| 【発明の名称】 |
油中摺動材及びオイルシールリング |
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【氏名】島津 英一郎
【氏名】丹羽 洋
【氏名】久保田 和則
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| 【構成】 |
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【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%、炭素繊維10〜45重量%、パーフルオロ系フッ素樹脂2〜25重量%を含む樹脂組成物からなる油中摺動材。 【請求項2】 300℃における溶融粘度が2000〜5000ポイズである架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%と、炭素繊維10〜45重量%と、再生ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末2〜25重量%を含む樹脂組成物からなる油中摺動材。 【請求項3】 300℃における溶融粘度が2000〜5000ポイズである架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%と、炭素繊維10〜45重量%と、再生ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末2〜25重量%と、10重量%以下の二硫化モリブデンとを含む樹脂組成物からなる油中摺動材。 【請求項4】 炭素繊維が、平均繊維径10μm以上の炭素繊維である請求項2または3に記載の油中摺動材。 【請求項5】 架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂の重量平均分子量が20000〜45000である請求項2〜4のいずれか1項に記載の油中摺動材。 【請求項6】 請求項1記載の油中摺動材からなるオイルシールリング。 【請求項7】 請求項2記載の油中摺動材からなるオイルシールリング。 【請求項8】 請求項3記載の油中摺動材からなるオイルシールリング。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、油中で使用される摺動材料である油中摺動材に関し、特にこのような油中摺動材からなるオイルシールリングに関する。 【0002】 【従来の技術】一般に、トルクコンバータや油圧式クラッチ等の自動車等の自動変速機には、作動油を密封するためのオイルシールリングが要所に取り付けられている。このようなオイルシールリングは、回転軸とシリンダの間で回転可能であり、かつ、これらに摺接する。 【0003】従って、このようなオイルシールリングには、摺接するシリンダ材料(相手材)の材質に応じて、低摩擦係数とともに耐摩擦性に優れ、しかも相手材を傷つけずに充分なオイルシール性を発揮するといった多くの特性が要求される。 【0004】従来、このような用途で使われるオイルシールリングには、鋳鉄が用いられていたが、油圧装置の小型軽量化、高性能化に伴い油漏れの少ないシールリング材の開発が進められ、現在では、鋳鉄に比べシール性、摺動特性の優れた四フッ化エチレン樹脂製のシールリングが多用されている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、鋳鉄製オイルシールリングは、耐摩耗性に優れ、かつ鉄系の相手材を摩耗させない点で優れているがシール性に劣っている。一方、シール性に優れる四フッ化エチレン樹脂製リングは、PV値が高くなると、短時間でリング自体が摩耗する欠点を有している。 【0006】シール性に優れる合成樹脂製のオイルシールリングについては、特開昭55−7848号公報、特開平2−175793号公報、特開平7−179846号公報に記載がある。 【0007】上記公報で開示されたオイルシールリングは、摺動相手がアルミニウムのような軟質材である場合において、相手材およびオイルシールリング自身の摩耗を改良したものであるが、摺動相手が鉄系金属などの非軟質材である場合に相手材の摩耗はないが、オイルシール自身が摩耗してオイル漏れが発生する。 【0008】そこで、この発明の課題は上記した問題点を解決して、摺動相手材が軟質材または非軟質材であるいずれの摺動条件においても使用に耐える合成樹脂製の油中摺動材であり、特に前記した2つの摺動条件においてシール性、耐摩耗性および相手材の摩耗が少ない特性を全て兼備する優れたオイルシールリングにすることである。 【0009】 【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明においては、ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%、炭素系ファイバ10〜45重量%、パーフルオロ系フッ素樹脂2〜25重量%を含む樹脂組成物からなる油中摺動材としたのである。 【0010】また、請求項2に係る発明においては、300℃における溶融粘度が2000〜5000ポイズである架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%と、炭素繊維10〜45重量%と、再生ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末2〜25重量%を含む樹脂組成物からなる油中摺動材としたのである。 【0011】また、請求項3に係る発明においては、300℃における溶融粘度が2000〜5000ポイズである架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%と、炭素繊維10〜45重量%と、再生ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末2〜25重量%と、10重量%以下の二硫化モリブデンとを含む樹脂組成物からなる油中摺動材としたのである。 【0012】また、請求項4に係る発明においては、炭素繊維が、平均繊維径10μm以上の炭素繊維である請求項2または3に記載の油中摺動材としたのである。 【0013】また、請求項5に係る発明においては、架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂の重量平均分子量が20000〜45000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の油中摺動材としたのである。 【0014】また、請求項6に係る発明においては、ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%、炭素系ファイバ10〜45重量%、パーフルオロ系フッ素樹脂2〜25重量%を含む樹脂組成物の油中摺動材からなるオイルシールリングとしたのである。 【0015】また、請求項7に係る発明においては、300℃における溶融粘度が2000〜5000ポイズである架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%と、炭素繊維10〜45重量%と、再生ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末2〜25重量%を含む樹脂組成物の油中摺動材からなるオイルシールリングとしたのである。 【0016】また、請求項8に係る発明においては、300℃における溶融粘度が2000〜5000ポイズである架橋型ポリアリーレンスルフィド系樹脂30〜88重量%と、炭素繊維10〜45重量%と、再生ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末2〜25重量%と、10重量%以下の二硫化モリブデンとを含む樹脂組成物の油中摺動材からなるオイルシールリングとしたのである。 【0017】以上のように構成されたこの発明に係る油中摺動材およびオイルシールリングは、前記各樹脂組成物からなる油中摺動材を用いているので、摺動相手材が軟質材または非軟質材であるいずれの摺動条件においてもシール性に優れ、耐摩耗性に優れかつ相手材の摩耗が少ないものになる。 【0018】 【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を説明する。 【0019】この発明に用いるポリアリーレンスルフィド系樹脂(以下、PAS樹脂と称する。)は、一般的に化1で示される合成樹脂である。ここで、化1中のPhは、例えば下記化2〜化7に示されるものがあげられる。 【0020】 【化1】
【0021】(nは整数を示す。) 【0022】 【化2】
【0023】 【化3】
【0024】 【化4】
【0025】 【化5】
【0026】(QはF、Cl、Brのハロゲン又はCH3 を示し、mは1〜4の整数を示す。) 【0027】 【化6】
【0028】 【化7】
【0029】PAS樹脂は、上記化1で示される繰り返し単位が70モル%以上のものがよく、90モル%以上のものが好ましい。繰り返し単位が70モル%未満では、期待する性質の組成物が得られなくなるので好ましくない。 【0030】このような重合体を得るには既に良く知られた方法を使用すればよいが、例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとをN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒若しくはスルホラン等のスルホン系溶媒中で反応させるのが好適である。なお、重合体の結晶性に影響を与えない範囲で、例えば、化8〜化12に示される共重合成分を30モル%未満、好ましくは10モル%未満で1モル%以上含ませてもよい。 【0031】 【化8】
【0032】 【化9】
【0033】 【化10】
【0034】(Rはメチル基以外のアルキル基、ニトロ基、フェニル基、アルコキシ基等を示す。) 【0035】 【化11】
【0036】 【化12】
【0037】このようなPAS樹脂は、例えば、特公昭44−27671号公報や特公昭45−3368号公報に開示されているようなハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとの反応、特公昭46−27255号公報に開示されているような芳香族化合物を塩化硫黄とのルイス酸触媒共存下における縮合反応、または米国特許第3,274,165号公報に開示されているような、チオフェノール類のアルカリ触媒もしくは銅塩等の共存下における縮合反応等によって合成されるが、目的に応じて具体的な方法を任意に選択することができる。 【0038】また、この発明に用いるPAS樹脂は、架橋型のものを採用するか、または部分的交差結合、すなわち、部分架橋を形成したものを採用することが好ましい。このような部分的交差結合を形成したPAS樹脂は、半架橋型またはセミリニア型のPASとも呼ばれる。架橋型または半架橋型のPAS樹脂は、リニア型(架橋のないもの)のPAS樹脂に比べて耐摩耗性に優れており、リニア型PAS樹脂に比べて射出成形した成形品にバリの発生が少ない利点がある。 【0039】PAS樹脂に架橋を形成するか、または部分的交差結合を形成させる方法としては、例えば、低重合度のポリマーを重合した後、空気が存在する雰囲気で加熱する方法や、架橋剤や分岐剤を添加する方法がある。 【0040】このようにして得られた架橋性のPAS樹脂の溶融粘度は1000〜5000ポイズであり、好ましくは2000〜4000ポイズである。溶融粘度が1000ポイズより小さいと、150℃以上の高温域で耐クリーブ特性などの機械的特性が低下し、変形しやすいので好ましくない。また、5000ポイズより大きいと、成形性が劣り、また柔軟性が低下して、ピストン等の溝部にシールリングを組み込み難く、好ましくないと考えられる。なお、溶融粘度の測定は、測定温度300℃、オリフィスが穴径1mm、長さ10mm、測定荷重20kg/cm2、予熱時間6分の条件下で、高化式フローテスタにて行われる。 【0041】また、部分的交差結合を有するPAS樹脂の熱安定性は、上記の溶融粘度測定条件にて、予熱6分後と30分後の溶融粘度の変化率が−50%〜150%の範囲であることが好ましい。なお、変化率は下記の式で表される。 変化率=(P30−P4 )/P4 ×100(P4 :予熱6分後の測定値、P30:予熱30分後の測定値) 以上のような条件を満足する部分的交差結合を有するPAS樹脂としては、例えば、トープレン社製:T4、T4AG、TX−007等をあげることができる。 【0042】PAS樹脂の重量平均分子量としては、20000〜45000のものがよく、25000〜40000のものが好ましい。重量平均分子量が20000より小さいときは、耐熱性の点で好ましくなく、また、重量平均分子量が45000より大きいときは、複雑な精密な寸法精度に対する成形性の点で好ましくない。 【0043】上記PAS樹脂の全組成物中の配合割合は、30〜88重量%である。30重量%未満だと上記組成物からなる油中摺動材の強度が低下してしまい、88重量%を越えると所定の充填剤を添加しても補強効果が得られず、上記油中摺動材の耐摩耗性が劣ることになるからである。 【0044】次に、この発明に用いられる炭素繊維は、現在汎用されている1000℃以上、好ましくは1200〜1500℃の高温に耐えるものであれば、レーヨン系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、リグニン−ポバール系混合物、特殊ピッチ系など原料の種類の如何によらず使用することができる。そして、その形状は長短いずれの単繊維であっても、クロス、フェルト、ペーパ、ヤーン等のように一次加工を経た編織布、不織布、糸、紐等の製品形体をしたものであってもよい。 【0045】また、その材質を特に制限することなく、ピッチ系、PAN系、カーボン質および黒鉛質のいずれであってもよく、例えば、繊維径約4〜20μm、繊維長約10〜1000μm、好ましくは10〜500μmのものであれば、前記樹脂組成物中に均一に分散し、これを充分に補強するので適当である。 【0046】適度な弾性率、引張強度等の機械的特性とシリンダやピストン等の相手材への攻撃性や成形時の樹脂組成物の流動性等を考慮すると、炭素繊維径は、平均約5〜14μm、また繊維長は約10〜500μmであることが好ましい。また、特に耐摩耗性に優れた油中摺動材料とするためには、平均繊維径が10μm以上のものを採用することが好ましい。なお、炭素繊維の平均繊維径は原料によって異なるが、平均繊維径が10μm以上の炭素繊維としてはピッチ系のものが相当する。 【0047】炭素繊維は、上記に示したような種々の有機高分子繊維を平均1000〜3000℃程度に焼成して生成される。この構造は、主に炭素原子六角網平面から構成される。この網平面が繊維軸に平行に近く配列したものとして、高配向、異方性を有するPAN系や液晶ピッチ系の炭素繊維があげられ、一方、この網平面が乱雑に集合したものとして、等方性を有するピッチ系炭素繊維があげられる。 【0048】高配向、異方性の炭素繊維は、特定の方向の弾力性や引張強度に対して高く優れており、等方性の炭素繊維は、全方向から受ける荷重に対しても比較的耐えうる。 【0049】PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維を比較すると、引張強度がPAN系では2400MPaであるのに対して、ピッチ系のものは590〜980MPaであり、引張弾性率がPAN系では200〜500GPaのもの、具体的には340GPaであるのに対してピッチ系のものは30〜300GPa具体的には30〜40GPaであり、両者の機械的強度に大きな差があるが、この発明に係るオイルシールリングとしては何ら問題はない。 【0050】なお、この発明に用いる炭素繊維には、PAN系炭素繊維を少量混合させてもよく、用いる全ての炭素繊維の平均繊維径が10μmである必要はない。PAN系炭素繊維を少量混合させると、オイルシールリングの耐摩耗性は向上し、かつ軸に組み込むときに破損し難くなる。ただし、PAN系炭素繊維の混合割合は、30%が限度であると考えられる。 【0051】ピッチ系炭素繊維は、例えば、石油精製で副生される石油ピッチ等のような構造上無定形の等方性ピッチ系炭素繊維と、一定方向の構造、例えば光学異方性の異方性ピッチ系炭素繊維があげられる。 【0052】等方性ピッチ系炭素繊維は、石油系、石炭系、合成品系、液化石炭系等に分類され、それらの原料を溶融紡糸でピッチ繊維にして、不融化処理をした後に、炭素化することにより製造される。 【0053】また、液晶ピッチ系炭素繊維は、ピッチ類を不活性化気相中で加熱し、350〜500℃で液晶状態とした後、固化してコークスとする。これを溶融紡糸して酸化雰囲気で加熱すると酸化繊維となって不溶不融の繊維となり、さらにこれを例えば不活性気相中で約1000℃以上に加熱する方法等により製造される。 【0054】これらは、引張弾性率が平均30〜50GPa程度の低弾性率から平均240〜500GPa程度の中・高弾性率のものを要求により選択することができ、その他引張強度の機械的特性に優れた繊維を所定の樹脂組成物に混合することにより、適切な機械的強度を有するシール材を得ることができる。 【0055】このようなピッチ系炭素繊維の市販品の例としては、呉羽化学工業社製:クレカM207S(繊維径12〜13μm)等の「クレカ」(商品名)シリーズがあり、特に同社製のクレカチョップM201F(平均繊維径12.5μm、平均繊維長0.13mm)、同M201S(平均繊維径14.5μm、平均繊維長0.13mm)、同M107T(平均繊維径18.0μm、平均繊維長0.70mm)等が挙げられる。 【0056】また、PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリル繊維等のアクリル系繊維を加熱して焼く方法で製造することができる。加熱温度によって所定の引張弾性率を得ることができ、例えば、約1000〜1500℃で加熱すると引張弾性率は平均200〜30GPa、引張強度は平均300〜6000MPaとなる。また、約2000℃で加熱して、引張弾性率を平均350〜500GPa、好ましくは平均400〜500GPaとすることもできる。従って、PAN系炭素繊維は、高い引張強度の繊維で、加熱温度により引張強度は平均500〜6000MPaの範囲のものも得られ、要求により平均500〜3000MPaの範囲のものを製造することもできると考えられる。これらの数値が低すぎると圧縮クリープ等に関する補強が期待できず、これらの数値が高すぎると、ピストン、シリンダ等の相手材を攻撃することも予想される。 【0057】このPAN系炭素繊維の例としては、東邦レーヨン社製「ベスファイト」(商品名)シリーズ全般があげられ、その具体例としては、ベスファイトHTA−CMF−0040−E、ベスファイトHTA−CMF−0160−E、ベスファイトHTA−CMF−1000−E、ベスファイトHTA−C6−E等(いずれも、繊維長6mm)があげられる。また、東レ社製の「トレカ」(商品名)シリーズ全般もあげられ、その具体例としては、トレカMLD−300、トレカMLD−1000等があげられる。 【0058】これらの炭素繊維の有する引張強度としては、550〜1000MPaが好ましく、ビッカース硬度(Hv)は400〜600が好ましい。引張強度が550MPaより小さいときやビッカース硬度(Hv)が400より小さいときは、炭素繊維を添加する補強効果が期待できず、引張強度が1000MPaより大きいときやビッカース硬度(Hv)が600より大きいときは、相手材を攻撃して摩耗させることが考えられ、好ましくない。 【0059】これらの炭素繊維は、酸やアルカリ等の薬品類の影響を受けにくく、また、耐摩耗性も有している。 【0060】なお、これらの炭素繊維と前記PAS繊維との密着性を高め、油中摺動材の機械的特性等を向上させるために、これらの炭素繊維の表面をエポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂等含有の処理剤やシラン系カップリング剤等により表面処理を施してもよい。 【0061】上記炭素繊維のなかで、引張強度が550〜1000MPa、引張弾性率30〜50GPaの範囲にあるものが特に好ましい。引張強度、引張弾性率が下限値以下では炭素繊維による補強効果が得られず、上限値以上では耐摩耗性に劣るからである。 【0062】上記炭素繊維の全組成物中の配合割合は10〜45重量%、好ましくは10〜30重量%である。10重量%未満では油中摺動材の耐摩耗性がほとんど向上せず、45重量%を越える多量では溶融流動性が著しく低下して成形性が悪くなるからである。 【0063】この発明に用いられるパーフルオロ系フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称する。)に代表されるフッ素系樹脂である。この樹脂は、骨格である炭素原子の周囲を全てフッ素原子又は微量の酸素原子で取り囲まれた状態であり、C−F間の強固な結合により、フッ素系樹脂の中でも比較的耐熱温度が高く、また、低摩擦係数、非粘着性、耐薬品性等の諸特性に優れている。PTFEは、四フッ化エチレン単独重合体で圧縮成形可能な樹脂であり、その熱分解温度は約508〜538℃である。これは、市販のものを用いることができ、例えば、喜多村社製:400H等を用いることができる。 【0064】パーフルオロ系フッ素樹脂としては、PTFE以外に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、熱分解温度約464℃以上)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、熱分解温度約419℃以上)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、熱分解温度約440℃)等があげられる。また、これらに加えて、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、熱分解温度約347〜418℃)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE、熱分解温度約347℃以上)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE、熱分解温度約330℃以上)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、熱分解温度約400〜475℃)、ポリビニルフルオライド(PVF、熱分解温度約372〜480℃)等を混合してもよい。 【0065】また、パーフルオロ系フッ素樹脂は、上記フッ素樹脂のモノマーの例えば約1:10から10:1の重合割合で2種類以上の共重合体や、3元共重合体などのフッ素化ポリオレフィンなどであってもよく、これらは、固体潤滑剤としての特性を示す。これらのなかでも、PTFEは、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、低摩擦係数などの諸特性に優れており好ましい。 【0066】これらのパーフルオロ系フッ素樹脂は、微分熱分解開始温度が比較的高く好ましい。例えば、PTFE,PVDFの熱分解点はそれぞれ約490℃、約350℃であり、これらの微分熱分解開始温度は、それぞれ約555℃、約460℃を示し、中でも、PTFE、PFA、FEP等は、高温特性に優れていて好ましい。このため、上記樹脂を含む組成物を溶融して油中摺動材とする過程での熱履歴に比較的耐え得る。特に、PTFEの分解点は、熱分解温度が約280〜290℃前後のPAS樹脂より100〜200℃高く好ましい。 【0067】これらのパーフルオロ系フッ素樹脂を2〜25重量部、好ましくは5〜25重量部添加することで、機械的特性に優れ、標準品等で圧縮強さが、50〜200MPa程度の良好な耐クリープ特性及び耐熱性、耐油性や耐薬品性等に優れる特性に加えて、耐衝撃性、耐疲労性、耐摩耗性等を向上することもできると考えられる。 【0068】添加量が2重量部未満では、これらの効果が期待できず、自己潤滑性及び耐摩耗性等の摺動特性の改良が顕著に認められない。また、25重量部を越えると、これらの溶融粘度等により造粒時や射出成形時に溶融成形機等のシリンダーにかかる負荷が大きく、成形性が悪くなり、安定した造粒性、射出成形性及び寸法精度が期待できず、機械的特性が低下する場合がある。 【0069】PTFEを粉末状にしてPAS樹脂に添加する場合は、粉末状にすればその形状や大きさを特に限定することなく用いることができるが、粒状で粒径が70μm以下のものが、樹脂組成を均一にするために好ましい。 【0070】また、この発明ではバージン材のPTFE粉末に代え、再生PTFE粉末を用いてより良好な結果が得られる。再生PTFE粉末は、バージン材を一度焼成した後、粉砕して得られる粉末であるから、バージン材のPTFEを樹脂組成物に添加したときのように樹脂組成物の溶融粘度を著しく上昇させることがなく、射出成形性を阻害しないものである。また、再生PTFE粉末は、一度焼成されているので、これを混合した樹脂成形品の寸法変化、形状変化またはクラックの発生なども起こらず安定した成形品が得られる添加剤である。 【0071】再生PTFE粉末の原料であるPTFE樹脂は、骨格となる分子鎖を構成する炭素原子の周囲が全てフッ素原子で取り囲まれたものであり、C−F間の強固な結合により、フッ素系樹脂のなかでも最も耐熱性が高く、また摩擦係数、非粘着性、耐薬品性等の諸特性に優れている。なお、PTFE樹脂の熱分解温度は、508〜538℃である。 【0072】上述した再生PTFE粉末の市販品としては、例えば喜多村社製:KT300M、KT300H、KT400M、KT400H、KTL610などがある。 【0073】以上述べたような再生PTFE粉末その他のパーフルオロ系フッ素樹脂の全組成物中の配合割合は、2〜25重量%であることが好ましい。2重量%未満であると樹脂組成物の摺動特性が向上せず、また摺動相手材の損傷性の問題を解決できない。また、25重量%を越える配合量の場合は、成形性が悪くなる等の問題が起こる。このような傾向から、より好ましいパーフルオロ系フッ素樹脂の全組成物中の配合割合は、5〜15重量%である。 【0074】さらに、油中摺動材に配合する二硫化モリブデンなどのモリブデン化合物は、前記したPTFE樹脂と同様に低摩擦係数の添加剤であり、油中で非常に効果がある固体潤滑剤である。しかし、使用する潤滑油には、極圧剤が添加されていて二硫化モリブデンを添加しなくても良好な摺動性が得られることもあり、さらには二硫化モリブデンを配合すると若干自己摩耗性が悪化する傾向があるため、必ずしも二硫化モリブデンを添加する必要はない。二硫化モリブデンの市販品としては、例えばダウコーニング社製モリコートパウダーなどがある。 【0075】この発明の油中摺動材には、二硫化モリブデンなどのモリブデン化合物を10重量%以下の割合で添加することが好ましく、10重量%より多量に配合しても、それ以上の摺動特性の向上は認められず、成形性を悪化させることにもなる。このような傾向から、より好ましい二硫化モリブデンなどのモリブデン化合物の配合割合は0〜7重量%、さらに好ましくは1〜6重量%である。 【0076】なお、上記材料以外の添加剤として、この発明の効果を阻害しない範囲内で、例えば自己潤滑性、機械的強度、および熱安定性などの向上及び着色等の目的で固体潤滑剤、タルク等の増量剤、粉末充填剤および顔料など350℃程度以上の高温で安定な物質を適宜混合してもよい。例えば、樹脂組成物の潤滑性をさらに改良するために、耐摩耗性の改良剤を配合することができる。この耐摩耗性改良剤の具体例としては、カーボン、グラファイト、マイカ、ウォラストナイト、リン酸塩、炭酸塩、ステアリン酸塩、超高分子量ポリエチレン、硫酸カルシウムなどを例示することができる。このような添加剤を添加する際の残部耐熱性樹脂は、約40重量%を下回らないようにすることが好ましい。 【0077】これらの耐熱性樹脂に対して各種の添加物を添加混合する方法は特に限定するものではなく、通常広く用いられている方法、たとえば主成分となる樹脂、その他の諸原料をそれぞれ個別に、またはヘンシェルミキサー、ボールミル、タンブラーミキサー等の混合機によって適宜乾式混合した後、溶融混合性のよい射出成形機もしくは溶融押出成形機に供給するか、又は予め熱ロール、ニーダ、バンバリーミキサー、溶融押出機などで溶融混合するなどの方法を利用すればよい。 【0078】さらに、前記の組成物を油中摺動材に成形する際には、特に成形方法を限定するものではなく、圧縮成形、押出成形、射出成形等の通常の方法、または組成物を溶融混合した後、これをジェットミル、冷凍粉砕機等によって粉砕し、所望の粒径に分級することも可能である。なかでも射出成形法は、生産性に優れ、安価な油中摺動材を提供することができる。 【0079】また、このようにして得られたペレットなどの粒は、成形前に後述の熱処理と同程度の乾燥処理を施しても良い。充分にペレット等の粒から水分などを蒸発させることで、油中摺動材の膨れや強度低下を防ぐことができると考えられる。 【0080】このようにして得られた油中摺動材は、熱固定及び成形時のひずみを除いて高温使用時の寸法安定性を確保するため、約85〜260℃で約0.1〜24時間程度のアニール熱処理をしておくことが望ましい。 【0081】アニール熱処理温度は、約260℃以下、例えば約85〜260℃程度、寸法形状によっては約85〜230℃程度や約85〜200℃程度で行われることが適当である。これらのPAS樹脂は、広い温度範囲にわたって剛性が高く、耐衝撃性も優れており、クリープなどの歪みに対しても強く、また殆どの種類の油類や薬品等にも耐性を示す樹脂である。また、これらの樹脂は結晶性であって、結晶化度の上昇で強度や剛性の増加、耐摩耗性や潤滑性の向上、熱膨張係数や吸水率の低下などの性質をもっている。 【0082】熱処理温度が約85℃未満の低温では、結晶化の進行に多大の時間を要して効率が悪く、油中摺動材のわずかな歪みを除くことも難しくなり、寸法安定性も得られ難いと考えられる。 【0083】アニール熱処理温度がシールリング油中摺動材の熱変形温度よりも約20〜30℃程度を越えると、樹脂にかかる熱履歴の影響が大きくなり好ましくないと考えられ、これ以下で熱処理することが好ましい。熱処理時は、前記所定の温度に達する前に、例えば常温、約80℃、約130℃、約180℃、約220℃、約230℃、約260℃というように、数段階に分けて、約15〜180分程度の範囲で、約15〜60分毎に徐々に昇温し、前記温度範囲内の最適な温度にて、前記時間の範囲で温度を一定に保持してもよい。その場合の最高温度の保持時間は、約15〜480分程度であればよい。最高温度の保持時間が所定時間よりも短時間であると、樹脂の結晶化が不充分となって寸法安定性が悪くなり、所定時間よりも長時間であると、「ソリ」などの不適当な熱変形が起こり、また電気炉などのエネルギー消費量の増大や製造時間の長時間化からみても製造コストの低減を図ることが難しくなる。 【0084】また、約85〜120℃程度に昇温した時にそのような一定温度で保持してもよい。このようにすると、油中摺動材内に僅かに取り込まれた水分を乾燥させることができ、その後、結晶化させることができる。一方、短時間で急激に加熱して熱処理を終了させることは好ましくない。前記水分が沸点を越えて気化し、その際の体積膨張によって油中摺動材に「膨れ」などの不具合が発生する可能性が高くなるからである。 【0085】結晶化工程後の冷却は、前記昇温時と逆の段階を経て冷却してもよく、または約60〜180分程度の時間をかけて連続的に徐冷してもよい。 【0086】以上のような熱処理工程を行なうことにより、油中摺動材の膨れなどの不具合の発生を極力防ぐと共に、樹脂の結晶化を確実かつ徐々に進行させて、油中摺動材の寸法安定性を高めて寸法精度の高い油中摺動材を提供することができる。 【0087】また、油中摺動材と相手部材の少なくとも一方の摺動面の表面粗さは、Rmax、Ra、Rz等のJISで定義された評価法によって測定され、約3〜25μm以下であり、約8μm以下が好ましく、約3μm以下がより好ましい。なぜなら、表面粗さが前記所定範囲を越えると、摺動面に傷が多く付くようになり、これは摩耗の原因になると考えられるからである。なお、表面粗さの下限値は、加工時の効率性も考慮して、約0.1μm程度以上であればよい。 【0088】また、相手材表面の仕上げ加工などの工程に長時間を要するので、効率的でないことや樹脂材の転移膜の形成に影響される可能性もあるため、摩耗に影響されないような仕様や条件であれば、約3〜8μm程度の範囲以下としても良いとも推定される。 【0089】また、ピストン、シリンダー等の相手材は、S45C,SCM420H等の炭素鋼、FCD45等の球状黒鉛鋳鉄等あるいはこれらの硬化処理材等の硬質材料であっても、又はADC12等のアルミニウム合金等の軟質材であってもよい。相手材は、加工時の効率や、生産性、価格等で平均して総合的に優れる鋳物系金属、その中でもADC等の軽量鋳物金属系合金等が好ましい。 【0090】次に、上記組成物を成形して得られる上記油中摺動材を用いたオイルシールリングについて説明する。 【0091】まず、合い口を有し、その両者の間に半径方向の重なりのない形状にシールリングを射出成形して成形品を得るのであるが、その方法は、通常の方法を用いることにより得られる。得られたシールリングは、図1に示すように、一部に相対向した合い口5の間に隙間を有しており、このシールリング4は、シールリング4の全長の中央から若干ずらせた(±10°〜±30°程度)位置に材料注入位置6であるゲート7を有する金型から射出成形することにより得られている。 【0092】これは、シールリングを相手部材のシール溝に組付ける際の応力が全長の中央に集中するので、ゲート部に応力が集中するのを避けるため、注入位置6をその中央から若干ずれた位置に配置するのである。特に、合い口形状がステップカット形状を有するシールリングにおいて、ゲート位置をシールリングの全長の中央から±10°〜±30°程度ずれせば、成形後の熱固定やシールリングのピストンへの組み込み時にステップカットの突起部長さだけより多く広げたり閉じたりすることがあっても、ゲート部分に大きな力が加わることを緩和できる。 【0093】上記の射出成形後、次に、図2に示すごとき、合成樹脂製又はゴム製の円柱体2及びリングゲージ3とからなる治具を用い、上記の方法で得られる射出成形品1をリングゲージ3の内径面に挿入し、その射出成形品1の内側に円柱体2を挿入する。上記の円柱体2を構成する樹脂はリングゲージ3より熱膨張率の大きい物質、例えばリングゲージ3より熱膨張率の大きい樹脂又はエラストマー等の重合物質等であり、加熱した際の熱膨張により成形品1の内側から強制力を加える。エラストマー系重合体の場合、ゴム硬度(Hs)が約60〜100程度、好ましくは65〜90程度であれば、良好な弾性強制力が得られ好ましいと考えられる。ゴム硬度が高すぎると硬すぎるため、射出成形品1の内側に円柱体2を挿入しづらく、ゴム硬度が低すぎると柔らかすぎるため、適度な弾性強制力が得られにくい。 【0094】次に、上記の治具全体を電気炉等に入れ、射出成形品1のベース樹脂のガラス転移点以上の温度になるよう加熱して、上記射出成形品1の熱固定を行う。 【0095】このようにして得られたシールリングをそのまま用いることができるが、角部の摺動時における引っ掛かり等の問題を有する場合があり、また、潤滑剤の供給が問題となる場合がある。このような場合、必要に応じて、角部に面取りを行ったり、段差部を設けたり、潤滑用の溝を設けてもよい。そのようなものを設けた例を図3に示す。図3(a)〜(f)は、ステップカット型の合い口19の構造を有するシールリング10である。合い口19の形状は、その目的に応じて、所望の形状をとることができる。そのリング10の一方の側面のシール面11にはほぼ3等分位置に内周側から外周側に貫通した潤滑溝12が形成され、また他方の側面のシール面21にも、若干位置をずらせて同様の潤滑溝12が形成されている。 【0096】これらの潤滑溝12は深さ0.1mm程度、幅0.1mm程度の微細なものであり、図示のように1〜5箇所、好ましくは1〜3箇所程度設けてもシール性を損わない。また潤滑溝12のシール面11側の開口端には、面取り部13が施される。 【0097】また、上記潤滑溝12は、図3(c)に示すように、シール面11と潤滑溝12との境界におけるシール面11と潤滑溝12の面とのなす角度θが鈍角、すなわち、90°を越えて180°未満がよく、120°〜135°が好ましい。また、上記角度θを調整することにより、任意の潤滑溝12の開口端の面積を得ることができ、金型を用いたときに生成するバリをバレル処理で容易に取り除くことができる。 【0098】この潤滑溝12を潤滑剤を通って、シール性を損なわない程度にリング側面のシール面を内外方向にリークするため、相手材との相対回転によりシール面の全幅にわたる潤滑膜が全周にわたって形成される。このため、シール面全面にわたる潤滑性が改善され、耐摩耗性が向上し、さらに、相手材を摩耗させない効果を有する。また、周囲の潤滑剤が少なくなると潤滑剤が補給され、円滑な回転が長期にわたって維持される。 【0099】上記のシールリング10の断面形状は図3(d)(e)に示すように、両側シール面11と外周面14との間及び両側シール面11と内周面15との間にそれぞれ段差部16が設けられる。段差部16は図3(f)に示すようにシール面11に対する直角面17と、外周面14に対する直角面17’及びこれら両方の直角面17、17’間に形成された傾斜面18とから成り、その段差部16の高さhは、潤滑溝12の深さより高い。 【0100】上記の段差部16の高さhは特に限定しないが、シールリング10の矩形断面の半径方向の長さ、または、軸方向長さのそれぞれ約5〜50%程度、好ましくは、約5〜25%程度、更に好ましくは、約5〜10%程度とし、シールリング10の片面又は両面部に設けることが好ましい。上記いずれの数値範囲についても、下限値を超え、上限値未満の範囲に選定してもよい。 【0101】上記の段差の高さhが少なすぎると、金型の長期にわたる使用での可動型と固定型とのズレが比較的短い周期で発生した時に、不具合を招来する可能性があり、多すぎると、シールリングのシール部分面積、いわゆるシールランドが減少してしまうため、確実で、良好な密封特性に期待できない。 【0102】ところで、合い口19の形状は、その目的、使用場所等に応じて、いわゆるストレートカット型、ステップカット型、複合ステップカット型等のいずれを用いることができる。次に、上記の各形状の合い口の中から、複合ステップカット型の合い口について説明する。 【0103】図4(a)(b)(c)に、複合ステップカット型の1つの型を有する合い口21、21’を示す。この合い口21、21’は外径面側突起22と外径面側段部27から成り、両方の合い口21、21’の外径面側突起22と外径面側段部27、外径面側段部27と外径面側突起22とが相補的に一定の間隙をおいて嵌合するものであり、更に詳細に説明すると次のとおりである。 【0104】一方の合い口21について、リング本体から外径面側突起22が周方向に突き出す部分及び外径面側段部27を形成する凹所が反対方向へ延び出す部分の内径面側の先端の面を基準とし、この面を突き合わせ面30と呼ぶことにすると、外径面側突起22は、その突き合わせ面30を左右両側に二分した場合の一側面側、かつ内外(リング本体11の内径側と外径側)に二分した場合の外径側に設けられ、その外径面側突起22の外径面31は、リング本体の外面と段差なく連続し、同じ曲率をもつように形成される。 【0105】また、外径面側段部27は、上記の突き合わせ面30を同様に左右及び内外に二分した場合の他の側面側かつ外径側に設けられ、その外径面側段部27の内面32は、リング本体の内径面と同じ曲率をもつように形成される。 【0106】他方の合い口21’は、上記の合い口21と相補的な形態に形成され、両方の合い口21、21’は一定の間隙をおいて相互に嵌合し、シールリングはほぼ真円形をなす。 【0107】また、この合い口21、21’は、所望に応じて、面取り部や、すみ肉をもうけてもよい。面取り部は、所定の曲率をもった円弧状のもの(アールともいう。)でもよいが、曲率0のもの、すなわち斜面により面取り状のもの(チャンファーともいう。)であっても差し支えない。このような面取り部は、例えば、連続して曲率がさまざまに変化するような形状をとることができる。面取り部やすみ肉を設けることにより、合い口21、21’同士、または、合い口と相手材との間の突出量が零となるか、又は少なくなるので、局部的接触を防止することができる。 【0108】合い口21、21’に設けることのできる面取り部、すみ肉としては、次のものがあげられる。各外径面側突起22の先端面29とその外径面31との境界に面取り部23、各外径面側段部27の段差面28とリング本体の外径面31との間に面取り部23’、各外径面側突起22と先端面29と外径面側突起22の内側面33との境界に面取り部24、各外径面側突起22の先端面29と外径面側突起22の内径側面36との境界に面取り部24’、各外径面側段部27の内面32と、突き合わせ面30との境界に面取り部24”、各外径面側段部27の段差面28と外径面側突起22の内側面33との境界にすみ肉25’、又は、各外径面側段部27の段差面28と外径面側段部内面32の境界に丸みであるすみ肉25を設けることができる。なお、前述の角部分に相当する部位以外の角部分を面取り形状、又はすみ肉を加えた形状としてもよい。 【0109】さらに、合い口21、21’同士の接触を防止するため、外径面側突起22の内径側面36と、これと対面した他方の合い口21’又は21の外径面側断部27の内面32との間に所定の間隙g1 を設けることができる。このようにすると、外径面側突起22がシールリングの外径面側へ突出する量が一層少なくなる。また、外径面側突起22及び外径面側段部27の厚さ方向の寸法公差もこの間隙g1 により吸収することができ、各前記外径面側突起22の外径面側への突出を防止する。 【0110】また、両方の合い口21、21’の各前記外径面側突起22の相互に対面する内側面33相互間にも所定の間隙g2 を設けることもできる。この間隙g2 は各前記外径面側突起22の幅方向の寸法公差を吸収し、各前記外径面側突起22の両側面側への突出を防止する。 【0111】さらにまた、図5に示すように、リング本体の外径面31や内径面37と側面34との境界に段差部35を設けることもできる。この段差部35の大きさは、シールリングのシール性を保つ範囲であればよい。 【0112】次に、図6(a)(b)(c)に、もう1つの複合ステップカット型の合い口41、41’を示す。これは、一方の合い口41’をリング本体先端面45’の外径面53側の中央部分に設けた外径面側中央突起43により形成され、他方の合い口41をこれと相補的に嵌合する外径面53側の中央凹部44により形成される、変形された複合ステップカット型の合い口41、41’を有するシールリングである。 【0113】一方の合い口41’は、リング本体の先端面45’の外径面53側の中央部に所定長さの突起43が設けられている。また、他方の合い口41は、リング本体の先端面45の外径面53側の中央部に、上記外径面側中央突起43と嵌合するように凹部44が設けられている。一方の合い口41’と他方の合い口41を嵌合したとき、上記外径面中央突起43と上記外径面中央凹部44に入り、合い口41’側の上記外径面中央突起43以外のリング本体先端面45’と合い口41側の上記外径面中央凹部44以外のリング本体先端面45とが互いにつき合う。上記外径面中央突起43のリング本体先端面45’から外径面中央突起43の先端面48までの長さと上記外径面中央凹部44の段差面47からリング本体先端面45までの長さは、同じであってもよいが、嵌合が弱くならない程度で上記外径面中央突起43のリング本体先端面45’から外径面中央突起43の先端面48までの長さがより短くてもよい。 【0114】このような形状をとることにより、合い口41、41’の嵌合部分がリング本体の中央部にくるので、射出成形時に変形や反りが生じても、それによる食い込み等は、内部におさまり、合い口部分の側面にでっぱり等を生じさせない。このため、シールリングの両側面を研削加工しても、幅寸法のバラツキを減少させることができ、上記幅寸法精度を向上させることができる。 【0115】また、合い口41、41’の各面の境界に面取り部や、すみ肉をもうけてもよい。面取り部やすみ肉を設けることにより、合い口21、21’同士、または、合い口と相手材との間の突出量が零となるか、又は少なくなるので、局部的接触を防止することができる。 【0116】合い口41’に設けることのできる面取り部、すみ肉としては、次のものがあげられる。外径面53と先端面45’との境界に面取り部56、外径面側中央突起43の外径面53と上記中央突起43の先端面48との境界に面取り部57、外径面側中央突起43の側面49と外径面中央突起43の先端面48との境界に面取り部60、外径面中央突起43の先端面48と外径面中央突起43の内径側面52との境界に面取り部62、外径面側中央突起43の内径側面52とリング本体先端面45’との境界にすみ肉63、又は、外径面側中央突起43の側面49とリング本体先端面45’との境界にすみ肉64を設けることができる。 【0117】また、合い口41に設けることのできる面取り部、すみ肉としては、次のものがあげられる。外径面53側の中央凹部44の側面にある突起、即ち外径面側側面突起42とリング本体先端面45との境界に面取り部55、外径面中央凹部44の段差面47と外径面53の境界に面取り部58、外径面中央凹部44の内部側面50とリング本体先端面45との境界に面取り部59、外径面中央凹部44の内面46とリング本体先端面45との境界に面取り部61、外径面中央凹部44の段差面47と外径面中央凹部44の内側面50との境界にすみ肉65、又は、外径面中央凹部44の段差面47と外径面中央凹部44の内面46との境界にすみ肉66を設けることができる。なお、前述の角部分に相当する部位以外の角部分を面取り形状、又はすみ肉を加えた形状としてもよい。 【0118】ところで、これらの面取り部分又はすみ肉部分の形状は、曲率ないしは斜面のものいずれでもよいが、より好ましい形状は曲率の面取り形状である。その面取り部分又はすみ肉部分の最小値付近の寸法は、シールリング断面部の軸方向寸法又は径方向寸法のいずれかのうちの約5%〜50%程度、好ましくは約5%〜25%程度である。この値が小さすぎると、合い口部分の突出量がわずかに有る場合に相手部材を傷つけることが考えられる。 【0119】一方、曲率ないしは斜面のものの面取り部分又はすみ肉部分の形状の最大値付近の寸法は、シールリング外周径、内周径、ないしはそれらの中間部の径寸法のいずれかのうちの、約5〜50%程度、好ましくは、約25〜50%程度であればよい。この値が大きすぎると、面取り部を設けるという効果が薄れ、実質的にシールリングの外周径の曲率とほぼ同等の面取り部しか形成できず、合い口部分の突出量を零とするか、又は少なくすること期待できない。いずれにしても面取り部寸法はこれらの最小値以上又はこの値を越え、これらの最大値以下又はこれ未満の範囲であればよい。 【0120】さらにまた、図7に示すように、リング本体の外径面53や内径面54と側面67との境界に段差部68を設けることもできる。この段差部68の大きさは、シールリングのシール性を保つ範囲であればよい。 【0121】 【実施例】実施例及び比較例に使用した原材料を一括して以下に示す。なお、〔 〕内に略記号を示した。 1.PAS■トープレン社製:K4(架橋型)〔PPS−1〕 ■トープレン社製:T4(半架橋型)〔PPS−2〕 ■トープレン社製:LCX−7(リニア型)〔PPS−3〕 2.炭素繊維■呉羽化学工業社製:クレカチョップM201F(繊維径12.5μm、ピッチ系黒鉛質)〔CF−1〕 ■呉羽化学工業社製:クレカチョップM107T(繊維径18.0μm、ピッチ系炭素質)〔CF−2〕 ■東邦レーヨン社製:ベスファイトHTA−C6−E(繊維径6.7μm、PAN系)〔CF−3〕 3.再生PTFE粉末■喜多村社製:KT400H〔PTFE−1〕 4.バージンPTFE■三井デュポンフロロケミカル社製:テフロン7J〔PTFE−2〕 5.二硫化モリブデン■ダウコーニング社製:モリコートZパウダー〔MoS2 〕。 【0122】〔実施例1〜9および比較例1〜14〕各原料を表1または表2に示した割合(重量%)で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて乾式混合し、さらに押出機にて溶融押出してペレット状にした。これを射出圧力100MPa、シリンダー温度350℃、金型温度130℃の条件で射出成形して外径21mm、内径17mm、高さ10mmの円筒状成形体を得た。この円筒状成形体を180℃で1時間アニール処理したものを試験片として用い以下の試験を行なった。 【0123】(a)スラスト型摩耗試験試験片に対する摺動相手材を炭素鋼(S45C)またはダイカスト用アルミニウム合金(ADC12)として、下記の条件でスラスト型摩耗試験を行ない、その結果の試験片の摩耗高さ(μm)および相手材の摩耗深さ(μm)を表1または表2に示した。 [試験条件] 面圧:18.0kgf/cm2 (1.76MPa) 速度:128m/min相手材:S45C、ADC12(ともに面粗度3S) 試験時間:50時間雰囲気:室温潤滑条件:昭和シェル石油社製:ゲルコATF(自動車用オーマチックトランスミッション用オイル) 【0124】 【表1】
【0125】 【表2】
【0126】表1および表2の結果からも明らかなように、実施例1〜9および比較例1〜4は、相手材の軟質、硬質を問わず、耐摩耗性および低攻撃性である優れた材料であった。 【0127】一方、添加した炭素繊維の径が所定範囲より細い比較例10〜13は、軟質材(ADC12)への攻撃性が著しかった。また、PTFEを所定範囲より多く添加した比較例5およびバージンPTFEを添加した比較例9、10は、自己摩耗量のバラツキが大きく、好ましい結果が得られなかった。 【0128】〔比較例14〕鋳鉄製シールリング(外径44mm、内径40mm、幅2mm)を比較例14とした。次に、上記のスラスト型摩耗試験で優れた結果が得られた実施例1〜9及び比較例1〜4、6〜8の材料からなるオイルシールリング(外径44mm、内径40mm、幅2mm)を射出成形によって形成した。これらのオイルシールリングと前記の比較例14について以下の組み込み性試験、シール性試験および耐久試験を行なった。 【0129】(b)組み込み性試験図8に示した1/10テーパーマンドレル80に、シールリング81をゆっくりと挿入した時のリング破壊径を測定し、結果を表1または表2に示した。 【0130】通常、オイルシールリングを実装する際には、少なくとも開口率(破壊径/シールリング径)が120%以上必要であるが、表1および表2の結果から、炭素繊維の配合割合が所定範囲を越える比較例8(破壊径47mm、開口率(47/40)×100=117.5%)以外は、全てこの条件を満足した。 【0131】(c)シール性試験図9に示す回転試験機の炭素鋼(S45C)製の軸71のリング溝72、72’に上記方法により作成されたオイルシールリング73、73’を装着し、軸71を回転させた際、リング溝72、72’の側面とS45C製のシリンダー74の内面が摺接するようにした。また、このときシリンダー74の上方の油圧発生装置(図示省略)から、油の供給管75を介して油を圧送し、油圧計76により油圧を測定した。シリンダー74の下方には、漏れた油を排出する排出管77を設け、油漏れ量をメスシリンダ78で測定し、熱電対79によりこの時の油温を測定した。試験条件としては、自動車用オートマチック・トランスミッションオイル(昭和シェル石油社製:ゲルコATF)を使用し、油圧を10kgf/cm2 (=0.98MPa)とし、油温25℃、40℃、80℃、100℃または120℃で軸回転数7000rpmで1分間駆動したときの油漏れ量(cc/min)を測定し、この結果をそれぞれ図10、図11に示した。図10及び図11の結果からも明らかなように、鋳鉄製シールリングである比較例14は、いずれも油漏れ量が著しく多かった。これに対し、実施例1〜9および比較例1〜4、6、7の油漏れ量は、極めて少なく、また油温による影響も小さく、優れたシール性を示した。 【0132】(d)耐久試験前記したシール性試験において、シリンダー74の材質をダイカスト用アルミニウム合金ADC12製および炭素鋼S45Cとし、100時間の耐久試験を行なった。20時間毎に油漏れ量(cc/min)を計量し、その結果を図12〜図15に示し、試験後のオイルシールリング側面、外周面およびS45C製の軸71のリング溝の摩耗量(μm)、並びにADC12、S45C製シリンダ74の摩耗量(μm)を測定し、その結果を表3に示した。試験条件は、シール性試験とほぼ同様であるが、油温は120℃で行なった。 【0133】 【表3】
【0134】図12〜図15および表3の結果からも明らかなように、実施例1〜9のオイルシールリングは、シリンダが軟質または硬質のいずれかに拘わらず、自己摩耗性に優れかつ相手材を攻撃する程度が小さく、油漏れ量も少なく優れたシール性を示した。 【0135】また、PAS樹脂の配合量が所定範囲より多い比較例6および炭素繊維の配合量が所定範囲より少ない比較例7は、ともに相手材が軟質または硬質のいずれかに拘わらず低攻撃性であるが、自己の耐摩耗性が劣っているので、油漏れ量が多かった。 【0136】さらに、リニア型PPSを用いた比較例1〜3およびPTFE無添加の比較例4は、シリンダが軟質材(ADC12)では、この発明の実施例1〜9と同等に好ましい特性を示したが、シリンダが硬質材(S45C)では自己摩耗量が多くシール性が劣っていた。 【0137】 【発明の効果】この発明による油中摺動材またはオイルシールリングは、所定の樹脂組成物からなるので、摺動相手材が軟質材または硬質材のいずれの摺動条件においても使用に耐える合成樹脂製の油中摺動材であり、また前記摺動条件において、シール性、耐摩耗性および摺動相手材の摩耗が少ない特性を全て兼備するオイルシールリングであるという利点がある。 【0138】これら油中摺動材またはオイルシールリングは、特に、ダイカスト用アルミニウム合金(ADC12)のような軟質材または炭素鋼(S45C)等の硬質材に油中で摺接する条件において、極めて優れた耐摩耗性及びシール性を発揮する。 【0139】従って、前記オイルシールリングを自動車等の自動変速機の回転軸のオイルシールリングとして使用すれば、油漏れ量が少ないのでオイルポンプの小型化が可能となる有用性もあり、装置の小型化および軽量化に極めて有用である。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000102692 【氏名又は名称】エヌティエヌ株式会社
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| 【出願日】 |
平成8年(1996)11月29日 |
| 【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】鎌田 文二 (外2名)
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| 【公開番号】 |
特開平9−291297 |
| 【公開日】 |
平成9年(1997)11月11日 |
| 【出願番号】 |
特願平8−320146 |
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