答において検討した。光合成速度(以下、単に「Pn」と称することがある)の測定は、具体的には、3つの方法、即ち、1)45日間にわたる培養容器の内外におけるCO2濃度の測定に基づく、コーヒー小植物体の光合成速度の経日変化の測定、2)Niuらのシステム(Niu,et al.,1997.J.Japanese Soc.Hort.Sci.,Suppl.2.300-301)を使用した、培養期間の10日目および30日目における培養器内の小植物体のPnの評価、3)「Portable photosynthesis(PP) System」を使用した、45日目の培養器内のコーヒー小植物体のPnの評価、により検討した。
【0026】1)CO2濃度測定に基づくコーヒー小植物体の純光合成速度(Pn)の経日変化コーヒー小植物体の培養は次のように行った。まず、培養器内のコーヒー小植物体の葉を有する単節3つを480cm3のプラスチックのポット型容器にて培養した。それぞれの容器には、成長調節物質および糖を含まない1/2濃度のMS(Murashige,T and F.Skoog.1962.Physiol.Plant,15:473-497)培養液75mlを入れ、支持体としてフロリアライト(日清紡社製)を用いた。培地のpHはオートクレーブ前に5.70に調節した。0.5μmのポアサイズを有するガス透過膜(ミリシール,ミリポア社製)を培養容器の透明な蓋の2つの穴の部分にそれぞれ着用した。容器の換気回数は、古在らの方法(Kozai,T. et al.,1986.J.Agr.Meterol.,42(2):119-127)に従い、2.34/時間と評価した。実験は、培養室において2段階のCO2濃度(Cout)(400-500(周囲)および1400-1500μmol/mol)で行った。外植片は、白色蛍光灯(National社製)を用いて、最初の3日間は50μmol/m2/sの光を与えた。次の7日間は光強度を100μmol/m2/sまで増加させ、その後10日間は150μmol/m2/sとした。最後の25日間は150μmol/m2/s、250μmol/m2/sと350μmol/m2/sの3段階の光強度を適用した(表3)。培養容器は気温28℃±2℃、相対湿度70から80%、1日当たり16時間の光条件で行った。
【0027】
【表3】

なお、表中の各処理の表記の左側の「L」、「M」および「H」はそれぞれ21日目からのPPFが150、250、350μmol/m2/sであることを示し、右側の「N」および「E」は低濃度または高濃度のCO2条件を示す。
【0028】10、20、30、および45日目の定常状態の小植物体のPnを富士原ら(農業気象,43(1):21-30,1987)による次の方程式により計算した。なお、CO2濃度はガスクロマトグラフ(GC-12A、Shimazu)を用いて測定した。
【0029】
【数1】Pn=KEV(Cout−Cin
(この方程式において「K」は体積から分子量への変換係数(40.5mol/m3)、「E」は培養容器における時間当たりの換気回数(h-1)、「V」は培養容器の空気量(cm3)、「Cin」および「Cout」は定常状態条件下における培養容器内外のCO2濃度(mol/mol)を示す)
コーヒー小植物体の45日間の培養における小植物体のPnの経日変化の実験結果を図2に示す。すべての評価は、5回の測定の平均値を示す。どのレベルのPPFにおいてもCoutの増加とともにCinが増加した。純光合成速度は、最初の20日間の培養の間わずかに増加した。次の25日間においては、高いCO2濃度がコーヒー(coffea arabusta)小植物体の光合成能力に大きく影響した。45日目において、Pnは高CO2条件下(「LE」および「HE」)の方が低CO2条件下(「LN」および「HN」)と比較して3倍高かった。しかしながら、コーヒー小植物体の純光合成速度の増加に対する光強度の影響は少なかった。150μmol/m2/sと350μmol/m2/sの条件下ではPnは大きく異ならなかった。
【0030】また、培養45日目における生体重量、乾重量、シュート長、および根の長さの計測を行った(図3)。その結果、高いCO2濃度がコーヒー小植物体の生体重量、乾重量、シュート長、および根の長さの全てを促進した。特に、150μmol/m2/sの光条件(LE)において促進効果が高かった。
【0031】2)培養器内のコーヒー小植物体のPnの評価培養器内のコーヒー小植物体の光合成速度を培養環境条件を変えずに評価するために、Niuらによるシステムを用い、各々の葉を有する単節を、1/2濃度のMS培地(有糖(20g/l)または無糖)10mlを含むプラスチックカップ(直径25mm、高さ30mm)を用いて最初に育成した(図4)。3つのカップを2つのミリポアフィルターを有する480cm3容器内に無菌的に置き、その容器をPPFが150μmol/m2/sのCO2無施用の部屋に移した。10日目と30日目に、それぞれの培地処理区の3つのカップを取り出し、CinおよびCoutを測定するために、4つミリポアフィルターを有するポリカーボネート製マジェンタ型容器(図4)内に移した。容器の換気の回数は、6.5/時間と評価した。それぞれの条件のセット(CoutおよびPPF)の下で、CinおよびCoutを定常状態で測定し、Pnは富士原らによる方程式(1)を用いて計算した。グロースチャンバーの温度は、28±1℃に維持した。10日目の小植物体のPnを測定するために2段階の光強度(L:120μmol/m2/s、H:247μmol/m2/s)を用いた。30日目に、小植物体のPnを評価するために320μmol/m2/sのPPFを適用した。測定直後に、それぞれの処理を行ったすべての小植物体の乾重量および葉面積を測定した。なお、CO2濃度はガスクロマトグラフ(GC-12A、Shimazu)を用いて測定した。
【0032】Niuらによるシステム(図4)を用いて葉面積当たりのPnを評価した結果を図5に示す。この測定の結果から、コーヒー小植物体が光独立栄養条件下で良好な発育を行う高度な能力を有することが証明された。10日目と30日目において得られたデーターにより、容器内のCO2濃度は小型グロースチャンバーにおけるCO2濃度の増加と共に増加した。10日目において、光強度が増加したとき、純光合成速度に対しCO2濃度が有意な影響を与えた(図5a)。30日目における結果においては、培養器内のコーヒー小植物体のCO2飽和点はとても高かった(光強度が320μmolm-2s-1のとき約4500-5000μmolmol-1)(図5b)。
【0033】3)「Portable photosynthesis(PP) System」、モデル「CIRAS-1」(PP system社製)を用いた葉のPnの評価PPFが150μmol/m2/sの条件下において無糖で1/2濃度のMS培地を用いフロリアライト(日清紡社製)を使用して45日間培養したコーヒー小植物体の第三番目に展開した葉をPn測定のために用いた。それぞれの葉をPPシステムのリーフチェンバー(葉面積:2.5cm2)に入れた。チェンバー内の温度を28℃に設定した。3段階のCO2濃度(462、951、および1754μmol/mol)を試験した。各CO2濃度処理で、光強度をPPFセンサーにより10、50、100、200、300、500、700および1000μmol/m2/sに設定した。光源には、ハロゲンランプを用いた。
【0034】図6に、PPシステムを使用した際の、コーヒーの葉面積当たりの純光合成速度の評価を示した。PnはCO2濃度および光強度の増加とともに増加した。200μmol/m2/sのPPFでは、1754μmol/molのCO2濃度(図中の三角)でのPnは462μmol/molの場合(図中の四角)より1.8倍高く、951μmol/molでの場合(図中の黒丸)より1.4倍高かった。また、1000μmol/m2/sまでPPFを増加させた場合では、1754μmol/molのCO2濃度でのPnは、462μmol/molのそれより2.1倍高く、951μmol/molでのそれより1.7倍高かった。
【0035】以上の結果は、インビトロでのコーヒー小植物体が、光独立栄養条件下で増殖し、成長する大きな能力を有していることを証明した。
(2)光独立栄養によるコーヒー(Coffea arabusta)小植物体のマイクロプロパゲーションにおける糖、CO2濃度、および光強度の影響最初の実験で、葉を有する単節2つを、300mlのポリカーボネート製の柱状のポット型容器(高さ70mmで、直径80mm)を用いて、ショ糖添加(20g/l)または無添加の70mlの1/2濃度のMS寒天(9g/l)培地上で培養した。成長調節物質は用いなかった。オートクレーブ前にpHを5.7に調節した。無糖培地の場合には、容器の蓋に0.5μmのポアサイズを有するガス透過膜(ミリシール、ミリポア社製)を装着し、有糖培地の場合には装着しなかった。60日間の培養期間中、小植物体は、1日当たり10時間70μmol/m2/sの光条件で、26±2℃、55-65%の相対湿度で成長させた。小植物体当たりの生体重量、乾重量、シュート長、および葉面積は、分散分析を用いて統計学的に計算した。第二の実験では、3個体の葉を有する単節を480mlのポリカーボネート製の柱状のポット型容器を用い、75mlのショ糖を含まない1/2濃度のMS培養液で培養した。支持体として、フロリアライト(日清紡社製)を用いた。容器の蓋には、0.5μmのポアサイズを有するガス透過膜(ミリシール,ミリポア社製)を2枚装着した。小植物体は、45日の間、1日16時間の光条件下で、2段階のCO2濃度(500および1500μmol/mol)、2段階のPPF(150および250μmol/m2/s)で成長させた。pHはオートクレーブ前に5.7に調節した。45日目に、小植物体の増加した生体重量、乾重量、葉面積、およびシュート長のデーターを集計し、各試験区を3回反復して得られた9つの植物体の結果に関して分散分析を行った。
【0036】ショ糖濃度がコーヒー小植物体の成長へ及ぼす影響を培養60日目に測定した結果を表4に示す。なお、表中の試験区において「S20」は20g/lのショ糖を含む培地で培養したもの、「S0」は無糖培養したものを示す。また、「NS」および「*」はそれぞれ「有意でない」および「p=0.01において有意である」を示す。
【0037】
【表4】

表4の結果から、コーヒー植物体が無糖培地で良好に成長することが示された。各処理の間で生体重量および乾重量において有意な差異は認められなかったが、無糖条件で培養した小植物体のシュート長および葉面積は、有糖培地の場合に比して有意に増加した。有糖培地では、すべてのシュートの基部にカルスが生じた。一方、無糖培地では、カルスは生じなかった。
【0038】また、インビトロでのコーヒー小植物体の成長においてPPFレベルおよびCO2濃度の影響を検討した結果を表5に示す。なお、表中の試験区における「L」および「H」はそれぞれ低PPF(150μmol/m2/s)および高PPF(250μmol/m2/s)を示し、「N」および「E」はそれぞれ低CO2濃度(500μmol/mol)および高CO2濃度(1500μmol/mol)を示す。また、「NS」、「*」および「**」はそれぞれ「有意でない」、「p=0.05で有意である」、「p=0.01で有意である」を示す。
【0039】
【表5】

表5に示されるように高CO2条件下では、小植物体は光強度に関係なく、顕著に良好に成長した。低CO2条件下では、PPFが高くなれば成長が促進された。しかしながら、高CO2条件下では、小植物体は、250μmol/m2/sのPPF(HE)よりも150μmol/m2/sのPPFの場合(LE)のほうが成長が良好であった。150μmol/m2/sのPPFおよび1500μmol/molのCO2濃度の条件下(LE)では、小植物体の生体重量、乾重量、シュート長、および葉面積の増加が他の処理と比較して最大であった。このことからコーヒー小植物体の成長が高CO2条件下で促進されることが示された。
(3) 光独立栄養培養によるコーヒー(Coffea arabusta)小植物体のマイクロプロパゲーションにおける支持体、および換気の影響培養器内のコーヒー(Coffea arabusta)小植物体(一対の葉を有する単節)を、480mlの透明な容器中に1/2濃度のMS培養液(ショ糖濃度20g/l、または無糖、どちらも成長調節物質なし)75mlを加え、支持体としてフロリアライト(セルロース繊維とバーミキュライトの混合物、本容器当たり10g使用、日清紡社製)とバクトアガー(上記培養液に8g/lの濃度で加え、ゲル化させたもの)を用いたものに各3個体づつ着床して40日間培養した。容器の蓋には、穴がないかまたは2つの穴(直径10mm)を設けており、2つの穴にはそれぞれ0.5μmのポアサイズを有するガス透過膜(ミリシール、ミリポア社製)を装着した。それらの容器の換気の回数は、それぞれ1時間に0.24回と2.34回であった。全ての容器は、気温28℃、湿度75%、CO2濃度400-500μmol/mol、白色蛍光灯により1日当たり16時間の光条件で維持した。PPFは、培養最初の3日間、次の7日間、次の10日間、最後の20日間はそれぞれ,50,100,150,200μmol/m2/ s であった。純光合成速度(NPR)は、富士原ら(農業気象,43(1):21-30,1987)の方法によって測定した。容器内及び外のCO2濃度は、ガスクロマトグラフにより測定した。実験は、2水準3要因の要因実験を3回繰り返して行った。これにより得られた生体重量、乾重量、シュート長、および葉面積の増加データーを分散分析した。各試験区間の有意性を調べるために、p=0.05でのLSD(最小有意差)検定を行った。なお、行った処理の種類を表6に示す。なお、表中の試験区左における「S」および「F」はそれぞれ有糖および無糖を示し、中央の「A」および「F」はそれぞれ寒天およびセルロース/バーミキュライト(フロリアライト)を示し、「L」および「H」はそれぞれ低換気回数および高換気回数を示す。
【0040】
【表6】

また、各処理の結果を表7に示す。なお、表中の「NS」、「*」および「**」はそれぞれ「有意でない」、「p=0.05で有意である」、「p=0.01で有意である」を示す。
【0041】
【表7】

支持体中の糖の存在/非存在は、40日間の培養で、乾重量と葉面積の増加には影響しなかったが、生体重量とシュート長の増加には影響した。支持体は、上記の成長パラメーター全てに影響した。換気の回数は、生体重量、シュート長、葉面積の全てに影響した。これら3つのファクターは、シュート長に影響を与えていることが判明した。生体重量、乾重量、シュート長及び葉面積の増加はFFH(糖を含まない、繊維状支持体、多い換気回数)において最大であった。根の成長及び発達もFFH処理において最大であった。根の伸長はSFL(糖を含む、繊維状支持体、少ない換気回数)試験区をのぞく繊維状支持体試験区(FFL,SFH及びFFH)において誘発された。ショ糖を含む寒天の試験区(SAL,SAH)では、茎の基部にカルスが生成し、根の伸長および生育が見られなかった。光合成速度はFFH試験区が最大となり、10日目、20日目、30日目、40日目はそれぞれ小植物体当たり1時間に0.7、1.0、2.1、3.9μmol/hであった。以上の結果から、培養器内でのコーヒー植物体の成長および発根は、高い換気回数下における無糖培養において空隙率の高い支持体を用いることにより促進されることが示された。
【0042】[実施例3] 光独立栄養によるマンゴスティン小植物体の大量増殖無菌的に発芽させたマンゴスティンの実生からシュートを切除し、これを外植片(生体重量で640-870mg/シュート)として用いた。100mlのMS培地を含む、ポリカーボネート製の370ml容器に、外植片を移植した。培地の支持材としてはバーミキュライト(培養器当たり25-35g)を用いた。5つの試験区を表8に示すように設定した。なお、表中の「Z」は培地における初期ショ糖濃度を示し、「Y」は10mg/lの2-ipおよび1mg/lのIBAを示し、「X」は古在ら(Kozai,T. et al.,1986.J.Agr.Meterol.,42(2):119-127)の方法により求めた培養器内の換気回数を示す。
【0043】
【表8】

対照区におけるシュートは、支持材を除いては従来の培養条件と同様の培養条件下で培養を行った。培養器内の気温は、光条件下では27.5℃、暗期では25℃であった。培養室における相対湿度は60%に維持した。光源として蛍光灯を用い、110μmol/m2/sのPPFを照射した。培養室内のCO2濃度は1300μmol/molであった。培養器において高い換気回数を得るために、培養器上に2つのガス透過性膜(ミリシール、ミリポア社製)を装着した。30日目に、各試験区につき6つの小植物体の生体重量および乾重量を測定した。また、葉の枚数、および発根率を測定した。光条件期間における培養器内の純光合成速度を富士原らの方法に従って求めた。それらの結果を表9に示す。なお、表中の「NS」、「*」および「**」はそれぞれ対照区(S30-GR-LV)に対して「有意でない」、「p=0.05で有意である」、「p=0.01で有意である」を示す。また、分散分析における「NS」および「**」はそれぞれ「有意でない」、「p=0.01で有意である」を示す。
【0044】
【表9】

その結果、30日目における小植物体の生体重量および乾重量は、各試験区の間で有意な相違はなかった。培地への成長調節物質の添加は、葉の枚数を増加させた。対照区においては発根は認められなかったが、支持材にバーミキュライトを用いて高換気条件で培養を行うと、培地におけるショ糖や成長調節物質の有無に関係なく、20〜40%のシュートにおいて根の誘導が認められた。対照区における培養器内のCO2濃度は最も低く、対照区における葉面積当たりの純光合成速度は、高換気処理を行った試験区の1/12〜1/7であった。以上から、マンゴスティン小植物体が、バーミキュライトを支持材として、高換気条件下でCO2を施用することで、光独立栄養的に栄養繁殖し、小植物体の成長速度を減少させずに発根率と純光合成速度を増加させることができることが示された。
【0045】
【発明の効果】本発明により、木本性植物、特にアカシア属、コーヒー属、およびガルシニア属に属する植物の小植物体の光独立栄養による生産方法が提供された。本発明の方法によれば、遺伝的に均質な木本性植物の小植物体を短期間で大量に生産することができる。
【出願人】 【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡績株式会社
【出願日】 平成10年(1998)3月26日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志 (外1名)
【公開番号】 特開平11−275995
【公開日】 平成11年(1999)10月12日
【出願番号】 特願平10−79789