トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き




【発明の名称】 筒状成型体およびその製造方法
【発明者】 【氏名】小川 末明

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 外径に対し筒長が長く形成されており、かつ、Ni:8.5〜10.5%、Cr:17.0〜19.0%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.045%以下、Cu:3.0〜4.0%、C:0.005〜0.02%、S:0.0005〜0.002%を含有するステンレス鋼から構成されていることを特徴とする筒状成型体。
【請求項2】 Ni:8.5〜10.5%、Cr:17.0〜19.0%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.045%以下、Cu:3.0〜4.0%、C:0.005〜0.02%、S:0.0005〜0.002%を含有するステンレス鋼で原料鋼材を構成し、この原料鋼材をダイス内に収容し、ダイスとの間に成型空間を形成するパンチで上記原料鋼材を複合押し出し又はすえ込みして、外径に対し筒長の長い筒状成型体を成型することを特徴とする筒状成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、高ナット等に代表される筒状成型体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、金属原料を冷間鍛造する場合、パンチをダイス内で前進させて金属原料を押圧することによりダイス内面形状に対応する外形の成型体を得る「前方押し出し」加工、ダイス内周面との間に所定隙間を形成できる径のパンチで金属原料を押圧し、パンチの進行方向とは逆向きに上記隙間内を塑性流動させることによって筒状成型体を得る「後方押し出し」加工、あるいは長い金属原料を圧縮して太く短くした成型品を得る「すえ込み」加工等が知られている。これらの冷間鍛造法は、比較的軟らかい金属原料を加工対象としている。
【0003】一方、ステンレス鋼のうち、SUSXM7は冷間鍛造成形性がよいことで知られている。それでも、SUSXM7を金属原料として、外径に対し筒長の長い高ナット等を、前方押し出しや後方押し出し等の冷間鍛造で連続的に得ようとすると、冷間鍛造時に金属原料が加工硬化を生じてパンチやダイ等の破損を引き起こしやすいことから、工程を区切って焼鈍を行わなければならなかった。このような理由で、冷間鍛造によるステンレス鋼の前方押し出し、後方押し出し等の中空加工は極めて困難とされ、大量生産に適さないと考えられてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そのため、原料ステンレス鋼を所定の外形に切削し、更にドリルで切削して筒孔を穿設することにより、高ナット等を製造しているのが実情であった。しかしながら、上記のような切削加工でステンレス製品を得る方法では、切削屑が発生することや、加工の手間がかかりすぎて多量に生産できず製造コストが高くつくといった不具合があり、冷間鍛造による筒状成型体の連続大量生産の実現化が嘱望されていた。
【0005】本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、ステンレス鋼を原料として複合押し出し等により効率よく冷間鍛造され得る筒状成型体およびその製造方法の実現化を目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、外径に対し筒長が長く形成されており、かつ、Ni:8.5〜10.5%、Cr:17.0〜19.0%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.045%以下、Cu:3.0〜4.0%、C:0.005〜0.02%、S:0.0005〜0.002%を含有するステンレス鋼から構成されてなる筒状成型体が、上記の目的を達成し得ることを見出したのである。
【0007】また、本発明に係る筒状成型体の製造方法は、Ni:8.5〜10.5%、Cr:17.0〜19.0%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.045%以下、Cu:3.0〜4.0%、C:0.005〜0.02%、S:0.0005〜0.002%を含有するステンレス鋼で原料鋼材を構成し、この原料鋼材をダイス内に収容し、ダイスとの間に成型空間を形成するパンチで上記原料鋼材を複合押し出し又はすえ込みして、外径に対し筒長の長い筒状成型体を成型するようにしたものである。ここで、「複合押し出し」とは、前方押し出し加工と、後方押し出し加工とを順次、あるいは同時に併用して行うものである。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態につき以下に詳しく説明する。本発明に用いられるステンレス鋼は、例えば日本工業規格(JIS)のSUSXM7に属している。JISに規定されたSUSXM7は、組成全体に対し重量比率で、Ni: 8.5〜10.5%Cr:17.0〜19.0%Si: 1.0%以下Mn: 2.0%以下P : 0.045%以下Cu: 3.0〜4.0%C : 0.08%以下S : 1.0%以下の主要成分を含有するオーステナイト系のものとされている。
【0009】そして、本発明に用いるステンレス鋼は、上記の主要成分のうち、特に、炭素(C)と硫黄(S)の含有率を、それぞれC:0.005〜0.02%、S:0.0005〜0.002%と、極力少なくしてある。かかるステンレス鋼を用いたことにより、原料鋼材から筒状成型体を得る際に、冷間鍛造時の加工硬化が低減化されて、冷間鍛造容易性が向上した。従って、複合押し出しやすえ込みの冷間鍛造途中でパンチやダイが破損することを防げるので、工程を区切ることなく、トランスファーにて連続的に加工することができる。それにより、筒状成型体を生産効率よく大量に製造することができる。ここで、炭素含有率が0.02%を超えたり、あるいは硫黄含有率が0.002%を超えると、複合押し出し等の冷間鍛造時に加工硬化が加工度合いに比して早く進み好ましくない。他方、炭素含有率が0.0005%を下回ると、鋼特有のねばりが損なわれて好ましくない。また、硫黄含有率が0.0005%を下回ると、パンチの破損やダイスの焼付き・割れが発生するおそれがある。
【0010】
【実施例】続いて、ステンレス製の高ナットを製造する実施例を図面に基づいて説明する。高ナットは、対角間寸法(外径)よりも軸方向寸法(筒長)が長いナットであり、ここでは対角間寸法が例えば17mmで、高さ(筒長)が例えば30mmの粗製品を製造する例を示す。
【0011】図1は本発明に係る高ナット鍛造用の横型トランスファープレスの一種であるパーツホーマ機を示す平面図である。図に示したパーツホーマ機では、4段の鍛造機1a,1b,1c,1dとピアシング機1eとが並列に配置され、これらの間にはトランスファーチャック(図示省略)がそれぞれ配備されている。各鍛造機1a,1b,1c,1dとピアシング機1eは、それぞれダイス3a,3b,3c,3d,3eとパンチ5a,5b,5c,5d,5eとを有しており、各パンチ5a,5b,5c,5d,5eは、パンチ駆動装置4a,4b,4c,4d,4eにそれぞれ保持されている。パンチ駆動装置4a,4b,4c,4d,4eはクランク機構を介して1台のモータ(例えば、最大容量が160トン/cm2 )に連結され、互いに同期して駆動するようになっている。
【0012】図2は3番目の鍛造機1cに配備されるダイスおよびダイス保持部を例示した図である。図において、ダイス3cはダイス保持部2cに保持・固定されている。ダイス3cの型穴7cは、正6角状の開口を有する長穴に形成されており、パンチ5cの外径よりも大きく、パンチ5cの外周面との間に成型空間を形成できる形状・寸法に設定されている。他のダイス3a,3b,3d,3e,3f、およびこれらと各パンチ5a,5b,5d,5e,5fとの配置関係についても、ほぼ同様である。
【0013】各パンチのうち、少なくとも3番目のパンチ5cと4番目のパンチ5dは、ハイス鋼よりも靱性が大きく強度に優れた超硬合金(タングステンカーバイド(WC)系のG3(三菱マテリアル株式会社の製品コード)を用いた)で構成されている。
【0014】一方、原料鋼材は、組成全体に対し重量比率で、Ni:10.9%Cr:18.62%Si: 0.24%Mn: 0.67%P : 0.018%Cu: 3.07%C : 0.01%S : 0.001%の主要成分を含有したオーステナイト系のステンレス鋼から構成されている。この原料鋼材の機械的特性を計測したところ、引張強さ=569N/mm2 、伸び率=34%、絞り率=72%であった。
【0015】上記構成のパーツホーマ機を用いて高ナットの粗製品を製造する場合、図1〜図3に示すように、まず、切断機(図示省略)を用いて、断面6角状の長尺線材から長さ約23mm単位の原料鋼材10(図3(a)参照)が切断され、この原料鋼材10が鍛造機1aのダイス3a内に収容される。
【0016】原料鋼材10の表面には、冷間鍛造中にダイスとの間で焼付きが発生するのを抑えるため、7%MoS2 塩化金属石鹸(乳化モリブデン)が予めコーティングされている。ただし、乳化モリブデンは塗り状態にムラを生じやすい。そのため、冷間鍛造中の焼付き防止をより万全とするために、各ダイス3a〜3eの内面にもチタンコーティングが施されている。また、このパーツホーマ機の各原料鍛造部分には、鉱油を基材とし、油性向上剤と塩素系の極圧剤を含有する冷間圧延油が供給される。
【0017】こうして、パンチ駆動装置4aの駆動により、パンチ5aがダイス3a内の底面に向けて前進して原料鋼材10を前方押し出しし、原料鋼材10をダイス3aの内面形状に対応した面取りの外形状に鍛造する。すなわち、一端側に心だし穴を有する中間製品10Aが成型される(図3(b)参照)。そして、ノックアウトピン6aの駆動により、中間製品10Aがダイス3aから突き出される。この中間製品10Aは、トランスファーチャックの爪で把持され、更に軸心方向に反転された後、次の鍛造機1bのダイス3b内に搬送される。
【0018】鍛造機1bでは、パンチ駆動装置4bの駆動により、パンチ5bが中間製品10Aを前方押し出しし、中間製品10Aをダイス3bの内面形状に対応した面取りの外形状に鍛造する。ここでは、他端側に心だし穴を有する中間製品10Bが成型される(図3(c)参照)。ノックアウトピン6bおよびトランスファーチャックの駆動により、中間製品10Bがダイス3bから取り出され、そのままの向きで、次の鍛造機1cのダイス3c内に搬送される。
【0019】尚、1番パンチ5aや2番パンチ5bによる突き加減は最小限に抑えておくのが好ましい。これは、1番目のパンチ5aや2番目のパンチ5bで原料鋼材を強く突きすぎると、原料鋼材が加工硬化を生じやすくなり、3番目のパンチ5cや4番目のパンチ5dがたとえ超硬合金製であっても、破損を招きやすいためである。
【0020】そして、鍛造機1cでは、パンチ駆動装置4cの駆動によって、パンチ5cが中間製品10Bを押圧しつつ前進することにより、中間製品10Bはパンチ進行方向逆向きに塑性流動して後方押し出しされる。ここでは、パンチ5cの前進軌跡に対応する片穴が形成された中間製品10Cを得る(図3(d)参照)。ノックアウトピン6cおよびトランスファーチャックの駆動により、中間製品10Cがダイス3cから取り出され、軸心方向に反転された後、次の鍛造機1dのダイス3d内に搬送される。
【0021】更に、鍛造機1dでは、パンチ駆動装置4dの駆動によって、パンチ5dが中間製品10Cを押圧しつつ前進することにより、中間製品10Cはパンチ進行方向逆向きに塑性流動して後方押し出しされる。ここでは、パンチ5dの前進軌跡に対応する片穴が形成された中間製品10Dを得る(図3(e)参照)。ノックアウトピン6dおよびトランスファーチャックの駆動により、中間製品10Dがダイス3dから取り出され、そのままの向きで、ピアシング機1eのダイス3e内に搬送される。
【0022】ピアシング機1eでは、中間製品10Dにおける片穴間の残部をパンチ5eで貫通させて筒孔11とし、高ナットの粗製品10Eを得る(図3(f)参照)。粗製品10Eはノックアウトピン6eによりダイス3eから突き出されて、一連の冷間鍛造工程が終了する。この粗製品10Eは外径D(約17mm)よりも筒長L(約30mm)が長く形成されたものである。更に、粗製品10Eの筒孔11内に雌ねじ部が螺刻されて高ナットの最終製品となる。
【0023】上記したように、この実施例では、5〜6段の連続した冷間鍛造時でも加工硬化を生じにくいステンレス鋼を原料に用いたので、当該鍛造時におけるパンチやダイス等の破損を防ぐことができ、効率よく高ナットの製造を行うことができる。
【0024】尚、上記では、筒状成型体として高ナットを製造する実施形態を示したが、本発明は、例えば円筒状のステンレス製スリーブ形状等又は中実のシャフト形状等の冷間鍛造にも適用し得るのは無論である。
【0025】また、上記では、冷間鍛造法による実施形態を示したが、より加工しやすい温間鍛造法でも成型できるのはいうまでもない。
【0026】
【発明の効果】以上述べたように、本発明に係る筒状成型体およびその製造方法であれば、冷間鍛造時に加工硬化を生じにくい組成のステンレス鋼を見出し、これを原料鋼材に用いたので、前方押し出し,後方押し出し,すえ込みの際の過酷な条件下でもパンチやダイ等が破損したりせず、工程を区切って焼鈍等を行うといった手間を要しない。従って、ステンレス鋼製の筒状成型体を、冷間鍛造により連続して効率よく大量生産できる。また、原料鋼材を無駄にすてることがないので、現状の切削加工と比べて格段に歩留りがよいことから、より安価に製造できる。
【出願人】 【識別番号】594171492
【氏名又は名称】小川工業株式会社
【出願日】 平成7年(1995)11月16日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 巌 (外1名)
【公開番号】 特開平9−141383
【公開日】 平成9年(1997)6月3日
【出願番号】 特願平7−298015