トップ :: D 繊維 紙 :: D02 糸;糸またはロ−プの機械的な仕上げ;整経またはビ−ム巻き取り

【発明の名称】 撚糸織物の製造方法
【発明者】 【氏名】赤崎 久仁夫
【氏名】高橋 妻木
【課題】高速紡糸の一工程で得られるポリエステル長繊維からなる糸条を用いた場合でもシボ立ちのよい強撚織物を得ることのできる方法を提供する。

【解決手段】微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール以上,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール以上,かつ第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール以上で,熱収縮応力のピーク応力が0.25g/デニール以上,沸騰水収縮率が10%以下の特性を有する一工程高速紡糸法で引き取られたポリエステル長繊維に強撚をかけ,次いで撚り止め熱処理を施して製織し,シボ立てを含む仕上げ加工を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール以上,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール以上,かつ第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール以上で,熱収縮応力のピーク応力が0.25g/デニール以上,沸騰水収縮率が10%以下の特性を有する一工程高速紡糸法で引き取られたポリエステル長繊維からなる糸条に強撚をかけ,次いで撚り止め熱処理を施して,これを経緯糸もしくは経糸または緯糸として用いて製織した後,シボ立てを含む仕上げ加工を行うことを特徴とする撚糸織物の製織方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高速紡糸の一工程法で得られたポリエステル長繊維からなる糸条を用いて,良好な撚糸織物を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来からポリエステル長繊維よりなる糸条に強撚を加えて強撚糸とし,該強撚糸を用いて強撚シボ織物を製造することは良く知られており,そのほとんどは2工程法で得られる延伸糸(以下,「FDY」という。)を強撚したものを用いるシボ織物の製造方法であって,一工程法で得られた糸条を使用し強撚シボ織物を製造しても満足なものが得られていないのが現状である。それは,一工程法で得られた糸条を形成するポリエステル繊維の非晶部の束縛状態がルーズで,その緊張度が低いために強撚をかけても分子鎖の歪は少なく,したがって本質的にトルクが小さくシボ立ちの良い織物が得られないからである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記現状に鑑みてなされたものであり,高速紡糸の一工程法で得られたポリエステル長繊維からなる糸条を用いた場合でも,シボ立ちの良い強撚シボ織物を得ることのできる方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は,上記課題を解決するものであり,微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール以上,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール以上,かつ第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール以上で,熱収縮応力のピーク応力が0.25g/デニール以上,沸騰水収縮率が10%以下の特性を有する一工程高速紡糸法で引き取られたポリエステル長繊維からなる糸条に強撚をかけ,次いで撚り止め熱処理を施して,これを経緯糸もしくは経糸または緯糸として用いて製織した後,シボ立てを含む仕上げ加工を行うことを特徴とする撚糸織物の製織方法を要旨とするものである。
【0005】
【発明の実施の形態】以下,本発明を詳細に説明する。本発明は,一工程の高速紡糸法で引き取られたポリエステル長繊維からなる糸条を使用し撚糸織物を製造するものであるが,本発明に用いるポリエステル長繊維は,ポリエチレンテレフタレート成分を80モル%以上含むポリエステルからなることを要し,95モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0006】本発明にて用いるポリエステル長繊維からなる糸条は,微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール以上,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール以上,かつ第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール以上である必要がある。微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール未満あるいは,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール未満,または第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール未満であると,シボ立ちが悪くなるばかりでなく,ハリ・コシが不足して満足なものが得られなくなる。
【0007】なお,本発明でいう微分ヤング率とは,定速伸長形引張試験機を用いて,試料長30cm, 引張速度30cm/minで測定した図1に示すごとき荷重−伸長曲線の各点の応力を伸度で微分して得たもので,この微分ヤング率(g/デニール)を経軸に,引張応力(g/デニール)を横軸にしてプロットしたものが図2に示すごとき微分ヤング率曲線である。
【0008】微分ヤング率曲線における第1次変曲点Y1点は,図1の通常の荷重−伸長曲線における初期ヤング率を示し,微分ヤング率曲線の第2次変曲点Y2点は,図1の通常の荷重−伸長曲線における弾性限界であるr1 点に相当し, この第2次変曲点Y2点の応力は非晶部の分子鎖の配向レベルの情報を与えるものであり,第2次変曲点Y2のヤング率は,非晶部の分子鎖の束縛緊張レベルによって変化し,束縛緊張レベルの低いものは,第2次変曲点Y2のヤング率が小さく,逆に束縛緊張の高いものはこのヤング率がが大きくなる。また図2の第3次変曲点Y3点は,図1における中間応力値であるr2 点に相当するものであって,このr2 点の応力は延伸張力または延伸倍率を表し,第3次変曲点Y3のヤング率は分子鎖のトータル配向を反映するものである。
【0009】熱収縮応力のピーク応力は,2g/デニール以上であることが必要であり,熱収縮応力のピーク応力が2g/デニール未満であると,仕上げ加工におけるシボ立て時に解撚トルクの発現が弱く,良好なシボが得られない。
【0010】上記の熱収縮応力のピーク応力とは,市販の熱収縮応力測定器を用いて,試料を15cm径の輪とし, 初張力を0.1g/デニールに設定し,昇温速度300℃/60秒のもとで測定を行い,その際発現した最大応力値(g/デニール)を求めたものである。
【0011】沸騰水収縮率は,10%以下である必要があり,沸騰水収縮率が,10%を越えると,シボ立ちが悪くなり,細かな均一性のあるシボが得られなくなるからである。沸騰水収縮率は,2〜6%であるのがより好ましい。すなわち,沸騰水収縮率が10%を越えると,織物の組織点で束縛されている経緯糸が緊張状態となり,潜在トルクの発現が最大限にならず,良好なシボ立てができないからである。
【0012】上記の沸騰水収縮率とは,初荷重1g/デニールでの試料の長さAを測定し,次にフリー状態で沸騰水中で30分間処理し,自然乾燥後,初荷重1g/デニール下での長さBを測定して,次式によって算出される値である。
【0013】
沸騰水収縮率(%)=((A−B)/A)×100本発明に用いるポリエステル長繊維からなる糸条は,ポリエステルを高速紡糸することにより得られるものであるが,単に紡糸速度を上げるだけで所要の糸質性能を備えた糸条が得られるものではなく,引取速度と延伸速度,延伸温度を適性な条件に設定して製造することにより可能となる。例えば,図3に概略を示す溶融紡糸機を用い,ポリエステルを溶融紡糸するに際し,第2ロール4と第1ロール3の速度比を2倍以上とし,第2ロールの温度を150℃以上とするのが好ましい。この場合,第1ロールの速度は2500m/分以下とし,第2ロール4の速度は第1ロール3の速度の2倍以上になるように設定する。第2ロール4と第1ロール3の速度比を2倍以上に設定しても,第1ロールの速度が2500m/分を超えてくると,本発明に使用するような糸質性能を有する糸条を得るのは難しくなり,得ようとすると第2ロール4と第1ロール3の速度比を非常に大きくする必要があり,糸条に毛羽が発生したり,糸切れを多発するようになり,満足な糸条を得ることが難しくなってしまう。
【0014】本発明では,上記の特性を有する高速紡糸法で引き取られたポリエステル長繊維からなる糸条に強撚を掛け,撚り止め熱処理を施して,これを経緯糸もしくは経糸または緯糸として用いて製織した後シボ立てを含む仕上げ加工を行う。
【0015】上記の糸条に付与する撚りは,撚係数8600〜28000の撚りであることが好ましく,通常S撚りを掛けた糸条とZ撚りを掛けた糸条をバランスよく用いる。撚係数Kは,1m当たりの撚数をT,デニールで表した繊度をDとするとき,K=T×D1/2 なる式から求められる値である。撚係数が8600未満であると撚糸織物としての風合いが出にくく,28000を越えると,糸条に毛羽が発生しやすくなったり,撚りビリが発生しやすくなって,製織の操業性が悪くなったり,織物の品位が低下してしまう可能性が大きくなる。
【0016】撚り止め熱処理は,通常80〜100℃のスチームセットにより行う。製織,シボ立てを含む仕上げ加工は,常用の設備を用いて行えばよく,通常シボ立ては仕上げ加工の最初の工程として,ワッシャー等を用いて行い,染色の前に減量加工を行うのも風合いの点から好ましい。
【0017】
【作用】本発明では,微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール以上,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール以上,かつ第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール以上であるごとく一工程法でも高配向のポリエステル糸条で,熱収縮応力のピーク応力が0.25g/デニール以上,沸騰水収縮率が10%以下のごとく,低収縮で収縮応力の大きい糸条を用いるので,シボ立て時のトルク発生が大きく,良好なシボを有する撚糸織物を得ることができる。
【0018】
【実施例】以下,本発明を実施例により具体的に説明する。実施例における織物の評価は次のようにして行った。
【0019】(1)シボ立ち目視観察により,○:シボが均一で深い,△:シボが浅い,×:シボが浅く不均一の3段階にて評価した。
【0020】(2)ハリ・コシ触感により,○:良い,△:やや良い,×:悪いの3段階にて評価した。
【0021】(3)ふくらみ感目視・触感により,○:良い,△:やや良い,×:悪いの3段階にて評価した。
【0022】実施例1〜3,比較例1〜5相対粘度1.38,融点256℃のポリエチレンテレフタレートを用い,図3の溶融紡糸装置にて,第1ローラ3の速度と温度,第2ローラ4の速度と温度及び捲取ロール5の速度を表1のごとくに変更して,8種の75デニール36フィラメントの高配向延伸糸を得た。このときの紡糸条件と高配向延伸糸の糸質の測定結果を表1に示す。
【0023】次に,これらの高配向延伸糸にダブルツイスターにより2500t/m(撚係数21650)の強撚をかけ,真空セット機で85℃×45分間の撚り止め熱処理を施し,それぞれの糸条を経糸及び緯糸に用いて,経糸密度90本/吋,緯糸密度80本/吋の平組織を製織した。得られたそれぞれの生機を,シボ立て(ワッシャー110℃×30分),精錬(液流染色機80℃×20分),プレセット(180℃×40秒),減量(減量率10%,NaOH 40g/リットル),染色(液流染色機130℃×30分,Foron Yellow SE-CTL 2%o.w.f,Rubine SE-CTL 0.2%o.w.f,Dark Blue SE-CTL 0.3%o.w.f),仕上げセット(170℃×30秒)の仕上げ工程を経て,本発明による撚糸織物を得た。
【0024】得られた撚糸織物のシボ立ち,ハリ・コシ,ふくらみ感について目視・触感検査を行い,その結果を併せて表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】表1から明らかなごとく,本発明による実施例1〜3の織物は,シボ立ちが良好で,ハリ・コシがあり,しかもふくらみ感のある織物得られ,満足できる結果を示している。これに対して,微分ヤング率曲線の第1次変曲点Y1のヤング率が90g/デニール未満である糸条を用いた比較例1は,シボ立ち,ハリ・コシ,ふくらみ感に劣るものであり,第2次変曲点Y2のヤング率が40g/デニール未満である糸条を用いた比較例2は,糸条の非晶部の分子鎖の束縛緊張が低く,潜在トルクが弱いためシボ立ちの悪い織物であった。第3次変曲点Y3のヤング率が45g/デニール未満の糸条を用いた比較例3は,シボ立ち,ふくらみ感に劣るものであった。熱収縮応力のピーク応力の0.25g/デニール未満の糸条を用いた比較例4の織物は,シボ立ちが悪く不満足なものであった。沸騰水収縮率が10%を越えている糸条を用いた比較例5は,シボ立ちが不足して不満足な織物であった。
【0027】
【発明の効果】本発明は,2工程法による延伸糸よりも製造コストの安価な高速紡糸の一工程法で得られるポリエステル長繊維からなる糸条を用い,従来から不可能とされていた強撚シボ織物を可能としたものであり,そのコスト合理化と品質の向上安定とに寄与するところ大なる有用な撚糸織物の製造方法である。
【出願人】 【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
【出願日】 平成9年(1997)5月20日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−325033
【公開日】 平成10年(1998)12月8日
【出願番号】 特願平9−129294