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【発明の名称】 冷間加工性に優れた機械構造用鋼材及びその製造方法
【発明者】 【氏名】訓谷 法仁

【氏名】神原 進

【目的】 低炭素鋼と同等の冷間加工性を有し、且つ、調質処理により、中・高炭素鋼レベルの特性を有する機械構造用鋼材及びその製造方法の提供。
【構成】 ■特定の化学組成を有し、組織が結晶粒度でJIS粒度番号5〜10のフェライト、最大直径が20μm以下の黒鉛、及びセメンタイトからなり、且つ前記の黒鉛が100個/mm2 以上で分布する冷間加工性に優れた機械構造用鋼材。その製造方法は、900〜1200℃の温度域で加熱した後、合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜1100℃の熱間圧延を行い、次いで減面率で10〜30%の冷間引き抜きを施してから650℃〜Ac3点の温度域で1時間以上の焼鈍を行う。なお、熱間圧延の仕上げ温度が700〜950℃の場合には、次に焼鈍するだけでも良い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%で、C:0.20〜0.80%、Si:0.15%以下、Mn:0.60%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cu:0.2%以下、Ni:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.3%以下、Al:0.10%以下、B:0.0100%以下、N:0.02%以下、Nb:0.10%以下及びV:0.5%以下を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなる化学組成であって、組織が、結晶粒度でJIS粒度番号5〜10のフェライト、最大直径が20μm以下の黒鉛、及びセメンタイトからなり、且つ前記の黒鉛が100個/mm2 以上で分布する冷間加工性に優れた機械構造用鋼材。
【請求項2】請求項1に記載の化学組成を有する鋼を、900〜1200℃の温度域で加熱した後、直ちに合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜1100℃の熱間圧延を行い、次いで、減面率で10〜30%の冷間引き抜きを施してから650℃〜Ac3点の温度域で1時間以上の焼鈍を行うことを特徴とする冷間加工性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
【請求項3】請求項1に記載の化学組成を有する鋼を、900〜1200℃の温度域で加熱した後、直ちに合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜950℃の熱間圧延を行い、次いで、650℃〜Ac3点の温度域で1時間以上の焼鈍を行うことを特徴とする冷間加工性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷間加工性に優れた機械構造用鋼材及びその製造方法に関し、より詳しくはJISの機械構造用炭素鋼鋼材のうちS20Cレベルの冷間加工性を有し、且つ、焼入れ焼戻しの所謂「調質処理」後は、S35CからS58Cといった中・高炭素鋼鋼材レベルの特性(強度や靭性)を有する機械構造用鋼材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】機械構造用部品は、熱間鍛造後に機械加工を行って成形した後、焼入れ焼戻しなどの熱処理を施して製造されることが多かった。しかし、近年コスト合理化や生産性向上の観点から、冷間鍛造などの冷間成形加工による部品製造の要求が高まっている。特に、素材コストを低減して市場を確保、拡大しようとの産業界の動きは中・高炭素鋼鋼材の冷間加工成形(以下、冷鍛成形ともいう)化に拍車をかけている。
【0003】機械構造用鋼材としては所望の焼入れ性や製品強度が確保できるJIS機械構造用炭素鋼・合金鋼鋼材を用いれば良いが、鋼材コストを抑える目的からは炭素鋼鋼材を用いることが手っ取り早い。このため従来、焼入れ性や製品強度の確保との関係において、高価な合金元素に替えてCを多量に添加することが行われてきた。
【0004】しかし高いC量を含有する鋼材は加工性や変形能の面で問題があり、したがって、中・高炭素鋼鋼材の冷鍛成形化のためには材料の成形性を補う目的で成形前に球状化焼鈍などの軟質化処理を施すのが一般的である。しかし、球状化焼鈍して得られるフェライトと球状化セメンタイトの混合組織による軟化にも限界があって、中・高炭素鋼鋼材に、例えばS20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性(冷間鍛造性)を付与することは困難である。
【0005】したがって、例えば20時間を超えるような長時間の球状化焼鈍処理と冷間鍛造の工程を繰り返す必要があってエネルギー消費が大きくコストが嵩み、更に、生産性も低いという問題があった。
【0006】こうした問題に対して、特開昭63−100161号公報において、従来数回要していた球状化焼鈍−冷間鍛造の処理回数を低減できる「冷間鍛造用鋼」が提案されている。しかしながらこの公報に記載の鋼を用いても球状化焼鈍後の組織は依然としてフェライトと球状化セメンタイトの混合組織であるため、S20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性を得るまでには至っていない。
【0007】特開昭63−216952号公報には冷間鍛造性、被削性及び高周波焼入れ性に優れた「冷間鍛造用鋼」が開示されている。しかしここに提案された鋼を用いても球状化焼鈍後の変形抵抗は高く、当然のことながらS20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性は得られない。
【0008】一方、特公平2−107742号公報にはフェライト−黒鉛組織を利用した「加工性、焼入性に優れた鋼材」が提案されている。しかしながらこの公報で提案された鋼材には、靭性の付与、メッキ不良やスケール疵の発生を抑えるためにNi、Co及びCuのいずれか1種以上を必須成分として添加するため、依然として変形抵抗の低下が充分ではなかった。更に、前記の鋼材は、フェライト−黒鉛組織における黒鉛相にのみ注目したもので、フェライト相については全く配慮されていないため、変形能の面で問題を生じる場合もあり、加えて実施例にも見られるように所望組織を得るための焼鈍時間は20時間といった長時間を要するものであった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、成形加工時にはS20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性と強度を有し、且つ、浸炭や窒化処理など特別な熱処理を施すことなく、通常の焼入れ−焼戻し処理により、JIS機械構造用炭素鋼鋼材のうちS35CからS58Cレベルの特性を有する機械構造用鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の課題を解決するため鋼材の化学組成及び組織について調査・研究を行った。その結果、下記■〜■に示す知見を得た。
【0011】「フェライト−球状化セメンタイト組織」による加工性向上には限界があり、S20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性(50%の加工を行った時の600MPa以下の変形抵抗と、両端拘束据え込み試験における限界圧縮率が85%以上の変形能)を鋼に付与するためには、伸展性に富んだ「フェライト−黒鉛−セメンタイト組織」とする必要がある。
【0012】■Siの含有量は、脱酸−黒鉛化促進の好ましい作用と、フェライト強化による変形抵抗増加という好ましくない作用とのバランスから決定する必要がある。
【0013】■炭化物の生成を防いで黒鉛化を促進させるためには、炭化物安定化元素としてのCr及びMnの含有量を低く抑えれば良い。
【0014】■Cu、Ni、P及びSは黒鉛化を促進させるが、フェライトを強化して変形抵抗を高める。したがって、これらの元素の含有量を規制する必要がある。
【0015】■添加元素を減らして再結晶時の核生成サイトを減少させた場合でも、(a)900〜1200℃の温度域で加熱した後、直ちに合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜1100℃である熱間圧延を行い、次いで減面率10〜30%の冷間引き抜きを施してから適正条件で焼鈍を施すか、(b)前記(a)における熱間圧延の仕上げ温度を特に700〜950℃とした場合に圧延後に適正条件で焼鈍を施せば、黒鉛化促進、及び黒鉛粒と結晶粒の微細化が可能である。
【0016】■鋼材の化学組成を特定し、更に、JISフェライト粒度番号5〜10のフェライト、最大直径が20μm以下の黒鉛、及びセメンタイトからなり、且つ前記の黒鉛を100個/mm2 以上で分布させた組織とすれば、変形能を極めて高くできる。ここで、各々の黒鉛粒における最も長い長軸の長さをその黒鉛の最大直径と定義することとする。
【0017】■黒鉛が上記■に示したサイズと分布状態であれば、黒鉛化に伴う焼入れ時の熱処理性の低下は生じない。
【0018】上記知見に基づく本発明は、下記(1)に示す冷間加工性に優れた機械構造用鋼材及び(2)と(3)に示す冷間加工性に優れた機械構造用鋼材の製造方法を要旨とする。
【0019】(1)重量%で、C:0.20〜0.80%、Si:0.15%以下、Mn:0.60%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cu:0.2%以下、Ni:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.3%以下、Al:0.10%以下、B:0.0100%以下、N:0.02%以下、Nb:0.10%以下及びV:0.5%以下を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなる化学組成であって、組織が、結晶粒度でJIS粒度番号5〜10のフェライト、最大直径が20μm以下の黒鉛、及びセメンタイトからなり、且つ前記の黒鉛が100個/mm2 以上で分布する冷間加工性に優れた機械構造用鋼材。
【0020】(2)上記(1)に記載の化学組成を有する鋼を、900〜1200℃の温度域で加熱した後、直ちに合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜1100℃の熱間圧延を行い、次いで、減面率で10〜30%の冷間引き抜きを施してから650℃〜Ac3点の温度域で1時間以上の焼鈍を行うことを特徴とする冷間加工性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
【0021】(3)上記(1)に記載の化学組成を有する鋼を、900〜1200℃の温度域で加熱した後、直ちに合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜950℃の熱間圧延を行い、次いで、650℃〜Ac3点の温度域で1時間以上の焼鈍を行うことを特徴とする冷間加工性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、成分含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0023】(A)鋼材の化学組成C:Cは鋼の焼入れ性の向上、また調質処理後の強度の向上に有効な元素である。しかし、その含有量が0.20%未満では焼入れ後に低温で焼戻しする調質処理を行っても所望の特性(S35CからS58Cレベルの強度や靭性)が得られない。一方、0.80%を超えると靭性の劣化や焼き割れの発生を招くこととなる。したがって、Cの含有量を0.20〜0.80%とした。
【0024】Si:Siは添加しなくても良い。添加すれば鋼の脱酸の安定化及び黒鉛化促進を図る作用がある。この効果を確実に得るには、Siは0.05%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.15%を超えるとフェライトを強化して変形抵抗を上昇させ、また熱間圧延時の脱スケール性を極めて劣化させるようになる。したがって、Siの含有量を0.15%以下とした。
【0025】Mn:Mnは添加しなくても良い。添加すれば鋼の焼入れ性と強度を高める作用がある。前記の効果を確実に得るには、Mnは0.05%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.60%を超えると黒鉛化を阻害するようになるので、Mnの含有量を0.60%以下とした。
【0026】P:Pも添加しなくて良い。添加すれば鋼の黒鉛化を促進する作用がある。この効果を確実に得るには、Pは0.001%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.03%を超えると粒界に偏析して冷間加工性の著しい劣化をきたす。したがって、Pの含有量を0.03%以下とした。なお、Pの含有量は0.02%以下とすることが好ましい。
【0027】S:Sも添加しなくて良い。添加すれば鋼の黒鉛化を促進する作用がある。前記の効果を確実に得るには、Sは0.001%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.03%を超えると介在物を形成して著しい冷間加工性の劣化をもたらす。したがって、Sの含有量を0.03%以下とした。なお、Sの含有量は0.01%以下とすることが好ましい。
【0028】Cu:Cuは添加しなくても良い。添加すれば鋼の焼入れ性と強度を高め、また黒鉛化を促進する作用がある。これらの効果を確実に得るには、Cuは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.2%を超えるとフェライトを強化して変形抵抗を大きく上昇させ冷間加工性の劣化をきたすので、Cuの含有量を0.2%以下とした。なお、Cuは0.1%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。
【0029】Ni:Niも添加しなくても良い。添加すれば鋼の焼入れ性と強度を高め、また黒鉛化促進を図る作用がある。前記の効果を確実に得るには、Niは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.2%を超えるとフェライトを強化して変形抵抗を大きく上昇させ冷間加工性の劣化をきたす。したがって、Niの含有量を0.2%以下とした。なお、Niは0.1%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。
【0030】Cr:Crも添加しなくても良い。添加すれば鋼の焼入れ性と強度を高める作用がある。この効果を確実に得るには、Crは0.02%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.2%を超えると炭化物を安定化し黒鉛化の進行を極めて遅くする。したがって、Cr含有量の上限を0.2%とした。なお、Crの含有量は0.1%以下とすることが好ましい。
【0031】Mo:Moは添加しなくても良い。添加すれば鋼の焼入れ性と強度を高め、また黒鉛化を促進する作用がある。この効果を確実に得るには、Moは0.02%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.3%を超えると変形抵抗を上昇させて冷間加工性を阻害するようになるので、Moの含有量を0.3%以下とした。なお、Moの含有量は0.2%以下とすることが好ましい。
【0032】Al:Alも添加しなくても良い。添加すれば鋼の脱酸の安定化及びNと反応してAlNを形成し結晶粒を微細化する作用がある。前記の効果を確実に得るには、Alは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.10%を超えると、冷間加工時に鋼の変形能を大きく低下させてしまう。したがって、Al含有量の上限を0.10%とした。
【0033】B:Bは含有させなくても良い。含有させれば添加合金成分量の低減に伴う鋼の焼入れ性不足を補い強度を高める作用がある。この効果を確実に得るには、Bは0.0003%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.0100%を超えると結晶粒を粗大化させ靭性の劣化をきたすようになるので、Bの含有量を0.0100%以下とした。
【0034】N:Nも添加しなくても良い。添加すればAlと反応してAlNを形成し結晶粒を微細化する作用がある。前記の効果を確実に得るには、Nは0.003%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.02%を超えると、黒鉛化の進行を極めて遅くする。。したがって、N含有量の上限を0.02%とした。なお、Nの含有量は0.015%以下とすることが好ましい。
【0035】Nb:Nbは添加しなくても良い。添加すれば結晶粒を微細化する作用を有する。この効果を確実に得るには、Nbは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.10%を超えると粗大な未固溶炭窒化物が残留して冷間加工性の低下をきたす。したがって、Nbの含有量を0.10%以下とした。
【0036】V:Vは添加しなくても良い。添加すれば結晶粒を微細化する作用を有する。この効果を確実に得るには、Vは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.5%を超えると粗大な未固溶炭窒化物が残留して冷間加工性の低下をきたす。したがって、Vの含有量を0.5%以下とした。
【0037】上記の化学組成を有する鋼材は、例えば熱間で分塊されて鋼片となり、次いで所定の条件で熱間圧延された後、必要に応じて所定の条件で冷間引き抜きされ、その後所定の条件で焼鈍を受け所望の組織に調整されてから、所定の形状の機械構造用部品に冷間鍛造される。そして最終的に焼入れ焼戻しの熱処理を受けることとなる。
【0038】(B)鋼材の組織後の実施例でも詳しく述べるが、鋼材が所定の化学組成を有し、その組織が結晶粒度でJIS粒度番号5〜10のフェライト、最大直径が20μm以下の黒鉛、及びセメンタイトからなり、且つ前記の黒鉛が100個/mm2 以上で分布する場合に、鋼材は中・高炭素鋼鋼材であっても優れた冷間加工性を発現できる。
【0039】すなわち上記の場合には、中・高炭素鋼鋼材であっても600MPa以下の変形抵抗と、両端拘束据え込み試験における限界圧縮率が85%以上の変形能という、S20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性を示すようになる。
【0040】フェライト相に関して、結晶粒度でJIS粒度番号10番を超えると鋼材の変形抵抗が極めて大きくなり、またJIS粒度番号5番を下回ると鋼材の限界圧縮率が小さくなって変形能が低下してしまう。
【0041】黒鉛に関しては、最大直径で20μmを超えるものが存在すれば鋼材の限界圧縮率が小さくなって変形能が低下してしまう。この黒鉛の最大直径は小さすぎても変形抵抗を高めることになるので最大直径の下限値は0.5μm程度とすることが好ましい。また最大直径が20μm以下の黒鉛が1mm2 当たり100個を下回ると鋼材の限界圧縮率が小さくなって変形能が低下してしまう。最大直径が20μm以下の黒鉛の1mm2 当たりの分布個数の上限は特に規定する必要はなく、多ければ多いほど良い。
【0042】ところで、鋼材の組織がセメンタイトを含まないものになるほどの長時間の焼鈍を行えば、黒鉛が粗大化して最大直径で20μmを超えるものが存在するようになって、鋼材の限界圧縮率が小さくなって変形能が低下してしまう。更にエネルギーのロスにもなる。したがって、鋼材の組織中にはセメンタイトが含まれておれば良い。なお、セメンタイトの存在形態は特に規定されるものではない。
【0043】上記した理由から本発明においては、鋼材の組織を前記のように規定する。
【0044】ちなみに、図1、2は、C:0.50%、Si:0.10%、Mn:0.10%、P:0.009%、S:0.008%、Cu:0.01%、Ni:0.01%、Cr:0.02%、Mo:0.02%、Al:0.010%及びN:0.004%を含有する本発明の対象鋼材を用いて、熱間圧延条件、冷間引き抜き条件及び焼鈍条件を変化させて、フェライト−セメンタイト−黒鉛からなる組織におけるフェライト粒度番号と最大直径が20μm以下の黒鉛粒数を変化させ、直径10mm×長さ15mmの試験片による両端拘束据え込み試験における限界圧縮率(限界据え込み率)を調べた結果である。
【0045】図1は、フェライト結晶粒度(JIS粒度番号)が据え込み試験における限界圧縮率に及ぼす影響を示したもので、試験片としては組織がフェライト−セメンタイト−黒鉛からなり、最大直径が20μm以下の黒鉛が1mm2 当たり100個以上分布しているものを用いた。
【0046】図2は、最大直径が20μm以下の黒鉛の1mm2 当たりの分布個数が据え込み試験における限界圧縮率に及ぼす影響を示したもので、試験片としては組織がフェライト−セメンタイト−黒鉛からなり、フェライト結晶粒度がJIS粒度番号5〜10のものを用いた。
【0047】この図1、2からも本発明で規定した組織の場合に、限界圧縮率で85%以上というS20Cと同等の良好な冷間加工性が得られることが明らかである。
【0048】(C)熱間圧延焼鈍によって鋼材を所望の組織とするには、熱間での圧延は、900〜1200℃で加熱した後、直ちに合計圧下率が20%以上で仕上げ温度が700〜1100℃となるように行う必要がある。特に、前記熱間圧延における仕上げ温度が700〜950℃の場合には、これに続いて焼鈍処理を行うだけで所望の組織を鋼材に付与することができる。
【0049】1200℃を超える高温加熱の場合には、オ−ステナイト粒の粗大化が著しいため焼鈍後に所望の鋼材組織が得られないという品質面での問題があることに加えて、コストアップになるという経済面での問題もある。また、900℃を下回る温度域で加熱した場合には鋼材の変形抵抗が極めて大きくなるため強力な熱間圧延設備が必要となるし、疵も発生し易くなる。そこで熱間圧延の加熱は900〜1200℃の温度域に限定する。
【0050】1100℃を超える温度で仕上げ圧延した場合には、次に冷間引き抜きを行っても焼鈍後に所望の組織が得られない。一方、700℃を下回る温度域では鋼材の変形抵抗が極めて大きくなって強力な熱間圧延設備が必要となるし、疵も発生し易くなる。したがって、熱間圧延の温度域は1100〜700℃に規定する。
【0051】なお、熱間圧延の合計圧下率が20%未満の場合には、黒鉛化促進、及び黒鉛粒と結晶粒の微細化が生じ難く鋼材に所望の組織を付与できないため、合計圧下率を20%以上とする。この合計圧下率には特に上限を設ける必要はなく、例えば設備的な面から決定すれば良い。
【0052】(D)冷間引き抜き冷間引き抜きは熱間で圧延された鋼材の組織を焼鈍処理によって所望のものとするために実施する。特に、熱間圧延の仕上げ温度が950℃を上回り1100℃以下である場合には、鋼材を焼鈍によって所望の組織とするための必須の処理である。
【0053】減面率が10%未満の冷間引き抜きの場合には黒鉛化促進、黒鉛粒及び結晶粒の微細化を生じ難い。更に、熱間圧延後の鋼材には寸法ばらつきがあるため、極めて僅かな減面率の加工しか受けない部分が生じ、場合によっては次の焼鈍によって却って粒の粗大化をきたすことにもなる。減面率で30%を超える冷間引き抜きを行っても黒鉛化促進、及び黒鉛粒と結晶粒の微細化の効果が飽和することに加えて、引き抜き力の増加に見合うだけのパワーの大きな設備が必要となってくる。したがって、熱間圧延後に冷間引き抜きを施す場合には、その減面率を10〜30%と規定する。
【0054】なお、仕上げ温度が700〜950℃の熱間圧延の場合には、これに続いて下記の焼鈍処理を行うだけで所望の組織を鋼材に付与することもできるが、熱間圧延後に上記の冷間引き抜きを行っても良い。
【0055】(E)焼鈍焼鈍は鋼材を所望の組織とするために必須の処理である。650℃〜Ac3点の温度域で1時間以上の焼鈍を行うことで初めて、鋼材組織を結晶粒度でJIS粒度番号5〜10のフェライト、最大直径が20μm以下の黒鉛、及びセメンタイトからなり、且つ前記の黒鉛が100個/mm2 以上で分布する所望の状態にすることができる。
【0056】焼鈍温度が650℃未満の場合には、黒鉛が容易に析出せず鋼材に所望の組織を付与できない。一方、焼鈍温度がAc3点を超えると、黒鉛の析出よりもオーステナイトへの逆変態が先行し、やはり所望の組織が得られない。したがって、黒鉛化のための焼鈍は650℃〜Ac3点の温度域で行う必要がある。
【0057】上記の温度域であっても、焼鈍時間が1時間未満であると、黒鉛化が充分起こらず所望の組織が得られないので、冷間加工性が劣る。一方、焼鈍時間が長すぎた場合には黒鉛が粗大化して最大直径で20μmを超えるものが存在するようになって、鋼材の限界圧縮率が小さくなって変形能が低下するし、更にはエネルギーのロスにもなるため、焼鈍時間は20時間程度を上限とすることが好ましい。なお、焼鈍時間の上限は10時間程度とすることが経済面からもより望ましい。
【0058】これまでに述べた製造条件によって、本発明の「冷間加工性に優れた機械構造用鋼材」が得られる。この鋼材は、次に述べる冷間加工及び熱処理が施されて、機械部品などの最終製品となる。
【0059】(F)冷間加工焼鈍によって所望の組織を付与された鋼材は、冷間鍛造などの冷間加工を受けて所定の機械構造用部品に成形される。この冷間での成形方法は特に規定されるものではなく、通常の方法で行えば良い。
【0060】(G)調質処理(焼入れ焼戻し)
調質処理は、冷間成形された機械構造用部品に製品として必要な特性を付与するのに必要不可欠な処理である。しかし、この処理方法は特に規定されるものではなく、通常の方法で行えば良い。なお、従来と同様に調質処理に続いて表面の硬化を目的とした高周波焼入れを行っても良い。
【0061】以下実施例により、本発明を説明する。
【0062】
【実施例】
(実施例1)表1、2に示す化学組成の鋼を通常の方法によって溶製した。表1、2において、鋼A〜Kは本発明の対象鋼(以下、「本発明鋼」という)、鋼L〜Pは成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較鋼である。また比較鋼における鋼LとMはそれぞれJISのS45CとS20Cに相当するものである。ここで、鋼Lは機械構造用の中・高炭素鋼鋼材であるS35CからS58Cを代表させて特性を調査するために用いた。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】次いで、これらの鋼を通常の方法によって鋼片となし、更に1100℃に加熱してから、表3、4に示す条件の熱間圧延と焼鈍を行った。なお、表3、4に示すように、一部のものについては焼鈍の前に通常の方法による冷間引き抜きを施した。また、焼鈍前の鋼材(丸棒)はすべて直径が20mmになるように鋼片サイズ、熱間圧延の圧下率及び冷間引き抜きの減面率を調整した。
【0066】こうして得られた焼鈍後の直径20mmの丸棒から、直径10mm×長さ15mmの試験片を切り出し、通常の方法による両端拘束据え込み試験を行い、常温における変形抵抗と変形能を測定した。なお、変形抵抗は前記の据え込み試験での据え込み率(圧縮率)が50%における変形抵抗で、変形能は同据え込み試験での割れ限界据え込み率(限界圧縮率)で評価した。
【0067】また、焼鈍後の直径20mmの丸棒の表面から5mmの位置を光学顕微鏡で観察して、焼鈍後の丸棒の組織調査(相の判定、フェライト結晶粒度の測定及び黒鉛のサイズと分布の測定)を行った。
【0068】表3、4に調査結果を併せて示す。この表3、4によれば、本発明で規定する化学組成を有し、且つ、本発明で規定する条件で「熱間圧延−冷間引き抜き−焼鈍」または「熱間圧延−焼鈍」の処理が施された鋼材(試験番号1〜17)にあっては、規定の組織を有するのでS20Cと同等の冷間加工性(変形抵抗と変形能)が得られることが明らかである。一方、試験番号18のように、本発明で規定する化学組成を有する鋼であっても、熱間圧延と冷間引き抜きの条件が本発明で規定する条件から外れ、そのために組織が本発明で規定するものから外れた場合には、冷間加工性が低い。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】(実施例2)実施例1の試験番号1〜17、19、20で得た鋼A〜Mの焼鈍後の直径20mmの丸棒を870℃で30分加熱してから油焼入れし、表層部と中心部の焼入れままの硬度(Hv)を測定した。更に、焼戻しを行った後、JIS4号引張り試験片とJIS3号シャルピー衝撃試験片を採取し、常温での引張り強度と衝撃値を求めた。
【0072】表5に調査結果を示す。この表5によれば、本発明で規定する化学組成を有し、且つ、本発明で規定する条件で「熱間圧延−冷間引き抜き−焼鈍」または「熱間圧延−焼鈍」の処理を施された鋼材を焼入れ焼戻しした場合には(試験番号23〜39)、所望の焼入れ硬度と調質処理後の特性(強度と靭性)が得られることが明らかである。
【0073】
【表5】

【0074】
【発明の効果】本発明による機械構造用鋼材は、冷間加工時にはS20Cクラスの低炭素鋼鋼材と同等の冷間加工性で、且つ、通常の焼入れ焼戻し処理を施した後ではS35CからS58Cレベルの強度と靭性を有するので、高価な合金元素の含有量が少なく冷間成形が可能な、低コスト型の機械構造用鋼材として利用することができる。この機械構造用鋼材は本発明方法によって、比較的容易に製造することができる。
【出願人】 【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
【出願日】 平成8年(1996)5月15日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】森 道雄 (外1名)
【公開番号】 特開平9−67642
【公開日】 平成9年(1997)3月11日
【出願番号】 特願平8−120027