トップ :: C 化学 冶金 :: C23 金属質材料への被覆;金属質材料による材料への被覆;化学的表面処理;金属質材料の拡散処理;真空蒸着,スパツタリング,イオン注入法,または化学蒸着による被覆一般;金属質材料の防食または鉱皮の抑制一般




【発明の名称】 複合溶射皮膜を有する鋼部材およびその製造方法
【発明者】 【氏名】原田 良夫

【氏名】水津 竜夫

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼鉄製基材の表面に、アンダーコート溶射皮膜と、その上に形成されたセラミックス強化ガラス質溶射皮膜とからなる複合溶射皮膜を有することを特徴とする複合溶射皮膜を有する鋼部材。
【請求項2】 上記アンダーコート溶射皮膜は、金属, 酸化物系もしくは非酸化物系のセラミックスおよびこれらのサーメットのうちから選ばれるいずれか1種以上を溶射して形成した皮膜であり、その膜厚が30〜750 μm である、請求項1に記載の鋼部材。
【請求項3】 上記ガラス質溶射皮膜は、分散強化用の酸化物系もしくは非酸化物系セラミックス粉末と、マトリックスとなるガラス質材料とから構成されており、これらの混合割合はセラミックス粉末が重量%で5〜95%となるように調整された皮膜であり、その膜厚が10〜1000μm である、請求項1に記載の鋼部材。
【請求項4】 上記ガラス質溶射皮膜は、マトリックスとなるガラス質材料中に分散させたセラミックス粉末のその分散形態が均一分散、段階的可変分散、もしくは漸次的可変分散のいずれか1つのタイプになっていることを特徴とする請求項1または3に記載の鋼部材。
【請求項5】 上記ガラス質溶射皮膜は、SiO2, Na2O, K2O, B2O3, Al2O3,Li2O, CaO, MgO, TiO2, ZnO, ZrO2, SnO2, SrO, BaO, CoO のなかから選ばれる2種以上の酸化物を主成分とするガラス質材料をマトリックスとするものであり、該皮膜の線膨張係数が7〜14×10-6/℃、融点が 500〜750 ℃の範囲にあることを特徴とする請求項1, 3または4に記載の鋼部材。
【請求項6】 鋼鉄製基材の表面に、金属, セラミックスおよびそのサーメットのうちから選ばれるいずれか1種以上の材料を溶射してアンダーコート溶射皮膜を形成し、次いでそのアンダーコート溶射皮膜を 200〜500 ℃に加熱しつつ、その表面にセラミックス粒子を分散含有するガラス質材料を溶射して複合溶射皮膜を形成することを特徴とする、複合溶射皮膜を有する鋼部材の製造方法。
【請求項7】 鋼鉄製基材の表面に、金属, セラミックスおよびそのサーメットのうちから選ばれるいずれか1種以上の材料を溶射してアンダーコート溶射皮膜を形成し、次いでその溶射皮膜の上にセラミックス粒子を分散含有するガラス質材料を溶射して複合溶射皮膜を形成し、さらにその後該複合溶射皮膜を 400〜850 ℃の温度で 0.5〜10時間加熱することを特徴とする、複合溶射皮膜を有する鋼部材の製造方法。
【請求項8】 鋼鉄製基材の表面に、金属, セラミックスおよびそのサーメットのうちから選ばれるいずれか1種以上の材料を溶射してアンダーコート溶射皮膜を形成し、次いでその溶射皮膜を200 〜500 ℃に加熱しつつセラミックス粒子を分散含有するガラス質材料を溶射成膜して複合溶射皮膜を形成し、さらにその後該複合溶射皮膜を 400〜850 ℃の温度で 0.1〜5時間加熱することを特徴とする、複合溶射皮膜を有する鋼部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐食性および耐溶融金属性に優れる複合溶射皮膜を有する鋼部材およびその製造方法に関し、とくに溶融亜鉛めっき, 溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき, および溶融アルミニウムめっきなどの分野で用いられる各種ロール類、軸受け、スリーブ、ブッシュ、めっき量調整用金具などの溶融金属用部材として好適に用いられるものであって、耐食性にも優れているので、酸, アルカリおよび溶融塩環境下などの分野で用いられる部材としても有効である。
【0002】
【従来の技術】溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっきなどのめっき層は、優れた防錆、防食力を発揮することから、古くから、自動車、航空機、車輌、建築および家電製品などの部材に適用されており、現在でもなお、主要な役割を果たしている表面処理皮膜の1つである。なかでも大量に生産されている溶融亜鉛めっき鋼板は、多くの場合、連続溶融亜鉛めっき装置によって製造されている。
【0003】この連続式溶融亜鉛めっき装置には、めっき浴中に浸漬されているシンクロール、めっき浴中の表面近傍に配設されるサポートロール及びこれらのロールを通過した後のめっき鋼板を案内するガイドロールなどの溶融金属用部材が用いられている。これらの部材は、めっき浴中に浸漬されるか、溶融亜鉛が飛散付着しやすい箇所に設置されており、また溶融亜鉛が付着した高温の鋼板と接触するように使われるので、(1) 溶融亜鉛による侵食が起こり難いこと、(2) 通板材 (鋼板) と接触しても摩耗しにくいこと、(3) 付着した溶融亜鉛の剥離ならびに保守点検が容易なこと、(4) めっき用部材としての寿命が長く低コストであること、(5) 高温の溶融亜鉛浴中に浸漬した際の熱衝撃によく耐えること、などの性能が要求される。
【0004】このような要求に応えるために従来、シンクロール用皮膜を例にとると、(1) 特公昭56−39709 号公報,特公昭58−11507 号公報,特開昭59−153875号公報,特開平1−108334号公報,特開昭64−79356 号公報および特開平2−125833号公報に記載のJIS H8303 (1976)制定のCo基自溶合金に準拠した合金組成の皮膜を形成したもの、(2) 特開昭61−117260号公報,特公平3−54181 号公報および特公平4−27290 号公報に開示のような、ZrO2とAl2O3 からなる酸化物系セラミックス皮膜を溶射形成したもの、(3) 特公昭58−37386 号公報,特開平2−212366号公報,特開平2−180755号公報,特開平3−94048 号公報,特開平4−13857 号公報および特開平4−346640号公報に開示のように、炭化物や窒化物,硼化物などの非酸化物系セラミックスに、CrやNi, Coなどの金属を共存させてなるサーメット溶射皮膜を形成したもの、(4) 特開平4−13857 号公報のように、前記(1) と(3) の技術を組み合わせたもの、(5) さらに、耐溶融金属を溶接肉盛した特公昭52−22934 号公報や、Wを溶射成膜した特開昭53−128538号公報、Crを溶射成膜した特開平4−165058号公報、などが提案されている。
【0005】上記のような技術に対し、本発明者らも同種技術の研究開発を行なってきた。例えば、(6) 特願昭63−49846 号(特開平1−225761号) で、WCサーメットにおいて、Coを5〜28%含み、その皮膜の気孔率を1.8 %以下、膜厚を 0.040〜0.10mm未満とした溶射皮膜、(7) 特願昭63−192753号(特開平2−43352 号) において、硼化物またはこれにCoを5〜28%含ませた材料を減圧プラズマ溶射法によって形成したもの、(8) 特願平1−54883 号(特開平2−236266号) において、ZrB2, TiB2および各種炭化物に5〜40%のTa, Nbを含ませた材料を用い、減圧プラズマ溶射法によって、その皮膜表面粗さRaを 0.01 〜5μm 、気孔率1.8 %以下の皮膜を形成したもの、(9) 実願平1−124010号(実開平3−63565 号) において、炭化物を主体とするサーメット溶射皮膜上に、化学的緻密化法によってCr3O3 を形成した皮膜、(10) 特願平2−201187号(特開平4−88159 号) において、炭化物溶射皮膜の一部を硼化処理によって硼化物に変化させた皮膜、(11) 特願平3−31448 号(特開平4−254571号)において、各種炭化物、硼化物またはそのサーメット溶射皮膜にAlまたはAl−Zn合金を加熱拡散することによって、耐溶融亜鉛性を向上させたもの、(12) 特願平3−31448 号(特開平4−254571号) において、非酸化物系セラミックスの溶射皮膜にAlまたはAl−Znを拡散浸透させたもの、(13) 特願平3−222425号(特開平4−358055号) において、非酸化物系セラミック粉末またはこれに金属を混合してなる粉末に、AlまたはAl−Zn合金を添加してなる溶射材料を用いて形成した溶射皮膜、(14) 特願平3−213143号(特開平5−33113 号) において、非酸化物系セラミック粉末またはこれに金属を混合してなる粉末に、Al−Fe合金またはAl−Fe−Zn合金を添加してなる溶射材料を用いて形成した溶射皮膜、(15) 特願平3−266874号(特開平5−78801 号) において、鋼製のロールの表面に、Al含有量22%以上のAl−Fe合金層を形成したもの、などの諸技術および皮膜を提案してきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これに対し、発明者らの最近の研究では、上掲の溶射皮膜が有する耐溶融金属性に関し、なお解決すべき問題点が残されていることがわかった。即ち、(1) 大気中で成膜した溶射皮膜には、必ず気孔が存在するとともに酸化物が混在する。このため、溶射皮膜材料が、溶融金属と冶金反応を起こさない物質であっても、この気孔部を通って溶融金属が内部へ侵入し、母材金属と反応することによって、皮膜を根底から剥離, 破壊する。
(2) また、溶融アルミニウムのように、酸化物生成自由エネルギーの小さい金属は、皮膜中に含まれている酸化物(溶射材料が溶射熱源中で酸化してそのまま皮膜中に含まれているもの)を還元するため、気孔を拡大させる一方、還元して生成した金属とも冶金反応を起こして体積変化を来たし、皮膜を破壊する。
(3) 耐溶融金属用溶射皮膜として、WC−Coで代表される炭化物サーメットなどが使われているが、皮膜中に含まれている金属成分に溶融金属が付着したり、冶金的に反応する結果、ドロス成分の固着を促し、最終的にはめっき鋼板の品質を低下させることとなる。
(4) 溶融金属浴中で使用される溶射部材は、すべて高温環境中で使用されるので、耐熱性と熱衝撃にも強い抵抗を有することが必要である。
【0007】この発明の主たる目的は、耐溶融金属用部材などに適用した場合に優れた効果を発揮する鋼部材, とくに耐食性と耐溶融金属性とに優れる複合溶射皮膜を有する鋼部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、皮膜の剥離や破壊に対しての抵抗力が大きく、かつ優れた耐熱性と耐熱衝撃性をも有する前記複合溶射皮膜の構成を提案することにある。この発明のさらに他の目的は、上述のような問題点の解決に加え、酸, アルカリ水溶液および塩化物, 硫酸塩, 硝酸塩などの溶融塩などにも優れた耐食性を発揮し、こうした腐食性環境下で有利に使用できる部材を提供することである。また、本発明のさらに他の目的は、鋼鉄製基材の表面に上記複合皮膜を効率的にかつ確実に形成するための方法を提案することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上述のような課題を解決するため、本発明は基本的に、下記の手段を採用することにした。鋼鉄製基材の表面に、まず下層(アンダーコート)として、金属(合金を含む), 酸化物系および非酸化物系のセラミックス, これらのセラミックスと金属とからなるサーメットの溶射皮膜を形成する。そして、そのアンダーコート上に上層(トップコート)として、酸化物系もしくは非酸化物系セラミックスを強化用分散粒子とし、この粒子をマトリックスであるガラス質材料とよく混合してなる複合溶射皮膜を形成する。なお、上記複合溶射皮膜のマトリックスとして使用するガラス質材料は、融点が 500〜750 ℃の範囲にあり 、かつその線膨張係数が5〜14×10-6/℃の範囲内のものである。このガラス質材料と酸化物系もしくは非酸化物系セラミック粒子との混合割合は、ガラス質材料を5〜95重量%の範囲内で均一分散、段階的可変分散もしくは混合割合が次第に変化する漸次的可変分散となる混合状態の複合溶射皮膜を形成させる。
【0009】さらに、マトリックスのガラス質材料中にセラミックス粒子を強化材料として含むトップコート溶射皮膜を施工するに当たっては、アンダーコート溶射皮膜が、常温もしくは 200〜500 ℃に加熱維持した状態で成膜するか、成膜後の複合溶射皮膜を 400〜850 ℃, 0.1 〜5時間加熱するか、または200 ℃未満の温度条件下にあるアンダーコート溶射皮膜の上にトップコート溶射皮膜を形成した場合には、溶射後 400〜850 ℃, 0.1 〜5時間の加熱処理を行って、トップコート溶射皮膜の気孔を消滅させて、耐食性および耐溶融金属性に優れた複合溶射皮膜を鋼部材表面に形成するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】鋼鉄製基材の表面に、耐食性および耐溶融金属性等に優れた複合溶射皮膜を形成するための作業工程に従って、本発明の構成の詳細を以下に説明する。
(1) アンダーコートとしての溶射皮膜の形成鋼鉄製基材の表面を脱脂し、グリッド−ブラストして粗面化処理した後、処理後の基材表面に溶射法によって金属, 酸化物系もしくは非酸化物系のセラミックス、もしくはサーメット皮膜を30〜750 μm厚に施工し、1層または2層以上からなるアンダーコート溶射皮膜とする。このアンダーコート溶射皮膜の厚さが30μmより薄い場合にはアンダーコートとしての機能に乏しく、一方、750 μmより厚い場合には経済的に不利である。望ましくは、50〜250 μmの範囲がアンダーコートとしての機能と経済性の面から推奨される。
【0011】このアンダーコート溶射皮膜の形成に用いる溶射材料としては、下記のものが使用できる。
■ 金属系材料としては、Ni, Fe, Mo, Cr, Co, Ti, Ta, Nb, AlおよびWと、これらの合金■ セラミックス材料としては、下記のうちの1種、または2種以上の混合物系セラミックスa.Al2O3, TiO2, MgO , ZrO2, Ta2O5, Nb2O5, SiO2 などの酸化物、b.WC, Cr3C2, NbC, TaC, HfC, MoC, ZrC, TiC などの炭化物、c.NiB2,CrB2, W2B5, TiB2, ZrB2, NbB2, TaB2などの硼化物、d.TiN, VN, NbN, TaN, HfN, ZrN, BN, Si3N4, CrN などの窒化物■ サーメット材料としては、上記■の金属系材料と■のセラミックス系材料との混合粉末あるいは焼結材料粉末を用いることができる。また、上記溶射材料は、金属材料, セラミックス系材料, サーメット系材料をそれぞれ単独もしくは混合物として、それらを単層もしくは複層にしてアンダーコートとして用いてもよいが、例えば、金属材料/酸化物系セラミックス材料の組合わせにかかる2層構造などとしてもよい。
【0012】溶射法としては、プラズマ, 可燃性ガスの燃焼炎または可燃性ガスの爆発エネルギー、直流電気によるアークなどを熱源とする方法のいずれの溶射法でも使用が可能である。
【0013】(2) トップコートとしてのセラミックス粉末とガラス質材料との複合溶射皮膜の形成アンダーコートとして形成した溶射皮膜の表面は、適度な粗さを有するとともに、溶射皮膜特有の気孔が存在しているため、この特徴を活かしてその上にセラミックス粒子とガラス質材料とを混合した溶射材料を、トップコートとして溶射施工する。なお、この溶射に先立ち、アンダーコート溶射皮膜を 200〜500 ℃に予熱したり、さらにトップコートを溶射施工後、これらの皮膜(複合溶射皮膜)を電気炉中で 400〜850 ℃, 0.1 〜5時間加熱すると、アンダーコートとトップコートとの結合度が向上するとともに、トップコートに存在する気孔や気泡が消滅し、緻密な複合溶射皮膜となる。また、このような加熱処理を減圧雰囲気下で行うと、一層効果的である。
【0014】トップコート溶射皮膜において、分散強化用粒子としてセラミックス粉末が用いられるが、これには次に示すような化合物を単独または2種以上を混合したこのが好適である。
(A) 酸化物系セラミックスAl2O3 , TiO2, MgO , ZrO2, Ta2O5 , Nb2O5 , SiO2, Cr2O3 , NiO(B) 非酸化物系セラミックスWC, Cr3C2 , NbC , TaC , HfC , MoC , TiC , ZrC などの炭化物NiB2, CrB2, W2B5, TiB2, ZrB2, NbB2, TaB2などの硼化物TiN, VN, NbN, TaN, HfN, ZrN, BN, Si3N4, CrN などの窒化物なお、この分散強化用セラミックス粉末は、マトリックスであるガラス質材料中に分散させるものであるから、平均粒径:1〜80μm の大きさのものがよく、80μm より大きいとガラス質との結合性が悪く、1μm よりも小さいと均等分散性に劣るからである。
【0015】また、本発明において、トップコートとなるガラス質溶射皮膜(本発明において、ガラス質の皮膜というときは、いわゆる“ほうろう”を含めて言う)の特徴の1つは、その線膨張係数が4〜14×10-6/℃の範囲のものを用いるようにしたことにある。この理由は、鋼鉄製基材は一般に、その線膨張係数が、10〜18×10-6/℃の範囲にあり、その表面に成膜したアンダーコートとしての溶射皮膜の線膨張係数は、たとえばAlのように大きな値( 23.5×10-6/℃) を示す金属であっても、その溶射皮膜は酸化物や気孔を含んでいるために小さな値となり、成膜後の熱変化に対しても剥離することはないとともに、このような溶射皮膜はその上に形成するトップコートにとっては線膨張特性に関して緩衝的な役割を果たすこととなる。このようなアンダーコートの作用に加え、トップコートを構成するガラス質材料の線膨張係数を4〜14×10-6/℃の範囲に選定すると、両コートが剥離したり、またトップコートに亀裂が発生したりするようなこともなくなる。
【0016】本発明において、トップコートとして用いる上記ガラス質溶射皮膜の線膨張係数を4〜14×10-6/℃の範囲に限定したもう1つの理由は、複合溶射皮膜のガラス質マトリックス中に分散混合するセラミックス粒子の大部分が、この線膨張係数の範囲内にあるため、複合溶射皮膜を実環境下で使用する際にも、たとえば急激な温度変化を受けてもガラス質材料とセラミックスとの接触界面の融合状態が維持され、微少亀裂の発生を防止することができるからである。
【0017】さらに、上記ガラス質溶射皮膜のマトリックスを構成するガラス質材料の線膨張係数を4〜14×10-6/℃に限定したさらにもう1つの理由は、線膨張係数が4×10-6/℃未満のガラス質材料は、これを溶射法によって成膜することが困難なうえ、たとえ成膜できたとしても、僅かな温度変化によってもガラス質材料部分に微細な亀裂が発生するからである。一方、この線膨張係数が14×10-6/℃超のガラス質材料は工業的に製造が困難である。
【0018】上記ガラス質材料, ほうろうなどの線膨張係数の調整は、主としてSiO2, K2O, Na2O, Li2Oの含有量を制御することによって行う。一般に、SiO2含有量を多くすると線膨張係数が小さくなり、アルカリ成分を多くすると同係数が大きくなる。
【0019】本発明のトップコートを構成するガラス質溶射皮膜の他の特徴は、ガラス質材料の融点が 500〜750 ℃の範囲のものを使用することにある。この温度範囲のガラス質材料であれば、 200〜500 ℃に予熱したアンダーコート溶射皮膜とのなじみがよく、またトップコートを溶射成膜後 400〜850 ℃に加熱した場合にもよく軟化して溶射皮膜の成膜直後に残存している気孔を消滅させることができる。ここで、ガラス質材料の融点が 500℃未満のガラスでは、溶融金属中では使用ができず、一方 750℃超のガラス質材料は線膨張係数が4×10-6/℃未満となるため、本発明で用いるガラス質材料としては適当でない。
【0020】本発明においてトップコートとなるガラス質溶射皮膜のマトリックス材料(ガラス質材料)としては、次のような化学組成の化合物が有利に使用できる。
(a) ガラス質材料:Na2O, K2O, BaO, B2O3, SiO2, MgO , CaO , PbO , Li2O, SrO, SnO2 などを主成分とするもの(b) ほうろう材料:天然の長石, 天然の珪石, ソーダ灰(Na2CO3), 硼砂(Na2B4O7) などを原料とし、SiO2, Al2O3, B2O3, CaF, Na2O, K2O を主成分とし、微量成分として CoO, MnO, NiO, TiO2, ZnO などを添加したもの【0021】以上のガラス質材料の溶射用粉末の粒径は、10〜150 μmの範囲内の大きさのものが使用でき、特に30〜90μmのものが好適である。それは、粒径が10μmよりも小さいと、溶射熱源中において過熱されて飛散する確率が高く、皮膜として付着する率( 歩留) が小さくなる。一方、 150μmよりも大きい粒子では、セラミックス粒子との混合状態が悪いうえ、成膜した際に気孔が大きくかつ多いため、燃焼を行っても気孔の消滅に長時間を要し、コストアップを招くこととなるので得策でない。
【0022】本発明においてトップコートとして用いるセラミックス強化ガラス質溶射皮膜中のセラミックス粉末とガラス質材料との混合割合は、それぞれが重量%で5〜95の範囲内となるように混合する。その具体的混合状態を、図1(a),(b),(c)に示す。すなわち図1(a) は、セラミックス粒子がガラス質材料( マトリックス) 中に均一分散した状態を示したものである。図1(b) は、セラミックス粒子の含有量が異なる皮膜(3-1, 3-2, 3-3) を段階的に変化させた段階的可変分散させた皮膜を示したもので、皮膜の表面側ほどセラミックス粒子含有量が少なくなっているが、必要に応じその逆組成の構造とすることもできる。図1(c) は、1(b) のセラミックス粒子の含有量の変化を見掛け上連続的に変化させた漸次的可変分散した状態を示したもので、この場合にもセラミックス粒子の含有量を逆組成の構造とすることができる。なお、図において、1は被処理体、2はアンダーコート、3はトップコート溶射皮膜、4はセラミックス粒子、5はガラス質材料を示す。
【0023】このようにして成膜したトップコート溶射皮膜( ガラス質溶射皮膜) の特徴は、ガラス質材料が主として水分, 酸, アルカリ, 海水などの腐食成分の内部侵入を防ぎ、セラミックス粒子は骨材として該皮膜の機械的性質の向上、特に、溶融めっき浴中ロールなどのように高温(450〜630 ℃) で使用される場合には、ガラス質は軟化して耐摩耗性が甚だしく低下するが、セラミックス粒子はこの程度の温度では室温と同じ高強度を有しており、複合溶射皮膜全体としては優れた耐摩耗性を発揮することとなる。また、トップコート溶射皮膜をガラス質材料の融点以上に加熱した際、溶融ガラスの流動を防ぐ作用がある。本発明で使用するセラミックス粒子は、腐食成分や溶融金属に対しても卓越した耐食性を示すので、長期にわたって安定した状態で使用することができる。
【0024】本発明において、複合溶射皮膜の形成は、プラズマおよび可燃性ガスの燃焼炎を熱源とする溶射法を用いて施工することができ、必要に応じ皮膜形成後電気炉などで 400〜850 ℃で 0.1〜5時間加熱すれば、緻密でアンダーコートとの密着性のよいトップコートとなる。
【0025】なお、アンダーコートとトップコートとを成膜後結合させて得られる複合溶射皮膜は、10〜1000μmの範囲の厚さとする。それは、この厚さが10μmより薄いと複合溶射皮膜としての機能が不十分となり、一方1000μmより厚い場合には、複合溶射皮膜としての機能は保持していても、成膜に長時間を要し、コストアップとなるので得策でない。
【0026】以上説明したように、トップコートガラス質溶射皮膜は、セラミックス粉末とガラス質材料粉末とを、重量で5〜95%となるように混合して溶射施工するが、両者の間に比重差が大きい場合、たとえばWC (比重15) とガラス質粉末 (比重4.5)を混合して溶射すると、皮膜中の両者の混合割合は粉末状態時の割合と相当異なることとなる。発明者らの実験によると、WC (50wt%) とガラス質材料粉末 (50wt%) を混合した後、これを溶射すると、この皮膜はアンダーコート側にはWCが90%以上を占め、逆に皮膜表面側はガラス質材料が100 %の状態にあることが確認されている。
【0027】このようなことから、本発明において、トップコートとは、セラミックス強化ガラス質溶射皮膜は、セラミックス粉末とガラス質粉末の混合割合は、溶射用材料として5〜95重量%の範囲が良好な皮膜の形成に使用できる。セラミックス粉末の混合割合が5%より少ない場合は、骨材としての機能が小さく、また95%以上の場合にはガラス質の機能が十分に発揮できない傾向があるため適当でない。
【0028】
【実施例】
実施例1この実施例では、各種材料のアンダーコート溶射皮膜上に形成するトップコート溶射皮膜(セラミックス粉末とガラス質材料との混合溶射皮膜)の最適厚さを調査した。
1.供試母材SUS 410L(フェライト系ステンレス鋼)を、直径20mm, 長さ 200mmに仕上げて使用した。
2.アンダーコート用溶射材料および皮膜厚さ2-1 80wt%Ni−20wt%Crをプラズマ溶射法によって膜厚 100μmに施工した。
2-2 80wt%Ni−20wt%Crをプラズマ溶射法によって膜厚50μmに施工後、その上に60wt%Al2O3 −40wt%TiO2をプラズマ溶射法によって膜厚 100μmに施工し、2層構造とした。
2-3 73wt%Cr3C2 −20wt%Cr−7wt%Niを高速フレーム溶射法によって膜厚100 μmに施工した。
2-4 88wt%WC−12wt%Coを高速フレーム溶射法によって膜厚 100μmに施工した。
3.トップコート用溶射材料およびその皮膜厚さ3-1 10wt%B2O3−25wt%Na2O−5wt%CaO −60wt%SiO23-2 11wt%B2O3−14wt%Li2O−3wt%Al2O3 −2wt%SrO −70wt%SiO2上記ガラス質にAl2O3 粉末を重量比で50%となるようによく混合した後、プラズマ溶射法によって、アンダーコート溶射皮膜上に10μm, 50μm, 100 μm, 250 μm, 500 μm, 750 μm, 1000μm, 1500μm, 2000μm厚となるように溶射することによって複合溶射皮膜を施工した。その後 850℃×1時間の条件で電気炉中で加熱した。
【0029】評価方法上記工程で完成した試験片を、600 ℃の電気炉中で15分間加熱後25℃の水中へ投入冷却する操作を1サイクルとし、これを20回繰返し、トップコートに発生する亀裂および剥離の有無を目視により観察した。
【0030】試験結果Al2O3 粉末と10wt%B2O5−25wt%Na2O−5wt%CaO −60wt%SiO2粉末を混合した複合溶射皮膜の試験結果を表1に、Al2O3 粉末と11wt%B2O2−14wt%LiO2−3wt%Al2O3 −2wt%SrO −70wt%SiO2粉末を混合した複合溶射皮膜の試験結果を表2にそれぞれ示した。この結果から明らかなように、Al2O3 粉末とガラス質材料を混合して形成した複合溶射皮膜が10〜1000μmのものでは、20サイクルの加熱−冷却にも微小な割れの発生はなく、アンダーコート溶射皮膜材料の種類に関係なくすべて健全な状態を示した。これに対し、溶射皮膜厚さが1500〜2000μmのものでは、微小な割れが発生するとともに、膜厚が大きくなるほど割れの数が増えるとともに大きくなった。以上の結果から、2種類のガラス質材料を用いた複合溶射皮膜は共通の傾向を示しており、本発明のガラス質材料を含む複合溶射皮膜の厚さは、10〜1000μmの範囲が適していることが判明した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】実施例2この実施例では、アンダーコート溶射皮膜の予熱温度と、その上に形成するガラス質(トップコート)溶射皮膜の性状およびガラス質溶射皮膜形成後の熱処理による複合溶射皮膜の特性につき、塩水噴霧試験によって調査した。
1.供試母材実施例1に同じ材質を幅50mm, 長さ100 mm, 厚さ5mmの寸法に加工し、その全面に溶射皮膜を形成させた。
2.アンダーコート用溶射材料およびその厚さ13%Cr鋼 (JIS G4305 SUS 405 相当品) を溶射材料とし、プラズマ溶射法によって150 μm厚に成膜したものをアンダーコート溶射皮膜とした。
3.トップコート用溶射材料(ガラス質材料)およびその厚さ(1) 30wt%SiO2−21.0wt%B2O3−17wt%LiO2−5.0wt %TiO2−5.0 wt%ZnO −4.0 wt%ZrO2−40wt%SrO −3.0 wt%SnO2−3.0 wt%Al2O3 −2.5 wt%BaO(2) 40.0wt %SiO2−27.0wt%B2O3−18.0wt%LiO2−4.0 wt%SrO −3.0 wt%CaO −2.0 wt%Al2O3 -2.0wt%TiO2−2.0 wt%ZnO −2.0 wt%ZrO2−2.0 wt%SnO2−2.5 wt%BaO上記ガラス質材料(マトリックス材)に、Al2O3 粒子(10〜30μm )を20wt%となるように添加混合したものを溶射材料とし、これを 250μm厚に施工した。
4.アンダーコート溶射皮膜の予熱温度室温 (予熱なし)から 800℃まで電気炉中で予熱した。
5.トップコート溶射皮膜の後処理室温 (後処理なし)から 900℃まで電気炉中で過熱したが、室温から 500℃は10時間加熱、550 ℃から700 ℃は3時間、それ以上の温度は 0.5時間の加熱とした。
【0034】評価方法上記の各種予熱および後熱処理を行った複合皮膜の性状をJIS Z2371 (1988)塩水噴霧試験方法により96時間連続試験をおこない、溶射皮膜表面に発生した鉄錆の面積によってトップコート溶射皮膜の緻密性を評価した。
【0035】試験結果図2に、溶射皮膜の発錆状況を予熱温度と後処理温度との関係で示した。この結果から明らかなように、アンダーコート溶射皮膜の予熱温度が 200℃以下で、後処理温度が 400℃以下では、皮膜全体にわたって赤錆が発生し、トップコートのガラス質溶射皮膜中に無数の気孔が存在していることがわかった。また、予熱温度が 500℃以上で後処理温度が 400℃以下の範囲では、赤錆の発生は少ないものの、予熱温度が高いためアンダーコート溶射皮膜の酸化による損耗によってトップコートのガラス質溶射皮膜に多数の気泡が発生し、平滑性を消失していた。一方、このような傾向は、後処理温度を 400〜850 ℃に高くすると、気泡の発生現象が一層多くなった。
【0036】これに対し予熱温度 200〜500 ℃に加熱すると、200 ℃以下の後処理温度でもトップコートのガラス質溶射皮膜は平滑であり、また、赤錆の発生も少なく( 1cm2当たり0.1 点の発生以下)良好であった。そして、予熱温度が 200℃以下であっても後処理温度を 400〜850 ℃にすると、トップコートのガラス質溶射皮膜の気孔が消失し、赤錆の発生が少ない。特に、アンダーコートの予熱温度を 200〜500 ℃とし、トップコートの後処理温度を 400〜850 ℃とした範囲内の皮膜では、赤錆の発生は全く認められず、ほぼ完全に溶射皮膜の貫通気孔( 特にトップコート溶射皮膜中) が消失していることがうかがえる。以上の結果は、供試した2種類のガラス質成分共通の結果である。図2には、以上の結果から本発明の複合溶射皮膜を形成するための最適な予熱温度範囲と被膜形成後の最適熱処理温度の範囲を斜線で示した。
【0037】実施例3この実施例では、溶融亜鉛浴中に本発明にかかる複合溶射皮膜を有する鋼部材(試験片)を浸漬して、その耐溶融亜鉛性を調査した。同時に、溶融亜鉛浴中から引き上げた試験片は20℃の水中に投入して、熱衝撃性能についても評価した。
1.供試母材実施例1に同じ2.アンダーコート用溶射材料および皮膜厚さ溶射材料の種類および皮膜厚さは実施例1に同じ3.トップコート用ガラス質溶射材料およびその皮膜厚さ27wt%B2O3−18wt%LiO2−4wt%SrO −3wt%CaO −2wt%Al2O3 −2wt%TiO2−2wt%ZnO −2wt%ZrO2−2wt%SnO −2.5 wt%BaO −40wt%SiO2上記ガラス質にAl2O3 , Cr3C2 , NiB, TiN粉末をそれぞれ50wt%添加してよく混合したものを溶射材料とし、アンダーコート溶射皮膜上に300 μm厚となるように施工した。
【0038】評価方法■ 亜鉛浴条件:0.1 wt%Alを含むZn浴 480 ℃■ 亜鉛浴中浸漬時間:24時間浸漬後、20℃の水中に投入する操作を1サイクルとして10回実施試験終了後の皮膜の外観を目視にて、亜鉛の付着状況、皮膜の亀裂および剥離の有無を調査した。なお、比較例として、トップコートにつき、ガラス質溶射皮膜を形成しない皮膜を、同条件で亜鉛浴中へ浸漬←→水中投入のサイクルを10回繰り返したものを試験した。
【0039】試験結果試験結果を要約して表3に示した。この結果から明らかなように、ガラス質材料を含む複合溶射皮膜を形成していない比較例(No. 5)では、溶融亜鉛の付着が大となるとともに、特に金属質アンダーコート溶射皮膜(80wt%Ni−20wt%Cr) では、亜鉛によって激しく侵食された。また、60wt%Al2O3 −40wt%TiO2のようにそれ自体は亜鉛と反応しなくても、皮膜に存在する気孔を通して溶融亜鉛が内部へ侵入して、下層部の金属質皮膜を侵食した。これに対し、本発明にかかる強化分散材としてセラミックス粉末を分散したガラス質溶射皮膜を含む複合溶射皮膜( No.1, 2, 3, 4 の場合) は、アンダーコート溶射皮膜の種類に関係なく、すべて亜鉛の付着が軽微であったり、殆ど付着していない状態にあった。このような性能は、ガラス質材料はもとより、その中に添加しているセラミックス粒子が溶融亜鉛と反応しないうえ、極めて緻密で溶融亜鉛の内部侵入を完全に防止しているためと考えられる。さらに亜鉛浴 480℃から引き上げ直に20℃の水中へ投入しても複合溶射皮膜は健全であった。
【0040】
【表3】

【0041】実施例4本実施例では、溶融亜鉛−アルミニウム合金浴中および溶融アルミニウム浴中に本発明の皮膜を浸漬して、その耐溶融金属性および熱衝撃性能を調査した。
1.供試母材実施例1に同じ2.アンダーコート用溶射材料および皮膜厚さ溶射材料の種類および皮膜厚さは実施例1に同じ3.トップコート用溶射材料およびその皮膜厚さガラス質溶射皮膜の種類およびこれに分散添加するセラミックス粉末の種類と混合率ならびに皮膜厚さは実施例3に同じ。
【0042】評価方法浸漬条件:■ 45wt%Zn−55wt%Al 605 ℃■ 8wt%Si−92wt%Al 680 ℃両浴とも試験片を24時間浸漬後、20℃の水中に投入する操作を1サイクルとして10回繰返した。以上の試験終了後、皮膜の外観を目視にて溶融金属の付着状況, 皮膜の亀裂および剥離の有無を調査した。なお、比較例として、トップコートにつき、セラミックス粉末を分散混合したガラス質溶射皮膜を形成しない、すなわち、アンダーコート溶射皮膜のみのものを同条件で試験した。
【0043】試験結果試験結果を要約して表4に示した。この結果から明らかなように、比較例の溶射皮膜(No.9, 10) はいずれも、45wt%Zn−55wt%Al合金浴および8wt%Si−92wt%Al浴中に浸漬すると、1回目〜2回目でほぼ全面にわたって溶融金属に侵食された。これに対し本発明にかかる複合溶射皮膜(No.1〜8)は、溶融金属の付着は軽微であるうえ、これらの金属皮膜は指で容易に除去でき、除去部の複合皮膜表面には全く異常は認められなかった。さらに、トップコートの複合皮膜には熱衝撃による割れの発生も目視では観察されなかった。
【0044】
【表4】

【0045】実施例5本実施例では、溶融亜鉛浴中に本発明の皮膜を浸漬した後、これを引き上げると皮膜上に薄い亜鉛の皮膜が付着する。この亜鉛皮膜は簡単に機械的に剥離できるが、これを化学的に溶解除去する方法について検討した。
1.供試母材実施例1に同じ2.アンダーコート用溶射材料および皮膜厚さ溶射材料の種類および皮膜厚さは実施例1に同じ3.トップコート用溶射材料およびその皮膜厚さ3-1 17wt%B2O3−12wt%Na2O−5 wt%K2O −6 wt%Li2O− 4wt%Al2O3 −4wt%SrO −52wt%SiO23-2 26wt%B2O3−18wt%Li2O−4wt%SrO −2wt%Al2O3 −50wt%SiO2上記ガラス質にAl2O3 , 92.5wt%Al2O3 −7.5 wt%TiO2, TiC , TiB 粉末を40wt%となるように添加したものを溶射材料として、プラズマ溶射法によってアンダーコート皮膜上に150 μm厚となるように溶射成膜した。なお、溶射に先立ってアンダーコート皮膜を施工した試験片は、電気炉中で予め 250℃に加熱しておき、また溶射後も電気炉中で 700℃×30分加熱した。
【0046】評価方法上記の如く皮膜形成した本発明の複合溶射皮膜を 480℃の溶融亜鉛浴中に24時間浸漬した後、これを引上げ室温まで冷却した後、次の化学薬品中に24時間浸漬して皮膜上の亜鉛を溶解除去すると共に、本発明の皮膜の耐薬品性を調査した。
■ 5wt%HCl 25℃×24h■ 5wt%NaOH 60℃×24hなお、比較例として、トップコートを処理していないアンダーコート溶射皮膜のみのものを同一条件で試験した。
【0047】試験結果試験結果を表5に取りまとめて示した。この結果から明らかなように、比較例のガラス質溶射皮膜を有しないアンダーコート溶射皮膜単独のもの(No.9) では、溶融亜鉛浴中に浸漬しただけでも亜鉛と皮膜が反応して侵食現象が現れ、浴から引上げた試験片には多量の亜鉛が付着している。このような状態の試験片を5wt%HCl および5wt%NaOH中に浸漬すると、いずれの場合でも水素ガスを発生しながら亜鉛が溶出する。これは、亜鉛が酸, アルカリのいずれでも化学反応する両性金属であるからである。亜鉛が溶解した面では、亜鉛によって侵食された皮膜が露出するとともに、亜鉛の用出時に発生する水素ガスの作用によって皮膜が浮き上がり、剥離に至ったものと考えられ、このような傾向はNaOHよりもHCl の作用が強く現れているのが観察された。これに対し、本発明にかかるガラス質材料とセラミックス粉末とからなるトップコートを有する複合溶射皮膜(No. 1〜8)は、溶融亜鉛に侵されず、また溶融亜鉛浴中から引き上げた際に薄く付着している亜鉛は、HCl, NaOH によって簡単に溶解除去できるうえ、除去した面は全く異常は認められず、健全であった。
【0048】
【表5】

【0049】実施例6本実施例では、本発明の複合溶射皮膜の耐摩耗性について調査した。
1.供試母材構造用鋼板 SS400を幅50mm, 長さ60mm, 厚さ5mmに切断したものを用いた。
2.アンダーコート用溶射材料の種類および皮膜厚さ溶射材料として88wt%WC--12wt%Coを用い、拘束フレーム溶射法によって150μm厚に施工した。
3.トップコート用溶射材料の種類およびその皮膜構造ガラス質材料として、22wt%B2O3−17wt%Li2O−4wt%SrO −3wt%Al2O3−54wt%SiO2を用い、これにAl2O3 , Cr3C2 を添加した混合物をプラズマ溶射法によって、次に示す様な構造の複合皮膜を形成させた。
3-1 複合溶射皮膜の構造■ Al2O3 およびCr3C2 粉末をそれぞれ50wt%の割合にした溶射材料を 150μm厚に施工( 均一混合分散)■ Al2O3 およびCr3C2 粉末の配合割合を次のように段階的に変化させた層を200 μm厚に施工( 段階的可変分散)
アンダーコート溶射皮膜上に50μm厚ごとに(A) セラミックス粉末/ガラス質=95/5(B) セラミックス粉末/ガラス質=50/50(C) セラミックス粉末/ガラス質=20/80(D) セラミックス粉末/ガラス質=95/5■のセラミックス粉末含有量の段階的変化を、溶射粉末の自動供給装置を用いて複合溶射皮膜の上層部ほどセラミックス粉末量が小さくなるように調整しつつ 200μm厚に施工した。この皮膜のセラミック粉末含有量の最大は95wt%、最小は5wt%であったが、最表層部は部分的にガラス質 100%の部分も散見された。( 漸変的可変分散)
上記のトップコート溶射皮膜の施工は、アンダーコート溶射皮膜を 300℃に予熱後行い、溶射後さらに 650℃×5hの加熱処理を行って複合溶射を得た。
【0050】評価方法大越式摩耗試験機を用い、前記の各種MCrAlX合金溶射被覆を形成した試験片を水平に設置し、その上に直径30mm, 溶射皮膜との接触部の厚さ3mmのSiC ペーパを巻付けた円板を接触させ、その上に0.12 kgf/mm2の圧力を負荷しつつ、1秒間0.6mの速度で回転させ、累計回転速度が 300mになったとき、試験を中止して試験片の重量変化を測定することによって判定した。図3は、試験片31と回転運動を行う鋼製円板32の接触状態を示したものであり、本発明の皮膜および比較例の皮膜は、試験片の上部33に位置してSiC ペーパと調整接触するようになっている。
【0051】試験結果試験結果を表6に要約して示した。この結果から明らかなように、比較例の皮膜(No.7) は摩耗による重量減少が大きく、しかも試験時間 (回転円板との接触時間) が増加するほど急激に減少する。これに対し本発明の皮膜は、セラミックス粉末の混合状態の如何を問わず、一般に重量減少が少ない。とくにセラミックス粉末の混合割合が多い複合溶射皮膜ほど耐摩耗性に優れている。しかし、セラミックス粉末濃度を段階的( No.2, 5)もしくは漸変的に変化させた複合溶射皮膜(No.3, 6) では、初期摩耗は比較的多いが、時間の経過にともなって摩耗量は次第に少なくなる傾向を示している。これらの試験結果からわかるように、ガラス質材料中に硬質のセラミックス粉末を分散混合した複合溶射皮膜は、セラミックス粉末を含まない複合溶射皮膜に比較して耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0052】
【表6】

【0053】
【発明の効果】以上説明したように、金属, セラミックスおよびこれらの成分からなる溶射皮膜をアンダーコートとし、これを予熱しながらセラミックス粉末を含むガラス質複合溶射皮膜をトップコートとして形成した後、これを熱処理した本発明の複合溶射皮膜は、ガラス成分の存在によって皮膜中に気孔がなく、また、セラミックスによる骨材成分の含有によって、耐食性, 耐熱衝撃性, 耐摩耗性の各特性に加え、耐溶融金属性にも優れた性能を発揮する。したがって、本発明の複合溶射皮膜を溶融金属めっき用部材として使用すれば、長寿命化による生産性およびめっき製品の品質向上にとどまらず、耐薬品性にも優れていることから、部材の保守点検が容易となる利点がある。
【出願人】 【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
【出願日】 平成7年(1995)8月3日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】小川 順三 (外1名)
【公開番号】 特開平9−41118
【公開日】 平成9年(1997)2月10日
【出願番号】 特願平7−198306