トップ :: D 繊維 紙 :: D02 糸;糸またはロ−プの機械的な仕上げ;整経またはビ−ム巻き取り

【発明の名称】 油剤付与方法
【発明者】 【氏名】宮橋 重盛
【氏名】関野 弘志
【課題】作業環境を悪化させずに、油剤を糸条束に均一に付着させることができ、かつ油剤付与後の捲縮付与工程において、堅牢な捲縮を付与することが可能となる油剤付与方法を提供する。

【解決手段】糸条束Yを延伸熱セットした後、油剤を付与し、ドライ押し込み捲縮装置7を用いて、乾燥を行うことなく捲縮を付与する一連の工程における油剤付与工程において、油剤吐出孔14を1つ有し、油剤吐出孔14から噴出した油剤を広角度に拡散させる反射板15を備えた油剤付与装置6を少なくとも2個使用し、油剤をシャワー線速度150 〜2300cm/秒で広角度にシャワー状に噴出させながら、油剤付与装置6と糸条束Yとを接触させることなく、走行する糸条束Yの両面に油剤を付与し、かつドライ押し込み捲縮装置7に導入するまでの糸条束の温度を120 ℃以上の温度に保つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 糸条束を延伸熱セットした後、油剤を付与し、ドライ押し込み捲縮装置を用いて、乾燥を行うことなく捲縮を付与する一連の工程における油剤付与工程において、油剤吐出孔を1つ有し、油剤吐出孔から噴出した油剤を広角度に拡散させる反射板を備えた油剤付与装置を少なくとも2個使用し、油剤をシャワー線速度150 〜2300cm/秒で広角度にシャワー状に噴出させながら、油剤付与装置と糸条束とを接触させることなく、走行する糸条束の両面に油剤を付与し、かつドライ押し込み捲縮装置に導入するまでの糸条束の温度を120 ℃以上の温度に保つことを特徴とする油剤付与方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、短繊維(スフ)を生産するに際して、ドライ押し込み捲縮装置を用いて捲縮を付与する前の糸条束に効率よく仕上げ油剤を付与する油剤付与方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】スフの生産においては、延伸した糸条束に油剤を付与し、引続きドライ捲縮装置で捲縮を付与した後、糸条束をカットしてスフとしているが、カットされる前の糸条束に油剤を付与する方法としては、ローラ式給油装置、噴霧式給油装置を用いて付与する方法や油剤浴槽に糸条を浸漬させる方法等がある。
【0003】しかしながら、油剤浴槽に糸条束を浸漬させる方法では、浴槽の油剤が高温の糸条束によって加熱され、油剤の濃度を管理することが困難であるという問題がある。また、ローラ式給油装置を用いて油剤を付与する方法は、表面が多孔物質(例えばウレタンフォーム)で被覆されたローラを用い、このローラの一部を油剤に浸してローラ表面に油膜層をつくり、このローラに糸条束を接触させて油剤を付与する方法であるが、使用経時とともにスカムの発生により、多孔物質の油剤浸透率が悪化し、油剤の付着量をコントロールすることが困難になるという問題があった。
【0004】さらに、噴霧式給油装置を用いた方法においては、噴霧式給油装置は多数の微細な吐出孔から高圧で油剤を霧状に噴出させるものであるため、必要以上の油剤が霧状となって周囲に拡散し、作業環境が著しく悪化するとともに、糸条束のデニール数が大きくなると、内部にまで油剤が均一に付与されにくくなり、付着量のバラツキが生じるという問題があった。
【0005】このような問題点を解決するものとして、特開平5−163924号公報には、油剤吐出孔を有する油剤付与口金を少なくとも2個使用し、この口金の表面に糸条束を接触させながら走行させて、糸条束の両面に油剤を付与する方法が提案されている。糸条束に堅牢な捲縮を付与するには、ドライ押し込み捲縮装置を用いて捲縮を付与する前の工程において、糸条束は延伸熱セット後の温度をある程度保持していることが必要であるが、上記した方法では、糸条束は口金の表面に接触するため、温度が大きく低下し、堅牢な捲縮を付与することができなくなるという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述した問題点を解決し、作業環境を悪化させずに、油剤を糸条束に均一に付着させることができ、捲縮付与工程において堅牢な捲縮を付与することができる油剤付与方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、糸条束を延伸熱セットした後、油剤を付与し、ドライ押し込み捲縮装置を用いて、乾燥を行うことなく捲縮を付与する一連の工程における油剤付与工程において、油剤吐出孔を1つ有し、油剤吐出孔から噴出した油剤を広角度に拡散させる反射板を備えた油剤付与装置を少なくとも2個使用し、油剤をシャワー線速度150 〜2300cm/秒で広角度にシャワー状に噴出させながら、油剤付与装置と糸条束とを接触させることなく、走行する糸条束の両面に油剤を付与し、かつドライ押し込み捲縮装置に導入するまでの糸条束の温度を120 ℃以上の温度に保つことを特徴とする油剤付与方法を要旨とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の油剤付与方法の一実施態様を示す概略工程図、図2は、本発明で用いる油剤付与装置の一実施態様を示す平面図、図3は、油剤付与装置より糸条束に油剤を広角度でシャワー状に噴出させて付与する状態の一実施態様を示す説明図である。
【0009】まず、図1に示すように、糸条束Yは、ヒートドラム1で延伸熱セットされ、次に油剤付与装置で油剤を付与された後、ドライ押し込み捲縮装置7で乾燥を行うことなく捲縮が付与される。そして、このヒートドラム1とドライ押し込み捲縮装置7の間の油剤を付与する工程において、油剤付与装置6Aと6Bを走行する糸条束Yに非接触となるように設ける。
【0010】糸条束Yは、4A、4Bの固定ローラ間の張力調整ローラ5によって張力を制御されながら連続走行しており、ヒートドラム1で延伸熱セットされた後、まず、ヒートドラム1と固定ローラ2間に設けられた油剤付与装置6Aから油剤が広角度でシャワー状に噴射されて、糸条束Yの片面に油剤が付与される。次いで、糸条Yは、固定ローラ2を通過後、固定ローラ2と固定ローラ3の間に設けられた油剤付与装置6Bから油剤が広角度でシャワー状に噴射されて、糸条束Yの他方の面に油剤が付与される。
【0011】その後、糸条束Yは、4A、4Bの固定ローラ、張力調整ローラ5を経て、ドライ押し込み捲縮装置7に供給され、ここで乾燥を行うことなく、捲縮が付与される。また、油剤付与装置6Aと6Bから噴出される油剤は、油剤浴8からポンプ9により油剤供給配管10を経由して油剤付与装置6A、6Bに供給される。
【0012】本発明は、油剤付与装置を少なくとも2個使用して、糸条束に油剤を付与するものであり、油剤付与装置から油剤を広角度でシャワー状に噴射して、糸条束の片面ずつに油剤を付与し、両面に良好に油剤を付与するものであるが、油剤付与装置を2個用いて糸条束に油剤を付与しても、付着量が不十分の場合には、必要に応じて油剤付与装置を3個以上用いて油剤を付与する。
【0013】そして、本発明においては、このような油剤付与装置を用いて油剤を付与した後、ドライ押し込み捲縮装置に導入するまでの糸条束の温度を120 ℃以上の温度に保つことが必要である。すなわち、糸条束に付与する油剤は通常、水エマルジョン油剤であるが、油剤付与後、ドライ押し込み捲縮装置に導入するまでの糸条束の温度が120 ℃未満であると、付与された油剤の水分が十分に蒸発しないため、ドライ押し込み捲縮装置において付与する捲縮の堅牢性が低下する。これを防ぐには糸条束を乾燥する工程が必要となり、コストアップとなる、好ましくない。糸条束の温度の上限は特に限定されるものではないが、あまり高温になると、糸条束の単糸同士が融着し、糸条束の柔軟性が劣るようになるため、160 ℃程度とすることが好ましい。
【0014】糸条束の温度を120 ℃以上の温度に保つには、延伸熱セットを120 ℃以上の温度で行うことが好ましく、延伸熱セット時の糸条束の温度が120 ℃以上であっても、油剤付与後の糸条束の温度が120 ℃未満になる場合は、加熱ローラや熱処理ヒータ等を通過させて、ドライ押し込み捲縮装置に導入するまでの糸条束の温度を120 ℃以上に保つようにする。
【0015】図1に示す工程で油剤の付与を行う場合には、ヒートドラム1での延伸熱セットを170 〜250 ℃程度で行い、固定ローラ2〜4、張力調整ローラ5の表面温度を120 〜140 ℃程度とすることが好ましい。
【0016】次に、本発明で使用する油剤付与装置について説明する。油剤付与装置6は、油剤誘導孔13と1つの油剤吐出孔14、反射板15を有するものであり、油剤浴8からの油剤を油剤誘導孔13に誘導し、油剤誘導孔13に連通した油剤吐出孔14より、この油剤を噴出させるものである。そして、反射板15は、油剤吐出孔14から油剤を広角度に拡散させるものであり、油剤は油剤吐出孔14より反射板15に向けて噴出され、これによって油剤が広角度でシャワー状に拡散して糸条束Yに付与される。
【0017】本発明においては、油剤付与装置の油剤吐出孔から油剤をシャワー線速度150〜2300cm/秒で広角度でシャワー状に噴出させることが必要である。シャワー線速度が150 cm/秒未満であると、油剤が広角度でシャワー状に噴出しなくなり、油剤が糸条束の内部まで均一、かつ十分に付与されず、油剤の付着量にバラツキが生じる。一方、2300cm/秒を超えると、油剤が反射板に勢いよくぶつかるとともに、糸条束の表面に付与される油剤も飛散し、均一に油剤が付与されず、付着効率や周辺の作業環境も悪化する。
【0018】なお、シャワー線速度の調節は、油剤吐出量、油剤吐出孔の断面積を変更することによって行う。
【0019】そして、油剤吐出孔14の直径は、0.1 〜1.5 mm程度、油剤吐出量を50〜300ml/分程度とすることが好ましい。直径が0.1 mm未満では、油剤に含まれる不純物などによって油剤吐出孔14が詰まりやすくなり、油剤が十分に噴出されず、糸条束に均一、かつ十分に油剤が付与されなくなりやすい。一方、直径が1.5mmを超えると、油剤吐出孔14の孔径が大きくなってシャワー線速度が低下し、油剤吐出孔14から出る油剤の流量にバラツキが生じ、広角度でシャワー状に噴射させることが困難となり、糸条に均一に油剤を付与しにくくなる。油剤吐出孔14の形状は、油剤が良好に吐出されるものであれば特に丸型に限定されるものではなく、偏平及び三角、四角等の多角形でもよい。
【0020】また、反射板15で油剤を広角度でシャワー状に噴出させるには、反射板15の傾斜角度θA を95〜160 度にすることが好ましい。95度未満では、反射板で反射される油剤の広がる角度が小さくなり、広角度のシャワー状となりにくく、160 度を超えると、反射板で反射される油剤の広がる角度が大きくなりすぎ、良好なシャワー状に噴出させにくくなり、両方の場合とも糸条束全体に油剤を均一に付与しにくくなる。
【0021】なお、油剤付与装置で油剤を広角度でシャワー状に噴出させる角度(図3においてはθB )については、反射板15の傾斜角度θA やシャワー線速度、油剤付与装置と糸条束の距離との関係で適宜最適な値とすればよいが、30〜90度程度とすることが好ましい。
【0022】また、油剤付与装置と糸条束との距離は5〜20cmとすることが好ましく、糸条束の走行速度は、70〜 250m/分とすることが好ましく、本発明の油剤付与方法を適用する糸条束としては、10〜150 万デニール程度のものが好ましい。さらに、油剤付与装置の材質も、特に限定されるものではないが、錆の発生を防ぐことができるセラミック、ステンレス等とすることが好ましい。
【0023】
【実施例】次に、本発明を実施例を用いて具体的に説明する。なお、実施例における特性値等は次のようにして求めた。
(1) シャワー線速度シャワー線速度(cm/秒)=Q÷60÷dQ:油剤の吐出量(ml/分)d:油剤吐出孔面積 (cm2)(2) 油剤付着効率油剤付着効率(%)=油剤付着量の平均(重量%)÷理論付着量(重量%)×100油剤付着量:得られた糸条束(長さ18cm)を幅方向に10等分し、それぞれについて、試料の重量(w1 )を秤量した後、エタノール10mlで油剤を抽出し、乾燥後の試料の重量(w2 )を測定し、油剤付着量(重量%)=〔(w1 −w2)/w2 〕× 100 で算出し、平均値をもとめ、併せて最大、最小、標準偏差を求めた。
理論付着量:次の式で算出した。理論付着量(重量%)=〔油剤の吐出量(ml/分) ×60×油剤付与装置の個数×油剤比重(g/ml)×10-3×油剤濃度(重量%)÷ 100/生産量(kg/時) 〕×100なお、生産量(kg/時) =〔得られた糸条束の総デニール数(d)×延伸速度(m/分)×60×10-3〕/9000(3) 捲縮弾性率JIS-1015-7-12-3の測定方法に従って求めた。
(4) 付着水分率得られた糸条束をカットしたスフ5gをとり、その質量を測り、乾燥機で 100℃、30分間乾燥し、乾燥後の試料の質量を測定する。次の式により算出し、試験回数2回の平均値で表した。
W :試料の採集時の質量(g)
1 :試料の乾燥後の質量(g)
付着水分率(%)=(W−W1 )/W1 ×100【0024】実施例1〜2、比較例1〜2極限粘度〔η〕(フェノール、四塩化エタン等重量混合液を溶媒とし、20℃で測定。)0.68のポリエチレンテレフタレートを紡糸口金(孔数 350)より、吐出量 238g/分、紡糸温度 285℃、紡糸速度1100m/分で溶融紡糸し、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を引き揃えて、トウ状の未延伸糸束とし、供給ローラ(70℃)と延伸ローラ(90℃)との間で、延伸速度120 m/分とし、3.7 倍に延伸し、繊度が70万デニールの延伸糸束とした。次に、図1に示すような工程に従い、引取速度120 m/分として糸条束を走行させ、ヒートドラム1で180 ℃で熱処理した後、この糸条束に油剤を付与した。その際、図2に示す形状の油剤付与装置6A、6Bを2個用い、油剤付着量が 0.1重量%となるように、温度20℃のノニオン系水エマルジョンの仕上げ油剤(油剤濃度:5重量%、油剤比重:1.0 g/ml)を付与した。油剤付与装置6の反射板の角度θは115 度であった。このとき、油剤付与装置の油剤吐出孔径、油剤吐出孔から噴出させる油剤の吐出量、シャワー線速度を表1に示すように種々変更した。そして、固定ローラ2〜4、張力調整ローラ5の温度を 130℃とし、これらのローラを通過させた後、糸条束をドライ押し込み捲縮装置7に導入した。また、糸条束の温度は、固定ローラ4を通過後、ドライ押し込み捲縮装置7に導入されるまでの位置で非接触式の温度計(TASCO社製THI−500)で測定したところ、125 ℃であった。この後、ドライ押し込み捲縮装置7で捲縮を付与し、冷却コンベアで冷却し、糸条束を所定の繊維長にカットして短繊維を得た。得られた短繊維の油剤付着量の平均値、最大値、最小値及び標準偏差、油剤付着効率及び捲縮弾性率、付着水分率を表1に示す。
【0025】比較例3油剤付与装置6A、6Bに代えて噴霧式給油装置を用いて、噴霧式給油装置から油剤を320 ml/分で噴霧した以外は実施例1と同様にして油剤を付与し、短繊維を得た。得られた短繊維の油剤付着量の平均値、最大値、最小値及び標準偏差、油剤付着効率及び捲縮弾性率、付着水分率を表1に示す。
【0026】比較例4ヒートドラム1の温度を130 ℃とし、固定ローラ2〜4、張力調整ローラ5の温度を 100℃としたため、ドライ押し込み捲縮装置7に導入される前の糸条束の温度が87℃であった以外は、実施例1と同様に行った。得られた短繊維の油剤付着量の平均値、最大値、最小値及び標準偏差、油剤付着効率及び捲縮弾性率、付着水分率を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】表1より明らかなように、実施例1〜2では、付着効率よく、油剤を糸条束全体に均一に付与することができ、ドライ押し込み捲縮装置で堅牢な捲縮を付与することがきた。一方、比較例1では、油剤吐出孔から噴出させる油剤のシャワー線速度が小さすぎたため、油剤が広角度でシャワー状に噴出しなくなり、油剤が糸条束の内部まで均一に付与されず、付着量のバラツキが大きかった。比較例2では、油剤吐出孔から噴出させる油剤のシャワー線速度が大きすぎたため、油剤が反射板や糸条束の表面に当たって飛散し、付着量のバラツキが大きく、付着効率も悪かった。比較例3では、噴霧式給油装置を用いたため、糸条束の内部にまで均一に付与されず、付着量のバラツキが大きく、油剤付着効率が悪く、作業環境も悪化した。比較例4では、ドライ押し込み捲縮装置に導入するまでの糸条束の温度が低すぎたため、得られた糸条束の付着水分率が高くなり、捲縮弾性率が低いものとなった。
【0029】
【発明の効果】本発明の油剤付与方法によると、作業環境を悪化させずに、付着効率よく油剤を糸条束全体に均一に付与することができ、油剤付与後の捲縮付与工程において、堅牢な捲縮を付与することが可能となる。
【出願人】 【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
【出願日】 平成9年(1997)3月6日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−251934
【公開日】 平成10年(1998)9月22日
【出願番号】 特願平9−70562