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【発明の名称】 Al−Mg系合金板のプレス成形方法
【発明者】 【氏名】吉澤 成則

【氏名】松井 邦昭

【目的】 Mg含有率の高いAl−Mg系合金板を、ストレッチャー・ストレインマークを発生させることなく、自動車用外板等の複雑形状の構造部材に成形することのできるAl−Mg系合金板のプレス成形方法を提供する。
【構成】 Mgを 2.5wt%以上含むAl−Mg系合金板を、 1×10-4〜 1×10-1(S-1) の範囲内のひずみ速度xで、ひずみ量yが10%未満のプレス成形を行うに際して、各ひずみ量yにおいて y< 2.8 logx+12.8 を満たすようにひずみ速度xを制御してプレス成形する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 Mgを 2.5wt%以上含むAl−Mg系合金板を、 1×10-4〜1×10-1(S-1) の範囲内のひずみ速度xで、ひずみ量yが10%未満のプレス成形を行うに際して、各ひずみ量yにおけるひずみ速度xを、下記 (1)式を満たすように制御してプレス成形することを特徴とするAl−Mg系合金板のプレス成形方法。
y< 2.8 logx+12.8 −−(1)
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はAl合金板のプレス成形技術に関わり、詳細には、Mg含有率の高いAl−Mg系合金板を自動車用外板などの複雑形状の構造部材に成形するプレス成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に、自動車車体用の板材としては、冷間圧延鋼板が使用されてきたが、最近では、米国のCAFE(Corport Average Fuel Economy)規制等にみられるように、軽量化による低燃費化の要請がより厳しくなり、自動車産業においては、これらの問題をクリアーするために、比重が鋼の約1/3 で軽量化が容易なAl合金材、特に強度と延性のバランスが優れているAl−Mg系合金材の適用による軽量化、いわゆるアルミ化が積極的に推進されつつある。
【0003】しかし、Al合金は、その金属学的特性より、引張変形を与えるとストレッチャー・ストレインマーク(以下、S−Sマークと略称)と呼ばれる表面荒れが生じるため、引張変形を伴うプレス成形では成形品の外観特性が劣化し易い。特に、固溶体強化のためのMgを 2.5wt%以上(通常 9.0wt%程度まで)添加してなるAl−Mg系合金板では、高強度が得られるものの、そのプレス成形時においてS−Sマークが顕著に発生し、成形品の表面にクサビ状(Aタイプ)もしくは鋸歯状(Bタイプ)の模様を生じる。そして、AタイプのS−Sマークは成形初期に発生し、 0.3%以上のひずみが加わると一般的に消去されるが、その後に発生するBタイプのS−Sマークは最終形状まで残り、これが成形品の塗装面の鮮鋭性や光輝性等の外観特性を劣化させる表面欠陥となる。従って、以下、S−Sマークとは成形品の表面欠陥となるBタイプのS−Sマークをさすものとする。
【0004】このように、構造部材の軽量化に有効なAl−Mg系合金板のプレス成形では、S−Sマークが発生して外観特性を劣化させることより、素材およびプレス成形方法の面からの改善の要請が強く、素材面からの対策としては、例えば、特開平2-290953号、特開平4-147952号等に開示されているように、組成を調整すると共に適正な中間焼鈍を行うことで加工性の改善が図られている。更にまた、ローラレベラーなどによる予備ストレッチにて、素材に加工ひずみを与えておくことでS−Sマークの発生を抑制する方法も知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、中間焼鈍を行うと析出物が生成され固溶Mgが減少することにより強度が低下し、また予備ストレッチを行うと強度が過度に増加して成形性が低下する等の問題が生じてしまい、素材面の改善のみでは十分にS−Sマークを抑制できないのが現状である。従って、軽量化を目的としたアルミ化を推進するためには、成形時にS−Sマークが発生しないプレス成形技術を確立することが課題となる。
【0006】本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、Mg含有率の高いAl−Mg系合金板を、S−Sマークを発生させることなく自動車用外板などの複雑形状の構造部材に成形することのできるAl−Mg系合金板のプレス成形方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成とされている。すなわち、本発明に係るAl−Mg系合金板のプレス成形方法は、Mgを 2.5wt%以上含むAl−Mg系合金板を、 1×10-4〜 1×10-1(S-1) の範囲内のひずみ速度xで、ひずみ量yが10%未満のプレス成形を行うに際して、各ひずみ量yにおけるひずみ速度xを、下記 (1)式を満たすように制御してプレス成形することを特徴とする。
y< 2.8 logx+12.8 −−(1)【0008】
【発明の実施の形態】Al−Mg系合金板のプレス成形において、S−Sマークを抑制する手段を、素材面から検討した結果、Mg含有率が 2.5wt%未満のAl−Mg合金板を使用するとS−Sマークは抑制されるが、Mg量が少ないことより成形性と強度が低下してしまい、高い構造強度が要求される自動車用外板および内板等の構造部材としては不適合なものとなる。そこで、成形技術面からS−Sマークの抑制技術を種々検討した結果、所定のひずみ量に対してひずみ速度を適正に制御することにより、Mgを 2.5wt%以上含むAl−Mg合金板を使用してもS−Sマークの抑制が可能であることが確認された。すなわち、通常のAl合金板等の成形に適用されている範囲内のひずみ速度、つまり 1×10-4〜 1×10-1(S-1) のひずみ速度で、一般的な自動車用外板等の成形に適用されているひずみ量10%未満のプレス成形を行うとき、Mg 2.5wt%以上のAl−Mg系合金板では、ひずみ量が小さい場合には成形速度を比較的遅くしてもS−Sマークは発生しないが、ひずみ量が大きくなるにつれて、ひずみ速度を速くしないとS−Sマークが発生し易くなることが認められ、このことから、ひずみ量y(%) とひずみ速度x(S-1) の関係を調査した結果、各ひずみ量yおいてy≧ 2.8 logx+12.8となるひずみ速度xの条件で成形するとS−Sマークが発生することが確認された。従って、本発明では、各ひずみ量yにおいてy<2.8 log x+12.8を満たすようにひずみ速度xを制御して、Al−Mg系合金板のプレス成形を実施し、これによってS−Sマークの発生を抑制する。
【0009】
【実施例】以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。〔表1〕に示すMg含有量と機械的性質を有する3種のAl−Mg合金板を供試材とし、幅 500mm、長さ 800mm、深さ50mmの自動車用のフードアウターモデル金型を用いて、防錆油 4cSt/40℃、成形速度 0.5〜30mm/secの条件下で、ひずみ量、ひずみ速度を種々に調整してプレス成形を行い、S−Sマークの発生状況の調査を行った。
【0010】
【表1】

【0011】ここで、各例において、ひずみ量とS−Sマークの調査部位は短辺方向で製品端部から 150mm、長辺方向で 400mmの位置とした。そして、ひずみ量は直径10mmのスクライブドサークルを用いて調査し、また、S−Sマークの調査は、前述のBタイプのS−Sマークを対象として、成形品の表面を#1000相当の砥石で研磨することにより行い、その評価は、S−Sマークのないものをレベル1、顕著なものをレベル5として、5ランクに区別し、レベル3以上を×(不良)、2以下を○(良好)とした。また、ひずみ速度は、各例における成形後のひずみ量(y%/100)を成形時間(T秒)で除した平均ひずみ速度(y%/(100・T))にて調査を行い、成形後の強度は、上記調査部位から採取した JIS5号試験片を用いて引張速度 5mm/minで引張試験を行い、引張強度が250 N/mm2以上を○(良好)、未満を×(不良)と評価した。その結果を〔表2〕に示す。また、Mgを 5.5wt%含むAl−Mg合金板■をを供試材とした例でのS−Sマークの評価結果をひずみ量とひずみ速度との関係のもとで整理して〔図1〕のグラフに示す。
【0012】
【表2】

【0013】〔表2〕中の比較例 No.10と No.11に示すように、Mg含有量が 2.5wt%未満のAl−Mg合金板の場合は、どのような成形条件においても顕著なS−Sマークが発生しなかったが、Mg含有量が少ないことから成形性が劣化し、かつ強度が低いことより、自動車用の外板への適用は困難であった。一方、Mg含有量が 2.5wt%以上のAl−Mg合金板の場合は、〔表2〕中の本発明例No.1〜No.5および〔図1〕のグラフに示すように、 1×10-4〜 1×10-1(S-1) のひずみ速度で、ひずみ量が10%未満のプレス成形では、各ひずみ量yにおいてy< 2.8 logx+12.8を満たすひずみ速度xの条件で成形することによりS−Sマークが抑制された。これに対して、同条件外のひずみ速度で成形した比較例No.6〜No.9ではレベル3以上の評価のS−Sマークが発生しており、これら結果から本発明の優れた効果を確認することができた。
【0014】
【発明の効果】以上に述べたように、本発明に係るプレス成形方法によれば、強度と成形性を改善するためにMg含有率を高めたAl−Mg系合金板を、S−Sマークを発生させることなく、自動車用外板および内板などの複雑形状の構造部材に成形することができ、もって成形品の塗装面の鮮鋭性や光輝性等の外観特性が重要な自動車用部材をはじめとする各種構造部材の軽量化をより推進させることができる。
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成7年(1995)7月31日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】明田 莞
【公開番号】 特開平9−38800
【公開日】 平成9年(1997)2月10日
【出願番号】 特願平7−195171