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【発明の名称】 ポリエステルマルチフィラメント複合糸及びその製造方法
【発明者】 【氏名】西田 右広

【氏名】段本 佳久

【目的】 ふかつきのない優しい感じの風合い、適度なはり、腰感、バルキー性及び独特のドライタッチを有する婦人衣料用途に好適な新規風合い素材を提供する。
【構成】 SHW/ε0.2が−0.10〜0、ε0.2が10〜70%、結晶化度が20%以下、複屈折率が0.020〜0.080の160℃乾熱収縮が負の値を示すポリエステルマルチフィラメントと160℃乾熱収縮が正の値を示すポリエステルマルチフィラメントとの複合糸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも、下記数値を満足する、160℃乾熱収縮率が負の値を示すポリエステルマルチフィラメント糸Aと160℃乾熱収縮率が正の値を示すポリエステルマルチフィラメント糸Bを含有することを特徴とするポリエステルマルチフィラメント複合糸。
−0.10≦SHW(A)/ε0.2(A)≦0 10%≦ε0.2(A)≦70% χc (A)≦20.0% 0.020≦Δn(A)≦0.080ここでε0.2(A)はマルチフィラメント糸Aの構造一体性パラメータ(%)、SHW(A)はマルチフィラメント糸Aの沸水収縮率(%)、χc(A)はマルチフィラメント糸Aの結晶化度(%)、Δn(A)は、マルチフィラメント糸Aの複屈折率を示す。
【請求項2】 エチレンテレフタレート単位を少なくとも85モル%含む、固有粘度〔η〕が0.45〜0.70cc/gのポリエステルをノズルドラフト比(VS /VO )が30〜150且つ紡糸引取速度(VS )が2000〜4000m/min.の範囲で溶融紡糸した結晶化度(χc )12%以下のポリエステルマルチフィラメント未延伸糸を実質的に延伸されないような条件で乾熱処理し160℃乾熱収縮率が負の値を示すポリエステルマルチフィラメント糸Aを得、次いで160℃乾熱収縮率が正の値を示すポリエステルマルチフィラメント糸Bと複合することを特徴とするポリエステルマルチフィラメント複合糸の製造方法。
【請求項3】 ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bの複合方法が引き揃え、或いは合撚又は空気交絡混繊の何れかである請求項2記載のポリエステルマルチフィラメント複合糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリエステルマルチフィラメント複合糸及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくはポリエステルマルチフィラメント複合糸を構成する少なくとも1種類のマルチフィラメント糸条が自己伸長性を有することを特徴とするものである。本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸を用い製織編することにより、嵩高性に優れ、ソフト且つ膨らみ感に富み、しかも適度なドライ感を有する新規風合いの織編物を提供することができる。
【0002】
【従来の技術】従来より嵩高性に富む織編物を得る手段として、低収縮性フィラメントと高収縮性フィラメントを組合せてフィラメント混繊糸とし、このフィラメント混繊糸を用いて製織編し、染色加工工程に於いて熱処理することによってその収縮差による嵩高性を発現させる異収縮混繊糸が多数提案されてきている。しかしながらこれらの製品はアルカリ減量加工を組み合わせることにより繊維間及び組織がルーズ化されシルクライク風合いを与えることが可能であるがふかついたり、ボテ感があり、単に絹に良く似た風合いを示すに過ぎず織編物に新規風合いを付与するには不十分であった。
【0003】また、ドライ感や清涼感に富むポリエステル織編物としてはポリエステルマルチフィラメントシックアンドシンヤーンやポリマー内に無機微粒子を適当量混入させ、アルカリ減量加工によって繊維表面に微細凹部を形成させる表面微細凹部形成型マルチフィラメントヤーン等々を用いたものが多数提案されてきている。しかしながら前者はふくらみ感が不足気味であり、なおかつ風合いがソフトなものとはならず硬くなってしまう欠点がある。また後者はポリマー内の無機微粒子均一分散が困難であり製糸性や撚糸など後加工の工程通過性に支障があるばかりか、アルカリ減量加工による表面微細凹部コントロールが困難であり量的拡大、品質向上を求めるには課題が山積している現状にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明はポリエステルマルチフィラメント糸を用いたシルキー調風合いを呈する織編物を提供することの可能なポリエステルマルチフィラメント複合糸及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは適度な膨らみ感、ソフト且つドライなタッチを示し、フカツキ感やボテ感のない新規風合いを呈する織編物に加工し得るポリエステルマルチフィラメント複合糸及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の複合糸は以下の構成よりなる。少なくとも、下記数値を満足する、160℃乾熱収縮率が負の値を示すポリエステルマルチフィラメント糸Aと160℃乾熱収縮率が正の値を示すポリエステルマルチフィラメント糸Bを含有することを特徴とするものである。
−0.10≦SHW(A)/ε0.2(A)≦0 10%≦ε0.2(A)≦70% χc (A)≦20.0% 0.020≦Δn(A)≦0.080ここでε0.2(A)はマルチフィラメント糸Aの構造一体性パラメータ(%)、SHW(A)はマルチフィラメント糸Aの沸水収縮率(%)、χc(A)はマルチフィラメント糸Aの結晶化度(%)、Δn(A)はマルチフィラメント糸Aの複屈折率(−)をそれぞれ示すものである。
【0006】また本発明の複合糸の製造方法は以下の構成よりなる。エチレンテレフタレート単位を少なくとも85モル%含む、固有粘度〔η〕が0.45〜0.70cc/gのポリエステルをノズルドラフト比(VS /VO )が30〜80、且つ紡糸引取速度(VS )が2000〜4000m/min.の範囲で溶融紡糸した結晶化度(χc )12%以下のポリエステルマルチフィラメント未延伸糸を実質的に延伸されないような条件で乾熱処理し160℃乾熱収縮率が負であるポリエステルマルチフィラメント糸Aを得、次いで160℃乾熱収縮率が正であるポリエステルマルチフィラメント糸Bと引き揃え、或いは合撚又は空気交絡混繊の何れかの複合方法で複合することを特徴とする。ここで結晶化度(χc )は密度勾配管法によって下記式(1) によって算出されるものであり、ノズルドラフト比(VS /VO )は下記式(2) によって算出されるものである。
【0007】〔結晶化度(χc )〕
χc =〔dk×(d−da)〕/〔(d×(dk−da)〕
×100(%) ……(1) ここでポリエチレンテレフタレートの場合、dk、daはそれぞれdk=1.455g/cm3、da=1.331g/cm3でありdはn−ペンタン(比重0.683)とテトラクロロメタン(比重1.599)をそれぞれ軽液、重液として用い密度勾配管を調製し、25℃恒温条件下で測定した繊維の密度(g/cm3)である。
【0008】〔ノズルドラフト比(VS /VO )〕
VS /VO =VS /〔Q/(100×S)×(1/ρ)〕 ……(2) 但しQはノズル単孔吐出量(g/min.)、Sはノズルオリフィス断面積(cm2)、ρはポリマー溶融密度(g/cm3)であり、使用ポリマーがポリエチレンテレフタレートの時、ポリマー溶融密度は下記式で近似することが出来る。
ρ=1.356−5×10-4×T但しTはポリマー溶融温度(℃)であり吐出時の溶融ポリマー温度はノズル面温度(℃)を代用して求めることが出来る。
【0009】本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸はエチレンテレフタレート成分を少なくとも85モル%含む、固有粘度〔η〕が0.45〜0.70cc/gのポリエステルを溶融紡糸して得たポリエステルマルチフィラメント未延伸糸を実質的に延伸しない条件で乾熱処理して得たマルチフィラメント糸A及び該マルチフィラメント糸Aとは異なるマルチフィラメント延伸糸Bとを複合して得るものである。該マルチフィラメント糸Aを構成するポリエステルとしてエチレンテレフタレート成分の他に15モル%未満の範囲でブチレンテレフタレート成分やエチレンイソフタレート成分或いはその誘導体を含むものであってもよい。また固有粘度〔η〕は0.45〜0.70cc/gの範囲であることが必要で〔η〕が0.45cc/g未満となると溶融紡糸に於ける曳糸性悪化を引き起こしてしまい、紡糸操業性が非常に不安定なものとなり好ましくない。また〔η〕が0.70cc/gを超過する高重合度の重合体を使用すると溶融紡糸に於ける溶融ポリマーの溶融粘度が大きく吐出時の圧力損失が大きいものとなってしまい、安定に吐出させることが出来ず結果、紡糸操業性が悪化してしまい好ましい条件ではないのである。
【0010】またマルチフィラメント延伸糸Bについては特に限定を加えるものではなくポリエチレンテレフタレートをその主たる対象とするものであるがジカルボン酸成分としてテレフタル酸の他にマロン酸、マレイン酸、コハク酸、セバシン酸の如き脂肪族ジカルボン酸やそのエステル形成性誘導体、或いはフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸やそのエステル形成性誘導体等をその共重合成分として含むものであってもよい。またグリコール成分としてはエチレングリコールを主たる対象とするものであるが、その一部を1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等で置換したポリエステルであっても構わない。また必要に応じて二酸化チタンや硫酸バリウム、カオリナイト等の無機微粒子、或いは顔料等を添加したポリエステルであってもよい。
【0011】本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸は160℃乾熱収縮率が負の値を示すマルチフィラメント糸Aと160℃乾熱収縮率が正の値を示すマルチフィラメント糸Bをそれぞれ少なくとも1種類以上を複合してなるものであり且つ160℃乾熱収縮率が負であるマルチフィラメント糸Aは下記式を満足することが必要である。
−0.10≦SHW(A)/ε0.2(A)≦0 10%≦ε0.2(A)≦70% χc (A)≦20.0% 0.020≦Δn(A)≦0.080ここでε0.2(A)はマルチフィラメント糸Aの構造一体性パラメータ(%)、SHW(A)はマルチフィラメント糸Aの沸水収縮率(%)、Δn(A)はマルチフィラメント糸Aの複屈折率(−)、尚、マルチフィラメント糸Aの160℃乾熱収縮率は−10%〜0%が望ましい。
【0012】構造一体性パラメータε0.2は米国特許第3771307号明細書第4欄39行〜49行に記載している方法に準じて測定するものであり試料(フィラメント)長200mmのサンプルに0.2g/d の荷重を与えて、その時の試料長L0 を測定し、次いでそのサンプルに0.2g/d の荷重下の元、沸騰水中で2分間浸漬した後、沸騰水中より取り出し、冷却して0.2g/d の荷重下での試料長L1 を測定し、下記式(3) によって求めるものである。尚、測定回数5回の平均値を以てその測定値とするものである。
ε0.2=〔(L1 −L0 )/L1 〕×100(%) ……(3)上記式6により求められたε0.2が負であることは沸騰水中で試料が収縮したことを示し、正であることは沸騰水中で試料が自己伸長を示したことを意味するものである。
【0013】また沸水収縮率SHWは試料を枠周1.125mの検尺機を使用し0.1g/dの初荷重を掛けて120回/mの速度で巻き返し、巻き回数が20回の小綛を作成し初荷重の40倍の重りを掛けて綛長L2 を測定する。続いて重りを外し、収縮が妨げられないような方法で沸騰水(100℃)中に30分間浸漬する。その後、試料を沸騰水中より取り出し、吸取紙或いは綿布で水を拭き取り、水平状態にて風乾する。風乾後、再度初荷重の40倍の重りを掛けてその時の綛長L3 を測定し、下記式(4) によって求めるものである。尚、測定回数5回の平均値を以てその測定値とするものである。
SHW=〔(L2 −L3 )/L2 〕×100(%) ……(4) 上記式(4) により求められたSHWが負であることは沸騰水中で試料が自己伸長したことを示し、正であることは沸騰水中で試料が収縮したことを意味するものである。
【0014】更に160℃乾熱収縮率SHDは試料に1/30(g/d)の荷重を掛け、その長さL4 を測定する。次いでその荷重を取り除き、試料を乾燥機に入れ乾熱160℃で30分間乾燥する。乾燥後冷却し、再度1/30(g/d)の荷重を掛けてその長さL5 を測定し、下記式(5) によって求めるものである。尚、測定回数5回の平均値を以てその測定値とするものである。
SHD=〔(L4 −L5 )/L4 〕×100(%) ……(5) 上記式(5) により求められたSHDが負であることは乾熱160℃条件下で試料が自己伸長したことを示し、正であることは乾熱160℃条件下で試料が収縮したことを意味するものである。
【0015】ここでε0.2(A)が10%以上70%以下の範囲に於いて、沸水収縮率SHWと構造一体性パラメータε0.2の比(SHW/ε0.2)であるSHW(A)/ε0.2 (A)が0を超過する範囲となれば事実上、糸条は熱収縮性を示し、本発明の意図する膨らみ感、ソフト感を付与することが出来ない。また、−0.10未満の範囲となれば糸条は高い自己伸長性を示すものとなるが該糸条自体、熱的にに非常に不安定なものとなり取扱性に支障を来すばかりか、布帛はフカツキ感やボテ感があり品位的に好ましいものとはならない。SHWとε0.2の比であるSHW(A)/ε0.2(A)が−0.10以上0以下の範囲とすることによって布帛に加工した際の膨らみ感、ソフト感に富む風合いを示すものとなるのである。またSHWは0%未満の過度に小さ過ぎる範囲、即ち沸騰水中で糸条が過度に自己伸長してしまうと、本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸の撚糸セットやサイジング工程等でマルチフィラメント糸Aによるループを多数発生してしまい、パッケージからの解舒性が著しく悪化するばかりか、製織時の開口不良等を引き起こしてしまう恐れがある。また布帛に加工しても膨らみ感やソフト感がやや乏しいものとなり好ましくない。
【0016】また上記で示した構造一体性パラメータε0.2に関してはε0.2(A)で10%以上70%以下の範囲とすることが必要である。ε0.2(A)は0%以上であれば実質的に沸騰水中で自己伸長を示すが10%以上を保持し得ないと布帛とした際の膨らみ感、ソフト感が乏しいものに仕上がってしまうのである。また70%を超過した範囲となると膨らみ感は充分で非常にソフト感に富んだ風合いのものとなるが逆にフカツキ気味のものとなり品位として好ましいものとはならず、安っぽい風合いのものに仕上がってしまうのである。
【0017】またマルチフィラメント糸Aの結晶化度χc (A)については20.0%以下の範囲とすることが望ましい。該結晶化度χc (A)が20.0%を超過する範囲となると糸条の結晶化が促進され過ぎ、熱処理を施しても糸条は自己伸長を示さなくなり、布帛は膨らみ感、ソフト感に乏しいものに仕上がってしまい好ましくない。好ましくは該結晶化度χc が10.0%以上20.0%以下の範囲、更に好ましくは10.0%以上20.0%以下の範囲とすることによって糸条に自己伸長性を付与することが可能となり布帛に適度な膨らみ感、ソフト感を与えることが可能となる。
【0018】更にマルチフィラメント糸Aの複屈折率Δn(A)は0.020以上0.080以下の範囲とすることが望ましい。該複屈折率Δnの測定は以下の方法によるものである。ニコン偏光顕微鏡POH型及びライツ社ペレックコンペンセーターを使用し、光源としてスペクトル光源用起動装置(東芝SLS−3−B型)を用いた(Na光源)。5〜6mm長の繊維軸に対し45°の角度に切断した試料を切断面を上にしてスライドガラス上に載せる。試料を載せたスライドガラスを回転載物台に載せ、試料が偏光子に対して45°になる様、回転載物台を回転させて調節し、アナライザーを挿入し暗視野とした後、コンペンセーターを30にして縞数を数える(n個)。コンペンセーターを右螺子方向に回して試料が最初に暗くなる点のコンペンセーターの目盛りa、コンペンセーターを左螺子方向に回して試料が最初に一番暗くなる点のコンペンセーターの目盛りbを測定した後(何れも1/10目盛り迄読む)、コンペンセーターを30に戻してアナライザーを外し、試料の直径dを測定し、下記式(6) に基づき複屈折率Δnを算出する。尚、測定回数5回の平均値を以てその測定値とする。
Δn=Γ/d(Γ;レターデーション=nλ0 +ε) ……(6) λ0 =589.3mμε;ライツ社のコンペンセーターの説明書のC/10000とiより求める。
i=(a−b)(;コンペンセーターの読みの差)
【0019】該Δn(A)が0.020未満の範囲となれば繊維を構成する分子の配向度が小さいものに留まってしまい、布帛に加工した後のアルカリ減量加工によって選択的に強く加水分解反応を受けてしまい脆化の程度が著しく、布帛の引裂強力の低下や単糸切断による外観品位の低下を誘発してしまい好ましい範囲とは言い難い。また該Δn(A)が0.080を超過する範囲であれば前記のアルカリ減量加工に於いても脆化の程度は大きくは成らず、実用強度を有する布帛に仕上げることが可能であるが、実質的に自己伸長を示さなくなってしまい、布帛は膨らみ感やソフト感に乏しいものになってしまうのである。
【0020】本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸の製造方法としてはエチレンテレフタレート成分を少なくとも85モル%含む、固有粘度〔η〕が0.45〜0.70cc/gのポリエステルレジンを溶融させ、紡糸引取速度Vs が2000〜4000m/min.、且つノズルドラフト比(VS /V0 )が30〜150の範囲で溶融紡糸して得た結晶化度χc が12%以下のポリエステルマルチフィラメント未延伸糸を実質的に延伸されないような条件で乾熱処理して160℃乾熱収縮率SHDが負なるポリエステルマルチフィラメント糸Aを得、次いで160℃乾熱収縮率SHDが正であるポリエステルマルチフィラメント糸Bとを引き揃え、或いは合撚又は空気交絡処理方法によって複合するものである。
【0021】上記紡糸引取速度が2000m/min.未満の範囲であれば、出来上がった糸条は非常に物性的に不安定なものであり経時変化が著しく品質管理が困難であり量的拡大が容易に図れない。また紡糸引取速度が4000m/min.を超過する範囲となると紡糸引取の際、配向結晶化が促進される効果によって結晶化度χc が12%を著しく超過し、染色仕上げ加工時の糸条の分子軸方向への結晶化による自己伸長の程度が事実上、小さいものに留まって布帛は膨らみ感、ソフト感に乏しいものになってしまい好ましくないのである。
【0022】また吐出時の溶融ポリマーのノズルドラフト比(VS /VO )は30〜150の範囲とすることが必要である。ノズルドラフト比(VS /VO )が150を著しく超過する範囲となれば糸条を構成する分子の配向結晶化が促進され過ぎてしまい、染色仕上げ加工時の糸条の分子軸方向への結晶化による自己伸長の程度が小さいものに留まってしまい布帛は膨らみ感やソフト感に乏しいものとなってしまう。またノズルドラフト比(VS /VO )は30未満の範囲となると糸条を構成する分子の分子配向は極軽度なものとなってしまい、物性的に不安定な構造をとるため、経時変化が著しく量的拡大や品質保証面からも好ましい領域ではない。
【0023】更に溶融紡糸したポリエステルマルチフィラメント未延伸糸の結晶化度χc は12%以下、より好ましくは10%以下に留めておくことが必要である。該結晶化度が12%を著しく超過した範囲となると、該マルチフィラメント未延伸糸を実質的に延伸されないような条件で乾熱処理を施すことによって結晶化度が更に増大し、染色仕上げ加工時の結晶化の程度が小さいものとなってしまい、結局自己伸長は小さく留まってしまい、布帛は膨らみ感、ソフト感に乏しいものとなってしまうのである。
【0024】上記乾熱処理について具体的に説明すると実質的に延伸されないような条件、即ち弛緩率として0〜60%、より好ましくは10〜60%の範囲で該マルチフィラメント未延伸糸を加熱体に過供給し、乾熱処理を施すものである。使用すべき加熱体としては接触式加熱媒体、非接触式加熱媒体の何れも使用可能であるが乾熱処理とすることが工程通過性や操業性、生産性の面から有効である。この乾熱処理ではポリエステルマルチフィラメント未延伸糸の分子配向を極力低下させることなく、且つ加熱による結晶化を極力抑制しつつ、効果的に収縮成分のみを取り除くことが、自己伸長能を付与するには必要不可欠である。この乾熱処理による分子配向の低下と収縮成分の除去は互いに相反する関係にあり、過供給率(弛緩率)については充分考慮することが必要となる。該過供給率が0%未満、即ち延伸状態にて加熱媒体にマルチフィラメント未延伸糸を供給すると結晶化度が極端に増加してしまい、事実上自己伸長を示さないものになってしまう。加熱体の種類については特に限定されるものではないが非接触式加熱方式、例えばチューブヒーターやスリットヒーター等が工程通過性やメンテナンスの点で有効であり、使用するに好ましい。
【0025】またマルチフィラメント糸Aと組み合わせるマルチフィラメント糸Bは160℃乾熱収縮率SHDが正である必要がある。該SHDの範囲は特に限定されるものではないが概略5%〜30%のいわゆる中収縮糸〜高収縮糸の範囲のものが好適に使用される。該SHDが負の値となるとマルチフィラメント糸B自体が自己伸長を示すものとなってしまい、布帛の膨らみ感は向上するがふかついてしまい、嵩高感や質感のない安っぽいものに仕上がってしまい好ましくない。
【0026】また本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸の複合方法としては引き揃え、或いは合撚又は空気交絡混繊の何れかを用いて複合すれば良いが工程通過性や生産性等を考慮すると公知のインターレースノズルを使用した常温の高圧空気流による空気交絡混繊が特に望ましい。該空気交絡混繊に於ける混繊糸の交絡個数は糸条1m当たり20〜100ケ程度、好ましくは20〜70ケ程度あればよく、過度に交絡個数を増加させると糸条が硬くなり過ぎ布帛の膨らみ感、ソフト感が抑制され好ましい範囲ではない。
【0027】本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸の総デニールについても特に限定を加えるものではないが、一般衣料用途を考慮すると大略30デニール〜300デニールの範囲内でその目的、用途、風合い等に応じて適宜選定すればよい。またマルチフィラメント糸A、マルチフィラメント糸Bの単糸デニール、総デニールについても特に限定を加えるものではないがマルチフィラメント糸Aとなる糸条(未延伸糸)の単糸デニールは小さいもの程、弛緩熱処理されやすい傾向にあり好適には0.3デニール〜3.0デニールである。0.3デニール未満のマルチフィラメント未延伸糸は従来の直接紡糸法では安定的に吐出させることが出来ず、製糸性が著しく悪化してしまう。また3.0デニールを超過する範囲となると弛緩熱処理され難くなり、充分に糸条が収縮しきらずにループとなって糸条より突出してしまい、後工程に於ける解舒性が著しく悪化してしまい好ましくないのである。またマルチフィラメント糸Bの単糸デニールは大略3デニール〜10デニール程度、好ましくは5デニール〜10デニール程度の糸条を用いると布帛のはり、腰感が向上し使用するに好ましい。
【0028】また該マルチフィラメント複合糸を使用して布帛とする場合、取り分け織物に加工する際には該複合糸に加撚を施すが、該複合糸に挿入する実撚個数は下記式(7) の範囲とすることが望ましい。
3000/D1/2≦Tw≦27000/D1/2(回/m)……(7) 但し、Twは糸条1m当たりに挿入される実撚数(回/m)であり、Dはポリエステルマルチフィラメント複合糸の総デニール(Den.)を示すものである。実撚数は(7) 式の範囲で布帛の風合い等を考慮し適宜選定することが出来る。例えば布帛のソフト感やバルキー性を表面に表したい場合にはTw(回/m)を3000/D1/2〜7000/D1/2の甘撚〜中撚の範囲とすればよいし、布帛のシャリ味やドライ感を更に向上させたい場合にはTw(回/m)を12000/D1/2〜25000/D1/2の強撚の範囲を採用するとよい。
【0029】該マルチフィラメント複合糸に実撚を挿入する場合にはダブルツイスターやアップツイスター、リングツイスター、イタリ撚糸機等々を使用することが出来るが、生産性や工程安定性の観点からダブルツイスターの使用が適している。また該マルチフィラメント複合糸に実撚を挿入した場合の捩れやビリ込み防止のためにバキュームヒートセッターやライドンボックス等を使用した撚止セット、或いはPVAやアクリル系糊材によるサイジングを実施すると、取扱性がより向上し使用するに好ましい。上記撚止セット或いはサイジングの際の温度条件は85℃を越えない範囲とすることが望ましく、好適には50℃〜85℃である。該温度条件が85℃を超過するとマルチフィラメント糸Aが自己伸長してしまう効果によって糸条より突出するループを多数形成し、パッケージからの解舒不良や布帛の膨らみ感、ソフト感不足を引き起こしてしまい好適な条件とは言い難い。
【0030】本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸を用い製織編し布帛として加工することによって、適度な嵩高性、ソフト感且つ適度な膨らみ感、更には良好なドライタッチを示すものとなる。従来よりドライ感やシャリ味を表現するポリエステル織編物素材ではシックアンドシンヤーンや一部を融着させた融着仮撚加工糸がその主流を占めているがシックアンドシンヤーンのドライ感、シャリ味はその未延伸残存部の効果によると考えられており、融着仮撚加工糸のドライ感、シャリ味はその融着部の効果によると考えられている。本発明は該知見に従い、自己伸長発現し布帛の表面に突出したループを未延伸糸の熱処理糸で構成させることによって布帛に膨らみ感、ソフト感更にはドライ感をも兼備させることが出来得るという結論に達し、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達したものである。
【0031】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。勿論、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。尚、固有粘度〔η〕の測定はフェノールとテトラクロロエタンの等重量混合物を溶媒とし、ウベローデ粘度計を使用し20℃±)5℃の恒温条件下で粘度数ηSP/cを求め、ηSP/cを溶液濃度cに対しプロットし、c→0にηSP/cを外挿することによって固有粘度〔η〕(cc/g)を求めた。
【0032】(実施例1)二酸化チタンを0.3重量%含有する固有粘度〔η〕が0.63cc/gのポリエチレンテレフタレートレジンを用い、エクストルーダー内の溶融ポリマー温度が285℃、紡糸ノズル表面温度が287℃の条件で溶融紡糸し、冷却固化させた後、紡糸引取速度が3200m/min.で巻き取った。尚、溶融ポリマー吐出時のノズルドラフト比(VS /VO )は100になるようノズル単孔吐出量を設定し、ポリエステルマルチフィラメント未延伸糸40デニール18フィラメントを得た。該マルチフィラメント未延伸糸の結晶化度χc を測定したところ9.0%の値を示した。該マルチフィラメント未延伸糸を雰囲気温度200℃のスリットヒーター(非接触式加熱方式)で弛緩率45%、加工速度200m/min.、ヒーター滞留時間0.18秒間の各条件にて乾熱処理を施し、58デニール18フィラメントのポリエステルマルチフィラメント未延伸糸の乾熱処理糸を得た。該乾熱処理後のマルチフィラメント未延伸糸は構造一体性パラメータε0.2が61.07%、結晶化度χc が14.2%、複屈折率Δnが0.0421、沸水収縮率SHWと構造一体性パラメータε0.2 の比(SHW/ε0.2)が−0.033、160℃乾熱収縮率SHDが−6.2%であり糸条は実質的に自己伸長性を示すものであることが確認された。
【0033】該マルチフィラメント未延伸糸の乾熱処理糸をマルチフィラメント糸Aとし、固有粘度〔η〕が0.64cc/gのポリエチレンテレフタレートレジンを用い、通常の溶融紡糸及び延伸を実施して得られた160℃乾熱収縮率SHDが19.0%、沸水収縮率SHWが16.0%のポリエステルマルチフィラメント延伸糸100デニール30フィラメントをマルチフィラメント糸Bとして用い、ファイバーガイド社製FG4型インターレースノズルを使用し常温の高圧空気流によって空気交絡処理を施し、158デニール48フィラメントのポリエステルマルチフィラメント複合糸を得た。該マルチフィラメント複合糸の糸条1m当たりの交絡個数は67ケであり、糸割れやループ等の発生のない、取扱性に優れたものであった。
【0034】該ポリエステルマルチフィラメント複合糸を村田機械社製ダブルツイスター(No.302)を使用し、S撚方向に1200回/m施撚した糸条を経糸として、緯糸として該マルチフィラメント複合糸をS撚、Z撚にそれぞれ1000回/m施撚した糸条を作成しS撚、Z撚がそれぞれ2本交互の構成となるように製織した。尚、撚止めセットとしてバキュームヒートセッターを使用し高真空、70℃の雰囲気下で30分間の処理を施して製織に供した。織上密度は経142本/吋、緯78本/吋のカシミヤ規格に製織して布帛とした後、精練、プレセットを施し液流染色機にて95℃の水酸化ナトリウム水溶液中で該布帛を攪拌しつつ、アルカリ減量加工を施し、通常のファイナルセットを実施し仕上密度が経161本/吋、緯87本/吋の染色加工布を得た。
【0035】光学顕微鏡を使用し該染色加工布の表面を80倍に拡大し観察したところ、マルチフィラメント糸Aが自己伸長しループを多数形成し、該染色加工布表面全体を覆っている様子が確認出来た。該染色加工布の風合いはふかつき感のないやさしい感じ、適度なはり、腰感、バルキー性、独特のドライタッチを有する婦人用ジャケット、スカート、ドレス、パンツ素材として好適な、全く新規な風合いを有する織物に仕上がった。
【0036】(比較例1)実施例1で用いたポリエステルマルチフィラメント未延伸糸40デニール18フィラメントをを雰囲気温度200℃のスリットヒーター(非接触式加熱方式)で弛緩率0%、加工速度200m/min.、ヒーター滞留時間0.18秒間の各条件にて乾熱処理を施し、40デニール18フィラメントのポリエステルマルチフィラメント未延伸糸の乾熱処理糸を得た。該乾熱処理後のマルチフィラメント未延伸糸は構造一体性パラメータε0.2 が−0.53%、結晶化度χc が26.2%、複屈折率Δnが0.0875、沸水収縮率SHWと構造一体性パラメータε0.2の比(SHW/ε0.2)が−4.120、160℃乾熱収縮率SHDが2.4%であり糸条は実質的に熱収縮性を示すものであった。該マルチフィラメント未延伸糸の乾熱処理糸をマルチフィラメントAとし実施例1と同様の方法にて140デニール48フィラメントのポリエステルマルチフィラメント複合糸を得た。該マルチフィラメント複合糸の糸条1m当たりの交絡個数は62ケであり、糸割れやループ等の発生のない、取扱性に優れたものであった。
【0037】該ポリエステルマルチフィラメント複合糸を村田機械社製ダブルツイスター(No.302)を使用し、S撚方向に1300回/m施撚した糸条を経糸として、緯糸として該マルチフィラメント複合糸をS撚、Z撚にそれぞれ1100回/m施撚した糸条を作成しS撚、Z撚がそれぞれ2本交互の構成となるように製織した。尚、撚止めセットとしてバキュームヒートセッターを使用し高真空、70℃の雰囲気下で30分間の処理を施して製織に供した。織上密度は経146本/吋、緯80本/吋のカシミヤ規格に製織して布帛とした後、精練、プレセットを施し液流染色機にて95℃の水酸化ナトリウム水溶液中で該布帛を攪拌しつつ、アルカリ減量加工を施し、通常のファイナルセットを実施し仕上密度が経166本/吋、緯90本/吋の染色加工布を得た。
【0038】光学顕微鏡を使用し該染色加工布の表面を80倍に拡大し観察したところ、マルチフィラメント糸Aが自己伸長した形跡はなくマルチフィラメント糸Aとマルチフィラメント糸Bの糸長差は極僅かなものであり、まさに高収縮糸と低収縮糸の組合せによる異収縮混繊糸と何ら相違ないものになった。該染色加工布の風合いは適度なはり、腰感は感じられるもののふくらみ感やソフト感、ドライ感は実施例1のものと比較し明らかに劣っており、新規な風合いを有するとは言い難い織物にしかならなかった。
【0039】
【発明の効果】上述の如く本発明のポリエステルマルチフィラメント複合糸を織編物に使用することによってふかつきのない優しい感じの風合い、適度なはり、腰感、バルキー性、独特のドライタッチを有する婦人衣料用途に好適な新規風合い素材を提供することが可能になる。
【出願人】 【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡績株式会社
【出願日】 平成7年(1995)7月6日
【代理人】
【公開番号】 特開平9−21028
【公開日】 平成9年(1997)1月21日
【出願番号】 特願平7−171042