トップ :: G 物理学 :: G10 楽器;音響




【発明の名称】 ディジタルデータ再生方法及び装置
【発明者】 【氏名】古川 雅通

【目的】 多様な波形パターンにも適用でき、各サンプルデータをきめ細かく修正して量子化ノイズを有効に減少させる。
【構成】 着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータの列からなる振幅パターン■,■,…,■と着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係を、予め複数の同一振幅パターンのサンプルとそれらの着目サンプルデータの実際の振幅値との関係から求めておく。そして、入力されたディジタルデータの各サンプル値を、その周囲のサンプル値から特定される振幅パターンに基づいて、その振幅パターンに対応する補正値で補正する。これにより、ディジタルデータのLCB以下に補正値を数ビット付加してディジタルデータの量子化ノイズを低減する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータの列からなる振幅パターンと上記着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係を、予め複数の同一振幅パターンのサンプルとそれらの着目サンプルデータの実際の振幅値との関係から求めておき、入力されたディジタルデータの各サンプル値が着目サンプルデータであるとしたときの前記振幅パターンに基づいて前記補正値を求め、この補正値を前記入力されたディジタルデータの最下位ビット以下のデータとして付加することにより量子化誤差を減少させたディジタルデータを再生することを特徴とするディジタルデータ再生方法。
【請求項2】 入力されたディジタルデータから着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータの列からなる振幅パターンを抽出する振幅パターン抽出手段と、この振幅パターン抽出手段で抽出された振幅パターンを入力し、予め複数の同一振幅パターンのサンプルとそれらの着目サンプルデータの実際の振幅値との関係から求めておいた前記振幅パターンと前記着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係に基づいて、前記入力された振幅パターンに対応する補正値を出力する補正値出力手段と、前記入力されたディジタルデータの着目サンプルデータの最下位ビット以下に前記補正値出力手段から出力された補正値を付加することにより前記着目サンプルデータを補正するサンプルデータ補正手段とを備えたことを特徴とするディジタルデータ再生装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ディジタルオーディオ信号等の個々のサンプルデータを補正して、D/A変換前のディジタルデータのビット数を拡張することにより、量子化ノイズを有効に除去するディジタルデータの再生方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】CDプレーヤ、MD(ミニディスク)、DCC(ディジタル・コンパクト・カセット)、電子楽器等、オーディオ信号をディジタルデータの形態で処理する機器では、量子化誤差によるノイズの問題が発生する。16ビット量子化の場合、比較的大きな振幅の信号であれば、量子化誤差はあまり目だたないが、例えば図12に示すように、−76dB程度の微小レベルの正弦波信号(500Hz)の場合、これを16ビット、サンプリング周波数fs=40KHzで量子化すると、同図(b)のように有効ビット長は4ビット程度になり、±1/2LSBの範囲内の信号は全て丸められる。このため、20KHzの補間フィルターを通しても、D/A変換後の波形は、同図(c)のように階段状に歪んでしまう。このような丸め誤差は信号のスルーレートに対応するので、低周波域ほど大きな振幅レベルでも発生する。従って、このような量子化ノイズが可聴帯域に入り込むと、聴感上大きな影響がでる。
【0003】従来、この種の階段状の量子化ノイズ成分を除去する技術はなかった。入力ディジタルデータをオーバーサンプリングしてサンプルデータ間を滑らかに補間する方式では、入力されたサンプルデータ自体の丸め誤差を除去することはできない。
【0004】そこで、上述した階段状波形において同一レベルで連続するデータが1LSBだけ変化した点を検出し、最初のLSBの変化点から次のLSBの変化点までの間のデータを直線的に予測して、16ビットの原サンプルデータに予測された数ビットの補正データを付加することによりビット数を20ビット程度まで拡張する方式も開発されている。これにより、両変化点間の原サンプル自体を修正し、D/A変換直前の波形形状を実態に近い波形に再生することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述した従来のディジタルデータ再生方法では、LSBの変化点から次のLSBの変化点までの間の補正データが特定のパターンに限定されてしまうため、再生可能なパターンの形状も正弦波等特定のパターンに限定されてしまうという問題がある。また、従来の方式は、LSBが同一レベルで連続している部分のみをまとめて補正する方式であるため、自然に発生している自由なレベルの個々のサンプル値を修正することができず、結局、量子化ノイズを有効に減少させることができない。
【0006】この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、多様な波形パターンにも適用可能で、各サンプルデータをきめ細かく修正して量子化ノイズを有効に減少させることができるディジタルデータ再生方法及び装置を提供するとことを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明に係るディジタルデータ再生方法は、着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータの列からなる振幅パターンと上記着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係を、予め複数の同一振幅パターンのサンプルとそれらの着目サンプルデータの実際の振幅値との関係から求めておき、入力されたディジタルデータの各サンプル値が着目サンプルデータであるとしたときの前記振幅パターンに基づいて前記補正値を求め、この補正値を前記入力されたディジタルデータの最下位ビット以下のデータとして付加することにより量子化誤差を減少させたディジタルデータを再生することを特徴とする。
【0008】また、この発明に係るディジタルデータ再生装置は、入力されたディジタルデータから着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータの列からなる振幅パターンを抽出する振幅パターン抽出手段と、この振幅パターン抽出手段で抽出された振幅パターンを入力し、予め複数の同一振幅パターンのサンプルとそれらの着目サンプルデータの実際の振幅値との関係から求めておいた前記振幅パターンと前記着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係に基づいて、前記入力された振幅パターンに対応する補正値を出力する補正値出力手段と、前記入力されたディジタルデータの着目サンプルデータの最下位ビット以下に前記補正値出力手段から出力された補正値を付加することにより前記着目サンプルデータを補正するサンプルデータ補正手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
【作用】オーディオ信号のようにランダムノイズ以外のある特定の傾向を持つ信号は、任意の点のサンプル値をその周囲の振幅パターンからある程度予測することができる。この予測値は、複数の同一の振幅パターンをサンプリングし、統計的手法等で求めることができる。この発明では、着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータからなる振幅パターンと、上記着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係を、予め上記のように求めておき、これに基づいて、入力されたディジタルデータの各サンプル値の補正値をその周囲の振幅パターンから求めるようにしている。
【0010】このため、この発明によれば、1つ1つのサンプルデータを周囲の振幅パターンに基づいてきめ細かく補正することができ、量子化ノイズを有効に減少させることができる。また、この発明によれば、予想されるあらゆる振幅パターンについて補正値を用意しておくことができるので、多種多様な振幅パターンについてもサンプルデータを正確に補正することができる。また、必要に応じ、入力されるディジタルデータのジャンル毎に振幅パターンと補正値との関係を求めておけば、より正確な補正値が求められる。更に、事前に用意する振幅パターンを、全パターンではなく、聴感上影響の大きいパターンだけに限定することにより、必要なパターン数を削減することもできる。
【0011】
【実施例】以下、添付の図面を参照してこの発明の実施例について説明する。まず、この発明の原理を図1〜図7を参照しながら説明する。いま、図1(a)に示すような4KHz(0dB)と12KHz(−10dB)の正弦波の合成波形を入力信号とし、16ビット、サンプリング周波数fs=32KHzで量子化すると、同図(b)のようなサンプルデータ列が得られる。一方、同図(a)の入力信号を−72dBとした場合、同様の条件で量子化すると、同図(c)のように2ビット量子化相当になり、丸め誤差が無視できない値となる。これをそのままD/A変換すると、得られる再生波形は、同図(d)のように、原波形(a)とかなり異なったものとなってしまう。
【0012】そこで、図2に示すように、丸め誤差を含む各サンプルデータを補正する。この例では、補正対象となる着目サンプルデータを中心としてその前後の各2つのサンプルデータを含む計5個の連続するサンプルデータ列の振幅値を振幅パターンとしている。着目サンプルデータの振幅値を0とすると、図2(a)のサンプルデータ■を中心とする振幅パターンは、同図(b)のパターン■に相当する。ここで、このパターン■を、各サンプルデータの着目サンプルデータからの振幅値で表記すると、[−4,−2,0,−1,0]のように表せ、前サンプルデータとの差分値で表記すると、(2,2,−1,1)のように表せる。以後、前者を振幅パターンの絶対表記、後者を振幅パターンの相対表記と呼ぶ。
【0013】パターン■の場合、着目サンプルデータの正しい信号波形の通過点は、図中破線のようになる。着目サンプルデータのサンプル値から実際の振幅レベルまでの距離は−0.14ビットである。これを補正値として着目サンプルデータ■のサンプル値に加算する。サンプルデータのLSB以下に補正値として3ビットを付加するとすれば、−0.14ビットは、ほぼ“−001”となる。従って、16ビットのサンプルデータは、3ビットの補正値分だけビット拡張された19ビットのデータに再生されることになる。
【0014】同様に、次のサンプルデータ■,■,…,■を着目サンプルデータとした場合の振幅パターンは、それぞれパターン■,■,…,■となり、補正値+0.37,−0.14,…,+0.14にそれぞれ相当する“+011”,“−001”,…,“+001”がサンプルデータ■,■,…,■のLSB以下にそれぞれ付加される。この結果、図2(a)に示すディジタルデータ列の各サンプル値は、図3のように補正され、丸め誤差分が除去された再生ディジタルデータとなる。このデータをフィルタ等を通してD/A変換することにより、図1(a)に示したような正しい原波形を再現することが可能になる。
【0015】本発明者は、量子化誤差の状況から各振幅パターンと補正値との関係を知るため、自然楽器による演奏データがディジタル化されて記録されたCD(コンパクト・ディスク)のデータを調査した。CDは、通常16ビットで量子化されているが、記録されている信号の振幅レベルを24dB低下させたと仮定すると、原ディジタルデータの下位4ビットが切り捨てられ、この4ビットが量子化誤差となる。そこで、上位12ビットまでのデータの振幅パターンと下位4ビットの量子化誤差との関係を複数枚のCDについて調査した。
【0016】いま、図4(a)に示すような振幅パターン[1,0,0,0,1]となる全てのサンプルデータ列について着目サンプルデータの量子化誤差を調べた。そして、着目サンプルデータの±1/2LSBの範囲を−8から+7まで16分割し、量子化誤差がこれらのどの範囲に含まれるかを調べた。これをヒストグラムで表すと、図4(c)のようになる。この図から明らかなように、特定の振幅パターンを取り出すと、その着目点の量子化誤差は特定の傾向を持って分布する。この例の場合、ヒストグラムの加重平均をとって−4.2を、この振幅パターンの補正値と決定する。着目サンプルデータをこの補正値で補正すると、図4(b)に示すように、着目サンプルデータは、斜線で示すとりうる範囲のなかでサンプルデータ列が最も滑らかに接続される位置に補正されることになる。なお、このように加重平均値を補正値とする他に、最大度数の値を補正値とするようにしてもよい。このようにして、図5のように、振幅パターンと補正値と発生頻度の関係が求められる。
【0017】なお、振幅パターンを構成するサンプルデータ数は、あまり少ないと正しい誤差補正を行うことができない。例えば、図6(a)に示す[−2,−1,0,0,0]の振幅パターンと、図7(a)に示す[−2,−1,0,0,−1]の振幅パターンとは、五番目のサンプルデータが1LSB分異なるだけの差であるが、量子化誤差の分布は、図6(b)、図7(b)にそれぞれ示すように、全く別の分布となり、求められる補正値も全く異なった値になる。一方、振幅パターンを構成するサンプルデータ数が多いと、用意すべきパターンの数が膨大になる。したがって、これらを勘案して、振幅パターンのサンプルデータ数は、5〜20サンプル程度に設定するのが好ましい。また、振幅パターンを構成するサンプルデータ列は、上記の例のように、連続するサンプルデータ列でなく、n(nは自然数)サンプルおきのデータ列としてもよい。この場合、比較的同一レベルのデータが連続する低周波信号の補正に有効である。また、振幅パターンを構成するサンプルデータ列は、連続するサンプルデータ列、あるいは等間隔おきのサンプルデータ列でなく、非等間隔おきのサンプルデータ列としてもよい。例えば、着目サンプルデータ、次にその前後1つ目のサンプルデータ、更に次はそれから2つ先のサンプルデータのように非等間隔にサンプルデータ列を構成するようにしてもよい。これも比較的同一レベルのデータが連続する低周波信号の補正に有効であると共に、実質的に広い範囲のサンプルデータ列の変化傾向を、少ないサンプルデータ数で把握することができるという効果がある。但し、用いるサンプルデータとしては、着目サンプルデータ(求める点)に1番近いサンプルデータの重要度が最も高いといえるので、着目サンプルデータの前後サンプルはできるだけ用いる形が望ましい。
【0018】図8は、以上の原理に基づくこの発明の一実施例に係るディジタルデータ再生装置の構成を示すブロック図である。この装置は、D/A変換器の前段に配置され、D/A変換器に供給されるディジタルデータを前もって原波形に近い形に再生しておくためのものである。原サンプルデータ列からなる例えば16ビットのディジタルデータは、5つの連続するサンプルデータを格納する5段のシフトレジスタ1に入力され、各段1a,1b,…,1eに順次転送される。3段目1cに格納されるサンプルデータが着目サンプルデータとなる。シフトレジスタ1の隣合う段の出力は、それぞれ減算器2a,2b,2c,2dに入力され、減算器2a〜2dからは、それらの差分が相対表記された振幅パターンのデータとして出力される。減算器2a〜2dの出力は、振幅パターンレジスタ3に格納される。これらシフトレジスタ1、減算器2a〜2d及び振幅パターンレジスタ3が、入力ディジタルデータから振幅パターンを抽出する振幅パターン抽出手段を構成している。
【0019】メモリデコーダ4は、入力された振幅パターンのデータからそのパターンに対応する補正値が格納されている補正値メモリ5のアドレスを出力する。メモリデコーダ4には、全ての振幅パターンに対応する補正値メモリ5のアドレスが記憶されている。補正値メモリ5には、例えば3ビットと符号ビットとからなる全種類の補正値が記憶されている。なお、メモリデコーダ4にパターンに対応した補正値そのものを記憶しておけば、補正値メモリ5を省略することができる。
【0020】シフトレジスタ1の3段目1cに格納された16ビットの着目サンプルデータと、補正値メモリ5から出力される3ビットの補正値とは、加算器6にて着目サンプルデータのLSB以下に補正値を付加する加算を行うことにより、19ビットに拡張される。これにより、加算器6から量子化誤差を低減させた再生ディジタルデータが出力され、次段のD/A変換器に供給される。なお、タイミング制御回路7は、以上の各部での処理タイミングを制御する。
【0021】この実施例によれば、テーブルルックアップ方式で補正値を求めているので、リアルタイムの処理が可能である。また、振幅パターンのデータとして相対表記のデータを使用しているので、振幅パターンデータが着目サンプルデータの振幅レベルとは無関係となり、メモリデコーダに記憶するパターンの組み合わせ数を減少させることができる。
【0022】図9は、この発明の他の実施例に係るディジタルデータ再生装置の構成を示すブロック図である。この装置が先の実施例と異なる点は、補正値出力手段の構成である。この実施例では、補正値出力手段をコンパレータ11、メモリデータレジスタ12、パターンメモリ13及び補正値メモリ14で構成している。
【0023】図10は、この装置の動作を示すフローチャートである。まず、入力ディジタルデータを1サンプルシフトインさせることにより、処理対象の5つのサンプルデータをシフトレジスタ1にセットする(S1)。次に振幅パターンのデータを振幅パターンレジスタにラッチする(S2)。振幅パターンレジスタ3から供給される振幅パターンのデータは、コンパレータ11の一方の入力として与えられる。コンパレータ11の他方の入力には、パターンメモリ13から読み出されメモリデータレジスタ12に格納された振幅パターンのデータが与えられる(S5)。制御回路15は、パターンメモリ13の読出しアドレスを先頭アドレスから最終アドレスに向けて順番に供給する(S3,S4)。コンパレータ11は、両振幅パターンが一致したら、制御回路15へのOK/NOフラグをオンにする。制御回路15は、パターンが一致したパターンメモリ13のアドレスと同一の補正値メモリ14のアドレスから補正値を読み出し、加算器6に供給する(S7,S8)。これにより、サンプルデータが補正される。
【0024】この実施例では、振幅パターンの検索動作が必要になるが、パターンメモリ13への振幅パターンの格納順序を、図5に示したパターンの発生頻度順に並べておくことにより、パターンの検索効率を向上させることができる。
【0025】なお、以上の各実施例では、振幅パターンとして相対表記のパターンを用いたが、絶対表記の振幅パターンを用いるようにしてもよい。図11は、この例を示したもので、減算器2a〜2dを省略し、入力サンプルデータ列をそのまま振幅パターンレジスタ3に格納するようにしている。この場合、パターンメモリ13に格納されるパターンの種類は増加するが、この発明の効果は十分に得ることができる。
【0026】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、着目サンプルデータを含む所定個のサンプルデータからなる振幅パターンと、上記着目サンプルデータの量子化誤差に相当する補正値との関係を、予め求めておき、これに基づいて、入力されたディジタルデータの各サンプル値の補正値をその周囲の振幅パターンから求めるようにしているので、1つ1つのサンプルデータをきめ細かく補正することができ、量子化ノイズを有効に減少させることができる。また、この発明によれば、予想されるあらゆる振幅パターンについて補正値を用意しておくことができるので、多種多様な振幅パターンについてもサンプルデータを正確に補正することができる。
【出願人】 【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
【出願日】 平成6年(1994)3月11日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
【公開番号】 特開平7−248797
【公開日】 平成7年(1995)9月26日
【出願番号】 特願平6−67561