トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き




【発明の名称】 摩擦係合装置のバツキングプレートの製造法
【発明者】 【氏名】千葉 喜照

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 同心的にかつ相対回転自在に配置された2個の筒状部材と、前記筒状部材の何れか一方にそれぞれスプライン係合されてこれら筒状部材の軸方向に移動自在の2群の環状の摩擦係合板と、前記筒状部材の何れか一方にスプライン係合爪により係合されるとともにスナツプリングにより係止される環状のバツキングプレートと、前記筒状部材の何れか一方に支承されて前記2組の摩擦係合板を前記バツキングプレートに向けて押圧する押圧部材とからなる摩擦係合装置における前記バツキングプレートを製造するにあたり、厚さのほぼ一定な鋼板より、円形の内周縁および円形の外周縁を同心的に備えた、平面形状を環状とする素材板を打抜きにより形成する第1の工程と、前記第1の工程により得られた素材板の少なくとも前記環状をなす第1の面に、前記内周縁および外周縁の何れか一方の周縁に鍛圧加工を施して、少なくとも前記第1の面に前記素材板の半径方向の幅を前記スナツプリングによる係合に必要とされる幅とした凹部を凹設した薄肉部を形成する第2の工程と、前記第2の工程を施した素材板の前記薄肉部に剪断加工を施して、該薄肉部の自由縁に所定のスプライン係合爪を形成する第3の工程とよりなることを特徴とする、摩擦係合装置のバツキングプレートの製造法。
【請求項2】 前記第2の工程は、前記第1の工程を施した素材板の前記一方の周縁をパイロツト部材の円筒形周面に嵌装せしめ、素材板の前記第1の面の薄肉部形成部に環状の圧接面を形成した第1のパンチ部材を対応させ、素材板の前記第1の面の残余の部分は前記パンチ部材を案内する第1の押え部材の平坦面でかつ素材板の第2の面は第1のダイ部材の平坦面でそれぞれ挾持せしめ、前記第1のパンチ部材を前記第1のダイ部材に向け摺動せしめて前記素材板に鍛圧加工を施すことにより前記薄肉部を形成することを特徴とする請求項1に記載の摩擦係合装置のバツキングプレートの製造法。
【請求項3】 前記第3の工程は、前記第2の工程を施した素材板の前記第2の面にバツキングプレートの第2の面の最終形状と一致せしめた第2のパンチ部材を当接し、素材板の前記第1の面にバツキングプレートの第1の面の最終形状と一致せしめた第2の押え部材を当接することにより素材板を固定し、前記第2の押え部材に前記第2のダイ部材を摺動せしめて、該第2のダイ部材と前記第2のパンチ部材とにより、前記素材板の薄肉部にスプライン係合爪を剪断加工により形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摩擦係合装置のバツキングプレートの製造法。
【請求項4】 前記第1の工程において、円形の外周縁の半径方向外方に、前記バツキングプレートのスプライン係合爪とほぼ同一形状のスプライン係合爪成形部を所定位置に突設した素材板を打抜きにより形成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の摩擦係合装置のバツキングプレートの製造法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、湿式多板クラツチあるいは湿式多板ブレーキ等の摩擦係合板と油圧とにより作動されるピストンにより、クラツチ作用またはブレーキ作用を行なう摩擦係合装置において、前記ピストンの作動時に該ピストンと協同して前記摩擦係合板を係合せしめるバツキングプレートの製造方法に関し、特に車輌用自動変速装置におけるクラツチまたはブレーキ用のバツキングプレートの製造に好適な方法である。
【0002】
【従来の技術】車輌用自動変速装置における摩擦係合装置は、通常ピストンを内蔵したドラムまたはハウジングの筒状壁に、平面形状を環状とした第1の群の摩擦係合板を、その外周縁に突出せしめて形成したスプライン係合爪により前記筒状壁内周面にスプライン係合せしめるとともに、前記ドラムまたはハウジングの筒状壁の内部において前記筒状壁と同心的に相対回転可能に配設された筒状部材に、平面形状を環状とした第2の群の摩擦係合板を、その内周縁に突出せしめて形成したスプライン係合爪により前記筒状部材外周面にスプライン係合せしめ、前記ピストンの作動により前記第1の群および第2の群の摩擦係合板を前記スプライン係合を介して軸方向に移動させて相対的に摩擦係合せしめることにより、前記ドラムまたはハウジングと筒状部材との間のクラツチ作用またはブレーキ作用を行なわせたものである。
【0003】前記摩擦係合装置においては、通常前記ドラムまたはハウジングの筒状壁または筒状部材の何れか一方に、前記ピストンによる摩擦係合板の押圧力を受けて摩擦係合を達成するためのバツキングプレートを必須とする。このバツキングプレートは、鋼材により、前記第1の群または第2の群の摩擦係合板とほぼ同一の平面形状に形成され、そのスプライン係合爪により前記筒状壁または筒状部材に摺動自在に係合され、かつ前記摩擦係合板に接触する面と反対側の面において、前記筒状壁の内周面または筒状部材の外周面に刻設された周溝に嵌装係止せしめたスナツプリングにより、前記ピストンの押圧力に抗してその位置に係止される。前記バツキングプレートは、その摩擦係合板に接する面においては、前記ピストンにより摩擦係合板に加えられる押圧力と、該摩擦係合板による摩擦を受けるので、一定以上の表面硬さが要求される。なお前記バツキングプレートの摩擦係合板に接触する面と反対側の面は、前記スプライン爪を突設した側の周縁部に段部を介して他側の周縁部より肉薄の係合部を環状に形成し、該係合部を前記スナツプリングに係止せしめることにより、摩擦係合装置の軸方向長さを短縮せしめるのが通例である。
【0004】これを図10および図11により示す。図10には、車輌用自動変速装置におけるギヤトレインの一部をなす遊星歯車機構70のリングギヤ71を第1の軸61に係脱自在とする湿式多板クラツチの形式の摩擦係合装置60が示されている。この摩擦係合装置60は、前記第1の軸61と一体に形成されたドラム62の内部に該ドラム62の筒状壁63に外周を摺動自在として収容されたピストン64と、平面形状を環状とし外周縁に突出せしめて形成したスプライン係合爪により前記筒状壁63の内周面にスプライン係合せしめられて前記第1の軸61の軸方向に摺動自在とされた複数個の第1の群の摩擦係合板65,65と、前記遊星歯車機構70のリングギヤ71の支承部材72に固定されて前記ドラム62の内部においてその筒状壁63と同心的に位置せしめられる筒状部材73と、該筒状部材73の外周面にスプライン係合せしめられて前記第1の軸61の軸方向に摺動自在とされた複数個の第2の群の摩擦係合板66,66と、平面形状を前記第1の群の摩擦係合部材とほぼ同一寸法、同一形状とされ前記ドラム62の内部において前記筒状壁63の内周面にスプライン係合せしめられるバツキングプレート10と、前記筒状壁63の内周面に刻設された周溝に嵌装係止せしめたスナツプリング67とからなる。
【0005】前記バツキングプレート10は、スナツプリング67に当接する第1の面11のドラム62の筒状壁63の内周面にスプライン係合せしめられる周縁には、前記バツキングプレート10の半径方向の幅を少なくとも前記スナツプリング67による係止に必要とされる幅とした凹部12が凹設されるのを通例とし、この凹部12の形成により薄肉部13とされた周縁部の自由端縁にはスプライン係合爪14が形成され、前記筒状壁63の軸方向に摺動自在とされる。摩擦係合装置60の作動時には第1および第2の群の摩擦係合板65,66はピストン64によつてバツキングプレート10に向つて押圧され、摩擦係合板65,66どうしの間の摩擦および摩擦係合板65,66のうちの1枚とバツキングプレート10と第2の面15との間の摩擦とにより筒状壁63と支承部材52とが一体的に連結されるに至る。図10において摩擦係合装置60をリングギヤ71を制動する湿式多板式ブレーキに構成するときには、第1の群の摩擦係合板65は、ドラム62の筒状壁63の内周面にスプライン係合されるのに代えて、車輌用自動変速装置のハウジングに形成された筒状壁の内周面にスプライン係合される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来の摩擦係合装置60においてバツキングプレート10に薄肉部13を形成する場合には、環状に打ち抜いたバツキングプレート10の素材板の周縁に沿つて切削加工を施して凹部12を形成することにより薄肉部13を形成していた。ところでバツキングプレート10は摩擦係合装置60の係脱時に、その第2の面15には前記摩擦係合板65,66による摩擦とピストン64による押圧力を前記第2の面15に受けるので、素材板として所定の表面硬さを有することが求められるが、バツキングプレート10には摩擦係合板65,66より伝達される回転力をドラム62とのスプライン係合により制止する機能が必要であるところから、図11から明らかなようにバツキングプレート10のスプライン係止爪14はドラム62の内周面に形成されたスプライン溝の側面に強く当接せしめられる。そこで従来は、バツキングプレート10のスプライン係合爪に求められる強度より強度の低い鋼板よりバツキングプレート10の平面形状と同一形状の素材板をプレス加工により打ち抜いた素材板を熱処理して所望の表面硬さのものとし、その後前記素材板を切削加工により前記凹部12を切削することにより薄肉部13を形成していたが、熱処理および切削加工の組合せは加工時間が長いうえ、素材板の搬送を複雑にして量産性を損ない、また製品であるバツキングプレートの加工精度の向上に難点があつた。そこで本発明は、機械加工工程の組合せによりスプライン係合爪の表面硬さを残余の部分の表面硬さより大とした摩擦係合装置のバツキングプレートの製造法を提供することを課題とする。
【0007】本発明は摩擦係合装置のバツキングプレートを製造するにあたり、鋼板の打ち抜き加工による素材板の形成、素材板への鍛圧加工による薄肉部の成形および素材板の剪断加工による最終成形の結合によつて、上記課題を解決しようとするものであつて、厚さのほぼ一定な鋼板より円形の内周縁および円形の外周縁を同心的に備える平面形状を環状とした素材板を打ち抜き加工により形成する第1の工程と、前記第1の工程により得られた素材板の少なくとも前記環状をなす第1の面の、前記内周縁および外周縁の何れか一方の周縁に、前記素材板の半径方向の幅をスナツプリングによる係合に必要とされる幅とした凹部を前記周縁に沿つて鍛圧加工により形成し、前記周縁に環状の薄肉部を形成する第2の工程と、前記第2の工程を施した素材板の前記薄肉部に、該薄肉部の自由端に所定のスプライン係合爪を剪断加工により形成する第3の工程とよりなることを特徴とするバツキングプレートの製造法に係る。
【0008】
【実施例】以下に、摩擦係合装置のスナツプリングにより係止される第1の面を図5に平面図で示し、図5の線VI−VIに沿う断面図を図6に示したバツキングプレート10の製造法の一実施例を、図1ないし図3により説明する。図5および図6に示すバツキングプレート10は、その第1の面11の外周縁に沿つて凹部12により形成された薄肉部13と、該薄肉部13の外周の自由縁に放射方向にスプライン係合爪14の8個とを形成したものである。上記バツキングプレート10を成形製造するにあたり、摩擦係合装置の摩擦係合板との摩擦摺動に耐える表面硬度を有する鋼板を準備し、第1の工程として、厚さほぼ一定の前記鋼板より、図1に示すように円形の内周縁21および外周縁22を同心的に備えた平面形状を環状とする素材板20を打抜き加工により成形する。
【0009】次に、第1の工程で得られた素材板20を鍛圧加工装置30に移す。図2に示す鍛圧加工装置30は、前記素材板20の内周縁21に嵌着される円筒形の外周面32を有する第1のパイロツト部材31と、該パイロツト部材31の円筒形の外周面32に嵌合する内周面と前記パイロツト部材31の外周面32に垂直な平面とされた第1の型面34とを有する第1のダイ部材33と、前記した形成しようとする凹部12の内径に等しい内径とされた円筒状内周面36および前記パイロツト部材31の外周面32に垂直な平面とされた成形型面37とを有する第1のパンチ部材35と、前記パイロツト部材31の外周面32および第1のパンチ部材35の内周面にそれぞれ嵌合される円筒形の内外周面と、前記パイロツト部材31の外周面に垂直な平面とされた第2の型面39とを有する第1の押え部材38とを備える。第2の工程においては、前記素材板20はその内周縁21を前記第1のパイロツト部材31の外周面32に嵌装され、その一面24(第2の面という)を前記第1のダイ部材33の第1の型面34上に当接せしめられて装着され、押え部材38によりその他面23(第1の面という)の内周縁21がわを押え部材38の第2の型面39により前記第1のダイ部材33に向けて圧接された状態で保持される。この状態において第1のパンチ部材35を素材板20に向けて作動せしめ鍛圧加工を施す。この鍛圧加工の結果、素材板20の第1の面23の外周部には、第1のパンチ部材35の内周面36および成形型面37とによる凹部12が形成されて素材板20の外周縁に沿つた部分は薄肉部13に成形され、かつこの第1のパンチ部材35による鍛圧加工により、その成形型面37によつて凹部12を形成された薄肉部13の表面硬さは、素材板20の残余の部分の表面硬さに比して向上せしめられる。なお前記素材板20の第2の表面24は第1のパンチ部材35の型面34により平坦に保持される。
【0010】さらに前記第2の工程において凹部12を鍛圧加工した素材板20を剪断加工装置40に移す。図3に示す剪断加工装置40は、前記素材板20の内周縁21に嵌着される円筒形の外周面42を有する第2のパイロツト部材41と、該パイロツト部材41の前記外周面42に嵌合する内周面と前記パイロツト部材41の外周面42に垂直な平面とされた第3の型面44および後述する形状の外周面45を備えた第2のダイ部材43と、前記パイロツト部材41の外周面42に嵌合する内周面47と前記第2のパイロツト部材41の外周面42に垂直に延在し、前記素材板20の薄肉部13の表面を含む前記素材板20の第1の面23に衝合する段部を有する第4の型面48および後述する外周面49とを有する第2の押え部材46と、前記第2のダイ部材43の外周面45と第2の押え部材46の外周面49に係合してこれら外周面に対し摺動可能な内周面51と前記第2のパイロツト部材41の外周面42にほぼ垂直に延在する刃型面52とを有する第2のパンチ部材50、ならびに前記第2のダイ部材43の外周面に摺動自在に係合する内周面54と前記第2のパイロツト部材41の外周面42に垂直な平面内に延在する第5の型面55とを有する払い板53とより成る。
【0011】前記第2のダイ部材43の外周面45および第2の押え部材46の外周面49は、ともに前記第2のパイロツト部材41の外周面42に垂直な面内において成形製造しようとするバツキングプレート10の平面形状における外周縁の形状と同一の断面形状とされ、本実施例においては、図5に示すように円形の外周縁に8個のスプライン係合爪14を半径方向に突設せしめた外周形状の筒状面に形成される。そして前記第2のダイ部材43の外周面45および/または第2の押え部材46の外周面49に嵌合される第2のパンチ部材50の内周面51および払い板53の内周面54の前記パイロツト部材41の外周面42に垂直な面内における断面形状は、前記外周面45,49に密に係合する形状とされる。第3の工程においては、前記第2の工程を施された素材板20の第2の面24を前記第2のダイ部材43の第3の型面44に、素材板20の第1の面23を第2の押え部材46の第4の型面48とにそれぞれ衝合せしめて押圧挾持させ、第2のパンチ部材50を前記第2の押え部材46の外周面49から第2のダイ部材43の外周面45に沿つて摺動させ、前記素材板20の外周縁に剪断加工を施す。これにより、外周縁がわの第1の面11に形成した凹部12により薄肉部13が形成され、第2の面15は平坦面とされた、図5および図6に示すバツキングプレート10を成形製造することができ、スプライン係合爪14を形成した薄肉部13の表面硬さはバツキングプレート10の内周縁がわよりも大とされる。なお、前記第3の工程の剪断加工の工程において第2のパンチ部材50による剪断に先立ち、払い板53を素材板20の第2の面24に当接せしめておき、第2のパンチ部材50とともに摺動せしめて剪断加工を施すことにより、素材板20の外周縁剪断面のダレを小さく抑えることができ、得られるバツキングプレート10の外周縁部の形状を良好とする。
【0012】また、本発明の第3の工程に、フアインブランキング法による剪断加工を施す実施例を図4に示す。図4に示す剪断加工装置40aは図3に示す剪断加工装置40と対比すると、第2のパイロツト部材41、第2のダイ部材43および第2の押え部材46の構成は同一であり、第2のパンチ部材50はその位置と剪断加工のための移動方向は異なるが機能は同一であるため、図4では前記各部材41,43,46,50の各部分は、図3における同一部分に付したと同一符号により説明する。図4において符号56はフアインブランキング法に採用される払い部材であり、その内周面57は第2の押え部材46の外周面49に摺動自在に係合し、その型面58(以下第6の型面という)は第2のパイロツト部材43の外周面に垂直な平面内に延在するとともに、前記第6の型面58には、前記内周面57に近接した位置に該内周面57と同心的に、頂点を突縁とする断面三角形のノツチ59が、前記頂点を第2のパンチ部材50の刃型面52に指向せしめられて、突出せしめられ、一体に形成されている。図4に示す剪断加工においては、素材板20の第2の面24に第2のパンチ部材50の刃型面52を当接させた状態で、先ず押え部材56の第6の型面58を素材板20の第1の面23に押圧せしめ、第6の型面58に突設したノツチ59を素材板20の第1の面23にくい込ませ、この状態を維持しつつ第2のパンチ部材50を押え部材56の方向に摺動させて、素材板20の外周縁部の剪断加工を行う。この剪断加工によるときは、素材板20の外周縁部は前記ノツチ59のくい込みにより押え部材56の第6の型面58と第2のパンチ部材50の刃型面52との間に挾圧堅持されて剪断されるから、得られるバツキングプレート10のスプライン係合爪14を有する周縁部は鋼材の剪断面となり、破断面は殆ど出現しない。従つてバツキングプレート10の周端面に剪断加工硬化が現われ、特にスプライン係合爪14の係合部の表面硬さを向上させることができる。
【0013】本発明における他の実施例として、前記第1の工程における鋼板から素材板20を打抜きにより成形するにあたり、円形の外周縁の所定位置に前記外周縁の半径方向外方に突出せしめて、成形しようとするスプライン係合爪とほぼ同一形状の係合爪成形部を突設形成した素材板、即ち外周縁の寸法形状を、円形外周縁の所定位置にスプライン係合爪を一体に突出形成せしめた製造対象であるバツキングプレートの外周縁の寸法形状とほぼ同一とした素材板を成形し、この素材板に第2の工程および第3の工程を順次施すことにより、バツキングプレートを製造することができる。この実施例においては、前記第2の工程における鍛圧加工にあたり、素材板の鍛圧加工を施すべき部分の面積が前述した実施例に比して小とすることができるため、より小さな加工力で鍛圧加工を施すことができる。さらにこの実施例においては、第3の工程において剪断加工を施す際には、前記第2の工程において薄肉部13が形成された結果として前記素材板の外周縁に沿い拡大された自由端縁部分を剪断加工により成形するのみであるから、剪断加工による取りしろが前述の実施例に比して少なくなり、前記素材板の外周縁剪断面のダレを小さく抑えることができる。
【0014】以下に本発明の打抜き加工と鍛圧加工との結合による鋼材の表面硬さの向上効果を実験例によつて示す。本実験にあたつて、厚さ4.2mmの鋼板(新日本製鉄 SAPH440)を用意し、この鋼板より外径をほぼ118.3mm、内径をほぼ104.3mmとする環状の素材板を、本発明の第1工程により成形し、その素材板の両面の表面硬さを、半径が1mm異なる点において測定した。測定結果を図7に示す。図7の(a)は素材板の一半径に沿う断面を示し、得られるバツキングプレートの第1の面となる素材板20の第1の面23における測定点を白の三角印、素材板20の第2の面24における測定点を黒の三角印で示し、これら三角印に付した数字符号は図7の(b)の図表において同一の数字符号を付した線と対応する。また図7の(b)に示す図表中丸印で示した測定値は素材板の第1の面23における各測定点の測定値を示し、黒の角印で示した測定値は前記第2の面24における各測定点の測定値を示す(以下図8および図9も同様とする)。図7の(b)から明らかなように素材板の表面硬さは第1の面23においても、第2の面24においてもほぼ180〜190Hvであつた。
【0015】次に前記図7の(a)に示す素材板20に、本発明の第2の工程による鍛圧加工を施した。この鍛圧加工は素材板20の半径においてほぼ110mmより外周がわに施して、素材板20の第1の面23より1mmだけ第1のパンチ部材35の成形型面37を素材板に圧入せしめた。鍛圧条件は600トン単発プレス機を用い、加工速度は17SPM(サイクル/分)での1サイクルを、室温において行つた。図8の(a)は、素材板の一半径に沿う断面により、鍛圧加工後の素材板の断面形状を示している。測定結果は図8の(b)に示すように、第1のパンチ部材35による鍛圧加工を受けない部分の測定点(数字符号1〜5に相当する部分)における測定値は、図7の(b)の該当部分とほとんど差異はないが、鍛圧加工を受けた部分においては、第1の面23および第2の面24上の各測定点において表面硬さはほぼ200Hvから225Hvにまで増大し、表面硬さの向上を示している。この素材板は、半径がほぼ118mmの付近(測定点13と14との間)をスプライン係合爪14の最大半径部とするように、第3の工程で剪断加工される。なお図8において素材板の第1の面23における測定点6,7における表面硬さは、測定点5,6間に形成された段部の影響と測定器具の形状との関連で、測定不能であつたので、図8の(b)においては、測定点5,8間の第1の表面23の表面硬さを破線で接続して示した。
【0016】さらに前記鋼板から、本発明の第1の工程により、図7の(a)に示す素材板と同一寸法の素材板20を打抜き加工により成形し、該素材板20の半径においてほぼ110mmより外周がわを、該素材板20の第1の面23より1mmだけ第1のパンチ部材35の成形型面37を素材板20に圧入せしめて薄肉部を形成した。この素材板20に直ちに本発明の第3の工程による剪断加工を施し、半径がほぼ118mmの付近をスプライン係止爪14の最大半径部とするように素材板20の外周縁22を成形した。加工方法は、第2の工程においては、110トン単発プレス機を用い加工速度を17SPMでの1サイクルの鍛圧加工を施し、第3の工程においては600トン単発プレス機を用い加工速度を60SPMで剪断した。何れの加工も室温で行つた。剪断加工を施した素材板20一半径に沿う断面を図9の(a)に示す。表面硬さの測定結果は図9の(b)に示すとおりであつて、素材板20の鍛圧を受けた部分における表面硬さは200〜225Hvであり、鋼板の表面硬さ180〜190Hvより著しく向上した。なお図9において素材板20の第1の面23における測定点6,7の表面硬さは、測定点5,6間に形成された段部の影響と測定器具の形状との関連で測定不能であつたので、図9の(b)においては測定点5,8間の第1の面23における表面硬さを破線で接続した。
【0017】上記実験例では、第3の工程における鍛圧加工条件として、単発プレス機を用いた1サイクル鍛圧加工を室温で行なうこととしたが、鍛圧加工条件はこれに限るものでなく、複数サイクルの鍛圧加工であつてもよい。また図8および図9に示す鍛圧加工結果から明らかなように、第1のパンチ部材35により鍛圧加工を施して凹部12を形成した薄肉部13においては、凹部12を形成したバツキングプレート10の第1の面11となる素材板20の第1の面23のみならず第2の面15となる素材板20の第2の面24にもほぼ同様の表面硬さの増大が認められるところから、本発明の第2の工程において、前記素材板20の第1の面23に薄肉部13を形成すると同時に前記素材板20の第1の面23のその余の部分にも若干の鍛圧加工を施すことにより、所望の表面硬さより硬さの低い鋼板の素材板を用いて、第2の面24に所望の表面硬さ以上の硬さを有するバツキングプレートを得ることもできる。なお前記本発明の実施例においては、図3および図4とともに説明した第3の工程においては、素材板にスプライン係合爪を形成すべき周縁(本実施例においては外周縁)に剪断加工を施すことのみを説明したが、バツキングプレートの寸法精度を得るために素材板の他側の周縁(内周縁)の剪断加工を追加しても差支えないことは勿論である。
【0018】
【発明の作用および効果】本発明によれば、第1の工程において鋼板より打抜き加工により環状の素材板を成形し、次いで第2の工程により前記素材板の少なくとも環状をなす第1の面のスプライン係合爪を形成すべき側の周縁に沿わせて鍛圧加工により凹部を形成することにより、該周縁部分に所定の肉厚を有する環状の薄肉部を形成するとともに、該薄肉部の表面硬さを前記鋼板の表面硬さより増大させ、さらに第3の工程により前記薄肉部の自由縁に剪断加工によりスプライン係合爪を形成することによりバツキングプレートを製造するから、少なくともスプライン係合爪の部分の表面硬さが、摩擦係合板と摺動せしめられるバツキングプレートの第2の面の主要部より大とし、かつスプライン係合爪の部分の精度が良好なバツキングプレートを製造することができる。そして本発明は、第1の工程として鋼板より素材板の打抜き加工、第2の工程として前記素材板の鍛圧加工、第3の工程として前記素材板の剪断加工の結合であつて、これらの各工程はすべて機械により加工する工程であるから、得られるバツキングプレートの寸法精度を良好にするとともに、素材板の搬送を容易として搬送工程全般を簡易なものとすることができる。また、前記各工程はすべてプレス加工またはこれに類似する機械加工で行うことができるので、加工時間を短くでき、量産性に優れる。
【0019】さらに本発明においては、第3の工程である剪断工程においてフアインブランキング法を採用すれば、剪断加工時にスプライン係合爪の端縁部の鋼材に破断面を生ずることなく殆どを剪断面とすることができ、これにより剪断加工に基く硬度の向上を図ることができる。本発明によつて得られるバツキングプレートは、スプライン係合爪を形成する周縁部を鍛圧加工により形成された薄肉部として該薄肉部の表面硬さをバツキングプレートの残余の部分の表面硬さより向上せしめてあるので、スプライン係合爪か摩擦係合装置の筒状部材のスプラインと摺動、圧接または衝突の繰返しに際して十分な耐久力を有するものとすることができる。
【出願人】 【識別番号】594079143
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ工業株式会社
【出願日】 平成7年(1995)9月11日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 昌明
【公開番号】 特開平9−76043
【公開日】 平成9年(1997)3月25日
【出願番号】 特願平7−257249