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【発明の名称】 NiTi系合金の細線化方法
【発明者】 【氏名】松尾 明

【氏名】伊東 祐爾

【氏名】後藤 整勇

【目的】 NiTi系の超弾性および形状記憶合金線材を線引加工に際して、線引ダイスの消耗をよりおさえ、しかも、細線の断線をなくす。
【構成】 Ni50〜60重量%を含有し、残部がTiを主成分とするNiTi系超弾性および形状記憶合金線材のダイスまたはロールによる細線加工方法において、前記NiTi系合金線材表面を非撥水化処理したのち、潤滑剤を塗布・乾燥・加熱して線引加工を施す。線材の表面に酸化被膜を形成して非撥水化させ、潤滑剤として黒鉛を含有する水性の潤滑剤を満遍なく塗布することができることによって、線材表面に満遍なく黒鉛が強固に付着し、ダイス線引後、線材表面に複合被膜が形成され、摩擦力が低下し、その結果、ダイス寿命が長くなり、また、断線発生率を低くすることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 Ni54.0〜56.5重量%を含有し、残部がTiを主成分とするNiTi系超弾性および形状記憶合金線材のダイス又はロールによる細線加工方法において、前記NiTi系合金線材表面を非撥水化処理したのち、潤滑剤を塗布・乾燥・加熱して細線加工を施すことを特徴とするNiTi系合金の細線化方法。
【請求項2】 NiTi系合金線材表面の非撥水化処理が、化学的腐食処理、または酸化処理であることを特徴とする請求項1記載のNiTi系合金の細線化方法。
【請求項3】 NiTi系合金線材表面の非撥水化処理を、ダイス又はロールによる細線加工前の段階で材料の表面を酸化させて以後の工程でその酸化膜を残存させておいて行うことを特徴とする請求項2記載のNiTi系合金の細線化方法。
【請求項4】 潤滑剤が、黒鉛を含有する水性の潤滑剤であることを特徴とする請求項1記載のNiTi系合金の細線化方法。
【請求項5】 線材表面を線材基材の酸化物と黒鉛との複合被膜で被覆して細線加工を行うことを特徴とする請求項1記載のNiTi系合金の細線化方法。
【請求項6】 ダイス又はロールによる細線加工が、潤滑剤の塗布、乾燥、加熱、細線加工の工程の繰り返しにより順次線材の大きさを小さくすることを特徴とする請求項1記載のNiTi系合金の細線化方法。
【請求項7】 ダイス又はロールによる細線加工に際しての潤滑剤の塗布、乾燥、加熱、細線加工の工程が、焼鈍工程を途中に含むことを特徴とする請求項5記載のNiTi系合金の細線化方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、NiTi系合金の超弾性および形状記憶合金線材をインゴットからダイス又はロールを用いて細線加工する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】NiTi系合金は、形状記憶効果、超弾性挙動および防振効果などの種々の機能を有し、特開平3−82728号公報、特開平4−41640号公報等に記載されているように種々の用途に用いられている。
【0003】このNiTi系合金線の細線化は、インゴットを熱間ロール加工によって線材とし、さらにダイスにより細引又はロールにより圧延することにより製造される。
【0004】この細線化に当たっては種々の問題があり、これをダイスによる線引の場合を例にとって説明する。
【0005】NiTi系合金は活性金属Tiを含むためダイスと反応してダイスに焼付き、そのため、ダイス寿命が短く、また線材は加工硬化しやすいため線引の際に断線しやすい。このため、このNiTi系合金線の製造に際しては、中間焼鈍工程を多段階に行う必要があり、工程が複雑となり、また1回の線引に際しての断面減少率を大きくとることができず、製造効率が低くなるという欠点があった。
【0006】特公昭60−9865号公報には、このNiTi系合金線の製造の欠点を解消するための方策として、ダイスによる伸線に先立っての加熱工程で線材表面に酸化被膜を形成し、さらには乾式あるいは油性潤滑剤と併用することが開示されている。そして、この線材表面での0.03μm〜3μmの厚みの酸化被膜の存在によって、伸線時の線材の切断事故、表面性状の変動を低減でき、さらには、ダイスの寿命を延長できる効果があるとしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、NiTi系の超弾性および形状記憶合金線材を線引加工に際して、線引ダイスの消耗をよりおさえ、しかも、細線の断線をなくすための手段を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、独自に酸化被膜を形成したNiTi系の超弾性および形状記憶合金線材のダイスによる細線化に際して、確実に線材の切断事故、表面性状の変動を低減でき、さらには、線引ダイスの耐摩耗性や伸線性の確実性を向上して無断線を得るための条件の解明に努力して来た結果完成したものである。
【0009】すなわち、本発明は、Ni54.0〜56.5重量%を含有し、残部がTiを主成分とするNiTi系超弾性および形状記憶合金線材のダイスによる細線加工方法において、前記NiTi系合金線材表面を非撥水化処理したのち、潤滑剤を塗布・乾燥・加熱して線引加工を施すことを特徴とするNiTi系合金の細線化方法である。
【0010】NiTi系合金としては、Ni54.0〜56.5重量%を含有し、残部がTiを主成分とし、必要により、鉄族金属等を含有せしめた超弾性あるいは形状記憶材として使用される合金が適用される。
【0011】光沢のある線材表面は撥水性があるので線材表面を酸化させると非撥水性になる。NiTi系合金線材表面への酸化被膜の形成は、インゴットを加工して線材とするに当たって、線材表面に形成される酸化被膜が、その後の加工工程でも残存することが、酸化被膜を形成させるための特別な工程も不要となる点から最も好ましい。よって、非撥水化処理としては、ダイスによる細線加工前の段階で材料の表面を酸化させて以後の工程でその酸化膜を残存させておいて行う。また、NiTi合金表面を化学的腐食処理することによっても非撥水化できる。
【0012】ところで、潤滑剤としては、黒鉛を含有する水性の潤滑剤が好適に使用でき、その塗布は、ダイスによる線引加工のための加熱軟化処理前に行う。黒鉛を含有する水性の潤滑剤を用いるのは、線材表面に塗布した後の乾燥が早いので、加熱工程で付着黒鉛の脱落が少ないという点から好ましい。その結果、ダイス線引後の線材表面には酸化物と黒鉛との混合物で被覆された複合被膜が形成され、この膜により摩擦が減り線引性が向上し、ダイス寿命が延び、割れや断線もなくなる。この複合被膜はその後の工程でも残存しつづけ、非撥水性も維持されるので潤滑剤が充分に塗布でき、線引加工が容易に行われることになる。即ち線材表面の酸化は第1回目の加工前に一度形成されればよい。
【0013】この潤滑剤の酸化被膜への塗布は、ダイスによる線引前の線材の温度が潤滑剤液の気化点以下、好ましくは室温状態にあるとき行うのが、潤滑剤の液が急激に気化し、そのため潤滑剤成分が線材表面から飛散する現象を防ぐという点から好ましい。
【0014】また、線材表面に潤滑剤を満遍なく被覆させるためには、ダイスによる線引加工に際しての潤滑剤の塗布前に、線材を酸性の液中に浸漬することにより、線材表面を凹凸化させるか、または、サンドブラストのような物理的な方法により、表面を粗くして非撥水化するという方法を用いることもできる。
【0015】さらに、細線加工は、潤滑剤の塗布、乾燥、加熱、線引加工の工程の繰り返しにより順次線径を小さくして行い、ダイスによる細線加工に際しての潤滑剤の塗布、乾燥、加熱、線引の工程はその途中に、歪取りのための焼鈍加熱することを任意に含むことができる。
【0016】ダイスによる細線加工は、潤滑剤の塗布、乾燥、加熱、線引の工程を繰り返しながら順次線径を小さくして行く。
【0017】
【作用】線材の表面に酸化被膜を形成して非撥水化させ、潤滑剤として黒鉛を含有する水性の潤滑剤を満遍なく塗布することができることによって、線材表面に満遍なく黒鉛が強固に付着し、ダイス線引後、線材表面に複合被膜が形成され、摩擦力が低下し、その結果、ダイス寿命が長くなり、また、割れや断線発生率を低くすることができる。
【0018】
【実施例】
実施例1線材表面に酸化物層を形成した線径2.5mmの56wt%Ni−44wt%Ti合金線材に水性黒鉛潤滑材を塗布し、乾燥し、加熱後、ダイスにて線引加工し、線径0.07mmの細線を最終線引加工率15%(減面率)にて作った。これと同様な方法で、潤滑材を用いない線引加工を行った。
【0019】その結果、前者のダイス寿命は後者の2倍以上であり、しかも後者はダイスが寿命になるまで、数回にわたって断線が生じた。
【0020】実施例2上記実施例1と同様にして線径1.6mmのNiTi合金線を作った。この線材を焼鈍・冷間ロールを加工率15%(圧下率)にて行い、0.85mm×2.20mmのリボンを作った。このとき潤滑剤を用いなかったリボンには線径方向に割れが発生するのがあったが、潤滑剤を用いたものには割れ発生はなかった。
【0021】
【発明の効果】本発明によって以下の効果を奏する。
【0022】(1)非撥水化した線材に水性の黒鉛含有潤滑剤を線全面にわたり満遍なく塗布できる。
【0023】(2)水性潤滑剤は乾燥が早いので、加工工程での急激な潤滑剤液の気化は生じなく、黒鉛が線材に強固に付着する。
【0024】(3)黒鉛が強固に付着するこにより、ダイスやロール加工における摩擦力が軽減されると同時に、加工後の線材表面に酸化物と黒鉛との複合被膜が形成される。
【0025】(4)形成された複合被膜は、その後の加工工程でも残存し、それが加工摩擦力の低減および潤滑剤の再塗布に寄与する。
【0026】(5)よって、ダイスやロールの延寿効果、また断線の防止効果をもたらす。
【出願人】 【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
【出願日】 平成6年(1994)10月14日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】小堀 益
【公開番号】 特開平8−112614
【公開日】 平成8年(1996)5月7日
【出願番号】 特願平6−249473