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【発明の名称】 溝加工方法および溝加工装置
【発明者】 【氏名】浅見 政義

【目的】
【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 互に対向する一対のボール保持部材によって工具軸のテーパー部に保持されたボールを被加工物の表面に押しつけて溝加工を行なう溝加工方法であって、それぞれ前記一対のボール保持部材に設けられた径方向の保持溝と軸方向の湾曲面によって前記工具軸に対する前記ボールの位置ずれと脱落を防ぐことを特徴とする溝加工方法。
【請求項2】 軸方向の湾曲面の替わりに軸方向の傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1記載の溝加工方法。
【請求項3】 一対のボール保持部材を工具軸に沿って変位させることで溝加工の深さを調節することを特徴とする請求項1または2記載の溝加工方法。
【請求項4】 テーパー部を有する工具軸と、互に対向する一対のボール保持部材によって前記工具軸の前記テーパー部に保持されたボールを有し、前記一対のボール保持部材が、径方向にのびる保持溝と軸方向に湾曲する湾曲面をそれぞれ備えており、これらによって前記ボールを前記工具軸の前記テーパー部に拘束するように構成されていることを特徴とする溝加工装置。
【請求項5】 湾曲面の替わりに軸方向に傾斜する傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項4記載の溝加工装置。
【請求項6】 各ボール保持部材を工具軸に沿って変位させるための変位手段が設けられていることを特徴とする請求項4または5記載の溝加工装置。
【請求項7】 保持溝が円筒状の保持面を有することを特徴とする請求項4ないし6いずれか1項記載の溝加工装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ねじポンプ作用によって軸受間隙の流体に動圧を発生させる動圧軸受の動圧発生溝等を加工するための溝加工方法および溝加工装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ねじポンプ作用によって軸受間隙の流体に動圧を発生させる動圧軸受は、互に回転自在に嵌合する軸受シャフトと軸受スリーブのうちの少なくとも一方にヘリングボーン溝等のら旋状の動圧発生溝を必要とする。従来、このような動圧発生溝を軸受シャフトまたは軸受スリーブに加工する方法としてはエッチングによる溝加工が一般的であった。ところがエッチング処理はエッチング液の濃度や性能劣化等によって加工精度が大きく左右されるうえに、全体的に工程数が多くて加工に必要な時間も長く従って生産性が低い。
【0003】このために近年では、特に小径の動圧軸受を製造する際には、軸受シャフトまたは軸受スリーブの表面にボールを押しつけて塑性加工することによって動圧発生溝を形成する方法が広く用いられている。例えば、図4に示すように、軸受スリーブW0 より硬質のボール131を工具軸103に保持させ、ボール103を軸受スリーブW0 の内面に押しつけて表面層を塑性加工し、ボール103の形状を転写しながら工具軸103を回転させこれと同時に軸方向の送りを行なうものであり、回転速度と軸方向の送り速度を変化させることで様々な形状のら旋溝を形成することができる。
【0004】図5に示すように工具軸103はその先端に中空の管状部分103aを有し、該管状部分103aに設けられたボール保持孔103bに各ボール131が保持される。各ボール131は、工具軸103の管状部分103aに挿入されたテーパーピン132に当接され、テーパーピン132はそのネジ部132aを工具軸103の管状部分103aのねじ部103cに螺合させることによって工具軸103に結合され、工具軸103に対してテーパーピン132を回転させることでこれを軸方向に進退させることができる。
【0005】軸受スリーブW0 に形成される動圧発生溝Waの深さは、テーパーピン132を回転させてこれを工具軸132の軸方向へ移動させ、各ボール131の突出量を変えることによって調節される。このように加工する動圧発生溝Waの深さに合わせて各ボール131の突出量を調節したうえで、公知の接着法やはんだ付け等によってテーパーピン132を工具軸103に固定する。なお、工具軸103の管状部分103aの外表面には各ボール131がボール保持孔103bから抜け落ちるのを防ぐための弾性リング133が装着される(特開昭61−162235号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の技術によれば、ボールが工具軸のボール保持孔に遊合し、弾性リングによってテーパーピンの表面に弾力的に押圧されているだけであるから、動圧発生溝を加工中にボールが工具軸の軸方向あるいは周方向へ動くのを回避できず、従って充分な溝加工精度を得ることが難しい。加えて、ボールが弾性リングによって押さえられているため、ボールを転動させながら溝加工を行ないたいときにはボールがスムーズに転動せず、動圧発生溝等の加工面に局部的なバリやムシレを発生する等の不都合がある。
【0007】本発明は、上記従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであって、動圧軸受の軸受スリーブ等にボールを押しつけて動圧発生溝等を溝加工するに際して、ボールを保持する工具軸上でボールが軸方向や周方向にずれたり、あるいは脱落するのを防ぎ、充分な溝加工精度を得ることができるうえに、ボールを転動させながら加工したいときにはこれをスムーズに転動させることのできる溝加工方法および溝加工装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の溝加工方法は、互に対向する一対のボール保持部材によって工具軸のテーパー部に保持されたボールを被加工物の表面に押しつけて溝加工を行なう溝加工方法であって、それぞれ前記一対のボール保持部材に設けられた径方向の保持溝と軸方向の湾曲面によって前記工具軸に対する前記ボールの位置ずれと脱落を防ぐことを特徴とする。
【0009】軸方向の湾曲面の替わりに軸方向の傾斜面が設けられていてもよい。
【0010】一対のボール保持部材を工具軸に沿って変位させることで溝加工の深さを調節するとよい。
【0011】本発明の溝加工装置は、テーパー部を有する工具軸と、互に対向する一対のボール保持部材によって前記工具軸の前記テーパー部に保持されたボールを有し、前記一対のボール保持部材が、径方向にのびる保持溝と軸方向に湾曲する湾曲面をそれぞれ備えており、これらによって前記ボールを前記工具軸の前記テーパー部に拘束するように構成されていることを特徴とする。
【0012】保持溝が円筒状の保持面を有するとよい。
【0013】
【作用】一対のボール保持部材を工具軸に沿って変位させることでボールの突出量を変化させて溝加工の深さを調節できる。両ボール保持部材は、径方向にのびる保持溝にボールを係合させてその周方向の位置ずれを防ぐとともに、該保持溝と軸方向の湾曲面または傾斜面によってボールを拘束することで両ボール保持部材の間からボールが脱落するのを防ぐ。工具軸のテーパー部に保持されたボールが位置ずれを発生したり脱落するおそれがないため、高精度の溝加工を安定して行なうことができる。
【0014】ボールを転動させながら溝加工を行ないたいときには、両ボール保持部材の間をわずかに拡げれば、両者の間でボールをスムーズに回転させることができる。
【0015】このような、溝加工方法および溝加工装置を用いることで、動圧軸受の動圧発生溝を高精度で加工し、高性能な動圧軸受を製造できる。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】図1は一実施例による溝加工装置を示すもので、これは、加工台1に支持されたワークチャック2と、先端に複数のボール31を保持する工具軸3と、該工具軸3を回転自在に支持する軸受4と、工具軸3を回転させる回転駆動機構5と、軸受4とともに垂直方向に往復移動自在であるZスライダ6と、Zスライダ6を垂直方向に移動させるZ駆動機構7を有し、回転駆動機構5は回転駆動モータ5aと、その駆動を工具軸3に伝達するカップリング5bおよび回転軸5cからなり、Z駆動機構7は、Z駆動モータ7aと、その駆動をZスライダ6に伝達するカップリング7bおよび回転軸7cからなる。
【0018】回転駆動機構5とZ駆動機構7はほぼ同時に駆動され、ワークチャック2に保持された被加工物である軸受スリーブW1 に対して工具軸3を垂直に下降させながら回転させて、ボール31を軸受スリーブW1 の内面に押しつけてボール31の形状を転写し、ヘリングボーン溝等の動圧発生溝を形成する。
【0019】図2に示すように、工具軸3はその先端にテーパー部3aを有し、各ボール31は工具軸3のテーパー部3aに当接され、該テーパー部3a上にボール保持ユニット40によって保持される。ボール保持ユニット40は、工具軸3のテーパー部3aの一端に設けられた第1のねじ部3bに螺合する変位手段であるねじ部を有する第1のボール保持部材41と、工具軸3のテーパー部3aの他端に設けられた第2のねじ部3cに螺合する変位手段であるねじ部を有する第2のボール保持部材42を有する。
【0020】第1、第2のボール保持部材41,42の端面には各ボール31にその両側から当接されてこれを拘束するボール保持部41a、42aが形成されており、第1のボール保持部材41のボール保持部41aは、図3の(a),(b)に示すように、それぞれ断面が円筒状で径方向にのびる保持面を有する複数の保持溝であり、該保持溝の内径はボール31の球状面の曲率半径よりわずかに大である。第2のボール保持部材42のボール保持部42aは、図3の(c)、(d)に示すように、ボール保持部材42の軸方向に球面状に湾曲する湾曲面であり、その曲率半径は、ボール31の球状表面の曲率半径よりわずかに大きくボール31に当接されたときにこれに面接触するように構成される。
【0021】すなわち、各ボール31はボール保持ユニット40の両ボール保持部材41,42に挟持されて工具軸3のテーパー部3aの表面に保持される。第1のボール保持部材41は径方向の保持溝によって各ボール31の周方向の位置ずれを防ぎ、第2のボール保持部材42は軸方向の湾曲面によって各ボール31の脱落を防止する。また、両ボール保持部材41,42は各ボール31を工具軸3の軸方向に挟持するものであるため、加工中にボール31が軸方向に位置ずれを起すおそれもない。
【0022】ボール31を押しつけて加工される動圧発生溝の深さはボール31の突出量を変えることによって調節される。これは第1、第2のボール保持部材41,42を工具軸3に対して回転させ、ねじ部3b,3cの軸方向の送りによって両ボール保持部材41,42を軸方向へ移動させ、両者によって挟持されたボール31を工具軸3のテーパー部3a上で軸方向に変位させることによって行なわれる。ボール31の突出量を調節したうえで各ボール保持部材41,42を接着あるいははんだ付け等の公知の方法で工具軸3に固着する。
【0023】前述のように、動圧発生溝の加工中は、ボール31が工具軸3から脱落したりその軸方向や周方向に変位する等のトラブルを発生することなく、安定した高精度の溝加工を行なうことができる。
【0024】また、ボール31を転動させながら溝加工したいときは、両ボール保持部材41,42の間隔を拡げて、両者の間に各ボール31を強固に挟持する状態から各ボール31が転動できる状態に緩めればよい。
【0025】さらに、各ボール保持部材41,42のボール保持部41a,42aの形状は単純であるから、一般的な旋盤やスライス盤を用いた端面加工を採用することができる、従って、その精度出しが容易であり、溝加工装置が高価になるおそれもない。
【0026】なお、第2のボール保持部材42のボール保持部42aを球面状の湾曲面にする替わりに、単にテーパー状に傾斜させた傾斜面を用いてもよい。この場合には、ボール31と第2のボール保持部材42のボール保持部42aの間が点接触となるため、ボール保持部42aに大きな応力が発生し、その結果、第2のボール保持部材42が変形したり耐久性が損なわれるおそれがあるが、第2のボール保持部材42のボール保持部42aの加工が簡単になるという利点を有する。
【0027】
【発明の効果】本発明は上述のとおり構成されているので、次に記載するような効果を奏する。
【0028】動圧軸受の軸受スリーブ等にボールを押しつけて動圧発生溝等を溝加工するに際して、ボールを保持する工具軸上でボールが軸方向や周方向にガタついたりあるいは脱落するのを防ぎ、極めて高精度の溝加工を安定して行なうことができる。また、ボールをスムーズに転動させながら溝加工を行なうことも自在である。
【0029】このような溝加工方法および溝加工装置を用いることで、動圧軸受の軸受スリーブ等の動圧発生溝を高精度で加工し、高性能な動圧軸受を得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【出願日】 平成7年(1995)9月8日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 善朗
【公開番号】 特開平9−70639
【公開日】 平成9年(1997)3月18日
【出願番号】 特願平7−256973