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【発明の名称】 結晶粒の粗大化特性に優れた機械構造用炭素鋼
【発明者】 【氏名】紅林 豊

【氏名】中村 貞行

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】合金元素の含有率が質量%で、C :0.06%〜0.25%Si:0.35%以下Mn:0.50%〜1.00%Cr:0.30%以下Al:0.010%〜0.060%N :0.005%〜0.030%を含み、さらに、Nb:0.010%〜0.20%Ti:0.003%〜0.050%Ta:0.010%〜0.20%Zr:0.010%〜0.20%Hf:0.010%〜0.20%から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする結晶粒の粗大化特性に優れた機械構造用炭素鋼。
【請求項2】請求項1記載の材料に於いて、鋼中に存在する析出物の組成がNb炭化物,Nb,Ti,Ta,Zr,Hfの窒化物,Nb,Ti,Ta,Zr,Hfの炭窒化物およびNb,Ti,Ta,Zr,HfとAlの複合炭窒化物系の析出物であり、鋼中に少なくとも3個/10μm以上の析出数であることを特徴とする結晶粒の粗大化特性に優れた機械構造用炭素鋼。
【請求項3】請求項1および請求項2に記載の内容に加え、重量%で、Pb:0.01%〜0.20%Bi:0.01%〜0.20%Te:0.002%〜0.05%Ca:0.0005%〜0.010%S :0.10%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする結晶粒の粗大化特性に優れた機械構造用炭素鋼。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、結晶粒の粗大化特性を向上させ、浸炭焼入れ処理時に発生する結晶粒の異常成長を防止するとともに、粗大化対策として行われる浸炭処理前の焼ならし処理を省略し、また、高温で浸炭処理することによって処理時間の短縮を可能とする鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】機械構造用炭素鋼の中で、炭素含有量が0.25%以下の炭素鋼では強度特性や耐摩耗性を向上させるなどの目的から浸炭処理を施して実部品に使用される場合が多い。一般に部品の製造は熱間鍛造、温間鍛造および冷間鍛造などの鍛造を行うか、または、切削加工によって製造されている。この後に浸炭焼入れ処理を施して必要とする特性を与えようとするものである。
【0003】しかし、従来の鋼の場合では、鍛造工程または切削加工で成形された部品を浸炭処理すると、結晶粒が粗大化することがあった。このような粗大結晶粒が生成されると部品の強度低下を生じ、また、熱処理歪みを増大させるなど実用上で多くの問題を発生させる。これら問題を解決するために、従来では浸炭処理前に焼ならし処理を行うなどの対策が実施されてきている。しかし、これらの対策はエネルギー面や製造コストの面で多大な損失であるため改善が必要とされている。
【0004】さらには、これらの対策を実施しても粗大粒が生成される場合があるため、浸炭処理温度を低下させ長時間の処理を行うなどの問題があった。このため、材料の粗大化特性を高め、浸炭温度の上昇を図り浸炭処理時間の短縮を図ることができれば、製造工程に於いて大きな利点をもたらす。
【0005】一般に、鋼中に微細な析出物を分散させることによって粗大化特性が向上することが知られており、機械構造用炭素鋼において脱酸剤として使用されるAlが鋼中の窒素と結合してAlNを析出するために粗大化を抑制することができることが知られている。しかし、現状の製造条件下においてはAlNによる粗大化防止対策ではでは十分な効果を得ることができないため、粗大化特性の向上に関する研究が行われているものの、実用化された例は少ない。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述のような背景をもとになされたもので、本発明の目的とするところは、材料の粗大化特性を向上させ、浸炭処理時の結晶粒の粗大化を防止するとともに、粗大化防止の対策として行われている浸炭処理前の焼ならし処理を省略し浸炭処理時間の短縮を図るために高温で浸炭処理しても粗大化の発生を生じない鋼を提供することにある。このために、鋼に添加する元素の適正化ならびに素地に分散させる析出物の形態・個数を適正化し、結晶粒の粗大化特性に優れた機械構造用炭素鋼を提供することにある。
【0007】すなわち、本発明の浸炭鋼は、合金元素の含有率が質量%で、C :0.06%〜0.25%Si:0.35%以下Mn:0.50%〜1.00%Cr:0.30%以下Al:0.010%〜0.060%N :0.005%〜0.030%を含み、さらに、Nb:0.010%〜0.20%Ti:0.003%〜0.050%Ta:0.010%〜0.20%Zr:0.010%〜0.20%Hf:0.010%〜0.20%から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする。また、鋼中に存在する析出物の組成がNb炭化物,Nb,Ti,Ta,Zr,Hfの窒化物,Nb,Ti,Ta,Zr,Hfの炭窒化物およびNb,Ti,Ta,Zr,HfとAlの複合炭窒化物系の析出物であり、鋼中に少なくとも3個/10μm以上の析出数であることを特徴とする。さらに、合金元素の含有量が重量%で、Pb:0.01%〜0.20%Bi:0.01%〜0.20%Te:0.002%〜0.05%Ca:0.0005%〜0.010%S :0.10%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0008】以下に各合金元素の限定理由について説明する。
C:0.06%〜0.25%Cは浸炭処理後に要求される特性によって選定されるが、機械構造部品としての強度を確保するためには0.06%以上の含有量が必要である。しかし、過剰に添加されると靭性の低下を生じ、また、鍛造性や切削性などの特性を低下させるため、C含有量の上限を0.25%に規制した。
【0009】Si:0.35%以下Siは鋼の溶解時に脱酸剤として添加されるが、含有量の少ないほど鍛造性を向上させる。Si含有量が0.35%を超して添加されると切削性の低下が確認されたため、添加量の上限を0.35%に規制した。
【0010】Mn:0.50%〜1.00%Mnも脱酸剤として添加されるが、Mnは鋼の焼入性を大幅に改善する効果を有しており、浸炭処理時に行われる焼入れで効果を発揮させるために0.50%以上を添加する必要がある。しかし、過剰に添加してもその効果が飽和するとともに熱間加工性を低下させるため、Mnの含有量の上限を1.00%に規制した。
【0011】Cr:0.30%以下Crは鋼の焼入性を向上させるために添加するが、0.30%を超して添加した場合、被削性および冷鍛性の低下が認められたため、含有量の上限を0.30%に規制した。尚,好ましい範囲は0.03%〜0.20%である.
【0012】Al:0.010%〜0.060%Alは本発明において重要な役割を示す元素であり、鋼中の窒素と結合してAlNを生成させるために不可欠な元素である。本発明では、AlNの単独の析出物を生成させるのみならず、Nb,Tiなどとの複合析出物をも生成させることを目的としているので、所定の析出物の形態と析出数を確保するために0.010%以上を含有する必要がある。しかし、過剰に添加すると熱間加工の工程に於いて割れを生ずるなどの問題があるため、Al添加量の上限を0.060%に規制した。
【0013】N:0.005%〜0.030%Nも本発明において重要な役割を示す元素であり、所定の析出物を得るために最低0.005%を含有する必要がある。しかし、過剰に添加してもその効果が飽和するとともに、熱間加工時に割れ発生を助長する傾向が確認されたため、N含有量の上限を0.030%に規制した。
【0014】Nb:0.010%〜0.20%Ti:0.003%〜0.050%Ta:0.010%〜0.20%Zr:0.010%〜0.20%Hf:0.010%〜0.20%Nb,Ti,Ta,Zr,Hfは本発明に不可欠な元素であり、各元素の1種または2種以上を複合して添加する、これらの元素は、いずれも鋼中のCおよびNと結合して、炭化物,窒化物,および炭窒化物を生成するが、これらの析出物およびAlNと複合して生成した析出物が素地中に存在すると、結晶粒の粗大化を防止する効果があることが確認された。発明者は、高温加熱処理後の材料を電子顕微鏡で調査した結果、素地に残留している析出物の多くが、上述の複合組成の析出物であることを検出し、これらの析出物が結晶粒の粗大化を抑制する効果があることを確認した。従って、これら複合組成の析出物を得るためにそれぞれ、0.010%,0.003%,0.010%,0.010%,0.010%を添加する必要がある。しかし、過剰に添加しても効果が飽和し、いたずらに材料の製造コストを増加させるために、添加量の上限を規制した。
【0015】Pb:0.01%〜0.20%Bi:0.01%〜0.20%Te:0.002%〜0.05%Ca:0.0005%〜0.010%S :0.10%以下Pb,Bi,Te,Ca,Sは被削性を向上する目的で添加する元素であり、要求される被削性に応じて1種または2種以上を複合して添加するのも良い。
【0016】析出物の形態についてNb,Al,Nの3元素を含有する鋼に於いては、大別してAlN,NbC(または、NbN,Nb(C,N))およびAl・Nbの複合炭窒化析出物の3種が素地中に析出することが確認された。これら3種類の析出物を含有する鋼を900℃以上の高温に加熱保持した後、粗大化状況と残存する析出物の形態を調査した。調査では高温加熱後の材料の析出物をを電子顕微鏡によって観察したが、加熱前に観察されたAlN,Nb単独の析出物はあまり観察されず、900℃以上の加熱後に残存する析出物の多くがAl・Nb炭窒化物であることを見出した。
【0017】すなわち、粗大化特性を向上させるための析出物の形態は、Nb,Al,N,Cを含有した複合組成の析出物が望ましいことが見出された。なお、複合組成の析出物を生成させるために必要なC量は0.01%程度である。Ti,Ta,Zr,HfもNbと同様の作用があり、いずれもAlとの複合組成の析出物を生成し、結晶粒の粗大化を抑制する効果があることが確認された。また、これらの元素は単独で添加しても2種以上を同時に添加させても同様の効果を示すことが確認された。特に、Tiでは1100℃の高温においても結晶粒の粗大化を生じないことが確認されたが、Tiを多量に添加した場合には大型のTiNを生成する可能性があり、疲労起点の介在物となる場合があるために好ましくは0.03%以下が適正値である。
【0018】析出物の個数について複合析出物の個数と粗大化温度の関係を調査した結果、複合析出物数の多いほど粗大化温度が高くなることを確認した。ここで、現在最も一般的な浸炭温度である930℃で粗大化が発生しない条件を検討した結果、浸炭処理前の素地中に3個/10μm以上の個数が必要であることが見出された。さらに粗大化特性を改善するためには、素地中に存在する複合組成の析出物数を増加させることが有効であることを見出した。
【0019】
【実施例】表1に示す化学成分を有する材料を溶製した後に、熱間圧延によって直径30mmの丸棒を製造した。この後に圧延素材を760℃で6時間保持し、30℃/hの冷却速度で650℃まで徐冷する球状化焼なまし処理を行った。
【0020】球状化焼なまし処理後の材料を用い抽出レプリカを作製し、電子顕微鏡によって素地中に存在する析出物形態と析出数を調査した。ここでは,10μm中の複合析出物の個数を調べるために10万倍の観察倍率で析出物を観察し、5回の繰返し測定を行い、平均値を析出個数と定義した。析出物の個数の測定結果は表1に示した通りである。
【0021】さら粗大化特性を調査する目的で、球状化焼なまし後の材料から直径25mm,高さ37.5mmの冷鍛加工試験片を作製した後、70%の加工率で冷間据え込み加工した。この据え混み加工後の試料を900℃〜1050℃の温度に加熱し30分保持し急冷し、この試料の結晶粒度をJIS法によって測定した。さらに、粒度番号4番以下の粗大粒の面積率を求め、粗大粒の面積率が5%を越えた保持温度を粗大化温度と定義した。各材料の粗大化温度を測定した結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】表2に示されるとおり、複合組成の析出物数と粗大化温度の関係を見ると、明らかに複合組成の析出物数が多いほど粗大化温度が向上していることが分かる。発明鋼においては、いずれの鋼においても3個/10μm以上の析出数であり、比較鋼に比べて50℃以上粗大化温度が向上していることが分かる。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、固有の元素の選択と素地に析出する析出物の形態ならびに析出量を適正化することによって、結晶粒の粗大化特性が向上し、浸炭焼入れ処理時に発生する結晶粒の異常成長を防止できるとともに、従来より粗大化対策として行われてきた浸炭処理前の焼ならしの省略、および、高温浸炭の適用による処理時間の短縮が可能とされる。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【出願日】 平成7年(1995)8月24日
【代理人】
【公開番号】 特開平9−59743
【公開日】 平成9年(1997)3月4日
【出願番号】 特願平7−250019