トップ :: D 繊維 紙 :: D02 糸;糸またはロ−プの機械的な仕上げ;整経またはビ−ム巻き取り

【発明の名称】 繊維機械における多段延伸装置の運転方法
【発明者】 【氏名】玉田 和芳
【課題】ローラの駆動手段にかかる負荷を最小限に軽減し、延伸条件に関係なくどんな糸でも仕掛けることができるようにする。

【解決手段】各ローラ間の延伸および弛緩倍率を起動加速時および停止減速時において糸条に適度な張力を付与する仮の速度比率にするとともに、仮の比率から定常運転の比率に移行する際および定常運転の比率から仮の比率に移行する際には、ローラ間を順に所定の比率に変更するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 糸条の走行方向に複数のローラを配設して各ローラの周速差によって糸条を多段延伸し、必要に応じて弛緩熱処理する繊維機械における多段延伸装置の運転方法において、各ローラ間毎にローラの周速を比率制御せしめるローラ駆動手段を設け、起動加速時に各ローラ間において仮の速度比率に維持したまま加速し、最下流側のローラが設定速度に到達した後、ローラ間を順に所定の速度比率に移行せしめることを特徴とする繊維機械における多段延伸装置の運転方法。
【請求項2】 停止減速時には最上流側のローラの速度を基準としてローラ間を順に仮の速度比率に移行した後、減速する請求項1記載の繊維機械における多段延伸装置の運転方法。
【請求項3】 仮の速度比率が糸条を延伸する範囲である請求項1または2記載の繊維機械における多段延伸装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は糸条の走行方向に配設した複数の各ローラ間の周速差によって熱可塑性合成繊維からなる糸条を多段延伸し、必要に応じて弛緩熱処理する繊維機械における多段延伸装置の運転方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】通常、ポリエステルの未延伸糸または半延伸糸を延伸する場合、まず糸条をわずかに予備延伸し、熱を加えて本延伸する。そして寸法安定性を確保するために弛緩状態で熱処理して冷却する。産業資材の分野では高強度、低伸度でかつ低収縮率の糸が要求され、本延伸を2段階に分けて大幅に延伸することもある。またナイロン糸の場合には冷延伸でよく予備延伸は不要である。
【0003】このように近年は糸の多様化差別化が要求され、糸掛け品種によって生産における諸条件も異なり、その都度延伸条件も変更される。このため最近の延伸装置では多品種少量生産向きで容易に延伸条件を変更可能なものが要求されている。そこで、従来の延伸装置は煩雑な交換作業を要するチェンジギヤを廃し、容易に設定速度の変更が可能なように各ローラをそれぞれモータに直結し、該モータ毎にインバータを配設し電気的に回転数を制御していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来機は独立した駆動系で各ローラを制御し、各ローラ間において所定の延伸倍率となるように各ローラの周速を個々に設定しており、ローラの駆動系間には関連性がなく、起動時には加速による負荷に加えて糸条の延伸または弛緩による負荷がかかりローラの位置によっては過大な負荷となり、極めて大容量のモータやインバータが必要となった。その上容量不足だと延伸または弛緩倍率が設定値と異なり糸切れするという問題があった。このため延伸または弛緩条件に制約があり、仕掛け糸種が非常に制限されていた。また停止時にもブレーキによる負荷に加えて糸条の延伸または弛緩による負荷がかかるために、停止に要する時間が長く糸の損失が増大するという問題があった。
【0005】そこで、本発明はローラの駆動手段にかかる負荷を最小限に軽減し、延伸条件に関係なくどんな糸でも仕掛けることができる繊維機械における延伸装置の運転方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、各ローラ間の延伸および弛緩倍率を起動加速時および停止減速時において糸条に適度な張力を付与する仮の速度比率にするとともに、仮の比率から定常運転の比率に移行する際および定常運転の比率から仮の比率に移行する際には、ローラ間を順に所定の比率に変更するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】糸条の走行方向に複数のローラを配設して各ローラの周速差によって糸条を多段延伸し、必要に応じて弛緩熱処理する繊維機械における多段延伸装置の運転方法において、各ローラ間毎にローラの周速を比率制御せしめるローラ駆動手段を設け、起動加速時に各ローラ間において仮の速度比率に維持したまま加速し、最下流側のローラが設定速度に到達した後、ローラ間を順に所定の速度比率に移行せしめる。
【0008】また停止減速時には最上流側ローラを基準としてローラ間の速度比率を順に仮の延伸倍率に切り換えた後、減速する。
【0009】
【実施例】本発明の実施例について図面に基いて具体的に説明する。図1は多数錘連設してなる3段延伸装置の1錘についてその概略を示したものである。この延伸装置で未延伸ポリエステル糸を延伸する場合に、生産段階ではパッケージから解舒された糸条Yは供給ローラ1でニップされ、まず該供給ローラよりわずかに周速の速い第1延伸ローラ2との間で予備延伸され、第1延伸ローラ2とさらに速い第2延伸ローラ3との間で本延伸される。2つの延伸ローラ2、3は加熱ローラであり、それぞれ最適温度に加熱され糸条の延伸を補助している。そして、延伸された糸条Yは、弛緩状態下の第2延伸ローラ3と引取ローラ4との間で、その間に配設されたヒータ5内を通過し熱処理され、引取ローラ4にて冷却された後、図示しないリング式の巻取装置に巻き取られる。
【0010】供給、延伸および引取の各ローラ1、2、3、4はそれぞれの駆動系10、20、30、40によって駆動され、各駆動系では、ローラを駆動するモータMと該モータを回転させるインバータINVが設けられている。また該モータMにはパルスジェネレータPGが連結されており、検出値をインバータINVにフィードバックしモータMの回転速度を精度よく制御するように構成されている。さらに急速に停止することができるように制動ユニットSが設けられている。特に省エネルギのため電源回生可能な回路を設けてもよい。
【0011】そして図2に示すように供給、延伸および引取の各ローラ駆動系10、20、30、40のインバータINV、前記ローラ駆動系を制御する演算処理装置(以下PCという)60および諸条件の入力手段であるグラフィックターミナル70は省配線化のため共通のシリアル通信回線80を介して接続され、相互にデータの送受信を行うことが可能である。グラフィックターミナル70は糸速、各ローラ間での延伸または弛緩倍率、起動および停止に要する時間やヒータの温度等の運転条件を入力するようになっている。その他に起動および停止スイッチ等も配設されている。そして各種の入力された条件はグラフィックパネル70から入力されたデータがPC60に送信され、そのデータに基いて予め記憶している計算式によって演算される。各ローラ駆動系へはその算出値がインバータINVに速度指令として送信され、該インバータに接続されたモータMが回転される。また、該グラフィックターミナル70には各駆動系からの状況を示す信号がフィードバックされ、その運転状態がリアルタイムで付属のモニタに表示される。
【0012】PC60は連続する2つのローラ間に主従関係を設定解除自在である。
【0013】またPC60は前記主従間において、主のインバータINVから該PCへ速度に関する信号をフィードバックさせ、この信号に基いて予め設定された延伸または弛緩倍率となるように演算された値を、従のインバータへ転送する。延伸装置の起動時は各ローラ間において下流側のローラを主、上流側のローラを従とし、停止時は逆に上流側のローラを主、下流側のローラを従とし、主の加減速に対して従は追従して一定の速度比率を維持して加減速するようにPCによって制御されている。ここで中間部にあるローラの場合は一方のローラ間では主、他方のローラ間では従となる。このようにして各ローラは一定の速度比率を維持するように比率制御される。
【0014】さらにPC60は運転中に前記主従間の速度比率を変更するように設定することが可能で、グラフィックターミナル70から延伸または弛緩倍率およびその変更に要する時間を入力すると、そのデータおよび主のローラの速度に基いて予め記憶された計算式によって従のローラの駆動条件が算出され、その算出値がPCから従のローラの駆動系に送信するように設定されている。
【0015】尚、ヒータ5および加熱ローラ2、3の温度は図示しない別の回路でPC60によって制御されている。
【0016】このような構成の延伸装置を起動するに際し、各ローラ間において主従関係が設定される。供給ローラ1と第1延伸ローラ2の間では第1延伸ローラを主、供給ローラを従とし、同様に第1延伸ローラ2と第2延伸ローラ3の間および第2延伸ローラ3と引取ローラ4の間でも下流側のローラを主、上流側のローラを従とするように設定される。そして予め各種の運転条件をグラフィックパネル70より入力すると、そのデータがPC60に送信され、該PCにて予め記憶された計算式によって図3および図4に示すように各ローラの動作パターンが形成される。図3および図4は起動および停止時における各ローラの周速と時間の関係を示したもので、各ローラの駆動系はこの線図に沿うように制御されることになる。この起動加速および停止減速時(O−T3、T10−T13)では、仮の速度比率を若干延伸になるように入力しておく。というのは、糸条に適度な張力を付与し糸切れを防止するためである。
【0017】本実施例の動作について図3および図4の線図に従って説明する。まず延伸装置の起動スイッチが押されPC60に起動信号が送信されると、各ローラ間に主従関係が設定され、各ローラはPCでの演算値に基いて速度比率を一定に維持したまま加速される(O−T1)。そして一旦低速域で全ローラを等速運転とし、糸掛け作業を実施する(T1−T2)。この際糸条は適度な張力を付与され延伸状態を保っている。弛緩部である第2延伸ローラ3と引取ローラ4との間は延伸状態となるように設定してあるので糸切れの心配はない。たとえ糸切れしたとしても一旦T1の状態に戻り速度比率を入力することによってT1−T3間の延伸条件を変更することができるので、容易に最適条件を見つけることができる。糸掛け作業を終え、再加速の信号を入力すると、各ローラは再び仮の速度比率に維持したままさらに加速される(T2−T3)。このように仮の速度比率が糸条をわずかに延伸するだけであるので、モータMの延伸による負荷は小さい。
【0018】引取ローラ4が定常運転速度に到達する(T3)と、下流側のローラ間から順に所定の速度比率に移行される。まず最初に主の引取ローラ4に対する従の第2延伸ローラ3の速度比率を所定の比率に変更するため第2延伸ローラが加速され、糸条Yは徐々に弛緩状態となる。ここで予め糸切れしない程度の時間を要するように設定しておく。図3からわかるように主従関係にある第2延伸ローラ3と第1延伸ローラ2の間および第1延伸ローラ2と供給ローラ1の間では速度比率はまだ変更されておらず、主の第2延伸ローラ3の加速に対して従の第1延伸ローラ2が追従して加速し、さらに主の第1延伸ローラ2の加速に対して従の供給ローラ1が追従して加速する(T3−T4)。次に主の第2延伸ローラ3に対する従の第1延伸ローラ2の比率を変更する(T4−T5)。最後に主の第1延伸ローラ2に対する従の供給ローラ1の比率を変更し(T5−T6)、全ローラ間が設定された速度比率となり、延伸装置は定常運転状態となる。この移行工程(T3−T6)において糸切れしても、グラフィックターミナル70のモニタから糸切れ時が把握でき条件の変更箇所も容易に特定することができる。
【0019】尚、ヒータ5および加熱ローラ2、3の温度はT6点以前に所定の温度に加熱されており、この時点より実質的な生産が開始される。定常運転中は、前述したローラ間の主従関係を解除し、個別に所定の設定速度に維持するようにPC60によって制御される(T6−T7)。定常運転中ではローラ間の延伸または弛緩倍率を入力すれば、このローラ間に主従関係が設定され、その主従間において比率制御され速度比率を変更することができる。
【0020】図示しない巻取装置から満管信号が送信されると、または停止スイッチが押され停止信号が送信されると、PC60において機台を停止するために各ローラ間において起動時の主従関係とは逆に上流側のローラが主、下流側のローラが従となるように設定される。そして供給ローラの速度を基準として上流側のローラ間から順に仮の速度比率に移行される。
【0021】まず最初に主の供給ローラ1に対して従の第1延伸ローラ2が減速される(T7−T8)。これに従って第2延伸ローラ3および引取ローラ4が減速される。次に主の第1延伸ローラに対して従の第2延伸ローラの速度比率が変更され第2延伸ローラが減速される(T8−T9)。そして弛緩状態である第2延伸ローラと引取ローラとの間では糸条に適度の張力を付与し糸切れを防止するために主の第2延伸ローラ3に対して従の引取ローラ4が加速され延伸状態となる(T9−T10)。各ローラは一定速度比率を維持したまま減速され、途中尻糸形成のため等速運転した後機台は完全に停止される(T10−T13)。減速時にも仮の速度比率とすることによって、モータMの延伸による負荷を小さくすることができ、それに反してブレーキ力を大きくすることができるので、停止に要する時間の短縮になる。
【0022】次に糸をかけた状態のまま再起動する場合、再び下流側のローラが主となり上流側のローラが従となり、主のローラに対して従のローラが比率制御されて加速する。始動の瞬間に従の延伸ローラが出力応答遅れによって多少遅れても糸条に張力が付与される方向であるので、糸条が弛んで糸切れすることなく再起動することができる。
【0023】図5は上述した実施例で2段目にヒータを設け延伸した後弛緩熱処理し、その後さらに延伸するようにした場合の各ローラの起動時の運転動作パターンを示したものである。起動時に全ローラ間を仮の延伸倍率とし、その延伸倍率から所定倍率への移行工程において、図5に示すようにまず2段目の弛緩熱処理部を弛緩状態とし、次に3段目の延伸部、最後に1段目の延伸部というように順に変更する。ここでまず弛緩部を変更するのは、その移行中の全延伸倍率が定常時の全延伸倍率以上に引張られ糸切れするのを防ぐためである。そして停止時は逆に2段目の弛緩部を最後に変更する。この他様々の方法が行われるが、PC60は移行順を自由に設定することができるので、仕掛品の変更に容易に対応できるようになっている。
【0024】また他の実施例として図6に4段延伸機とした場合における通信回線の接続の概略図を示し、その起動時における動作パターンを図7に示した。たとえ延伸倍率が大きくなってもモータにかかる負荷は順に倍率を変更するためそれほど大きくならない。
【0025】さらに本発明は本実施例に限定されるものではなく、延伸仮撚機等の延伸および弛緩装置を有する繊維機械に適用してもよい。
【0026】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、起動時および停止時における糸条の延伸および弛緩によるローラ駆動手段の負荷を最小限にすることによって、駆動手段の設備コストの低減および消費電力の減少になる装置を提供することができるという効果を奏する。また起動および停止に要する時間を短縮することができるので、糸の損失をできるだけ抑制することができるという効果を奏する。さらに起動および停止時に糸条に適度な張力を付与することができるので、糸切れを減少させることができるという効果を奏する。
【出願人】 【識別番号】000147774
【氏名又は名称】株式会社石川製作所
【出願日】 平成8年(1996)7月23日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−37034
【公開日】 平成10年(1998)2月10日
【出願番号】 特願平8−213172