トップ :: D 繊維 紙 :: D02 糸;糸またはロ−プの機械的な仕上げ;整経またはビ−ム巻き取り

【発明の名称】 ポリエステル複合繊維
【発明者】 【氏名】近藤 義和
【氏名】西田 武司
【氏名】田中 松美
【課題】ゆたかなふくらみと適度なハリ、コシ感を有する極めてシルクフィラメント使いの布帛に似た風合いを発現するのに適したニューシルキー調ランダム潜在捲縮糸。

【解決手段】収縮率の異なる2種類のポリエステル成分からなり繊維軸方向に連続した多層積層構造を有するマルチフィラメントで、沸水処理による繊維の全沸収値が20〜40%で、直線収縮率が高々20%であり、且つ繊維の全沸収値率に対する捲縮収縮率の割合が50〜90%であるランダムな潜在収縮性と潜在捲縮性をし、ひきしまったフクラミ感と、良好な表面タッチを有するポリエステル複合繊維。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 収縮率の異なる2種類のポリエステル成分からなり、繊維軸方向に連続した多層積層構造を有するマルチフィラメントで、沸水処理による繊維の全沸収率が20〜40%で、直線収縮率が高々20%であり、且つ繊維の全沸収率に対する捲縮収縮率の割合が50〜90%であるポリエステル複合繊維。
【請求項2】 収縮率のより高い成分(A)と収縮率のより低い成分(B)の比率がA/B=1/1〜2.5/1(重量比)である請求項1に記載のポリエステル複合繊維。
【請求項3】 繊維の沸水処理後の捲縮数の変動率が200%以上である請求項1〜2のいずれか一に記載のポリエステル複合繊維。
【請求項4】 乾熱処理後の捲縮収縮率が40%以上である請求項1〜3のいずれか一に記載の繊維。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高級感のある衣料素材の製造に適した複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】天然繊維、例えばウール、シルク、綿などは、合成繊維に比較して個々の単繊維の繊維長、繊度、形状、クリンプ等の構造上或いは物性上のバラツキを有し、それが布帛となったときのフクラミや光沢感、或いは表面タッチの差となって天然繊維独特の特徴を発現する。このような構造、物性のバラツキが、合成繊維製品との大きな相違点であり存在感となっている。
【0003】合成繊維においても、合繊独特のタッチや外観を改善し天然繊維の特徴を発現させるために、各種の提案がなされてきた。例えば、収縮率の異なる2本以上の糸を混繊する異収縮混繊糸技術や仮撚加工糸を使う等、各種の手法が試みられている。最近では、更に高度、複合化して異繊(伸)度の複数の繊維の混繊糸を仮撚り加工した複合加工糸や、共重合ポリマー改質による高度の収縮繊維を利用した異収縮混繊糸、大きなループを形成する自己伸長糸混繊等、他の技術との複合により得られる布帛の感性を益々天然繊維に近づける努力がなされる一方、天然繊維にはない新しい感性を目的とした布帛の開発が試みられている。しかし、かかる加工法の場合は、得られる織編物にフクラミを持たせる事による布帛の改良が中心であり、本発明のごとく、引き締まったフクラミ感とソフトな表面タッチに優れ、且つ微妙な表面の光沢を有する極めて高級感のあるシルクフィラメント織物調の素材は得られていない。
【0004】シルクフィラメント織物の優れた風合い、特に過度のフクラミがなく適度なフクラミを感じさせる「ひきしまったフクラミ感」は、シルクの持つ独特の構造とその特徴を極めて有効に生かした加工方法により発現されるものである。即ち、シルクはその一本の糸の中に三角形をした二本のフィブロイン繊維をセリシンのマトリックスにより包み込んだ複合繊維構造を有しており、布帛になった後、セリシンをアルカリで溶解除去する事により、二本のフィブロイン繊維が生まれる。その際に、セリシンが除去されただけの空隙と発現した二本のフィブロイン繊維は蚕より産出される際に微妙なひねりを受けており、そのひねりが発現する為に、各々の部分で微妙なクリンプ、或いはウェーブを発生する。
【0005】こうして、シルク織物は空隙の為に、軽く且つ各々の繊維の有する微妙なクリンプ、或いはウェーブの為に優れたフクラミを持つ。又、繊維表面も一本一本の繊維の形状が異なる為に、微妙な光沢やタッチを持つ。
【0006】これまで合成繊維、特にポリエステルフィラメントでは、異収縮混繊糸技術をはじめあらゆる努力が成され、かなりシルク素材に近づいたが、今なお明らかに差があるのは、上述したシルクの物性、構造を実現出来ない事が第一の理由である。最近の提案として、例えば特開平3−220331号公報及び特開平2−221414号公報や特開平2−221415号公報で異捲縮複合繊維が提案されているが、前2者は異収縮混繊糸布帛のこなれの不十分さの改善を目的とするものであり、後者は単にサイドバイサイド型複合繊維の捲縮発現性の改善を目的としたものであり、本発明の目的であるシルクの特徴を高度に再現したシルクライクの布帛を得ようとする発想も示されておらず、まして本発明と同様のものは到底得られるものではない。
【0007】又、特公昭63−30421号公報には、捲縮率の異なるポリエステル系フィラメントが混繊された捲縮糸を製造する際、ポリマー成分間の固有粘度差のあるサイド・バイ・サイド型複合繊維を形成させ、互いの複合比が異なる実質的に同一繊度のフィラメントを加熱流体押込ノズルにより混繊、捲縮加工する異捲縮混繊糸が開示されている。しかしながら、この方法では、別々に得られた糸を混繊することによる製造工程の複雑さ或いは煩雑さが生じるばかりか、この方法で得られたフィラメントの捲縮は、波形の変化や巾が小さく、織編物とした場合、本発明が目標としている十分なフクラミ感を与えることができない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の合成繊維布帛では到底発現させる事ができなかった真にシルクフィラメント調織物の特徴を発現する事の出来る、即ち、優れたフクラミ感と微妙な表面感、表面タッチを発現するランダムな潜在収縮性と潜在捲縮性を有するポリエステル複合繊維を工業的に安価に且つ安定して供給する事を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討を行なった結果、本発明を完成した。まず、(1)良好な捲縮を発現させるために、収縮性の大きいポリエステル(A成分)と収縮性の小さいポリエステル(B成分)を多層積層型に接合させ、A成分とB成分の収縮特性の違いを利用して捲縮性能を発現させる。しかも、各フィラメントにおけるA成分とB成分の複合比率と断面における複合形態が不規則に異なるフィラメントの集合体とすることにより、捲縮をランダム化して従来にないフクラミ感と充実感を付与することができた。
【0010】次に、(2)多層積層型のフィラメントの熱収縮特性を検討し、良好な捲縮特性を発現させるための熱収縮特性を明確化した。
【0011】更に、(3)高収縮成分を低収縮成分と同率か、或いは多く設定することにより、潜在捲縮発現力の改善が可能となり、従って織編物の加工段階での収縮や捲縮の発現を大きく出来、結果的に布帛のフクラミ感、伸縮性、毛羽感、自然な表面感の発現を改良させる事が出来た。
【0012】即ち、本発明は、収縮率の異なる2種類のポリエステル成分からなり繊維軸方向に連続した多層積層構造を有するマルチフィラメントで、沸水処理による繊維の全沸収率が20〜40%で、直線収縮率が高々20%であり、且つ繊維の全沸収率に対する捲縮収縮率の割合が50%以上であるポリエステル複合繊維である。
【0013】又、本発明の第二は、第一の発明において、高収縮ポリエステル成分と低収縮ポリエステル成分とが1/1〜2.5/1(重量比)とよりなる事を特徴とするポリエステル複合繊維である。
【0014】又、本発明の第三は、第一、二の発明において、繊維の沸水処理後の捲縮数の変動率が200%以上である事を特徴とするポリエステル複合繊維である。
【0015】又、本発明の第四は、第一〜三の発明において、乾熱処理後の捲縮収縮率が40%以上である事を特徴とするポリエステル複合繊維である。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明で言う複合潜在捲縮糸とは、単一フィラメントの横断面において熱収縮挙動の異なるA成分とB成分とよりなる多層積層構造を有するフィラメントを言う。多層積層構造を有するフィラメントの任意の横断面における接合形態は、該フィラメントの繊維軸方向に沿って一様に連続していることが好ましいが、その一部に非連続構造を含んでいてもよい。一様に連続した構造を有する糸は、紡糸、延伸操業性の安定化という点から好ましい。ここで、接合形態とは、A成分とB成分の貼り合わせの形態を言う。又、多層構造とは、A成分とB成分との接合形態を取る少なくとも2層以上、好ましくは2〜10層、更に好ましくは3〜7層の層状構造を言う。その一例を図1に示す。
【0017】潜在捲縮糸の断面形状は、A成分とB成分の接合形態を形成でき、かつ維持することができ、本発明の目的とする捲縮性能を発現できるものであれば、丸断面、三角断面、Y断面、U断面、偏平断面等のいずれを用いてもよく、用途、目的に応じて使い分ける事ができる。特に三角断面、Y断面、U断面、偏平断面等の異形断面のものが繊維の捲縮構造のランダム性や布帛の風合いの点で好ましい。
【0018】この中でも、異形度(周囲長/直径)は3.2以上のものが好ましく、更に好ましくは3.5〜6.0、より好ましくは3.7〜4.5である。このような異形度の断面繊維とすることにより、異形断面と多層積層構造の効果が相乗的に作用し、各フィラメント間の収縮性・捲縮性のランダムさをより一層増加させ、且つ繊維・繊維間のフクラミを増加させ、摩擦力を低減させる。その事により、布帛のソフトさ、フクラミ感、ハリ、コシの改善が出来、且つ本発明独自の緻密さを感じる充実感と表面のソフトなタッチを表現するのに好ましいものである。
【0019】全沸収率(SH1 )と直線収縮率(SH2 )は、以下に示す方法にて求める。又、捲縮による収縮率(以下捲縮収縮率(SH3 )と記す)は全沸収率と直線収縮率との差で表す。
【0020】延伸後の繊維(マルチフィラメント)を一定長(例えば30cm)計り取り、その繊維上にて一定間隔(例えば20cm:L0 )の所に印を付ける。次いで、繊維同士が絡み合わないように十分注意し、98℃の熱水中に15分間浸漬し処理する。処理後、繊維が伸びないように注意しながら熱水より取り出し、テッシュペーパー等にて繊維表面の水を切り、室内に放置後十分風乾する。風乾後、この繊維の端に0.5mg/dの荷重を掛けて垂直に垂らし、印の間隔の処理後の長さ(L1 )を測定する。更に加重を0.5g/dに増やして長さ(L2 )を測定する。
【0021】(全沸収率)
【数1】SH1 =(L0 −L1 )/L0 ×100(%)
【0022】(直線収縮率)
【数2】SH2 =(L0 −L2 )/L0 ×100(%)
【0023】(捲縮収縮率)
【数3】SH3 =SH1 −SH2 (%)
【0024】本発明では、全沸収率が20〜40%である必要がある。全沸収率が20%未満では、本発明で目的とするランダムな捲縮やひきしまったフクラミの発現に乏しく、且つ表面タッチが極めてソフトな布帛を得る事は出来ない。又、40%を超えると表面への毛羽感はあるがソフトさの点で幾分不十分になり、好ましくはない。
【0025】従来の異収縮混繊糸は、高収縮繊維と低収縮繊維とを混合して使用し、高収縮繊維を十分に収縮させる事により、布帛にフクラミ感を持たせようとするものであるが、本発明は繊維の直線収縮率は高々20%である。従来の異収縮混繊糸技術では、この程度の収縮率では十分なフクラミ感を持たせる事は不可能で、むしろ布帛が堅くなる等の欠点が生じる事があったが、本発明は、単なる直線収縮によらずランダムな収縮差と、繊維の捲縮により横方向の糸のフクラミにより布帛全体のフクラミ感を発現されるものである為に、直線収縮率は高々20%、好ましくは10〜20%である。
【0026】本発明での繊維の捲縮性は繊維の構造と収縮率に関係するが、収縮率の低いところでは、捲縮率も小さく収縮率の増加と共にクリンプ数も増加する傾向にある。しかし、収縮率が15%以上ではクリンプ数もほぼ飽和に達する。それ以上の収縮率を持たせても従来の異収縮混繊の効果はあるが、収縮率を抑えて、捲縮による繊維の横方向のフクラミを持たせる効果は余り改善しない。
【0027】本発明の特徴は繊維を構成する各フィラメントにおいて、2種のポリマーの接合状態、接合比率が一本一本異なり、従ってフィラメント一本毎に繊維の状態や物性、例えば各フィラメントの直線収縮率、捲縮状態、及び一本の繊維でも繊維軸方向に繊維の捲縮状態(クリンプ、ウェーブ)が異なる事である。即ち、目標とするシルクの精練後の状態に極めて似たものとなる。こうした極めてランダムな捲縮構造や収縮率を有する繊維、布帛はこれまで得られていない事は無論であるが、提案さえもなされていない。
【0028】本発明の繊維の各フィラメントでの収縮率の変動は、繊維を構成する2種類のポリマーの接合比率と紡糸・延伸条件によって決定される。即ち、低収縮成分の比率が大きいフィラメントでは収縮率が低く、逆に高収縮成分の比率が大きいフィラメントでは収縮率が高くなる。こうしたどちらか一方のポリマー構成比率が大きいフィラメントでは、フィラメントに発生する捲縮が少なくなる。従って、低収縮のフィラメントでは収縮率も低く、且つ捲縮数も少ない為に布帛にした場合、布帛の表面に穏やかなクリンプを持ったループとして発現する。又、前述したように、マルチフィラメント全体としては、高収縮成分の比率を多く設定している為に、表面にでるループが比較的少なくなり表面タッチが極めてソフトとなる。このループはそのままでも表面タッチの改善に大いに有用であるが、布帛表面のサンディング加工によりループを切断してやれば更に好ましいソフトな風合いに仕上げることができる。
【0029】本発明の目的とする布帛を得る為には、単なる繊維の繊維軸方向の収縮のみでなく、捲縮による繊維の横方向のフクラミも必要であり、その為には全収縮率に占める捲縮収縮率の割合が少なくとも20%、好ましくは30〜90%、更に好ましくは40〜80%ある事が好ましい。20%未満では、繊維の横方向(布帛の厚み方向)のフクラミが不十分となり、ハリ、腰、フクラミにおいて十分ではない。ここでいう全収縮率、直線収縮率は先に定義した通りであるが、前者は捲縮による収縮を含めた繊維の収縮の程度を示し、後者は繊維の捲縮による縮みを除去した純粋の繊維の収縮率を示すものである。捲縮収縮においては、捲縮力も大事なファクターとなるが、本発明の特徴を顕著に発現させる為には、捲縮力は大きい程良いが、通常1mg/d、好ましくは5mg/d、更に好ましくは10mg/dである。
【0030】本発明の繊維は、高収縮成分と低収縮成分よりなる複合繊維であり、沸水処理等加熱処理により、繊維の一本一本に捲縮が発現する。目的とする風合いを得る為には、捲縮数が通常5〜100ケ/インチ、好ましくは10〜70ケ/インチ、更に好ましくは15〜50ケ/インチである。
【0031】沸水処理後の各フィラメント間の捲縮数のバラツキとして、変動率が200%以上である事が好ましい。この事により、布帛になってからも捲縮の少ないフィラメントと捲縮の多いフィラメントとの隙間に空隙が出来る様に、繊維・繊維間に微小な自然の空隙が多数形成され、シルクに極めて近いフクラミ感や、表面感を生み出す。
【0032】なお、変動率は一本一本のフィラメントの捲縮率の値の最小値をCm 、最大値をCM として次式によって求める。
【0033】
【数4】(変動率)=CM /Cm ×100(%)
【0034】本発明で使用する高収縮ポリエステル成分(以下A成分と略称する)は、熱収縮特性の大きなポリエステルであり、通常変性ポリエステルを使用する。例えばテレフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分からなる芳香族ポリエステルを公知の方法で製造する際に、第三成分として一般式【0035】
【化1】(式中、Rは水素原子或いはメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、t−ブチル基等のアルキル基を記す)で表されるイソフタル酸或いはその脂肪族エステル類、及び/又は一般式【0036】
【化2】(式中、Xは水素原子或いはメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、t−ブチル基等のアルキル基を、l、mは整数を、Bは水素原子又はメチル基を記す)で表されるビスフェノールA骨格を有する化合物、及び/又は一般式【0037】
【化3】(式中、Yは水素原子或いはメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、t−ブチル基等のアルキル基を、l、mは整数を、Bは水素原子又はメチル基を記す)で表されるビスフェノールS骨格を有する化合物を共重合せしめて得られる。
【0038】A成分に共重合せしめる第三成分の添加配合量は通常3〜20モル%が好ましく、更に好ましくは5〜15モル%である。第三成分の添加配合量がこの範囲にあると、十分な収縮性能が得られ、十分な嵩高性、フクラミ感が発現できるので好ましい。特に、化1の構造を有する化合物にこれと同量かやや多くの化2の構造を有する化合物あるいは化3の構造を有する化合物を共重合する変性ポリエステルを使う事により、ポリマーのTg(ガラス転移点)も上がり、繊維自体の耐熱性や染色堅牢度、耐光堅牢度も改善でき、より好ましい。ポリマーのTgが上がる事により、繊維の製造段階において、繊維の直線収縮率を前述のように従来の異収縮混繊糸よりも低く抑え、熱的な安定性を上げている為に、加工段階での十分な熱セットを行う事が出来、しかも布帛の最終加工段階では160〜200℃、好ましくは170〜190℃の乾熱処理により良好な捲縮を発現させる事が出来る。
【0039】本発明で使用する低収縮ポリエステル成分(以下B成分と略称する)は、A成分で使用するポリエステル成分より、沸収率が低いものであり、従って変性率も小さい。例えば、テレフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分からなる芳香族ポリエステルを公知の方法で製造する際、第三成分を添加することなくそのまま重合するか、或いはA成分に共重合させる化合物を、A成分における添加配合量よりも通常3モル%以上少なく、好ましくは5〜10モル%少なくした共重合ポリエステルとする。
【0040】A成分、B成分共に第三成分を共重合させたポリエステルを使用する場合、A成分とB成分の添加配合量の差が3モル%より小さいと、A成分、B成分の収縮特性の違いによる十分な収縮差、捲縮率の差が得られず、目的とする性能、風合いが十分に発現できない。
【0041】かかるA成分、B成分のポリエステルの製造時或いは紡糸時に、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制電剤及び有機アミン、有機カルボン酸アミドなどのエーテル結合抑制剤等、必要に応じ種々使用してもよい。
【0042】マルチフィラメント集合体におけるA成分/B成分の接合比率(重量比)は、好ましくは2.5/1〜1/1更に好ましくは2/1〜1.2/1である。A成分/B成分の接合比がこの範囲にあるとひきしまったフクラミ感とソフトな表面タッチに優れた布帛が得られる。
【0043】A成分とB成分を上記比率とすると好ましい理由は次の通りである。繊維を構成する各フィラメント間にA成分、B成分の比率とそれらの積層の構造が異なり、特にB成分(低収縮成分)の比率が大きく且つ層の数が少ないものでは、捲縮数も収縮率も小さいものとなり、これらのフィラメントが布帛の中において布帛の表面に浮き上がり微少な毛羽を生じることとなる。逆にA成分(高収縮成分)が多いフィラメントでは捲縮数と同時に収縮率も大きくなり、それらのフィラメントは布帛の内部に沈み布帛のハリ、コシ、フクラミの発現に寄与すると布帛内部に微小に分散した空隙を発現させる。
【0044】この時、高収縮成分(A)の比率が大としている為に、布帛の内部に沈む繊維が多くなり、織物表面に浮き上がる繊維が少なくなる為にひきしまったフクラミ感とソフトな表面タッチが得られるのである。
【0045】ここで、接合比率とは、繊維中の全フィラメントにおけるA成分、B成分の繊維の横断面に占める面積の平均値であり、紡糸時にA成分、B成分をそれぞれ別々のギアポンプで計量する事により容易に制御できる。
【0046】各フィラメントにA成分とB成分の積層構造を作成せしめる方法は、我々が従来提案している方法が好ましく利用できる。例えば特公昭47−9533号公報に示す混練型分配板や特開昭59−100717号公報に示す静的混練素子を挙げることが出来る。静的混練素子としては、例えばケニックス社の「スタティックミキサー」、ROSS社ISGミキサー、スルーザー社のミキシングエレメント等を用いることができる。
【0047】こうした静的混練素子を通過したポリマー流は素子の数をkとするとの2のk乗に分流される。ここでは通常、静的混練素子を通常1〜4個使用する。このエレメントによりA,B両成分は2〜16層に積層される。A,B両成分が複数個積層されたポリマー融液は多数の紡糸吐出孔より空気中に押し出されフィラメントを形成する。従って、各フィラメントは、A、B両成分からなり、通常1〜16層、好ましくは2〜10層、更に好ましくは3〜7層である。層の数が多くなると、各フィラメント間の収縮特性や捲縮特性の間に変動が小さくなり、目的とする風合い、性能が出にくい。
【0048】紡糸は、上述の2種類のポリマーを口金内部に組み込んだ静的混練素子により多層に混合したものを口金の微細孔より吐出し巻き取る。巻き取り方式は、1500m/分程度までの速度のコンベ方式でも良いし、3000m/分前後のPOY方式にて巻き取っても良く、又5000m/分以上の高速紡糸(HOY)方式にて巻き取っても良い。巻き取った繊維は、引き続き延伸を行う。又、紡糸段階にて、同時に延伸する事(SPD)も勿論可能である。
【0049】こうした静的混練素子を用いることによって、各フィラメント毎のA成分/B成分の比率や積層構造は第1図に示すように大きく異なるが、各フィラメントの繊維軸方向でのこうしたポリマーの比率や積層構造は殆ど変化せず、従来のポリマーブレンド紡糸において根本的な問題であった操業性の悪化を大きく改善できた。
【0050】延伸は、通常一般的に行われる加熱ローラーと加熱板との組み合わせが好適に用いることが出来るが、複数の加熱ローラーによる延伸でもよい。加熱ローラーと加熱板との組み合わせの場合は、加熱ローラーにて延伸を熱板にて熱セットを行い、目的に合致した糸質や捲縮特性を持たせる。例えば、延伸温度は通常60〜140℃、好ましくは65〜120℃、更に好ましくは70〜100℃である。又、加熱板の温度は通常延伸温度より10〜50℃高めに設定するが、ここでは繊維の全収縮率、直線収縮率を目標の値に納める為に、通常120〜180℃、好ましくは120〜160℃である。延伸後に更に、例えば延伸温度〜セット温度の範囲で加熱しながら、高々1.1倍程度の倍率にて延伸し、捲縮の出方を改善することも可能である。このような条件にて、処理する事により繊維の直線収縮率を抑えて捲縮収縮率を改善する事が出来る。
【0051】本発明の繊維を使う事により、異収縮混繊糸や異収縮複合加工糸使いとする事なく、単独糸使いで、且つ特別な織組織とする事なく通常に使用される織り編み物と同様の組織においても目的とするソフトでフクラミがあり、しかも表面の微妙な毛羽によるタッチが発現出来る。即ち、従来の感性合繊、新合繊で行われた様な、複雑な糸使いや織り組織、加工手段・条件をとる必要もなく、低コストにして新感覚の布帛が得られると言う大きなメリットがある。勿論、異収縮混繊糸や複合加工糸の一成分として使う事や、より複雑な織り組織にする事によって更に高度な風合い、タッチを発現できる。
【0052】織物、編み物の加工は通常の繊維の加工と同様の加工にて行う事が出来る。例えば、精練、アルカリ減量、リラックス、染色、熱セット等の一連の工程であり、更に必要ならば樹脂加工等を施す。また本発明の繊維はそれ単独で用いてもよいし、必要に応じて他の繊維と混合して使用することが出来る。
【0053】
【実施例】以下実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中「部」とあるのはことわりのない限り「重量部」を意味し、「%」とあるのはことわりのない限り「重量%」を意味する。固有粘度〔η〕は、フェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)の混合溶剤中20℃で常法により求めた。又、走査電子顕微鏡(以下SEMと記す。)測定は、明石製作所社製走査電子顕微鏡にて測定した。又、捲縮の個数は、SEM観察或いはオリンパス社製実体顕微鏡により撮影した顕微鏡写真より1インチ当たりの個数に換算した。
【0054】複合糸の製造(1)
低収縮成分(B成分)としては、〔η〕=0.64の通常のポリエチレンテレフタレート(以下、通常ポリエステルと称する)を使用した。又、高収縮成分(A成分)としては、ポリエチレンテレフタレートに酸成分として5モル%のイソフタル酸とビスフェノールA(2EO付加物)を5.5モル%共重合させた変性ポリエステルを使用した。
【0055】両成分をA成分とB成分の接合比率が1.5/1になるように、エクストルーダーにて温度290℃で溶融後、各々別のギアポンプで計量して紡糸口金に送液する。紡糸口金内部では、静止系混練素子(ケニックスミキシングエレメント3個)を通過させて、A、B両成分を多層構造を有するように混合させ、次いで36個の等長のY型の紡糸細孔より溶融紡糸し1500m/分の速度にて巻き取り、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸の断面は角の丸いほぼ三角形をしていた。その糸を延伸倍率3.0倍、延伸速度750m/分で75℃のローラーヒーターで延伸し、表1に示す熱板(PLH)にて熱セット後、75デニール(以下dと記す)/36フィラメント(以下fと記す)のマルチフィラメントを得た。これらの糸を各々F−1〜F−5とした(表1)。
【0056】繊維断面を顕微鏡にて観察すると第1図に示すように少なくとも2層、多い物で4層程度の多層構造を有する複合繊維であった。又、特徴的なことは各繊維の複合形状(複合比率、複合形状、多層化の状態等)が各々異なる事である。得られた延伸糸の収縮・捲縮特性を表1に示す。
【0057】表1に得られた各種延伸糸の沸水処理後の全収縮率、直線収縮率、捲縮収縮率、及び全収縮率に対する捲縮収縮率の割合(捲収率)を示す。更に、沸水処理後の繊維試料の表面水分を十分に拭き取り、風乾した後、温風乾燥機中で180℃、3分間熱処理したときの全収縮率と捲縮収縮率を併せて示した。なお、乾熱処理後の全収縮率、捲縮収縮率の測定と算出は沸水処理後と同様にして行った。
【0058】複合糸の製造(2)
〔η〕=0.64の通常ポリエステルを使用し、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/分にて36個の等長のY型の紡糸細孔より溶融紡糸した。その糸を延伸倍率3.0倍、延伸速度750m/分で85℃のローラーヒーターで延伸し、150℃のプレートヒーターでセットし、75d/36fのマルチフィラメント F−6を得た。得られた延伸糸を熱水処理した後、捲縮収縮値或いは直線収縮値を求めた。沸水収縮後の糸は特に捲縮も生じていない通常の繊維であった。全沸収率、直線収縮率はともに7.6%、捲縮収縮率はなかった。
【0059】複合糸の製造(3)
〔η〕=0.64の通常ポリエステルを使用し、紡糸温度290℃、紡糸速度1200m/分にて18個の等長のY型の紡糸細孔より溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面は角の丸いほぼ三角形をしていた。その糸を延伸倍率3.2倍、延伸速度730m/分で84℃のローラーヒーターで延伸し、145℃のプレートヒーターでセットし、37.5d/18fのマルチフィラメントを得た。又、〔η〕=0.64のアルコール成分としてビスフェノールA(2EO付加物)を5モル%共重合させた変性ポリエステルを使用し、紡糸温度285℃、紡糸速度1200m/分にて18個の等長のY型の紡糸細孔より溶融紡糸した。得られた未延伸糸の断面は角の丸いほぼ三角形をしていた。その糸を延伸倍率3.2倍、延伸速度730m/分で84℃のローラーヒーターで延伸し、90℃のプレートヒーターでセットし、37.5d/18fのマルチフィラメントを得た。
【0060】この2種の繊維を更に、巻き返し機によって2本合糸し75d/36f異収縮混繊糸F−7とした。
【0061】混繊糸に使用した繊維の熱収縮特性を評価する為に、合糸前の各々の延伸糸を熱水処理した後、捲縮収縮率或いは直線収縮率を求めた。いずれも沸水収縮後の糸は特に捲縮も生じていない通常の繊維であった。低収縮側の糸の全沸収率、直線収縮率はともに8.4%、捲縮収縮率はなく、高収縮側の全沸収率は36.5%であった。
【0062】実施例1〜3、比較例1〜4本発明によって得られた繊維(延伸糸F−1〜F−7を経緯糸として平織(タフタ)を織り、60℃にて精練後、15%のアルカリ減量の後、液流染色機を用いて130℃にてリラックスの後、180℃の乾熱にてセットした。仕上がりの布帛を熟練者の手触りで風合い評価を行った。評価は、ひきしまったフクラミ感、表面ソフトタッチついて行い、特に優れているものを◎、優れているものを○、やや劣っているものを△、劣っているものを×と記した。又、総合評価についても同様な評価を行った。結果を表2に記す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】複合糸の製造(4)
A成分とB成分の比率を1/1及び1/1.5とした他は、実施例1と同様にして延伸糸F−8とF−9を得た。延伸糸F−8,F−9の収縮特性を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】実施例4、比較例5次に延伸糸F−8とF−9をを実施例2と同様にして平織物とし、同様に評価した結果を表4に示す。本発明の延伸糸を使用した織物はシルクフィラメント織物調の優れた品位を示した。
【0068】
【表4】

【0069】
【発明の効果】本発明のランダム潜在捲縮糸は、良好な潜在収縮性と潜在捲縮性を有し、しかもそれらのいずれもが繊維中の各フイラメント間でランダムなバラツキを有しており、布帛にした場合、ひきしまったフクラミ感、及び微妙な表面毛羽による爽やかなタッチを実現した極めてシルクフィラメント織物に近い感性を有する布帛が得られる。
【0070】特に、従来の高低収縮繊維を混合した異収縮混繊糸とは思想を異にし、繊維の収縮率は抑えて繊維の捲縮性を利用するものである。つまり、繊維を構成する各フィラメント間において微妙に異なる収縮率や大きく異なる捲縮率の為に、糸の中に含まれる空気層が大量に且つ均一に分布している為に、新合繊の加工の様な微妙な温度調整や張力調整も必要なく、しかも収縮斑、染色斑、しぼ斑、等品質的な欠点が出にくく、縫製等の加工性を大きく改善する事が出来る等、多くの工業的なメリットを有する。
【出願人】 【識別番号】000000952
【氏名又は名称】鐘紡株式会社
【出願日】 平成9年(1997)10月15日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−183441
【公開日】 平成10年(1998)7月14日
【出願番号】 特願平9−299405