| 【発明の名称】 |
高強度高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】藤村 浩志
【氏名】柘植 信二
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| 【目的】 |
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| 【構成】 |
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【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%で、C :0.04%以下、 Si:1.0%以下Mn:1.0%以下、 Cr:11〜14%、Ni:4〜8%、 Mo:0.5〜4%、B :0.0005〜0.005%、Al:0.003〜0.1%Cu:0.5%以下、 P :0.04%以下、S :0.005%以下、 N :0.04%以下、Ti:0〜0.02%、 V :0〜0.5%、Nb:0〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不可避の不純物からなるステンレス鋼を、熱間加工における1000℃以下での累積圧下率40%以上の条件で熱間加工した後、直接焼入れを行うことを特徴とする高強度高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、高強度高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法に関し、さらに詳しくは、船舶や建築物の構造材などに好適な厚鋼板、形鋼などの鋼材を製造する方法であって、熱間加工の際に割れ等の疵を生じさせることなく、強度、靱性、伸び、耐食性、溶接性等の材料特性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼材を製造する方法に関する。 【0002】 【従来の技術】マルテンサイト系ステンレス鋼の中で、C含有率が低い材質は、溶接性が良好なため溶接構造物にも適用可能である。しかし、一般のステンレス鋼に比べるとCr含有率が低いので、耐食性にやや劣るという欠点がある。マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性を改善することを目的として、Moが添加された高耐食性鋼が開発されている。Moは、塩化物環境下において耐食性を効果的に高める働きがあり、マルテンサイト系ステンレス鋼に対して、オーステナイト系のSUS304に匹敵する耐食性を付与することも可能である。例えば、特開平3−188240号公報には、C、N、CrおよびNi含有率が適正化され、かつMoおよびVが添加された耐食性、耐エロージョン性および溶接性に優れ、高い強度を備えたマルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。 【0003】一般に、マルテンサイト系ステンレス鋼は、熱間加工性に劣る。その理由は、マルテンサイト系ステンレス鋼の熱間加工時の金属組織はオーステナイト相であり、C、Cr、Ni等の含有率によっては少量のδフェライト相が存在し、このδフェライト相が、熱間加工性を著しく低下させるからである。このようなマルテンサイト系ステンレス鋼に対して、耐食性を高めることを目的として、上記のようにMoが添加された場合には、さらに、熱間加工性が問題となる。 【0004】Moは、溶鋼が凝固する際に、偏析する傾向の強い元素であるとともに、フェライト相を安定化する働きがある。したがって、Moが添加された鋼塊またはスラブの中心部には、Moが偏析し、δフェライト相が残存しやすいので、熱間加工性が悪くなるためである。仮りに、製品ではδフェライトが残存しないように成分設計されているとしても、鋼塊またはスラブを熱間加工する工程においては、δフェライトの熱間加工性への影響を避けることは困難である。この他、Moは高温における変形抵抗を高める作用を持っているため、変形抵抗の観点からも熱間加工性に対しては悪影響を及ぼす。このような熱間加工性に劣る材料を熱間加工した場合、例えば、圧延された鋼板には、耳割れが生じ製品としては使用できないという事態が起こる。 【0005】なお、δフェライト相が製品に残留した場合には、強度および靱性を低下させる傾向がある。 【0006】また、本発明が対象としている厚さ6〜80mm程度の鋼板あるいは形鋼等の鋼材で、C含有率の低いマルテンサイト系ステンレス鋼の鋼材は、熱間加工後、直接焼入れし、焼戻し処理する直接焼入れ・焼戻し法(DQT法)、あるいは熱間圧延後、一旦冷却した後に焼入れおよび焼戻し処理を行う再加熱焼入れ・焼戻し法(RQT法)によって製造される。この熱処理によって、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度が発現する。その強化機構は、焼戻し中に起こる析出強化ではなく、固溶強化および加工とマルテンサイト変態によって導入された転位による強化とされている。 【0007】DQT法の場合には、加工組織が残っている状態で焼入れされるので、微細な金属組織が得られる。そのために、一般に、DQT法ではRQT法に比べると、強度の高い製品が得られる。また、製造コストおよび生産性の面でも、RQT法より有利である。ただし、靱性、伸びはRQT法に比べて劣る傾向がある。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、熱間加工の際に被加工材に割れ等の疵を生じさせることなく、強度、靱性、伸び、耐食性、溶接性等の材料特性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼材を製造する方法を提供することを目的としている。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために、SUS 304並みの耐食性を備えたMoを含有する低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法について、検討を行った。実験室的に溶製した鋼塊の熱間加工性と微量成分の関係および熱間加工条件と強度特性の関係を詳細に調査した結果、以下のような新たな知見を得た。 【0010】■ CおよびN含有率が低い場合には、Bを0.0005〜0.005重量%(以下、化学組成の%表示は重量%を表す)含有させることにより、熱間加工性を向上させることができる。 【0011】■ 製品の鋼材の強度は、再結晶を起こさないオーステナイト領域での累積圧下率40%以上の熱間加工とその後の直接焼入れ・焼戻しによって、向上させることができる。 【0012】■ ■に記したBを含む場合には、Bは熱間加工中の再結晶を抑制する働きがあるので、比較的高温域からの未再結晶圧延が可能である。したがって、Bは鋼材の強度向上にも有効である。また、鋼材の強度を得ることを目的として、熱間圧延時の仕上げ温度を下げる必要がないので、炭化物の析出が抑制され、伸びおよび靭性の低下を防止することができる。 【0013】■ Tiを0.005〜0.02%含有させることにより、鋼塊の結晶粒を微細化させ、熱間加工性を向上せせることができる。 【0014】■ TiおよびBを複合して含有させることにより、熱間加工性および靭性を同時に向上させることができる。 【0015】本発明は、上記知見を基に完成されたものであって、その要旨は、「重量%で、C :0.04%以下、 Si:1.0%以下Mn:1.0%以下、 Cr:11〜14%、Ni:4〜8%、 Mo:0.5〜4%、B :0.0005〜0.005%、Al:0.003〜0.1%Cu:0.5%以下、 P :0.04%以下、S :0.005%以下、 N :0.04%以下、Ti:0〜0.02%、 V :0〜0.5%、Nb:0〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不可避の不純物からなるステンレス鋼を、熱間圧延における1000℃以下の累積圧下率40%以上の条件で熱間圧延した後、直接焼入れする高強度高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。」にある。 【0016】 【発明の実施の形態】本発明の製造方法に用いるマルテンサイト系ステンレス鋼(以下、単に本ステンレス鋼と記す)および本発明の製造方法について、以下に具体的に説明する。 【0017】(A)本ステンレス鋼の化学組成C:C含有率は、溶接性および耐食性を確保するために、0.04%以下とした。C含有率が0.04%を超えると溶接性および耐食性を損なう。また、C含有率が0.01%未満の場合には、耐力が低くなりすぎるので、90kgf/mm2 以上の耐力を得るためには、C含有率0.01%以上とするのが望ましい。 【0018】Si、Mn:SiおよびMnは、おもに溶鋼の脱酸に用いられる元素である。 【0019】ただし、SiおよびMn含有率が1%を超えると、本ステンレス鋼の加工性を損なう場合があるので、それぞれ1%以下とした。Al等の他の脱酸元素によって、十分に脱酸される場合には、SiおよびMnは原料等から混入してくる程度の含有率でもよい。 【0020】Cr:Crは、本ステンレス鋼の耐食性を確保する上で重要な元素であり、11%以上含有させることが必要である。しかし、Cr含有率が14%を超えると、δフェライト相が析出しやすくなるため、熱間加工性および製品の靱性が低下するので、上限は14%とした。 【0021】Ni:Niは、熱間加工温度域において、本ステンレス鋼の金属組織をオーステナイト相とするために必須の元素である。そのために、4%以上必要である。 【0022】しかし、含有率が8%を超えると、常温においてもオーステナイト相が残留し、強度および靭性を損なう原因になるので、Ni含有率の上限は8%とした。 【0023】Mo:Moは、本ステンレス鋼の耐食性を高めるために、必須の元素である。 【0024】耐食性の向上には、0.5%以上必要である。しかし、4%を超えると、δフェライトが析出しやすくなり、また、高温における変形抵抗が高くなるために、熱間加工性を悪くし、さらに製品の鋼材の強度および靭性を低下させる。したがって、Mo含有率の上限は、4%とした。 【0025】B:Bは、本ステンレス鋼を特徴付ける重要な元素であり、熱間加工性および製品の鋼材の靭性を高める上で必須である。この効果を発揮させるためには、0.0005%以上含有させる必要がある。しかし、B含有率が0.005%を超えると、1300℃以上の高温域で熱間脆性を引き起こすようになる。したがって、本ステンレス鋼におけるB含有率は、0.0005〜0.005%とした。 【0026】先に記したように、本発明者らは、本ステンレス鋼において、Bは熱間加工中の再結晶を抑制する働きがあり、比較的高温域からの未再結晶加工を可能にする効果を持っていることを知見した。その調査について、以下に説明する。 【0027】図1に、熱間圧縮加工条件と再結晶率50%の関係について調査した結果を示した。化学組成が本発明の範囲内の供試材(実線)、Bは含まずその他の化学組成が同一の供試材(点線)について、圧縮加工前の保持時間を横軸に、圧縮加工温度を縦軸にとり、50%再結晶曲線を図示した。図1から明かなように、B:0.0010%(実線)を含有させることにより、B:無添加(点線)の場合に比べて、未再結晶領域の温度は少なくとも50℃程度高くなる。すなわち、Bを含有することにより、熱間加工の際の再結晶は抑制され、未再結晶温度域は高温側に広がるので、再結晶を起こさせずに加工することが可能な加工開始温度は、少なくとも50℃程度高くなるといえる。 【0028】なお、Bを含む場合、ステンレス鋼の耐粒界腐食性が低下することが懸念されるので、JIS G0577に規定された試験条件に従って、孔食電位を測定し耐粒界腐食性を評価した。試験には、本発明の製造方法の条件で作製した供試材を用いた。 【0029】図2に、B含有率と孔食電位の関係を示す。B含有率が0.0005%以上の場合には、Bを含有しない場合に比べて孔食電位がやや高く、耐孔食性すなわち耐粒界腐食性にはまったく問題がないことが明かである。 【0030】このように、本ステンレス鋼におけるBは、未再結晶温度域での調整圧延と直接焼入れとの組み合わせにより、本発明の方法で得られる鋼材の強度の向上を図る上で極めて有効である。また、熱間加工性を向上させるので、従来問題であった熱延鋼板の耳割れ発生等の防止にも有効である。 【0031】Al:Alは溶鋼の脱酸力が非常に大きい元素であり、通常、Si、Mnとともに添加される。本ステンレス鋼の場合は、脱酸効果を得るために、0.003%以上を必要とする。Alを用いた脱酸によって、本ステンレス鋼の酸化物系介在物は減少し、高い靭性が得られる。一方、Al含有率が0.1%を超えると本ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる場合がある。したがって、Al含有率の上限は、0.1%とした。 【0032】Cu:Cuは、本ステンレス鋼においては、析出硬化による高強度化を図るために、必要に応じて添加する元素である。ただし、Cu含有率が0.5%を超えると、熱間加工性を低下させる。したがって、Cuを含有させる場合は、0.5%以下とした。 【0033】P:Pは、原料等から不可避的に混入してくる元素であり、本ステンレス鋼の靭性および耐食性に有害である。したがって、その影響が現れない範囲である0.04%以下に制限することにした。 【0034】S:SもPと同様、原料等から不可避的に混入してくる元素であり、本ステンレス鋼の熱間加工性および靭性を低下させる。S含有率は低い方が好ましく、0.005%以下に制限した。 【0035】N:N含有率が高い場合には、本ステンレス鋼の溶接性および耐食性を害する傾向がある。そのために、N含有率は、0.04%以下とした。Nは、通常の製造法によって不可避に混入してくる元素であり、下限は特に規定しない。 【0036】Ti:Tiは、本ステンレス鋼の熱間加工性と靭性を高める働きがあり、必要に応じて添加する元素である。Tiは、鋼塊またはスラブの結晶粒を微細化し、Bとの併用で粒界強化をもたらすので、熱間加工性と靭性の向上が得られる。この効果を発揮させるためには、0.005%以上を必要とする。ただし、過剰な場合は、粗大なTiNが析出し、靭性の低下が起こる。したがって、Tiを添加する場合には、0.005〜0.02%の範囲が好ましい。 【0037】Nb、V:NbおよびVは、本ステンレス鋼の強度を高めるとともに、耐食性を向上させるために、単独あるいは両者同時に必要に応じて添加する元素である。その効果を得るためには、いずれも0.01%以上必要である。一方、0.5%を超えると靭性が低下する。そのために、NbおよびVを含有させる場合には、いずれも含有率を0.01〜0.5%とし、単独または両者を添加する。 【0038】(B)熱間加工条件および焼入れ条件本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法は、上記の化学組成を備えた本ステンレス鋼に、適正な熱間加工条件と適正な熱処理条件を組み合わせることによって、優れた熱間加工性の基で、耐食性のよい高強度の鋼材を製造することを特徴としている。 【0039】本発明では、未再結晶温度領域における強圧下によって得られた加工組織から、再結晶を起こさせることなく、鋼材に直接焼入れ処理を施すことが、鋼材の強度を向上させるために必須の条件である。本発明の製造方法によって厚鋼板を製造する場合には、厚板粗バー圧延が好適であり、この圧延では、リバース式で圧延パス間時間が10〜30秒程度となる。前述の図1から明かなように、この程度の時間を要する場合には、1000℃を越える温度領域における圧延では、加工組織は次の圧延パスまでに再結晶を起こしてしまう。したがって、加工組織を残した状態で圧延を終了させるためには、1000℃以下で圧延を行い加工歪を残す調整圧延を含めることが重要である。この1000℃以下での調整圧延における累積圧下率が、少なくとも40%となるようにし、十分な加工歪みを残した状態で冷却(焼入れ)工程に入ることによって、製品の鋼材の強度を向上させることが可能である。 【0040】なお、調整圧延の温度の下限は特に制限しないが、析出物の増加による伸びおよび靱性の低下を防止するために、800℃程度とすることが好ましい。また、調整圧延における累積圧下率の上限についても特に制限しないが、熱間圧延素材と製品の鋼材の厚さまたは断面積との関係によって制限される。 【0041】 【実施例】実施例に基づいて、本発明の製造方法を具体的に説明する。 【0042】表1に、試験に用いた供試材の化学組成を示す。供試材は、高周波誘導真空溶解炉によって溶製し、厚さ48mm、幅190mmの偏平鋼塊に鋳造することによって作製した。なお、供試材A〜Eは本発明例、F〜Iは比較例である。 【0043】 【表1】
【0044】上記の供試材について、熱間加工性、製品の強度、耐食性等の材料特性を調査した。試験方法は、下記の通りである。 【0045】1.熱間加工性供試材の鋼塊から、径10mm、長さ130mmの平滑丸棒引張試験片を採取し、熱間引張試験に供した。熱間引張試験では、まず、直接通電加熱法により、試験片を1200℃に加熱し5分間保持した。次に、100℃/分の速度で、試験温度(1000℃)まで冷却し、歪み速度1/秒、クロスヘッド速度7mm/秒の条件で破断させた。破断後の試験片について、断面収縮率を測定し、熱間加工性を評価した。 【0046】2.熱間加工性および材料特性供試材の鋼塊から、厚さ85mm、幅100mm、長さ150mmの熱間圧延用素材を採取した。この素材を1200℃に加熱し、1時間保持した後、1100℃以上の温度から圧延を開始した。その後、圧延途中の素材の温度が1000℃に下がった時点から圧延終了までの間の累積圧下率が25〜60%となるように設定して、6回のパスで厚さ20mmまで熱間圧延する調整圧延を行った。熱間圧延後、スプレー水冷却により800℃以上の温度から100℃まで圧延板を冷却することにより、焼入れ(直接焼入れ)を行った。焼入れされた状態で、圧延材に発生した疵を調査し、最大耳割れ深さを測定することにより、熱間加工性を評価した。次に、焼入れされた圧延材に対して、550℃の温度に30分間保持する条件で、焼戻し処理を施した。この直接焼入れ・焼戻し材から、各種試験片を採取し、それぞれの試験に供した。靱性の評価用として、JIS Z2202に規定されている4号シャルピー試験片を板幅方向から採取し(ノッチ方向は圧延方向)、−50℃で衝撃吸収エネルギー(単位:J)を測定した。引張り強度等の特性評価用として、JIS Z2201に規定されている14A号引張試験片を圧延材の幅方向から採取し、室温において、0.2%耐力、引張強さ(単位:MPa)を測定した。 【0047】3.耐食性上記の直接焼入れ・焼戻し材から、耐食性評価用として孔食試験片を採取した。孔食試験の測定面は、圧延方向に垂直な面とし、JIS G0577に規定されている試験条件によって、電流100μA/cm2 の孔食電位(単位:mV)を測定した。 【0048】なお、比較例として、1200℃に加熱して熱間圧延を行い、得られた圧延板を一旦常温まで冷却した後、焼入れ(1050℃に30分間保持後水冷)および焼戻し(550℃に30分間保持後空冷)を行うRQT法により熱処理した試験材について、同様の試験を実施した。 【0049】表2に、これらの試験結果をまとめて示す。 【0050】 【表2】
【0051】表2から明かなように、供試材の化学組成、熱間圧延の条件および熱処理の条件が本発明の範囲内にある試験No.1〜6の本発明例では、耐力、引張り強度、吸収エネルギーおよび孔食電位の値がいずれも高く、十分な強度と靱性等の材料特性と耐食性を備えた製品が得られた。特に、吸収エネルギーは、本発明の熱処理がDQT法であるにもかかわらず、RQT法で熱処理された比較例の試験No.14〜18と同程度の値が得られており、RQT法に匹敵する靱性が得られることが確認された。また、鋼塊から採取した試験片についての1000℃における引張り試験の断面収縮率が77%以上と高いこと、熱間圧延後の圧延板の耳割れがほとんど認められないことから、供試材の熱間加工性も良好という結果が得られた。 【0052】一方、試験No.7〜18の比較例は、製品の強度、靱性、耐食性あるいは熱間加工性の少なくとも1つの特性が、本発明例に比べて劣っていた。B含有率が本発明の範囲より低い試験No.7、8は、吸収エネルギーが低く靱性に劣る他、耳割れも発生しており熱間加工性も悪い。B含有率が高すぎる試験No.10は、靱性および熱間加工性が悪い。 【0053】また、C含有率が高すぎる試験No.9については、靱性、耐食性、熱間加工性のいずれにも劣っていた。さらに、1050℃以下の温度における累積圧下率が40%の場合であり、調整圧延開始温度が高すぎる試験No.11および1000℃以下における累積圧下率が40%未満の試験No.12と13については、調整圧延の条件が本発明の範囲外であるために、製品の強度、靱性等の材料特性が不良であった。RQT法によって熱処理された試験No.14〜18については、試験No.1〜5の本発明例に比べて、耐力、引張り強度が10%程度低い。これは、未再結晶域での加工によって累積された大きな歪みと直接焼入れの組み合わせによる本発明の効果が、比較例の場合にはないためである。このように、加工歪と直接焼入れの組み合わせが、マルテンサイト系ステンレス鋼の高強度化を図る上で非常に有効であることが確認された。 【0054】以上の実施例から明かなように、本発明のBを含むマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法によれば、熱間加工の際に割れ等の疵を発生させることなく、強度、靱性、耐食性等の材料特性に優れた製品である鋼材を得ることができる。また、本発明の方法で得られる鋼材は、C含有率が低いため溶接性にも優れている。 【0055】 【発明の効果】本発明の製造方法によれば、耳割れ等の疵を発生させることなく、高強度高耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼材を製造することが可能である。また、熱間加工と直接焼入れとの組み合わせによる工程の簡素化、歩留まりの向上効果も得られるので、生産性の向上あるいは製造コストの節減にも結び付く。このように、本発明の製造方法がマルテンサイト系ステンレス鋼材料の商業的な製造に及ぼす効果は、極めて大きい。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000002118 【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
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| 【出願日】 |
平成7年(1995)11月8日 |
| 【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】森 道雄 (外1名)
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| 【公開番号】 |
特開平9−125141 |
| 【公開日】 |
平成9年(1997)5月13日 |
| 【出願番号】 |
特願平7−289692 |
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