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【発明の名称】 機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼
【発明者】 【氏名】次井 慶介
【氏名】中村 貞行
【課題】

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、C:0.10〜0.60%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.50%、S:0.01〜0.07%、Al:0.002〜0.05%、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.0005〜0.003%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつCaOを8〜62%含むカルシウムアルミネート酸化物介在物を内部に包み込んだ、長径/短径比が5以下であるような紡錘型のCaを1%以上含むカルシウムマンガン硫化物介在物を含有することを特徴とする機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼。
【請求項2】 請求項1に記載の合金成分に加えて更に重量%で、Pb:0.04〜0.4%、Bi:0.02〜0.3%、Se:0.1〜0.5%、Te:0.003〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつCaOを8〜62%含むカルシウムアルミネート酸化物介在物を内部に包み込んだ、長径/短径比が5以下であるような紡錘型のCaを1%以上含むカルシウムマンガン硫化物介在物を含有することを特徴とする機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、高い機械的性質を必要とする機械構造部品などは、鍛造、圧延などの塑性加工で粗加工した後、切削加工によって所望の最終形状に仕上げるのが一般的であった。
【0003】塑性加工後の切削加工を容易にする目的から、被削性に優れた快削鋼に対する要求が近年ますます増加してきている。
【0004】その様な状況のもと、低速切削加工性に優れた硫黄快削鋼や高速切削加工性に優れたカルシウム快削鋼、ドリル穴あけ加工性に優れた硫黄、鉛快削鋼など各種快削鋼が研究開発されており、切削加工条件に合わせた快削鋼が適宜使用されている。
【0005】しかしながら、一つの部品に適用される切削加工は必ずしも一通りの加工ではなく、例えばドリル穴あけ加工と高速切削加工の両方の加工が必要となる場合は多い。この場合、両方の切削加工性を満足させることは非常に困難であった。
【0006】高速切削加工性に優れることで知られるCaを添加した快削鋼は、CaO−Al−SiO系の介在物によって被削性を向上させているため多量の酸素を必要とし、鋼中に多量の酸化物が存在して、清浄度に劣る場合が多く、機械的性質の制約から自ずと適用範囲が限られていた。更にこうしたカルシウム快削鋼では、ドリル穴あけ加工性を向上させるような効果はなかった。
【0007】清浄度向上のために酸素を低減させることにより酸化物を減少、微細化させる場合もあるが、この場合はアルミナ主体の硬質酸化物が生成して工具に悪影響を与え、被削性を低下させる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した従来の問題点に着目し、機械的性質に優れかつドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、種々の研究を重ねた結果、低酸素硫黄快削鋼をベースにCaを添加する事によって、マンガン硫化物介在物の形状と組成、アルミナ酸化物の組成、更にはそれらの析出形態をコントロールする事により下記(a)〜(c)の知見を得るに至った。
【0010】(a)Al:0.002〜0.05%かつO:0.0005〜0.003%の低酸素機械構造用鋼に、Caを添加する事によりマンガン硫化物介在物及び従来のCaO−Al−SiO系介在物を有するカルシウム快削鋼とは異なるアルミナ酸化物の双方に一部Caが含まれるようになる。
【0011】(b)Caを含有したマンガン硫化物介在物(以下カルシウムマンガン硫化物という)はCaを含有しないマンガン硫化物介在物に比較して塑性変形能が劣化するが故に鋳造後の圧延、鍛造時には比較的丸い紡錘形状を維持する。
【0012】(c)Caを含有したアルミナ酸化物介在物(以下カルシウムアルミネート酸化物という)は、アルミナ主体の硬質酸化物に比較して軟化するとともに、Caを仲立ちとしてカルシウムマンガン硫化物との親和性を増加させるため、硫化物よりも融点の高いカルシウムアルミネート酸化物が先に析出した後、これを核としてカルシウムアルミネート酸化物を包み込むような形でカルシウムマンガン硫化物が析出する。
【0013】上記知見に基づく本発明は、清浄度を確保した低酸素鋼において、球状化した硫化物により機械的性質の異方性を最小限に止めつつ、軟化した酸化物を更に軟らかい硫化物で包み込む事により硬質酸化物と工具の直接接触の回避して工具摩耗を低減してドリル穴あけ加工性を向上させ、更にカルシウムアルミネート酸化物による工具被覆効果で高速切削加工性をも向上させる機械構造用鋼であり、下記(1)〜(2)の成分と介在物形態を要旨とするものである。
【0014】(1)重量%で、C:0.10〜0.60%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.50%、S:0.01〜0.07%、Al:0.002〜0.05%、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.0005〜0.003%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつCaOを8〜62%含むカルシウムアルミネート酸化物介在物を内部に包み込んだ、長径/短径比が5以下であるような紡錘型のCaを1%以上含むカルシウムマンガン硫化物介在物を含有することを特徴とする機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼。
【0015】(2)上記(1)に記載の合金成分に加えて更に重量%で、Pb:0.04〜0.4%、Bi:0.02〜0.3%、Se:0.1〜0.5%、Te:0.003〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつCaOを8〜62%含むカルシウムアルミネート酸化物介在物を内部に包み込んだ、長径/短径比が5以下であるような紡錘型のCaを1%以上含むマンガン硫化物介在物を含有することを特徴とする機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼。
【0016】
【作用】以下に、本発明における鋼の化学組成及び介在物形態を限定する理由について説明する。
【0017】C:Cは強度を確保するために必要な元素であり、0.10%未満では添加効果に乏しく、一方0.60%を越えると靭性が劣化するため、その含有量を0.10〜−0.60%に限定する。
【0018】Si:Siは溶製時の脱酸剤として含有され、焼入れ性を向上させる元素である。しかし、0.50%を越えて多量に添加されると熱間加工時に割れを発生しやすくなるため、0.50%以下に限定する。
【0019】Mn:Mnは硫化物形成元素であり、0.30%未満では所望の効果が得られず、1.50%を超えると鋼の硬さを増大させて被削性を低下させるので、その含有量を0.30〜1.50%に限定する。
【0020】S:Sは被削性の向上に有効な元素である。従って0.01%未満では所望の効果が得られず、0.07%を超えると靭性と延性を悪化させるばかりか、更にはCaと高融点のCaSを形成して鋳造工程に多大なる障害をもたらすため、その含有量を0.01〜0.07%に限定する。尚好ましい範囲は0.03%〜0.07%である。
【0021】Al:Alは脱酸に必要な元素であり、0.002%以上必要とする。しかし、0.05%を超えると酸化物中のAl量が過多となってのカルシウムアルミネート酸化物を形成する事が不可能となるため、その含有量を0.002〜0.05%に限定する。
【0022】Ca:Caは本発明においてきわめて重要な意味を持つ元素である。即ち、マンガン硫化物介在物の変形能を小さくして塑性加工後の硫化物形状を紡錘型に維持するとともに、アルミナ酸化物を軟化させて工具に与える衝撃を緩和し、更には酸化物を硫化物が包み込むように仲立ちをする。以上の効果を達成するために0.0005%以上含有する事が必要である。しかし、0.005%を超えると高融点のCaSを形成して鋳造工程に多大なる障害をもたらすため、その含有量を0.0005〜0.005%に限定する。
【0023】O:鋼中のOは酸化物系介在物の形で存在し、鋼の機械的性質に有害であり、極力低減させるのが望ましい。Al0.002〜0.05%、Ca0.0005〜0.005%とした時低減可能なO量は0.0005%である。従来のCaを含んだ快削鋼は主として、CaO−Al−SiO系の酸化物系介在物を鋼中に生成させることにより、酸化物系の工具保護膜を形成して被削性を向上させてきた。こうしたCaO−Al−SiO系の酸化物介在物を生成させるには0.007好ましくは0.01%以上のOを必要としていたため、鋼の清浄度と強度において劣る場合が多かった。何故なら、Oは酸化物の生成エネルギーの観点から、CaついでAlと結合する。従って、CaO−Al−SiO系の酸化物を生成させるためには、Ca及びAlと酸化物を形成する以上に多量のOが必要であった。これに対して本発明では、カルシウムアルミネート酸化物を形成する程度のO量で十分である。これに伴って鋼の清浄度や強度が向上する。過剰なOはかえって鋼の強度を低下させるため、O量は0.003%以下としなければならない。以上の理由により、Oの含有量を0.0005%〜0.003%に限定する。
【0024】本発明の機械的性質とドリル穴あけ加工性に優れた機械構造用鋼には、上記成分に加えて更にPb,Bi,Se,Teのうちの1種以上を含んでいてもよい。これらの合金元素の効果と含有量を限定する理由について説明する。
【0025】Pb、Bi:Pb、Biは単独で或いは硫化物外周に付着する様な形で存在し、それ自身が被削性を向上させる効果を有する。こうした効果を得るためには、Pbで0.04%、Biで0.02%以上が必要である。過剰な場合にはPb、Biの鋼への溶解度を超え、かつその大きな比重のためにPb,Biは単独で凝集、沈殿して鋼中の欠陥となるため、含有量をPbで0.04%〜0.4%、Biで0.02%〜0.3%に限定する。
【0026】Se、Te:Se、Teも良く知られた被削性を向上させる元素である。こうした効果を得るためには、Seで0.1%、Teで0.003%以上が必要である。過剰な添加は熱間加工時に割れを発生しやすくなるため、含有量をSeで0.1%〜0.5%、Teで0.003%〜0.1%に限定する。
【0027】介在物の形態:アルミナ主体の酸化物は非常に硬質であり、工具と直接接触した場合には工具の摩耗を促進する事が知られている。この酸化物にCaOを含ませる事により酸化物自身を軟化させる事が可能である。このためには少なくともアルミナ主体の酸化物をCaO−6Al以上のCaOを含有した低融点酸化物とする事が必要であり、CaOの比率を8%以上にしなければならない。逆に過剰なCaOも酸化物の硬質化を引き起こすので3CaO−Al以下のCaO含有量とする必要があり、CaOの比率を62%以下にしなければならない。一方、通常のマンガン硫化物は鍛造、圧延などの塑性加工に際して非常に良く展伸し、鋼の機械的性質の異方性を助長する。展伸性を制限するためマンガン硫化物にCaを1%以上含ませる事によりマンガン硫化物の展伸性を減じる。また、正確に異方性を評価する時、長径/短径比が5以下である様な紡錘形状のマンガン硫化物を有する場合に鋼の機械的性質の異方性は軽減される。更には相対的に硬質な酸化物を相対的に軟質の硫化物が包み込む事により工具の摩耗は低減される。
【0028】
【実施例】本発明鋼の特徴を実施例を用いて説明する。表1及び表2に示す化学組成を有する鋼を5tonアーク炉にて溶製した。表1中のA1からA9とa1からa9はJIS規格のS45Cに相当または類似した鋼である。表1中のB1からB4とb1からb4はJIS規格のS55Cに相当または類似した鋼である。表1中のC1からC3とc1からc4はJIS規格のSCM415に相当した鋼である。表1中のD1からD7とd1からd2はJIS規格のSCM440に相当または類似した鋼である。表2中のA6とE1からE5とe1からe4はJIS規格のS45Cに表中記載の各元素を添加した鋼である。
【0029】圧延と鍛造により、断面が110mm×50mmの角材を作製した。圧延と直角方向の機械的性質を調査するために、引張試験と衝撃試験を実施した。引張試験用として圧延と直角方向からJIS4号試験片を作成し、試験はJIS Z2241に従って実施した。衝撃試験用として圧延と直角方向からJIS3号試験片を作成し、JIS Z 2242に従って実施した。
【0030】試験前処理として、各試験片に表3に示す熱処理を実施した。
【0031】圧延材の縦断面の検鏡試料を作成し、各試料毎に最大長さ5μm以上の介在物20個を任意に選び出し、画像解析により介在物の最大径Lと最小径Wを測定した。これより算出されるL/Wを表1、2中のL/Wとした。
【0032】前述の各試料毎20個の介在物で、光学顕微鏡を用いて観察した場合に黒色に見える内部の酸化物相当部と薄灰色に見える周辺の硫化物相当部それぞれについて、それらの組成をEPMAにて測定した。酸化物の測定値の中で最大のCaO比率(百分率)を示した値を表1、2中のCaO−Oとし、硫化物の測定値の中で最大のCa比率(百分率)を示した値を表1、2中のCa−Sとした。
【0033】ドリル穴あけ加工性を評価するために、ハイスドリルを用いた寿命試験を実施した。切削条件を表4に示す。ドリルの破損に至るまでの加工終了穴数をもってドリル寿命とした。
【0034】製造性として、鋳造性と圧延性を評価した。5tonの溶鋼全量が2.5tonインゴット2本に鋳造完了しなかった場合を製造性劣とした。更に鋳造完了した中でも、直径100mmの丸棒に圧延していく工程において、10%以上の外観疵による不良が発生した場合を製造性やや劣とし、20%以上の外観疵による不良が発生した場合を製造性劣とした。
【0035】表2中の鋼については、圧延後の丸棒にて発汗試験を実施し、異常の認められたものについては、表6中に内部欠陥有りとした。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】表1、表5よりAの本発明鋼は少なくともドリル寿命が14以上である。これに対して、a1はC成分が規定範囲を超えるため硬さ増加、靭性劣化によりドリル寿命は短い。a2はMn成分が規定範囲より少ないため十分な量の硫化物が生成せずドリル寿命は短い。a3はMn成分が規定範囲を超えるため硬さ増加によりドリル寿命は短い。a4,a5の場合ドリル寿命は開発鋼並みであるが、a4では過剰なSにより機械的性質が大きく劣化するとともに鋳造時にはCaSの析出により長時間鋳造を続けるのが困難である。a5では鋳造時にはAlの析出により長時間鋳造を続けるのが困難である。a6からa9についてはAl、Ca成分が規定範囲を外れるため、介在物中のCaO、Ca比率が小さくなってドリル寿命は短い。
【0043】表1中のB、C、Dの発明鋼についてもA発明鋼とほぼ同様な結果であった。
【0044】表6から明らかな様にPb,Bi,Se,Teの各快削元素を添加する事によりドリル寿命は大幅に長くなる。しかし、e1からe4の様に、規格範囲を超える過剰な添加は鋼の製造性を著しく悪化させる。
【0045】
【発明の効果】以上の説明で明らかな様に本発明鋼は、機械的性質及び製造性の劣化を招くことなくドリル穴あけ加工性を大幅に向上させる事ができるものである。これにより、従来は機械的性質上の問題から被削性を犠牲にしてきた機械構造部品への適用が可能となり、産業上の利点が極めて大きい。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【出願日】 平成9年(1997)4月16日
【代理人】
【公開番号】 特開平10−287953
【公開日】 平成10年(1998)10月27日
【出願番号】 特願平9−131543