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【発明の名称】 熱伸長性ポリエステル繊維の製造法
【発明者】 【氏名】伊藤 誠
【氏名】上村 徹
【氏名】岩井 茂樹
【課題】低配向未延伸糸を用いて、延伸時に融着を生じることなく、良好な熱伸長性繊維を得ることができる製造法を提供する。

【解決手段】構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%以上のポリエステル系未延伸糸を温度Tg〜Tg+30℃で、その未延伸糸の自然延伸倍率〜自然延伸倍率×1.1 の延伸倍率で延伸した後、Tg+30〜Tg+150 ℃の温度で5%以上の弛緩熱処理を施す。 ただし、Tg:未延伸糸のガラス転移温度(℃)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%以上のポリエステル系未延伸糸を温度Tg〜Tg+30℃で、その未延伸糸の自然延伸倍率〜自然延伸倍率×1.1 の延伸倍率で延伸した後、Tg+30〜Tg+150 ℃の温度で5%以上の弛緩熱処理を施すことを特徴とする熱伸長性ポリエステル繊維の製造法。ただし、Tg:未延伸糸のガラス転移温度(℃)
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加熱によって伸長する性質を有し、製編織することによって柔らかな風合の布帛を得ることができる熱伸長性ポリエステル繊維の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル繊維は、衣料用、産業資材用などに幅広く利用されている。ポリエステル繊維は、高配向、高結晶性の特性を有するためハリ、コシなどの特性は優れているが、ソフト感やドレープ性に代表される柔らかさについてはやや劣るという欠点を有している。
【0003】ポリエステル繊維に柔らかさを付与する方法として、熱により伸長する熱伸長性繊維とする方法があり、特開平3-193948号公報には、ポリエステル高配向未延伸糸を低張力下で熱処理した後、低延伸倍率で延伸して製造する方法が開示されている。
【0004】しかしながら、この方法は、高速紡糸によって得られたポリエステル高配向未延伸糸を用いるものであって、低配向未延伸糸にこの方法を適用することはできなかった。特に、PETに機能性を付与するために他の物質を共重合した場合など、高配向未延伸糸とすることができない繊維があり、これらの繊維は熱伸長性繊維とすることができないという問題があった。
【0005】そこで、本発明者らは、特願平8-122175 号で低配向未延伸糸をTg+30〜Tm〔融点(℃)〕−100 ℃の温度で、切断延伸倍率の80%以上の延伸倍率で延伸を行った後、弛緩熱処理を行い、熱伸長性のポリエステル繊維を製造する方法を提案した。この方法においては、製編織すると、柔らかな風合を有する布帛を得ることができる熱伸長性のポリエステル繊維を得ることができるが、延伸時の温度、延伸倍率を上記のように設定することによって、繊維を均一に変形させて延伸するものであるため、延伸時に若干繊維が融着することがあった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述した問題点を解決し、低配向未延伸糸を用いて、さらに操業性よく品位の高い熱伸長性繊維を得ることができる製造法を提供することを技術的な課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%以上のポリエステル系未延伸糸を温度Tg〜Tg+30℃で、その未延伸糸の自然延伸倍率〜自然延伸倍率×1.1 の延伸倍率で延伸した後、Tg+30〜Tg+150 ℃の温度で5%以上の弛緩熱処理を施すことを特徴とする熱伸長性ポリエステル繊維の製造法を要旨とするものである。ただし、Tg:未延伸糸のガラス転移温度(℃)
【0008】なお、本発明でいう構造一体性パラメーター(ε0.2 )は、糸条に荷重をかけて沸水中で処理した場合の伸長率を表すものであり、次の方法で測定するものである。東洋紡エンジニアリング社製εメーターを用い、長さ10cmの未延伸糸に0.2 g/デニールの荷重をかけ、沸水(約98℃)中で30秒間処理する。処理前後の糸条(処理後の糸条は沸水から糸条を引き上げた直後)の長さを前記と同様の荷重をかけて測定し、次式で算出する。
ε0.2 (%)=〔(L1 −L0 )/L0 〕×100ただし L0 :処理前の長さ(10cm)
1 :処理後の長さ【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明で用いるポリエステルは、主たる繰り返し単位をエチレンテレフタレートとするものであるが、染色性や風合に変化を与えるために、おおむね5モル%以下であれば、酸成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、また、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、アルコール成分として、1,4-ブタンジオール、1,9-ノナンジオールなどを共重合したものでもよい。
【0010】本発明において、構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%以上のポリエステル未延伸糸を用いることが必要である。構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%未満の繊維は、本発明の条件で延伸熱処理を施すと、熱伸長性の繊維とすることができず、また、このような繊維は、主に高速紡糸方法によって得られるものであるため、紡糸設備が限定され、コストも高くなることから好ましくない。未延伸糸の構造一体性パラメーター(ε0.2 )の上限については特に限定されるものではないが、構造一体性パラメーター(ε0.2 )が大きくなり過ぎると、延伸熱処理時に切断しやすくなるため、500 %(実施例1は480 %) 程度とすることが好ましい。
【0011】なお、構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%以上の低配向未延伸糸を得るためには、ポリエステルの溶融粘度、紡糸速度などを適切に選定して溶融紡糸を行えばよいが、紡糸速度を選定する方法が最も容易であり、紡糸速度を約500 〜2500m/分とすればよい。
【0012】本発明においては、構造一体性パラメーター(ε0.2 )が45%以上の低配向未延伸糸を、温度Tg〜Tg+30℃で、その未延伸糸の自然延伸倍率〜自然延伸倍率×1.1 の延伸倍率で延伸する。このように、比較的低い温度でかつ低い倍率で延伸することによって、ネッキング延伸となり、均一に変形させて延伸する均一延伸よりも繊維の融着が生じることがない。
【0013】延伸温度がTg未満であると、繊維内部の分子流動が促進されず、十分に延伸が行えないため、延伸時に糸切れが生じたり、太細のある繊維となる。一方、Tg+30℃を超えると、ネッキング延伸とはならず、均一延伸となり、繊維の融着が生じたり、糸切れが生じることがあり、得られる繊維からの織編物はソフト感やドレープ性に劣ったものとなる。
【0014】また、延伸倍率が未延伸糸の自然延伸倍率(以下、NDR とする。)未満であると、未延伸部が残存し、染色斑が発生したり後加工での糸切れが多くなる。一方、NDR ×1.1 を超えると、延伸時に繊維の構造が安定してしまい、熱伸長性の繊維とすることができない。
【0015】ここで、NDR は、図3に示すように、未延伸糸の強伸度曲線を描き、ネッキングが進行して一定応力で伸長される領域の自然延伸伸度En を求め、NDR =(En +100 )/100 で算出する。
【0016】次に、延伸後の糸条にTg+30〜Tg+150 ℃の温度で5%以上の弛緩熱処理を施す。弛緩熱処理温度がTg+30℃未満であると、糸条は十分に熱処理されず、収縮しないため、熱伸長性繊維とならない。一方、Tg+150 ℃を超えると、熱処理温度が高過ぎて、熱処理によって繊維の構造が固定されてしまい、熱伸長性繊維とならない。
【0017】また、弛緩熱処理時の弛緩率を5%以上にする必要がある。弛緩率が5%未満であると、弛緩が十分に行われず、後工程で伸長する熱伸長性繊維とならない。弛緩率の上限については、特に限定されるものではないが、あまり弛緩率が高くなり過ぎると、ローラ等に巻き付きが生じたり、糸切れ等のトラブルが発生し、操業性が悪化する場合があるため、20%以下程度とすることが好ましい。
【0018】本発明では、低速紡糸で得られた未延伸糸を用い、自然延伸倍率付近で延伸し、中間配向した延伸糸とした後、弛緩熱処理することにより、配向度の低い繊維となるので、後工程で熱処理すると、配向の進行により伸長する熱伸長性の繊維が得られるものである。そして、本発明の製造法によって具体的には、初期弾性率60〜120 %、伸度80%以下、沸水収縮率−1.0 〜−5.0 %程度の熱伸長性繊維を得ることができる。
【0019】次に、本発明の製造法を図面を用いて説明する。図1、2は、本発明の製造法の実施態様を示す概略工程図である。まず、図1に基づいて説明する。パッケージ1から繰り出された糸条Yは、引き揃えローラ2を通過し、第1ローラ3(熱ローラ)と第2ローラ4との間で延伸される。このとき、第1ローラ3の温度を延伸温度とし、Tg〜Tg+30℃に設定する。そして、第2ローラ4と第3ローラ6との間で熱処理ヒータ5を介して弛緩熱処理を行い、パーン7に巻き取る。第2ローラ4と第3ローラ6との速度の差により弛緩率を設定し、熱処理ヒータ5により熱処理温度を設定する。
【0020】次に、図2に基づいて説明する。パッケージ1から繰り出された糸条Yは、引き揃えローラ2を通過し、第1ローラ3(熱ローラ)と段付ローラ9の径の大きい部分(第2ローラに相当)との間で延伸される。第1ローラ3の温度を延伸温度とし、Tg〜Tg+30℃に設定する。そして、段付ローラ9の径の大きい部分を通った後、鞍型ヒータ8を通過させ、段付ローラ9の径の小さい部分(第2ローラに相当)に導くことによって弛緩熱処理を行い、パーン7に巻き取る。段付ローラ9の径の大きい部分と小さい部分の速度の差により弛緩率を設定し、鞍型ヒータ8により熱処理温度を設定する。
【0021】
【実施例】次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、例中の特性値は下記のように測定した。
(1)構造一体性パラメーター(ε0.2
前記の方法で測定した。
(2)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒とし、20℃で測定した。
(3)未延伸糸のTg、Tm(融点)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DSC-7型を用い、昇温速度10℃/分で測定した。
(4)未延伸糸のNDRオリエンティック社製テンシロンUTM-4-100 型を用い、試料長10cm、引張速度10cm/分で強伸度曲線を描き、前記のような方法で算出した。
(5)沸水収縮率東洋紡エンジニアリング社製εメーターを用い、試料長20cm、温度98℃、処理時間30秒、荷重0.001 g/デニールで測定した。
(6)初期弾性率、伸度(切断伸度)
オリエンティック社製テンシロンUTM-4-100 型を用い、試料長50cm、引張速度50cm/分で強伸度曲線を描き、図4に示すようにしてΔEとΔFを求め、初期弾性率を次式で算出した。
初期弾性率(%)=(ΔF/ΔE)×100(7)風合(ソフト感)
得られた熱伸長性の繊維を用いて、筒編みした編物を次に示す分散染料、条件で染色した後、編物の風合(ソフト感)を10人のパネラーに手触りで10点満点で採点させ、その合計点で評価した。
80点以上 非常に柔らかい60〜79点 柔らかい40〜59点 やや硬い39点以下 硬い染料:Resoline Blue GRL (バイエル社製分散染料) 1%owf助剤:ディスパーVG(明成化学社製) 2%owf 浴比:1:50、染色温度×時間:100 ℃×1時間(8)染色斑(7)で染色された編物を目視にて染色斑の有無を判断し、染色斑のないものを○、染色斑のあるものを×として評価した。
【0022】実施例1〜5、比較例1〜5極限粘度〔η〕0.69のPETを通常の紡糸装置を用い、紡糸温度295 ℃で表1のように紡糸速度を変化させ、種々の構造一体性パラメーター(ε0.2 )の未延伸糸を採取した。この時、紡糸孔の形状が丸断面、孔数36の紡糸口金を用いた。得られた未延伸糸の構造一体性パラメーター(ε0.2 )、強度、NDR を表1に示す。なお、未延伸糸No. 5、6は、高速紡糸用の紡糸機及び巻取機を用いて採取した。また、この未延伸糸のTgは72℃、Tmは256 ℃であった。
【0023】
【表1】
【0024】次に、得られた表1に示すNo.の未延伸糸を用い、図1の工程に従い、延伸速度を 400m/分として延伸、弛緩熱処理を行った。延伸温度、延伸倍率及び弛緩熱処理温度、弛緩率を表2に示すように種々変更して行った。得られた繊維(75d/36f)の沸水収縮率、伸度、初期弾性率及びこの繊維より得られた編物の風合、染色斑の評価を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】表2から明らかなように、実施例1〜5の方法によれば、熱によって伸長する繊維が得られ、この繊維を用いて得られた編物はソフトな風合を有するものであり、また染色斑もなかった。一方、比較例1は、未延伸糸の構造一体性パラメータ(ε0.2 )が低過ぎたため、熱伸長性に劣る繊維となり、得られた編物はソフトな風合に劣るものであった。比較例2、3は、弛緩熱処理時の弛緩率が低過ぎたため、比較例2の繊維は熱伸長性の繊維とならず、比較例3の繊維は熱伸長性に劣る繊維となり、得られた編物はソフトな風合に劣るものであった。比較例4は、延伸倍率が低過ぎたため、未延伸部が残存した繊維となり、得られた編物は染色斑が発生した。比較例5は、延伸倍率が高過ぎたため、熱伸長性の繊維とならず、得られた編物はソフトな風合に劣るものであった。
【0027】実施例6〜8、比較例6〜8No. 3の未延伸を用い、図2に示す工程に従い、延伸速度を 400m/分とし、延伸温度、延伸倍率及び弛緩熱処理温度、弛緩率を表3に示すように種々変更して延伸及び弛緩熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして行った。得られた繊維(75d/36f)の沸水収縮率、伸度、初期弾性率及びこの繊維より得られた編物の風合、染色斑の評価を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】表3より明らかなように、実施例6〜8の方法によれば、熱によって伸長する繊維が得られ、この繊維を用いて得られた編物はソフトな風合を有するものであり、染色斑もなかった。一方、比較例6は、延伸温度が高過ぎるため、ネッキング延伸とはならず、均一延伸となり、延伸工程で繊維の融着が生じ、この繊維より得られた編物はソフトな風合に劣るものであった。比較例7は、弛緩熱処理時の温度が低過ぎたため、均一に熱処理がされず、熱伸長性の繊維とすることができなかった。また、この繊維より得られた編物は、染色斑が生じ、ソフトな風合にも劣るものであった。比較例8は、延伸温度が低過ぎたため、十分に延伸が行えず、斑のある繊維となり、これより得られた編物は、染色斑が生じ、ソフトな風合にも劣るものであった。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、低配向未延伸糸を用いて操業性よく、高品位の熱伸長性の繊維を得ることができ、得られた繊維を製編織し、熱処理を施すことによってソフトな風合の布帛を得ることが可能となる。
【出願人】 【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
【出願日】 平成8年(1996)12月24日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−183440
【公開日】 平成10年(1998)7月14日
【出願番号】 特願平8−356153