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【発明の名称】 建材用チタン薄板
【発明者】 【氏名】石井 満男
【課題】チタン薄板を主に屋根用建材として用いる際に、曲げ加工等を行ったときに問題となるスプリングバックの発生を抑制して、形状凍結性の良い建材用純チタン薄板を提供する。

【解決手段】板厚Tのチタン薄板の複数箇所に加工硬化部を形成し、加工硬化部の幅R、深さH、間隔Lが、0.3≦R/T≦1.5、2≦L/R≦10、0.3≦H/T≦1の関係を満たすことを特徴とする形状凍結性に優れた建材用チタン薄板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 板厚Tのチタン薄板の複数箇所に加工硬化部を形成し、加工硬化部の幅R、深さH、間隔Lが、0.3≦R/T≦1.5、2≦L/R≦10、0.3≦H/T≦1の関係を満たすことを特徴とする形状凍結性に優れた建材用チタン薄板。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建材用チタン薄板に関し、さらに詳しくは、建材として加工される際に、特に曲げ成形時に形状凍結性に優れた建材用チタン薄板に関する。
【0002】
【従来の技術】空港ターミナルビル、鉄道施設、高速道路料金所・休憩所、体育館、展示場、国際会議場、シンボルタワー、図書館、公民館、オフィスビル等の大型建造物や大型娯楽施設には、主に屋根材として意匠性、景観性、耐久性を重視してステンレス鋼板やチタン薄板が多用されつつある。
【0003】ステンレス鋼板やチタン薄板を用いてこれらの大型建築構造物の屋根材を構成する場合、通常は、製品の長手サイズの曲げ金型を有するプレス曲げ成形機でバッチ的に成形するか或いはコイル状に巻かれた薄板を所定の幅にスリット加工して条としたものを多段ロール成形機にかけて「コ」の字型に成形して広幅の形材とする。更にこれらを溶接やはめ込みによって互いに接合して広い面積を葺くという工法がとられる。その際、曲げ金型を使用する場合もロール成形機を使用する場合も、成形材に長手方向を軸とする捩りや、部分的に設計通りの曲げ角度が得られないといういわゆるスプリングバックが起こるため、建築物としての見掛けが低下することが知られている。
【0004】スプリングバックは、特に塑性加工歪が少ない軽度の曲げ加工や加工曲げ半径の大きい曲げ加工において顕著に起こり、与えられた塑性加工歪に比べて弾性歪の程度が無視できない時に起こりやすい。特に、ヤング率の小さいチタン材のような材料では、このスプリングバックが顕著である。
【0005】このようなスプリングバックの発生を抑制するため、従来は、例えば加藤健三著「冷間ロール成形」(日刊工業新聞社、昭和46年刊、第6.1.6節に言及されているように(1)予めスプリングバック量を見込んで成形を行うオーバーベンディング法、(2)サイドロール等によって側方から圧力を加える等の方策が取られてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の方法では、予めスプリングバック量を見込むのにかなりの熟練を要し、治具やロール調整に時間がかかることに加え、チタンのように機械的性質の異方性が比較的大きい材料では、材料の規取りの自由度が制限される。
【0007】更に、オーバーベンディングには高荷重のプレス曲げ成形やロール成形を行わなければならない。これを不用意に行うと、ロールとチタンとが凝着して成形素材の表面意匠性を損なうばかりでなく、成形金型や成形ロールの摩耗により成形品の寸法精度が低下するとともに、摩耗が激しい場合は金型やロールの交換や再機械加工が必要となる。
【0008】本発明は、上述の方策を採ることなく、ロール成形やプレス成形等による曲げ加工を施した際にスプリングバック量が小さく形状凍結性に優れた建材用チタン薄板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、スプリングバックは曲げ成形時の弾性歪の量が組成歪に比べて無視できないため起こるとの観点から、薄板材に予め加工硬化部を多数分布させておき、曲げ成形時には未加工硬化部に成形の塑性歪を負担させて、未加工硬化部の単位体積当たりの塑性歪の量を大きくすることにより弾性歪によるスプリングバックが阻止できるという知見を得た。
【0010】本発明は、板厚Tのチタン薄板の複数箇所に加工硬化部を形成し、加工硬化部の幅R、深さH、間隔Lが、0.3≦R/T≦1.5、2≦L/R≦10、0.3≦H/T≦1の関係を満たすことを特徴とする形状凍結性に優れた建材用チタン薄板である。
【0011】なお、本発明で加工硬化部の深さHとは、加工硬化部の板厚方向の深さをいう。また、加工硬化部の間隔Lとは、ある方向において隣接する加工硬化部の中心間の距離をいうものとする。そして間隔Lと、その方向における加工硬化部の幅Rとが、2≦L/R≦10の関係を満たすようにする。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明者は、チタンを建材用として適用する際に問題となるスプリングバックの発生を抑制するために、チタン薄板(板厚T)に加工硬化部と未硬化部を適正に分布させることを試験によって検討した。試験には、工業用純チタンJIS一種、二種、三種、Ti−3Al−2.5V合金、β型合金Ti−15V−3Cr−3Al−3Snの薄板(板厚0.2〜1.0mm)の焼鈍板を用いた。次に、これらの板に局所的な加工硬化部を与えるため、ロール表面に種々の高さで種々の幅の円形突起を複数設けたワークロールを使って冷間圧延し、板に凹部を形成させた。凹部を付けた後、更に一部の材料には凹凸の少ない平坦なワークロールで圧延して仕上げた。但し、焼鈍板に与える圧延歪量は合計7%以下とした。
【0013】次に、圧延後の材料に施された加工硬化部をミクロ組織観察して、表面を起点として板厚中心部に向かって硬化した加工硬化部の形状(加工硬化部の幅Rと深さH、硬化部の間隔L)を調査した。そして、リングバックの程度を成形素材の焼鈍板の圧延方向(RD)に直角な方向(TD)に相当する方向から採取した試験片(100mmTD×300mmRD)をRDを曲げ軸として曲げ半径5mmで曲げ角度が90度になるように金型を用いて曲げ試験を実施した。曲げ試験後の試験片の曲げ内側部の角度を測定し、その値と90度との差をスプリングバック量として定義した。スプリングバックと加工硬化部の分布状況との関係を調査した結果、スプリングバックの発生を抑制するためには、0.3≦R/T≦1.5、2≦L/R≦10、0.3≦H/T≦1を満足させることが必要であることが判明した。
【0014】本発明における加工硬化部をチタン薄板に分布させる方法としては、上記試験では冷間圧延用ワークロールに突起を設け、それを板に押圧させる方法を用いたが、これに限ることなくいかなる方法を用いてもかまわない。加工硬化部のミクロ組織観察は、機械的双晶密度あるいはすべり線の密度が高いので容易に観察でき、硬化部の形状(幅R、深さH、間隔L)の測定も可能である。観察には、チタンの化学エッチングに通常用いられるエッチング液、例えば硝フッ酸水溶液を用いるとよい。
【0015】上記試験のように、突起を持ったワークロールで冷間圧延し、その後に表面をならすための圧延を行う際には、圧延による最大歪量は7%以下にすることがチタンの特性を損なわないために望ましい。なお、板の表面には加工部の模様が残ることもあるが、必要に応じて更にショットブラスト処理を行えば簡単に模様を消すことができる。
【0016】
【実施例】以下に本発明の実施例について説明する。
[実施例1]最終焼鈍を真空焼鈍炉で行った工業用純チタンJIS一種の焼鈍板を、突起の分布を種々に変えたワークロールで圧延し、その後の表面ならし圧延を含めて合計7%の圧延を行い、板厚0.209mmの薄板を得て、加工硬化部の形状をミクロ観察するとともに、スプリングバック性の評価試験を行った。
【0017】結果は、表1に示すように、加工硬化部の深さHの板厚Tに対する比率が高く、そしてそれらの間隔Lが長さRに比べて大きすぎない場合にはスプリングバックの発生が抑えられる。一方、Hが小さすぎる場合にはスプリングバックが発生してしまう。
【0018】
【表1】

【0019】[実施例2]真空焼鈍炉内で最終焼鈍を施した(α+β)型Ti−3Al−2.5V合金の薄板を用いて、実施例1と同様な試験を行った。なお、圧延量の合計は5%で、板厚は0.299mmであった。表2に結果を示すように、本発明の条件を満たすように加工硬化部が分布したものは、スプリングバックの発生が抑制できる。
【0020】
【表2】

【0021】[実施例3]最終焼鈍を真空焼鈍炉で実施した工業用純チタンJIS一種の焼鈍製品コイルを、種々の突起を持ったワークロールで5%の圧延を行い、その後の表面ならし圧延を省略した薄板(板厚0.509mm)のスプリングバック性評価試験を行った。表3に示すように、表面ならし圧延を省略した場合でも、加工硬化部の大きさと分布がスプリングバック性に大きく影響することが分かる。そして、加工硬化部の深さの板厚に占める割合、加工硬化部の幅及びそれら加工硬化部の分布する間隔を本発明の条件内に規定することによって、曲げ加工時の組成歪/弾性歪の割合が変化し、結果的にスプリングバックの発生が抑制できる。
【0022】
【表3】

【0023】[実施例4]最終焼鈍を大気中で行い、その後ソルト処理と酸洗を行った工業用純チタンJIS二種の薄板コイルを、突起を持ったワークロールで3%の圧延を行ない、その後の表面ならし圧延を含めて合計4%の圧延を行った薄板(板厚0.697mm)のスプリングバック性評価試験を行った。表4に示すように、酸洗処理をおこなった材料に対しても加工硬化部を付与する作用効果は同じであり、本発明の規定する条件を満たすものにはスプリングバックの発生はない。
【0024】
【表4】

【0025】[実施例5]最終焼鈍を大気中で行い、その後ソルト処理と酸洗を行ったβ型Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn合金を、突起を持ったワークロールで3%の圧延を行い、その後の表面ならし圧延を含めて合計4%の圧延を行った薄板(板厚1.03mm)のスプリングバック性評価試験を行った。表5に示されるように、β型合金であってしかも酸洗処理を行った材料に対しても、材料内部に本発明の規定条件を満たす加工硬化部を付与することにより、スプリングバックの発生が抑制される。
【0026】
【表5】

【0027】
【発明の効果】本発明の建材用チタン薄板は、薄板の中に導入した加工硬化部の大きさとそれらの分布を特定することによって、主に屋根用建材として加工する場合に問題となるロール成形時あるいはプレス成形時のスプリングバックの発生を抑制することができ、形状凍結性に優れているので、建材用としての用途に適し、従来のような予めスプリングバック量を見込んで加工するという回避の方策が必要なくなり、生産効率や経済性が向上する。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成8年(1996)6月10日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弘明 (外1名)
【公開番号】 特開平10−1759
【公開日】 平成10年(1998)1月6日
【出願番号】 特願平8−147273