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【発明の名称】 |
二輪車用ローラーブレーキとその製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】近藤 勝義 【氏名】▲高▼ノ 由重 |
【課題】本発明は二輪車ローラーブレーキをグリスやオイル等の固体状あるいは半固体状潤滑成分を介在させないような乾式摩擦摺動条件下において、ブレーキを構成するリング、ブレーキシューに焼付きや摩耗損傷を生じることなく、また鳴きや振動を生じることなく、0.15〜0.5の摩擦係数に相当するブレーキ効力を安定して発揮できるローラーブレーキを得る。
【解決手段】ブレーキシュー2は400MPa以上の引張強さを有する鉄系材料よりなり、このシュー2に対応し、金属製ガイドケース1に圧入されたリング3は焼結銅合金よりなり、この合金の素地となる銅合金粉末粒子内部に硬質粒子が均一に分散する組織を有し、且つ200MPa以上の抗折力を有し、0.15〜0.5の摩擦係数を発揮できるようにローラーブレーキを作製する。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属製ガイドケースの内側に圧入した焼結銅合金製リングと、該リングの内径に対して同一の曲率を外周面に有して該外周面を前記内周面に押し付けることでブレーキ効力を発現させる金属製シューから構成される二輪車用ローラーブレーキにおいて、該シューは400MPa以上の引張強さ有する鉄系材料であり、該リングに用いる焼結銅合金はその素地を構成する銅合金粉末粒内部に硬質粒子が均一に分散する組織を有し、且つ200MPa以上の抗折力を有しており、さらに固形あるいは/および半固形状潤滑剤が存在しない乾式摺動環境下で制動した際に、前記リングとシューの間の摩擦係数が0.15以上0.5以下となることを特徴とする二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項2】 前記リングに用いる銅系焼結合金において、重量基準で10〜50%の硬質粒子と5〜15%の固体潤滑成分を含み、残部の素地が銅合金であることを特徴とする請求項1記載の二輪車ローラーブレーキ。 【請求項3】 前記リングに用いる銅系焼結合金において、素地を構成する銅合金の全体組成を100重量%とすると、3〜20重量のSnを含有し、残部が銅および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項2記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項4】 前記リングに用いる銅系焼結合金の素地を構成する銅合金粉末内部に分散する硬質粒子は、FeMo、FeCr、FeTi、FeAl、FeSiおよびFeBの群からなる鉄系金属間化合物の中から選ばれた1種もしくは2種以上であることを特徴とする請求項2記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項5】 前記リングに用いる固体潤滑成分は、天然鱗片状黒鉛粉末、あるいは天然鱗片状黒鉛粉末を厚み方向に膨張させた膨張化黒鉛粉末であることを特徴とする請求項2記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項6】 前記銅系焼結合金の素地を構成する銅合金粉内部に分散する硬質粒子の最大粒径は30μm以下、平均粒径は15μm以下であることを特徴とする請求項4記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項7】 前記リングに用いる銅系焼結合金において、素地を構成する銅合金の全体組成を100重量%とすると、必要に応じてAlを重量基準で3%以下含有することを特徴とする請求項3記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項8】 前記リングに用いる銅系焼結合金を構成する素地において、素地を構成する銅合金の全体組成を100重量%とすると、必要に応じてZn、Niのすくなくとも一方、もしくは両方を5〜40重量%含有することを特徴とする請求項3、もしくは7記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項9】 前記ガイドケースは鉄基合金、アルミ合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金から選ばれた金属材料からなることを特徴とする請求項1記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項10】 前記シューは溶解・溶製法あるいは粉末冶金法により作成し得た鉄基合金であることを特徴とする請求項1記載の二輪車用ローラーブレーキ。 【請求項11】 前記硬質粒子が銅合金粉末の素地中に均一に分散する硬質粒子分散型複合銅合金粉末を主原料として用い、これに上記の固体潤滑成分である天然黒鉛粉末、さらに必要に応じてAl粉末を所定量に配合した混合粉末を出発原料とし、これを成形・焼結・固化することを特徴とする二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。 【請求項12】 前記出発原料をリング形状に成形した圧粉体を700℃以上、且つ合金素地の固相線温度以下に保持された還元性ガス、不活性ガス、もしくは真空のいずれかの雰囲気中で加熱して得た焼結体を、続いて該焼結体の温度が100℃以上に保持された状態で閉塞金型内にて加圧・固化することを特徴とする請求項11記載の二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。 【請求項13】 前記出発原料をリング形状に成形した圧粉体を700℃以上、且つ合金素地の固相線温度以下に保持された還元性ガス、不活性ガス、もしくは真空のいずれかの雰囲気中で加熱して得た焼結体を、続いて該焼結体の温度を100℃未満に保持した状態で閉塞金型内にて加圧・固化し、さらに上記の制御された雰囲気内で該焼結温度以下に加熱・保持することを特徴とする請求項1記載の二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。 【請求項14】 前記硬質粒子分散型複合銅合金粉末は、上記の銅合金素地を構成する所定の成分組成を有する銅系粉末と、上記硬質粒子からなる混合粉末を準備する工程と、続いて該混合粉末に対して機械的合金法、機械的混合法、もしくは造粒法のいずれかの混合・粉砕処理を施す工程により、該硬質粒子を最大粒径30μm以下、平均粒径15μm以下に粉砕し、且つ同時に該硬質粒子を銅合金粉末の素地内部に均一に分散させることで得られる硬質粒子分散型複合銅合金粉末であることを特徴とする請求項11記載の二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はグリスやオイル等の固体状または半固体状潤滑成分が介在することなく、いわゆる乾式摩擦摺動条件下において制動した場合において、ブレーキを構成するリングとブレーキシューは焼付きや摩擦損傷することなく、また鳴きや振動等を生じることなく、0.15〜0.5の摩擦係数に相当するブレーキ効力(制動力)を安定して発現できる二輪車用ローラーブレーキと該ブレーキを構成するリングとブレーキシューの製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】自転車や電動式自転車等の二輪車制動装置には、例えば図2の平面(a)、縦断面図(b)に示すようなローラーブレーキがあり、これらは車輪に嵌合するスプライン歯部4を中心に有して車輪と共に回転するガイドケース1の内周面に対して、その内径と同一曲率を外周面に有したブレーキシュー2を押し付けて車輪を制動する構造のものである。 これまでのローラーブレーキでは、ガイドケースおよびシューは共に鋼材あるいは鉄合金材でできており、ケースの内周面に溝加工を施してその部分にグリスやオイル等の固形状あるいは半固形状の潤滑剤を介在させることで、制動時の鳴きやびびり・振動といった不快現象や、ケースとブレーキシューとの焼付き、さらには両者が凝着するロック現象を防止する方法が採用されていた。 【0003】しかし、このようにグリスが介在すると潤滑性が改善される一方、制動力が低下し、例えば、摩擦係数に換算すると約0.1程度と小さな値しか発現させることができない。また、グリス等の潤滑剤の補充といったメンテナンスを怠るとケースとブレーキシューの間のグリス等がなくなり、その結果、ロック現象を生じるといった問題を抱えていた。最近の高性能二輪車では、摩擦係数で約0.1以上を発現させるようにブレーキ制動力を向上させるため、グリス等の潤滑剤の使用を廃止することを検討した。しかしながら、従来のブレーキ材料、例えば特開昭56−133441号「焼結ブレーキ材」、特開昭56−120787号「ブレーキ用摩擦材」や特開平2−11936号「セミメタリック摩擦材」、さらには特開平5−331451号「非石綿系摩擦材」等が提案する摩擦材料を用いた場合、グリスが介在しない乾式摺動条件下が制御すると、上述したような凝固によるロック現象が発生し、ブレーキ用材料として実用できるものでないことが認められた。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明者は、下記のように従来に見当らない材料設計思想に基づきグリス等の潤滑剤が介在しない乾式摺動条件下において焼付き現象やロック現象を生じることなく、ハンドルレバーから伝わるブレーキシューとリング間の押し付け力が50〜100kgf/cm2 のような高荷重であるような厳しい条件で使用される高性能二輪車から約10〜50kgf/cm2 程度の比較的小さい荷重が付与される一般の家庭用や幼児用といった汎用二輪車まで幅広く装着できる0.15〜0.5程度の摩擦係数を発現でき、且つ安価なローラーブレーキを提供しようとするものである。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決するために種々の実験、検討を行った結果、グリスやオイル等の潤滑剤が介在しない乾式摺動条件下において、約10〜100kgf/cm2 程度の押し付け力が付与される場合に、焼付き現象やロック現象、また鳴きや振動を生じることなく、0.15〜0.5の範囲で、特に0.2〜0.4の間で安定した摩擦係数を有する二輪車用ローラーブレーキとその安価製造方法を開発したものであって、具体的には、二輪車用ローラーブレーキシューを構成するリングとブレーキシューについて、前者を微細な硬質粒子が旧粉末(焼結合金の素地を構成する合金粉末)粒内に均一に分散した銅系焼結合金により、また、後者を安価な鉄系材料により作製することで比較的低い押し付け荷重のもとで、グリス等の潤滑剤のない乾式条件下で摩擦摺動した際に、両者の間でロック現象や摩耗損傷等なく、0.15〜0.5の摩擦係数に相当するブレーキ制動力を安定して発現できるように構成したものである。 【0006】本発明による構成は以下の通りである。 (1)金属製ガイドケースの内側に圧入した焼結銅合金リングと、該リングの内径に対して同一の曲率を外周面に有し、且つリング内周面に押し付けることでブレーキ効力を発現させる金属製シューから構成される二輪車用ローラーブレーキにおいて、該シューは400MPa以上の引張強さを有する鉄系材料よりなり、該リングに用いる焼結銅合金はその旧粉末粒内部に硬質粒子が均一に分散する組織を有し、且つ200MPa以上の抗折力を有しており、更に固形あるいは/および半固形状潤滑剤が存在しない乾式摺動環境下で制動した際に、該リングと該シューの間の摩擦係数が0.15以上0.5以下となることを特徴とする二輪車用ローラーブレーキ。 (2)前記リングに用いる銅系焼結合金において、該合金は重量基準で10〜50%の硬質粒子と5〜15%の固体潤滑成分を含み、残部の素地が銅合金であることを特徴とする前記(1)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (3)前記リングに用いる銅系焼結合金において、素地を構成する銅合金の全体組成を100重量%とすると、3〜20重量%のSnを含有し、残部が銅および不可避的不純物からなることを特徴とする前記(2)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (4)前記リングに用いる銅系焼結合金の旧粉末粒内部に分散する硬質粒子は、FeMo、FeCr、FeTi、FeAl、FeSi、FeBの群からなる鉄系金属間化合物中から選ばれた1種あるいは2種以上であることを特徴とする前記(2)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (5)前記リングに用いられる固体潤滑成分は、天然燐片状黒鉛粉末あるいは天然鱗状黒鉛粉末を厚み方向に膨張させた膨張化黒鉛であることを特徴とする前記(2)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (6)前記の銅系焼結合金の素地を構成する旧粉末粒内中に分散する硬質粒子の最大粒径は30μm以下、平均粒径は15μm以下であることを特徴とする前記(4)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (7)前記リングに用いる銅系焼結合金において、素地を構成する銅合金の全体組成を100重量%とすると、必要に応じてAlを重量基準で3%以下含有することを特徴とする前記(3)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (8)前記リングに用いる銅系焼結合金を構成する素地において、素地を構成する銅合金の全体 組成を100重量%とすると、必要に応じてZn、Niの少なくも一方あるい は両方を40重量%以下含有することを特徴とする前記(3)もしくは(7)項記載の二輪車 用ローラーブレーキ。 (9)前記ガイドケースは鉄基合金、アルミ合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金から選ばれた金属材料からなることを特徴とする前記(1)項記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (10)前記シューは溶解・溶製法あるいは粉末冶金法により作製し得た鉄基合金であることを特徴とする前記(1)記載の二輪車用ローラーブレーキ。 (11)前記リングに用いる銅系焼結合金の製造方法は、先ず硬質粒子が銅合金粉末の素地中に均一に分散する硬質粒子分散型複合銅合金粉末を主原料粉末として用い、該粉末に固体潤滑成分である天然黒鉛粉末、さらに必要に応じてAl粉末を所定量に配合した混合粉末を出発原料とし、これを成形・焼結・固化することであり、この製造方法により200MPa以上の抗折力を有するリング用銅焼結合金を作製することを特徴とする二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。 (12)前記出発原料をリング形状に成形した圧粉体を700℃以上且つ合金素地の固相線温度以下に保持された還元性ガス、不活性ガス、真空のいずれかの雰囲気中で加熱して得た焼結体を、続いて該焼結体の温度が100℃以上に保持された状態で閉塞金型内にて加圧・固化することを特徴とする前記(11)項記載の二輪車ローラーブレーキのリングの製造方法。 (13)前記出発原料をリング形状に成形した圧粉体を700℃以上且つ合金素地の固相線温度以下に保持された還元性ガス、不活性ガス、真空のいずれかの雰囲気中で加熱して得た焼結体を、続いて該焼結体の温度が100℃未満に保持された状態で閉塞金型内にて加圧・固化し、さらに上記の制御された雰囲気内で焼結温度以下に加熱・保持することを特徴とすることを特徴とする前記(11)項記載の二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。 (14)硬質粒子分散型複合銅合金粉末は、上記銅合金素地を構成する所定の成分組成を有する銅系粉末と、上記硬質粒子からなる混合粉末を準備する工程、続いて該混合粉末に対して機械的合金化法(メカニカルアロイング法)、機械的混合法(メカニカルグラインディング法)、造粒法のいずれかの混合・粉砕処理を施す工程により、該硬質粒子を最大粒径30μm以下、平均粒径15μm以下に粉砕し、且つ同時に該硬質粒子を均一に分散させることで得られる硬質粒子分散型複合銅合金粉末であることを特徴とする前記 (11)項記載の二輪車用ローラーブレーキのリング製造方法。 (15)前記銅系焼結合金製リングを前記金属製ガイドケースの内側に圧入することで該リングを該ガイドケースと結合することを特徴とする前記(11)項記載の製造方法によるリングと前記(9)項記載の金属製ガイドとの結合方法。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明は対象とする二輪車用ローラーブレーキは図1の平面図(a)、縦断面図(b)に示すように、ブレーキシュー2とリング3およびガイドケース1から構成されており、銅系焼結合金よりなるリング3がガイドケース1の内側に圧入された2層構造体である。前記リング3の内径に対して金属製のブレーキシュー2は同一の曲率を外周面に有している。以下、本発明によるローラーブレーキの特徴をブレーキシューとリングおよびガイドケースに分けて詳細に説明する。 【0008】(ブレーキシュー)汎用自転車において、シューにはハンドルレバーからのブレーキ力によって約10〜50kgf/cm2 程度の荷重が乾式条件下で数秒間付与されるため、加圧によりブレーキシューにおいて変形や摩耗損傷等が生じないことが要求される。具体的には、材料の引張強さで400MPa以上必要であり、競走用の二輪車でも1000MPaまでの引張り強さがあればよいことを種々の実験によって見い出した。具体的には、材料の引張り強さで400MPa未満である場合、ブレーキシューは摩耗損傷したり、また制動時の押し付け荷重により変形して相手側のリングと局所的な片当りを生じ、その結果、焼付き現象といった問題が生じる。従って、ブレーキシューには400MPa以上の引張強さを有した材料が適しており、さらに安価であることが要求されることから鉄系材料の利用が経済性の観点からは有利である。なお、鉄系材料としては溶製鋼材や焼結合金のいずれであってもよいが、特にニアネットシェイプあるいはネットシェイプ成形が可能な焼結合金では機械加工費の削減あるいは省略できるので、より経済性の面において有利である。また、後述する焼結銅合金製リングと本ブレーキシューが摺動することで高い摩擦係数を発現するわけであるが、両者が均一に接触するためには、すでに触れたようにリングの内径に対して同一曲率を外周面に付与したブレーキシューが必要不可欠である。つまり、曲率が異なるとリング内周面とシューの外周面が片当り現象を生じて、安定して高い摩擦係数を確保することが困難となる。 【0009】(リング)本発明では、リングのベース材料として、ブレーキシューとの耐焼付き(凝着)性の観点から銅合金を選択し、さらに経済性の観点から製品作製までの機械加工工程の簡略化あるいは省略化を考えて、3次元形状付与が容易である粉末冶金法(成形・焼結法)を選定した。しかし、従来の銅系焼結合金では、耐摩耗性を向上させるべく添加する硬質粒子と、素材のベース粉末である銅合金粉末を単に配合(混合)した後、成形・焼結による固化するため、硬質粒子7は図3(b)に示すように、焼結体の旧粉末粒界5(粉末の3重点)に存在する。また、混合の方法や条件によって硬質粒子の凝集や偏析といった問題を生じる。よってこのような組織構造を有する焼結合金においては、硬質粒子7と素地(銅合金)6との密着性は乏しく、隙間8が生じその結果、摩擦摺動時に表面から硬質粒子7が脱落し、かえってこれが摩耗粉となりリング自体や相手側を攻撃して摩耗損傷を誘発する原因となる。さらに応力が負荷された場合に、硬質粒子が旧粉末粒界に存在するとそれが亀裂の発生起点および伝播経路となるために、焼結体の機械的特性を著しく低下させるといった問題を生じる。そこで、本発明では上記の問題を解決できるような理想的な組織構造として、図3(a)に示すような焼結体の素地6を構成する旧粉末粒内中に微細な硬質粒子7′が均一に分散した銅系焼結合金を考案した。具体的には、成形・焼結する銅系粉末の内部に、事前に微細な硬質粒子7′を均一に分散させた粉末、つまり、硬質粒子分散型複合銅合金粉末を原料粉末に使用した。その結果、耐焼付き性や耐摩耗性に優れ、且つ安定した摩擦係数を長期的に発現できる銅系焼結合金を創製することに成功した。 【0010】このような硬質粒子分散型複合銅合金粉末において、詳細な素地の合金組成、硬質粒子の分散性(大きさ・添加量)と種類、さらには銅合金粉末を固化することにより銅系焼結合金製リングを創製する場合の適正な製造方法などを、種々の実験・検討を行うことにより見い出した。それらの適正範囲は上述したとおりであるが、その設定理由についての詳細を以下に説明する。 【0011】硬質粒子分散型複合銅合金粉末とその製法本発明の特徴である硬質粒子分散型複合銅合金粉末における硬質粒子の分散性、種類およびその製造方法について記述する。硬質粒子はリングを構成する銅系焼結合金において、摺動面内に微細且つ均一に分散して常温および高温での摩擦摺動時において相手材との凝着発生を抑制し、耐焼付き性を向上させるとともに、相手材の素地表面と直接接触して摩擦抵抗を生じさせることで摩擦係数を向上させる役割を有する。但し、このような効果を発現するための必要条件としては、上述したように摩擦摺動時に硬質粒子が焼結材の摺動面素地から脱落しないことである。 【0012】これを実現するのに必須である硬質粒子分散型複合銅合金粉末を経済的に製造する方法として、次のような粉末の機械的混合・粉砕処理法の適用が有効であることを見い出した。つまり、メカニカルアロイング法やメカニカルグラインデング法、造粒法等を代表とする、粉末の機械的な混合・粉砕・合金化処理法を適用することにより、初めて硬質粒子である金属間化合物や金属粒子を微細に粉砕すると同時に、銅合金粉末の粒内素地中にこれら微細硬質粒子を均一に分散できることを明らかにした。なお、この機械的な粉末混合・粉砕・合金化処理は従来のボールミル粉砕や混合のような湿式法ではなく、乾式で行う。また、場合によってはPCA(ProcessControl Agent) としてステアリン酸やアルコールなどを少量添加することで過度の凝集を防ぐこともある。処理装置はアトライターやボールミルが適当である。前者は粉砕効率に優れていることから高速処理には適しており、また後者は長時間処理が必要となるが雰囲気制御が容易であり、投入エネルギーの設定さえ適切に行えば、短時間で目標とする粉末の組織構造が実現できることから、比較的経済性に優れた製法である。 【0013】上述のような硬質粒子分散型複合銅合金粉末を作製する別の方法として、硬質粒子を所定の組成を有する銅合金の溶湯中に攪袢・分散させ、これをアトマイズ法により噴霧することで、内部に硬質粒子が分散した銅合金粉末を作製する方法も有効である。なお、この方法では硬質粒子を微細に粉砕できないために事前に細かい硬質粒子を添加する必要がある。その場合、溶湯内での硬質粒子の偏析・凝集を防止するために十分な攪袢工程が必要となるため、経済性の面において多少の課題が生じる。したがって本発明が対象とする銅系焼結合金をより安価に創製するためには、機械的な混合・粉砕・合金化処理法の適用が好ましい。 【0014】次に、硬質粒子の大きさ・添加量に関して述べる。本発明者らは所定の組成を有する銅系粉末について上述した機械的な混合・粉砕・合金化処理を行う際、混合・粉砕処理条件を変更して評価した結果、目標とする0.15〜0.5の摩擦係数を安定して確保できるリング用銅系焼結合金を創製するためには、銅合金粉末の素地中に分散する硬質粒子の大きさ・添加量に関して、以下に記述するような適正範囲があることを見い出した。すなわち、最大粒径30μm以下、平均粒径15μm以下の硬質粒子を焼結銅合金全体に対して10〜50重量%含有し、且つ銅系焼結合金の素地の旧粉末粒内部に均一に分散することで、その機械的特性を低下させることなく、安定した摩擦係数が確保できることを確認した。ここで、適正範囲外で硬質粒子を添加した場合の問題点を次に記載する。先ず、添加量が10重量%未満では0.1を越えるような摩擦係数は得られず、更に耐摩耗性を向上させる効果も得られない。一方、最大粒径が30μmを越えるか、もしくは平均粒径が15μmを越えるか、もしくはその添加量が50重量%を越えると硬質粒子が亀裂発生の起点となりやすく、その結果、銅系焼結合金の強度・靱性は著しく低下し、また相手攻撃性の観点からもこのような範囲での硬質粒子の添加は相手材を激しく摩耗させるために好ましくない。したがって最大粒径30μm以下、平均粒径15μm以下の硬質粒子を10〜50重量%、粉末素地中に均一に分散させることが有効である。 【0015】本発明の銅系焼結合金において使用する硬質粒子は、FeMo、FeCr、FeTi、FeAl、FeSi、FeBの群からなる鉄系金属間化合物粒子のうち、少なくとも1種または2種以上から構成されることが望ましい。これらの鉄系金属間化合物は硬いために硬質粒子に適していると同時に、脆性であるために粉砕性に優れており、本発明が適用する機械的な混合・粉砕・合金化処理に際し、硬質粒子の微細化に対して極めて有効である。なお、上記のような硬質粒子の他にも、Al2 O、SiO2 、ZrO2 等の金属酸化物やSiC、TiC、AlN、Si3 N4 等のセラミックを利用することで、焼結合金の摩擦係数を向上させる効果は認められたが、これら粒子は鉄系金属間化合物に比べて被削性に劣るため、経済性の面において多少の問題が生じることもある。 【0016】次に、本発明の銅系焼結合金の素地(マトリックス)に関する合金組成を上記のように設定した限定理由について説明する。なお、各元素の添加量の数値は、合金の素地領域の組成を100とした場合の各元素の添加量を重量基準で示したものである。 (1)Sn:SnはCuと共に本合金の素地を形成し、合金の高温強度および靱性を向上させる作用があり、また、高温での相手材との耐焼付き性を向上させる作用がある。よって、摩擦摺動条件がより過酷な場合には合金素地へのSnの添加は有効である。なお、その添加量が3%未満では、それらの効果がなく、また20重量%を越えて添加すると硬くて脆い相が析出するために強度、靱性を低下させる。従って本発明の合金における適正なSn添加量は3〜20重量%である。 (2)Zn、Ni:ZnおよびNiはCuと共に素地を形成し、合金の耐熱性を向上させると共に、銅合金の耐腐食性を向上させる効果がある。二輪車ブレーキのように摩擦熱により瞬時にブレーキ表面が高温に上昇することでブレーキ材が軟化して摩耗や変形を生じる問題や、雨水や海水等が直接接触する部品では腐食による摩耗損傷や耐久性の低下といった問題がある。これらの問題に対してZnあるいは/およびNiを添加することで回避できることを見い出した。適正添加量としてはZn、Niのうち少なくとも一方もしくは両方を5〜40重量%とする。逆に添加量が5重量%未満では耐熱性・耐腐食性の向上の効果は十分に得られず、また、40重量%を越えると銅合金の素地が硬化して摩擦摺動時に相手材を攻撃するといった問題を生じる。 Al:Alは素地のCuと反応してCu6 Al4 等の微細な金属間化合物を形成して合金の硬度を向上させると共に、摩擦摺動時の抵抗粒子となることで摩擦係数を向上させる効果がある。しかし3重量%を越えて添加すると合金の脆化を誘発し、機械加工性や冷間加工が低下するといった問題がある。従って、本発明の銅系焼結合金において、必要な際に添加するAlの適正量は3重量%以下である。 【0017】次に固体潤滑剤である黒鉛粉末の特徴ならびに含有量について説明する。固体潤滑剤はより過酷な摩擦摺動条件において相手材のブレーキシューに対するリングの攻撃性および耐焼付き性を改善すると共に、滑り速度・加圧力等の摩擦摺動条件が変動する場合においても乾式摺動下で、0.1〜0.5の摩擦係数を安定させる効果があり、さらには摺動面間の潤滑性を改善することで摺動時の振動・ひびり等の抑制に対しても効果がある。具体的には黒鉛粉末、MoS2 、CaF2 、WS2 、およびBN粉末等が固体潤滑剤として工業的に用いられ、特に多量に添加する場合には経済的にも問題の少ない黒鉛粉末が選択されることが多い。 【0018】しかしながら、本発明者らは、黒鉛粉末の中でも従来の粉末冶金に用いられてきた球状黒鉛粉末よりも優れた特性を有する天然鱗片状黒鉛粉末、あるいはこの天然鱗片状黒鉛粉末を厚み方向に膨張させた膨張化黒鉛粉末を適用することを試みた。具体的には、従来の球状黒鉛粉末に比べて、(1)成形性・圧縮性に優れていること、(2)潤滑性能に優れてることである。つまり、従来の球状黒鉛粉末に比べて成形性に優れていることから、より多くの黒鉛粉末の添加が可能となり、その結果摩擦係数はより安定化できると共に、焼結体の機械的特性(強度)の低下を抑えることも可能となる。なお、焼結銅合金全体に対して15重量%を越えてこれらの黒鉛粉末を添加すると焼結体の抗折力が200MPaを下回り、摩耗損傷を誘発する。一方、潤滑性能がより優れていることから、上記のような摺動時のひびり・振動や鳴きといった問題より抑制できる効果を有すると共に、摺動初期段階の相手材との馴染み性を改善して摩擦係数をより安定化させる効果がある。但し、焼結銅合金全体に対するこれらの黒鉛粉末の含有量が5重量%未満の場合、上記のような優れた摺動特性を得ることは困難となる。従って、上記の理由により本発明の焼結銅合金に添加する鱗片状黒鉛粉末あるいは膨張化黒鉛粉末の量は5重量%以上15重量%以下であることが望ましい。また、焼結体中にこれらの黒鉛粉末が分散した場合、黒鉛粉末の優れた圧縮性を利用することで加圧時の焼結体自身の圧縮性が向上し、その結果、相手材の摺動面との局所的な接触を抑制でき、全面接触を可能とすることで摩擦摺動性能の安定化が図れる。従って、本発明の特徴である硬質粒子分散型複合銅合金粉末と上記の鱗片状黒鉛粉末あるいは、膨張化黒鉛粉末、あるいは両方を混合・固化し得た焼結体は優れた機械的特性と摩擦摺動特性、特に摺動時の初期段階から安定した摩擦係数を発現できるといった特徴を有する。 【0019】リングの製造方法(硬質粒子分散型複合銅合金粉末の固化方法) 本発明が対象とするローラーブレーキについてはすでに図1について若干触れたが、ガイドケース1の内側に銅系焼結合金からなるリング3が圧入された2層構体であり、ブレーキシュー2がリングの内側に押し付けられることで制動効力を発現して回転する車輪を停止させるといった基本構体をなしている。ここで、リングはブレーキ動作時にリング内周部にブレーキシューが押し付けられる際に変形および摩耗しないような機械的特性(強度)が必要である。具体的には、ブレーキシューからの押し付け力が10〜50kgf/cm2 である場合、リング体に要求される材料強度としては200MPa以上の抗折力が必要であることを見出した。いうまでもないが、押し付け力が50kgf/cm2 を越えるときは、再にリング体に要求される抗折力は大きなものとなる。 【0020】図4は銅系焼結合金製リングの製造方法をフローチャートで示しているが、以下このフローチャートによりその詳細を説明する。 (a)すでに説明した所定の合金組成を有する硬質粒子分散型複合銅合金粉末と固体潤滑成分、必要であればAlを添加した混合粉末を準備する。 (b)これらの混合粉末を型押・成形することでリング形状の圧粉体を作製する。 (c)圧粉体を700℃以上、且つ合金素地の固相線温度以下の温度に保持し、還元性ガス、不活性ガス、真空のいずれか管理された雰囲気中で加熱・保持して焼結体を作製する。 【0021】ここで200MPa以上の抗折力を有する焼結銅合金を作製するには次の2方法のうちいずれを適用することが望ましい。 (d)前記焼結体を100℃以上に加熱保持し、閉塞金型温度を400℃以下として再圧縮する。 (e)前記焼結体を100℃未満に加熱保持し、閉塞金型温度を400℃以下とし再圧縮し、温度700℃以上、銅合金の固相線以下で、且つ還元ガス、不活性ガス、真空のいずれかを選んで再焼結する。 【0022】前記(d)の方法では、焼結体を100℃以上に加熱保持した状態で閉塞金型内で加圧することで、旧粉末同士がより強固に結合して200MPa以上の抗折力を得ることができる。このとき、金型温度は常温でもよいが、400℃以下の高温に保持されることが好ましく、さらに200℃以下であることが望ましい。金型温度が高温であれば、加熱された焼結体の温度低下が抑制されて旧粉末同士がより強固に結合する。しかしながら、加圧の際に金型と焼結体との焼付きを防止する役割を有する潤滑剤を選択するにあたり、200℃を越えると黒鉛系あるいはモリブデン系といった黒色系統の潤滑剤が必要となり、その結果、加圧後の焼結体の外観は損われる可能性がある。これに対して金型温度が200℃未満の場合には、金属石鹸粉末(例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等)をミリスチン酸やエタノール等の有機溶媒に溶かした白色あるいは無色透明の潤滑剤が適用でき、上記のような焼結体の外観を損うことはない。なお、金型温度が400℃を越えるような高温域で加熱保持しても、再圧縮後の焼結体の特性は顕著に向上しない故、経済性の観点から金型温度は400℃以下で十分である。 【0023】一方、(e)の方法のように、焼結体を100℃未満に加熱保持した状態で閉塞金型内で加圧した場合には、さらに続いて上記のような再焼結工程が必要となり、その結果、200MPa以上の抗折力を有する焼結銅合金を得ることができる。但し、前記(d)の方法において加熱された焼結体を閉塞金型内で加圧した後に続いて上記のような再焼結工程を施すと焼結体の特性はさらに向上することは本発明者らは認識している。 【0024】以上の製造方法において、焼結雰囲気が酸化雰囲気である場合や焼結保持温度が700℃未満の場合には、焼結現象が十分に促進しないために焼結体の強度が十分に得られず、焼結体の搬送過程において焼結体が欠損するといったハンドリング性の問題が生じる。一方、合金素地の固相線温度を越えて加熱すると焼結時に圧粉体の寸法収縮量が大きくなり、寸法精度の低下を生じる。 【0025】次に、得られた焼結体の強度をさらに向上させるために次工程においては、加熱した焼結体を閉塞金型内にて加圧するか、焼結体が100℃以上に加熱された状態で加圧すると焼結体の旧粉末同士の結合が促進されて200MPa以上の抗折力を有する焼結体を創製することが可能である。しかしながら前記(e)に記載のように焼結体が100℃未満に加熱された状態で加圧した場合には、200MPa以上の抗折力を得ることは困難となるため、旧粉同士の結合性を向上させるには、さらに上記のような再焼結工程が必要となる。ここで、焼結温度が1回目の焼結温度を越えると更に焼結現象が進み、焼結体の寸法収縮量が大きくなりその結果、リング焼結体の寸法精度の低下を招く。 【0026】以上をまとめると、本発明が対象とする二輪車用ローラーブレーキに用いられるリングの製造方法としては、まず、所定の組成からなる銅系粉末と硬質粒子を、機械的に混合・粉砕・合金化処理を施すことで、硬質粒子を最大30μm以下、平均粒径15μm以下に微細に粉砕すると同時に、この硬質粒子を銅合金粉末粒内(粉末の素地中)に微細に粉砕すると同時に、この硬質粒子を銅合金粉末粒内(粉末の素地中)に微細且つ均一に分散させた硬質粒子分散型複合銅合金粉末を作製する。そして、このような銅合金粉末に天然鱗片状黒鉛粉末あるいは膨張化黒鉛粉末を成形・焼結し、さらに閉塞金型内での加圧・固化による塑性加工を施し、必要に応じて焼結工程を追加することにより、ブレーキリング材として十分使用可能な機械的特性と乾式摺動条件下において優れた耐摩耗性・耐焼付き性、更に目標とする0.1〜0.5の摩擦係数を発現する焼結銅合金製リングを創製することができる。 【0027】(ガイドケース)上記の製法により作製した焼結銅合金製リングを図1のガイドケースの内周側に圧入することで、2層構造のローラーブレーキ本体が作製されるが、ここでガイドケースは機械的特性(特に、車輪と嵌合するガイドケース中央部のスプライン歯部の強度)ならびに経済性の観点から通常、鉄基合金、アルミ合金、マグネシウム合金、銅合金といった工業用金属材料で構成される。特に、高い押し付け荷重がリングとブレーキシューの間に付与される場合には、両者間に発生する摩擦熱が大きくなり、これを放熱する必要があることから熱伝導率が大きく放熱性に優れ、且つ軽量化の効果の大きいアルミニウム合金がガイドケース用材料として適している。 【0028】(実施例1)本発明による焼結銅合金(No.1〜21)および比較例(No.22〜36)の合金組成を表1に示す。ここで、焼結銅合金全体を100%とした際、硬質粒子(鉄系金属間化合物)と固体潤滑成分を除いたものが素地を構成する銅合金の比率を重量%で表示した値であり、さらにこの素地の銅合金全体を100%としたときに合金を構成する各元素の含有量を重量%で表示しており、残部が銅(Cu)である。ここで固体潤滑剤の記号A〜BはそれぞれA;天然鱗片状黒鉛粉末(平均粒径40μm)、B;天然膨張化黒鉛(平均粒径150μm)を意味する。また、硬質粒子である鉄系金属間化合物の記号C〜Gはそれぞれ、C;FeMo、D;FeCr、E;FeAl、F;FeTi、G;FeSiを意味する。なお、各焼結銅合金は、その素地を構成する成分組成を有する銅系粉末と硬質粒子の混合粉末に対して機械的合金化(メカニカルアロイング)処理を施した硬質粒子分散型複合銅合金粉末と所定量の固体潤滑粉末を混合し、成形・焼結過程を経て200MPa以上の抗折力を有している。(但し、No.36を除く) 【0029】 【表1】
【0030】表1において、*1は出発原料粉末を機械的混合・粉砕処理を施すが、その条件を変更することで、硬質粒子の最大粒径を60μmとし、これを成形・焼結した合金。また、*2は出発原料粉末を機械的混合・粉砕処理を施すが、その処理条件を変更することで硬質粒子の最大粒径を35μmとし、これを成形・焼結した合金。さらに*3は出発原料粉末を本発明による機械的混合・粉砕・合金化処理を施さずに成形・焼結した合金。 【0031】各焼結合金中の硬質粒子の最大粒径・平均粒径、機械的特性(抗折力)摩擦摺動特性(摩擦係数μ、摩擦材および相手材の摩耗量)の評価結果は表2に示される。 【0032】 【表2】
【0033】表2において相手材の項中マイナス(−)は付着による増加を示す。摩擦試験は図5に示すリングオンディスク式摩擦試験機を用いて乾式大気中にて30分間連続運転した際の摩擦係数を測定した。相手材には引張強さ650MPaを有する鉄系焼結材を用いた。なお摩擦係数が0.7を越える場合は焼付き現象が発生したことを意味する。また、図で10は固定側となる焼結銅合金リングを示し、11は回転側となる鉄系相手材を示している。 加圧力 :30kg/cm2、速度:2m/秒、摩擦時間:30分試験片形状:焼結銅合金(固定側)(φ60×φ50×5mm リンク゛状) 相手材 :鉄系材料(回転側)(φ80×5mm円板状 、引張り強さ650MPa 、焼結材 ) 表2は表1に対応し、No.1〜21が本発明の銅系焼結合金、No.22〜36が比較材を示している。材料No.1〜21は本発明が測定する所定の成分を有する銅系焼結合金であり、表2に見るようにその抗折力は目標の200MPa以上と有している。また、試験結果においては相手材との焼付き現象や摩耗損傷を生じることなく、目標とする0.15〜0.5の摩擦係数(μ)を有しており、リング用材料として十分適用できることが判った。 【0034】一方、比較例No.22〜36の焼結合金において以下のような問題が見られた。 22:Snを含有しないため、合金の耐摩耗性が低下し、最終的に相手材と焼付きを生じた。 23:Sn量が2%と少ないため、合金の耐摩耗性・耐焼付性が低下し、最終的に相手材と焼付きを生じた。 24:Sn量が25%と多いために素地が著しく硬化して相手材を攻撃し、最終的に相手材と焼付きを生じた。 25:固体潤滑成分が0%と少ないために相手材と焼付きを生じた。 26:固体潤滑成分が3%と少ないために相手材と焼付きを生じた。 27:固体潤滑成分が2%と少ないために相手材と焼付きを生じた。 28:固体潤滑成分が18%と多いために焼結体の強度が低下した。 29:硬質粒子が5%と少ないために十分な耐摩耗性が得られず、最終的に相手材と焼付きを生じる。 30:硬質粒子が55wt%と多く含むため、焼結体の強度が低下すると共に、相手材を攻撃した。 31:Zn含有量が45%と多いために素地が著しく硬化して相手材を攻撃し、最終的に相手材と焼付きを生じた。 32:Ni含有量が45%と多いために素地が著しく硬化して相手材を攻撃し、最終的に相手材と焼付きを生じた。 33:Al量が5%と多いために焼結体が著しく硬化し、焼結体の強度が低下すると共に相手材を攻撃して焼付きを生じた。 34:硬質粒子の最大粒径が50μmと大きいために焼結体の強度が低下する。 35:硬質粒子の平均粒径が40μm、平均粒径が32μmと大きいために焼結体の強度が低下する。 36:機械的粉砕・混合処理を行わず、単に所定成分を有する各粉末を混合のみした後、焼結したために硬質粒子と素地との反応層が形成されず、また粗大な硬質粒子が存在するため、摺動時に硬質粒子が素地から脱落して相手材と焼付きを生じ、さらに焼結材の強度が低下する。 【0035】(実施例2)実施例1に記載した本発明の銅系焼結合金No.2を外径φ60mm・内径φ50mmのリングに加工した後、アルミ合金製ガイドケースの内側に圧入して本発明が規定する2層構造体のローラーブレーキ本体を作製した。一方、表3に示すように種々の引張強さを有する鉄系材料を準備し、これを機械加工によりリング内径と同一の曲率半径を、リングと接する外周面に有したブレーキシューに仕上げ、グリス潤滑無しのローラーブレーキを作製した。これを24インチ自転車の後輪に装着して速度10km/hで走行した状態から8kgfのレバー入力(押し付け力による面圧:約30kgf/cm2 )を付与し、5秒間で停止して再度速度10km/hとなるように走行することを1サイクルとし、合計10000サイクルの耐久試験を行った。その際のブレーキ効力(制動力)から100、1000、10000サイクルにおける摩擦係数μを算出と共に、ブレーキシューおよびリングの損傷状況を調査した。その結果を同表3に示す。 【0036】 【表3】
【0037】これに見るように、本発明が規定する形状(リング内周面と均一に全面で接触するような曲率を外周面に有する)および引張強さ(400MPa以上)を有する鉄系材料No.1〜3をブレーキシューに用いた場合、実車で10000サイクル耐久試験において、ブレーキシューとリングの片当たり現象はなく、ブレーキシューおよびリング共に摩耗損傷は認められず、0.4程度の摩擦係数に相当する制動力を安定して発現することが確認できた。一方、比較例として、引張強さが400MPa未満の鉄系材料No.4〜7をブレーキシューに用いた場合、レバーからの押し付け力によりブレーキシューが変形してリングとの片当たり現象を生じ、その結果、焼付き現象或いはロック現象(車輪が回転しない状態)に至ると共に顕著な異音(鳴き)が発生した。 【0038】更に、同様の実車耐久試験において、リングにS35C鋼材を用いた場合の結果を同表No.8に、また、リングにランキサイド材(sic粒子分散型アルミ合金)を用いた場合の結果を同表No.9に示す。No.8、No.9共に目標とする摩擦係数を得ることはできず、また焼付き現象或いはロック現象が発生し、これらの材料はリングには適用できないことが判った。また、同表No.10に示すようにリング兼ガイドケースおよびブレーキシューを共にS35C鋼材で作製し、従来品のようにシューとリングの間にグリス潤滑を施した場合では、焼付き現象やロック現象、さらには異音等の発生は見られなかったが、摩擦係数は0.09と低いことが判った。しかしながら、外周面の曲率半径がリングの内径よりも小さいような形状を有するシューを同表中のNo.1の材料を用いて作製し、同様の耐久試験を実施した結果、シューがリングに対して局所的に接したために焼付き現象が発生した。 【0039】(実施例3)実施例1に記載した本発明の銅系焼結合金No.2を外径φ60mm・内径φ50mmのリングに加工した後、表4に示す各種の材料により作製したガイドケースの内側に圧入して本発明が規定する2層構造体のローラーブレーキ本体を作製した。そして、650MPaの引張強さを有する鉄系焼結材により作製したブレーキシューを組み込み、グリス潤滑無しの乾式ローラーブレーキを作製した。これを実施例2と同様に、24インチ自転車の後輪に装着して速度10km/hで走行した状態から8kgfのレバー入力(押し付け力による面圧:約30kgf/cm2 )を付与し、5秒間で停止して再度速度10km/hとなるように走行することを1サイクルとし、合計10000サイクルの耐久試験を行った。その際、後輪シャフトと勘合して高い応力が付与されるガイドケースのスプライン歯部の損傷状況および1000サイクル時におけるブレーキシューとリング材の間の摩擦係数μを測定した。その結果を同表4に示す。これに見るようにガイドケース用材料として強度・靱性に優れた金属材料を用いることにより、後輪と嵌合するガイドケースのスプライン歯部にて摩耗損傷や歯部の欠損といった問題は発生しなかった。一方、高強度・軽量ではあるが靱性に乏しいセラミック系材料を用いた場合、歯部の欠損が生じることが確認された。 【0040】 【表4】
【0041】(実施例4)表1中のNo.2の配合組成を有する硬質粒子分散型銅合金粉末と固体潤滑成分(天然鱗片黒鉛粉末)の混合粉末を真密度比で72%に圧粉成形した後、これを表5に示す製造条件に基づいて固化し得た各焼結体の抗折力を評価した。その結果を同表5に示す。なお、再加圧工程では金型内壁への潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を有機溶媒に溶かしたものと使用した。本表に見るように、本発明の製造条件による銅系焼結合金No.1〜7では、適正なる焼結条件・再加圧条件・再焼結条件の基で作製した結果、リング材としての要求強度(200MPa以上の抗折力)を有する焼結体が得られた。一方、比較例No.8〜14では、以下のような問題が生じた。 No.8;焼結温度が600℃と低いため焼結現象が十分進行しない結果、再加圧工程へ焼結体を搬送する過程で欠けが発生。 No.9;焼結時間が5分と短いため焼結現象が十分進行しない結果、再加圧工程へ焼結体を搬送する過程で欠けが発生。 No.10;大気中で焼結したため焼結現象が十分進行せず、その結果再加圧工程へ焼結体を搬送する過程で欠けが発生。 No.11;素地を構成する銅合金の固相線温度を越えて1050℃まで加熱した為、焼結体中に液相が発生して寸法変化が増大。 No.12;再焼結過程を施さなかった結果、リング材としての要求強度が得られなかった。 No.13;再焼結工程において第1回目の焼結温度(800℃)を越えて900℃迄加熱した為、再度焼結が進行して最終製品において寸法変化が増大。 No.14;再加圧過程での加圧面圧が2t/cm2 と小さい為、リング材としての要求強度が得られなかった。 【0042】 【表5】
【0043】(実施例5)実施例1のNo.8に記載した本発明の組成を有する混合粉末を本発明が規定する製造条件のもとで焼結・固化した銅系焼結合金を外径φ75mm・内径φ65mmのリングに加工した後、鋳鉄製ゲイドケースの内側に圧入して本発明が規定する2層構造体のローラーブレーキ本体を作製した。得られた各焼結銅合金の抗折力を表6に示す。そして、650MPaの引張強さを有する鉄系焼結材により作製したブレーキシューを組み込み、グリス潤滑無しの乾式ローラーブレーキを作製した。これを実施例2と同様に、24インチ自転車の後輪に装着して速度25km/hで走行した状態から同表6に示す種々のレバー入力を付与し、5秒間で停止して再度速度25km/hとなるように走行することを1サイクルとし、合計1000サイクルの耐久試験を行った。その際、ブレーキシューとリング材の間の摩擦係数μを測定した。その結果を同表6に示す。表6において、No.1〜4に見るように本発明が対象とする競技用および汎用自転車でのレバー入力(リングに対するシューの押し付け力):約10〜100kgf/cm2 が付与される場合では、焼結銅合金製リング材の摩耗損傷もなく、安定した摩擦係数(制動力)を発現することができる。一方、No.5〜6に見るように150kgf/cm2 程度の過負荷がレバー入力として付与されると、リング材が摩耗損傷するといった問題が確認された。 【0044】 【表6】
【0045】 【発明の効果】本発明は二輪車用ローラーブレーキとその製造方法に関するものである。本発明によるローラーブレーキはグリスやオイル等の潤滑成分が介在しないような、厳しい摩擦摺動条件下において、約10〜50kgf/cm2 程度の押し付け力が付与された場合、ブレーキを構成するリングとブレーキシューの間で焼付きロック現象や摩耗損傷、異音や鳴き等を生じることなく、0.1〜0.5の摩擦係数に相当する高い制動力を安定して発現できる。従って、本発明によるローラーブレーキでは、運転中にブレーキが焼き付くといったロック現象を生じることなく、比較的小さいレバー入力により大きな効力を得ることができ、優れた制動効率を有する。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000002130 【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
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| 【出願日】 |
平成8年(1996)6月19日 |
| 【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】青木 秀實 (外1名)
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| 【公開番号】 |
特開平10−9294 |
| 【公開日】 |
平成10年(1998)1月13日 |
| 【出願番号】 |
特願平8−180032 |
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