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【発明の名称】 ストレッチ刺しゅう用縫糸およびその製造方法
【発明者】 【氏名】中山 元二

【氏名】橋立 貞人

【氏名】木村 明夫

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルカリ難溶解性弾性糸条と、該弾性糸条よりアルカリ溶解性の大きい非弾性ポリエステル糸条とが主として芯部を構成し、該芯部をアルカリ難溶解性の非弾性合成繊維糸条がカバリングしてなる縫糸であって、該縫糸の一次降伏点応力が0.1g/de〜0.7g/deの範囲内にあり、且つ、該非弾性ポリエステル糸条を95℃、35g/lのNaOH水溶液で溶解除去した際の縫糸の収縮率が、30%以下であることを特徴とするストレッチ刺しゅう用縫糸。
【請求項2】 アルカリ難溶解性弾性糸条の0.03g/de荷重負荷時の伸度が、4〜20%である請求項1記載のストレッチ刺しゅう用縫糸。
【請求項3】 非弾性ポリエステル糸条が、ポリオキシアルキレングリコール及び/又はジカルボン酸とポリオキシアルキレングリコール成分とからなるポリエーテルエステルを少なくとも2重量%以上含有するポリエステルからなる請求項1又は2記載のストレッチ刺しゅう用縫糸。
【請求項4】 縫糸が染色されている請求項1〜3のいずれか1項記載のストレッチ刺しゅう用縫糸。
【請求項5】 アルカリ難溶解性非弾性合成繊維糸条によるカバリングが、シングルカバリングである請求項1〜4のいずれか1項記載のストレッチ刺しゅう用縫糸。
【請求項6】 縫糸のトルクが30T/m以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のストレッチ刺しゅう用縫糸。
【請求項7】 アルカリ難溶解性弾性糸条と、該弾性糸条よりアルカリ溶解性の大きい非弾性ポリエステル糸条とを複合して、中空撚糸機の中空部に供給し、該複合糸条をアルカリ難溶解性非弾性合成繊維糸条でカバリングすることを特徴とするストレッチ刺しゅう用縫糸の製造方法。
【請求項8】 アルカリ難溶解性弾性糸条と非弾性ポリエステル糸条とを解舒しながら引き揃えて、中空撚糸機の中空部に供給する請求項7記載のストレッチ刺しゅう用縫糸の製造方法。
【請求項9】 アルカリ難溶解性弾性糸条の0.03g/de荷重負荷時の伸度が、4〜20%である請求項7又は8記載のストレッチ刺しゅう用縫糸の製造方法。
【請求項10】 カバリング後、更に染色処理を施す請求項7〜9のいずれか1項記載のストレッチ刺しゅう用縫糸の製造方法。
【請求項11】 カバリング後、更に60℃〜140℃でスチームセット加工を施す請求項7〜9のいずれか1項記載のストレッチ刺しゅう用縫糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ストレッチ性に富む刺しゅう用の縫糸及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】溶媒又は溶液に易溶解性の基布に、エンブロイダリーレース機を用いて非溶解性の縫糸で刺しゅうを施した後、該基布を溶媒又は溶液で溶解除去して刺しゅう柄のみを残すケミカルレースは、多様な柄作りが可能で立体感に優れているので、高級レースとして従来から愛用されてきた。
【0003】しかし、該ケミカルレースは、刺しゅう縫製を施すので、縫目の形成が困難な弾性縫糸は使用出来ず、従ってストレッチ性に富んだ刺しゅう柄のケミカルレースを得ることが出来なかった。
【0004】このような欠点を改良する方法として、例えば、特開昭54−106673号公報には、伸縮性に富んだ弾性糸条を水溶性の非伸縮性糸条でインナーカバリングし、更に水不溶性糸条でアウターカバリングして、弾性糸条の伸縮性を非伸縮性糸条で一時的に止めて縫目形成を可能とし、刺しゅう縫製を施した後、該水溶性の非伸縮性糸条を溶解除去して伸縮性を発現させるケミカルレースの製造方法が提案されている。
【0005】ところが、上記方法で用いられる縫糸は、縫糸製造時(インナーカバリング時)に不可避的に弾性糸条が大きく伸長され、その伸長歪を内在する結果、水溶性の非伸縮性糸条を溶解除去して伸縮性を発現させたときに、弾性糸条の伸長歪が回復して縫糸が収縮し、刺しゅう柄が大きく縮む(上記公報第2頁(4)欄第4行には、45%縮むことが記載されている)と言う欠点を有している。
【0006】上記欠点は、刺しゅう柄の設計時に大き目の柄に調整し、相似形で収縮させることにより解消出来る旨が上記公報に記載されているが、通常、刺しゅう柄の縫い密度には粗密があるため、縫糸が受ける拘束力が異なり、一様に収縮させることは極めて困難である。
【0007】従って、上記の方法によって得られる刺しゅう柄は、収縮の際に歪が生じたり、表面に不規則な凹凸が発生したりして、品位の良いケミカルレースを得ることが出来ないのが実情である。
【0008】また、上記の縫糸では、水溶性の非弾性糸条を用いているため、刺しゅう縫製前に、染色やスチームセット加工等の水が介在する処理を施すと、折角組み込んだ水溶性の非弾性糸条が溶解除去あるいは分解変質して、弾性糸条の伸縮性を一時的に止めることが出来ず、縫目形成が不可能となる。
【0009】従って、上記の縫糸においては、刺しゅう縫製前の縫糸を染色することが出来ず、刺しゅう縫製後に染色加工を施すことになり、その結果、単一色相の刺しゅう柄しか得ることが出来ない。
【0010】また、縫糸には、一般にカバリングや撚糸によって発生する解撚トルクを防止するために、スチームセット加工や染色加工を利用するが、上記の縫糸では、これらの加工が行えないので、S方向のインナーカバリングの上にZ方向のアウターカバリングを施し(ダブルカバリングと言われ、製造コストは極めて高く、細い縫糸を得ることが出来ない)、それぞれ逆方向のカバリングでトルクを相殺する手法が用いられるが、それでもトルク防止効果は不十分で、刺しゅう縫製時にトラブルが発生する場合がある。
【0011】まして、アウターカバリングだけの場合(シングルカバリングと言われ、製造コストはダブルカバリングの約50%で、縫糸を細くすることが出来る)は、極めてトルクが高く、到底縫糸として使用することは出来ない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の有する欠点を解消し、刺しゅう柄の歪や表面凹凸の発生がなく、高品位の刺しゅう柄を得ることが出来、しかも、染色加工、スチームセット加工等の水が介在する処理を施すことが可能なストレッチ刺しゅう用縫糸およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、従来の水溶性非弾性糸条に代えて、水による影響を受けないアルカリ易溶解性の非弾性ポリエステルを用いることを着想し、本発明を完成するに至った。
【0014】すなわち、本発明によれば、(1)アルカリ難溶解性弾性糸条と、該弾性糸条よりアルカリ溶解性の大きい非弾性ポリエステル糸条とが主として芯部を構成し、該芯部をアルカリ難溶解性の非弾性合成繊維糸条がカバリングしてなる縫糸であって、該縫糸の一次降伏点応力が0.1g/de〜0.7g/deの範囲内にあり、且つ、該非弾性ポリエステル糸条を95℃、35g/lのNaOH水溶液で溶解除去した際の縫糸の収縮率が、30%以下であることを特徴とするストレッチ刺しゅう用縫糸、及び(2)アルカリ難溶解性弾性糸条と、該弾性糸条よりアルカリ溶解性の大きい非弾性ポリエステル糸条とを複合して、中空撚糸機の中空部に供給し、該複合糸条をアルカリ難溶解性非弾性合成繊維糸条でカバリングすることを特徴とするストレッチ刺しゅう用縫糸の製造方法が提供される。
【0015】本発明において縫糸の芯部に使用するアルカリ難溶解性弾性糸条とは、95℃、35g/lのNaOH水溶液で60分間処理したときの溶解率が50重量%以下であり、切断伸度が100%以上、50%伸長時の応力が0.2g/de以下、50%伸長時の回復率が70%以上の易伸長性で伸長弾性回復性に優れた糸条を意味する。
【0016】このような性能を有する糸条としては、例えば、天然ゴム糸条、合成ゴム糸条、ウレタン系弾性糸条、ポリエーテル・ポリエステルブロック共重合体からなる弾性糸条などを挙げることが出来る。
【0017】なかでも、ポリエーテル・ポリエステルブロック共重合体は、初期伸長特性、熱セット性の面から、最も好適である。
【0018】また、本発明の縫糸の芯部には、上記アルカリ難溶解性弾性糸条に加えて、上記弾性糸条よりアルカリ溶解性の大きい非弾性ポリエステル糸条(以下、単にアルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条という)を使用するが、このアルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条とは、95℃、35g/lのNaOH水溶液で60分間処理したときの溶解除去率が90重量%以上であり、200〜2,000Kg/mm2 程度のヤング率を有し、張力を加えたときに伸び難い糸条を意味する。
【0019】このような性能を有する糸条として、例えば、イソフタル酸や5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの第3成分を共重合したポリエステルや、ポリエーテルエステルを添加含有させたポリエステルからなる糸条などを挙げることが出来、なかでも、ポリオキシアルキレングリコール及び/又はジカルボン酸とポリオキシアルキレングリコール成分とからなるポリエーテルエステルを少なくとも2重量%以上含有するポリエステルからなる糸条が好適に例示される。
【0020】本発明においては、上記芯部の糸条をアルカリ難溶解性非弾性合成繊維糸条でカバリングする。このカバリング成分は、最終的に刺しゅう表面を形成する成分であり、優美な表面にするうえで、ナイロンフィラメント糸条、ポリエステルフィラメント糸条などが好適に用いられる。
【0021】また、特殊な表面効果を表現するために、仮撚捲縮加工を施したナイロン捲縮糸条やポリエステル捲縮糸条、あるいは、特殊光沢の表面を得るために、三角断面等の異形断面ナイロン糸条やポリエステル糸条、さらには、金属メッキした繊維糸条等を用いることも出来る。また、これらの糸条を、2種類以上混合して用いることも出来る。
【0022】本発明の縫糸は、一次降伏点応力が0.1g/de〜0.7g/deであることが必要であり、特に、0.2g/de〜0.6g/deであることが好ましい。該応力が0.1g/de未満の場合は、縫糸が刺しゅう縫製時の張力に耐えられず、糸切れ等が多発して使用出来ない。
【0023】該応力を大きくするには、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条の複合割合を高めればよく、使用するポリエステルの種類や糸条のデニールに応じ、高々0.7g/deとなるように調整すれば良い。
【0024】但し、該糸条は縫製後に溶解除去される成分であり、極力使用量を減らすことがコスト面では好ましい。
【0025】また、本発明の縫糸は、刺しゅう縫製後、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を95℃、35g/lのNaOH水溶液で溶解除去し、弾性糸条の伸長歪を回復させた際の縫糸の収縮率が30%以下であることが必要であり、特に、20%以下であることが好ましい。該収縮率が30%を越える場合には、収縮の際に刺しゅう柄に歪や表面に不規則な凹凸が発生し、本発明の目的を達成することが出来ない。
【0026】更に、本発明の縫糸を構成する前記各成分の繊度には特に制限はないが、アルカリ難溶解性弾性糸条は40〜100de、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条は40〜100de、アルカリ難溶解性非弾性糸条は5〜100deの範囲が好適に例示される。
【0027】本発明においては、多色刺しゅう柄を得るために、縫糸は染色されていることが望ましい。
【0028】また、本発明の縫糸は、ダブルカバリングよりもシングルカバリングであることが望ましい。シングルカバリングによれば、カバリング工程がダブルカバリングの1/2に削減され、製造コストを安く出来るし、カバリング成分が1/2に削減されるので、その分だけ細い縫糸を得ることが出来る。
【0029】更に、刺しゅう縫製時のトラブル(目飛び、糸切れ等)を防止するうえで、縫糸のトルクは30T/m以下であることが望ましい。
【0030】本発明において、カバリング数は、芯成分を被覆すれば十分であり、特に限定されないが、ダブルカバリングの場合は、例えば、インナーカバリングとしてS方向に500〜3000T/m程度、アウターカバリングとしてZ方向にインナーカバリング数の60%〜90%程度が好適に用いられる。また、シングルカバリングの場合は、S方向に700〜3500T/m程度のカバリング数が好適に例示される。
【0031】本発明の縫糸は、例えば、上記のアルカリ難溶解性弾性糸条とアルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を、引揃え、合撚、混繊等の方法により複合した後、中空撚糸機の中空部に給糸し、アルカリ難溶解性非弾性合成繊維糸条でカバリングすることにより製造することができる。
【0032】なかでも、前記両糸条を解舒しながら引き揃えて、中空撚糸機の中空部に供給し、該引揃え糸条をアルカリ難溶解性非弾性合成繊維糸条でカバリングする方法によれば、複合のための特別な装置、工程を必要としないので好ましい。
【0033】このとき、アルカリ難溶解性弾性糸条の0.03g/de荷重負荷時の伸度は4〜20%の範囲内にあることが好ましく、5〜15%の範囲内にあることが更に好ましい。伸度が20%を超える場合には、解舒張力や中空撚糸機の中空部の内壁等での接触張力で、該弾性糸条に伸長歪が内在することになり、アルカリ易溶解性糸条を溶解除去した際の縫糸の収縮率が大きくなって、本発明の目的が達成されないことがある。一方、該伸度が4%未満の場合は、刺しゅう柄のストレッチ性が劣り、やはり本発明の目的が達成されないことがある。
【0034】上記弾性糸条に伸長歪が内在するのを防止する方法として、例えば、解舒の際にパッケージを強制駆動して解舒張力を低減させる方法も試みられているが、特別な撚糸装置が必要になるので好ましくない。
【0035】本発明において、前記の方法でカバリングされた糸条に染色加工を施す場合には、常法による染色が可能であり、カバリングした糸条がナイロン繊維のときは、酸性染料を用いた常圧染色が適当であり、カバリングした糸条がポリエステル繊維のときは、分散染料を用いた高圧染色が適当である。
【0036】また、本発明において、前記の方法でカバリングされた糸条にスチームセット加工を施す場合には、例えば、カバリングした糸条がナイロン繊維のときは、60〜120℃、30分程度、カバリングした糸条がポリエステル繊維のときは、90〜140℃、30分程度の処理が好適に採用される。
【0037】なお、該スチームセット加工は、トルク防止が目的であって、前記の染色加工でも同様の効果があり、一般には両者を併用する必要はないが、より強いトルク防止効果を必要とする場合は、両者を併用してもよい。
【0038】この場合、染色工程よりも高温でスチームセット加工を施すのが好ましい。また、染色加工とスチームセット加工は、どちらを先に行ってもよいが、スチームセット加工を先に行う方が、染色性や工程の面で好ましい。
【0039】
【作用】本発明においては、刺しゅう柄にストレッチ性を付与するために、縫糸の芯部に弾性糸条を配置しているが、弾性糸条は伸長し易く、摩擦係数が大きいので、それ単独では刺しゅう縫製が困難である。そこで、弾性糸条を非弾性糸条と引き揃えて配置することによって、弾性を抑制し、適度の一次降伏応力を付与して、伸び難くすることで刺しゅう縫製を容易にし、更に、一般の合成繊維でカバリングすることによって摩擦係数を小さくし、刺しゅう縫製時の張力斑による柄の歪等のトラブルを防止している。
【0040】しかも、本発明の縫糸では、弾性糸条にアルカリ難溶解性糸条を用い、非弾性糸条にアルカリ易溶解性糸条を用いているため、アルカリ易溶解性非弾性糸条をアルカリで溶解除去することによって、弾性糸条の十分な伸縮性が発現し、伸縮性に富んだ良好な刺しゅう柄が得られる。
【0041】更に、アルカリ易溶解性弾性糸条は、染色加工やスチームセット加工のような水系処理を施しても、溶解、変質するようなことがないので、縫糸を染色しておくことが可能であり、その結果、多色の刺しゅう柄を得ることが出来、更には、染色加工やスチームセット加工で縫糸のトルクを低レベルにおさえることが出来るので、刺しゅう縫製が容易となる。また、トルクの低減に伴い、シングルカバリングが可能となって、コストの削減、細番手化が可能となる。
【0042】また、アルカリ難溶解性弾性糸条として、0.03g/de荷重負荷時の伸度が4〜20%の糸条を用いると、該弾性糸条を解舒する際にパッケージを強制駆動して解舒張力を低減させるようなことをしなくても、解舒張力や中空撚糸機の中空部の内壁等での接触張力で、該弾性糸条に伸長歪が内在するようなことがなく、アルカリ易溶解性糸条を溶解除去した際の縫糸の収縮を小さくすることが出来、刺しゅう柄の収縮による柄の歪や表面凹凸が少ない優美な刺しゅう柄が得られる。
【0043】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は、下記の方法により測定した。
【0044】(1)一次降伏点応力(g/de)
JIS−L−1013−7.5.1法にて測定した強力−伸度曲線において、該曲線の最初の凸形状変曲部である一次降伏部前(立上り部)のカーブの接線と一次降伏部後のカーブの接線の交点の応力を一次降伏点応力値(g/de)とする。
【0045】(2)縫糸の収縮率(S)
縫糸を、90℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で30分間処理して、アルカリ易溶解性糸条を溶解除去し、弾性糸条の伸長歪を回復させた際の縫糸の収縮率を、下記式により算出した。
【0046】S=(L0 −L1 )/L0 ×100(%)
但し、S:収縮率(%)
0 :溶解除去処理前の縫糸の長さL1 :溶解除去処理後の縫糸の長さを表す。
【0047】(3)トルク(T)
長さ110cmの試料の中央部に、1g/deの荷重を付けて、両端を合わせてトルクを発生させた後(荷重の回転が止まった後)、試料の中央部50cmの撚数を測定し、下記式により算出した。
【0048】T=Y×2(T/m)
但し、T:トルク(T/m)
Y:50cm間の撚数を表す。
【0049】〔実施例1〕
(アルカリ難溶解性弾性糸条の製造)ジメチルテレフタレート167.3部、テトラメチレングリコール105部、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール275部、テトラブチルチタネート0.2部を反応機に仕込み、内温190℃でエステル交換反応を行ない、理論量の70%のメタノールが留出した時点で内温を220℃に昇温し、弱真空下で60分、次いで高真空下で200分反応させた。
【0050】ここで、安定剤としてイルガノックス1010(チバガイギー社製)3.5部、チヌビン327(チバガイギー社製)0.21部を添加し、20分撹拌後、反応を終了させた。
【0051】生成したブロック共重合ポリエーテル・ポリエステルをペレット化し、該ペレットを乾燥後、265℃で溶融紡糸して、70de/1filのブロック共重合ポリエーテル・ポリエステル弾性糸を得た。
【0052】得られた弾性糸の0.03g/de荷重付加時伸度は8%であった。
【0053】(アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条の製造)ポリオキシアルキレングリコール4重量%と、ジカルボン酸とポリオキシアルキレングリコール成分とからなるポリエーテルエステル4重量%とを含有するポリエチレンテレフタレートを、290℃で溶融して、Y型吐出孔を有する紡糸口金から吐出し、1,500m/分の紡糸速度で引き取り、次いで、2.3倍に延伸して、断面形状が三角形で、50de/24filのアルカリ易溶解性非弾性糸条を得た。このアルカリ易溶解性非弾性糸条は、90℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で処理すると、約20分でほぼ100%が溶解された。
【0054】(縫糸の製造)上記アルカリ難溶解性弾性糸条と上記アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を解舒しながら引き揃えて、イタリー式中空撚糸機の中空部に給糸し、アルカリ難溶解性非弾性糸条として市販のナイロン6繊維(帝人(株)製、30de/7fil)を用いて、S方向に1900T/mのインナーカバリングを施し、続いてZ方向に1600T/mのアウターカバリングを施してダブルカバリング糸を得た。
【0055】このダブルカバリング糸に、シリコン系ミシン糸用油剤を3%付与して本発明の縫糸を得た。
【0056】得られた縫糸の一次降伏点応力は0.42g/de、トルクは21T/m、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を95℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で溶解除去した際の収縮率は11%であった。
【0057】(刺しゅう縫製、アルカリ溶解処理)この縫糸を用いて、上記アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条からなる基布織物に、エンブロイダリーレース機で刺しゅう縫製を実施した。縫製に際し、糸切れ、目飛び等のトラブルは発生せず、スムースに縫製することが出来た。
【0058】次いで、90℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で30分間処理し、基布と縫糸中のアルカリ易溶解性ポリエステル糸条を溶解除去したところ、歪みがほとんどなく、表面がフラットで優美であり、伸縮性に富んだ高品位のストレッチ刺しゅうが得られた。
【0059】〔実施例2〕実施例1において、ダブルカバリング糸に、酸性染料(赤)を用い、100℃、30分の染色加工を施した後、シリコン系ミシン糸用油剤を3%付与した。
【0060】得られた縫糸のナイロン6繊維は赤色に染色されており、縫糸の一次降伏点応力は0.40g/de、トルクは9T/m、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を95℃、35g/lのNaOH水溶液で溶解除去した際の収縮率は5%であった。
【0061】縫製に際しては、糸切れ、目飛び等のトラブルは全く発生せず、スムースに縫製することが出来、アルカリ溶解処理により、歪みがほとんどなく、表面がフラットで優美であり、伸縮性に富んだ高品位のストレッチ刺しゅうが得られた。
【0062】刺しゅう縫製、アルカリ溶解処理後、得られた刺しゅうを赤以外の分散染料で染色することにより、ブロック共重合ポリエーテル・ポリエステル弾性糸が染色されて、多色の刺しゅう柄を得ることが出来た。
【0063】〔比較例1〕実施例2において、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条に代えて、市販の水溶性ポリビニルアルコール系糸条(株式会社ニチビ製「ソルブロン」、50de/24fil)を使用したところ、染色加工を施すと、水溶性ポリビニルアルコール系糸条が溶解してしまうため、縫糸を染色することが出来なかった。
【0064】その結果、染色された縫糸を得ることが出来ず、多色の刺しゅう柄を得ることが出来なかった。
【0065】〔実施例3〕実施例2において、インナーカバリングを省略し、シングルカバリングの縫糸を得た。
【0066】得られた縫糸の一次降伏点応力は0.38g/de、トルクは12T/m、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を95℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で溶解除去した際の収縮率は4%であった。
【0067】この場合、縫糸を細くすることが出来、コストを約半分に低減させることが出来た。
【0068】縫製に際しては、糸切れ、目飛び等のトラブルは全く発生せず、スムースに縫製することが出来、アルカリ溶解処理により、歪みがほとんどなく、表面がフラットで優美であり、伸縮性に富んだ高品位のストレッチ刺しゅうが得られた。
【0069】また、実施例2と同様に、多色の刺しゅう柄を得ることが出来た。
【0070】〔実施例4〕実施例3において、染色加工に代えて、100℃、30分のスチームセット加工を施した。
【0071】得られた縫糸の一次降伏点応力は0.39g/de、トルクは11T/m、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を95℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で溶解除去した際の収縮率は5%であった。
【0072】この場合も、実施例3と同様に、縫糸を細くすることが出来、コストを約半分に低減させることが出来た。
【0073】実施例3と同様に、糸切れ、目飛び等のトラブルは全く発生せず、スムースに縫製することが出来、歪みがほとんどなく、表面がフラットで優美であり、伸縮性に富んだ高品位のストレッチ刺しゅうが得られた。
【0074】〔比較例2〕実施例4において、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条に代えて、市販の水溶性ポリビニルアルコール系糸条(株式会社ニチビ製「ソルブロン」、50de/24fil)を使用したところ、スチームセット加工を施すと、水溶性ポリビニルアルコール系糸条が溶解してしまうため、縫糸をスチームセット加工することが出来なかった。
【0075】スチームセット加工を施していないシングルカバリング縫糸は、トルクが100T/m以上と極めて高くなり、縫製に際し、糸切れ、目飛びが多発して、スムースな縫製が行えなかった。
【0076】〔実施例5、比較例3〕実施例1において、アルカリ難溶解性弾性糸条とアルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条の複合割合を変えることにより、縫糸の一次降伏点応力を表1に示すように変更した。
【0077】得られた縫糸の物性は表1に示す通りであり、一次降伏点応力が0.1g/de以上の場合(実施例5)は、刺しゅう柄外観、縫製性共に良好であったが、該応力が0.1g/de未満の場合(比較例3)は、ミシン掛け時の張力に耐えられず、糸切れ等が多発して使用出来なかった。
【0078】
【表1】

【0079】〔実施例6〜7、比較例4〕実施例1において、アルカリ難溶解性弾性糸条を製造する際の紡糸ドラフト率を変更することにより、アルカリ溶解処理後の縫糸の収縮率を表2に示すように変更した。
【0080】得られた縫糸の物性は表2に示す通りであり、アルカリ溶解処理後の縫糸の収縮率が30%以下の場合(実施例6〜7)は、刺しゅう柄外観、縫製性共に良好であり、特に、20%以下の場合(実施例7)に極めて良好な結果が得られた。
【0081】これに対して、収縮率が30%を越える場合(比較例4)は、収縮による歪みや表面凹凸が発生し、極めて外観の悪い刺しゅう柄となった。
【0082】
【表2】

【0083】〔実施例8〕
(アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条の製造)5―ナトリウムスルホイソフタル酸を3.3モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを、295℃で溶融して、1500m/分の紡糸速度で引き取り、次いで、2.4倍に延伸して、50de/24filのアルカリ易溶解性非弾性糸条を得た。このアルカリ易溶解性非弾性糸条は、90℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で処理すると、約15分でほぼ100%が溶解された。
【0084】(縫糸の製造)アルカリ難溶解性弾性糸条として0.03g/de荷重負荷時の伸度が15%の市販のポリウレタン系弾性糸(40de/12fil)と、上記アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条とを、解舒しながら引き揃えて、イタリー式中空撚糸機の中空部に給糸し、アルカリ難溶解性非弾性糸条として市販のナイロン6繊維(帝人(株)製、10de/7fil)を用いて、Z方向に1900T/mのカバリングを施してシングルカバリング糸を得た。
【0085】このシングルカバリング糸に、100℃、30分のスチームセット加工を施した後、シリコン系ミシン糸用油剤を3%付与して本発明の縫糸を得た。
【0086】得られた縫糸の一次降伏点応力は0.21g/de、トルクは17T/m、アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条を95℃の35g/lNaOH水溶液で溶解除去した際の収縮率は6%であった。
【0087】この場合、縫糸を細くすることが出来、コストを約半分に低減させることが出来た。
【0088】(刺しゅう縫製、アルカリ溶解処理)この縫糸を用いて、上記アルカリ易溶解性非弾性ポリエステル糸条からなる基布織物に、エンブロイダリーレース機で刺しゅう縫製を実施した。縫製に際し、糸切れ、目飛び等のトラブルは発生せず、スムースに縫製することが出来た。
【0089】次いで、90℃、濃度35g/lのNaOH水溶液で30分間処理し、基布と縫糸中のアルカリ易溶解性ポリエステル糸条を溶解除去したところ、歪みがほとんどなく、表面がフラットで優美であり、伸縮性に富んだ高品位のストレッチ刺しゅうが得られた。
【0090】
【発明の効果】本発明によれば、刺しゅう柄の歪や表面凹凸の発生がなく、高品位の刺しゅう柄を得ることが出来、しかも、縫糸に染色加工、スチームセット加工等の水系処理を施すことが可能であるため、多色の刺しゅう柄を得ることが出来、更には、縫糸のトルクを低レベルにおさえることが出来るので、刺しゅう縫製が容易となる。また、トルクの低減に伴い、シングルカバリングが可能となって、コストの削減、細番手化が可能となる。
【出願人】 【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
【出願日】 平成7年(1995)8月10日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】前田 純博
【公開番号】 特開平9−49137
【公開日】 平成9年(1997)2月18日
【出願番号】 特願平7−204617