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【発明の名称】 透過型消波構造物
【発明者】 【氏名】池上 国広
【課題】多段式透過型消波構造物の潮位変動による消波性能の劣化を防止する。

【解決手段】多段式透過型消波構造物の主体部1にL字型断面の長尺板体2〜5を互いに前後方向および上下方向に間隔をあけて取付けて複数のL字型断面の開放型水路15〜18を多段状に形成し、主体部1を支持柱7に上下動可能に取付けて海面に設置し、主体部1の両側の浮体部6の浮力で潮位変動に拘わらず主体部1を常に所定の没水深さに保持することにより、潮位変動による消波性能の劣化防止を可能にした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 中空四角柱形状の主体部と、同主体部の波の進入面としての前面部に水深方向に複数段に区分して設けられた複数段の前面開口部と、上記主体部の上面部に前後方向に複数列に区分して設けられるとともに上記複数段の前面開口部にそれぞれ連通して上記主体部の内部に複数段のL字型断面の開放型水路を構成する複数列の上面開口部とをそなえ、上記主体部が、上記上面部を水面上に位置しかつ下面部を水面下に位置するとともに同下面部の下方では水の自由な透過を可能に、かつ潮位の変動に拘わらずほぼ所定の没水深さに保持されるように水中に設置されることを特徴とする、透過型消波構造物。
【請求項2】 上記複数段のL字型断面の開放型水路を構成すべく、複数枚のL字型断面の板材が互いに上下方向および前後方向に所定の間隔をあけて上記主体部の内部に設けられていることを特徴とする、透過型消波構造物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、港湾内等に静穏水域を造成するとともに、水の流通が可能な透過型消波構造物に関する。なお本発明の消波構造物は火力発電所の取水,放水口への波の進入を軽減する構造物としても適用可能である。
【0002】
【従来の技術】港湾内に、桟橋やマリーナを設ける場合や養殖場を造成する場合に、消波構造物を設置することによって、所定の水域に静穏度を確保する需要がある。このような場合、一般には、重力式の防波堤が設置されるが、通常の重力式の防波堤は水深の増大に対して費用の点で限界があるばかりでなく、水域内外の水の入れ替りを疎外するので、環境重視の観点から制限される場合もある。このように、比較的水深が大きい場合や水域内外の水の入れ替りを重視する場合、水深方向全面を遮蔽しない構成の、いわゆる透過型消波構造物が提案されている。
【0003】従来の透過型消波構造物の一例を図6,7により説明すると、図6に示したカーテンウォール式と呼ばれている透過型消波構造物は、長尺長方形の板構造21が上部を水面20を鉛直方向に貫いて水深の途中まで延ばされて設置される構成となっている。この型式の透過型消波構造物は、波による水粒子の運動のうち水面近くのものを遮ることによって、構造物背後への波の伝播を低減させるものであり、波長の長い波に対しては、水深方向への貫入量を増やすことで対処することができる。しかし透過率(透過波高と入射波高との比)を0.5以下におさえようとすると、水深方向への貫入量は波長の1/7倍程度を必要とするので、例えば波周期8秒(波長100m)の波に対しては14mもの貫入量が必要となって規模が大きくなってしまい、かつ、この場合、水の透過性が悪くなってしまう。また、潮位差が大きい水域ではさらに大きな規模になる。
【0004】また図7に示した没水平板式と呼ばれている透過型消波構造物は、長尺長方形の板構造22が完全に没水した形で水面20の下方に水平に配設されて構成されている。この型式の透過型消波構造物は、板構造22の上で波が砕けたり板構造22の端部で渦が発生したりすることを利用して波のエネルギーを消費して透過波を減衰させるもので、波長が長い波に対しては板構造22の幅Wを増大させることで対処することになる。板構造22の幅は波長のほぼ1/3〜1/4の寸法を必要とするので、波長100mの波に対しては30m幅と大規模になってしまう。また、潮位差が大きい場合、高潮位時の没水深度が大きくなり、消波性能が悪くなる。なお、図6,7中の矢印は進入波の方向を示している。
【0005】上述のように、図6,7に示した従来の透過型消波構造物では長い波長の波に対して消波効果を発揮させようとすると、規模が大きくなって費用が増大してしまうという不都合な点があり、また規模の大型化に伴い水の透過性も悪くなる。さらに、潮位差が大きい水域では、カーテンウォール式の透過型消波構造物ではより大規模になり、また没水平板式の透過型消波構造物では高潮位時に消波性能が悪くなるという不都合な点がある。
【0006】上述のような不都合に対処した透過型消波構造物として、図8,9に示すような、多段水路式透過型消波構造物が提案されている。この多段式透過型消波構造物は、底板5bと背板5aとからなるL字型断面の長尺板体5と、L字型断面の長尺板体2〜4(各長尺板体2〜4も背板2a〜4aおよび底板2b〜4bで形成されている)と、互いに隣接する各長尺板体2〜5の間に複数のL字型断面の開放型水路16〜18を多段状に形成すべく各長尺板体2〜5間にそれぞれ介装されるスペーサ14とで構成される長尺水平堤体10と、この長尺水平堤体10を底板5bで支持するトラス構造の架台19とで構成され、図9に示すように長尺板体2〜5の各背板2a〜5aの上端部が水面20よりも若干突出するように、海中に固設されるようになっている。なお長尺板体2〜5はいずれも各底板2b〜5bがほぼ水平となり、各背板2a〜5aがほぼ垂直となるように、海面に設置される。図8,9中の矢印は進入波の方向を示している。また符号sは水路16〜18の前後方向および上下方向の寸法、すなわち各長尺板体2〜5の各背板間および各底板間の前後方向および上下方向の間隔を、符号Wは構造物の幅(進入波方向の奥行き)を、符号13は架台19における自由通水空間をそれぞれ示している。また最上段の長尺水平板2の上面にもL字型断面の開放型水路15が形成されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】図8,9に示した多段式透過型消波構造物においては、同構造物に入射する波の周期が構造物内の開放型水路内の水の運動の固有周期近傍にある場合、共振現象が発生し、入射波のエネルギーは開放型水路内の水の運動エネルギーに変換される。したがって、この構造物を透過する波のエネルギーは非常に少なくなり、透過波高は非常に低くなる。ところで、開放型水路内の水の運動の固有周期は[数1]式で求められる。
【数1】T=2π√(L/g)
L:開放型水路の長さg:重力加速度【0008】例えば一辺が10mの正方形断面を考えた場合、開放型水路の最長の長さは約20mとなる。したがって、この場合の水の運動の固有周期は、T=9.0秒となり、この場合の波長はλ=126mとなる。したがってこの場合、構造物の幅Wの12.6倍の波長の波に対して消波効果を発揮することになる。
【0009】このように、この多段式透過型消波構造物は、図6,7に示したのもに比べて格段に小さな規模で大きな消波効果を発揮することになる。なお上記の作用はシミュレーション計算により確認されている。
【0010】ところで、この多段式透過型消波構造物は長尺水平堤体10が完全に固定されているため、潮位変動に伴って長尺水平堤体10の没水部深度が変化し、それに伴って[数1]式における開放型水路の長さLが変化し、その結果開放型水路内の水の運動の固有周期が変化して、消波効果が発揮される波の波長が変わってしまうという問題点がある。特に、潮位が下がった場合は、水路16〜18のうち上位のものは没水状態とならないため、Lが小さくなって消波効果を発揮する波の波長が短くなる。したがって、潮位が下がった場合にも潮位が上がっている場合と同等の消波効果を発揮させるためには潮位差の分だけ構造物の幅Wを広くすることが必要になるという問題点がある。
【0011】本発明はこのような問題点の解決をはかろうとするもので、長尺水平堤体すなわち消波構造物の主体部の没水部深さを潮位に応じて調節可能に支持して消波効果を発揮できる波の波長をほぼ一定に保つことができるようにした、透過型消波構造物を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、中空四角柱形状の主体部と、同主体部の波の進入面としての前面部に水深方向に複数段に区分して設けられた複数段の前面開口部と、上記主体部の上面部に前後方向に複数列に区分して設けられるとともに上記複数段の前面開口部にそれぞれ連通して上記主体部の内部に複数段のL字型断面の開放型水路を構成する複数列の上面開口部とをそなえ、上記主体部を、上記上面部を水面上に位置しかつ下面部を水面下に位置するとともに同下面部の下方では水の自由な透過を可能に、かつ潮位の変動に拘わらずほぼ所定の没水深さに保持されるように水中に設置して課題解決の手段としている。
【0013】また、上記複数段のL字型断面の開放型水路を構成すべく、複数枚のL字型断面の板材を互いに上下方向および前後方向に所定の間隔をあけて上記主体部の内部に設けて課題解決の手段としている。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、図面により本発明の一実施形態としての透過型消波構造物について説明すると、図1はその斜視図、図2は図1のA−A矢視断面図、図3はその主体部の支持構造を示す図1のB−B矢視断面図、図4は同支持構造の他の例を示す図1のB−B矢視断面図、図5はその消波性能を示すグラフである。なお、図1〜4中図7〜9と同じ符号はほぼ同一部材ないし同一技術内容を示している。
【0015】この実施形態の透過型消波構造物は、図8,9に示したものと同じ形式のものであって、多段に配設された複数のL字型断面の開放型水路15〜18をそなえている。図1において、符号1は中空四角柱形状の主体部を示しており、この主体部1の前面部(波の進入面)および上面部が、両側部(浮体部)6,6を残して切欠かれるとともに、その切欠き部に、3枚のL字型断面の長尺板体2,3,4が、互いに隣接する長尺板体との間に上下方向および前後方向に間隔sをあけて配設されている。
【0016】最下段の長尺板体4は、主体部1の底部を構成する底板5bおよび背部を構成する背板5aに対して、図2に示すように上方向および前方向にそれぞれ寸法sだけずらされて配設されており(長尺板体2,3についても同様)、このような配設状態を保持すべく各L字型断面の長尺板体2,3,4はそれらの両端部を両側部6,6の各内壁面6a,6aに固定されている。なお主体部1の底板5bおよび背板5aが、図8,9に示したもののL字型断面の長尺板体5に相当する。
【0017】このようにして、主体部1の内部に、波の進入面としての前面部に水深方向に複数段に区分して複数段の前面開口部が形成されるとともに、各前面開口部と、主体部1の上面部に前後方向に複数列に区分して設けられた複数列の各上面開口部とに連通した複数段のL字型断面の開放型水路16, 17, 18が、主体部に構成される。また最上段の長尺板体2の上面にもL字型断面の開放型水路15が形成されている。
【0018】符号2a,3a,4aは長尺板体2,3,4の各垂直背板部を、また符号2b,3b,4bは長尺板体2,3,4の各水平板部をそれぞれ示している。主体部1は後述の支持構造により、下方に水の自由な流通の可能な空間13を有して、海面を貫通するように支持される。
【0019】主体部1の両側部6,6は気密状に形成されており、浮体としての機能を有する。したがって、両側部を浮体部と呼ぶこともある。また、主体部1は、図8,9のものと同様に、その上面部が水面上に位置し下面部が水面下に位置するように、海面に設置される。そしてこの設置時に、各長尺板体2〜4の各底板2b〜4bおよび主体部1の底板5bはいずれもほぼ水平状態に、また各長尺板体2〜4の各背板2a〜4aおよび主体部1の背板5aはいずれもほぼ垂直状態となる。
【0020】主体部1の上述の構成は、図8,9に示したものの長尺水平堤体10と主要部においてほぼ同じであるが、この実施形態では主体部1が以下に述べる構成の支持構造により、海面に支持されるようになっている。
【0021】図3は、潮位の変動に拘わらず主体部1の没水深さをほぼ一定に支持可能な支持構造の一例を示すもので、海底から立設された支持柱7にはラック(歯)8が形成され、主体部1の浮体部6にラック8に噛合するピニオン9が設けられている。そして、主体部1に設けた潮位計(図示せず)の信号に応じてピニオン9を回転させることで主体部1を昇降させて主体部1の没水深さをほぼ一定に保つ調節を行なう構成となっている。なおこの没水深さをほぼ一定に保つ調節を自動化するために、制御回路,電動機,電源等が浮体部6に内蔵されている。符号9aはピニオン9の枢軸を示している。
【0022】図4は、主体部1の支持構造の他の例を示しているものである。なお図4は、主体部1が浮体部6に作用する浮力により所定の没水部深さで浮いた状態を示している。図4において、符号23は海底から立設された中空のシリンダーを示しており、このシリンダー23に、浮体部6に固定された杆体24が嵌入されている。符号25はシリンダー23と支持柱24との間に形成された微小な隙間を示している。
【0023】主体部1は浮体部6に作用する浮力の作用で所定の没水深さに保たれ、ゆっくりした潮位変動による主体部1の上下運動に対しては、隙間25を通ってシリンダー23内に海水が出入りする。しかし波による運動のように短い周期の運動に対しては隙間25を通ったシリンダー23内への海水の出入りがほとんどないため、主体部1の運動は拘束される。このようにして、主体部1は潮位変動に拘わらず所定の没水深さに保たれることになる。
【0024】図5は、この実施形態の透過型消波構造物の波の透過率のシミュレーション計算結果を示すものである。なお、このシミュレーション計算は、主体部1の深度を固定して、高潮位(水没部深さ大)と低潮位(没水部深さ小)との場合を比較して行なったものである。また図5の横軸は進入波の波長を主体部1の幅Wで無次元化した値,縦軸は透過率である。透過率がほとんど0になるのは、波の波長が開放型水路15,16,17,18内の水の運動の固有周期に対応する周期の波の場合である。図5に示した計算結果によれば、透過率を0.5以下とする場合、高潮位のときは主体部1の幅の15倍の波長の波まで消波効果を発揮するのに対し、低潮位の場合は14倍の波長の波となり、消波性能が若干劣化することになる。しかしながら、本実施形態の場合、潮位の変動に拘わらず主体部1の没水深さを一定に保持できる、つまり主体部1を常に高潮位位置に保持することができるため、消波性能の劣化を避けることができる。
【0025】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の透過型消波構造物によれば、長い波長の波に対して、従来より小さい規模の構造で透過波を低減することができ、しかも潮位変動による消波性能の劣化も避けられるという利点が得られ、さらに構造物周辺の流れの透過性も良好で、産業上極めて有用な効果が得られる。
【出願人】 【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
【出願日】 平成8年(1996)7月11日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 義彦 (外1名)
【公開番号】 特開平10−25726
【公開日】 平成10年(1998)1月27日
【出願番号】 特願平8−201145