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【発明の名称】 水田の水位分布推定方法及びそれに基づく水管理方法
【発明者】 【氏名】藤井 健司

【氏名】瀬古沢 照治

【氏名】阿部 敏文

【要約】 【課題】従来では、各水田に設置された1つの水位計の計測水位データを指標として水位管理を行っている。そのため、風の影響等により水面に傾斜が付いてしまい、例えば上記計測水位が上記水田の最高水位又は最低水位となった場合は、稲の生育に十分な水が行き渡らない、又は過度の水が貯留されるという問題があった。

【解決手段】本発明の大区画水田の水位分布推定方法及びそれに基づく水管理方法では、各水田4−jに設置された各水位計1−jからの水位計測値に基づいて、各水田4−jが同様の水面傾斜を有しているという物理現象を利用して、演算装置104にて各水田の水位分布を推定する。演算装置104では、上記水位分布から推定される各水田の水位特性を表す物理量(最高水位、最低水位、平均水位等)に基づいて、稲の生育段階に応じた目標水位を維持するように、給排水バルブ2−j、3−jの操作を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を推定する水田の水位分布推定方法において、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出することを特徴とする水田の水位分布推定方法。
【請求項2】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を推定する水田の水位分布推定方法において、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出し、上記水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定する、ことを特徴とする水田の水位分布推定方法。
【請求項3】請求項1に記載の水田の水位分布推定方法において、前記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出するために、各水田に設置された水位計を、該水田との相対的位置関係を保存するようにある1つの代表水田上に移動させ、移動後の各水位計の位置関係及びその計測値から代表水田の水面の勾配を推定し、上記勾配から算出される水位分布が上記各水田の水位分布であるとみなすことを特徴とする水田の水位分布推定方法。
【請求項4】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を推定する水田の水位分布推定方法において、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出することを特徴とする水田の水位分布推定方法。
【請求項5】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を推定する水田の水位分布推定方法において、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出し、上記各水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定することを特徴とする水田の水位分布推定方法。
【請求項6】請求項5に記載の水田の水位分布推定方法において、前記各水田の水位特性を表す物理量は、水田内での平均水位、最低水位、最高水位のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする水田の水位分布推定方法。
【請求項7】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を管理する水田の水管理方法において、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水を含む水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出し、上記水位分布が所定の値になるように水管理を行うことを特徴とする水田の水管理方法。
【請求項8】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を管理する水管理方法において、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出し、上記水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定し、上記物理量が所定の値になるように給排水バルブ操作を含む水管理を行うことを特徴とする水田の水管理方法。
【請求項9】請求項8に記載の水田の水管理方法において、前記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出する方法は、各水田に設置された水位計を、該水田との相対的位置関係を保存するようにある1つの代表水田上に移動させ、移動後の各水位計の位置関係及びその計測値から代表水田の水面の勾配を推定し、上記勾配から算出される水位分布が上記各水田の水位分布であるとみなし、上記水位分布が所定の値になるように給排水バルブ操作を含む水管理を行うことを特徴とする大区画水田の水管理方法。
【請求項10】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している水田地域の水位分布を管理する水管理方法において、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出し、上記水位分布が所定の値になるように水管理を行うことを特徴とする水田の水管理方法。
【請求項11】複数の水田から構成され、各水田は類似の形状を有している大区画水田地域の水位分布を管理する水管理方法において、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出し、上記各水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定し、上記物理量が所定の値になるように水管理を行う、ことを特徴とする水田の水管理方法。
【請求項12】請求項11に記載の水田の水管理方法において、前記各水田の水位特性を表す物理量は、水田内での平均水位、最低水位および最高水位のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする大区画水田の水管理方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数の水田から構成された水田地域において、給排水バルブ操作その他の水管理作業の指標となる各水田の水位分布を、数少ない水位計の計測情報から詳細に推定する方法に係る。その中でも特に、類似の形状を有する大区画化された水田地域に対して好適な水田の水位分布推定方法及びそれに基づく水管理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、給排水パイプライン、給排水路の整備された水田地域では、稲の生育段階に応じた好ましい水位管理を行うため、各水田ごとに1つの水位計を設置しておき、水位計測値が所定の目標水位に近づくように給排水バルブの操作を行っている。例えば、ある地方の水管理システムでは、目標水位に対して±5cm程度の不感帯域を設けておき、降雨等の影響により水田水位が増加し、計測水位が目標水位+5cmより高くなれば、計測水位が目標水位に近づくように、排水バルブを開けて排水操作を行う。逆に田水の地下浸透、蒸発散等により水田水位が減少し、計測水位が目標水位−5cmより低くなれば、計測水位が目標水位に近づくように、給水バルブを開けて給水操作を行っている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、従来の水田の水管理方法では、水田に唯1つ設置された水位計の計測値をその水田全体の水位特性を代表する水位とみなし、上記計測値を水管理作業の指標として扱っている。従来のように水田規模が小さい場合は、水田内のどの地点でも同じような水位になるため、上記水田の水位特性の代表値として計測水位を用いても問題なかった。しかしながら現在、水田の大規模化による稲作コストダウン、水管理作業の省力化を目指して、圃場の区画整備、給排水パイプラインの敷設が進められている。これにより複数個の1ha規模(100m×100m)の矩形水田によって構成される大区画水田地域が形成されつつある。このような大規模水田では、風の影響等により水面に傾斜が付いてしまい、水位計の計測値がその水田の水位特性を十分表しているとは言えなくなる。
【0004】例えば風下側に水位計が設置されている場合、計測水位は水田内での最高水位に近い値となり、風上側の最低水位に比べてかなり高いものとなる。風が強いほど、また水田が大規模であるほどその差は顕著になる。そのため従来のように水位計測値に基づいて給排水バルブ操作等の水管理作業を行った場合、風上側では稲の生育に十分な水が行き渡らない可能性がある。
【0005】本発明の目的は、水田の大区画化及び風の影響により水田全域の水位分布が一様でない場合でも、数少ない水位計測値から算出可能な大区画水田の水位分布推定方法を提供することにある。また水位計測値に基づく水管理のように、水位計測地点の水位のみを管理するのでなく、水田全域の水位を適切に管理することができる大区画水田の水管理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的達成のため、次の手段を設ける。
【0007】(手段1)本発明の水田の水位分布推定方法では、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出する、ことを特徴とする。
【0008】(手段2)本発明の水田の水位分布推定方法では、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出し、上記水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定する、ことを特徴とする。
【0009】(手段3)本発明の水田の水位分布推定方法では、手段1、2における前記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出する方法は、各水田に設置された水位計を、該水田との相対的位置関係を保存するようにある1つの代表水田上に移動させ、移動後の各水位計の位置関係及びその計測値から代表水田の水面の勾配を推定し、上記勾配から算出される水位分布が上記各水田の水位分布であるとみなす、ことを特徴とする。
【0010】(手段4)本発明の水田の水位分布推定方法では、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出する、ことを特徴とする。
【0011】(手段5)本発明の水田の水位分布推定方法では、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出し、上記各水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定することを特徴とする。
【0012】(手段6)本発明の水田の水位分布推定方法では、手段2、5における前記各水田の水位特性を表す物理量は、水田内での平均水位、最低水位、最高水位のいずれかであることを特徴とする。
【0013】(手段7)本発明の水田の水管理方法では、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出し、上記水位分布が所定の値になるように給排水バルブ操作等の水管理を行うことを特徴とする。
【0014】(手段8)本発明の水田の水管理方法では、各水田に対して水位計を該水田からみて相対的にそれぞれ異なる位置になるように設置し、給排水その他の水管理を各水田に対して同様に行い、上記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出し、上記水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定し、上記物理量が所定の値になるように給排水バルブ操作等の水管理を行うことを特徴とする。
【0015】(手段9)本発明の水田の水管理方法では、手段7、8における前記各水位計の計測値を比較することにより各水田の水位分布を算出する方法は、各水田に設置された水位計を、該水田との相対的位置関係を保存するようにある1つの代表水田上に移動させ、移動後の各水位計の位置関係及びその計測値から代表水田の水面の勾配を推定し、上記勾配から算出される水位分布が上記各水田の水位分布であるとみなし、上記水位分布が所定の値になるように給排水バルブ操作等の水管理を行う、ことを特徴とする。
【0016】(手段10)本発明の水田の水管理方法では、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出し、上記水位分布が所定の値になるように給排水バルブ操作等の水管理を行う、ことを特徴とする。
【0017】(手段11)本発明の水田の水管理方法では、1つ又は複数の水田に対して複数の水位計を設置し、残りの水田に対しては1つづつ水位計を設置し、複数の水位計を設置した水田の水位分布を該水位計の計測値を比較することにより算出し、他の残りの水田の水位分布をその水田に唯1つ設置された水位計の計測値と上記水位分布との比較により算出し、上記各水位分布より対応する水田の水位特性を表す物理量を推定し、上記物理量が所定の値になるように給排水バルブ操作等の水管理を行う、ことを特徴とする。
【0018】(手段12)本発明の水田の水管理方法では、手段8、11における前記各水田の水位特性を表す物理量は、水田内での平均水位、最低水位、最高水位のいずれかである、ことを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態として、水田地域における各水田の水位分布推定方法及びそれに基づく水管理方法について、図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施の形態の水田の水位分布推定方法及び水管理方法は、水位計1−j(j=1,…,8)、給水バルブ2−j、排水バルブ3−j、 演算装置104、データ伝送路105、風向・風力計106からなる、水管理システムによって構成される。
【0020】水管理の対象となる大区画水田地域は、類似の矩形形状を有する水田4−jによって構成される。各水田4−j内には水位計1−jが1つづつ設置されており、ある一定計測周期ごとに各水田4−j内の水位計設置地点の水位を、データ伝送路105を介して演算装置104に送信している。更に上記大区画水田地域には風向・風力計106が設置されており、上記水位計測周期と同じタイミングで、上記大区画水田地域における風向・風力を、伝送路105を介して演算装置104に送信している。ここで、データ伝送路105は、無線又は有線のどちらでも構わない。
【0021】演算装置104では、水位計1−j、風向・風力計106からの水位データ、風向・風力データに基づいて、各水田4−jの水位分布の推定を行う。無風時の水田水面は水平となるため、唯1つの計測水位で各地点の水位を代表させることができるが、風動時は水田水が風下側に片寄り、水面に傾斜が付いてしまうため、その水位分布を把握するためには対象水田に対して複数地点での水位データが必要となる。特に面的情報を知るためには少なくとも3地点以上の水位データが必要となる。
【0022】本発明の実施の形態では、各水田4−jに対して複数地点の水位データを計測しなくても、その計測場所次第では、各水田に対して必要最小限の地点の水位データを計測するのみで、各水田4−jの水位分布を詳細に推定する2つの方法について説明する。
【0023】(1)各水田4−jの水位分布を推定する第1の方法について、図1及び図2に基づいて説明する。
【0024】はじめに、大区画水田地域における各水田の水位分布の特徴について説明する。大区画水田地域において、各水田に対して同じ品種の稲を同時期に移植した場合、各水田の稲は稲作期間中の各時期に対して同じ生育過程を辿ることになる。従って各水田に対する生育段階に応じた水位管理(給排水バルブ操作)も同様のものとなり、各水田はほぼ同程度の水量を貯留していることになる。また各水田の水の傾斜を引き起こす風の影響についても、各水田が同様の矩形形状をしており、また同一地域内では風向・風力は同程度とみなせることから、各水田は同様の水位分布を形成することになる。
【0025】従って、図1に示すように、各水田4−jに対して各水位計1−jを、水位計1−1:水田4−1の北西方向の隅水位計1−2:水田4−2の南西方向の隅水位計1−3:水田4−3の南東方向の隅水位計1−4:水田4−4の北東方向の隅水位計1−5:水田4−5の北方向の中央寄り辺水位計1−6:水田4−6の西方向の中央寄り辺水位計1−7:水田4−7の南方向の中央寄り辺水位計1−8:水田4−8の東方向の中央寄り辺の位置に設置すれば、上述のように各水田4−jでは同様の水位分布を形成することから、1つの水田に対して上記各水位計1−jが設置されているとみなすことができる。即ち、ある代表水田に対して、計8個の水位計が図2に示すように配置されているとみなすことができる。
【0026】したがって、上記代表水田をA区域からJ区域までの10区域に分割すれば、各区域の水位分布は対応する3地点の水位計測値から推定可能となる。例えばA区域の水面を平面で近似した場合、A区域内の任意の地点Xの水位は、(bh1+ah4+bh4+ah5)/((a+b)(c+d))
ここに、hjは水位計1−jの計測値a,b,c,dは図2に記入で与えられる。残りの区域内の任意の地点の水位についても同様に求めることにより、代表水田内の水位分布を算出できる。従って、各水田4−jの水位分布は、上記代表水田の水位分布と同一のものとして推定できる。
【0027】また、上記代表水田の水位分布は少なくとも3地点の水位計測値から推定可能なため、各水田4−jのいくつかの水田(最大5つ)では水位データを計測していなくても、各水田4−jの水位分布を推定可能となる。
【0028】従って、各水田4−jが同様の水位分布を形成しているという仮定のもとで、各水田4−jに対して唯1つの地点の水位データを計測するのみで、更には水田4−jのうちいくつかの水田に対しては水位データを計測していなくとも、全水田の水位分布を推定可能となる。
【0029】(2)各水田4−jの水位分布を推定する第2の方法について、図3、図4、図5及び図6に基づいて説明する。
【0030】上述の第1の方法は、各水田4−jが同様の水位分布を形成しているという過程のもとで推定可能となる。しかしながら各水田4−jにおいて、稲の品種が異なる、移植日が大きく異なる、又は水位管理が大きく異なる、という場合は、各水田4−jが同様の水位分布を形成している可能性は少ない。
【0031】但し、各水田の水の傾斜を引き起こす風の影響については、各水田が同様の矩形形状をしており、また同一地域内では風向・風力は同程度とみなせるため、各水田は同じ水面傾斜を形成する(各水田内において対応する任意の地点での水面勾配は等しい)ことになる。
【0032】したがって、図3に示すように、各水田4−jに対して各水位計1−jを、水位計1−j:水田4−jの北西方向の隅の位置に設置し、更に水田4−1に対して新たな水位計1−9、1−10を、水位計1−9:水田4−1の南西方向の隅水位計1−10:水田4−1の北東方向の隅の位置に設置すれば、3地点の水位計測を行っていることから水田4−1の水位分布、即ち水面勾配が推定可能となり、更に各水田4−jが上記水面勾配を有することと1地点の水位計測を行っていることから、各水田4−jの水位分布も推定可能となる。
【0033】例えば、水田4−1の水面を平面で近似した場合、水田4−1内の任意の地点Xの水位は、h1+(h9−h1)b/a+(h10−h1)d/cここに、hjは水位計1−jの計測値a,b,c,dは図5に記入で与えられ、水田4−j内の任意の地点Yの水位は、h0+hj−h1ここに、h0は、地点Yの位置に相当する水田4−1上の地点の水位で与えられる。
【0034】また、図4に示すように、各水田4−jに対して各水位計1−jを、水位計1−j:水田4−jの北西方向の隅の位置に設置し、更に水田4−1、水田4−2に対して、それぞれ新たな水位計1−9、1−10を、水位計1−11:水田4−1の南西方向の隅水位計1−12:水田4−2の北東方向の隅の位置に設置すれば、2地点の水位計測を行っていることから水田4−1の南北方向の水面勾配、水田4−2の東西方向の水面勾配が推定可能となり、更に各水田4−jが上記水面勾配を有することと1地点の水位計測を行っていることから、各水田4−jの水位分布も推定可能となる。
【0035】例えば、水田4−1の水面を平面で近似した場合、水田4−1内の任意の地点Xの水位は、h1+(h11−h1)b/a+(h12−h2)d/cここに、hjは水位計1−jの計測値a,b,c,dは図6に記入で与えられ、水田4−j内の任意の地点Yの水位は、h0+hj−h1ここに、h0は、地点Yの位置に相当する水田4−1上の地点の水位で与えられる。
【0036】したがって、各水田4−jが同様の水面傾斜を形成しているという仮定のもとで、あるいくつかの水田に対して複数地点の水位データを計測し、その他の水田に対しては唯1つの地点の水位データを計測するのみで、全水田の水位分布を推定可能となる。
【0037】上述の2つの方法により、各水田4−jに対して複数地点の水位データを計測しなくても、その計測場所次第では、各水田に対して必要最小限の地点の水位データを計測するのみで、各水田4−jの水位分布を詳細に推定することが可能となる。
【0038】演算装置104では、上述のように各水田4−jの水位分布を推定すると同時に、稲の生育状態や気温・日照等の気象条件に応じて、毎日の各水田4−jの目標水位を決定する。例えば、苗を移植したばかりで苗の背丈が低いときは、苗が水中に埋没してしまわないように目標水位を低めに設定し、減数分裂期のように冷害の影響を受けやすい時期は、冷気から稲を守るために目標水位を高めに設定する。
【0039】次に演算装置104では、各水田4−jの水位分布より算出される所定の物理量を算出し、該物理量が目標水位の所定の近傍内に存在するように、給水バルブ2−j、排水バルブ3−jの操作を行う。ここで、所定の物理量とは、水田の平均水位、最高水位、最低水位のことであり、各水田4−jの水位分布から容易にかつ一意に算出可能である。例えばある水田の平均水位の算出は、その水田の水位分布から田水貯留量を算出し、該貯留量を水田表面積で除算すればよい。
【0040】ここで、上述の給水バルブ2−j、排水バルブ3−jの操作方法について、具体的に説明する。演算装置104では、上記各水田4−jの目標水位と対応する水田の上記物理量とを比較し、物理量<目標水位−α(αは不感帯域、通常3〜5cm程度)となる水田4−jがあれば、給水バルブ開度信号を伝送路105を介して給水バルブ2−jに送信する。
【0041】上記給水バルブ開度は、各水田4−jの水の不足量(目標水位−物理量)×水田表面積に等しい水量が、次回水位計測時までに補われるように決定する。即ち、給水量=給水圧×給水バルブ開度×時間であるから、給水バルブ開度=田水不足量÷給水圧÷次回水位計即時までの時間として算出する。但し、給水バルブ開度を上限値にしたとしても、次回水位計測時までに田水不足量を補えない場合(上式によって算出したバルブ開度が上限値を超える場合)は、給水バルブ開度は上限値とする。
【0042】給水バルブ2−jでは、演算装置104より送信された給水バルブ開度信号を受信し、バルブを開けて給水パイプライン107の水を水田4−j内に供給する。その結果水田水位が上昇し、演算装置104において上記水位計測タイミングごとに算出される次時刻の物理量が、目標水位−α≦物理量となれば、演算装置104はバルブ閉操作信号を伝送路105を介して給水バルブ2−jに送信する。上記信号を受信した給水バルブ2−jは、バルブを閉じ給水操作を停止する。
【0043】逆に、演算装置104において、上記各水田4−jの目標水位と対応する水田の上記物理量とを比較し、目標水位+α<物理量となる水田4−jがあれば、排水バルブ開度信号を伝送路105を介して排水バルブ3−jに送信する。排水バルブ開度についても、上述の給水バルブ開度の算出方法と同様に行えばよい。
【0044】排水バルブ3−jでは、演算装置104より送信された排水バルブ開度信号を受信し、バルブを開けて水田4−jの水を排水パイプライン108内に排水する。その結果水田水位が下降し、演算装置104において上記水位計測タイミングごとに算出される次時刻の物理量が、物理量≦目標水位+αとなれば、演算装置104はバルブ閉操作信号を伝送路105を介して排水バルブ3−jに送信する。上記信号を受信した排水バルブ3−jは、バルブを閉じ排水操作を停止する。
【0045】さて、演算装置104において行われる各水田4−jの水位分布から推定される物理量は、該水田の平均水位、最高水位、又は最低水位であると上述したが、その使い分けについて説明する。
【0046】移植時のように、ある水田4−jにおける目標水位が低いときは、目標水位との比較対象である物理量を、該水田の最高水位とする。即ち、演算装置104では、該水田の最高水位が目標水位の所定の近傍内に収まるように、給排水バルブの操作を行う。これにより、上記水田において、水位が目標水位に達しない地点が存在する可能性があるが、「目標水位が低い」ということは、水田水量が少ない方が多すぎるのよりは好ましいということであるから、上記地点が存在しても特に問題ない。もし仮に上記物理量を計測水位とすれば、該計測水位が上記水田の最低水位になっている可能性があり、その場合、水位が目標水位を超えてしまい、苗が水中に埋没してしまう地点が存在する可能性がある。
【0047】また、深水灌漑時のように、ある水田4−jにおける目標水位が高いときは、目標水位との比較対象である物理量を、該水田の最低水位とする。即ち、演算装置104では、該水田の最低水位が目標水位の所定の近傍内に収まるように、給排水バルブの操作を行う。これにより、上記水田において、水位が目標水位を超える地点が存在する可能性があるが、「目標水位が高い」ということは、水田水量が多い方が少なすぎるのよりは好ましいということであるから、上記地点が存在しても特に問題ない。もし仮に上記物理量を計測水位とすれば、該計測水位が上記水田の最高水位になっている可能性があり、その場合、水位が目標水位に達せず、冷気の影響を直接受けてしまう地点が存在する可能性がある。
【0048】また、通常灌漑時のように、ある水田4−jにおける目標水位が高くもなく低くもなく適当な高さであるときは、目標水位との比較対象である物理量を、該水田の平均水位とする。即ち、演算装置104では、該水田の平均水位が目標水位の所定の近傍内に収まるように、給排水バルブの操作を行う。これにより、上記水田において、全体としての水位分布(平均水位) が目標水位に近づように水管理を行うことができる。
【0049】このように、目標水位との比較対象として、計測水位を直接用いるのでなく、最高水位、最低水位、平均水位を適当に使い分けることによって、好ましい水運用が可能となる。
【0050】上述のように、本発明の実施の形態によれば、水田の大区画化及び風の影響により水田全域の水位分布が一様でない場合でも、数少ない水位計測値から算出可能な大区画水田の水位分布推定方法を提供することができ、また水位計測値に基づく水管理のように、水位計測地点の水位のみを管理するのでなく、水田全域の水位を適切に管理することができる大区画水田の水管理方法を提供することができる。
【0051】
【発明の効果】本発明によれば、大区画水田地域において、その構成要素である各水田はほぼ同様の形状をしており、またその地域に吹く風は各水田に対して同様の影響を及ぼすため、各水田は同じ水面傾斜を形成するという物理現象を利用して、各水田に対して複数地点の水位データを計測しなくても、その設置場所次第では、各水田に対して必要最低限の地点の水位データを計測するのみで、各水田の水位分布を詳細に推定する方法を提供することができる。
【0052】また、各水田の水位分布が推定可能なため、各水田の最高水位、最低水位、平均水位等の計測水位以外の物理量も推定可能となり、稲の生育段階に応じて、上記物理量を適当に使い分けて目標水位管理を行うことにより、水田全域の水位を考慮したより綿密な水管理方法を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】000195568
【氏名又は名称】生物系特定産業技術研究推進機構
【出願日】 平成9年(1997)6月13日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】小川 勝男
【公開番号】 特開平11−64
【公開日】 平成11年(1999)1月6日
【出願番号】 特願平9−156361