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【発明の名称】 船外機用アルミニウムダイカスト合金の防錆方法および防錆処理を施したアルミニウムダイカスト合金製船外機の機体
【発明者】 【氏名】前嶋 正受
【氏名】猿渡 光一
【氏名】高谷 松文
【氏名】伊藤 六郎
【氏名】伊藤 謙一郎
【氏名】横山 実
【氏名】川合 潔
【課題】低コストで防錆効果の大きいアルミニウム製の船外機を提供する。

【解決手段】アルミニウムダイカスト合金の表面に陽極酸化皮膜を施し、この皮膜を過マンガン酸カリウム水溶液で封孔処理を行ない、その上に塗膜を形成することを特徴とする船外機の防錆方法およびこの防錆方法で処理された船外機の機体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウムダイカスト合金の表面に陽極酸化皮膜を形成し、この皮膜を過マンガン酸カリウム水溶液で封孔処理を行ない、その上に塗膜を形成することを特徴とする船外機用アルミニウムダイカスト合金の防錆用方法。
【請求項2】 アルミニウムダイカスト合金がJISアルミニウムダイカスト合金 ADC 12もしくはADC 10であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金の防錆用方法。
【請求項3】 アルミニウムダイカスト合金で構成された船外機機体であって、アルミニウムダイカスト合金の表面に陽極酸化皮膜が形成され、この陽極酸化皮膜が過マンガン酸カリウムで封孔処理され、その上に塗料の塗膜が形成されていることを特徴とするアルミニウムダイカスト合金製船外機の機体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、アルミニウムダイカスト合金製の構造材料特にエンジン付ボートの船外機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、アルミニウムダイカスト合金の表面を防処理をする方法には数多くの方法があるが、エンジン付ボート等の船外機のように、アルミニウムダイカスト合金製の小型の船外機であってコストが安く、防錆効果の大きいものは未だ開発されていない。特に、アルミニウムダイカスト合金はこの船外機に多く用いられ、例えば、ADC 12もしくはADC 10が機械的な強度が強く、ダイカスト加工が容易であるので、他のダイカスト合金よりも好ましいものとして注目され、中でもADC 12はダイカスト加工が容易で強度も高く、低コストであるために船外機には非常に広く用いられている。しかしながら、このアルミニウムダイカスト合金は、ADC 12では1.5〜3.5%、ADC 10では2.0〜4.0%の銅を含有しているために腐食し易い欠点があり、一般的には図2に示すようにダイカスト合金からなる機体のアルミニウム素材a−2の表面に防錆のためのクロム酸処理によるクロメート皮膜b−2を形成し、その上にクロム酸亜鉛からなる防錆顔料を含むプライマーc−2と、上塗り塗料d−2とクリヤー塗料e−2とからなる3層構成の塗膜から構成されているものや、特開平2−250997号公報に開示され、図3に示したようなアルミニウムダイカスト合金製船外機の機体のアルミニウム素材a−3の表面に陽極酸化皮膜b−3を形成し、この皮膜に特公昭56−4155号公報に開示された手法によりモリブデン硫化物xを含浸して封孔処理し、この上に塗料の密着生を高め、かつ一層の防錆効果を得るためにプライマーc−3を塗布し、更にその上に上塗り塗料d−3を塗布し、更にクリヤー塗料e−3を塗布する方法が行なわれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図2に示したクロメート皮膜b−2は、厚さが10〜100Å程度で非常に薄く、傷等で素材が露出し易く、また、熱に弱いため塗料を焼き付ける際にクラックが発生し易く、塩水試験では500〜600時間で錆の発生が認められた。また、図3に示す陽極酸化皮膜b−3にテトラチオモリブデン酸アンモニウム水溶液中で陽極2次電解によってモリブデン硫化物xを含浸する方法を用いて封孔処理しても、アルミニウムダイカスト合金として成形性に優れた銅を多量に含むアルミニウム合金ではCuAl2 等の金属間化合物とし陽極酸化皮膜の形成時に陽極溶解した表面の欠陥部すべてにモリブデン硫化物を析出させて欠陥を塞ぐ完全な封孔処理は不可能である。またその皮膜の上にクロム酸ストロンチウム等の防錆顔料を含むプライマーc−3を塗布するため、このクロム化合物に対する環境対策、公害対策に多大の費用がかかるという問題がある。また、特開平8−144063号公報には、アルミニウムまたはアルミニウム合金を直接過マンガン酸カリウム水溶液、場合によりフッ化物等の化成皮膜促進剤をともに含有する水溶液に浸漬して表面に化成皮膜を形成させるアルミニウム系金属材料の表面処理法が記載されているが、船外機の機体として相応しいアルミニウムダイカスト合金に対する検討はなされていなかった。この技術を用いた場合を図面に示すと図4のとおりで、ダイカスト合金からなる機体のアルミニウム素材a−4の表面に防食のためのマンガン酸化物皮膜b−4を形成し、その上にノンクロムタイプのウレタン変性エポキシエーテル樹脂を主剤とするプライマーc−4と、上塗り塗料d−4とクリヤー塗料e−4とからなる3層構成の塗膜から構成されている。
【0004】
【課題を解決する手段】本発明者等は、上記の実情に鑑み、環境問題を最小限に押さえ、かつ、陽極酸化皮膜の防錆用の封孔処理効果を最大に得るための封孔処理方法を鋭意研究の結果、船外機の機体の外装として特にダイカスト成形の容易な銅含有量の多いアルミニウム合金を採用しながら、その耐蝕性を極度に高めるために、この表面に予め陽極酸化皮膜を形成しておき、これに生じた多数の微細孔を、過マンガン酸カリウム水溶液に浸漬して封孔させたところ、驚異的な耐食効果が付与され、長い間未解決であったアルミニウム合金特に銅を多量に含有するダイカスト合金を用いた船外機機体の耐食性を改善し、低コストで船外機を提供できる道を開いたものである。すなわち、過マンガン酸カリウム水溶液でアルミニウム陽極酸化皮膜を封孔処理すると、これまでに例を見ない驚異的な耐食性を示すことが塩水噴霧試験で確認された。さらに多重の塗装を行なって後の前記した従来法との塩水噴霧試験による耐食性の比較でも理解されるように、十分に実用に供し得ることが確認された。なお、上塗りおよびクリヤー塗料には、通常アクリル系塗料が用いられる。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明は、アルミニウム合金、特に銅含有量の多いダイカスト用合金で形成されたエンジン付ボートの船外機に用いられる機体に有用で、例えば図1に示すように、このダイカスト成形された機体の素材のa−1の表面を陽極酸化処理して、素材表面に陽極酸化皮膜b−1を形成させ、ついで過マンガン酸カリウムに浸漬して、陽極酸化皮膜b−1の表面の微細孔にマンガン酸化物yを充填して封孔処理を行なうことを特徴とし、次にこの皮膜の上に塗装を施して製品とするものであるが、塗料の密着性を高め、従来法とは異なるノンクロムタイプのプライマーc−1を塗布して、上塗り塗料d−1およびクリヤー塗料e−1を塗布して3層の皮膜を構成するものである。なお、本発明において用いられる過マンガン酸カリウム水溶液の濃度は1〜200g/Lで、処理温度は10〜80℃、処理時間は1〜120分で実施することができる。
【0006】
【作用】以上のように、過マンガン酸カリウム水溶液で銅成分の多いアルミニウムダイカスト合金の陽極酸化皮膜を浸漬すると、強力な酸化剤である過マンガン酸カリウムは溶液中でK+ と MnO4 - に解離し、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜と反応して二酸化マンガンを主体とし、さらには三酸化二マンガン、四酸化二マンガン、マンガン水酸化物等からなるマンガン酸化物を生成し、これらが皮膜の表面、微細孔、表面欠陥のいたる所に吸着、浸透して、その結果完全な封孔充填物となり、耐食性を顕著に向上させる結果となる。
【0007】また、溶液中に解離したMnO4 - はイオン集団としての大きさも小さく、陰イオン集団として存在するため、テトラチオモリブデン酸アンモニウム(NH42 MoS4 水溶液を解離して出来るMoS4 --の陰イオン集団を陽極に極性化された陽極酸化皮膜の微細孔に電着させていくと同様に、二酸化マンガンや三酸化二マンガン、あるいは四酸化二マンガンとして、皮膜の多孔層をくまなく充填し、この溶液に陽極酸化皮膜を浸漬して反応させた場合と同等の耐食性を示すことができる。
【0008】
【実施例】本発明の実施例及び比較例の試料を作成し、比較試験を行なった。
実施例1ダイカスト合金ADC 12からなる船外機の機体を中性脱脂液で脱脂後、硫酸電解浴で陽極酸化を行ない、10±3μmの陽極酸化皮膜を形成させる。続いてこの皮膜を60℃に加熱した0.2モルの過マンガン酸カリウム水溶液に15分間浸漬して取り出し、水洗、湯洗を行なう。次にこの表面にノンンクロムタイプのウレタン変性エポキシエーテル樹脂を主剤とするプライマーを25μmの厚さに塗布して、その上にメタリック等の上塗り塗料とクリヤー塗料を各々25μm程度塗布して塗装を行ない本発明の実施例の試料を得た。
【0008】比較例1ダイカスト合金ADC 12からなる船外機の機体を中性脱脂液で脱脂後、クロメート処理を行ない、クロミッククロメートを含む酸化物の化成処理皮膜0.01μmを形成後、その上からクロム酸亜鉛からなる防錆顔料を含むエポキシエステル樹脂を主剤とするプライマー25μmと、上塗り塗料25μm及びクリヤー塗料25μmを塗布し、比較例1の試料を得た。
【0009】比較例2ダイカスト合金ADC 12からなる船外機の機体を中性脱脂液で脱脂後、硫酸電解浴で陽極酸化を行ない、10±3μmの陽極酸化皮膜を形成させた。次に(NH4 2 MoS4 の示性式で示されるテトラチオモリブデン酸アンモニウム0.08%の水溶液中で、常温にて200mA/dm2 の電流密度で皮膜を陽極とし、ステンレス板を陰極とし5分間電解を行ない、皮膜の多孔層にモリブデン硫化物を含浸させ、続いてこの皮膜に実施例1と同様にノンクロムタイプのプライマー25μm、上塗り塗料25μm、クリヤー塗料25μmを塗布し、比較例2の試料を得た。
【0010】比較例3ダイカスト合金ADC 12からなる船外機の機体を中性脱脂液で脱脂後、硫酸電解浴で陽極酸化を行ない、10±3μmの陽極酸化皮膜を形成させた。次に比較例2と同様な方法で皮膜の多孔層にモリブデン硫化物を含浸させた後、防錆顔料であるクロム酸ストロンチウムを混入したウレタン変性エポキシエーテル樹脂をプライマーとして25μmの厚さに塗布し、その上に上塗り塗料25μm、クリヤー塗料25μmを塗布し、比較例3の試料を得た。
【0011】比較例4実施例1と同様にして10±3μmの陽極酸化皮膜を形成した後、全く封孔処理を行なわないで、直接実施例と同様なプライマー25μmおよび上塗り塗料25μm、クリヤー塗料25μmを塗布して比較例4の試料を得た。
【0012】比較例5ダイカスト合金ADC12からなる船外機の機体を中性脱脂液で脱脂後、実施例1に用いたと同様に60℃に加熱した0.2モルの過マンガン酸カリウム水溶液に15分間浸漬して取り出し、水洗、湯洗を行ない、次にこの表面にノンンクロムタイプのウレタン変性エポキシエーテル樹脂を主剤とするプライマーを25μmの厚さに塗布して、その上にメタリックの上塗り塗料とクリヤー塗料を各々25μm塗布して塗装を行ない比較例5の試料を得た。
【0013】上記の実施例および比較例の各試料について、表面にカッターナイフで切込み線を入れ、塩水噴霧試験を連続して行ない、カッターナイフの切込み線から発錆して側方に伸びる糸状腐食の最大長さを発生幅として測定した。2000時間の塩水噴霧を行なった結果を図5に示す。
【0014】図5の評価結果から判るように、本発明の実施例の試料は、従来の陽極酸化皮膜皮膜にモリブデン硫化物を含浸後、クロム酸ストロンチウムの防錆顔料を含むプライマーを塗布した比較例3の試料と同等以上の耐食性を得ている。また、本発明の実施例の試料は、従来法の一つである陽極酸化を行なわず、裸材にクロメート処理を施した比較例1の試料および陽極酸化を行なわず、過マンガン酸カリウム水溶液処理した比較例5の試料とは耐食性に大差が生じていることが判る。更にまた、モリブデン硫化物を皮膜に含浸してもプライマーがノンクロムタイプであると、十分な耐食性が得られないことが比較例2と比較例3のデータの比較で判る。これらの結果から本発明の実施例のように陽極酸化皮膜を過マンガン酸カリウム溶液中で封孔処理することにより、塗装のためのプライマーをノンクロムタイプにすることができ、環境、公害対策の面で大きく貢献することができる。
【0015】
【発明の効果】本発明は、銅成分の多いダイカスト用アルミニウム合金を素材とした船外機の機体の外装を、一般に用いられていた耐食性付与のためのクロム系の顔料を添加したプライマーを使用することなく、過マンガン酸カリで陽極酸化皮膜の封孔処理を行なうことにより特性の優れた封孔処理をするものであり、クリーンな状態で防錆特性を向上させることができ、特に加工性と機械的特性の優れたダイカスト合金として銅含有量の多い材料を用いることにより、その成形および強度等の有利さを損なうことなく、確実な防錆処理を実施できるので、船外機を低コストで提供できる効果があある。
【出願人】 【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
【識別番号】591111695
【氏名又は名称】株式会社ミヤキ
【出願日】 平成9年(1997)1月16日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 守
【公開番号】 特開平10−204686
【公開日】 平成10年(1998)8月4日
【出願番号】 特願平9−17775