トップ :: D 繊維 紙 :: D02 糸;糸またはロ−プの機械的な仕上げ;整経またはビ−ム巻き取り

【発明の名称】 高タフネスポリアミド糸の製造方法
【発明者】 【氏名】金山 赫
【氏名】津川 浩之
【課題】製織して得られるシートベルト等の衝撃吸収性を向上させることができる,高強度で高伸度のいわゆる高タフネスポリアミド糸を, 作業性よく,かつ,安定して製造できる方法を提供する。

【解決手段】相対粘度が3.0以上のナイロン6ポリマーを紡糸延伸して得られた引張強度が8g/d 以上で,破断伸度が10〜40%の高強力ポリアミド糸を供給糸とする。この糸条を,120〜 130℃の飽和水蒸気で 180秒未満の処理を施して15〜50%収縮させ,引張強度が5.5g/d以上,破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g・%/d以上の糸条とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 相対粘度が3.0以上のナイロン6ポリマーを紡糸延伸して得られた引張強度が8g/d 以上で,破断伸度が10〜40%の高強力ポリアミド糸を,120〜 130℃の飽和水蒸気で 180秒未満の処理を施して15〜50%収縮させ,引張強度が5.5g/d以上,破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g・%/d以上の糸条とすることを特徴とする高タフネスポリアミド糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,衝撃吸収性のある繊維製品を得るのに好適な高タフネスポリアミド糸の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車,航空機等の乗り物の座席に装着されているシートベルトの,急制動時の衝撃吸収や,柱上安全帯(電線架設用の電柱上での作業者の安全確保のための安全ベルト)の落下時の衝撃吸収を目的として,各種の研究が行われる中で,ベルト素材の物性の面からの検討も行われ,高強力で高伸度のいわゆる高タフネス糸を使用することが有効であることが検証されている。
【0003】従来のシートベルト等に使用される素材として,例えば特開平6-81244号公報には, 繊度1000〜1500デニール,引張強度8〜10g/d,破断伸度10〜20%の糸条が記載されている。また,特開昭59−179842号公報には,衝撃を吸収する能力の高いシートベルト用糸条として,破断伸度が80〜 200%のポリエステル糸が提案されている。そして,この公報の実施例で使用された糸条は, 破断伸度が 110%のものであり,その引張強度は記載されていないが,使用した糸条の繊度(2000デニール),使用本数(400本),ベルト強度(約2400kg)という点から判断して,強力利用率を60〜80%と推定すると,5g/d 以下と認められる。
【0004】さらに,特開昭62−112572号公報には,引張強度が4g/d 以上で,破断伸度が50〜80%のポリエステル糸が提案されており,その実施例には,引張強度が4.7g/dで,破断伸度が70%の糸条が記載されている。
【0005】これらの糸条は,引張強度又は破断伸度の一方は優れたものである。しかしながら,近年,シートベルト等の衝撃吸収性を向上させるために,素材の要求性能は極めて高まり,引張強度が5.5g/d以上,破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g%/d以上の物性が要求されている。これらの要望に応えるためには,高強度の糸条に収縮処理を施して,高伸度化することが考えられるが,一般に,高伸度化に伴って強度が低下する傾向があり,前記の要求を満足する高強度,高伸度で,かつ高タフネス糸の製造方法は未だ提案されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記の問題を解決し,製織して得られるシートベルト等の衝撃吸収性を向上させることができる,高強度で高伸度のいわゆる高タフネスポリアミド糸を, 作業性よく,かつ, 安定して製造する方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記の課題を解決するために鋭意検討した結果,高強度で高伸度の糸条を得るには,中〜低伸度で高強度のポリアミド糸を,高温高圧の飽和蒸気で短時間の熱処理を行えば,強度の低下を抑えながら伸度を増加させることができることを知見して本発明に到達した。
【0008】すなわち,本発明は,相対粘度が3.0以上のナイロン6ポリマーを紡糸延伸して得られた引張強度が8g/d 以上で,破断伸度が10〜40%の高強力ポリアミド糸を, 120〜 130℃の飽和水蒸気で 180秒未満の処理を施して15〜50%収縮させ,引張強度が5.5g/d以上,破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g・%/d以上の糸条とすることを特徴とする高タフネスポリアミド糸の製造方法を要旨とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】以下,本発明について詳細に説明する。本発明で供給糸となる高強力ポリアミド糸を形成するナイロン6ポリマーとは,ε−カプロラクタムを重合して得られるものである。ポリマーの重合度は,その相対粘度によって推定され,相対粘度が高い程高重合度であるが,例えば,本発明のように相対粘度が3.0といえば,重合度は約 200であり,相対粘度が2.0といえば,重合度は約 100であることが知られている。なお,本発明における相対粘度の測定は,JIS K−6810に準じ,溶媒として96%濃度の硫酸を使用し,ポリマー濃度1g/dl, 温度25℃て行うものである。
【0010】本発明では,相対粘度が3.0以上のポリマーを常法によって紡糸延伸して得られた,引張強度が8g/d 以上で,破断伸度が10〜40%の高強力ポリアミド糸を供給糸して使用する。この高強力ポリアミド糸, 例えば,引張強度が約10g/d で,破断伸度が約20%の糸条は,スピンドロー方式で,ポリマーチップの相対粘度が3.5のナイロン6を使用して 600m/分の速度で紡出し,次いで温度 195℃で延伸した後,巻取り速度3070m/分で製糸することにより, 得ることができる。
【0011】本発明で重要な点は,前述の高強力ポリアミド糸に, 高温高圧の飽和水蒸気中で比較的短時間の熱処理を施すことである。この処理によって,供給糸の強度をできるだけ保ちながら収縮させ,伸度を増大させて,目的とする高タフネスポリアミド糸を得ることが可能となる。
【0012】この熱処理は,高温高圧の飽和水蒸気雰囲気(120〜 130℃)中で 180秒未満の無張力ないしは低張力条件下で行うことが必要であり,この熱処理工程で15〜50%の熱収縮を生じさせることにより,引張強度が5.5g/d以上,破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g・%/d以上の糸条とすることができる。本発明のような短時間の熱処理では,飽和水蒸気の温度が 120℃未満であると充分な収縮が生じず,目的とする破断伸度の糸を得ることが困難である。また,この温度が 130℃を超えると,糸の強度が低下し過ぎて好ましくない。
【0013】上記の熱処理は,飽和水蒸気処理を用いることが必要であり,乾熱を用いて熱処理すると,乾熱雰囲気中の空気に含まれる酸素によって繊維表面が著しく酸化劣化し,また15〜50%の熱収縮を生じる温度に設定すると,繊維が硬化するので好ましくない。また,常圧下での熱水を用いると,処理時間を長くしないと充分な収縮率が得られず, 本発明の目的を達成することができない。一方,高圧下の 100℃以上の温度の熱水では,短時間の処理でも収縮は充分に生じるが, 乾燥工程が必要であったり,糸条を構成する単フィラメント同士がもつれたりするので好ましくない。さらに,本発明を適用するのに必要な,マルチフィラメント糸を無張力に近い条件で連続的に走行させながら熱水処理と乾燥を行ない,連続的に巻き上げるのに好適な機械が存在しない。
【0014】本発明において,熱処理時に熱源として使用する飽和水蒸気は,空気を含まないので繊維表面が酸化されることがなく,良好な熱処理が行われる。また, 飽和水蒸気は潜在凝縮熱が大きく,被熱処理物である繊維の表面で凝縮する際に,瞬時に繊維を所定の温度に昇温させることが可能であって,短時間で効率的な熱処理を施すことができる。
【0015】本発明において,120〜 130℃の飽和水蒸気中で熱処理する際の時間は,180秒未満,好ましくは15〜 120秒,さらに好ましくは30〜90秒である。この,高温高圧の飽和水蒸気による短時間の熱処理には,例えば,カーペット用ナイロン嵩高糸(ナイロンBCF)の撚糸品をスチームセットする,フランス国・スペルバ社の連続スチームセット機(スペルバ・セット機)が好ましく使用される。
【0016】この,高温高圧の飽和水蒸気を用いた熱処理により被処理物の高強力ナイロン糸を15〜50%収縮させることによって,引張強度が5.5g/d以上, 破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g・%/d以上の性能を持った高タフネスポリアミド糸が得られる。この場合,破断伸度が40%未満になると, 引張強度が8g/d 程度でも必要なタフネスが得られ難くなり,破断伸度が80%を超えると引張強度が著しく低下して130g・%/d以上のタフネスが得られない。
【0017】本発明におけるタフネスとは,引張強度(g/d) と破断伸度(%)を測定する際に得られる,強度・伸度曲線(Stress−Strain曲線:以下S−S曲線という)を数学的に積分して得られる面積値(g・%/d)である。図1は,後述する実施例1〜2と比較例の1〜5で得られたポリアミド糸のS−S曲線を示すが,それぞれの測定結果の切断時の点から垂線を横軸に降ろしてできる略三角形の面積値を,縦軸(強度)の単位をg/d とし,横軸(伸度)の単位を%として算出されるものである。タフネスは,数学的に演算して算出されるものであるが,コンピューターで測定結果のS−S曲線を自動的に積分するプログラムが組み込まれた強度・伸度測定機で得ることができる。
【0018】一般的にタフネスが大きい繊維ほど破壊(切断)エネルギーが多く必要であるが,換言すれば,破壊(切断)に要するエネルギーはタフネスにより消費されるものといえる。例えば,安全ベルト等に,急制動や落下時の衝撃によって破壊(切断)にいたるような大きなエネルギーがかかると,そのエネルギーは,安全ベルトが切断する時の強力と伸度をフアクターとする高タフネスによって吸収される。
【0019】したがって,本発明で得られる高タフネスポリアミド糸は,引張強度が5.5g/d以上,破断伸度が40〜80%で,かつタフネスが130g・%/d以上と高タフネスであるから,この糸条を製織して得られる安全ベルト等の繊維製品は,衝撃吸収性が極めて優れたものである。
【0020】本発明において,引張強度と破断伸度及びタフネスは,引張試験機(島津製作所社製オートグラフS-100型) を用い,温度20℃, 相対湿度65%で, 試料長250mm,引張速度300mm/min の条件でS−S曲線を描き,この曲線から求めるものである。
【0021】
【実施例】次に,本発明を実施例により具体的に説明する。
【0022】実施例1〜2,比較例1〜5相対粘度が3.51のナイロン6ポリマーを紡糸延伸して得られた引張強度が9.8g/dで,破断伸度が19.9%の高強力ポリアミド糸1260d/210f(ユニチカ社製タイヤコード用糸タイプ<6650・G690>)を供給糸とし,この糸条を綛状(綛周長約137cm)にして各約10gの試料を作成し,表1に示す条件で熱処理を施した。次いで,熱処理後の糸条の物性を評価し,その結果を併せて表1と図1に示した。なお,比較例1は,熱処理を施さない場合であり,比較例2では,熱水処理後に風乾して評価した。
【0023】
【表1】

【0024】表1から明らかなように,実施例1,2では,引張強度が5.9g/d以上,破断伸度が45〜65%で,かつタフネスが135g・%/d以上の高タフネスポリアミド糸を得ることができ, また,熱処理時の作業性はよく,熱処理後の乾燥工程も不要であった。一方,熱処理を施さない比較例1,熱処理を熱水で施した比較例2,熱風乾燥機を用いた比較例3,110℃の飽和水蒸気を用いた比較例4,135℃の飽和水蒸気を用いた比較例5では,引張強度と破断伸度及びタフネスの三物性が本発明で規定する要件を同時に満足する糸条は得られず,また,熱処理を熱水で施した比較例2は作業性が悪く,かつ,熱処理後に乾燥工程が必要であった。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば,製織して得られるシートベルト等の衝撃吸収性を向上させることができる,高強度で高伸度のいわゆる高タフネスポリアミド糸を, 作業性よく,かつ,安定して製造することが可能となる。
【出願人】 【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
【出願日】 平成8年(1996)10月22日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−130980
【公開日】 平成10年(1998)5月19日
【出願番号】 特願平8−279224