トップ :: C 化学 冶金 :: C23 金属質材料への被覆;金属質材料による材料への被覆;化学的表面処理;金属質材料の拡散処理;真空蒸着,スパツタリング,イオン注入法,または化学蒸着による被覆一般;金属質材料の防食または鉱皮の抑制一般

【発明の名称】 銅合金鋳造物への表面処理方法
【発明者】 【氏名】川崎 晴健
【課題】熟練工でなくても十分に仕上げができると共に短時間でかつ常温にて処理することができる方法を提供する。

【解決手段】塩酸を5.0〜15.0w%未満、界面活性剤を3.0〜7.0w%、金属イオンとして少なくとも亜鉛、鉄、銅、ニッケルを若干添加した水溶液に銅合金鋳造物を5分〜30分間浸漬する工程と、浸漬後に銅合金鋳造物を洗浄する工程とからなる銅合金鋳造物への表面処理方法。表面処理加工を施す黄銅の成分は銅62.0w%〜82.0w%であり、亜鉛16.0w%〜33.0w%のものを使用する。表面処理加工を施す白銅の成分は銅56w%〜65w%であり、亜鉛15w%〜30w%のものを使用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 塩酸を5.0〜15.0w%未満、界面活性剤を3.0〜7.0w%、金属イオンとして少なくとも亜鉛、鉄、銅、ニッケルを若干添加した水溶液に銅合金鋳造物を5分〜30分間浸漬する工程と、浸漬後に銅合金鋳造物を洗浄する工程とからなる銅合金鋳造物への表面処理方法。
【請求項2】 前記銅合金が黄銅であり、表面処理加工を施す黄銅の成分が銅62.0w%〜82.0w%であり、亜鉛16.0w%〜33.0w%であることを特徴とする請求項1記載の銅合金鋳造物への表面処理方法。
【請求項3】 前記銅合金が白銅であり、表面処理加工を施す白銅の成分が銅56w%〜65w%であり、亜鉛15w%〜30w%であることを特徴とする請求項1記載の銅合金鋳造物への表面処理方法。
【請求項4】 希塩酸溶液に浸漬する前に銅合金鋳造物を塩化第二鉄の水溶液に浸漬することを特徴とする請求項1記載の銅合金鋳造物への表面処理方法。
【請求項5】 希塩酸水溶液に浸漬し洗浄した後に銅合金鋳造物の表面に蜜蝋を塗布することを特徴とする請求項1記載の銅合金鋳造物への表面処理方法。
【請求項6】 銅合金鋳造物の鋳造工程において鋳造表面がなるべくゆっくり冷却するように処理することを特徴とする請求項1記載の銅合金鋳造物への表面処理方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、金属工芸品や建築金物などに使用する銅合金の表面処理方法において、銅合金の表面に明瞭な金属結晶組織を出現させようとするものである。銅合金には、銅と亜鉛とを主成分として溶融させた黄銅、銅とニッケルとを主成分として溶融させた白銅と、銅と錫とを主成分として溶融させた緑銅とが知られている。
【0002】
【従来技術】銅合金(黄銅)の鋳造品の表面処理方法としては、古くより伝統工芸の技法の一つである煮色仕上げ法が知られており、今日においてもその方法が踏襲されている。すなわち、煮色仕上げ法には、以下に示す組成からなる溶液を使用する。
(1)緑青5.63g、硼砂(Na2B4O710H2O)0.375g、硫酸銅(CuSO4)5.63g、水1.8リットル(2)緑青5.63g、硫酸銅(CuSO4)5.63g、水1.8リットル(3)緑青3.75g、硫酸銅(CuSO4)3.0g、梅酢1cc、水1.8リットル(4)緑青3.75g、硫酸銅(CuSO4)3.0g、焼明礬(KAl(SO4)2)1.13g、水1.8リットル(5)緑青11.25g、硫酸銅(CuSO4)5.63g、水1.8リット(6)緑青3.75g、硫酸銅(CuSO4)3.0g、焼明礬(KAl(SO4)2)0.375g、水1.8リットルこれらの技法に使用する薬品を煮る容器は、銅合金の反応に影響のあるような素材のものは不適であり、最良の容器としては銅鍋を使用している。上記の薬品を技法通りに溶解してから使用するが、浸漬する前に銅合金をよく研磨すると共に表面の脱脂を十分に行う。脱脂方法としては以下のような手法を用いている。
(1)重曹又は灰汁で丁寧に洗浄する。
(2)「大根おろしで洗う」
かかる脱脂の後に銅合金を沸騰した溶液に浸漬した状態で表面の結晶を確認しながら30分から3時間程度煮込むことにより表面に結晶を出現させる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらかかる従来の伝統的な方法では、溶液が不透明であること、溶液を沸騰させながら反応させる方式であるために、反応の状況の確認のために銅合金を持ち上げた場合に銅合金の表面がすぐに乾いてしまい、表面に曇りなどの悪影響がでる。そのため取り出した銅合金をすばやく水中に入れて、状態を確認する必要がある。従来の技術は、伝統工芸の長い経験とカンを頼りにしたものであり、十分に熟練した者でなければきれいな結晶を作り出すことはできない。そこで本発明は、かかる従来技術の欠点に鑑みなされたもので熟練性を必要とせず、仕上げ状況を目視することができ、取扱いが簡単な常温において処理することが可能な方法を見出し発明したものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、塩酸を5.0〜10.0w%、界面活性剤を3.0〜7.0w%、金属イオンとして少なくとも亜鉛、鉄、銅及びニッケルを若干添加した水溶液に銅合金鋳造物を5分〜30分間浸漬する工程と、浸漬後に銅合金鋳造物を洗浄する工程とからなる銅合金鋳造物への表面処理方法により本目的を達成する。表面加工処理に使用する銅合金が黄銅であるときには、黄銅の成分として銅が62.0w%〜82.0w%であり、亜鉛が16.0w%〜33.0w%であることが好ましい。銅合金が白銅であるときは、表面処理加工を施す白銅の成分として銅56w%〜65w%であり、亜鉛15w%〜30w%であることが好ましい。また希塩酸溶液に浸漬する前に銅合金鋳造物を塩化第二鉄の水溶液に浸漬するようにするときれいな表面処理を施すことができる。表面処理加工後に銅合金鋳造物の表面に蜜蝋を塗布するようにすると結晶の仕上げ状態を長時間維持することができる。さらに表面に大きな結晶を浮かび上がらせるためには、浸漬する銅合金鋳造物の鋳造工程において鋳造表面がなるべくゆっくり冷却するように処理することが好ましい。
【0005】
【作用】黄銅は、主たる成分として銅及び亜鉛よりなることから結晶は、銅と亜鉛とが混ざりあった状態となる。溶液はいわゆる希塩酸の状態にあることから黄銅の成分の内イオン化傾向の高い金属Al(アルミニウム)、Pb(鉛)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Sn(錫)、Pb(鉛)の順に溶け出し、イオン化傾向の低い金属Cu(銅)は容易には溶け出さないことから、浸漬した鋳造物表面には、黄銅の結晶が析出した状態となる。白銅は、主たる成分として銅、ニッケル及び亜鉛よりなることから結晶は、銅、ニッケル及び亜鉛とが混ざりあった状態となる。溶液はいわゆる希塩酸の状態にあることから黄銅の成分のうちイオン化傾向の高い金属Al(アルミニウム)、Pb(鉛)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Sn(錫)、Pb(鉛)の順に溶け出し、イオン化傾向の低い金属Cu(銅)は容易には溶け出さないことから、浸漬した鋳造物表面には、白銅の結晶が析出した状態となる。一般に金属と希塩酸の反応では水素ガスが発生し、鋳造物表面に水素が付着しようとする。しかし本発明にかかる希塩酸水溶液では、界面活性剤を添加していることから鋳造物の表面は濡れの状態にあり、滑らかで滑り易い状態となっている関係で反応により発生したガスは、浮上して空気中に発散する。その結果反応中においても部分的に気泡が付着して反応しないようなピンホール現象の発生を防ぐことになる。また本発明にかかる表面処理加工では、溶液を常温状態で反応させていること及び溶液が塩酸と界面活性剤で構成されていることから濁りがなく、表面の状態を反応中においても目視することができる。尚、本発明では、溶液中に亜鉛、鉄、銅、鉛、ニッケル等の金属イオンを若干添加しているので、これらが鋳造物表面の金属が溶け出すためのきっかけとなり溶液と接触している金属表面の反応は浸漬時点からスムーズに反応が進こととなる。
【0006】
【発明の実施の形態】以下に本発明を実施例に従って詳細に説明する。
【実施例1】以下の銅合金として以下の表1に示す組成からなる黄銅を選択し、各成分のものについてそれぞれ5個の鋳造物を作成した。
【0007】
【表1】

【0008】反応溶液の作成9.5w%の希塩酸(2.5N)の溶液に全体重量の3.0〜7.0w%の界面活性剤を加えたものに、金属イオンとしてZn(亜鉛)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Pb(鉛)、Ni(ニッケル)等を添加し、これらを良く掻き混ぜたものを作成する。溶液の比重は、5.0〜8.0ボーメであった。
【0009】表面処理加工次に下記に示す工程により銅合金鋳造物に結晶仕上げを施す。
(1)銅合金鋳造物にサンドブロー又はバフ研磨により金属表面を磨く。
(2)磨き上げた銅合金鋳造物を有機溶剤(シンナー)により脱脂を行う。
(3)銅合金鋳造物を塩化第二鉄の水溶液に10秒程度浸漬するした後水洗して空拭きする。
(4)常温の反応溶液に金属表面の状態を確認しながら10分〜30分間程浸漬する。
(5)浸漬後よく水洗した後、柔らかい布にて空拭き乾燥させる。
(6)完全に乾燥した後に、当該銅合金鋳造物を蜜蝋が溶ける温度まで温め、蜜蝋にて拭くきあげる。
【0010】
評価方法■銅合金(黄銅)鋳造物の表面に結晶が表れないもの :×■銅合金(黄銅)鋳造物の表面に結晶が表れるが、結晶:△ の大きさ(面積)が0.01cm2以上0.1cm2未満のもの■銅合金(黄銅)鋳造物の表面の結晶が表れるが、結晶:○ の大きさ(面積)が0.1cm2以上0.25cm2未満のもの■銅合金(黄銅)鋳造物の表面の結晶の大きさ(面積):◎ が0.25cm2以上のもの上記評価方法に基づき、表面加工処理を施したA〜Hの各黄銅鋳造製品について評価を行ったところ、上記表1の通りとなった。
【0011】
【実施例2】前記実施例1において結晶の評価が◎となった表2の製品(A)の銅合金鋳造物(黄銅)について、希塩酸溶液として表3に示す2.0w%、5.0w%、10.0w%、15.0w%のものを用意し、前述の方法に基づき表面加工処理を行い、金属表面にできる結晶の状態を観察したところ、表3に示す通りとなった。尚、界面活性剤の濃度は3.0〜7.0w%とした。
【0012】
【表2】

【0013】
【表3】

【0014】(まとめ1)黄銅の表面に結晶を作り出すための条件として、黄銅の成分が銅62.0w%〜82.0w%であり、亜鉛16.0w%〜33.0w%の範囲のものを使用することが望ましく、希塩酸の濃度としては5.0w%以上で15.0w%未満であることが望ましい。
【0015】
【実施例3】以下の銅合金として以下の表4に示す組成からなる白銅(Niを10〜30w%含有)を選択し、各成分のものについてそれぞれ5個の鋳造物を作成した。
【0016】
【表4】

上記物質に以外に珪素(Si)を0.005w%未満含有させた。(単位:w%)
【0017】反応溶液の作成9.5w%の希塩酸(2.5N)の溶液に全体重量の3.0〜7.0w%の界面活性剤を加えたものに、金属イオンとして亜鉛Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Pb(鉛)、Ni(ニッケル)等を添加し、これらを良く掻き混ぜたものを作成する。溶液の比重は、5.0〜8.0ボーメであった。
【0018】表面処理加工次に下記に示す工程により銅合金鋳造物に結晶仕上げを施す。
(1)銅合金鋳造物にサンドブロー又はバフ研磨により金属表面を磨く。
(2)磨き上げた銅合金鋳造物を有機溶剤(シンナー)により脱脂を行う。
(3)銅合金鋳造物を塩化第二鉄の水溶液に10秒程度浸漬するした後水洗して空拭きする。
(4)常温の反応溶液に金属表面の状態を確認しながら10分〜30分程浸漬する。
(5)浸漬後よく水洗した後、柔らかい布にて空拭き乾燥させる。
(6)完全に乾燥した後に、当該銅合金鋳造物を蜜蝋が溶ける温度まで温め、蜜蝋にて拭くきあげる。
【0019】評価方法1(結晶の大きさ)
■銅合金鋳造物の表面に結晶が表れないもの :×結晶の大きさ(面積)が0.0001cm2未満■銅合金鋳造物の表面に結晶が表れるが、結晶 :△の大きさ(面積)が0.0001cm2以上0.01cm2未満のもの■銅合金鋳造物の表面の結晶が表れるが、結晶 :○の大きさ(面積)が0.01cm2以上0.1cm2未満のもの■銅合金鋳造物の表面の結晶の大きさ(面積) :◎が0.1cm2以上のもの評価方法2(結晶の明確さ)
■銅合金鋳造物の表面の結晶が明確なもの :●■銅合金鋳造物の表面の結晶が明確でないもの :▲ 評価方法3(色合い)
■銅合金鋳造物の表面が多少黄ばんでいるもの :有り■銅合金鋳造物の表面が黄ばんでいないもの :無し上記評価方法に基づき、表面加工処理を施したI〜Mの各白銅鋳造製品について評価を行ったところ、上記表5の通りとなった。
【0020】
【表5】

【0021】(まとめ2)以上のことから銅の含有量が58w%〜65w%で、亜鉛の含有量が15〜30w%で、ニッケルの含有量が13w%〜23w%からなる白銅の銅合金に関しては、白銅の合金表面に結晶を作り出すことができることが判明した。また、銅の含有量を60w%〜65w%付近で、亜鉛及びニッケルの含有量を38w%〜42w%とした時に黄ばみがなく、はっきりした結晶を作り出すことができた。比較のために単純に9.5w%の希塩酸(2.5N)のみの水溶液(界面活性剤を加えない水溶液)を作成し、前記評価方法で一番優れた白銅合金(M)について、浸漬して結晶の具合を観察したところ、10分〜30分程の浸漬では、表面に結晶が現われなかった。
【0022】
【発明の効果】以上述べたように本発明にかかる常温結晶仕上げ方法は、従来の煮色方式のものに比較して、非常に短時間の内に白銅及び黄銅の銅合金の表面に結晶組織を出現させることができると共に、溶液が透明状態であることから反応中でも金属表面の状態を浸漬させた状態で確認できる。さらに高温ではなく常温にて反応させるように構成しているので、作業における取扱いが簡便であると共に安全で、従来のように技能を必要としない。また、反応を促進するために希塩酸溶液に金属イオンを溶かし込んだので、反応時間を短くすることができる。
【出願人】 【識別番号】596107578
【氏名又は名称】川崎 晴健
【出願日】 平成8年(1996)7月23日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】稲木 次之 (外1名)
【公開番号】 特開平10−36982
【公開日】 平成10年(1998)2月10日
【出願番号】 特願平8−193061