トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き




【発明の名称】 複合体の製造方法
【発明者】 【氏名】伊崎 博

【氏名】藤野 摂央

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面にこの基材とは異なる材料から成る肉盛層を形成し、その後、上記基材を型鍛造によって所定形状に成形する複合体の製造方法であって、上記肉盛層と基材との接合界面の面積が拡がるべく、成形前の接合界面に略平行な方向への材料流れを伴う変形が接合界面近傍の基材と肉盛層とに生じるように設定された鍛造型を設けて型鍛造を行うことを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項2】 上記基材がアルミニウム合金から成ることを特徴とする請求項1記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば耐摩耗性や耐食性、耐熱性などの特性が表面に要求されるVTRドラムやブレーキディスクロータ、エンジンピストン等の部品の製造に適用し得る複合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ビデオテープレコーダ(VTR)には、アルミニウム合金、例えばJIS 規格A2218 の鍛造材やAC8Cの鋳造材で作製された下ドラムと上ドラムとが上下に組合わされて組み込まれる。これらドラムのうち、特に下ドラムには、磁気テープが摺接する外周面に耐摩耗性が強く要求されている。そこで、下ドラムについては、その耐摩耗性を向上すべく、前記材質に替えて例えばAl−20〜30%Siで製造するようにもなってきている。
【0003】この場合、例えば図4(a) に示すように、Al−20〜30%Si粉末材から成形された押出丸棒31を素材とし、この押出丸棒31を切断して所定長のブランク32を作製した後、このブランク32からの削り出しで、所定形状の下ドラム33を製造することができる。しかしながら、上記の材料は硬度が高く、難切削材であるために刃物の摩耗が激しく、この結果、上記の製造法では充分な生産性が得られずに加工コストが高価なものとなる。
【0004】一方、同図(b) には、鍛造による下ドラムの製造法を示している。すなわち、前記と同様にAl−20〜30%Siの押出丸棒41を素材とし、これを切断して円板状のブランク42を作製する。これに、熱間鍛造を繰返して一次成形体43、二次成形体44を順次成形してニアネットシェイプとし、最後に、切削等による仕上げ加工を行って下ドラム45を形成する。しかしながら、この場合でも、上記の材料は加工性が悪いために数回の熱間鍛造の繰返しが必要であり、このために加工コストが依然として高価なものとなってしまう。
【0005】ところで、例えば特開昭49-38839号公報には、基材の表面に特殊材料層を設けてエンジンピストンを製造する方法が開示されている。その方法では、図5(a)に示すように、まず、アルミニウム合金から成る円柱状の基材51の頭部表面に、アルミニウム酸化物等を溶射して肉盛層52を形成し、次いで、同図(b) に示すように、肉盛層52を鍛造型53の底部に当てて基材51をこの型53内に収容した後、同図(c) に示すような密閉型鍛造によって、基材51を所定形状に成形する。このとき、肉盛層52にはこれを圧縮する方向に高圧力が作用し、これによって、この肉盛層52が圧縮される。この結果、溶射のままでは気孔率の高い肉盛層52の密度が向上する。
【0006】なお、肉盛層52が鍛造型53の内周面に密着する周縁部分では、肉盛層52と型面との間で生じる摩擦力によって肉盛層52の圧縮変形が生じ難く、これによって、肉盛層52と基材51との接合界面はその周縁部で若干変化しているものの、この場合には、上記の接合界面の形状が鍛造成形の前後でほぼ不変な密閉型鍛造が行われている。
【0007】上記のように型鍛造を行って得られた成形品54(同図(d) )に対し、仕上げ加工を行って同図(e) に示すようなピストン部品55が製造されている。そこで、前記した下ドラムの製造においても、加工コストの低減と共に全体的な材料費の低廉化を図るために、上記同様に、基材として機械加工性に優れた例えばJIS 規格A2218 の鍛造材等を用い、その外周面に耐摩耗性に優れたAl−20〜30%Siなどの特殊材料を溶射等により被覆して複合体として製造することが考えられる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、下ドラムの製造に上記公報記載の方法をそのまま適用したのでは、特に基材と肉盛層との間に充分な接合強度が得られないという問題を生じる。つまり、上記公報記載の方法では、鍛造時の肉盛層52には、圧縮力によって内部気孔の消滅等に伴う圧縮変形しか基本的に生じないようにブランク形状と型形状とが設定され、基材51と肉盛層52との接合界面は鍛造成形前後でほぼ不変である。したがって、下ドラムの製造に当たって、例えば前記したJIS 規格A2218 から成る基材の外周面に前記Al−20〜30%Siの肉盛層を形成し、上記のような鍛造成形を行ったとしても、基材の表面層、特にアルミニウム合金における表面酸化膜が肉盛層との間にそのまま残存する。このため、基体と肉盛層とには金属学的な接合状態は得られず、この結果、充分な接合強度を確保することができない。これにより、鍛造成形後に肉盛層に仕上げ加工を施す際等に、この肉盛層が剥離する等の不具合が生じ易く、製品歩留りが低下して、製品コストの低減を充分には図れなくなる。
【0009】本発明は、上記した問題点に鑑みなされたもので、基材表面に肉盛層を設けて製造される部品の製作コストを低減し得る複合体の製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の複合体の製造方法は、基材表面にこの基材とは異なる材料から成る肉盛層を形成した後、上記基材を型鍛造によって所定形状に成形する複合体の製造方法であって、上記肉盛層と基材との接合界面の面積が拡がるべく、成形前の接合界面に略平行な方向への材料流れを伴う変形が接合界面近傍の基材と肉盛層とに生じるように設定された鍛造型を設けて型鍛造を行うことを特徴としている。
【0011】このような製造方法によれば、型鍛造時には接合界面を挟んで基材と共に肉盛層にも接合界面に略平行な方向への材料流れが生じて変形し、これにより、肉盛層と基材との接合界面の面積が拡がる結果、この接合界面における基材や肉盛層の表皮層、特に、請求項2記載のように基材がアルミニウム合金から成る場合にはその表面酸化膜が分断される。そして、この分断箇所では基材と肉盛層との各基地同志が直接密着し、これにより、例えば原子拡散を生じて金属学的な接合状態が得られることになる。この結果、肉盛層と基材との接合が強固になるので、その後の仕上げ加工時等において肉盛層の剥離は生じ難く、加工が容易になる。これによって、肉盛層の材質に起因する特性を基材表面に確実に保持した複合成形体をより安価に製造することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】次に、本発明をVTRの下ドラムの製造に適用した実施形態について説明する。初めに、図2を参照して下ドラム1の形状について説明する。この下ドラム1には、中心軸線上に円筒状の軸部1aが設けられ、この軸部1aの中途位置外周に、径方向に拡がる鍔状部1bが延設されている。軸部1aには、後述する上ドラム2の中心軸が貫通する中心貫通穴1cが形成される一方、軸部1aにおける鍔状部1bの下側外周は、二段の段差状に形成されている。一方、鍔状部1bの外周縁から、軸部1aと同心状に上方に延びる外壁部1dが延設され、この外壁部1dと軸部1aとの間に、上方に開口する凹部1eが形成されている。また、外壁部1dの一部には、内部に設けられる磁気ヘッド等との信号伝達用のリード線が挿通する切欠形状の開口1fが形成されている。
【0013】このような形状の下ドラム1が、同径の上ドラム2と上下に組合わされてビデオ装置に組込まれ、これらドラム1・2の外周面に磁気テープ3を斜めに巻き掛けて走行する構成として、この磁気テープ3への情報の記録再生が行われる。この情報記録再生時には、上ドラム2は高速回転され、これによって、その表面と磁気テープ3との間には空気層が介在する。一方、下ドラム1は固定状態にあり、磁気テープ3はこの下ドラム1の表面に摺接しながら走行する。この結果、特に下ドラム1の外周面、すなわち、前記外壁部1dの外周面に耐摩耗性が要求される。なお、上記のような下ドラム1の具体的寸法を例示すれば、軸部1aの外径約20mm、長さ約26mm、外壁部1dの外径約62mm、この外壁部1dの軸方向長約15mmである。
【0014】上記形状の下ドラム1が、本実施形態では以下のように製造される。すなわち、図1(a) に示すように、まず、例えばJIS 規格A2218 相当の型打鍛造用のアルミニウム合金の押出丸棒が、基材11として用いられる。なお、この基材11の径は、前記外壁部1dの外径よりもやや小さく、例えば58mm程度とされている。そして、同図(b) に示すように、この基材11の外周面の全長にわたってAl−30%Siが例えばフレーム溶射法によって溶射され、厚さ1mm程度の肉盛層12が形成される。
【0015】次いで、前記の下ドラム1の体積に合わせた板厚、例えば約8mmの厚さで順次切断され、同図(c) に示すように、型鍛造用の円板状のブランク13が作製される。なお、基材11を所定の厚さで先に切断し、その外周面にAl−30%Siを溶射して肉盛層12を形成することにより、上記同様のブランク13を作製することも可能である。
【0016】上記のブランク13が、同図(d) に示すように、鍛造装置の下型14内に挿入される。この下型14には、その底面に前記下ドラム1における軸部1aの上部側に対応する中央キャビティ部14aが形成され、また、周縁部に、前記外壁部1dに対応する周縁キャビティ部14bが形成されている。そして、上記下型14に、同図(e) に示すように、前記下ドラム1における鍔状部1bよりも下側の形状、および中心貫通穴1cに各々対応する形状を下面に有する上型15が上方から嵌挿され、所定の温度に加熱されているブランク13の密閉型鍛造が行われる。
【0017】このとき、ブランク13の大半を占める基材11が、JIS 規格A2218 相当の加工性の良好な材料から成ることにより、上記のような熱間鍛造を一回行うだけで、下ドラム1の形状とほぼ同等の形状に成形することができる。そして、上記のような基材11の塑性変形に伴って、ブランク13の周縁側の領域は、下型14の内周面に密着するまで径方向に拡がるような変形を生じ、同時に、その下側の空間、すなわち、前記周縁キャビティ部14bへと流入するような材料流れが生じて、この空間部を埋め、これによって、下ドラム1における前記外壁部1dが形成される。このとき、ブランク13の最外層に設けられている肉盛層12も、周縁キャビティ部14bへと流入する材料流れを生じ、ブランク13での当初の形状から、径方向と共に軸方向にも押し拡げられる。これによって、この肉盛層12は、当初の厚さ約1mmが0.6〜0.7mm程度に薄くなるものの、前記外壁部1dの外周面のほぼ全体を被覆した状態となる。
【0018】このような材料流れが肉盛層12にも生じるような加工が加えられる結果、この肉盛層12は、溶射時に内部に生じていた気孔等は消滅し、密度が充分に高められると共に、粉末表面の酸化皮膜も分断される。同時に、肉盛層12と基材11との接合界面においては、その面積が拡がるような変形が生じる結果、アルミニウム合金から成る基材11の表皮層、特に酸化皮膜は分断される。これにより、基材11と肉盛層12とが酸化皮膜の介在なく直接的に接する接合面が現れ、この接合面を通して基材11と肉盛層12との間の原子拡散が容易に生じる状態となる。この結果、肉盛層12が基材11に強固に接合した接合状態が得られる。
【0019】上記のような型鍛造終了後、同図(f) に示すような鍛造成形体16が型内から取り出され、次いで、この成形体16に前記開口1fの追加加工や表面仕上げ加工が施されて、同図(e) に示すように、前記外壁部1dの外周面に、耐摩耗性の良好なAl−30%Siから成る表面層を有する下ドラム1として完成される。このように、本実施形態では、鍛造成形が容易な基材11の外周面に、Al−30%Siを溶射して肉盛層12を形成しておき、これを鍛造して下ドラム1の形状に成形する。これにより、材料費が高価な特殊材料の使用が必要最小限に抑えられ、しかも、大半は加工性の良好な材料を基材11として使用することによって加工コストも低減することができるので、全体の製品コストをより安価なものとすることができる。
【0020】さらに、上記では鍛造成形時に、肉盛層12の部分にも、基材11との接合界面に沿う方向に塑性変形を生じさせるような加工が行われるので、その密度が向上し、耐摩耗性がより向上する。しかも、基材11と肉盛層12との接合状態も強固なものとなる結果、例えば、鍛造成形後の機械仕上げ加工時等に過大な加工力が肉盛層12に加わったとしても、肉盛層12の剥離は生じ難い。この結果、仕上げ加工も容易となり、これによって、形状精度の良好な下ドラム1をより安価に製造することができる。
【0021】次に、本発明の他の実施形態について、図3を参照して説明する。同図(b) には、ディスクブレーキに使用されるディスクロータ21を示している。このようなディスクロータ21は軽量化が望まれる一方、高温下での使用状況となるため、ブレーキ摺動面、すなわち、径方向に拡がる円板状のフランジ部22の表裏面に、耐熱性・耐摩耗性が要求される。
【0022】そこで、本実施形態では、前記実施形態と同様に、例えばJIS 規格A2218 相当の高力Al合金や5000番系のAl-Mg 合金の丸棒を素材とし、まず、これを所定の長さに切断することによって、同図(a) に示すように円板状の基材23を作製する。次いで、この基材23の表裏面に、それぞれ、例えばAl−20〜40%Siの材料を環状に溶射して肉盛層24を形成する。そして、これを鍛造用のブランクとして前記同様の型鍛造を行い、同図(b) に示す形状のディスクロータ21に成形する。
【0023】この場合も、同図中破線矢印で示すように、基材23と共に肉盛層24も径方向に拡がるような材料流れが生じてフランジ部22が形成されるように、ブランク23の形状および鍛造型の形状を定めて型鍛造が行われる。これにより、フランジ部22の表裏面に表出する肉盛層24の密度が向上し、しかも、基材23との接合強度も強固なものとなる。この結果、軽量であり、しかも、上記の肉盛層24により与えられるブレーキ摺動面は耐熱性・耐摩耗性に優れ、かつ、剥離を生じにくいことから、安定したブレーキ性能を長期にわたって維持し得るディスクロータ21として製造することができる。
【0024】なお、上記の各実施形態は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。例えば上記ではAl−20〜40%Siの材料を用いて肉盛層を形成したが、その他、Al合金にSiCやAl2O3 の強化粒子を分散させた耐摩耗性・耐熱性材料で肉盛層を形成することも可能であり、さらに、基材の材質や肉盛層の材質の任意の組合せに本発明を適用することが可能である。
【0025】また、上記では、フレーム溶射により肉盛層を形成した例を挙げたが、フレーム溶射の他、例えばHVOF(High Velocity Oxygen Fuel, 高速ガス溶射)やプラズマ溶射等のその他の溶射法を、肉盛層形成材料に応じて適宜選択して用いることが可能である。また、このときの肉盛層の厚さも、例えば0.5〜5mm程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0026】さらに、肉盛層の形成に当たっては溶射法以外に、例えばPTA(Plasma Transfered Arc Welding,プラズマ粉体溶接)等のその他の方法で行うことも可能である。また、本発明は、上記した下ドラムやディスクロータ以外にも、例えばエンジンピストン等、表面の材質を基材とは異なる材料で構成することによって表面特性を向上し得る任意の部品の製造に適用することが可能である。
【0027】
【発明の効果】以上の説明のように、本発明の複合体の製造方法によれば、基材表面に肉盛層を形成した後の型鍛造時の成形が、肉盛層と基材との接合界面の面積が拡がるように、接合界面を挟んで基材と共に肉盛層にも接合界面に略平行な方向への材料流れを生じさせて行われる。これにより、この接合界面に介在している例えば酸化膜等は分断され、この分断箇所で、基材と肉盛層との各基地同志が直接密着して原子拡散を生じ得る状態となり、接合が強固になる。この結果、その後の仕上げ加工等で肉盛層の剥離が生じ難く、肉盛層の材質に起因する特性を基材表面に確実に保持した複合成形体をより安価に製造することが可能となる。
【出願人】 【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
【出願日】 平成7年(1995)11月9日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
【公開番号】 特開平9−136136
【公開日】 平成9年(1997)5月27日
【出願番号】 特願平7−291404