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【発明の名称】 加圧スチームによる繊維の延伸方法および延伸装置
【発明者】 【氏名】初鹿野 彰
【氏名】奥屋 孝浩
【氏名】宝迫 芳彦
【氏名】長嶺 定利
【氏名】谷本 篤生
【課題】繊維製造においてスチーム延伸を施す場合において、毛羽・工程トラブルを解消し、繊維の品質、炭素繊維の性能を高く且つ安定的に維持する。

【解決手段】加圧スチームを用いた繊維の延伸方法において、延伸槽内を所定の圧力に維持するとともに、延伸処理に用いる加圧スチームの温度をT1(℃)とし該加圧スチームと同一圧力の飽和水蒸気の温度をT2(℃)としたときにT2<T1<T2+5を満たすように温度制御する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 加圧スチームを用いた繊維の延伸方法において、延伸槽内を所定の圧力に維持し、延伸処理に用いる加圧スチームの温度をT1(℃)とし該加圧スチームと同一圧力の飽和水蒸気の温度をT2(℃)としたときにT2<T1<T2+5を満たすように温度制御することを特徴とする繊維の延伸方法。
【請求項2】 T2<T1<T2+3である請求項1に記載の繊維の加圧スチーム延伸方法。
【請求項3】 前記加圧スチームの温度をモニターしながら該温度に応じてアトマイザーにより前記加圧スチームに水分を供給し、温度制御することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維の延伸方法。
【請求項4】 延伸ローラを備えた延伸槽と、該延伸槽内のスチーム温度を検出する手段と、該延伸槽内の圧力を検出する手段と、該延伸槽内に水分を供給する手段と、前記加圧スチームの温度があらかじめ設定した範囲内となるように前記水分の供給量を制御する手段とを有することを特徴とする加圧スチーム延伸装置。
【請求項5】 前記延伸槽内に水分を供給する手段が、アトマイザーである請求項4に記載の加圧スチーム延伸装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は繊維の延伸方法に関し、特にアクリル繊維、炭素繊維用プレカーサー等の繊維の細繊度化や生産性向上に適する繊維の延伸方法に関する。
【0002】
【従来の技術】繊維製造において加圧スチームを利用した延伸方法は従来から知られている。大気圧下の熱水より高温が得られるとともに、水分の存在が繊維素高分子の可塑化効果を生み、高倍率の延伸が可能となるためである。しかしながら、工業的手法としては未だいくつかの課題を有しており、例えば高圧スチームを使用する際の延伸雰囲気の湿度等スチーム性状の制御が重要な課題として残されている。スチーム性状の調節方法について、特開平5−195313号公報には、減圧後に冷却管で除熱、一旦過度に除熱し蒸気を過飽和状態とし、発生した液滴状の水をバッフル板付きドレン除去槽で除くという技術が開示されている。しかし、この方法では冷却水の温度・流量の変動、あるいはもとのスチーム性状の変動に追随することが困難で、常時安定なスチーム性状に制御するという目的には未だ不十分である。また、スチーム延伸槽とスチーム性状調節設備との間の配管を必要とするため実際の延伸槽にスチームが流入する際、目的とするスチーム性状からずれを生じやすい。すなわち、目的とするスチーム性状より低湿度(スーパーヒート状態)あるいは、過剰に液状の水を含む状態となる可能性がある。
【0003】これらが原因で延伸状態の微変動をきたし、繊維製造や得られる繊維特性の安定性を損なう場合がある。すなわち、延伸性の本質的低下や局所的ムラ、ドレンの噴出等による毛羽・繊度ムラ・工程トラブルを誘発したり、繊維の品質、炭素繊維の性能低下等の一因となるのである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、繊維製造においてスチーム延伸を施す場合において、毛羽・工程トラブルを解消し、繊維の品質、炭素繊維の性能を高く且つ安定的に維持することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題解決に延伸雰囲気のスチーム性状を従来より高精度に制御することが極めて有効であることを見いだし、その手法を含め鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0006】すなわち、本発明の繊維の延伸方法は、加圧スチームを用いた繊維の延伸方法において、延伸槽内を所定の圧力に維持し、延伸処理に用いる加圧スチームの温度をT1(℃)とし該加圧スチームと同一圧力の飽和水蒸気の温度をT2(℃)としたときにT2<T1<T2+5を満たすように温度制御することを特徴とする。
【0007】また、本発明の加圧スチーム延伸装置は、延伸ローラを備えた延伸槽と、該延伸槽内のスチーム温度を検出する手段と、該延伸槽内の圧力を検出する手段と、該延伸槽内に水分を供給する手段と、前記加圧スチームの温度があらかじめ設定した範囲内となるように前記水分の供給量を制御する手段とを有することを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】本発明の繊維の延伸方法の適用できる範囲は、繊維の種類、工程等によって特に限定されないが、特に、細繊度の繊維や高配向の繊維を得ようとする場合、高い紡糸速度を要求される場合に有効であり、特にアクリル繊維、炭素繊維用プレカーサー等の繊維の細繊度化や生産性向上に適する。
【0010】スチーム延伸の前後の工程については、公知の方法を利用することができる。例えば、アクリル繊維を溶液紡糸する場合は、原料重合体としてアクリロニトリルのホモポリマー、あるいはコモノマーを含んだアクリロニトリル系共重合体を、公知の有機又は無機溶剤に溶解した原液を紡糸した後、延伸する際に本発明のスチーム延伸を行うことができる。この場合、紡糸方法はいわゆる湿式、乾湿式、乾式のいずれでも良く、その後の工程で脱溶剤、浴中延伸、油剤付着処理、乾燥等が施される。スチーム延伸は工程中のいかなる段階で実施してもよいが、溶液紡糸の場合は糸条中の溶剤をある程度除去した後、すなわち洗浄後又は浴中延伸後、あるいは乾燥後が望ましい。
【0011】延伸雰囲気のスチーム圧は目的に添うものであれば良く特に限定されない。すなわち延伸する繊維の種類、スチーム延伸前工程での処理状態、あるいは目的とする繊維特性等により適宜調整される。
【0012】本発明においては、延伸雰囲気のスチーム性状を高精度に制御することが重要となる。すなわち、加圧スチームの温度をT1(℃)、該加圧スチームと同一圧力の飽和水蒸気の温度をT2(℃)としたときに、T1<T2+5、好ましくは、T1<T2+3となるようにスチーム温度を制御する。上記関係式を満たすように加圧スチームの温度T1を制御することにより、良好な延伸性を実現でき、得られる繊維の構造や特性に変化が生じることによる毛羽の発生や工程のトラブルを防止することができる。
【0013】また、本発明においては、加圧スチーム温度を飽和水蒸気温度T2より高くし、加圧スチームが液滴状の水を含まないようにスチーム温度を制御する必要がある。すなわち、糸条の延伸槽出入り口からの液滴状水分の噴出が見られない程度にスチーム温度を制御する必要がある。液滴状水分の噴出が見られる状態にあると、局所的な加熱ムラにより延伸糸条の繊度ムラが増大し、繊維の構造の均一性を損なう等の問題が生じるからである。また、スチーム中に水滴状に凝集したドレンが多く存在したり供給蒸気配管や延伸槽の保温が不充分となることによって延伸槽内で加熱される糸条の実質温度が飽和水蒸気温度より低くなってしまう場合があり、延伸性を損なう原因となるからである。
【0014】本発明のスチーム温度制御をより高精度かつ容易に行うにあたっては、延伸槽へのスチーム供給系統にアトマイザー(霧吹き)を設置し、延伸雰囲気の温度をモニターしながら霧状の水分供給を行う方法が有用である。したがって本発明の延伸方法を行う延伸装置は、以下のような構造を有するものが好ましく用いられる。すなわち、延伸ローラを備えた延伸槽と、該延伸槽内のスチーム温度を検出する手段と、該延伸槽内に水分を供給する手段と、前記加圧スチームの温度があらかじめ設定した範囲内となるように前記水分の供給量を制御する手段とを有する延伸装置が好ましく用いられる。ただし、上記延伸装置に限定されるわけではなく、スチーム温度制御が可能で延伸用のロール等を前後に配した加圧可能な延伸槽を有するものであればよい。上記延伸装置における延伸槽内に水分を供給する手段としては、アトマイザーを用い、霧状の水分を供給することが好ましい。スチーム温度を高精度に制御することができるからである。また、アトマイザー以降延伸槽に至る蒸気経路には、万一、過剰の水が供給された場合に備え、バッフル板付きのドレン抜きを設けても良い。
【0015】アトマイザーは、延伸槽へのスチーム導入口に設置するか(図1)、あるいは蒸気配管の延伸槽に極力近い部位に設置する(図2)ことが好ましい。水分の供給過剰に備えアトマイザー直後にドレントラップを設けてもよい。またスチーム温度の検出は延伸槽内とすることが好ましいが、アトマイザーと延伸槽との間の蒸気供給管で検出することもできる。この場合、延伸槽に極力近い箇所で検出することが好ましい。
【0016】アトマイザーからは、加圧スチームの温度をモニターしながらこの温度応じて適切な量の水分が供給される。
【0017】なお、延伸槽のサイズ・構造、シール機構は延伸に供する繊維の種類、延伸雰囲気のスチーム圧、目的とする延伸倍率等により適宜設定される。
【0018】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0019】(実施例1)アクリロニトリル94.5重量%、メタクリル酸1重量%、アクリル酸メチル4.5重量%から成るアクリロニトリル系ポリマーのジメチルアセトアミド溶液を12000ホールのノズルから凝固液中に湿式紡糸し、熱水浴中にて脱溶剤及び5倍に相当する前延伸を行った。次いで油剤付着及び乾燥処理を行った後、ラビリンス構造の圧シールを糸条出入り口に設けたスチーム延伸槽に導き飽和状態で140℃の加圧スチームにて3倍の延伸を行った。スチーム圧(ゲージ圧)は2.7kg/cm2とした。スチーム延伸装置は延伸槽へのスチーム供給口付近にアトマイザーを設置したもの(図2)を使用し、延伸槽内温度が飽和蒸気温度より3℃を越えて高くならないようアトマイザーから水分を供給した。延伸時には延伸槽の糸条出入り口からの水滴噴出は見られなかった。約72時間の試験紡糸において加圧スチーム延伸以降での毛羽の発生頻度、ローラへの巻き付き頻度を評価した結果を表1に示した。
【0020】(比較例1)アトマイザーを備えていないスチーム延伸装置を用い、スチーム温度の調整を配管部分に設置した冷却管で行った。スチーム圧(ゲージ圧)は2.7kg/cm2とした。上記以外は実施例1と同様にして延伸を行ったところ、実施例1と比較して延伸槽内の温度変化幅が大きくなり、スチーム延伸槽の糸条出入り口からは時折水滴の噴出が見られた。約72時間の試験紡糸において加圧スチーム延伸以降での毛羽の発生頻度、ローラへの巻き付き頻度を評価した結果を表1に示した。
【0021】(実施例2)アクリロニトリル96.5重量%、メタクリル酸1重量%、アクリルアミド2.5重量%から成るアクリロニトリル系ポリマーのジメチルアセトアミド溶液を12000ホールのノズルから凝固液中に湿式紡糸し、熱水浴中にて脱溶剤及び5倍に相当する前延伸を行った。次いで油剤付着及び乾燥処理を行った後、ラビリンス構造の圧シールを糸条出入り口に設けたスチーム延伸槽に導き飽和状態で135℃の加圧スチームにて2.7倍の延伸を行った。スチーム圧(ゲージ圧)は2.2kg/cm2とした。実施例1と同様にスチーム延伸装置は延伸槽へのスチーム供給口付近にアトマイザーを設置したものを使用し、延伸槽内温度が飽和蒸気温度より2℃を越えて高くならないようアトマイザーから水分を供給した。延伸時には延伸槽の糸条出入り口からの水滴噴出は見られなかった。約72時間の試験紡糸において加圧スチーム延伸以降での毛羽の発生頻度、ローラーへの巻き付き頻度を評価した結果を表1に示した。
【0022】(比較例2)アトマイザーを備えていないスチーム延伸装置を用い、スチーム温度の調整を、配管部分に設置した冷却管と、水滴を除去するバッフル板付きドレン抜きとにより行った。スチーム圧(ゲージ圧)は2.2kg/cm2とした。上記以外は実施例2と同様にして延伸を行ったところ、実施例2と比較して延伸槽内の温度変化幅は大きくなった。約72時間の試験紡糸において加圧スチーム延伸以降での毛羽の発生頻度、ローラーへの巻き付き頻度を評価した結果を表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、加圧スチームの性状が高精度に制御されるため、毛羽・工程トラブルを防ぎつつ、高品質の繊維、高性能の炭素繊維を得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
【出願日】 平成9年(1997)4月16日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】若林 忠
【公開番号】 特開平10−292240
【公開日】 平成10年(1998)11月4日
【出願番号】 特願平9−99139