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【発明の名称】 HSP27ファミリーに属するタンパク質のシコニン含有合成抑制剤
【発明者】 【氏名】森野 眞嘉
【氏名】都築 智子
【氏名】白神 俊美
【氏名】清輔 洋一
【氏名】吉汲 親雄
【課題】分子量16キロダルトンから40キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質(HSP27ファミリー)がその悪性化や温熱療法の効果の減少に関連する癌、又はHSP27ファミリーに属するタンパク質がその発症に関連する多発性硬化症などの自己免疫疾患の患者の生理学的状態を有効に改善させ、前記病気を効果的に治療することができる、HSP27ファミリーに属するタンパク質の合成抑制剤を提供する。

【解決手段】シコニンを有効成分として含有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 シコニンを有効成分として含有することを特徴とする、分子量16キロダルトンから40キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質の合成抑制剤。
【請求項2】 シコニンを含有する植物の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、分子量16キロダルトンから40キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質の合成抑制剤。
【請求項3】 シコンの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、分子量16キロダルトンから40キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質の合成抑制剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シコニンを有効成分として含有する、分子量が16キロダルトン(kD)から40kDまでの間の熱ショックタンパク質群(以下、HSP27ファミリーと称する)に属するタンパク質の合成抑制剤に関する。本発明によるHSP27ファミリーに属するタンパク質の合成抑制剤は、特に、HSP27ファミリーに属するタンパク質の組織内合成を抑制することによって、HSP27ファミリーに属するタンパク質が発症、悪性化、又は治療の障害に関与するものと考えられている病気、例えば、癌、又は多発性硬化症などの患者の生理学的状態を有効に改善させ、前記の病気を効果的に治療することができる。
【0002】
【従来の技術】近年の化学療法、外科療法、放射線療法、及び免疫療法などの進歩にもかかわらず、依然として癌による死亡原因に癌の悪性化が直接的又は間接的に関わっており、癌の悪性化の克服が今後の癌治療の大きな課題の一つとなっている。癌の悪性度は、癌の増殖性、浸潤性、又は転移性などによって定められる。悪性化の現象の一つである転移は原発癌の種類により、転移を起こしやすい臓器が異なる。癌の転移は複合事象であり、原発腫瘍の増殖、癌細胞の原発巣からの離脱と周辺組織への浸潤・増殖から始まって、腫瘍血管新生、癌細胞の最寄りの血管内への侵入、血流による遠隔部位への移動と血管内皮細胞への接着・着床、更に、血管外への浸潤、遠隔部位(転移組織)での増殖の開始に続いて新たな腫瘍血管が新生され、やがて可視的な転移巣の形成に至るまでの複雑な反応カスケードから成り立っている。一般に、癌は、高い悪性度を有するものと、比較的に悪性度の低いものとに分けられる。しかし、悪性度の高い癌に対しては根本的な治療法は確立しておらず、患者は遂には死に至ることが極めて多い。
【0003】また、癌の温熱療法(ハイパーサーミア;hyperthermia)とは、癌組織を加温することにより、腫瘍細胞を選択的に殺し、癌を治療しようとする方法であり、近年注目を浴びている。温熱療法による癌治療は、温熱の生物学的効果をみると、41〜45℃の比較的温和な加温で細胞致死効果が得られること、また放射線や抗癌剤などと併用することにより相乗的な効果が得られることなど、有利な点が多い。温熱療法による癌の治療法は、臨床においてはほとんどすべての各科で試みられている。しかし、温熱療法の問題点の一つは、加温後一過性に誘導される温熱耐性である。すなわち、癌細胞が1回目の加温により一時的に温熱耐性になるために、次の加温による殺細胞効果が減少する。温熱耐性とは、細胞(又は組織)を一度亜致死的な加温をすることにより、次の加温に対してその細胞(又は組織)が一過性に温熱抵抗性になることである。温熱耐性のため、現在ほとんどの施設において温熱療法を行うのは週1〜2回に限定されているのが現状である。
【0004】また、癌の化学療法においても、化学療法に殆ど反応しない肺癌や大腸癌などの固型癌が依然として存在する一方で、化学療法剤に反応する癌でも、やがて抗癌剤が効かなくなる耐性化が問題となっている。1988年のアメリカの統計によれば、1年間に診断された癌の49%が化学療法に最初から抵抗性を示す内因性耐性であり、47%が当初化学療法が有効で、腫瘍がいったん消退した後に再発した獲得性耐性とされている。これらの事実から、癌に対する化学療法の効果を妨げる最も重要な問題の一つは細胞毒性薬剤に対する耐性であることがわかる。
【0005】また、多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)は中枢神経白質を特異的に障害する炎症性脱髄性疾患であり、その発症機序に、神経線維を包んでいるミエリン鞘を免疫系が攻撃することが示されている自己免疫疾患である。多発性硬化症は多くの場合、初期には急性憎悪・寛解を繰り返すが、その後徐々に進行性の経過をとるようになる。急性期の症状改善を目的としたものとして、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や副腎皮質ステロイド剤が、また寛解期での再発予防や慢性進行型の症状進展防止を目的として、アザチオプリンやサイクロフォスファミドなどの免疫抑制剤が用いられてきた。しかし、現在、多発性硬化症患者に投与されている薬剤の多くは、その効果が期待されていたほどでなく、非特異的な療法で副作用も多くみられるなど、十分とはいい難いのが現状である。多発性硬化症のより特異的な治療法の開発が期待されている。
【0006】一方、熱ショックタンパク質(heat shock protein;HSP、ストレスタンパク質ともいう)は、細胞を何らかのストレス、例えば熱、重金属、薬剤、アミノ酸類似体、又は低酸素(低濃度酸素)などで刺激することにより、細胞に発現される一群のタンパク質である。熱ショックタンパク質は、自然界に普遍的に存在しており、細菌、酵母、植物、昆虫、及びヒトを含む高等動物により産生される。
【0007】HSPは、その種類は多種多様であるが、分子量の大きさからHSP90ファミリー(例えば、90kD又は110kDのHSPなど)、HSP70ファミリー(例えば、70〜73kDのHSPなど)、HSP60ファミリー(例えば、57〜68kDのHSPなど)、低分子HSPファミリー(例えば、20kD、25〜28kD、又は47kDのHSPなど)の4ファミリーに大別することができる。なお、本明細書においては、特定分子量を有するHSPを、HSPとその直後に記載する数字とによって示すものとし、例えば、分子量27kDのHSPを『HSP27』と称するものとする。以上のように、HSPには多くの種類が存在するが、これらは分子量だけでなく、構造、機能、又は性質などもそれぞれ異なるものである。ストレスへの応答に加えて、これらのタンパク質の中には構成的に合成されるものがあり、正常な環境の下で、タンパク質のフォールディング、アンフォールディング、タンパク質サブユニットの会合、タンパク質の膜輸送のような、必須の生理的な役割を演じていることが示されている。熱ショックタンパク質としてのこれらの機能は、分子シャペロンと称される。
【0008】HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現は、ヒト乳癌において、リンパ節転移、リンパや血管への浸潤、より短い生存率との間に顕著な相関がある("J. Natl. Cancer Inst." 83: 170-178, 1991)。胃癌においてもHSP27ファミリーに属するタンパク質はネガティブな予後因子であるとの報告がある("Br.J. Surg.", 78: 334-336, 1991)。HSP27ファミリーに属するタンパク質の原発癌細胞における発現レベルが癌悪性度、特に癌の再発率と正の相関があるという報告もあるので("Breast Cancer Res. Treat.", 12: 130, 1988; "Proc.Am. Assoc. Cancer Res.", 30: 252, 1989)、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制することにより、癌の悪性化を防止することが可能である。
【0009】癌の温熱療法で問題となる温熱耐性にHSP27ファミリーに属するタンパク質が関与するという報告がある。ヒトHSP27遺伝子をマウス又はハムスター細胞に導入して発現させたところ、熱ショック後に生き残る温熱耐性の細胞がHSP27のタンパク質の量に依存して誘導され増加する("J. Cell. Biol.", 109 : 7-15, 1989)。また、チャイニーズハムスター細胞で、HSP27を定常的に発現するようになった変異株が熱耐性を獲得できるようになる("J. Cell. Physiol.", 137 : 157, 1988)。α−Bクリスタリンは、熱ショック処理で誘導され、HSP27とアミノ酸配列の相同性が高いタンパク質であり、HSP27ファミリーに属するタンパク質の一つであるが、α−Bクリスタリンを過剰発現させた細胞も熱ストレスに対する耐性を獲得する("J. Cell. Biol.", 125 : 1385-1393, 1994)。このことは、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制することにより、温熱耐性を抑え、癌に対する温熱療法の効果を増強する可能性を示している。また、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現と薬剤耐性とが相関するとの報告もあるので("Breast Cancer Res. Treat.", 23:178, 1992; "Cancer Res.", 51: 5245-5252, 1991)、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制することにより、薬剤耐性を抑え、化学療法の効果を増強することも可能である。
【0010】多発性硬化症における免疫的に優性な抗原が、HSP27ファミリーに属するタンパク質であるα−Bクリスタリンであることが突き止められている("Nature", 375 : 739-740, 1995)。α−Bクリスタリンは、多発性硬化症患者の神経組織中での発現が、非発病者の組織中での発現よりも強く、非常に免疫原性が高い("Nature", 375 : 798-801, 1995)。これらの事実は、多発性硬化症で自己抗原となっているのは、HSP27ファミリーに属するタンパク質の1種であるα−Bクリスタリンであり、ミエリン鞘におけるα−Bクリスタリンの発現を抑制することが多発性硬化症の根本的治療に結び付くことを示している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記事情に鑑み、癌や多発性硬化症などの病気の患者の生理学的状態を有効に改善させ、前記の病気を効果的に治療することのできる方法を開発するために、HSP27ファミリーに属するタンパク質に対して合成抑制作用を示す化合物に関して、種々検討を重ねてきた。その結果、本発明者らは、意外にも、シコンの成分であるシコニンが、病態を示す組織の細胞におけるHSP27ファミリーに属するタンパク質の合成を特異的に抑制することを見出した。すなわち、シコニンを投与することによって、細胞内でのHSP27ファミリーに属するタンパク質の合成が抑制され、従って、癌や多発性硬化症などの病気の治療が可能であることを見出したのである。本発明はこうした知見に基づくものであり、癌や多発性硬化症などの病気を効果的に治療することのできる、HSP27ファミリーに属するタンパク質の合成抑制剤を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】従って、本発明は、シコニンを有効成分として含有することを特徴とする、分子量16キロダルトンから40キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質(すなわち、HSP27ファミリーに属するタンパク質)の合成抑制剤に関する。
【0013】本明細書において、「HSP27ファミリー」とは、前記のとおり、分子量が16kD〜40kDの熱ショックタンパク質群を意味する。HSP27ファミリーに属するタンパク質としては、例えば、哺乳動物のHSP27(すなわち、分子量27kDの熱ショックタンパク質)〔若しくはHSP28(すなわち、分子量28kDの熱ショックタンパク質)〕、トリのHSP25(すなわち、分子量25kDの熱ショックタンパク質)、又は酵母のHSP26(すなわち、分子量26kDの熱ショックタンパク質)などを挙げることができる。なお、一般的に、タンパク質の分子量は、例えば、分子量測定方法又は実験条件などの違いにより多少の差が生じるので、HSP27ファミリーに属するタンパク質の中には、例えば、哺乳動物におけるHSP27とHSP28とのように、分子量表記が異なっていても、それらがアミノ酸配列の異なる別異のタンパク質であるのか、あるいは単に分子量表記のみが外見上異なる同一のタンパク質であるのかが、現在のところ明らかではないものも含まれている。HSP27ファミリーに属するタンパク質は、前記の低分子HSPファミリーに属する熱ショックタンパク質のうち哺乳動物において最も主要な熱ショックタンパク質であり、生物種を超えてよく保存された特徴を示す。しかし、HSP27ファミリーに属するタンパク質は、他の熱ショックタンパク質とは異なり、種ごとに異なる分子量を有しており、分子量16kD〜40kDと、非常に多様なタンパク質である。また、HSP27とアミノ酸配列の相同性の高いα−Bクリスタリンも熱ショック処理で誘導され、HSP27ファミリーに属するタンパク質の一つである【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の合成抑制剤は、有効成分としてシコニン(shikonin)を含有する。本発明の合成抑制剤において有効成分として使用することのできるシコニンは、式(I):【化1】

で表される化合物であり、例えば、シコン等の生薬に含まれている。シコニンには、立体異性体が存在し、それらの任意の純粋の立体異性体又はそれらの混合物を、本発明の合成抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0015】本発明の合成抑制剤に含有されるシコニンは、化学合成によって、又は天然物から抽出して精製することによって、調製することができる。あるいは、市販品を用いてもよい。本発明の合成抑制剤において有効成分として用いるシコニンを、天然物から抽出する場合には、例えば、シコニンを含有する植物の全体又は一部分(例えば、全草、葉、根、根茎、茎、根皮、花、若しくは果実)をそのまま用いて、又は簡単に加工処理(例えば、乾燥、切断、湯通し、蒸気加熱、若しくは粉末化)したもの(例えば、生薬)を用いて抽出する。抽出条件は一般的に植物抽出に用いられる条件ならば特に制限はない。シコニンを含有する植物としては、これに限定するものではないが、例えば、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini)、又はアルネビア・エウクロマ〔Arnebia euchroma (Royle) Johnst.〕等を使用することができる。
【0016】本発明におけるシコニンを生薬から抽出する場合、これに限定するものではないが、例えば、シコンから抽出することが好ましい。シコン(紫根;Lithospermi radix;Lithospermum root)とは、ムラサキの根を意味し、それらの部分を単独であるいは任意に組み合わせて使用することができる。
【0017】本発明の合成抑制剤において有効成分として用いることのできるシコン抽出物は、前記のシコニンを含有していればよく、従って、シコンの粗抽出物を用いることができる。本発明で用いることのできるシコン抽出物の製造方法としては、シコンを、水(例えば、冷水、温水、又は熱湯)によって抽出するか、又は有機溶媒を用いて抽出することによって、得ることができる。有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜6のアルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、若しくはブチルアルコール)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、若しくは酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン若しくはメチルイソブチルケトン)、エーテル、石油エーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、炭化水素のハロゲン誘導体(例えば、四塩化炭素、ジクロロメタン、若しくはクロロホルム)、ピリジン、グリコール(例えば、プロピレングリコール、若しくはブチレングリコール)、ポリエチレングリコール、又はアセトニトリルなどを用いることができ、これらの有機溶媒を単独、又は適宜組み合わせ、一定の比率で混合し、更には無水又は含水状態で用いることができる。好ましくは、エーテル及び/又はジクロロメタン等が望ましい。水抽出又は有機溶媒抽出の方法としては、通常の生薬抽出に用いられる方法を用いることができ、例えば、(乾燥)シコン1重量部に対し、水又は有機溶媒3〜300重量部を用いて、攪拌しながら、その沸点以下の温度で加熱還流、常温で超音波抽出、あるいは冷浸することが望ましい。抽出工程は、通常は5分〜7日間、好ましくは10分〜60時間実施し、必要に応じて、攪拌等の補助的手段を加えることにより、抽出時間を短縮することができる。
【0018】抽出工程終了後、濾過又は遠心分離等の適当な方法により、水又は有機溶媒抽出液から、不溶物を分離して粗抽出物を得ることができる。なお、本発明の合成抑制剤において、天然物より抽出、分画したシコニンを用いる場合には、前記の粗抽出物を特に精製することなく、そのまま使用してもよい。常法による水抽出物又は有機溶媒抽出物の他に、前記の粗抽出物を各種有機溶媒又は吸着剤等により、更に処理した精製抽出物も、本発明の合成抑制剤の有効成分として用いることができる。これらの粗抽出物及び各種の精製処理を終えた精製抽出物を含むシコン抽出物は、抽出したままの溶液を用いても、溶媒を濃縮したエキスを用いても良いし、溶媒を留去し乾燥した粉末、更には結晶化して精製したもの、あるいは粘性のある物質を用いても良く、またそれらの希釈液を使用することもできる。こうして得られたシコン抽出物は、シコンに含まれるシコニンを含み、同時に原料のシコンに由来する不純物を含んでいる。
【0019】本発明の合成抑制剤は、シコニン、又はシコニンを含有する植物の抽出物、例えば、シコニンを含有する生薬の抽出物(特には、シコン抽出物)を、それ単独で、又は好ましくは製剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)に投与することができる。投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。例えば、シコニン1重量部と乳糖99重量部とを混合して充填したカプセル剤などである。
【0020】非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。例えば、注射剤の調製においては、有効成分としてのシコニン、又はシコニンを含有する植物の抽出物、例えば、シコニンを含有する生薬の抽出物(特には、シコン抽出物)の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。また、本発明の合成抑制剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の合成抑制剤をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0021】本発明の合成抑制剤は、これに限定されるものではないが、シコニンを、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。また、シコニンを含有する植物の抽出物、例えば、シコニンを含有する生薬の抽出物(特には、シコン抽出物)を有効成分として含有する本発明の合成抑制剤は、その中に含まれるシコニンが前記の量範囲になるように適宜調整して、調製することができる。なお、シコニンを含有する植物の抽出物、例えば、シコニンを含有する生薬の抽出物(特には、シコン抽出物)を有効成分として含有する合成抑制剤を、経口投与用製剤とする場合には、製剤学的に許容することのできる担体を用いて、製剤化することが好ましい。本発明の合成抑制剤を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などにより異なり、特に制限はないが、シコニン量として通常成人1人当り1mg〜10g程度を、1日1〜4回程度にわけて、経口的に又は非経口的に投与する。更に、用途も医薬品に限定されるものではなく、種々の用途、例えば、機能性食品や健康食品として飲食物の形で与えることも可能である。
【0022】
【作用】上記したように、本発明の合成抑制剤に含有されるシコニンは、細胞内のHSP27ファミリーに属するタンパク質の合成を特異的に抑制する作用があるので、前記シコニンを投与すると細胞でのHSP27ファミリーに属するタンパク質の生合成が特異的に減少する。従って、前記シコニンは、例えば、HSP27ファミリーに属するタンパク質がその悪性化に関連する癌の予防及び治療、HSP27ファミリーに属するタンパク質がその療法への障害となる温熱耐性に関連する癌温熱療法の効果の増強、又はHSP27ファミリーに属するタンパク質がその発症に関連する多発性硬化症などの自己免疫疾患の予防及び治療などに使用することができる。また、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現と薬剤耐性とが相関するとの報告もあるので("Breast Cancer Res. Treat.", 23: 178, 1992; "Cancer Res.", 51: 5245-5252, 1991)、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制することにより、薬剤耐性を抑え、化学療法の効果を増強することも可能である。
【0023】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:ヒト培養癌細胞のHSP発現量の測定(1)ヒト培養癌細胞の培養胃癌細胞株KATO III (ATCC HTB 103)を、10%非働化ウシ胎児血清含有RPMI1640培地中で、5%二酸化炭素条件下で、熱ショック時以外は、37℃で培養した。
【0024】(2)シコニン処理及び熱ショック処理播種2日後の胃癌細胞株KATO III の培地中には、最終濃度1μMになるように前記式(I)で表されるシコニン(一丸ファルコス)を添加し、24時間培養した。その後、45℃にて15分間熱ショック処理をしてから、37℃にて終夜培養した。対照試験は、シコニンを添加しないこと以外は前記と同様に実施した。
【0025】(3)ヒト培養癌細胞でのHSP発現量の測定前項(2)で処理した各細胞を、以下に示す方法によりホモジナイズし、HSP発現量をウェスタンブロット法にて測定した。すなわち、前項(2)で処理した細胞を、リン酸緩衝生理食塩水〔組成:KCl=0.2g/l,KH2 PO4 =0.2g/l,NaCl=8g/l,Na2HPO4 (無水)=1.15g/l;以下、PBS(−)と称する〕で洗浄した後、ライシスバッファー(lysis buffer)〔1.0%NP−40、0.15M塩化ナトリウム、50mMトリス−HCl(pH8.0)、5mM−EDTA、2mM−N−エチルマレイミド、2mMフェニルメチルスルホニルフルオリド、2μg/mlロイペプチン及び2μg/mlペプスタチン〕1mlを加え、氷上で20分間静置した。その後、4℃で12000rpmにて、20分間、遠心を行った。遠心後の上清10μlをPBS(−)790μlに加え、更にプロテインアッセイ染色液(Dye Reagent Concentrate : バイオラッド,カタログ番号500-0006)200μlを加えた。5分間、室温にて静置した後、595nmで吸光度を測定してタンパク質定量を行った。
【0026】タンパク質定量を行った試料を用いて、Laemmliのバッファー系(Laemmli, N. K., "Nature", 283 : pp. 249-256, 1970)にて、等量のタンパク質を含むライセートのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。電気泳動後、ブロッティング及びそれに続くブロッキングを行った。すなわち、タンパク質転写装置(Trans-Blot Electrophoretic Transfer Cell:バイオ・ラッド,カタログ番号170-3946)を用いて、室温にて100Vにて、0.45μmニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell,カタログ番号401196)にゲルを密着させ、3時間ブロッティングを行った。ブロッティングバッファーとしては、0.025Mトリス及び0.192MグリシンよりなりpH8.5に調整されたトリスグリシンバッファー(Tris Gly Running and Blotting Buffer;Enprotech, 米国マサチューセッツ州,カタログ番号 SA100034)にメチルアルコールを20%になるように加えて調製したバッファーを用いた。ブロッティング後、ニトロセルロース膜を10%スキムミルク(雪印乳業)−PBS(−)溶液に室温にて30分間、インキュベートし非特異的結合をブロックした。
【0027】ブロッキング後、ニトロセルロース膜の上で、抗ヒトHSP27マウスモノクローナル抗体(StressGen, Victoria, B.C., Canada, カタログ番号 SPA-800)により、1次抗体反応を行った。この抗ヒトHSP27マウスモノクローナル抗体は、ヒト乳癌細胞株MCF7(ATCC HTB 22)より単離したHSP24を免疫原として作製した抗体であり("Cancer Res.", 42, 4256-4258, 1982)、HSP27(ヒトHSP27、チンパンジーHSP27、及びヒツジHSP27)と特異的に反応し("Cancer Res.", 42, 4256-4258, 1982 ; "Cancer Res.", 43, 4297-4301, 1983)、HSP24及びHSP28とも特異的に反応する。1次抗体反応後、PBS(−)で5分間ずつ、溶液を取り替えて2回の洗浄をスロー・ロッキング・シェイカーによって行い、更にPBS(−)−0.1%Tween20(バイオ・ラッド,カタログ番号170-6531)溶液で15分間ずつ、溶液を取り替えて4回の洗浄を行った。最終的に、PBS(−)で5分間ずつ、2回の洗浄を行った。
【0028】洗浄終了後、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(CAPPEL,カタログ番号55550)を、2%スキムミルクを含むPBS(−)溶液で5000倍に希釈して調製した抗体溶液5mlを用いて、2時間、2次抗体反応を行った。反応終了後、ニトロセルロース膜に関して、PBS(−)溶液で5分間ずつ溶液を変えて2回、更にPBS(−)−0.1%Tween20溶液で15分間ずつ溶液を変えて5回の洗浄をスロー・ロッキング・シェイカーにより行った。最後にPBS(−)溶液で5分間ずつ2回の洗浄を行った。余分なPBS(−)溶液を除去した後、ウェスタンブロッティング検出試薬(ECL Western blotting detectionreagent;Amersham,カタログ番号RPN2106)をニトロセルロース膜上に振りかけ、1分間インキュベートした後、余分な検出試薬を除去し、ニトロセルロース膜をラップに包み、反応面をX線フィルム(コダック X-OMAT, AR, カタログ番号165 1454)に密着させて露光し、現像してHSP27の有無の検討を行った。
【0029】その結果、対照試験、すなわち、シコニンを添加しなかった胃癌細胞株KATO III では、分子量約27kDのバンドが一本検出された。なお、分子量は、前記抗ヒトHSP27マウスモノクローナル抗体との結合、及び分子量マーカー(ダイズトリプシンインヒビター及びウシカーボニックアンヒドラーゼ)により決定した。シコニンを添加した胃癌細胞株KATO III では、対照試験に比べて分子量約27kDのバンドの濃度が有意に薄くなった。すなわち、シコニンは、HSP27の発現を抑制する合成抑制剤の活性を有するものと結論することができる。
【0030】
【発明の効果】以上詳述したように、シコニンは、細胞内のHSP27ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制する合成抑制剤の活性を有する。従って、シコニンを投与することにより、例えば、HSP27ファミリーに属するタンパク質がその悪性化や温熱療法の効果の減少に関連する癌、その発症に関連する多発性硬化症などの自己免疫疾患の患者の生理学的状態を有効に改善させ、前記病気を効果的に治療することができる。また、HSP27ファミリーに属するタンパク質発現と薬剤耐性とが相関するとの報告もあるので("Breast Cancer Res. Treat.",23: 178, 1992; "Cancer Res.", 51: 5245-5252, 1991)、HSP27ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制することにより、薬剤耐性を抑え、化学療法の効果を増強することも可能である。
【出願人】 【識別番号】000001100
【氏名又は名称】呉羽化学工業株式会社
【出願日】 平成8年(1996)7月30日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
【公開番号】 特開平10−45574
【公開日】 平成10年(1998)2月17日
【出願番号】 特願平8−216664