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【発明の名称】 ミシン糸の製造方法
【発明者】 【氏名】渡辺 康市
【氏名】段本 佳久
【課題】毛羽を有するポリエステルマルチフィラメントミシン糸に均一な外観を備え、目飛び及び縫製時の溶断による糸切れが少なく、良好な縫製特性を付与する。

【解決手段】ポリエステルマルチフィラメントミシン糸の製造において、下撚が施され、かつマルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を複数本合わせ、該紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条の下撚方向とは逆の方向に上撚を施して合撚糸とした後、該合撚糸に熱延伸を施す方法である。熱延伸は延伸温度80℃〜230℃、延伸比1.02〜1.20の範囲で行うことが好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 下撚が施され、かつマルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を複数本合わせ、該紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条の下撚方向とは逆の方向に上撚を施して合撚糸とした後、該合撚糸に熱延伸を施すことを特徴とするミシン糸の製造方法。
【請求項2】 上記の紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条として、ポリエステルマルチフィラメント糸条に下撚を施した後、粗面体を含む施撚体にて前記下撚方向とは逆の方向の仮撚を施すと同時にマルチフィラメントの一部を切断して得られた紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を用いる請求項1記載のミシン糸の製造方法。
【請求項3】 下撚を施し、かつマルチフィラメントの一部を切断した紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を一旦巻き取ることなく複数本合わせ、上撚を施す請求項1または2記載のミシン糸の製造方法。
【請求項4】 上撚を施した後、一旦巻き取ることなく合撚糸に熱延伸を施す請求項1,2又は3記載のミシン糸の製造方法。
【請求項5】 下撚を施し、かつマルチフィラメントの一部を切断した紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を一旦巻き取ることなく複数本合わせ、設定の上撚数の一部を付与して一旦巻き取り、続いて二重撚糸機で設定の上撚数の残りを付与した後、一旦巻き取ることなく合撚糸に延伸を施す請求項1記載のミシン糸の製造方法。
【請求項6】 熱延伸を延伸温度が80℃〜230℃、延伸比が1.02〜1.20の範囲で施す請求項1ないし5の何れか各項記載のミシン糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ミシン糸の製造方法に係り、更に詳しくはフィラメントミシン糸と同じ様な均一性があって且つ紡績糸ミシン糸と同じ様な取扱い性の良さを持った新規なミシン糸の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ミシン糸として一般に多く用いられるポリエステル紡績糸ミシン糸は糸斑に起因する縫目の汚さと、細くなれば製造コストが大きく上昇することから細くて美しい外観を必要とする場合にはフィラメントミシン糸が多く用いられている。
【0003】ポリエステルマルチフィラメント糸条を用いたフィラメントミシン糸は一般に糸の引張り弾性率を高くとることが出来るため、縫製時の目飛びと称される縫目欠点が生じ難く、また、引張り強度の変動が小さいため縫製時の糸切れも少ない。更に糸斑が少なく縫目が美しいこともフィラメントミシン糸の特徴である。しかしながら、フィラメントミシン糸を用いた高速での縫製時にはミシン針は糸の溶融温度をしばしば越える温度に違するため、停止時にフィラメントミシン糸が溶断してしまう問題があった。更に該ミシン糸には毛羽が無いため布と糸との適度な摩擦がなく縫目が布から浮くような欠点が出易いことも同フィラメントミシン糸の問題点であった。
【0004】そこで、このようなフィラメントミシン糸の欠点を改善する方法として、特開昭50−82342号公報,特開昭51−136947号公報,特開平2−216233号公報に見られるようなポリエステルマルチフィラメントに擦過体や砥石を当てる方法や撚糸や高圧空気流体で交絡処理を施した後、自らの糸同士を擦り合わせる方法で毛羽立てた糸条を用いる方法が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の如き各方法で毛羽を与えた糸条は構成するマルチフィラメント間に微小な糸の長さの変動を生じさせるから、該糸条を用いたミシン糸は引張り弾性率が低く縫製性は必ずしも良いものにはなっていない。
【0006】本発明は上述の如き実状に対処し、ポリエステルマルチフィラメントに毛羽を付与したミシン糸に更に撚加工、延伸などの処理を付与することを見出し、均一な外観を備え、目飛び及び縫製時の溶断による糸切れが少なく、良好な縫製特性を有するミシン糸を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】即ち、上記目的に適合しその課題を解決する本発明の特徴は、先ず基本的にポリエステルマルチフィラメントミシン糸の製造において、下撚が施され、かつマルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を複数本合わせ、該紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条の下撚方向とは逆の方向に上撚を施して合撚糸とした後、該合撚糸に熱延伸を施す方法にある。
【0008】請求項2記載の発明は上記方法における紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条、即ち下撚が施され、かつマルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条の好ましい態様として、ポリエステルマルチフィラメント糸条に下撚を施した後、粗面体を含む施撚体にて前記下撚方向とは逆の方向の仮撚を施すと同時にマルチフィラメントの一部を切断した紡績糸様糸条を用いることにある。
【0009】また請求項3記載の発明は上記下撚を施しかつマルチフィラメントの一部を切断した紡績糸様ポリエステルマルチフィラメントラメント糸条を一旦、巻き取ることなしに複数本合わせ、上撚を施すことを特徴とする。
【0010】更に請求項4記載の発明は上記複数本合わせ、上撚を施した合撚糸を、上撚を施した後、一旦、巻き取ることなしに熱延伸工程に通し、該合撚糸に熱延伸を施すことを特徴とする。
【0011】請求項5記載の発明は、上記方法における上撚りに変化を与えたもので、前述の紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を一旦、巻き取ることなく複数本合わせ、これに設定した上撚数の一部を付与して一旦巻き取り、続いて二重撚糸機で設定の上撚数の残りを付与した後、一旦巻き取ることなく合撚糸に熱延伸を施すことを特徴とする。なお、上述した方法における熱延伸の条件としては延伸温度80℃〜230℃,延伸比1.02〜1.20の範囲で熱延伸を行うこか好適である。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、更に本発明の実施の形態について詳述する。
【0013】本発明は前述の如く、下撚が施され、かつマルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を素材とすることから始まる。本発明で用いる上記下撚が施され、かつマルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条は、バイト等の鋭利な物質にフィラメントを押し付けて走行させる等の方法でマルチフィラメントの一部を切断した後、得られた糸条を撚糸することでも得られるが、概してこのような方法でマルチフィラメントの一部を毛羽立てる方法は糸の強度と伸度の低下が大きく撚糸性が悪いと共に強度が必要なミシン糸の用途に適切な糸特性が得られない恐れがある。
【0014】そこで、本発明における紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条としてはつぎのような方法で得るのが好ましい。即ち、ポリエステルマルチフィラメントに下撚を施した後、粗面体を含む施撚体にて前記下撚方向とは逆の方向の仮撚を施すと同時にマルチフィラメントの一部を切断する方法で紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を得る方法である。この方法で得られた紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条は強度の低下が少なくミシン糸用に用いるには好ましい。
【0015】そこで、更にポリエステルマルチフィラメントに下撚を施した後、粗面体を含む施撚体にて前記下撚方向とは逆の方向の仮撚を施すと同時にマルチフィラメントの一部を切断する方法について詳しく説明すると、図1はこの方法の概略を示すものである。下撚を付与する方法はアップツイスター方式が好ましく、特に二重撚式方式が撚糸時の糸に掛かる張力が一定で品質がよく、且つ生産性が高い点で好ましい。そして、図示の如く用いるポリエステルマルチフィラメント1、1′、1″を予めボビンに巻き図示しない撚糸機のホルダーに装着する。ロータリーディスク2、2′、2″はベルトを介して駆動機により回転され糸条に撚を掛ける。撚糸されたポリエステルマルチフィラメントはガイドG1,G1′,G1″、テンション装置3、3′、3″、ガイドG2、G2′、G2″を経て粗面体を含む施撚体4に導かれ、該施撚体4でロータリーディスク2、2′、2″で付与された撚方向とは逆の仮撚を施され、該施撚体4の上でその逆方向の仮撚により撚が極めて少ない状態でポリエステルマルチフィラメントの一部のフィラメントが容易に切断される。糸条には該施撚体4を通過後、直ちにロータリーディスク2、2′、2″で付与された下撚が戻る。
【0016】かくて、一部のフィラメントの切断により毛羽が付与された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条は一本づつ一旦巻き取ることも、複数本同時に一旦巻き取ることも可能であるが、図1に示すように、複数本合わしてリング式撚糸機7にてボビン8に巻き取ると工程が短縮化できて合理的である。通常、上撚は繊度の平方根の比率の逆数分だけ下撚より撚数は少なくなるが、下撚の二重撚糸機に比べ上撚のリング式撚糸機はそれ以上に回転数を上げることが難しく、リング式撚糸機7においては設定上撚数の30%〜80%程度の撚数を付与しておくのが好ましい。なお、5は引取りローラ、G4はガイド、6はスネールワイヤである。
【0017】次に上記リング式撚糸機7で合撚ボビン8に巻き上げられた合撚糸は図2のヒーターが付いた二重撚糸機に装着され上撚の設定撚数の残りの撚数が付与される。そして設定撚数が付与された合撚糸10はローラー12と14の間でヒーター13を介して延伸されたのち巻取りローラ15によりパッケージ16に巻き取られる。
【0018】一般に下撚の施された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条は毛羽を付与する段階でマルチフィラメント間の繊維の配向性が低下して糸条の引張り弾性率が低くなる。発明者はこのことが紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を用いたミシン糸の縫製性が向上しない原因であると究明し、更に熱延伸する方法に至った。
【0019】下撚の施された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を単独で熱延伸する方法も考えられるが、上撚を施す段階で配向が再び乱れ十分な効果は得られにくい。反面、ミシン糸として用いる複数本を合撚された状態で熱延伸することによって初めて十分な効果が得られる。そこで、通常、後者の合撚状態の熱延伸が適用されるが、熱延伸の条件は延伸温度が80℃〜230℃、延伸比が1.02〜1.20の範囲にあることが好ましい。延伸温度が80℃未満であると延伸が均一に行われず、斑のない均一な充填構造の好ましい糸構造にならない。延伸温度が230℃を越えると繊維が熱硬化し縫製時の糸切れにつながって好ましくない。更に延伸比が1.02未満であると繊維が糸の軸方向に配向する程度が下がり十分な効果が得られない。延伸比が1.20をこえると延伸段階での糸切れが多くなったり、合撚糸の熱収縮が増すので好ましくない。
【0020】このようにして得られた糸条内における繊維の配向性が高く毛羽がある紡績糸様マルチフィラメントの合撚糸は、カセまたはチーズで糸染めされた合撚、縫製時の針と糸との摩耗を下げる効果のある仕上げ油剤を付与しポビンに巻き取られる。
【0021】
【実施例】図1,2の装置を用い、下記の如く実施した。ポリエステルマルチフィラメントとして通常の紡糸、延伸方法で製造された破断強度が5.2グラム/デニール、破断伸度が30%、、乾熱160℃の熱収縮率が5%、繊度が60デニール、フィラメント数が108の糸を用いて、該ポリエステルマルチフィラメント糸条1、1′、1″を通常のパーンワインダーを用いてパーンに巻き上げ図示しないホルダーにセットしロータリーディスク2〜2″を回転させて撚方向Zの1250回/mの撚を付与した後、テンション装置3〜3″によって6グラムの張力を付与し糸起毛のため施撚体4に導いた。施撚体4は特開平4−240237号公報に示される3軸の外接型施撚体であって、表面の粗度が20sの粗面ディスクを3枚装着したものを用いた。そして、施撚体4〜4″によって仮撚方向Sの撚を付与しつつポリエステルマルチフィラメントの構成するマルチフィラメントの一部を切断した後、3本をローラー5で合わしてリング式撚糸機7へ導き500回/mのS方向の撚を施しボビン8に巻き上げた。
【0022】次いで、引き続いて図2に示す装置を用いてボビン8にS方向の400回/mの追撚を施した後、ローラー12と14の間で延伸比1.08、温度200℃で合撚糸10に延伸を施しパッケージ16に巻き上げた。ちなみに延伸比は以下の式で求めた。
延伸比=ローラー14の表面速度/ローラ12の表面速度パッケージ16で巻き上げられた合撚糸を軟巻きチーズに巻き上げ、130℃で糸染め後、シリコンを主体とする仕上げ油剤を付与し本発明のミシン糸を得ることが出来た。
【0023】一方、比較例として、ボビン8までは前記実施例と同じで、図2のローラー14とヒーター13を用いず延伸が施されない(ローラー12で合撚糸をニップしない。また、ヒーター13は常温)紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を用いたミシン糸を製造した。
【0024】そこで、これら実施例と比較例の特性を比較するため表1にまとめた。なお、引張り強度、7%伸長時の応力はJIS L−1013に準拠した測定方法で実施した。乾熱収縮率は同じくJIS L−1013の乾熱収縮率のB法で温度を160℃にて実施した。また、縫製性は、本縫ミシン機を用いてツイル織物を何枚4m間縫えるかで可縫製枚数を測定し、ボタン穴かがりミシン機でツイル織物を4枚重ねて5回かがり縫いを実施したときの縫製不良箇所で目飛びを評価し、縫い目はツイル織物二枚を本縫い後、縫い目にアイロン掛けし、ひきつれ,ネップ等で評価した。
【0025】
【表1】

【0026】上記表1より本発明のミシン糸は比較例のミシン糸に比べ、引張り弾性率に相当する7%伸長時応力が大きいため目飛びが少なく強度も上がっているため、可縫製枚数も多く取れることが判かった。また、糸の収縮も低いために縫い目がパッカリング状になることもなく、毛羽の効果と相俟って非常に美しい外観であった。
【0027】
【発明の効果】以上のように本発明ミシン糸の製造方法は下撚りが施され、マルチフィラメントの一部が切断された紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を複数方合わせ、下撚方向とは逆の方向に上撚を施して合撚糸とした後、該合撚糸に熱延伸を施す方法であり、特に紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条の下撚方向とは逆方向の上撚を施して合撚糸とし、熱延伸を施したため、毛羽があるに拘らず、糸斑の少ない均質な外観があって、引張り弾性率が高く、かつ熱収縮も低い従来にない特性のミシン糸が得られる。しかも、本発明の製造方法で得られたミシン糸を用いれば目飛びが少なく、縫製可能枚数が多く、縫製時の溶断による糸切れが少ないといった良好な縫製条件で縫製が出来て、しかも縫製合撚の縫い目の美しいものが得られる。殊に請求項2記載の紡績糸様ポリエステルマルチフィラメント糸条を用いることにより糸条の強度の低下は少なく、ミシン糸の実用的効果を高める。また、複数本合わせて上撚りを施し、かつ熱延伸することにより工程の短縮化を図り、工程合理化に寄与することができると共に、二重撚糸機を用いればより撚糸効率を高め生産性を向上させる効果を有する。
【出願人】 【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡績株式会社
【出願日】 平成8年(1996)7月15日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 泰一
【公開番号】 特開平10−25640
【公開日】 平成10年(1998)1月27日
【出願番号】 特願平8−205191